私はなぜトランプに投票したか

私と18歳の長男は、11月3日の投票日の数日前に、2020年の大統領選挙及び米国上院選挙に向けた選挙人登録を行ない、投票を済ませた。正式の投票日は11月3日であるが、投票は郵送でも出来る。郡のオフィスで選挙人登録をする際に、郵送での投票用紙を受け取り、また受け取ったその場で用紙に記入し、投票用紙を提出する事ができた。

私は元々、今回の大統領選挙への投票に乗り気ではなかった。どちらも良い候補者であると思えなかったからだ。ところが政治に強い関心を持つ長男は、投票を渋る私に対して説得を試みてきた。長男は「ママ、投票は国民の義務だから」と言う。私は「義務ではなくて権利でしょう」と応える。投票は国民の義務であるという意識を持つ人、また場合もあるが、憲法はこれを国民にだけ認められる権利として定めている。すると長男は「ママ、投票したくてもできない人々の為にも投票して」と返す。私と子供たちは、何年にも及ぶアメリカ国籍取得への手続きを全て済ませ、先月、国民としての忠誠を感慨深く宣誓をしたばかりだ。アメリカに永住権を持つ日本人の間に、米国の市民権(国籍)を取得する人々は、他国の永住権保持者と比較して非常に稀であると、移民法を専門とする担当弁護士から聞いた。長年米国に暮らしている人でも、年を取ると日本に帰りたくなるらしい。そうした気持ちがわからない訳でもない。ただ私の場合、子供を米国で育てており、子供のスポーツや家族、友人らを通しての帰属感がアメリカ社会に対して、強く、自然にある。また米国保守派の視点からその歴史や政治、使命を考えてきた為、アメリカという国の国民である事に大きな意義と感謝を感じてもいる。こうした感慨は、イスラム教国や旧共産主義国等から逃れてきた多くの新移民らにも通じるものだ。

 

私は何日も、どちらの候補者に一票投じるか考えた。熟考のうちに挙げたドナルド・トランプとジョー・バイデンの比較を、思い返すまま記してみる。

 

2016年の大統領選挙の際、私はドナルド・トランプの公約や人となりから考えて、民主党からの大統領候補であったヒラリー・クリントン元国務長官の方が、よりマシな候補者であると主張した。当時の民主党や当時の状況を鑑みれば、その考えは今も変えていない。ところがそれから4年が経過し、2016年当時には存在しなかった状況や変化が生じている。特に2020年は大統領弾劾裁判に始まり、新型肺炎の蔓延、それによる社会封鎖、またジョージ・フロイドの死をキッカケとして全国に広がった『ブラック・ライブズ・マター』運動による反警察の気運が高まり、各地で暴動が起きた。またワシントン州シアトルの一部ではブラック・ライブズ・マター支持者とアンティファという過激左翼グループにより『CHAZ』という『自治区』が設けられ、オレゴン州ポートランプでは、こうした極左のデモ隊によって連邦裁判所の建物が放火された。またニューヨーク・タイムズ紙には『1619プロジェクト』とする「1619年、最初の黒人奴隷がアメリカ大陸に連れてこられた。アメリカという国の歴史がそれを基として始まる」という政治プロパガンダが発表され、物議を醸す。これら全ての出来事の非をトランプ大統領なり、共和党、民主党に押し付けるつもりは無い。しかしながらこうした出来事に、党として、また政治家としてどのように対応するかは、有権者として注視していた。

私は共和党支持者であるが、決してトランプ支持者ではない。私が支持するのは、ロナルド・レーガン大統領から始まり、ジョージ・ブッシュ父子大統領、故ジョン・マケイン上院議員や、ミット・ロムニー上院議員のような、同盟国を重視し、「小さな政府」「自由貿易」「アメリカン・エクセプショナリズム(アメリカには全ての人々の自由と人権に対して、特別で貴い使命がある、という外交政策を考える上での本質的な信条)」を信じる、正統的保守派の共和党政治家の支持者である。第二次大戦の直前にヒトラーの危険を見過ごし、「アメリカ以外の国はどうなっても良い」という意味で使われた『アメリカ・ファースト』というスローガンをそのまま使用するトランプ氏は、保守派政治というよりも、リバタリアン主義に近い。尤もリバタリアン派は、外交政策では民主党のような「不介入主義」を唱えるが、国内政治ではその他の共和党と意見を同じくする為に共和党の一部としてある。トランプ氏が主張し、実行したシリアとアフガニスタンからの撤退をいち早く支持したのが、共和党リバタリアン派のランド・ポール上院議員であった事は、不介入主義がリバタリアンの真髄にあるからだ。

