イギリス保守派によるEU撤退の理

EUに対する反発は、故マーガレット・サッチャーの時代からイギリスの抱えるジレンマとしてありました。

BBC ON THIS DAY | 21 | 1984: EEC summit collapses over rebate row

 
実際に、故サッチャー首相が離脱を主張していたことは、サッチャー首相の伝記を記したチャールズ・ムーア氏や、サッチャー首相の政策アドヴァイザーであったナイジェル・ローソン卿も認めています。

Margaret Thatcher 'wanted Britain to leave the EU' - Telegraph

 
独自の歴史や文化、法制度を確立したイギリスにとって、主にドイツとフランスが互いの関係改善の為に主導して発足させた共同体に対する懐疑的な意見は、昨日、今日に始まった事ではなく、またEUに対する懐疑論もイギリス独特のものでもありません。

 

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実際に、「ヨーロッパ共同体」と言っても、スイスは1992年に国民投票によって加盟を拒否し、今年には正式にEU加盟を否決しましたが、一方トルコの加盟は現実的に取り上げられています。
 
今回の国民投票の直接的なキッカケは、何と言っても深刻化したイスラム圏からの移民問題があります。ドイツのメルケル首相の『シリアからの移民受け入れ』政策が無ければ、今回の国民投票によって離脱派が過半数を超えることは無かったでしょう。

Is Brexit the Beginning of Fortress Britain?

http:// http://standpointmag.co.uk/features-june-2016-david-coleman-demographics-brexit-eu-referendum-immigration

 
移住先の社会や文化、法に馴染むことなく、独自の文化や法を優先させて集団で生活するイスラム教徒の移民は、現在でもロンドンやパリなどを歩く人々のほぼ半数がイスラム教徒であり、『ノー・ゴー・ゾーン』と呼ばれる地元警察の立ち寄れない居住区を築き上げている事から考えて、「国としての在り方を崩壊させる」と多くの保守派が危惧したのも無理がありません。
 
これらの『難民』の多くは英語を話せないだけでなく、自国の言語においても文盲の人々が殆どであり、安価な労働力としてよりも、社会保障制度を食い尽くす移民が殆どだと考えられています。またイスラム教過激派の起こすテロに共鳴したり、イスラム法である「シャリア法」の適応を求める割合も40%と高くあります。

 

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EUという、いわば国境のない共同体に、イスラム教圏からの移民を大量に受け入れる政策を、他加盟国との協調もなく一方的に決めたドイツのメルケル首相の政策こそが『ポピュリズム』を装った独裁の典型であり、これに一線を引こうとする英国の離脱票こそ、理にかなっていると言えます。
 
EU離脱は、イギリス保守派の多くの主張ですが、これを指導しているのは、ロンドン市長であるボリス・ジョンソン氏や、リアム・フォックス議員、マイケル・ゴーヴ元教育相のような政治家や、元米国陸軍元帥のガスリー卿のような歴とした人々であって、選挙によって議席を一つしか獲得できず、自身は落選した英国独立党党首のナイジェル・フォレージュ氏は、その『非現実的な要求』の為に、同じ離脱派からも支持を得ていません。

 

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日本の朝日新聞が、フォレージュ党首の発言を、あたかも「離脱派」の指導者の発言のように報道していることは、他国の政治事情に疎く、「誰」が「誰」なのかを理解しない、情報に疎いメディアの典型的な失敗だと思われます。
 
フォレージュ氏についていえば、彼は決して離脱派の責任ある指導的立場ではなく、自身は親プーチン派ポピュリストとしても知られ、自らのポストがジョンソン市長などの属する親米保守派政治家の間には無いために、今後『離脱派』の主流派を非難していくと考えられています。
 
ヨーロッパ左翼、或いはリベラル派には、当然、イギリスの離脱に不満があるようで、イギリスへの懲罰を求める声も上がっていますが、もともとイギリスの離脱に反対をしていたアメリカのケリー国務長官(民主党)でさえ、「イギリスの離脱に対する報復は受け入れられない」と発言し、米国下院議長のポール・ライアン議長(共和党)も、アメリカはEU離脱後のイギリスとの貿易協定を結ぶべきだと発言しています。EU加盟国による『懲罰』や『嫌がらせ』は、声高に叫ばれても実現しないでしょう。
 
