リベラル極論とナショナリズム極論の狭間で

以前も書いたが、私は、日本軍による『南京30万人大虐殺』や『南京40万人大虐殺』などは、荒唐無稽なプロパガンダであると考える。
 
ところがこの『30万人説』や『40万人説』に対する反発として、これらを否定する為に、『虐殺は起こらなかった説』や『(虐殺の)犠牲者は限りなくゼロに近かった説』、『マイナス30万人説』や『日本人こそ被害者説』等の別の極論が生まれている。
 
 
同様に、「20万人、或いは40万人の『性奴隷』が『天皇からの贈り物』として日本軍によって強制連行され、肢体切除や終戦の際には皆殺しされた」などの慰安婦に関するプロパガンダも、感情的な反発を招いてきた。
 
高齢の元慰安婦の女性達を指して「売春婦」「嘘つき婆」などと罵るにとどまらず、中にはあからさまな韓国人への差別感情を生じさせたり、「韓国との国交断絶」すら叫ぶ人々もいる。
 
しかし、あまりにも荒唐無稽なプロパガンダに反発する形で生まれたこのような「極論」は、他者からの共感を得ないだけではなく、元々のプロパガンダに対する正当性すら与えてしまうものだ。
 
勿論、こういった傾向は、日本人に限った事ではない。
 
ヨーロッパに於いても、「イスラム教と過激イスラム教テロとの関わりは、一切無い、」というような極論や、ドイツのメルケル首相の打ち出した大量のシリア難民受け入れ政策は、EU加盟国の国民の反発を買い、これらの国々のナショナリズムの台頭に繋がっている。Brexitと呼ばれるイギリスによるEU離脱や、フランス国民戦前党の躍進は、極端なリベラル政策の影響とは無関係ではない。
 
アメリカの大統領選挙に於いても、同じことが言える。
 
オバマ大統領の大統領として残した遺業は、オバマケアだけではない。オバマ大統領という極端なリベラル政治家によって台頭した白人ナショナリズムは、ドナルド・トランプ氏への支持に繋がった。オバマ大統領による現実を無視した綺麗ごとのスローガン政治は、トランプ氏が口にするような、普通なら口にできない下品で眉を顰める類の非文化的な言論こそ、「正直さ」として評価される風潮を生んでしまった。ところが、オバマ大統領の掲げた外交政策、軍事政策が、失敗に終わったように、トランプ氏の掲げる政策の殆どは、トランプ氏の主張する「偉大な国」から遥か遠くにアメリカを押しやるだろう。
 
一つの極論が反発を招き、別の極論を生じさせることは、世界中で多々見られる傾向ではあるが、それでもこうして生まれた反発的「極論」は、元々の極論に対する答えとは決してなり得ず、更に別の問題を作り出すだけである。
 
一つ、例をあげよう。先日、アメリカのTV番組の一つであるデイリー・ショウに、白人ナショナリストから支持を受けるテレビ・ホストのトミ・ローレンが出演した。彼女はホスト役のトレイヴァー・ノア相手に、『ブラック・ライブズ・マター』グループに対する反発や批判を、堂々と述べていた。
 
『ブラック・ライブズ・マター』グループは、元々警察による黒人への扱いに不当性があると主張し、大きな反警察運動となり、何人かの白人警察官を殺害するまでに至っている。警察による不当な権力行使を訴える為に立ち上がったグループでありながら、いつの間にか白人一般に対しての憎しみを主張し始め、中には「白人であれば、誰であっても殺されて当然」と言わんばかりのスローガンを掲げるメンバーもいる。

Trevor Noah didn't "destroy" Tomi Lahren on The Daily Show. What he did was much better. - Vox

 
このグループの主張は確かに極論であり、実際に警察官に対する政治メッセージを持った殺害が何件もおこなわれている点から考えて、国内のテログループと言われても仕方がない。トミ・ローレンは決して知的なテレビ司会者とは言えないが、それでも彼女のブラック・ライブズ・マターに対する反感には共感できる。
 
ところが番組ホストのトレイヴァー・ノアは、ブラック・ライブズ・マターに対する、異なった意識を持っている。彼の意見はどちらかと言えばブラック・ライブズ・マターに対して同情的であり、この組織の元々の意義を認めようとしている。これに反感を覚えたローレンは、KKKを引き合いに出し、ブラック・ライブズ・マターの方が悪質だ、という意味で、「KKKが一体何をしたの?」と聞き返した。

 

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    デイリーショウに出演するトミ・ローレン(左)とホスト役のトレイヴァー・ノア(右)
 
ノアは「今、KKKが何をしたの?って聞いた?」と自分の耳が信じられない様子で聞き返し、「ブラック・ライブズ・マターは、とにかくKKKとは違う」と、物わかりの悪い子供に対してルールを説明するように答えた。
 
KKKとブラック・ライブズ・マターが違う事は両者が同意している。問題は、両者とも自分の支持するグループの方がマシだと強く信じている点だろう。
 
当然ながら、ブラック・ライブズ・マターの運動を批判し、その暴力性を否定する為にKKKを引き合いに出すことは間違っている。またブラック・ライブズ・マターを引き合いに出してKKKや白人至上主義の台頭の正当性を訴える事は許されない。トミ・ローレンの議論は、この時点で決定的な過ちを犯している。
 
勿論、KKKとは違うからと言って、実際に警察に対する犯罪行為を犯し、白人に対する憎しみを煽動しているブラック・ライブズ・マターの正当性を訴える事は許されない。ここにトレイヴァー・ノアの論理の誤りがある。
 
殆どの良心的な人々は、ブラック・ライブズ・マターによる警察への暴力に反感と怒りを抱きながらも、KKKや白人至上主義に陥ることなく平和的な共存や解決を望んでいるからだ。KKKかブラック・ライブズ・マターかではない。その両方共が極論であり、間違っているのだ。
 
極端なリベラル政治は偏狭なナショナリズムを生む。偏狭なナショナリズムよって国民は優越意識を高め、更に自国の優位性を誇るイデオロギーを先鋭化していく過程で、極端な差別思想が生まれるだろう。そうなれば、そこまでは同意できない多くの『脱落者』を量産していくが、一部のファナティック(狂信者)らによって、政治が引きずられていく場合もある。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。(勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。)
 
殆どの日本人は、例え中国や韓国によるプロパガンダに行き過ぎを感じていても、中国大陸が舞台となった第二次世界大戦で、日本人の方こそが被害者であるなどとは考えられないし、自他の中に中国人や韓国人に対する差別意識が高まれば、警戒感を抱く。勿論、これらの国の人々が地球上からいなくなることを願う極論には到底ついていけない。
 
極論への答えは、別の極論ではない。余りにも行き過ぎた論理に対抗する為の知恵は、感情的反発による短絡的思考からは生まれない。まずは、湧き上がる怒りや行き詰まり感から自由になり、知識や知恵から学ぶ必要があるだろう。
 
知識や知恵を軽んじ、感情を駆り立てる情報に煽動されれば、結局、極論に導かれてしまう危険性のある事を、忘れるべきではない。

トランプ次期大統領の掲げる『関税35%』政策の危険

多くのトランプ支持者は、「トランプ氏は思ったことを、そのままハッキリとわかるように言ってくれる」ことを、既成の政治家には無いトランプ氏の魅力と主張してきた。この、「トランプ氏は、自分の考えをそのまま分かり易い言葉で述べる」とは、一部支持者だけではなく、サロゲートと呼ばれる援助者や、実娘のイヴァンカ・トランプも「長所」として述べていたトランプ氏の特徴だ。

