ロシアによるハッキングと、レックス・ティラーソン(エクソン会長)国務長官登用への懸念

2012年の大統領討論に於いて、当時二期目の当選を狙うオバマ大統領は、共和党からの対候補者であるミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の「ロシアはアメリカの安全保障に対する一番の脅威である」と主張した事に対し、「80年代の政策だ」とあざ嗤った。

 
当時の共和党は、オバマ大統領がロシアからの脅威を理解していない事を危惧していた。その後の4年間は、2012年のシリア、アサド政権による自国民への化学兵器使用問題に於いて、ロシアに中東問題への発言権を許した事をキッカケに、2014年にはロシアがクリミアに侵略し、現在も不法併合が続いたままである。
 
ミット・ロムニー元知事に限らず、ジョン・マケイン議員などの共和党議員は、オバマ大統領の外交認識の無さ、現実認識の無さを批判していた。オバマ大統領は間違っていたのだ
 
ところが、2015年には共和党からドナルド・トランプ氏が立候補した。自身がロシアとのビジネス利権を抱えるトランプ氏は、クレムリンとの関係を色濃く持つ外交アドバイザーや軍事アドバイザーらに囲まれ、数百人のジャーナリストや自身に批判的な弁護士、民主運動家らを殺害、投獄してきたプーチン大統領の指導力を公けに称賛してみせた。
 
今日CIAによって、2016年の大統領選挙に於いて、民主党、共和党両党のシステムに、ロシア政府の意向によるハッキングがあったと結論付けられた。これは、ウィキリークスを通して民主党に不利な情報を流出し、トランプ氏当選に向けた情報操作をする目的であったようだ。

http://www.nytimes.com/2016/12/09/us/obama-russia-election-hack.html?_r=0

 
いくら共和党からの候補者の支援に働いているからと言って、マルコ・ルビオ上院議員などはウィキリークスの情報流出を警戒し、それに関心を払うことによってロシアのハッキングを報いないように呼び掛けていた。
 
私はウィキリークスからの流出によって公的知識となった事案について議論はしません。我々の諜報組織(CIA)が報告したように、これらの情報流出は、外国政府による我々の選挙への介入の努力の賜物であり、私はここから益を得たくはありません。更に、これらの情報流出を政治活用したがる他の共和党員に対して警告しますが、今日は民主党がターゲットでも、明日には共和党がターゲットとなるかもしれないのです。
 
それが愛国心と良識のある共和党議員というものだろう。
 
実際に、ロシアがハッキングを行なったのは民主党に対してだけではない。以前から言われていたが、共和党に対してもである。ロシアは、現在は共和党がらみの情報を保留しているが、クレムリンに対して厳しい姿勢で臨もうとする議員らへの妨害や、親露政策への工作の一環として、使用される可能性もある。
 
ビル・クリントンのアドバイザーの一人であったポール・べガーラは認める。「オバマ大統領は間違っていた。私はそれに賛同したが、私も間違っていた。ロムニーが正しかった。」
 
民主党次期上院議長のチャック・シュマーは、超党派によるロシア・ハッキングの捜査をCIAとの協力の下に勧めるべきだと提案している。

Schumer demands congressional inquiry on Russian meddling - POLITICO

 
これはもはや、民主党対共和党ではない。ロシアとの諜報戦に詳しいジョン・シンドラー氏の言う通り、「どんなに骨の髄までヒラリーが嫌いであっても、彼女への妨害になるからと言って、11月8日のアメリカの大統領選挙に外国政府のスパイ介入を容認するなら、自分を愛国者などと呼ぶべきではない。」
 
ところがトランプ次期大統領は、ロシアによるハッキングがあったとするCIAの報告を認めようとしていない。300万の不法投票があったと何の証拠もないのに主張する一方、CIAによる捜査報告は否定している。
 
それだけではなくトランプ陣営は、次期国務長官にエクソン会長のレックス・ティラーソンが最有力候補であるとしている。レックス・ティラーソンと言えば、経営するエクソン・オイルを通し、ロシア・オイルとの間に多大な取引を持つ、プーチン露大統領から直々に非ロシア人として最高の友好メダルを受けた親露派のビジネスマンである。

 

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              レックス・ティラーソン(左端)とプーチン露大統領
 
「なぜティラーソンが国務長官として相応しいと思われるのか」という質問に対し、トランプ氏は「ティラーソンはロシアとの間に多くのビジネスを持ち、交渉人だから」と臆面もなく答えている。ティラーソン自身、2014年以来のロシアに対する経済制裁に反対を表明してきた。エクソンとロシア政府間の取引は、約55兆円の取引だと言われているが、エクソンの利益を視野に国務長官を選べば、明らかな利益の衝突となる。
 
クリミア不法占領に伴い、ロシアには西側に経済制裁が掛けられているが、プーチン大統領は自国経済を救う為に、何としてもこの経済制裁解除にこぎつけたいところだろう。ロシアとの取引を行ないたいトランプ氏も、制裁解除を視野に入れていると発言している。
 
レックス・ティラーソン器用について、共和党のリンゼイ・グラハム議員は、「クレムリンからの勲章を受け取るような人物に対しては、多くの議論があるだろう」と答えている。またロシアに詳しいワシントン・ポスト紙のジャーナリスト、アンナ・アップルバウム記者は「これは億万長者の、億万長者による、億万長者の為の政治」だと呼んでいる。ロシアのシンク・タンクで活躍するディミトリー・トレニンでさえ「ティラーソンを国務長官に任命する事は、冷戦以来のアメリカ外交政策の偉大な不継続を意味する」と解釈をしている。
 
当然だろう。
 
リンゼイ・グラハム上院議員だけではなく、勿論、ジョン・マケイン上院議員もティラーソン登用には猛烈に反対すると思われる。マケイン議員は、「ティラーソン氏とプーチン氏がどのような関係を持っているかは知らないが、懸念している」と記者団に応えている。マケイン議員のスタッフ責任者として長年勤めたマーク・ソルター氏は「ティラーソン登用は、オイルとヴラジミール・プーチンの為の、NATO売り渡しだ。議会は公聴会での説明を求め、上院はこれを否決するべきだ」と述べた。
         リンゼイ・グラハム上院議員とジョン・マケイン上院議員
 
上院では、共和党議席は民主党議席より3議席多いだけだ。この3議席のうちの2人の共和党議員が反対票を投じれば、議会の承認は得られなくなる。
 
プーチン大統領率いるロシアは、シリアに於いて、アメリカの支援する反アサド組織と市民への空爆を続けてきた。プーチン大統領が政権をとって以来の人権侵害は甚だしいものがある。
 
数日前、アメリカ上院は「グローバル・マグニツキー法」を可決した。これはロシア政府の腐敗を暴き、2009年に逮捕され、モスクワの牢獄で獄死したロシア人、セルゲイ・マグニツキー弁護士(享年37歳)を記念して、外国政府による民主化活動家や人権活動家らに対する人権侵害を罰する為に、マケイン議員らによって提案された。人権侵害を行なっていると認められる外国政府為政者や責任者に対して、アメリカへのビザ発給を拒否したり、アメリカ内の資産凍結をする権限を大統領に与えるものだ。またNGOの人権調査を大統領が使用する権限も与える。国会議員や政府役人に、制裁の対象となる人物を提案する権限も与える。 