シリアやアフガニスタンからの撤退は、オバマ政権によるイラク撤退と同様、地域に力の空白を生じさせ、ロシアやイラン、トルコのような大国、またISISのようなイスラム教過激派の勢力を伸ばすキッカケを作る。トルコのエルドアン大統領との直接電話会談の直後、ツイッターを通して発表されたトランプ氏の『シリア撤退』に反発する形で辞任したジェームズ・マティス国防長官(当時)の心情は想像にあまる。

私は、トランプの彼の人となり、無知、大統領としての品格の欠如だけではなく、自分のビジネスの為の利益を追求し続ける腐敗体質も指摘してきた。『メイク・アメリカ・グレート・アゲイン』の掛け声は別として、彼には何がアメリカを偉大な国としてきたのか、全く理解できていないのではないか。故ジョン・マケイン上院議員のように、自分を犠牲にしても国や社会へ貢献するなど、トランプ氏は考えた事もないだろう。歴代共和党政治家の人格と比較して、彼は深い知識なく大声で喋りたいだけ喋る無責任なラジオ番組の司会者のようだ。そうした資質を新鮮に、面白く感じる人もいるだろうが、大統領としては余りにも相応しくない。左派メディアによる、ブッシュ元大統領やミット・ロムニー上院議員、ブレット・カヴァナー最高裁判事、エイミー・コニー・バレット最高裁判事らに対する批判は、ヒステリックな言い掛かりに過ぎない。しかしメディアによるトランプ氏批判は、殆どはトランプ氏自身が招いた、やむを得ないものではないか。彼が「歴代米大統領の中で、最も野卑で下品な人物である」となぜ言われるか、左翼メディアに頼らずとも、彼自身のツイートを読めば理解できる。共和党の歴代大統領や政治家だけではなく、民主党のジョー・バイデン元大統領と比較しても、バイデン氏の方が良識がある事は間違いない。バイデン氏は上院議員に当選した直後、初めの夫人と一歳の女の子を交通事故で失っている。車に同乗していた二人の息子は生き残ったが、生き残った二人の息子のうち、長男のボー・バイデンは、2015年脳癌により死亡している。バイデンが見せる、痛みを抱えた老若男女の国民への共感、思いやり、励ましは真実のものである。彼は2020年の大統領選挙候補者としてノミネートされた後も、どもりや、それを原因としたいじめで苦しむ少年に、自ら定期的に連絡を取り、アドヴァイスをしていたようだ。民主党大会ではこの少年が、バイデン応援のビデオメッセージを送り、多くの人々が感動の涙を流した。https://www.youtube.com/watch?v=UbDanLDO_rc

https://www.youtube.com/watch?v=8YofSo-GTN4

またバイデン氏は、2018年に癌で死亡したジョン・マケイン上院議員の親友でもあった。彼らは政策について意見を異にしたが、議会の場で激しい議論を交わした直後、二人でランチを楽しむ間柄でもあった。バイデンは末期の脳癌を患うマケイン議員の娘、メーガン・マケインに対し、勇敢な父親(ジョン・マケイン)を信じ、希望を持ち続けるように励ましている。その励ましに偽りは無い。マケイン議員の葬儀に参列したバイデンは「私は民主党議員です。ジョン・マケインが大好きでした。しばし喧嘩もしました。兄弟喧嘩のようなものです。委員会ではいつもジョンの隣に座っていました。ジョンも私の隣に座るのが好きでした。他の民主党委員長からは共和党議員と一緒に座るな、と叱られましたが。ジョンも共和党委員長から、民主党議員とは一緒に座るな、と叱られていたようです。でも一緒に座るのが楽しかったのです」と涙を拭いながら弔辞を述べている。