 
ところが支持者らは、メディアや政策専門家らがトランプ氏の過激発言の数々を"文字通り"受け取た上でそれを問題視すれば、「トランプ氏の意図するところは、そういう意味ではない」から始まって「トランプ氏は言っているだけで、行動はしていない」と擁護する。
 
またトランプ氏の掲げた外交政策や経済政策の問題点を指摘すれば、支持者らは「選挙公約を言葉通りに受け取るべきではない」と、トランプ氏の言葉をそのまま受け取った側を批判する。
 
ヒラリー・クリントンを「嘘つき」と批判する一方、「嘘つき」でないトランプ氏の言葉は、隠しマイクに納められた本人の言葉であっても、トランプ氏が乱発するツイートであっても、選挙中の公約であっても、信じてはいけないらしい。
 
勿論、トランプ支持者によって、指導者としての言葉の重みや、公約についての理解が定められる訳ではない。
 
トランプ氏が、本業の不動産業やリアリティーTVのスター以上の存在を目指し、次期大統領として選出されたのであれば、尚更、彼の言葉には重きが置かれるべきだろう。批判に対し、「Get Over it (グズグズ言うな) 」、また「次期大統領となるトランプ氏は、一切の批判を免れるべきだ」と言うかのような理屈は通らないし、もしそのような極論を振りかざすトランプ支持者がいれば、彼らは嘘や誇張も混ぜながら、オバマ大統領を8年間厳しく非難してきた層だろう。
 
因みに、こうした「Get Over it」を主張する支持者はアメリカでも南部に多いのだが、彼らが南北戦争での南軍の旗を振りかざして「Get Over it. You Lost (諦めろ。お前らの負けだ)」と訴える姿は、本人は気付いていない皮肉でしかない。

 

さてトランプ氏は、次期大統領としての軍事ブリーフィングも当選後は殆ど受けておらず、その代わりに全米ヴィクトリー・ラリー(勝利大会)を計画しているようだ。また、約200日近く、記者団からの質疑応答を受けるような記者会見を開いてはおらず、自身のツイートによって、方針や考えを述べている。
 
今朝のトランプ氏のツイートによれば、彼は外国で製造され、輸入される製品に35%の関税を設けるとしている。勿論トランプ氏の会社が作っているネクタイやスーツなどは中国製、メキシコ製である。実娘のイヴァンカ・トランプが経営するファッション会社のドレスなどは、全てアジアで作られている。トランプ氏の「方針」の基となる考えは、アメリカ企業が人件費の安い外国に工場を移し、アメリカ人が職を失なっている事と、貿易不均等を悪とする考えだ。
 
トランプ氏は、以前のインタビューでも中国と日本をやり玉に挙げ、フォーブス誌は「大概のアメリカ人は、大統領討論会を聞き、アメリカには2つの外敵があるという思いが残ったろう。一つはISISで、もう一つは日本だ」と書いている。

With Trump's Implosion, U.S. Employees Of Japanese Automakers Can Breathe Easier

 
フォーブスは続けて「トランプの論理ゼロのレトリックは、日本バッシングが盛んだった古き悪き時代を思い起こさせる。しかし時代は変わっているのだ。アメリカで販売された日本車の75%は、北アメリカで製造されている。マニー・マンリケズとの電話インタビューで、彼が語ってくれたが、マンリケズは当然これに詳しい人物だ。彼こそが日本自動車製造協会(JAMA)のジェネラル・ディレクターなのだから。彼によれば『日本車業界は、アメリカにおける実質的ゼロの製造だったものが、アメリカの製造業界に大きな功績を残すまで変化をしました。アメリカには日本車製造工場が26か所にあり、17の州に36の研究開発施設があります。』
 
 
 
日本へのバッシングで痛い想いをするのはアメリカなのだ。皮肉なことに、自動車業界が破たんしかかった2009年に、アメリカを再び偉大な国にするように助けてくれたのは日本の自動車メーカーだ。『在米日本車製造工場による雇用率の上昇は、全国平均が5%であった時に、20.8%に上っていたのだ。』」と述べたが、実際、在米日本車製造工場で働く人々の多くはアメリカ人である。
 
トランプ氏は、今朝3時41分から4時23分までの6回に渡るツイートで、
 
「アメリカは企業に対する税金と規則を大幅に減少させる。しかし我々の国を離れ、外国に行こうとしている企業、従業員を解雇する企業、新しい工場や製造工場を他国に作ろうとする企業、しかもその製品を逆輸入しようとしている企業に対してはそうではない。これらの企業が報復やその代価を払わない事は間違っている。これらの製品、車、エアコン、部品などを戻ってきて売ろうとする企業に対しては、直ぐに補強される国境(税関)に於いて、35%の税金が課せられる。この税金は、彼らが外国に逃げていくのを資金的に困難にするだろう。だが、これらの企業は50州、どの州に移動しても良いのだ。(国内に留まる限り)税金や関税がかけられることは無いのだ。ずいぶん高くつく間違いを犯す前に、警告を受け取ってほしい。アメリカはビジネスを歓迎する。」

Trump Threatens 35% Import Tax Which Would Be A Total Disaster | RedState

 
勿論、35%の関税が掛けられれば、今まで1ドルで購入できた商品が1ドル35セントに値上がりし、その増額を負担するのは、アメリカの消費者である。これは以前にも書いたが、関税を引き上げ、相手国の輸出を妨害すれば、アメリカは莫大なペナルティーを支払わなければならず、相手国は、報復として関税を引き上げ、アメリカ企業の輸出を妨害する事が出来る。アメリカの市場に出回る殆どの商品が35%の値上がりをすれば、消費者の購買能力に限界が訪れ、購買意識が薄れる事は間違いない。以前トランプ氏は、「(アメリカの)車の購入台数が減るかもしれないが、別に構わない」とインタビューに答えているが、購買意識が減るのは、購買能力が著しく低下するからだ。
 
ベン・サシー共和党上院議員は、この『関税案』に対して「トランプ氏の意図は良いものかもしれないが、「トランプ次期大統領の意図は良いかもしれない。しかし、彼の35%関税案は、アメリカ人一家への値上げではないのか? アメリカ人一家への35%増税でないと、どうして言えるのか?」とツイートしている。
 
勿論これは、ベン・サシー議員が指摘されている通り、アメリカの消費者に対する35%の増税である。ベン・サシー議員は共和党議員である通り、共和党のマルコ・ルビオ議員も、トランプ氏の掲げる外交政策で、賛成できないものには、反対票を投じていくと述べている。
 
この種の政策を掲げているトランプ氏への反対を、保守派対リベラル派と論じる間違いについて、保守派であり核戦争・外交専門家のトム・ニコールズ氏が指摘している。

「これは保守対リベラルではない。共和党対民主党でもない。これは、大人対子供、知対無知である」

 
トランプ氏の主張してきた『貿易不均衡』を悪とする意見は、勿論トランプ氏が初めてではないが、これについてはレーガン政権で経済アドバイザーでもあった、ノーベル経済科学賞授賞の故ミルトン・フリードマン博士が以下のように指摘している。

 

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   最も影響力のある経済学者、故ミルトン・フリードマン博士。彼の門弟にはトーマス・ソーウェル博士もいる。
 