Magnitsky Act - Wikipedia

Freedom House Applauds Passage of “Global Magnitsky” Act | Freedom House

 
下院議会は、選挙直後に、アサド政権を支援する外国政府への制裁を可能とする法案を可決した。
 
トランプ次期大統領の暴走を止められるのは、議会かもしれない。

「トランプ氏の言葉を、文字通り受け取らず真剣に受け取れ」というナンセンス

トランプ氏の選挙中の公約から始まって現在に至るまで、トランプ氏ほど、「既成の政治家とは違い、分かり易い言葉で、そのままをハッキリ語ってくれる」と評価を受けながら、実際には彼の真意が全くの不明である次期大統領もいない。メディアや批判者らは、彼の言葉を文脈と共に報道しても、トランプ氏自身や陣営からの発言の撤回、弁明、メディア批判が起こる。「トランプ氏の語った内容を歪曲して伝えている」という主張だが、ビデオ・インタビューをそのまま流したり、文字起こししたものにでさえ、「偏見に満ちたメディアが歪曲して報道している」と非難されてきた。トランプ氏の乱発するツイートでさえ、真意は理解されていないらしい。

「反対者はトランプ氏の言葉を正しく理解していない」という糾弾もあれば、「どう考えても他に意味はない」と思える公約を批判すれば、「選挙公約を文字通り受け取る方が間違っている」という批判もされる。

「選挙公約を文字通り受け取る側が間違っている」とは、トランプ氏の掲げた政策を批判する反対者に対して、支持者が主張する論理だが、実際には殆ど影響力も無いどこかの町長や市長ならともかく、トランプ氏はアメリカの二大政党からの大統領候補者であったのだし、今では次期大統領である。トランプ氏には、大統領としてその地位に相応しい期待がされるべきだし、彼にはそれに応える義務がある。そう考えれば、私はトランプ氏に対して、その立場に相応しい期待をかけ、その期待の基準に従って彼の公約や言動を批判してきたと言える。彼を支持しながらも、彼が「ヒラリーではない」こと以外には関心を寄せず、彼の公約や言動を気にも留めなかった支持者に比べれば、よほど私の方が、トランプ氏を真剣に受け捉えてきた筈だ。

世界最大を誇る米軍最高司令官である大統領の言葉が軽くなることを、支持者は容認するべきではない。

これについて、保守派メディアであるナショナル・レビュー誌の記者であり、「Liberal Fascism」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏が書かれているので、以下にご紹介する。

Can we really take Trump seriously, not literally? - Baltimore Sun

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完全なクリック・ベイトの広告のようだ。「ドナルド・トランプについて心配をせず、アメリカを再び偉大な国とする簡単なトリックを学ぼう」

どんなトリックだろう? トランプ氏を真剣に受け取りつつ、文字通り受け取らないだけだそうだ。この方式はサリナ・ジトー記者がアトランティック誌の9月号の中で考え出したもののようだ。彼によれば、メディアはトランプ氏の奇異な宣言を文字通り受け取りつつ、彼を真剣には受け取ってこなかったようだ。ところが支持者は全く逆を行なっていた。

この方式は、トランプ次期大統領のチームも、トランプ発言解読方法として取り入れているようだ。

「これがメディアの問題だ」トランプの一人目のマネージャーであったコーリー・ルワンドウスキーが、トランプの当選後、ハーバード大学での会議で語った。「あなた方は、ドナルド・トランプの言ったことを文字通り受け取ったが、一般のアメリカ人は、文字通りは受け取らなかった。」

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10月、全国記者クラブに於いて、トランプ擁護者であるピーター・シエルも同じことを語った。「メディアはいつもトランプ氏の言葉を文字通り受け取っている。その代り、彼を真剣に受け取る事はしない。トランプに投票する多くの有権者は、トランプ氏を真剣に受け取るが、文字通り受け取りはしないと思う。」

トランプ氏自身、このヒューリスティックが気に入ったと匂わせた事がある。先週、彼は「キャリアーの国外移転はさせない」と4月に語った発言について、文字通りの意味ではないと説明している。

「私が言ったのはこうです。『キャリアーが国外移転することは無い』」彼は認めた。「私は婉曲表現を使っていたんです。私が語っていたのは、これから先に出てくる他の全ての企業の一つとして、キャリアーについて語っていただけです。」

いくつかのトランプ発言の弁護をしよう。この区別は、そう悪くはない。メディアによる告発を考えれば、かなり良い比較だろう。メディアはトランプ氏を一つの冗談として扱った。多くの有権者にとって、メディアからの批判は名誉の称号である事実を、考慮していなかったのだろう。

勿論、トランプ氏だけが「その言葉を文字通り受け取ってはいけない」ステータスを享受している訳では無い。ジョー・バイデン副大統領は、この何年間に渡って、余りにも馬鹿げたとしか言いようのない発言をいくつかしてきた。彼はFDR(ルーズベルト大統領)が、1929年の株の大暴落を受けてテレビ出演したと語った。その当時、ルーズベルトは大統領ではなく、テレビも存在していなかったのにである。誰も、バイデン副大統領の語る言葉を文字通り受け取る事はしなかった。彼が、「自分の言葉を文字通り受け取ってほしい」と、文字通り頼んだ時も、誰も文字通り受け取る事はしなかった。彼は学生の群れに向かって「あなた方は東アフリカの要石(かなめいし)だ。比喩ではなく、文字通り、あなた方は要石なのだ。」2010年には、バイデン氏は「我々がホワイトハウスに就任するまで、ベーナー氏の党(共和党)によって、経済は文字通り、地に落ちてしまった。」

バイデン氏の言葉を文字通り受け取らないアプローチは、二つの理由によって安全だ。彼はワシントンの指導者として知られた存在であり、多かれ少なかれ、世間も彼から何を期待できるか知っている。また副大統領として、彼が為し得る損害は、限られている。(言葉を換えれば、彼の言う事を真剣に受け取る必要が無いのだ。)

トランプ氏は違う。自身も認める通り、彼は政治の世界ではアウトサイダーであり、政治のエリートたちは「馬鹿」か「邪悪」しかいないと主張する錯乱分子である。また彼は国内外の政策についての経験が皆無だ。彼の言う事、また言い方は、彼には公務に就いた経験が無いからこそ、文脈と共に解釈される重要性を持つのだ。

この『真剣には受け取るが、文字通りには受け取らない』は、当時候補者であったトランプ氏と支持者とのコミュニケーションの方法への優れた分析的才知だ。しかしながら、実際のアメリカ大統領、或いは次期大統領に対する為の処方箋としては、かなりくだらないナンセンスだ。

トランプ氏が「何百万人の人々が不法投票をした」と言う時、メディアはこうした弁解の余地が無い主張を報道するべきだろう。「真剣に受け止めながら、文字通りではなく」とは、どういう事だろう。報道関係者は、「何百万人ではなく、何人か、不法に投票をした人がいる」という憶測を報道するべきだろうか。それとも、「何百万人が投票をしたが、そのすべてが違法ではない」という憶測だろうか。