https://www.youtube.com/watch?v=3Sa8G-VR13Q

ジョー・バイデンの人となりは、トランプ氏の側近であるリンゼイ・グラハムのような共和党上院議員も、偽りの無い優しさ、思いやりに溢れる人物として評価していた。

一方、トランプ氏には、優しさや思いやりはおろか、私益よりも国益を考えて政治を行なう姿勢は感じられない。勿論、私益と国益が重なり、良い政策を決定する事もあった。支持者が願う保守派の判事らの任命や、地球温暖化に取り組む『パリ協定』からの撤退だけでなく、産業や事業に対する多々ある規制の撤廃、税金控除や税率の引き下げ、またイスラエルとアラブ諸国の現実的和解をもたらす国交正常化を取り付けた事などは、彼の偉業として数えられるだろう。ノーベル平和賞に価値があるとすれば、トランプ氏が取り付けたイスラエルとバーレーン、スーダン、アラブ首長国連邦等との国交正常化は、オバマ大統領が就任直後で何故か受賞したノーベル平和賞以上の価値を遥かに持つ。トランプの人格が優れていないからと言って、やることなすこと非難されるべきという考えも誤っている。

熱狂的なトランプ支持者やフォックス・ニュースのオピニオン部門アンカーらはトランプ氏を愛国の象徴、優れた指導者の象徴のように崇め奉る。そうした姿は虚像でしかない。しかしながら、トランプ氏をヒトラーと等しい独裁者、差別主義者と吹聴する左派のヒステリアも事実からほど遠い。トランプ氏の人格やレトリックは非難されるところがあっても、その政策の多くはその他の共和党大統領のそれと大差が無く、トランプ政権で立法化された法案は、共和党主導政治の極みである。

今年の選挙に於いて、トランプは再選されるべきではないと考える共和党支持者や保守派言論人は大勢いる。4年間にわたるトランプ政権と、大統領として国益を損ねるだけでなく、一人の良識ある大人として不適切な言動を繰り返し、悪い前例を作り続けるトランプ氏の品性に嫌気がさした保守派知識人、保守派政治家は数限りない。2012年の大統領選挙において共和党からの大統領候補となったミット・ロムニ―上院議員は、トランプに投票しなかったと早々と語っていた。2008年の大統領選挙事において、共和党からの候補を得た故ジョン・マケイン上院議員の寡婦であるシンディー・マケイン女史は、バイデン支持を表明していた。またトランプ政権において国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン元国連大使は、トランプ政権内を記した『The Room Where It Happened(邦題:トランプ大統領との453日)』の中で、トランプ大統領は二期目の再選をされるべきではない人物と切り捨てている。

特にボルトン氏がトランプ氏再選を反対するにあたり懸念としたトランプ氏の中国政策は、ボルトン氏をして「民主党バイデンでも、ここまでの譲歩はしない」と結論付けさせている。ボルトン氏によれば、2019年6月の大阪サミットで習近平と直接会談したトランプ氏は、中国に対して強い姿勢を示すどころか、習近平との会談中に自身の再選を保証してくれるよう要請したり、習近平が支持を求めたウイグル人強制収容所建設に関し、強制収容所を建設をする事が正しい、是非そうするべきだと答えている。トランプ氏によれば、なぜウイグル人の処遇を巡って米国が中国に対して経済制裁を課すべきなのか、理解できないようだ。ボルトン氏によればトランプ氏から2018年のクリスマスにもそれに関した質問があり、また国家安全保障委員会のアジア問題上級担当官であるマシュー・ポティンガー氏に対しても2017年の中国訪問の際、同様の質問をしていたようだ。それだけではない。ボルトン氏の記憶によれば、トランプ氏は民主化を求める香港のデモ隊についても「関わりたくない」と支持を表明する事を拒み、天安門事件に関するホワイトハウス声明も「30年前の事じゃないか。誰がそんな事にかまっていられるんだ。今は中国との取引の方が大切だ」と拒否している。ボルトン氏に言わせれば、米国として支持すべき民主化運動や宗教迫害や民族浄化の危機に瀕している少数民族らに全く関心を払わず、却って習近平礼賛を繰り返し、再選に向けた協力を独裁者に求めるトランプ氏の姿勢に、中国政府に対して強い批判を行なう発言も結局は再選の為の政治パフォーマンスであるようだ。しかも2019年4月には、韓国文在寅大統領に対して、約5200億円の在韓米軍滞在費を負担しなければ、米軍撤退をさせると示唆している。同様に日本に対しては約8000億円以上の負担を求め、その要求に応えられない場合には撤退をすると仄めかしているようだ。