『貿易不均衡は悪いものではない。例えば日本は約500億円の貿易黒字を抱えている。この黒字分を彼らはどうしているだろう。我々の製品を買ってくれているのだ。これで我々が傷つくことはないのだ。自由貿易というものは、小さなグループの犠牲のもとに、大多数が益を得る。ところが政治的には、小さなグループが大きな声を挙げるものだ。これを悪と人々が信じる理由は、まず製造業者の流すプロパガンダによって騙されている事がある。また変動為替相場というものの役割が理解出来ていないのだ。もし、例えば全ての日本製品がアメリカ製品よりも安く、多くの日本製品が売られるとする。日本は貿易黒字を抱え、ドルを多く所有する事になるが、そのドルで高いアメリカ製品を買うことは出来ない。日本は貿易黒字で得たドルを日本円の購入の為に売り、円高・ドル安となるが、ドル安によって、次第にアメリカ製品の方が安くなる。』

Trump vs Friedman - Trade Policy Debate - YouTube

 
故フリードマン博士をはじめ、多くの有名経済専門家が、自由貿易を「経済を活性化する」ものとして歓迎し、関税を「却って経済不況を招くもの」として反対している事は明らかな事実である。一つの産業が衰退すれば別の産業が生まれる昨今、一つの産業の支援の為に急激な変化を設ければ、別の産業が被害を被る。
 
勿論、アメリカ企業の海外撤退やオートメーション化によって多くの人々が職を奪われ、国からの職業訓練支援があっても、これらの失業者がオートメーション化に対応できる能力を身に着けられなかった事は考慮するべきだが、この複雑な経済政策問題の答えは『関税』を設ける事には見出せない。
 
トランプ氏は、複雑な経済、外交、軍事政策に対し、明確で単純な解答を提示するが、彼の提案が主張通りの結果を生まなかったことは、すでにアメリカの政治史上の失敗が語っている。1930年代後半のアメリカの『大恐慌』を招いた一因は、フーバー大統領が、外国製品に対して高い関税を設けたことにある。デマゴーグの定義が、「複雑な問題に対して、威勢の良い言葉だけで大衆を煽動する人」を指すならば、トランプ氏はまさに『デマゴーグ』ではないか。
 
故ミルトン博士は続けて、19世紀後半に「Progress and Poverty」を記したヘンリー・ジョージの言葉を引用している。

Henry George on how trade sanctions hurt domestic consumers (1886) - Online Library of Liberty

 
「戦争の時には、我々は敵が我々の製品を購入できないように、敵に対して経済封鎖を行なう。平和の時には、我々は関税を設けることによって、敵が戦争の時に我々に対して行なうことを、自分自身に対して行なう」
 
 
選挙中の公約を以てトランプ氏批判をする事が我慢できないトランプ支持者もいれば、当選を果たしたトランプ氏への批判が耐えられない支持者もいるようだが、我々は誰かを盲目的に礼拝するようなカルト宗教の信者ではない。複雑な諸問題に対して、単純明快なレトリックで大衆を煽動するトランプ次期大統領というデマゴーグに対しては、その政策や言動に懸念が生じる際には、今まで以上厳しく批判されていく必要がある。
 

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911テロ首謀者による「新たなテロの波を防いだジョージ・W・ブッシュ」

ローン・ウルフ型のテロが急増する中、911テロ後にアルカイダのトップ首謀者、カハリド・シーク・モハメッドを尋問していたジェームズ・E ・ミッチェル氏の回顧録が出版された。その中で、911テロ後に、更に新たなテロ攻撃を多発させようとしていたアルカイダを止めたのが、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政策であったとするカハリド・シーク・モハメッドの言葉が記されている。

ブッシュ前大統領はメディアや反対者によっても非難されるばかりである。ブッシュ前大統領の失政の為に中東問題が混迷し、テロが発生していると言わんばかりの非難が、オバマ大統領ばかりかトランプ次期大統領からも出ている。

 

多くの人々は、イラクから大量破壊兵器は発見されなかった*と信じているし、「ブッシュ・ライド、ピープル・ダイド(ブッシュが嘘をつき、人々が死んだ)」と繰り返されるが、果たしてその批判に理はあるのだろうか。

(*実際にはニューヨーク・タイムズ紙でさえ、2014年『大量破壊兵器による隠された犠牲者』というスクープ記事を発表し、大量破壊兵器が発見されていた事を認めている。遺棄された大量破壊兵器のために処分に当たってた米兵に被害が発生していた事は多くの関係者が証言している。またISIS が使用している化学兵器がイラクの遺棄したものであることは容易に理解できる。)

http://www.nytimes.com/interactive/2014/10/14/world/middleeast/us-casualties-of-iraq-chemical-weapons.html?_r=0

 

http://hkennedy.hatenablog.com/entry/2016/02/18/053536

 

以下に『フェデラリスト』の記事をご紹介する。

Top Terrorist: George W. Bush Stopped Us From Attacking Again After 9/11

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3,000人近くのアメリカ人を殺害した911テロの背後の立案者は、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の粘り強さが、当時アルカイダによる新たな攻撃の波を防いだことを語っている。

CIAがブッシュ大統領(当時)の下、採用していた、テロリストたちから情報を収集する尋問のテクニックを高めたジェームズ・E ・ミッチェルが、自身の回顧録の中で、911テロの首謀者カハリド・シーク・モハメッドと交わした会話を記した。

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『強化された尋問:アメリカを滅ぼそうとするイスラム教テロリストの頭の中と動機』という回顧録は、尋問強化テクニック・プログラムへの第一次記録を提供している。ミッチェルは読者を、彼が個人的にEIT(尋問強化テクニック ) を適用した、アメリカ国外にある秘密軍事施設とテロリスト、テロ容疑者の細胞組織へと導いてくれる。

ワシントン・ポストのマーク・シーセンは、ミッチェルの著書に、911テロの責任者を徹底的に探しだそうとするブッシュの決断が、テロ組織を震え上がらせ、新たな大規模な攻撃を仕掛ける事を思いとどまらせた様子が書かれていると書評に述べた。

私たちを引き込むつもりはなく、カハリド・シーク・モハメッドは、アルカイダが、911後のアメリカの反応を、1983年のベイルート米海軍バラックへの爆破事件の時と同様に、尻尾を見せて逃げるだけだと考えていた事を語った。

「すると彼は私の目を見て言った。『カウボーイのジョージ・ブッシュが、我々の生死のいかんに依らず我々を捕まえると宣言するなんて、どうして予測出来ただろう。』 ミッチェルは記している。「カハリド・シーク・モハメッドの説明によれば、もしアメリカが911をただの犯罪の一つとして対応していたならば、第二の攻撃の波を開始する時間があったようだ。アルカイダがそうできなかったのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の頑迷な決意と素早い対応にアルカイダが尻込みした事による。

シーセンの書評によれば、カハリド・シーク・モハメッドは、ジハード同調者がアメリカに移民をし、アメリカ人が疲れ果て、降参をするまで、小さな規模の攻撃を続けるだろうと語ったそうだ。

カハリド・シーク・モハメッドに言わせれば、911のような大規模な攻撃は「良いが、必要ではない。」継続的な単純な技術の攻撃が続けば、いくつかの病気に感染をしているノミによって象が倒されるのと同じ論理で、アメリカを崩壊できるとしている。彼によれば、『ジハードの思いを共有する兄弟たち’がアメリカに移住し、アメリカの法と権利を身に纏いながら充分な力を養い、台頭し、我々を攻撃するらしい。

「彼は、兄弟たちは彼らの攻撃を休む事なく続け、アメリカ人はいずれ、疲労し、恐怖に慄き、戦いに嫌気がさし、戦いを放棄するだろう。いずれアメリカは殺戮される為に我々に首を差し出すだろう。」

ジハード同調者や自称ISIS戦士によるローン・ウルフ型のテロ攻撃の数が急上昇している事からも、カハリド・シーク・モハメッドの言葉は殆ど予言的であるとさえ言える。

カハリド・シーク・モハメッドの言葉は続く、「アメリカは彼らとは宗教戦争を行なってはいないだろうが、真のイスラム教徒はアメリカとの宗教戦争の最中なのだ。全世界の人間がシャリア法の支配下に置かれるまで、われら兄弟たちによる戦いは止むことが無い。」