トランプ氏が台湾の総督と電話会談をした、と語った時、中国は、外交上の慣例が大きく破られた事に関して、「真剣に、しかしながら文字通りではなく」受け止めるべきだろうか? しかし、一体それは何を意味するのだろう。

恐らく我々は、この『真剣に受け止めるべきか、文字通り受け止めるべきか』の区別を、文字通り受け止める必要はない。恐らくトランプ支持者が意味するところは、トランプ氏の発言が問題を生じさせた時には、トランプ氏がいつでも許されるフリーパスを求めているだけだ。

かつてトランプ氏は言ったことがある。「私は言葉を知っている。最高の言葉だ。」また彼は、アブラハム・リンカーンには劣るかもしれないが、その他の誰よりも、大統領らしく振る舞えるとも語った。彼は自分自身の言葉によって「文字通りでなければ真剣に」アドバイスされるべきだ。

大統領の語る言葉は影響力がある。また国民、同盟国、敵国や市場からの信頼には限りがある。発する言葉の責任を取るつもりが無いと受け取られれば、信頼を失うのは容易い。

 

真珠湾から75年、戦後自由主義社会と世界秩序の擁護者となる安倍・日本

以前、マイケル・オースリン氏の書かれた安倍首相に関する記事をご紹介した事がある。

オースリン氏は、元イェール大学助教授であり、現在は保守派シンクタンクである「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」の常勤研究員、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、フォーブス誌、ナショナル・レビュー誌にも記事を掲載される歴史学者、政策アナリスト、アジア専門家である。

彼による日本の安倍首相への評価は、近年の日本の政治家に対する海外からの評価と比較して、突出した高さだ。

 

私は日本の政治家にとっての最優先課題は、日本と地域の安全保障をどう守るかだと考える。この最優先課題に対する安倍首相の取り組み姿勢は、戦後の自由主義社会の秩序を遵守しようとする安倍首相のソフトな語り口とは違い、一貫した決意が伺える。まさに故セオドア・ルーズベルト大統領の名言とされる「大きな棍棒を持ち、穏やかに語れ」をそのまま地で行かれているようだ。

実際、敵対国に囲まれる中で、自国の安全保障を守る為には、棍棒(軍事力)と共に、穏やかな言葉が必要である。そうでなければ、大胆な政策は実現し得ないだろう。

 

以下にオースリン氏の書かれた、「75 Years After Pearl Harbor, Japan is a Key Defenderof Global Stability (真珠湾から75年後、日本は世界安定へのカギとなる擁護者だ)」をご紹介する。

 

75 Years after Pearl Harbor, Japan Is a Key Defender of Global Stability | The National Interest

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75年前の今日、日本はアジアの西側列強に対し奇襲攻撃を行ない、日本帝国軍による恐ろしい戦争犯罪が目撃され、4年後の広島と長崎へ投下された原子爆弾によってクライマックスを迎える太平洋に於ける全面戦争へと発展していった。

 

アメリカにとっては12月7日早朝の『真珠湾攻撃』と知られているが、日本軍の戦略の主な狙いは、東南アジアに駐屯するヨーロッパとアメリカの守備隊を圧し、日本の国力を締め付ける恐れのある、原油やその他の原材料に対する禁輸政策を撤廃させることにあった。同日、香港、マレー、フィリピン、シンガポールやタイは全て海と空から包囲され、その他の東南アジア地域は一月までに攻撃され、アジアにおける力のバランスを崩壊させ、日本による地域秩序を作る大胆な賭けに巻き込まれた。

 

今週、「汚名の日」のページを閉じる為に、日本の安倍首相がオバマ大統領と共に12月末に真珠湾を訪問すると発表された。また11月の末には、日本の稲田朋美防衛大臣が、日本とアセアン各国の防衛大臣らとの2回目の非公式会談に於いて、ASEANの防衛イニシアティブである「ヴィエンチャン・ヴィジョン」を発足させた。海からの安全保障への軍事的協力を狙い、アジアにおける国際法による支配を促進させるために、日本の安倍首相は、日本を第二次世界大戦後の国際システムの防波堤にしようとしているのだ。1941年の日本国の役割とは全く逆である。

 

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1945年の、全てが灰塵とされた敗北と世界的な屈辱から、日本の戦後の歴史は、アメリカと戦勝国によって建てられた自由主義国際秩序に貢献し、そこから利益を得てきた国の円弧に従っている。徹底した戦争中の役人追放や寡頭政治で活躍した企業の解体は、1950年の朝鮮戦争の勃発と共に停止したが、1945年から1952年まで、日本は占領された国家として、占領国に似せて部分的に作り変えられた。実際、国際的なのけ者となった従属国から、瞬く間に日本は、地球を取り巻くアメリカの政治・軍事プレゼンスにとって代え難い要因となったのだ。

 

日本の特異性は、アメリカによる占領から後の10年の間、1946年にアメリカによって書かれた憲法9条に象徴されるような、戦争放棄を謳う、軍事力のほぼ完全に近い放棄から始まった。軍事力放棄の代わり、当時の吉田茂主張と彼の後継者らは、日本の防衛をワシントンに頼る事に同意し、産業の回復と日本市場の保護に集中した。

 

広島から20年と経っていない1964年には、トーキョーは夏のオリンピックを開催し、戦後の成功物語、また世界で最も早い経済成長を以て、喝采をうけた。実際、日本は何十年もの間、世界第二位の経済力を誇り、消費者に受け入れられるデザインの改革や、個人的な家電などの人々がちょうど欲しがっていた商品の開発など、全てを再定義したのだ。日本の一般的生活環境は世界で最も高い割合にあり、日本の美は、車に始まってインテリア・デザインに至るまで全てに影響を与えた。

 

しかし日本は、その経済力に見合う、大国としての政治的影響力や軍事力を発達させてこなかった。憲法による規制によって、平和主義社会を喜び、経済政策に対する足枷となる重い国際社会での責務を厭いながら、日本は世界で起こっている事に対して、琥珀の中で固まってしまっているかに見えた。

 

日本の経済成長が1990年代初期に停止した時に、国際の場での日本の影響力の多くも無くなってしまった。全くと言っていいほど同時に、中国が日本にとって代わり大国となり、約束通り、アメリカに対する主な競争相手となった。

 

今日、日本の経済力と軍事力は、中国によって影が薄い中で、安倍首相は、かつて多くの人々が理想であると考えた、日本をアジアの政治指導者とするための戦いに日本を近づけていこうと、大胆にも立ち上がっている。

 

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まず安倍は、海外における軍事活動に対する規制を廃止し、軍事予算を増加し、ワシントンとの同盟を強化している。更に大胆な事に、彼はインドとの絆を深め、南シナ海における日本のプレゼンスを増やし、ASEAN各国との防衛協力のイニシアティブを明らかにし、防衛の為の武器を東南アジアの国々に提供しようとしている。

 