中国との貿易戦争や取引に「勝利している」と見せかけ、自身の再選に向けた『偉業』として宣伝したいのだろうが、実際には中国政府との繋がりのあるテレコミュニケーション会社ファーウエイとZTEへの摘発や刑事告訴を一存で取り下げている。

https://www.wsj.com/articles/john-bolton-the-scandal-of-trumps-china-policy-11592419564

ボルトン氏の指摘、警告は尤もである。習近平に対し、ウイグル人への民族浄化や強制収容所への建設を許容し、奨励する発言は、アメリカ大統領の発言として到底受け入れられない。アメリカが偉大な国であると言われる理由は、全ての人の自由と人権、また民主主義の広布を、その外交政策の本質に取り入れる唯一の国であるからだ。だからこそ共産主義国家やイスラム教国等、強権を振るう独裁国家から逃げる人々が助けを求め、目指す「丘の上の輝く都市」と呼ばれてきたのだ。

それでも私は、トランプ氏に投票をした。自分ながらの苦渋の選択である事は確かである。私の結論は、「トランプという人物は、大統領として全く相応しくない人格の人物だが、もう一方の選択肢は更に酷い」という点に尽きる。

トランプ氏は確かに大統領として相応しくない、ひどい人格の人物だ。私は彼の支持者たちが彼の人格を擁護したり、称えるような真似はしない。しかしながらトランプ氏はひどいアイディアを法律化した事もない。一方バイデン率いる今の民主党は、たとえ高潔な人物であっても、ひどいイデオロギーやアイディアを法律化してしまうと思われるのだ。

ひとこと注釈すると、確かにトランプ氏は、シリアやアフガニスタンからの米軍撤退のような重要政策も、国防長官に相談するより先ツイッターで発表し、実行した実例がある。また国境を越えてやってきた不法移民の親子を、乳幼児を抱える母子であっても引き離して収監し、子供たちを米国内の親戚やフォスターケアに預ける一方、起訴した後に親だけ強制送還してしまった失敗がある。こうして米国内に子供を残して母国に強制送還されたケースのうち、500人ほどの親は行方が不明であり、連絡がつかない状態に陥っているのだ。この移民政策は米国民からの大反発を招き、数週間後に撤廃している。これらの、後先考えないような衝動的行為が、アメリカの国益に適うはずが無い。ところが政策と法律は違う。政策は大統領府など行政が行なう指針である一方、法律は国民生活を縛る定めであり、国民が守らなければならないルールである。トランプは悪い法律によって国民を縛った事はない。一方民主党は、聞こえの良いスローガンを主張するが、それを法律化すれば、憲法で認められている国民の自由や権利を著しく侵害する事に気付いていないのだ。

例えば民主党議員や支持者らは、2020年の以前から「バラマキ政党」のレッテルに相応しく、大学の無料化、医療の無料化を叫んできた。しかしながら大学の無料化一つをとっても非現実的な要求であり、民主党内であっても穏健派のエイミー・クロバチャー議員やジョー・マンチン議員らは「支払えない」と一蹴している。加えて、もし地球温暖化、また気候変動の問題を考え、真に二酸化炭素の排出を制限しようとするならば、原子力エネルギーに変更していく方が現実的であり、効果的だ。ところが民主党はオカシオ・コルテスらのような原子力エネルギーにも反対する素人の急進派左翼議員に引きずられる形で『グリーン・ニューディール』などを提案し、全ての産業の在り方の変更を求めている。このアイディアの実現が必要とする予算は、国民一家庭につき約7000万円の負担額である。アマゾンのCEOが何百人いたとしても、到底支払える金額ではない。https://www.forbes.com/sites/jamesconca/2019/11/25/nuclear-power-does-slow-climate-change/?sh=f1146717202e 

https://en.wikipedia.org/wiki/Green_New_Deal#:~:text=In%20February%202019%2C%20the%20center,cost%20at%20%24600%2C000%20per%20household.