シリア、アレッポ市民を襲う連日の空爆と化学兵器

化学兵器ウォッチドッグの加盟国は、シリア政府による、自国民に対する化学兵器の使用とその実態への説明をシリアが滞っている事を批判した。

 

オランダに駐在しているオーストラリアのブレット・メイソン大使は、ハーグでの会議で、シリアによる化学兵器を使用した攻撃は「歴史上最も酷い、化学兵器会議の合意違反である」と述べている。

国連と化学兵器使用禁止委員会の共同捜査は、今年、シリア政府が3度、塩素ガスを使用した攻撃を行ない、また過激派のISISが、一度マスタードガスを使用した攻撃を行なったと纏めている。

 

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             政府軍による塩素ガスの攻撃の後、治療を受ける人々

 

一方シリア側は、月曜日に行なわれた毎年恒例の、『化学兵器使用禁止団体会議』を用いて、シリア政権が自国民に対して化学兵器を使用して攻撃しているとする報道を「組織化され、繰り返されている一連の嘘キャンペーン」と非難している。

Syria Attacks Chemical Weapons Allegations as 'Campaign of Lies'

 

100歩譲って、これらの化学兵器による一般市民への攻撃を政府軍が行なっていないとしても、連日連夜の空爆で、アレッポに残ったすべての病院を破壊し、治療無くしては生存できない人々への医療サービスの供給の道を絶った責任は、シリア政府と、共に空爆をしているロシアが負うべきだ。

East Aleppo’s last hospital destroyed by airstrikes | World news | The Guardian

 

オバマ大統領が、内戦の続いているシリア・アサド政権に対し、化学兵器を使った虐殺を行なわない」と約束させ、化学兵器を以て『決して超えてはならない線(レッド・ライン)』と呼び、一応のガイドラインを設けたのは2012年8月20日の事だ。

その直前の7月、化学兵器をシリアが所有している事が認められたが、シリア政府は、これを自国民に対しては使用せず、外敵に対しての武器であると主張した。オバマ大統領は、もしシリア政府がレッドラインが超え、自国民に対して化学兵器を用いる場合、アメリカの軍事介入があると告げ、アサド政権がその責任を問われるだろうと警告した。

 

ところがアサド政権は、同年12月には、シリア西部ホムスに於いて、毒ガスを使った攻撃を行ない、7人の自国民が犠牲になったと報道された。その後2013年には化学兵器を使用した複数回の攻撃で、一般市民の犠牲は約1500人(うち、子供の犠牲者約400人)に上った。

Even after 100,000 deaths in Syria, chemical weapons attack evoked visceral response - The Washington Post

Timeline of Syrian Chemical Weapons Activity, 2012-2016 | Arms Control Association

 

しかしながら、「イラク戦争を終結させたこと」を自身の偉業と考えるオバマ政権は、約束した『軍事介入』について「議会が承認しない」という理由で尻込みし、シリアの同盟国であるロシア・プーチン大統領が仲介に立つ事態となり、ジョン・ケリー国務長官とロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相との間に、アサド政権からの化学兵器放棄や査察を含めた約束が交わされた。

 

この時アメリカは、中東における世界の強国としての指導的立場をロシアに譲るという最大の誤りを犯してしまったと言える。

 

以来ロシアは、同盟国としてのアサド政権を支持し、ISIS制圧という名目で、アサド政権に敵対する全ての反政府派への軍事行動を続けている。例えばロシアが、2018年8月24日から11月22日までに行なった3359回の空爆のうち、約98.8%に当たる3319回は、南西アレッポ、アレッポの東部地区と南地区への空爆であり、これらは反政府派の支配する地域である。対してISISを狙った空爆は、40回。全体の1.2%でしかない。

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ロシアに次いで空爆を行なっているのはトルコであるが、トルコによる空爆676回の空爆のうち、560回、82.8%がISISを主にターゲットにしている。残りの116回、17.2%は、シリア民主軍を狙ったものだ。

 

アメリカが主導となる連合軍による251回の空爆では、そのうち249回、99.2%がISISを攻撃対象としている。残りの3回、0.8%はJFS(アル・ヌスラ)が対象となった。

 

実に、シリアで行なわれた空爆4286回の内、ロシアによる空爆が78.3%を占め、トルコは15.7%、連合によるものは6%しかない。これらの空爆の77.4%は、反政府派が標的であり、ISISが標的となっている者は全体の約二割、19.8%でしかない。

 

ロシアがISISを制圧する為にシリアの内戦に介入をしているというのは事実に基づかないし、シリア、アサド政権との緊密な同盟関係を考えれば、ISISを制圧して反政府派の攻撃対象がアサド政権に集中する事をロシアが援助する筈がない。ロシアはシリアに対空ミサイルのシステムを設置したが、ISISはミサイルなど所持していない。これは明らかに(トルコや)米国などの西側連合側を狙ったものである。

US: Russia ships new anti-missile system into Syria - CNNPolitics.com

 

またロシアは、シリアの空域に他国機の飛行を禁止する『ノー・フライ・ゾーン(飛行禁止空域)』を設け、アメリカを含めた西側が、ロシアとの全面戦争を避けつつ、シリアの内戦に介入する事を非常に困難なものにしてしまった。

There Is a No-Fly Zone in Syria—One Russia Created | | Observer

 

ロシア戦闘機はシリア戦闘機と共に、アサド政権に敵対するすべての反政府派への軍事行動を連日連夜、行ない、市民の犠牲を増やしている。これがシリア内戦に拍車をかけ、シリアからの大量の難民を発生させている原因となっている点は否めない。ロシアは、大量の難民を発生させながら、イスラム教徒難民問題、シリア内戦解決への重要なキー・プレイヤーとして、ヨーロッパに対する発言権を持とうとしているのだろう。

 

恐らく、短期的な目標とすれば、ウクライナ不法占拠によって発動された制裁の解除を望んでいるのではないだろうか。メルケル・ドイツ首相の主導した政策によって大量のイスラム教徒の難民を受け入れたヨーロッパでは、反動的な排他的ナショナリズムが高まり、リベラル政治に対峙するナショナリストとしてプーチンを慕うヨーロッパ人が増えている。フランスなどでも、力を増している政党は全て親プーチン派であって、「どの政党が勝利してもプーチンが勝ったのと同じだ」と言われるほどだ。

Vladimir Putin Is Winning the French Election - Bloomberg View

 

シリアの反政府派活動家によれば、シリア政府による昨日の空爆で、少なくとも17人の市民が死亡したようだ。

 

ロシアの防衛相は、月曜、シリア政府軍が今回の空爆で、反政府軍によって支配されているアレッポの約半分を奪回したと発表した。これはアレッポ内12の地域、アレッポ市全体の約40%である。アレッポはシリア最大の都市であり、商業の中心である。2012年以来この地は、反政府派の拠点として政府軍による攻撃の対象となってきた。

 

アレッポに住む或る男性は、「私達は4年間、生き続けてきた。私たちは、誰かが助けに来てくれることを、ずっと待っていた。昨晩、娘が死んでしまった。もう助けはいらない」と語っていた。

母親と共にツイッターによってアレッポの様子を伝えてきたバナ・アラベッドという7歳の少女は、昨晩の政府軍による空爆で、ついに家を失なってしまったようだ。勿論食料もない。

 

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                 政府軍による空爆後のバナ・アラベッドちゃん