こうした安倍の行動に、国内外の反発が無い訳ではない。特に中国は、この動きが地域における北京の覇権を脅かすものである事を理解している。しかし安倍は、彼の行動は「日本が恐らく他のどの国よりも恩恵に預かり、今日ではロシアやISIS、イラン、北朝鮮と中国からの挑戦に困難を覚える戦後の自由主義国際秩序を強化する為の行動である」と、確固たる主張をしてきた。

 

そうする中で、また彼より前の政治家よりも更に踏み込んだ大戦への謝罪をすることによって、安倍は日本を世界の安定の擁護者と位置付けているのだ。これは、75年前の日本が行なった破壊的な役割とは、全く異なっている。

 

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真珠湾攻撃から75年目の今日、大戦によって命を落とした全ての人々とそのご遺族に対する祈りと共に、アジア専門家であるオースリン氏が、世界の秩序安定に向けた安倍・日本の軍事役割強化を歓迎する記事を書かれた意義に、想いを馳せたい。

 

保守派は「偽情報」で騙すな、「偽情報」に騙されるな。

先月始めの11月2日、ヒラリー・クリントン元国務長官が、ワシントンDCのピザ・レストランにおいて「マネー・ローンダリング」から始まり「子供相手の性犯罪」に関与している、というニュースが流れた。これは意図的に捏造された偽ニュースであり、社会的責任の伴うメディアは、ヒラリーに反対するメディアも、報道していない。(詳細は、以下に添付したビジネス・インサイダー記事に記されてある。)

 
この偽ニュースは、FBIのコミィ長官が捜査を再開した中に発見されたヒラリー・クリントン陣営の責任者のemailに、一風変わった芸術家の親族のパーティーへ出席する旨が書かれていた事に発し、そのパーティー開催者の芸術を『カルト』と呼び、そこから発してヒラリー・クリントンとそのカルトを関連付けたものだ。一風変わった前衛芸術に邪推と憶測を絡め、ヒラリー・クリントンを貶める目的で、インターネット上のニュースとして流されたものだ。
 
この偽ニュースに煽動された形で、該当するピザ・レストランに銃を持った男性が押し入り、銃を数発乱射する事件が日曜日起きている。この発砲事件について、トランプ氏の安全保障政策アドヴァイザーであるマイケル・フリン元中将の息子が「ピザゲートが偽だと証明されるまで、これはニュースとして扱われる。左派はemailと多くの『偶然』がこれに関連している事を忘れているようだ」とツイートをした。CNNのジャーナリスト、ジェイク・タッパー氏は、「この『ピザゲート』が正しいとする証拠の一つでもあるなら、教えて欲しい」と彼にメッセージを送ったようだ。要は、社会的責任のある人物が、無責任な陰謀説をそのまま流すことに警告を発したかったのだろう
 
マイケル・フリン・ジュニアは、「このニュースが嘘である事は、自分も願っている」と答えつつも、このピザ・レストランと「カルト儀式」の関わりを否定していない。
 
ジェイク・タッパー氏は、「これは、悪魔的な児童愛のカルトの場所ではない。ただのピザ屋だ。悪魔的な児童愛カルトだと証明するものを見せて欲しい。あなたのツイートはかなり無責任だ。よく聞いてほしい。あなたのツイート(を信じる犯罪者)によって、誰かが殺されるかもしれない。無実な子供かもしれない。いったい何の為に?」と非難している。

 

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                    CNNのジェイク・タッパー氏
 
フリン・ジュニアの父親のマイケル・フリン元中将は、ドナルド・トランプの安全保障アドバイザーに抜擢されたが、息子ともども政権移行チームのメンバーでもある。ヒラリー・クリントンを児童愛のカルトと関連付けるこの偽ニュースは、フリン元中将自身も選挙前に流布している。
 
ヒラリー陣営が悪魔礼拝や子供を対象としたセックス組織に関わっているという、この荒唐無稽な偽ニュースに飛びついたのは、マイケル・フリンの息子だけではない。極右サイトの『インフォウォーズ』では、トークラジオ番組ホストのアレックス・ジョーンズが、ヒラリー・クリントンが児童を扱ったセックス組織に関係しており、彼女のキャンペーン責任者のジョン・ポデスタは悪魔礼拝者であると繰り返し示唆していた。

Pizzagate: From rumor, to hashtag, to gunfire in D.C. - The Washington Post

 

11月4日にジョーンズが掲載したユーチューブ・ビデオでは、彼は「ヒラリー・クリントンが自身で殺害し、首をはね、強姦した全ての子供たちの事を考えると、彼女に反対して立ち上がることなど怖くない。その通り、よく聞いてくれ。ヒラリー・クリントンは、自分の手で、子供たちを殺害したんだ。私は、これ以上真実を抑え込むことは出来ない。」と語っている。

アレックス・ジョーンズと言えば、911はアメリカ政府による自作自演のテロだと主張するアメリカで最も有名な『陰謀説論者』であり、『インフォウォーズ』は彼の運営する陰謀説メディアだが、ドナルド・トランプ氏は彼を気に入り、ジョーンズの素晴らしい働きを称え、大統領当選後には彼に感謝をする電話をしている。因みに「Infowar」と言えば、「トランプ大統領当選に反対するデモは、ジョージ・ソロスの支援する団体がバスを借り切って運動を起こしたものだ...」という陰謀説を流している。

Alex Jones says Trump called to thank him - POLITICO

 
社会的な責任ある立場の人物は、陰謀説や真偽のハッキリしない情報を軽々しく流布するべきではない。たとえ政敵を貶める目的があったとしてもだ。ヒラリー・クリントンを貶める為ならば、どんな嘘でも流布する一部保守派がいるが、彼らに倫理や真実を語る資格はない。
 
私は、『メディアの偏向』を訴える人々に限って、偽ニュースや陰謀説を信じる傾向があると考える。勿論、彼らの多くは『偽ニュース』や『陰謀説』と知った上で、情報を流している訳ではない。これらの偽ニュースを信じる人々の多くは、社会によって自分が正しく評価されていないと感じる層に多く、自らの不遇を、漠然とした巨大な力に見出す屈折した傾向がある。アレックス・ジョーンズは、繰り返し既成のメディアが信用ならないと主張し、主要メディアに対する不信感を視聴者に植え付け、自分の流す陰謀説こそ隠された真実だと自負している。
 
しかしながら、既成メディアを「嘘つき」と呼び、CNNを『クリントン・ニュース・ネットワーク』と揶揄すれば、それですべての白黒、善悪の判断がつくかのように単純な吹聴をする人々は、タッパー氏とフリン元中将、またアレックス・ジョーンズ氏のいずれが情報に対して誠実か、深く考えた事が無いのかもしれない。
 
但し、自らの政治目的を達成するために、こうした偽ニュースや陰謀説を流布する人々もいる。恐らく、社会的立場がありながらこういった偽情報を流す人々は、政治的な動機の為に、これらを嘘と知っているか、或いは嘘であっても構わないと考えているのだろう。概してこのような人々は、自らの流す偽情報を別の政治勢力への『是正』と考えているので、無責任な情報を流す事への罪悪感はない。
 