マンチン議員に至っては、「グリーン・ニューディールや国民皆保険、社会主義などは、民主党が掲げてきた政策ではない」と声を挙げるが、民主党内の主流意見となってはいないのだ。

 

また民主党支持者やメディアは、銃犯罪が起きる度に『銃規制』を叫ぶ。保守派は、民主党が政権を握れば合法的な銃の所有者からも銃を取り上げるだろうと警戒していたが、その通り、ビトー・オルーク等の急進派民主党候補者らは「銃の撤廃」を訴え始めている。一般人による銃所有の問題は、日本人には理解し難いだろうが、アメリカでは憲法修正第2条に「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であり、国民が武器を保有し携帯する権利は侵してはならない」と記されている重要な権利である。銃の保有は、一般的に普及しており、殆どの所有者は責任感溢れる、良識的市民である。その銃所有の禁止を法で定めれば、法に従う市民は銃を差し出すかもしれない。しかしその場合、法律を守る市民から銃を奪うだけで、法律に従わない犯罪者だけが武器を持つ事となる。法律を順守する善良な市民を無防備にしたところで、犯罪者を無害とする事にはならないのだ。

それだけではない。メディアを含むリベラル派に支持基盤がある民主党は、人種差別がアメリカにとって取り組まなければならない大きな問題であると考えているようだ。私はこれには全く同意しない。しかも彼らは、人種差別やLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの事)への差別を撤廃するという目的や口実の為に、少しでも不快に思われる言論を規制し、キャンパスや学問、ジャーナリズムや芸能を含む、言論の場そのものから排除しようとしている。

実は『言論の自由』には、ヘイトスピーチを含む不快で差別的言論も含まれている。差別的言論も、言論の自由によって保証されているのだ。これが納得できない人は多いかもしれない。それは言論を制限する事の困難さを考慮していないからだろう。

言わずもがなであるが、私は差別は人種を基にしたものであれ、性別や性的趣向、宗教を基にしたものであれ、差別には反対である。しかしながら、「ヘイトスピーチも言論の自由に含まれる」という米国憲法解釈には理由があるのだ。

まずヘイトスピーチが何を指すのかは、人それぞれの主観に頼るしかない。ある人々はある言論をヘイトスピーチだと感じても、別の人は表現の自由だと感じる。ある人々は「ヘイトスピーチは少数派への憎悪スピーチだ」と考えるが、別の人々は「多数派への憎悪スピーチもヘイトスピーチだ」と考える。特に法の下の平等を謳う法治国家では、多数派と少数派の言論の法的自由に違いを設ける事は不可能だ。多数派と少数派が言い争った場合、少数派が表現した憎悪のスピーチをそっくりそのまま多数派が返して多数派だけが処分されるとすれば、法の下の平等ではない。

しかも、たとえ「~という言葉を使ってはならない」と規制しても、差別の意味を込めてある人々を侮蔑したい人々は、別の言葉、別の表現を使って差別をし続けるものだ。スピーチを規制すれば、規制に背いたとして罰を受けるのは、差別をしたという言い掛かりによる言論、表現、学問、信条等の自由であり、結局は言葉狩り、思想狩りの社会を産んでしまう。

ヘイトスピーチにしてもヘイトクライムにしても、既存する法律の範疇で、たとえば名誉棄損や脅迫、威力業務妨害、器物破損、或いは傷害や殺傷等に当てはまる場合は、それらを取り締まる法律によって裁く事が適切である。既存の法律では取り締まれない言論や思想は、違法化するよりも、より良識に訴える言論、より優れた思想で対応していくしかない。

ところが左派メディアや民主党支持者は、少数派が不快に感じる(と思われる)言論や表現の全てを社会的に排除しようとする。「キャンセル・カルチャー」と呼ばれるのはそういった社会文化である。少数派の感情を少しでも害する(と思われる)言論や思想、表現の自由を排除しようと、職場に押し掛けたり、多数のメールや電話などで解雇を求めたり、ソーシャル・メディアを駆使してボイコットを呼びかけるのだ。しかも基準となるのは主観である。