EU内に最もアメリカに近い同盟国をおき、シリアからの移民受け入れなどにも影響力を発揮したいオバマ政権の米国にとって、英国の離脱は最善の政策とは(短期的には)見られませんが、離脱が米英間の関係を悪化させることはあり得ません。
 
これは、『ファイブ・アイズ』と呼ばれる、1940年代からともに冷戦時代を経て今にある、英国、米国、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど英語圏5カ国の『特別な関係』を鑑みれば一目瞭然であり、米国が英国を棄て、ドイツやフランスをとる可能性は皆無である事がわかります。
 
却って、離脱に関するEUとの交渉は、EUがイギリスの要求をほぼ全て認める事になると思われます。
 
イギリスの軍事・諜報能力に頼るEU諸国が、イギリスの経済が深刻なダメージを受けるような懲罰を行なえば、イギリスも対抗処置を行なうと考えられ、自国にそのツケが回ってくることは理性的に判断できるからです。但し、EUに残る諸国の安全保障が崩壊をすることは英国にとっても好ましい事ではなく、それから考えても英国による軍事協力は継続されるでしょう。
 
EU内を自由に行き来できる共同体から離れれば、ビジネス、人々の移住などに影響がもたらされます。また英国が収めた分担金がもとになっているとは言え、EUからの保障を受ける人々にとっても離脱は歓迎できることではありません。
 
それでも、英国が受け入れた『シリア難民』の数は5,000人と言われていますが、ドイツのメルケル首相が受け入れた80万人がドイツのパスポートを取得すれば圏内を自由に行来出来ます。そのような共同体に自国の国境を無くして籍を置くことは、責任ある国家の姿とは言えません。
 
ポンドの下落は20%の下落が予測されていましたが、10%未満に止まり、以来回復を見せています。イギリス経済も離脱が落ち着くまで、またしばらくは不況が続くかもしれませんが、長期的に見れば、多くの加盟国を抱え、規制を増やした為に経済成長率の低いEUに留まるよりも、英国にとっては実情に適応できる経済政策の舵取りをする機会を得る事になります。
 
これらはすべて、人々が理性に基づいて論理的に行動をすれば、という仮定を基にした仮説です。トランプ旋風に見られる通り、大衆には感情的行動によって好機を自ら台無しにする傾向や、突発的出来事によって状況が大きく変わることは、歴史や現実の政治の中に見られます。
 
 
但し、そのような『不安定要因』を考慮しても、離脱に投じた意見こそ、他国首長による感情的な政策ではなく、自国の法による支配を求める独立国としての理に適っていると考えます。

 

イギリスのEU撤退

イギリスのEUからの離脱を問う国民投票がなされ、キャメロン首相の期待に反して、離脱を願う国民が過半数を超えましたが、この問題はしばし比較される「トランプ旋風」とは異なり、単なる『EUに対する反動的ナショナリズム』では説明され尽せません。
 
「なぜ離脱をするべきか」或いは「離脱しないべきか」という論理的な議論が双方の知識層から為されており、「トランプ支持』のような、感情的な一過性の反発とは決して言い切れません。

"Britain and Europe: Brexit, yes or no?". (Roger Scruton) - YouTube

 
イギリスの著名な哲学者であるロジャー・スクルトン氏やその他の知識人の説明する通り、イギリスの国内法とは全く異なるEU諸国やブルッセルの決定や決断による影響には、イギリスは対応していけないという現実的危機感や法的な問題があり、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などの米メディアも認めています。

Brexit: A Very British Revolution - WSJ

 
イギリスが離脱すれば、双方に混乱が生じる事は確かですが、より大きな打撃を受けるのはEUの方です。イギリスの諜報能力は極めて高く優れており、ヨーロッパ諸国の持つ諜報能力を全てを足しても、イギリス一国の能力とは比較になりません。
 
イギリスとアメリカの、文化的、歴史的に深く近い友好関係を鑑みれば、アメリカの政界の中にはイギリスによって「アメリカの影響力」をEU内に発揮し続ける事を願う声があります。フランスのド・ゴール元大統領がイギリスを(アメリカの)「トロイの木馬」と呼び、イギリスのヨーロッパ経済協力体の参加を拒否していた理由は、そこにあります。

1963 De Gaulle de Gaulle's Veto on British Membership of the EEC. - Historum - History Forums

 