偽ニュースの齎した実際の害について、アメリカでの一例を上げたが、日本の保守派も勿論こうした情報操作と無縁ではない。
 
最近では、韓国企業が人肉を食材に加工したという偽ニュースが流れた。勿論、こういった偽ニュースを喜んで流す人々の多くは、嫌韓感情に煽動されている場合が多い。真偽のハッキリとしないニュースでも構わず、政治目的を達成したいのだろう。日本の一部保守派には、911のテロがアメリカによる自作自演だとする陰謀説が流れているが、真珠湾攻撃の記念日や安倍首相のハワイ訪問が近付けば、ルーズベルトは事前に真珠湾攻撃を知っていたとする陰謀説が盛んに取り沙汰されるだろう。
 
トランプ氏の当選を以て、何故かその勝因を「白人中年男性の死亡率」と関連付ける主張もある。保守派として著名な方々でさえ、こういった偽情報を流している様子を見ると、よほど情報が偏っているとしか思えない。例え英語を訳すことが出来ても、彼らがアメリカのメディア事情に熟知しているとは考えられず、どのメディアが信頼がおけるか、どのジャーナリストが保守派であるか、見当もついていないようだ。
 
勿論、全ての非の責任が彼らの肩にある訳ではないが、それでいて何故か、「主要メディアに騙される」という被害者意識だけはハッキリとあるようで、信頼できる情報を退け、偽ニュースに飛びつく傾向がある。偽ニュースと知らずに流している場合は、情報検証の能力が無い事を意味する。もし、これらの偽ニュースを『偽』と知りつつ流しているとすれば、彼らには政治的悪意があるとしか考えられない。いずれにせよ、彼らが日米主要メディア報道の偏向を批判する立場にはないのだ。
 
勿論、主要メディアに偏向が全く無い訳ではない。しかしながら偏向を訴える側の提供する情報が偽ニュースや陰謀説では、説得力が無いばかりか、論じる側の知性が疑われる。自分でこれらの海外情報を検証する能力を持たないならば、日本の一流紙の海外ニュース欄や、和訳されている米紙(誌)から学ぶべきだ。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな偽ニュースや陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。
 
アメリカのフェイスブックは、意図的な偽ニュースを流す試みを禁じる動きに出ている。これについてナショナル・レビュー記者であり「リベラル・ファシズム」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏は、以下のように書く。

Fake News Folly | National Review

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               ナショナル・レビュー誌のジョナ・ゴールドバーグ

「私は偽ニュースについての議論は意図的に避けようとしてきた。あまりにも色々な事が言えるからだ。しかし今朝、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が、「FDR(ルーズベルト)は、真珠湾攻撃を事前に知りつつ、何の対処も取らなかった」という、決して消滅しない陰謀説を報道したのを聞いた。ホストはこれを75年前の「偽ニュース的なもの」とした。彼の解説はおおよそ正しいのだが、チャールズ・ビアードの名前を出し、彼がこれに対して果たした役割について述べたら、もっと良かっただろう。これは、ピザゲートという狂人を『偽ニュース』と呼ぶメディアの容赦ない報道のかかとに引っかかっていた。
 
私の理解では、『ピザゲート』は明らかな『偽ニュース』である。海外ウエブサイトが、意図的に、情報を作り上げていると知りつつ、ソーシャルメディアに掲載され、添付先のリンクをクリックさせる事で利益を得るニュースである。正確に言えば、『陰謀説』は『偽ニュース』とは異なる。『陰謀説』は、『陰謀があったとする説』であるのだ。多くの主要メディア(その殆どはリベラル・メディアである)は意図的に、或いは知らずしてか、この違いをごちゃ混ぜにしてきた。偽を批判するならば、定義を曖昧にする行為は皮肉でしかない。
 
保守派の側も同様に、この定義をごちゃ混ぜにしてきた事は事実である。
 
しかし、主要メディアが流す『不正確なニュース』は、意図的に偽情報を作り上げ、クリックさせる為の『偽ニュースサイト』とは全く異なる。ダン・ラザー*に対して厳しい批判があったが、彼の『犯罪』は、野心や私心、集団的思考によって、適切な洞察力やジャーナリストとして必要な懐疑心を放棄してしまった点にある。ガザの橋を想像した*VOXニュースのあの記者も、意図的にあのような失態を演じた筈はない。(*ダン・ラザーは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のヴェトナム参戦時代について、虚偽文書を用いて『60ミニッツ』で批判した。)

Killian documents controversy - Wikipedia

 (*VOXの記者によって、イスラエル政府はガザとヨルダン西岸を結ぶ橋の通行を妨害していると報道されたが、橋そのものが存在していない。)

http://thefederalist.com/2014/07/17/voxs-motto-should-be-explaining-the-news-incorrectly-repeatedly/

 

もし嘘と知りつつ、それを事実として報道すれば、法的処置を課せられることはそれ程狂った考えではない。もし『ナショナル・レビュー』が、児童愛好者らの集まりであると偽ニュースのサイトによって報道されれば、彼らを法的に訴えたいところだ。しかしながら、もし中傷する目的で偽ニュースをねつ造する組織が法的に守られるとしても、フェイスブックのような一企業が、利用者を意図的に騙そうとする詐欺師たちの能力を限定する事には何の問題も無い筈だ。
 
いずれにせよ保守派は、相反する意見を抹殺する為に偽ニュースを利用しようとする如何なる試みに対しても、反対をするべきだ。保守派が、偽ニュースを流して利益を受けるプロの詐欺師たちを弁護するべき理由はない。」

 

リベラル極論とナショナリズム極論の狭間で

以前も書いたが、私は、日本軍による『南京30万人大虐殺』や『南京40万人大虐殺』などは、荒唐無稽なプロパガンダであると考える。
 
ところがこの『30万人説』や『40万人説』に対する反発として、これらを否定する為に、『虐殺は起こらなかった説』や『(虐殺の)犠牲者は限りなくゼロに近かった説』、『マイナス30万人説』や『日本人こそ被害者説』等の別の極論が生まれている。
 
 
同様に、「20万人、或いは40万人の『性奴隷』が『天皇からの贈り物』として日本軍によって強制連行され、肢体切除や終戦の際には皆殺しされた」などの慰安婦に関するプロパガンダも、感情的な反発を招いてきた。
 
高齢の元慰安婦の女性達を指して「売春婦」「嘘つき婆」などと罵るにとどまらず、中にはあからさまな韓国人への差別感情を生じさせたり、「韓国との国交断絶」すら叫ぶ人々もいる。
 
しかし、あまりにも荒唐無稽なプロパガンダに反発する形で生まれたこのような「極論」は、他者からの共感を得ないだけではなく、元々のプロパガンダに対する正当性すら与えてしまうものだ。
 
勿論、こういった傾向は、日本人に限った事ではない。
 
ヨーロッパに於いても、「イスラム教と過激イスラム教テロとの関わりは、一切無い、」というような極論や、ドイツのメルケル首相の打ち出した大量のシリア難民受け入れ政策は、EU加盟国の国民の反発を買い、これらの国々のナショナリズムの台頭に繋がっている。Brexitと呼ばれるイギリスによるEU離脱や、フランス国民戦前党の躍進は、極端なリベラル政策の影響とは無関係ではない。
 