抵抗を続ける反政府軍による籠城がなくても、これら市民は自由にはなれない。一般市民がアレッポから逃れようとしても、政府軍が全ての道路を封鎖しているからだ。アレッポから逃れようとする人々は、一般市民であっても拘束され、投獄される可能性が高い。

 

オバマ大統領は、全ての失政から手を洗い、トランプ次期大統領は、「ISISの問題は、ロシアのプーチン大統領に任せれば良い」と発言している。またある時は、アレッポの状況の酷さを語りつつも、アメリカのスラム街の方が治安が悪いと自説を唱えている。

 

アメリカが「自国の利益の為」、「軍事産業に利潤を齎し」、「世界の警察官を気取る為」、そのような動機でも良いから、なんとか軍事介入をして欲しい。メディアや国民の半数は反対するだろう。議会も反対するだろう。それでも何とか、この悲劇を終わらせる正義感、使命感を奮い立たせて欲しい。

 

日本の素晴らしさを世界に知らしめようと活動している方々は、是非、遠いシリアの地、アレッポに住む人々を忘れないでほしい。彼らの悲劇は、アメリカが起こしたものではなく、シリア政権、ロシア政権によって起こされ、アメリカが介入しない為に深刻化しているのだ。

 

私は、一国の偉大さを図るものは、全く何もしない傍観者によって痛くない腹を探られるような思いをしても、これらの地で苦しむ人々を救い出そうとする使命感であると信じている。

キューバの独裁者、フィデル・カストロの死

キューバのフィデロ・カストロ議長が90歳の生涯を閉じました。

 
カストロ元議長は、20世紀で最も多くの殺人を犯した最も残忍な独裁者の一人です。彼の残忍さ、冷酷さと比較されるべき独裁者は、あまりいません。西側では一般的に、彼については「地獄というものがあるなら、カストロは、ヒトラーやスターリン、レーニンや毛沢東などと同じ場所にいるだろう」と呼ばれ、彼の死に際して、「数え切れない程多くの彼の犠牲者達のものと比べ、あまりにも簡単にやってき過ぎた。彼の死に際してさえ彼を称賛するような行為は、人道に対する真の敵対行為だ」「彼は、彼が何千、何万もの人々に対して行なったように、銃を構えた銃殺隊による一斉砲撃で殺されるべきではなかったか」とさえ言われています。
 
歴史家のヒュー・トーマス氏は、カストロ政権による反対者の処刑数を「1959年から1970年までの間におよそ5,000の政治犯処刑があったろう」と見積もり、ハワイ大学のルドルフ・ルメル教授(政治科学)は、1958年から1987年までに約4,000から33,000人が犠牲となったと推測しています。また『ブラック・ブック・オブ・コミュニズム』によれば、キューバ全体で15,000から17,000人が処刑されたとしています。1959年から1993年までの間に、キューバの現人口の10%に当たる1,200,000人が、小さなボートなどに乗ってアメリカに亡命しました。キューバから亡命したこれらの人々の中には、彼の実娘や実妹も含まれています。
 
処刑された『政治犯』の殆どは、前政権からの警察官、政治家、また役人らであり、彼らには正統的な裁判権が与えられていませんでした。アムネスティー・インターナショナルの抗議に対して、カストロ政権は「政府がこれらのテロリスト、犯罪者らを拷問し、罰しないならば、人民がこれらの売国奴たちを拷問し、殺害するだろう」と答えています。
 
またカストロ独裁政権は、次々と反対者や宗教者らを強制収容所に送り、拷問、生体実験、暴行を加えての尋問や、食料、衣料、衛生、医薬品らの供給を拒むと言った悪環境の中での強制労働につかせており、9歳以上であれば、子供の逮捕も行なっていました。
 
また、カストロ元議長が政権に就いた1959年後には、政治犯らに対する、精神病棟への強制入院も行なわれており、キューバの南東部サンティアゴ・デ・キューバにある「ギュスタヴォ・マキン病院」やハヴァナの精神病院では、筋弛緩剤や麻酔を使用しない、電気けいれん療法による拷問を、政治犯に対して行なっていた事が明らかになっています。
 
反体制派や宗教家らへの弾圧、国在追放、表現、言論、報道への検閲、集会の禁止や、富裕層の投獄など、毛沢東による「文化大革命」、金日成の「粛清」に等しい人権の侵害が行なわれ、共産主義国の例に倣い、豊かであったキューバの経済を崩壊させ、貧困国の一つとしました。中国やベトナムのような共産主義国家が資本主義を取り入れる中も、「社会主義、さもなければ死を!」というスローガンを抱え、恐怖政治を布いてきた独裁者です。
 

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カストロ政権圧政の下で命を落とした多くのキューバ人の犠牲を考えれば、彼の死は遅すぎたと言えますが、彼の死によって、キューバの人々に自由と機械への扉が開かれる事を願います。
 
2016年9月、カストロ元議長を訪問した安倍首相との会談で、両者は「核のない世界」という考えで一致をしましたが、明らかな反米主義であるカストロ元議長はともかく、そのような主張にアメリカが同意し、核兵器を放棄した場合、日本の安全保障は著しい危機に瀕します。

Abe, Fidel Castro agree to a world without nuclear weapons | The Japan Times

 
ロシアのプーチン大統領であっても、キューバのカストロ元議長であっても、彼らが自国民の人権を侵害し続けた、『人道に対する犯罪者』である事は、誤りようのない事実です。これら『人道に対する犯罪者』らによる『反米共闘』を視野に入れた「(アメリカは酷い国ですが)日本は素晴らしい国です」という甘言に惑わされて彼らを容認するならば、善悪の基本や原則に関係なく、全て『自分に対して何と言ってくれるか』を基準に外交を行なおうとするドナルド・トランプ氏の精神性と、全く同じだと言えないでしょうか。

ロシア、最新式対艦ミサイル配置の意図

数日前、ロシアが北方領土(国後島と択捉島に最新式対艦ミサイル・システムを配置し、これによって北方領土海域内を運航する戦艦だけでなく、北海道全域が射程圏内に入った事になります。日本政府は、岸田外相が「日本政府は事情を調べて、然るべき処置をとる」と声明を発表していますが、勿論ロシア側はこの計画は一年前から公表されてきた事であるとし、日本の一部世論の衝撃こそ過剰反応であると批判しています。

Russia deploys anti-ship missiles on disputed isles off Hokkaido | The Japan Times

Japan pledges response to 'serious' Russian missile deployment on disputed islands | The Independent

またロシアは、ポーランドとリトアニアとの国境を有するカリニングラードにも核弾頭掲載可能の最新式対艦ミサイルを配置し、これに対してNATOがヨーロッパとの緊張を高める「侵略的軍事姿勢だ」と強い非難をしています。

Kaliningrad: New Russian missile deployment angers Nato - BBC News

 

ロシアのメディア『スプートニクス』は、日本の一部世論が過剰反応しているとして、その責任は日本の政府やメディアにあるとでも言いたそうな主張を掲載していますが、この時期、ロシアを侵略する意図の全く見られないポーランドやリトアニアに向けて、最新式の対艦ミサイルを配置した理由はどこにあるでしょう

なぜロシアは択捉・国後にミサイルシステムを配備した?