勿論「不快な言論」「差別的言論」と一言で言っても、多くの人が差別的であると同意できる類もあるだろう。ところが急進的左翼らは、自分たちの考えに反対する人々を全て「人種差別主義者」と呼び、システムに組しているとして、黒人やマイノリティーの警察官、黒人の最高裁判事、保守派であれば黒人の学者やマイノリティーのビジネスオーナーですら「人種差別主義者」呼ばわりしてみせる。こうした極論は、左派メディアやソーシャル・メディアでは当然のように主張されるが、このような甚だしい愚論を懐柔する民主党に投票する気にはなれないのだ。

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  反人種差別主義・反警察のデモにおいて、黒人警察官に中指を突き立てる白人女性

またこうした愚論に反対するマイノリティーは私だけではない。急進的左派からは「白人至上主義者」とレッテルを貼られるトランプ氏が、出口調査によれば、2016年度の選挙時と比較して、黒人男性からは4ポイント、黒人女性4ポイント、ヒスパニック系男性3ポイント、ヒスパニック系女性3ポイント、その他のマイノリティーから5ポイントなど、それぞれ票を伸ばしている。特に黒人女性からのポイントは二倍に伸びている。トランプ氏への票を減らしたのは白人男性だけだ。これは急進左翼の一方的定義に対し、常識が「ノー」を叩きつけた結果だろう。

https://www.cnn.com/election/2020/exit-polls/president/national-results?fbclid=IwAR2ReTWwj-NODt-LgGuN7qRLIzHY3ktt9Pe6dAkskyFmMahkhf29bj2pHI4

 

私がトランプ氏に投票した最も大きな理由は、急進的左派によって影響される民主党議員らが叫ぶ『警察組織解体』の訴えに最も大きな危険と嫌悪感を感じたからだ。この危機感は理論上の危険ではない。警察組織が解体してしまえば、一般の国民は、犯罪者からどのように身を守るのか。「警察を呼べなくなるという懸念は、警察による暴行を恐れ、警察を呼べないマイノリティーが常に感じている恐怖感です」と、警察組織への資金停止を可決したミネアポリスの市議会議員はメディアで語っていたが、冗談ではない、地域への警察のパトロール強化を望む声は、黒人地域では81%に上る。「マイノリティーは警察を呼べない」とは、白人左派の幻想であるか、犯罪に加担している人々だろう。

https://news.gallup.com/poll/316571/black-americans-police-retain-local-presence.aspx

 

ジョージ・フロイド氏の死亡から、米国では何ヶ月に渡って反警察、反人種主義を口実とした暴動が起きた。これらの暴動は主にブラック・ライブズ・マターやアンティファ、また騒動に便乗した暴徒によって起こされている。『ブラック・ライブズ・マター』は、決して一般の黒人を代表する組織ではない。この組織がマルクス主義者たちによって設立され、核家族を揺るがす目標を掲げている事は、批判を受けて9月に削除されるまではBLMのウエブサイトに明記してあった。https://www.foxnews.com/media/black-lives-matter-disrupt-nuclear-family-website

こうした過激派左翼による数か月間にわたる暴動の被害を被ったのは、警察官だけではない。黒人の商店主、黒人のセキュリティー、黒人の通行人を含む、全くの一般人でもある。「差別に声を挙げない事は暴力である」と言葉狩りに熱心な急進的左派や左翼メディアは、暴動や略奪を「平和的デモ」と呼ぶ。私はこういった自己欺瞞、一般人への暴力への容認には、どうしてもついていけないのだ。

政治家の事を、英語では「法律を作る人々」という意味で「Law Makers」と呼ぶ。「作られた法律を施行させる人々」という意味で、警察は「The Law Enforcement」と呼ばれる。作られた法律を施行し、実行させる組織が必要でないならば、政治家は法律など作るべきでは無い。法律とは従ったり、従わなかったり選べる任意的なルールではないのだ。既存する法律が守られているかどうか、また違法行為を取り締まる組織は、法律を作り続ける組織(議会)よりも遥かに重要である。議会が機能不順に陥ったり休暇を取る事はあるが、警察組織が機能不順に陥れば、たちまち治安の悪化に繋がるからだ。私は自分たちが成立させた法律の施行を重視しない政治家に投票する事はできない。自身の危険を侵して治安の為に昼夜働く警察官らを敵視する思想に共感したり、マルクス主義者の要求を受け警察組織解体を叫ぶ政党に、投票する事はできないのだ。