アメリカの大統領選挙に於いても、同じことが言える。
 
オバマ大統領の大統領として残した遺業は、オバマケアだけではない。オバマ大統領という極端なリベラル政治家によって台頭した白人ナショナリズムは、ドナルド・トランプ氏への支持に繋がった。オバマ大統領による現実を無視した綺麗ごとのスローガン政治は、トランプ氏が口にするような、普通なら口にできない下品で眉を顰める類の非文化的な言論こそ、「正直さ」として評価される風潮を生んでしまった。ところが、オバマ大統領の掲げた外交政策、軍事政策が、失敗に終わったように、トランプ氏の掲げる政策の殆どは、トランプ氏の主張する「偉大な国」から遥か遠くにアメリカを押しやるだろう。
 
一つの極論が反発を招き、別の極論を生じさせることは、世界中で多々見られる傾向ではあるが、それでもこうして生まれた反発的「極論」は、元々の極論に対する答えとは決してなり得ず、更に別の問題を作り出すだけである。
 
一つ、例をあげよう。先日、アメリカのTV番組の一つであるデイリー・ショウに、白人ナショナリストから支持を受けるテレビ・ホストのトミ・ローレンが出演した。彼女はホスト役のトレイヴァー・ノア相手に、『ブラック・ライブズ・マター』グループに対する反発や批判を、堂々と述べていた。
 
『ブラック・ライブズ・マター』グループは、元々警察による黒人への扱いに不当性があると主張し、大きな反警察運動となり、何人かの白人警察官を殺害するまでに至っている。警察による不当な権力行使を訴える為に立ち上がったグループでありながら、いつの間にか白人一般に対しての憎しみを主張し始め、中には「白人であれば、誰であっても殺されて当然」と言わんばかりのスローガンを掲げるメンバーもいる。

Trevor Noah didn't "destroy" Tomi Lahren on The Daily Show. What he did was much better. - Vox

 
このグループの主張は確かに極論であり、実際に警察官に対する政治メッセージを持った殺害が何件もおこなわれている点から考えて、国内のテログループと言われても仕方がない。トミ・ローレンは決して知的なテレビ司会者とは言えないが、それでも彼女のブラック・ライブズ・マターに対する反感には共感できる。
 
ところが番組ホストのトレイヴァー・ノアは、ブラック・ライブズ・マターに対する、異なった意識を持っている。彼の意見はどちらかと言えばブラック・ライブズ・マターに対して同情的であり、この組織の元々の意義を認めようとしている。これに反感を覚えたローレンは、KKKを引き合いに出し、ブラック・ライブズ・マターの方が悪質だ、という意味で、「KKKが一体何をしたの?」と聞き返した。

 

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    デイリーショウに出演するトミ・ローレン(左)とホスト役のトレイヴァー・ノア(右)
 
ノアは「今、KKKが何をしたの?って聞いた?」と自分の耳が信じられない様子で聞き返し、「ブラック・ライブズ・マターは、とにかくKKKとは違う」と、物わかりの悪い子供に対してルールを説明するように答えた。
 
KKKとブラック・ライブズ・マターが違う事は両者が同意している。問題は、両者とも自分の支持するグループの方がマシだと強く信じている点だろう。
 
当然ながら、ブラック・ライブズ・マターの運動を批判し、その暴力性を否定する為にKKKを引き合いに出すことは間違っている。またブラック・ライブズ・マターを引き合いに出してKKKや白人至上主義の台頭の正当性を訴える事は許されない。トミ・ローレンの議論は、この時点で決定的な過ちを犯している。
 
勿論、KKKとは違うからと言って、実際に警察に対する犯罪行為を犯し、白人に対する憎しみを煽動しているブラック・ライブズ・マターの正当性を訴える事は許されない。ここにトレイヴァー・ノアの論理の誤りがある。
 
殆どの良心的な人々は、ブラック・ライブズ・マターによる警察への暴力に反感と怒りを抱きながらも、KKKや白人至上主義に陥ることなく平和的な共存や解決を望んでいるからだ。KKKかブラック・ライブズ・マターかではない。その両方共が極論であり、間違っているのだ。
 
極端なリベラル政治は偏狭なナショナリズムを生む。偏狭なナショナリズムよって国民は優越意識を高め、更に自国の優位性を誇るイデオロギーを先鋭化していく過程で、極端な差別思想が生まれるだろう。そうなれば、そこまでは同意できない多くの『脱落者』を量産していくが、一部のファナティック(狂信者)らによって、政治が引きずられていく場合もある。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。(勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。)
 
殆どの日本人は、例え中国や韓国によるプロパガンダに行き過ぎを感じていても、中国大陸が舞台となった第二次世界大戦で、日本人の方こそが被害者であるなどとは考えられないし、自他の中に中国人や韓国人に対する差別意識が高まれば、警戒感を抱く。勿論、これらの国の人々が地球上からいなくなることを願う極論には到底ついていけない。
 
極論への答えは、別の極論ではない。余りにも行き過ぎた論理に対抗する為の知恵は、感情的反発による短絡的思考からは生まれない。まずは、湧き上がる怒りや行き詰まり感から自由になり、知識や知恵から学ぶ必要があるだろう。
 
知識や知恵を軽んじ、感情を駆り立てる情報に煽動されれば、結局、極論に導かれてしまう危険性のある事を、忘れるべきではない。

トランプ次期大統領の掲げる『関税35%』政策の危険

多くのトランプ支持者は、「トランプ氏は思ったことを、そのままハッキリとわかるように言ってくれる」ことを、既成の政治家には無いトランプ氏の魅力と主張してきた。この、「トランプ氏は、自分の考えをそのまま分かり易い言葉で述べる」とは、一部支持者だけではなく、サロゲートと呼ばれる援助者や、実娘のイヴァンカ・トランプも「長所」として述べていたトランプ氏の特徴だ。

 
ところが支持者らは、メディアや政策専門家らがトランプ氏の過激発言の数々を"文字通り"受け取た上でそれを問題視すれば、「トランプ氏の意図するところは、そういう意味ではない」から始まって「トランプ氏は言っているだけで、行動はしていない」と擁護する。
 
またトランプ氏の掲げた外交政策や経済政策の問題点を指摘すれば、支持者らは「選挙公約を言葉通りに受け取るべきではない」と、トランプ氏の言葉をそのまま受け取った側を批判する。
 
ヒラリー・クリントンを「嘘つき」と批判する一方、「嘘つき」でないトランプ氏の言葉は、隠しマイクに納められた本人の言葉であっても、トランプ氏が乱発するツイートであっても、選挙中の公約であっても、信じてはいけないらしい。
 
勿論、トランプ支持者によって、指導者としての言葉の重みや、公約についての理解が定められる訳ではない。
 
トランプ氏が、本業の不動産業やリアリティーTVのスター以上の存在を目指し、次期大統領として選出されたのであれば、尚更、彼の言葉には重きが置かれるべきだろう。批判に対し、「Get Over it (グズグズ言うな) 」、また「次期大統領となるトランプ氏は、一切の批判を免れるべきだ」と言うかのような理屈は通らないし、もしそのような極論を振りかざすトランプ支持者がいれば、彼らは嘘や誇張も混ぜながら、オバマ大統領を8年間厳しく非難してきた層だろう。
 