 

プーチン大統領は24日、テレビ放映されたチリのクイズ番組で「ロシアに国境はない」と答えており、その意図は「ロシアの国民の権利を守る為に、ロシアは世界のどこに於いても軍を派遣する」という意味だと説明されています。ロシア専門家はこれを「『兵士の倒れる地がロシアの国境だ』と言いたいのだろう」と解釈しており、ロシア国民の権利を守るという名目で、相手国の主権を無視した軍事侵略を続ける意図がある事を伺わせます。

 

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 シリアに対して既に使用され、カリニングラードに配置されたロシアの要塞ミサイル

以下に、BBCの記事を訳します。

Russia's border doesn't end anywhere, Vladimir Putin says - BBC News

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「あれは、冗談ですよ」プーチン大統領は、きらびやかな式典での、拍手と笑いの中で言った。

プーチン大統領は、9歳の男の子に「ロシアの国境はどこまで?」と聞いていた。少年が「ベーリング海峡までです」と答えたが、プーチン大統領には別の解答があったようだ。

プーチン大統領は、テレビ中継された「地理を学んでいる学生」への授賞式で、ロシアには、「どこまでが『国境』か、というような境界線はない」とし、「ロシアは、ロシア人がどこに住んでいても、自国民を守る」という誓いを新たにした。

2014年の7月、ロシア軍がウクライナのクリミア半島を侵略した3か月後に、プーチン大統領はロシア大使らに対して彼の教訓を説明している。

「私は、皆に知っておいてほしいと思う。我々の国は、海外における我々の同志、ロシア人の権利を、国際人道法に則った政治的、経済的な方法、また自衛の権利等、ありとあらゆる方法を駆使して、これからも積極的に守り続ける。

NATOをはじめ西側の首脳は、クレムリンが東ウクライナの親ロシア反政府軍に対して、正規のロシア軍隊と兵器を送っていると批判しているが、クレムリンは繰り返しこれを否定し、ロシアの兵団は「非正規(ボランティア)の兵士たち」であると主張している。

ロシアの国境についての発言の直前に、プーチン氏は5歳のティモシー・ツォイ君に「ウァガドゥグはどこの国の首都か?」と聞いている。

ティモシー君は正確に「ブルキナ・ファソです」と答えたが、プーチン氏は更に、これの古い呼び方を聞いた。ティモシー君が答えに窮すると、プーチン氏が「上ヴォルタだ、良い子だ」と助け舟を出した。

かつてソヴィエト連邦は、「ロケットのある上ヴォルタ」と皮肉を込めて呼ばれていた。

これらの少年は二人とも地理に関するクイズ番組で好成績を収めた少年だ。この式典はロシア地理協会によって開催された。

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ロシア側の軍事力拡張の基となる、「ロシア人の人権を守る為」という主張ですが、果たしてロシア国民の人権は、海外で蹂躙されているのでしょうか? プーチン大統領は自分に反対するロシア人のジャーナリスト250人以上を殺害しており、ロシアから西側に移住する民主運動家やジャーナリストらが後を絶たないのは、プーチン政権からの弾圧を逃れてではないのでしょうか?

ちょうど10年前の昨日、アレクサンドル・リトヴィネンコ氏が政治亡命先のロンドンで毒物によって殺害されましたが、2016年イギリスの裁判所は、これについて、クレムリンの命を受けた暗殺であったとする判断を下しています。クレムリンの命を受けて直接殺害に加担したとされるディミトリー・コヴトンはロシア連邦警察庁の保護下にあり、もう一人のアンドレイ・ルゴヴォイはロシア連邦議会の議員として訴追免除の特権に預かっています。

 

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   2006年に亡命先のロンドンで毒殺されたアレクサンダー・リトヴィネンコ氏

Poisoning of Alexander Litvinenko - Wikipedia

Russia: British Police Investigating Litvinenko Poisoning Case

これらの、国内にいるロシア人だけではなく、海外に亡命したロシア人の人権は、誰によって侵害され、誰によって守られているのか、明確に指摘される必要があります。ロシア人の人権を侵害し、蹂躙しているのは、プーチン大統領率いるロシア政府であり、彼らの人権を守っているのは亡命先の西側国家です。

「海外のロシア人の人権を守る為、どこにでも軍事介入する」というクレムリンのプロパガンダは、単なる領土拡の名目であり、容認されるべきものではありません。

常識で考えて、ロシアによる対艦ミサイル配置には、明らかな領土拡張と軍事的脅威による交渉力の強化が目的としてあります。

西側はこれについて「理解」を示したり、脅しに屈して制裁解除などをするべきではなく、毅然とした更なる対抗処置が為されるべきです。

 

 

米メディアは嘘をついたのか-----ZAKZAK記事への反論

以下の記事に対して、果たして米メディアは嘘をついたのか、という視点から、反論をしたいと思います。

www.zakzak.co.jp

次期米国大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことを多くの米国民が受け入れず、9日夜には全米25都市で抗議の「反トランプデモ」が起きたと、CNNなどのメディアが伝えた。
「やはりトランプ氏は大統領にふさわしくないのか」と考えた日本人は多いと思う。あなたもその1人だとしたら、メディアの情報操作に対する警戒心が不足している。米ギャラップ社が11日(日本時間12日)に行った世論調査では、米国民の84%が選挙結果を受け入れると答えている。トランプ氏を正当な大統領として認めないとの回答は15%である。つまり、「反トランプデモ」の参加者は「ノイジーマイノリティ」(騒がしい少数派)なのだ。日本で8月に解散した学生グループ「SEALDs」(シールズ)が「反安倍晋三政権デモ」を繰り返し、一部メディアがそれを多数派であるかのように報道したのと、完全に同じ構図である。
 
まず、元の記事となるCNNのリンクが添付されていませんので、実際のCNNの報道が何であるかはわかりませんが、日本語だけの判断で、反論をさせて頂きます。
 
全米25か所でトランプ氏当選に反対する抗議のデモが数日間行なわれ、参加者がそれぞれ数千人、また女性のデモでは一万人が参加したとすれば、これは「大勢のアメリカ人が…」とならないでしょうか? 勿論、「何人を以て大勢のアメリカ人が」と言うかどうかは、定まっていません。コンサートや講演会のように、収容人数が予め判断できる場合でなければ、おおよその適当な人数を報道するか、「多くの」と、人数を特定せずに報道する事は、ある意味常識的な事です。
 
この場合の「次期米国大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことを多くの米国民が受け入れず…」とCNNが報道した事は、事実から逸れた報道ではありませんし、「米国民の84%が選挙結果を受け入れる」と答えたギャラップ社の世論調査とも矛盾しません。
 
「CNNやその他のメディアが『情報操作』をしている」ことを示唆されるケントさんですが、CNNなどのメディアが「大勢のアメリカ人がトランプを次期大統領として受け入れず、デモに参加している」と報道する事によって『情報』を操作したとすれば、この場合の「操作されていない報道の仕方」とはどのようなものでしょう? 「少数のアメリカ人による小規模のデモが行なわれた」と報道する方が事実に近いのでしょうか。

 

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これは、コップの水を多いと見るか、少ないと見るかの違いである気も致しますが、やはり、何千人、何万人かの反対デモが起きた場合、人数は不確かとしながら、「大勢のアメリカ人がショックを受けている」という意味での「次期米国大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことを多くの米国民が受け入れず…」という報道は、情報操作と呼ばれるべき類のものではありません。
 
CNNの報道が『嘘』である条件は、CNNが「『大多数』のアメリカ人が…」と報道した場合であって、ケントさんの書かれた事から判断しても、CNNはそのような報道はしていないようです。
 
また、「ギャラップ社による意識調査で84%が選挙結果を受け入れると答えた」点も、トランプ陣営や支持者が「ヒラリー・クリントンが当選した場合、選挙結果を受け入れない」と答えていた事と比較されるべきです。
 
