最も重要な任務に就く「新鮮味溢れる」素人たち
2016年の大統領選挙には、 全員で17人が共和党から立候補していました。
その中で、私は元脳外科医のベン・カーソン氏は、
このカーソン氏の行動を報道したCNNや、 CNNの報道をもとにしたテッド・クルーズ陣営は「 カーソン撤退」と解釈し、 クルーズ陣営はカーソン支持者に対して、 自分への支持を訴えました。
カーソン氏は撤退を否定し、クルーズ議員を「 汚いトリックを使った」とし、クルーズ議員を猛批判した上、 自らが大統領選に出馬した理由を「これらの嘘の多い、 破壊的なやり方を止める為」であったと説明しました。カーソン氏にとって、既存の政治家による政治を、もう一度普通の人々に戻すことに立候補の目的があったようです。
「 これらの報道は、政府の力を『われら、人民』に返す私の戦いを更に勢いづけるだけです。」
ところが昨日の報道では、トランプ氏からトランプ政権入りを打診されたカーソン氏が、「公職や政治の経験が全くない」という理由で、打診を断っていた事が明らかになっています。カーソン氏の補佐官は、「カーソン氏は公職の経験がなく、連邦政府で働いた経験もありません。カーソン氏は大統領の仕事の邪魔にはなりたくないと考えられています」と説明し、カーソン氏自身も「一つの分野だけでなく、色々な分野の問題について働く自由が欲しい」と語っています。
Ben Carson declines role in Trump administration - Business Insider
不可思議なのは、大統領を補佐する役職に就く事を「政府職の経験が無い」として辞退する人物が、大統領選に出馬していた事実です。
カーソン氏は大統領選に出馬した手前、選挙キャンペーンのための資金援助を共和党から得ていました。あまりにも多くの候補者が出た為、共和党支持者間の票割れが懸念され、何としてもトランプ指名を阻止したかった保守派政治評論家などから、「勝利する見込みのない候補者(カーソン氏とジョン・ケーシック州知事)は大統領選から撤退するべきだ」と促されたこともあります。
カーソン氏は、選挙戦から撤退後、トランプ支持を表明し、選挙戦からの撤退後もトランプ氏へのアドバイザーとして、自説をメディアで語る機会を多く持ちました。現在でも元大統領選立候補者、トランプ・アドバイザーとして講演会に招かれ、著書も多く売れています。
去年にも主張した事ですが、私は政治の未経験者が大統領になる事を良いとは考えていません。勿論、専門家でもミスをすることはありますが、素人がミスを犯すよりも頻度は少なく、ミスに対する処置も、早急で、悪影響を軽減する知識を持っています。気象予報士であっても、外科医であっても、経済学者や将軍であっても、ミスや作戦の失敗はつきものです。それでも明らかに、有能とされる気象予報士、外科医、経済学者や将軍と、そうでない人々との差は明らかです。
政治や経済、又軍事作戦の悲劇的な点は、自分も何とか出来ると勘違いする素人が多い点かもしれません。また、政治にまつわる特徴的な悲劇は、その勘違いした素人が、民主主義という、その他のシステムと比較すれば最もマシなシステムのもと、同じく無知な人々によって選ばれてしまう点かもしれません。
カーソン氏にしても、トランプ氏にしても、大統領執務室を、これからその重大な職務について学ぶ場と考えているようないい加減さがあります。一部有権者は、この素人デュオの「新鮮味」を喜びましたが、「新鮮味溢れる外科医」を喜ぶ患者がいるでしょうか。「新鮮味溢れるパイロット」を喜ぶ搭乗客がいるでしょうか。例え医療ミスや飛行機事故が続いていても、素人による執刀や未経験者の飛行機操縦を「既存のエスタブリッシュメントへの懲罰を加える為」と歓迎する人々が果たしているでしょうか?
どうやら私たちは、大統領という最高指揮官を単なる人気投票と勘違いしたまま、誰が能力や知識のある人物か見極める知恵も持たないドナルド・トランプ氏という「新鮮味溢れる大統領」に、世界で最も重要で、複雑な職務を任せるようです。
Trump closes campaign as he began it: Running against the establishment
取扱説明書を読みながら飛行機を操縦するパイロットのトランプ氏 (全くの未経験を風刺している)