因みに、こうした「Get Over it」を主張する支持者はアメリカでも南部に多いのだが、彼らが南北戦争での南軍の旗を振りかざして「Get Over it. You Lost (諦めろ。お前らの負けだ)」と訴える姿は、本人は気付いていない皮肉でしかない。

 

さてトランプ氏は、次期大統領としての軍事ブリーフィングも当選後は殆ど受けておらず、その代わりに全米ヴィクトリー・ラリー(勝利大会)を計画しているようだ。また、約200日近く、記者団からの質疑応答を受けるような記者会見を開いてはおらず、自身のツイートによって、方針や考えを述べている。
 
今朝のトランプ氏のツイートによれば、彼は外国で製造され、輸入される製品に35%の関税を設けるとしている。勿論トランプ氏の会社が作っているネクタイやスーツなどは中国製、メキシコ製である。実娘のイヴァンカ・トランプが経営するファッション会社のドレスなどは、全てアジアで作られている。トランプ氏の「方針」の基となる考えは、アメリカ企業が人件費の安い外国に工場を移し、アメリカ人が職を失なっている事と、貿易不均等を悪とする考えだ。
 
トランプ氏は、以前のインタビューでも中国と日本をやり玉に挙げ、フォーブス誌は「大概のアメリカ人は、大統領討論会を聞き、アメリカには2つの外敵があるという思いが残ったろう。一つはISISで、もう一つは日本だ」と書いている。

With Trump's Implosion, U.S. Employees Of Japanese Automakers Can Breathe Easier

 
フォーブスは続けて「トランプの論理ゼロのレトリックは、日本バッシングが盛んだった古き悪き時代を思い起こさせる。しかし時代は変わっているのだ。アメリカで販売された日本車の75%は、北アメリカで製造されている。マニー・マンリケズとの電話インタビューで、彼が語ってくれたが、マンリケズは当然これに詳しい人物だ。彼こそが日本自動車製造協会(JAMA)のジェネラル・ディレクターなのだから。彼によれば『日本車業界は、アメリカにおける実質的ゼロの製造だったものが、アメリカの製造業界に大きな功績を残すまで変化をしました。アメリカには日本車製造工場が26か所にあり、17の州に36の研究開発施設があります。』
 
 
 
日本へのバッシングで痛い想いをするのはアメリカなのだ。皮肉なことに、自動車業界が破たんしかかった2009年に、アメリカを再び偉大な国にするように助けてくれたのは日本の自動車メーカーだ。『在米日本車製造工場による雇用率の上昇は、全国平均が5%であった時に、20.8%に上っていたのだ。』」と述べたが、実際、在米日本車製造工場で働く人々の多くはアメリカ人である。
 
トランプ氏は、今朝3時41分から4時23分までの6回に渡るツイートで、
 
「アメリカは企業に対する税金と規則を大幅に減少させる。しかし我々の国を離れ、外国に行こうとしている企業、従業員を解雇する企業、新しい工場や製造工場を他国に作ろうとする企業、しかもその製品を逆輸入しようとしている企業に対してはそうではない。これらの企業が報復やその代価を払わない事は間違っている。これらの製品、車、エアコン、部品などを戻ってきて売ろうとする企業に対しては、直ぐに補強される国境(税関)に於いて、35%の税金が課せられる。この税金は、彼らが外国に逃げていくのを資金的に困難にするだろう。だが、これらの企業は50州、どの州に移動しても良いのだ。(国内に留まる限り)税金や関税がかけられることは無いのだ。ずいぶん高くつく間違いを犯す前に、警告を受け取ってほしい。アメリカはビジネスを歓迎する。」

Trump Threatens 35% Import Tax Which Would Be A Total Disaster | RedState

 
勿論、35%の関税が掛けられれば、今まで1ドルで購入できた商品が1ドル35セントに値上がりし、その増額を負担するのは、アメリカの消費者である。これは以前にも書いたが、関税を引き上げ、相手国の輸出を妨害すれば、アメリカは莫大なペナルティーを支払わなければならず、相手国は、報復として関税を引き上げ、アメリカ企業の輸出を妨害する事が出来る。アメリカの市場に出回る殆どの商品が35%の値上がりをすれば、消費者の購買能力に限界が訪れ、購買意識が薄れる事は間違いない。以前トランプ氏は、「(アメリカの)車の購入台数が減るかもしれないが、別に構わない」とインタビューに答えているが、購買意識が減るのは、購買能力が著しく低下するからだ。
 
ベン・サシー共和党上院議員は、この『関税案』に対して「トランプ氏の意図は良いものかもしれないが、「トランプ次期大統領の意図は良いかもしれない。しかし、彼の35%関税案は、アメリカ人一家への値上げではないのか? アメリカ人一家への35%増税でないと、どうして言えるのか?」とツイートしている。
 
勿論これは、ベン・サシー議員が指摘されている通り、アメリカの消費者に対する35%の増税である。ベン・サシー議員は共和党議員である通り、共和党のマルコ・ルビオ議員も、トランプ氏の掲げる外交政策で、賛成できないものには、反対票を投じていくと述べている。
 
この種の政策を掲げているトランプ氏への反対を、保守派対リベラル派と論じる間違いについて、保守派であり核戦争・外交専門家のトム・ニコールズ氏が指摘している。

「これは保守対リベラルではない。共和党対民主党でもない。これは、大人対子供、知対無知である」

 
トランプ氏の主張してきた『貿易不均衡』を悪とする意見は、勿論トランプ氏が初めてではないが、これについてはレーガン政権で経済アドバイザーでもあった、ノーベル経済科学賞授賞の故ミルトン・フリードマン博士が以下のように指摘している。

 

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   最も影響力のある経済学者、故ミルトン・フリードマン博士。彼の門弟にはトーマス・ソーウェル博士もいる。
 
『貿易不均衡は悪いものではない。例えば日本は約500億円の貿易黒字を抱えている。この黒字分を彼らはどうしているだろう。我々の製品を買ってくれているのだ。これで我々が傷つくことはないのだ。自由貿易というものは、小さなグループの犠牲のもとに、大多数が益を得る。ところが政治的には、小さなグループが大きな声を挙げるものだ。これを悪と人々が信じる理由は、まず製造業者の流すプロパガンダによって騙されている事がある。また変動為替相場というものの役割が理解出来ていないのだ。もし、例えば全ての日本製品がアメリカ製品よりも安く、多くの日本製品が売られるとする。日本は貿易黒字を抱え、ドルを多く所有する事になるが、そのドルで高いアメリカ製品を買うことは出来ない。日本は貿易黒字で得たドルを日本円の購入の為に売り、円高・ドル安となるが、ドル安によって、次第にアメリカ製品の方が安くなる。』

Trump vs Friedman - Trade Policy Debate - YouTube

 
故フリードマン博士をはじめ、多くの有名経済専門家が、自由貿易を「経済を活性化する」ものとして歓迎し、関税を「却って経済不況を招くもの」として反対している事は明らかな事実である。一つの産業が衰退すれば別の産業が生まれる昨今、一つの産業の支援の為に急激な変化を設ければ、別の産業が被害を被る。
 