トランプ氏自身は、法的措置に訴える事を示唆したり、支持者の中には「革命の為に立ち上がる」ことを示唆した人もありましたが、殆どのアメリカ人は、誰が当選したとしても、その選挙結果を受け入れていたでしょう。但し約8割の人々は、選挙結果を恐れていると答えていました。トランプ支持者であっても、ヒラリー支持者であっても、多くの人々が、自らは選挙結果を受け入れる一方、一部の人々による暴動や、何かがおこるかもしれないと恐れていた事は確かなようです。

Trump Throws A Tantrum And Threatens To Sue America If He Loses The Election

Pence halts Trump supporter who called for 'revolution' if Clinton wins - LA Times

Poll: 80 Percent Of Americans Fear 2016 Election Results | The Daily Caller

 
トランプ氏への投票が、有権者の約4分の一であった事を考えれば、大多数の国民がショックを受けているという意味でのメディアの報道は、必ずしも誤ったものではありません。
 
「やはり、トランプ氏は大統領として相応しくないのか」と考えた日本人がいるとすれば、その人には論理の飛躍が見られますが、その責任はCNNにはありません。CNNをはじめとするメディアが操作するのは、どちらかと言えば『印象』であって、『情報』ではありません。
 
日本人であっても、アメリカ人であっても、ある人が米メディアによる「大勢のアメリカ人がトランプ当選に反対したデモを行なっている」という報道によって、「トランプ氏は大統領として相応しくない」と判断したとすれば、その人は、民主主義選挙による投票結果こそが、正当性を齎すことを理解していません。相応しいか相応しくないかという資質の問題の前に、Electoral Collegeを用いた選挙で当選をしたのはトランプ氏なのですから、トランプ氏こそが正統的な当選者である点は疑う余地がありません
 
次に、『「クリントン・ニュース・ネットワーク」と揶揄されるCNNは報じないだろうが』と書かれる事で、すでに「CNNはヒラリー・クリントンに肩入れする為に、ヒラリーに不都合な報道はしない」という『印象』を示唆されていますが、CNNはヒラリー・クリントン元国務長官に不利となったemail疑惑も報道していました。
 
また、CNNが完全にヒラリー寄りだったという書かれ方も、事実とは言えません。CNNは、暴力騒動を起こしてトランプ・キャンペーンを解雇された、コーリー・ルワンドウスキー氏を政治コメンテーターとして雇い、トランプ氏に都合が良いだけの発言をさせています。「トランプ氏にとって都合が良いだけの発言」と述べるのは、解雇された後もトランプ氏にとって不利になる情報を漏らしてはならない契約がルワンドウスキー氏とトランプ氏との間にあったからです。CNNはそれを承知で、ルワンドウスキー氏を雇用しました。
 
 
また『今回の全米デモは、大物投資家ジョージ・ソロス氏が扇動したものとされる。』という情報も、CNNが報じないだけではなく、保守派メディアであるウォール・ストリート・ジャーナル紙も、ナショナル・レビュー紙も書いておらず、ワシントン・ポストがその噂の出所を明らかにして、それがいかに事実と違ったものかを報道しただけです。この噂は、クレムリンのお抱えメディアであるロシア・トゥデイや、主に陰謀説が専門のゲイトウェイ・パンディットなどがまず流しており、社会的責任を抱え、信頼性の高い主要メディアは、保守派メディアであってもこの噂を報道していません。
 
ワシントン・ポストの報道によれば、3月の時点で既に出ていた「ジョージ・ソロス氏が反トランプ・ラリーの裏にいる」という噂の出所は、トランプ氏の為の活動をしていたワシントンDCのロビィスト、ロジャー・ストーン氏ですが、ストーン氏は、ポール・マナフォート元トランプ選挙マネージャーと、『ブラック・マナフォート・ストーン&ケリー』というロビィ会社を共同経営している人物です。トランプ氏の選挙マネージャーとロビィ会社を経営していたロビィストが出所である事を考えれば、この情報に対しては、よほどの警戒をするべきだと思われます。
 
勿論、証拠があれば、たとえストーン氏が出所の情報でも信じられるべきでしょうが、証拠が無い限り、主要メディアの情報に対抗し得る真実の情報とは言えません。
 
 
 
「民主主義の根本を否定する、往生際の悪いデモ隊は大型バスの送迎付きとの情報もある。」
これは事実に基づいた情報ではありません。写真に写っているとされるバスの列は、反トランプ・デモとは関係が無く、10月の時点で既にグーグルのストリート・ビュー写真に納まっています。ここから判断されるのは、これらのバスの列が、トランプ氏への反対デモと関係が無く、常に、或いは頻繁に、この場所に駐車してあることです。
 
「すぐに沖縄の「プロ市民」を思い出した。日当と弁当も出たかもしれない。」
 
これはケントさんの憶測だけであって、金銭が支払われた証拠はありません。日当が出るという『情報』からは、これらのデモ参加者が、トランプ氏への反感からではなく、金銭的な目的によってデモに参加をした、という『印象』を受けますが、リベラル派だけでなく、トランプ氏に反対していた保守派の懸念も考えれば、これらのデモに参加した人々の動機が、金銭欲であったとは思われません。先にも述べましたが、約8割のアメリカ人がトランプ氏の当選に恐怖を感じていたのです。

Poll: 80 Percent Of Americans Fear 2016 Election Results | The Daily Caller

 
加えて、たとえソロス氏の支援されている数多くの団体が、トランプ氏に反対するデモに参加をしていても、それがソロス氏による直接の呼びかけで行なわれたものである証拠はなく、まして全てのデモ参加者がソロス氏の意向に従ってトランプ氏に反対をした「雇われ運動家」であるとは言えません。

 

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ここまで書けば、ケントさんの書かれている事にこそ、『印象操作』や情報の偏向がある事は否めません。メディアによる『情報操作』にあれだけの警戒を呼び掛けていらっしゃるケントさんが、ご自分のなさっている『印象操作』に気付かれないのでしょうか。
 
今回の大統領選は、米メディアの嘘と傲慢さを見事に暴き出した。例えば、「トランプ支持者=低学歴で低所得の白人労働者」というレッテルを貼り、選択に迷う人々をヒラリー氏支持に取り込もうと画策した。だが、現実のトランプ支持者は低学歴でも低所得でもない。私がその証拠である。本物の低所得層は、社会保障に手厚い民主党のヒラリー候補を支持した。年収500万円以上の人々の支持率は拮抗していた。
 
まず、常識として、「すべてのトランプ支持者が低学歴で低所得者の白人労働者」であると主張する人は、皆無です。そうではなく、「一般的にトランプ支持者らは…」という、統計に基づいた、あくまでも一般論、比較論が述べられているだけです。そして一般論、比較論で言えば、これは誤った報道とは言えません。
 
トランプ支持者の多くは、白人の労働者階級で、大学を出ていない層であることは、いくつもの統計が明らかにしています。
 
 
勿論これは一般論ですから、ケントさんのような高学歴の方がトランプ支持者の中にいらっしゃっても当然なのですが、ケントさんがご自分を指して『私がその証拠である』と仰った辺りは、「議論とはそのように為されるものではありません」と言うしかありません。
 
しかも、もし一人の高学歴者や高所得者の為に、支持者のおおよそが判断されるべきならば、ケントさんが指摘された「社会保障に手厚い民主党」は、共和党から立候補するまで民主党支持者であったドナルド・トランプその人や、民主党員として登録されていた成人した彼の3人の子息女らによって「高学歴」「高所得者」の党となります。
 