2020年選挙の後、民主党は議会と州知事選によって議席を減らした。「トランプという弾劾された不名誉な大統領相手に、大統領選はおろか、上下議会、州知事選すべて圧勝だろう」と予測されていたにも拘らず、民主党は州知事選でおいて議席を減らし、下院では6議席を減らし、上院ですら(ジョージア州の結果によるが)共和党が多数派として残る可能性がある。トランプ氏は確かに敗北したが、民主党も敗北しているのだ。ヴァージニア州から下院に選出されたアビガイル・スパンバーガー民主党議員は、党に向けて次のように警告する。

「私たちは、負けなくても良い選挙に負けたのです。『警察への資金停止』の為に、私自身危うく落選するところでした。『(民主党は)社会主義』と等という言葉も二度と口にするべきでありません。私たちは常識に立ち返る必要があります。」

https://www.wusa9.com/article/features/producers-picks/socialism-and-defund-the-police-are-losing-slogans-says-virginia-democrat/65-b8f93666-81a4-4ec8-bf46-a1f86477e16f

また民主党のジョー・マンチン上院議員も次のように言う。

「警察への資金停止ですって? 冗談じゃない。私は誇りあるウエスト・ヴァージニア州の民主党議員です。我々は働く人々の為の党でもあります。我々は国民の職を確保し、安価な健康保険を提供したいと考えています。我々には狂った社会主義思想はありませんし、警察組織資金停止なども考えていません。多くのアメリカ人は民主党は社会主義の政党、『グリーン・ニューディール』の政党、『メディケア・フォー・オール』の政党となったと信じています。しかしこれらは民主党の姿ではありません。こういった偽りが多くの人々を恐れさせたのです。共和党の偽りを信じないでください」

これら穏健派民主党議員の声は貴重である。しかしながらメディアが注目を注いでいるのはアレクサンドリア・オカシオ・コルテスのような、自称『社会民主主義者』議員である。

 

結局、大統領選挙は、バイデン元副大統領の勝利となった。これが確実であり、トランプ氏が敗北宣言を拒否しようと、トランプ陣営がどのような訴訟を起こそうと、結果が覆る事はない。この選挙の正当性については、トランプ政権の国土安全保障省サイバーセキュリティー部門が「2020年は、米国の歴史上、最もセキュリティーの保証された選挙であった」と声明を発表し、不正工作によって選挙結果が覆った可能性を否定している。https://www.npr.org/sections/live-updates-2020-election-results/2020/11/14/934220380/as-trump-pushes-election-falsehoods-his-cybersecurity-agency-pushes-back

元検察官でフォックス・ニュースの法律専門アナリストであるアンドリュー・マッカーシーも「逸脱した不正の証拠が無く、トランプ陣営の起こしている裁判の訴えが認められる可能性は無い。大統領選挙は決着した」と述べている。トランプ支持者であっても、トランプに投票した共和党支持者であっても、事実は事実として認める人々は、選挙結果を受けいれている。https://www.nationalreview.com/2020/11/trumps-post-election-litigation-crusade/?fbclid=IwAR0LK8lv46i-hYFuk0kNdTDLiO10xPLB0wgdOP7yFdRy79YyBx9acYDt2zE

 

次期政権による国内政治の如何は、ある意味、ジョージアの上院選挙にかかっている。外交政策に関しては、ジョン・ボルトンの警告を思い起こし、「悪いけれど、最悪ではない」と考えるしかないのかもしれない。

 

最後に、私は、じっくりと時間をかけて考えた末の投票であれば、どちらの側に投票しても良いと思う。私がイヤなのは、大した考えもなく、ヒステリックな感情に任せての投票や、対抗する候補者に投票した人々の道徳心や倫理観を疑う傲慢さである。尤も私には、一人一人の考えの深さを測る手段がない。「~に投票した」と言われても、余程の考えがあっての事だろうと受け止めている。