勿論、アメリカ企業の海外撤退やオートメーション化によって多くの人々が職を奪われ、国からの職業訓練支援があっても、これらの失業者がオートメーション化に対応できる能力を身に着けられなかった事は考慮するべきだが、この複雑な経済政策問題の答えは『関税』を設ける事には見出せない。
 
トランプ氏は、複雑な経済、外交、軍事政策に対し、明確で単純な解答を提示するが、彼の提案が主張通りの結果を生まなかったことは、すでにアメリカの政治史上の失敗が語っている。1930年代後半のアメリカの『大恐慌』を招いた一因は、フーバー大統領が、外国製品に対して高い関税を設けたことにある。デマゴーグの定義が、「複雑な問題に対して、威勢の良い言葉だけで大衆を煽動する人」を指すならば、トランプ氏はまさに『デマゴーグ』ではないか。
 
故ミルトン博士は続けて、19世紀後半に「Progress and Poverty」を記したヘンリー・ジョージの言葉を引用している。

Henry George on how trade sanctions hurt domestic consumers (1886) - Online Library of Liberty

 
「戦争の時には、我々は敵が我々の製品を購入できないように、敵に対して経済封鎖を行なう。平和の時には、我々は関税を設けることによって、敵が戦争の時に我々に対して行なうことを、自分自身に対して行なう」
 
 
選挙中の公約を以てトランプ氏批判をする事が我慢できないトランプ支持者もいれば、当選を果たしたトランプ氏への批判が耐えられない支持者もいるようだが、我々は誰かを盲目的に礼拝するようなカルト宗教の信者ではない。複雑な諸問題に対して、単純明快なレトリックで大衆を煽動するトランプ次期大統領というデマゴーグに対しては、その政策や言動に懸念が生じる際には、今まで以上厳しく批判されていく必要がある。
 

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911テロ首謀者による「新たなテロの波を防いだジョージ・W・ブッシュ」

ローン・ウルフ型のテロが急増する中、911テロ後にアルカイダのトップ首謀者、カハリド・シーク・モハメッドを尋問していたジェームズ・E ・ミッチェル氏の回顧録が出版された。その中で、911テロ後に、更に新たなテロ攻撃を多発させようとしていたアルカイダを止めたのが、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政策であったとするカハリド・シーク・モハメッドの言葉が記されている。

ブッシュ前大統領はメディアや反対者によっても非難されるばかりである。ブッシュ前大統領の失政の為に中東問題が混迷し、テロが発生していると言わんばかりの非難が、オバマ大統領ばかりかトランプ次期大統領からも出ている。

 

多くの人々は、イラクから大量破壊兵器は発見されなかった*と信じているし、「ブッシュ・ライド、ピープル・ダイド(ブッシュが嘘をつき、人々が死んだ)」と繰り返されるが、果たしてその批判に理はあるのだろうか。

(*実際にはニューヨーク・タイムズ紙でさえ、2014年『大量破壊兵器による隠された犠牲者』というスクープ記事を発表し、大量破壊兵器が発見されていた事を認めている。遺棄された大量破壊兵器のために処分に当たってた米兵に被害が発生していた事は多くの関係者が証言している。またISIS が使用している化学兵器がイラクの遺棄したものであることは容易に理解できる。)

http://www.nytimes.com/interactive/2014/10/14/world/middleeast/us-casualties-of-iraq-chemical-weapons.html?_r=0

 

http://hkennedy.hatenablog.com/entry/2016/02/18/053536

 

以下に『フェデラリスト』の記事をご紹介する。

Top Terrorist: George W. Bush Stopped Us From Attacking Again After 9/11

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3,000人近くのアメリカ人を殺害した911テロの背後の立案者は、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の粘り強さが、当時アルカイダによる新たな攻撃の波を防いだことを語っている。

CIAがブッシュ大統領(当時)の下、採用していた、テロリストたちから情報を収集する尋問のテクニックを高めたジェームズ・E ・ミッチェルが、自身の回顧録の中で、911テロの首謀者カハリド・シーク・モハメッドと交わした会話を記した。

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『強化された尋問:アメリカを滅ぼそうとするイスラム教テロリストの頭の中と動機』という回顧録は、尋問強化テクニック・プログラムへの第一次記録を提供している。ミッチェルは読者を、彼が個人的にEIT(尋問強化テクニック ) を適用した、アメリカ国外にある秘密軍事施設とテロリスト、テロ容疑者の細胞組織へと導いてくれる。

ワシントン・ポストのマーク・シーセンは、ミッチェルの著書に、911テロの責任者を徹底的に探しだそうとするブッシュの決断が、テロ組織を震え上がらせ、新たな大規模な攻撃を仕掛ける事を思いとどまらせた様子が書かれていると書評に述べた。

私たちを引き込むつもりはなく、カハリド・シーク・モハメッドは、アルカイダが、911後のアメリカの反応を、1983年のベイルート米海軍バラックへの爆破事件の時と同様に、尻尾を見せて逃げるだけだと考えていた事を語った。

「すると彼は私の目を見て言った。『カウボーイのジョージ・ブッシュが、我々の生死のいかんに依らず我々を捕まえると宣言するなんて、どうして予測出来ただろう。』 ミッチェルは記している。「カハリド・シーク・モハメッドの説明によれば、もしアメリカが911をただの犯罪の一つとして対応していたならば、第二の攻撃の波を開始する時間があったようだ。アルカイダがそうできなかったのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の頑迷な決意と素早い対応にアルカイダが尻込みした事による。

シーセンの書評によれば、カハリド・シーク・モハメッドは、ジハード同調者がアメリカに移民をし、アメリカ人が疲れ果て、降参をするまで、小さな規模の攻撃を続けるだろうと語ったそうだ。

カハリド・シーク・モハメッドに言わせれば、911のような大規模な攻撃は「良いが、必要ではない。」継続的な単純な技術の攻撃が続けば、いくつかの病気に感染をしているノミによって象が倒されるのと同じ論理で、アメリカを崩壊できるとしている。彼によれば、『ジハードの思いを共有する兄弟たち’がアメリカに移住し、アメリカの法と権利を身に纏いながら充分な力を養い、台頭し、我々を攻撃するらしい。

「彼は、兄弟たちは彼らの攻撃を休む事なく続け、アメリカ人はいずれ、疲労し、恐怖に慄き、戦いに嫌気がさし、戦いを放棄するだろう。いずれアメリカは殺戮される為に我々に首を差し出すだろう。」

ジハード同調者や自称ISIS戦士によるローン・ウルフ型のテロ攻撃の数が急上昇している事からも、カハリド・シーク・モハメッドの言葉は殆ど予言的であるとさえ言える。

カハリド・シーク・モハメッドの言葉は続く、「アメリカは彼らとは宗教戦争を行なってはいないだろうが、真のイスラム教徒はアメリカとの宗教戦争の最中なのだ。全世界の人間がシャリア法の支配下に置かれるまで、われら兄弟たちによる戦いは止むことが無い。」