因みに、「トランプ支持者」と言っても、共和党からはトランプ氏を含む合計17名の候補者がありました。同じ共和党支持者、或いは保守派と言われている人々の中にも、「絶対にトランプがアメリカを再び偉大な国とする」と信じる熱狂的な支持者から始まって、「絶対にトランプ氏には反対する」というネバー・トランプの人々まで、様々な意見がありました。勿論、この中間には、「本当はトランプを支持したくはないけれど、自分の支持していた他候補者は、選挙から撤退してしまったし、ヒラリー・クリントンよりはマシだと思う」という理由でトランプ氏への投票を決めた大多数の共和党支持者らがいます。多くの候補者が立候補していた頃は、トランプ氏の共和党支持者からの支持率が40%を超える事はありませんでしたから、『大多数』の共和党候補者からの支持をトランプ氏が受けていなかったことは明らかです。
 
真にトランプ支持者と呼ばれるべき人々は、その他16人の候補者がいた段階から、一貫してトランプ氏を支持してきた人々だと思われます。ナショナル・レヴュー誌に記事を書き、「Liberal Fascism」の著者でもあるジョナ・ゴールドバーグは、保守派言論人のうち、原則に従って反トランプを貫いてきた人物の一人ですが、トランプ支持者を『無知文盲』『白人至上主義者たち』『偽祭司たち』『偽穏健派』『娼婦の指導者』『隠れ反トランプ』『諦めてしまった人々』に分類しています。
 
 
 
この中で、もともとのトランプ氏を支持していたと思われる人々に対しては、「これらの人々は早い時期からドナルド・トランプ氏が大統領として相応しいと信じてきた人々である。彼らを一般化するならば、これらの人々は邪悪なわけでも、差別主義者でもない。これらの人々は、基本的に詐欺師に騙されているような人々だ」としています。
 
また、軍史家であり、ナショナル・セキュリティーのアドバイザーでもあったマックス・ブート氏は、トランプ現象を生み出した原因に、アメリカの公民教育の衰退そのものをあげています。
 
 
ゴールドバーグ氏や、ブート氏は、共和党支持者で、保守派の言論人、外交専門家ですが、反トランプを掲げてきた人々です。
 
一方、トランプ氏のアドバイザーでもあるベン・カーソン氏がトランプ支持者について、以下のように述べています。
 

「ニュアンスや理屈、正当性で以て彼ら、トランプ支持者にわからせようとするのは、無理です。彼らは、絶望的に、勝ちたいのです。そして彼らは、どのように勝とうかについては、あまり気にしていません。トランプ氏は他の候補者に比べ、勝とうとする欲望に訴えかけるのに長けています。外交政策、拷問や社会保障などの主張に見られる通りです。彼は支持者たちが論理的な理屈の中で結論に達するようには導いていません。彼が彼らに代わって、結論やその理由まで、全てを提示するのです。国家の借金やアメリカの軍事的役割の縮小、また法律そのものなど、無視できない現実を前にしても、彼のあからさまな強さが、現状打破を願う人々に取って、新鮮な希望であるのです。この選挙は、アメリカの大衆の心と魂を勝ち取るもので、知性によるものではありません。」

 

トランプ氏のアドバイザーであるカーソン氏が、トランプ支持者に対して、「加減や知性、曖昧な言葉、論理への訴え、良識などは、この時期、有権者には関係がありません」と述べているのですが、「論理的な理屈」を必要とせず、知性ではなく心と魂に訴えられるような人々が、果たして一般的に高学歴、高所得者と分類されるでしょうか?
 
或いは、アメリカの借金をどう解決するか聞かれ、「債権者に、貸した金額よりも少ない額を受け入れてもらう」と、アメリカへの投資家をしり込みさせる発言をした後、真意を正され、「紙幣を多く印刷して借金返済に宛てる」と答えたトランプ氏を、「アメリカを偉大にしてくれる」と支持するような人々が、果たして知的で、高学歴の層であり得るしょうか? 

Donald Trump: U.S. can never default because it prints money - POLITICO

 
ただ単に、ヒラリー氏を圧倒的に支持したメディアが、民主主義を受け入れる大多数の米国民をバカにする偏向報道を、選挙中から現在まで堂々と続けているだけだ。今も「衝撃」や「番狂わせ」と報じる日本メディアは、情報操作を見抜くリテラシーを磨かないと、恥の上塗りになる。
 
ヒラリー・クリントンを圧倒的に支持したのはメディアだけではありません。ノーベル賞受賞の経済学者を含む、370人に及ぶ著名な経済学者たち、122人の共和党支持者のうちの、安全保障及び、外交専門家たち、また多くの共和党議員、元大統領や、大統領にも提言をしていた元将軍、元CIA長官らも、ヒラリー・クリントンを支持していました。共和党支持者、或いは共和党員であっても、外交、安全保障、軍事、経済専門家らは2016年の選挙では、民主党候補者であるヒラリー・クリントン元国務長官を支持していたのです。
 
これらの人々のヒラリー・クリントン元国務長官への支持は、トランプ氏や、アレッポが何かも知らなかったゲイリー・ジョンソン党首、トランプ氏と同じように親ロシアの姿勢を示していたジル・スタイン党首らしか、他に候補者がいない中での、やむを得ないヒラリー氏支持とも言えます。
 
 
 
『ただ単に、ヒラリー氏を圧倒的に支持したメディアが、民主主義を受け入れる大多数の米国民をバカにする偏向報道を、選挙中から現在まで堂々と続けている』が何を指すのかはわかりかねますが、日本のメディアが報道するように、トランプ氏の当選が「衝撃」「番狂わせ」であった事は事実です。トランプ陣営や支持者にとっても、この選挙結果は衝撃だったのです。ロサンゼルス・タイムズなどの一部メディアを除き、殆どのメディアは、トランプ氏の当選を予測していませんでした。ですから、今になって、「実はトランプ氏の当選こそ、確信していた」などと主張すれば、却って、自らの誤りを認めない『恥の上塗り』となるでしょう。一番理解できないのは民主主義を受け入れる大多数の米国民をバカにする偏向報道』が何を指すのかですが、ケントさんが挙げられているのは、CNNをはじめとするメディアが報道した、「トランプ氏当選に反発をした人々による抗議運動」です。これを報道する事が「民主主義を受け入れる大多数の米国民をバカにする偏向報道」となるのでしょうか? 
 
また、『選挙中から現在まで』と書かれていますが、選挙中に関して言えば、「(場合によっては)選挙結果を受け入れない」と主張していたのは、トランプ氏とその支持者らで、トランプ側によるこの主張は、「民主主義を軽んじたもの」として報道されていました。選挙後は、偏向どころか「公平に」、恐らくヒラリー支持者やサンダース支持者から成る反トランプ派による「選挙結果を受け入れない」という主張を報道しただけです。この報道姿勢には偏向は見られません。
 
情報操作を見抜くリテラシーを磨くことを勧めていらっしゃいますが、メディアだけでなく、なぜ多くの名だたる経済学者や安全保障、外交専門家らがトランプ氏を厳しく批判し、彼の当選への警告を発していたのか、彼らの議論に対して、冷静に聞く耳を持てば、「ただメディアが醜悪な反トランプキャンペーンを展開している」というような、『メディア陰謀説』に陥らずに済むのではないかと思える次第です。
 
メディアによる陰謀を説かれる方ほど、クレムリンのお抱えプロパガンダ・メディアや、陰謀説を垂れ流す個人メディア、社会的責任の少ないアルト・ライト・メディアを引き合いに出される事が多々あるのは、本末転倒だと言うより他にありません。
 
軽々しく「メディアが嘘をつく」と主張される方は、大雑把なメディア陰謀説を流布されるよりも、メディアの報道のどの部分の『事実関係』が『誤りであったか』を明確にされる必要があります。