ロシア、最新式対艦ミサイル配置の意図

数日前、ロシアが北方領土(国後島と択捉島に最新式対艦ミサイル・システムを配置し、これによって北方領土海域内を運航する戦艦だけでなく、北海道全域が射程圏内に入った事になります。日本政府は、岸田外相が「日本政府は事情を調べて、然るべき処置をとる」と声明を発表していますが、勿論ロシア側はこの計画は一年前から公表されてきた事であるとし、日本の一部世論の衝撃こそ過剰反応であると批判しています。

Russia deploys anti-ship missiles on disputed isles off Hokkaido | The Japan Times

Japan pledges response to 'serious' Russian missile deployment on disputed islands | The Independent

またロシアは、ポーランドとリトアニアとの国境を有するカリニングラードにも核弾頭掲載可能の最新式対艦ミサイルを配置し、これに対してNATOがヨーロッパとの緊張を高める「侵略的軍事姿勢だ」と強い非難をしています。

Kaliningrad: New Russian missile deployment angers Nato - BBC News

 

ロシアのメディア『スプートニクス』は、日本の一部世論が過剰反応しているとして、その責任は日本の政府やメディアにあるとでも言いたそうな主張を掲載していますが、この時期、ロシアを侵略する意図の全く見られないポーランドやリトアニアに向けて、最新式の対艦ミサイルを配置した理由はどこにあるでしょう

なぜロシアは択捉・国後にミサイルシステムを配備した?

 

プーチン大統領は24日、テレビ放映されたチリのクイズ番組で「ロシアに国境はない」と答えており、その意図は「ロシアの国民の権利を守る為に、ロシアは世界のどこに於いても軍を派遣する」という意味だと説明されています。ロシア専門家はこれを「『兵士の倒れる地がロシアの国境だ』と言いたいのだろう」と解釈しており、ロシア国民の権利を守るという名目で、相手国の主権を無視した軍事侵略を続ける意図がある事を伺わせます。

 

f:id:HKennedy:20161125162402j:plain

 シリアに対して既に使用され、カリニングラードに配置されたロシアの要塞ミサイル

以下に、BBCの記事を訳します。

Russia's border doesn't end anywhere, Vladimir Putin says - BBC News

-----

「あれは、冗談ですよ」プーチン大統領は、きらびやかな式典での、拍手と笑いの中で言った。

プーチン大統領は、9歳の男の子に「ロシアの国境はどこまで?」と聞いていた。少年が「ベーリング海峡までです」と答えたが、プーチン大統領には別の解答があったようだ。

プーチン大統領は、テレビ中継された「地理を学んでいる学生」への授賞式で、ロシアには、「どこまでが『国境』か、というような境界線はない」とし、「ロシアは、ロシア人がどこに住んでいても、自国民を守る」という誓いを新たにした。

2014年の7月、ロシア軍がウクライナのクリミア半島を侵略した3か月後に、プーチン大統領はロシア大使らに対して彼の教訓を説明している。

「私は、皆に知っておいてほしいと思う。我々の国は、海外における我々の同志、ロシア人の権利を、国際人道法に則った政治的、経済的な方法、また自衛の権利等、ありとあらゆる方法を駆使して、これからも積極的に守り続ける。

NATOをはじめ西側の首脳は、クレムリンが東ウクライナの親ロシア反政府軍に対して、正規のロシア軍隊と兵器を送っていると批判しているが、クレムリンは繰り返しこれを否定し、ロシアの兵団は「非正規(ボランティア)の兵士たち」であると主張している。

ロシアの国境についての発言の直前に、プーチン氏は5歳のティモシー・ツォイ君に「ウァガドゥグはどこの国の首都か?」と聞いている。

ティモシー君は正確に「ブルキナ・ファソです」と答えたが、プーチン氏は更に、これの古い呼び方を聞いた。ティモシー君が答えに窮すると、プーチン氏が「上ヴォルタだ、良い子だ」と助け舟を出した。

かつてソヴィエト連邦は、「ロケットのある上ヴォルタ」と皮肉を込めて呼ばれていた。

これらの少年は二人とも地理に関するクイズ番組で好成績を収めた少年だ。この式典はロシア地理協会によって開催された。

-----

ロシア側の軍事力拡張の基となる、「ロシア人の人権を守る為」という主張ですが、果たしてロシア国民の人権は、海外で蹂躙されているのでしょうか? プーチン大統領は自分に反対するロシア人のジャーナリスト250人以上を殺害しており、ロシアから西側に移住する民主運動家やジャーナリストらが後を絶たないのは、プーチン政権からの弾圧を逃れてではないのでしょうか?

ちょうど10年前の昨日、アレクサンドル・リトヴィネンコ氏が政治亡命先のロンドンで毒物によって殺害されましたが、2016年イギリスの裁判所は、これについて、クレムリンの命を受けた暗殺であったとする判断を下しています。クレムリンの命を受けて直接殺害に加担したとされるディミトリー・コヴトンはロシア連邦警察庁の保護下にあり、もう一人のアンドレイ・ルゴヴォイはロシア連邦議会の議員として訴追免除の特権に預かっています。

 

f:id:HKennedy:20161125161546j:plain

   2006年に亡命先のロンドンで毒殺されたアレクサンダー・リトヴィネンコ氏

Poisoning of Alexander Litvinenko - Wikipedia

Russia: British Police Investigating Litvinenko Poisoning Case

これらの、国内にいるロシア人だけではなく、海外に亡命したロシア人の人権は、誰によって侵害され、誰によって守られているのか、明確に指摘される必要があります。ロシア人の人権を侵害し、蹂躙しているのは、プーチン大統領率いるロシア政府であり、彼らの人権を守っているのは亡命先の西側国家です。

「海外のロシア人の人権を守る為、どこにでも軍事介入する」というクレムリンのプロパガンダは、単なる領土拡の名目であり、容認されるべきものではありません。

常識で考えて、ロシアによる対艦ミサイル配置には、明らかな領土拡張と軍事的脅威による交渉力の強化が目的としてあります。

西側はこれについて「理解」を示したり、脅しに屈して制裁解除などをするべきではなく、毅然とした更なる対抗処置が為されるべきです。