イギリスのEU脱退は、そのままヨーロッパにおけるアメリカの影響力の低下に繋がりますが、アメリカの懸念は、イギリスよりもむしろEUが崩壊する事を危惧する点にあります。
 
親露・反NATOのドイツ社会民主党出身のフランク=ヴァルター・シュタインマイアー独外相は、イギリスの早急の撤退を求める発言をしていますが、対して2009年9月27日の総選挙では議席を伸ばし、単独で第1党を確保して第一政権政党となったドイツ・キリスト教民主同盟の党首であるメルケル首相は、他のヨーロッパ諸国に対して「慎重に、落ち着いて状況を分析し、この機構にとって正しい決断を下せるように共に協力をしていくべきです」と発言し、ドイツの経済や国益にとっても痛みとなるイギリスの撤退を早急に進める考えのない事を示しています。
 

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ドイツにとってイギリスのEU撤退は、ドイツの国益に著しく反する為、打撃を少なくし、出来るなら避けたいところでしょう。
 
それゆえ、「人々が理性的、論理的に振る舞えば」という仮定ですが、メルケル首相が何百万にも上るシリアからの移民を、EU諸国首脳との意見の一致なく決断したことから発した『移民政策』の政策転換を行なうなど、メルケル首相による『問題解決』が図られるかもしれません。

9・11後最大規模のイスラム教テロ

Orlando shooting: 50 killed, shooter pledged ISIS allegiance - CNN.com

日曜日未明、フロリダ州オーランド市の人気ゲイ・バーで、イスラム教ジハーディストによる銃乱射テロが発生し、少なくとも50人以上が死亡し、50人以上の負傷者が出ています。ジハーディストの身元は、オマール・マティーン(29歳)、アフガニスタン移民の両親の元に生まれた熱心なイスラム教信者のアメリカ人と言われています。

 

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オマール・マティーン容疑者は、ISISに忠誠を誓ったジハーディストのようですが、警察との銃撃戦で殺害されました。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、犯人は2013年と、2014年の過去二度にわたり、イスラム教テロの捜査を行なっていたFBIの調査の対象となりましたが、決定的な証拠に欠けると判断され、それ以来捜査の対象から外されたようです。

 

FBIの捜査線上に上ったキッカケは、オマール・マティーンが同僚に語った、「アルカイダとヒズボラに属している親戚がいる」、「ボストン・マラソンの犯人と関わりがある」という発言だったと言われていますが、FBIの尋問に対して、マティーンは発言そのものを否定したようです。

 

FBI Twice Probed Orlando Gunman - WSJ

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オバマ大統領やバーニー・サンダース議員などは、このテロを銃犯罪として扱い、銃の規制に拍車をかけたいようですが、このテロを「イスラム教の教えに従ったイスラム教テロ」と呼ばないオバマ大統領の指針に対する批判は、「この政権にとって、事実はどうでも良いようだ」と、ビル・クリントン政権時にCIA長官であったジェームズ・ウールシィ氏などからも出ています。

 

勿論、全てのイスラム教徒がテロリストの筈はありません。大多数のイスラム教徒はテロとは無関係に過ごしているでしょう。ところが、殆ど全てのテロはイスラム教徒によって起こされている事は事実です。

 

平和を愛するイスラム教徒の存在があっても、『イスラム教は平和の宗教である』という主張は、事実に即した主張ではありません。イスラム教という教えは、イスラム教の教えに従わない世界を征服する事を命じる教えであり、それ以外の価値観や、疑問を認めていません。そもそも、イスラム教が平和の宗教であるという主張ですら、イスラム教徒から出たものではありません。

 

9・11のテロ以降最大の犠牲者を出した今回のテロは、イスラム教に対する融和政策を図ってきたオバマ大統領の政策の失点として受け取られ、民主党からの大統領選候補者となったヒラリー・クリントンにとっても痛手となるでしょう。私も、オバマ政権のイスラム教過激派に対する融和政策には、非常な不満を感じています。こういった大参事は、現政権並び、政権政党にとって痛手となるものです。

 

但し、ヒラリー・クリントンよりもはるかに経験や基本的知識がないドナルド・トランプ氏が、オバマ大政権の失政とは無関係である為に、更に無知で非現実的、分裂を招く差別発言を繰り返し、この悲劇的な大惨事に支持を伸ばす事に対して、大きな懸念を感じています。

 

11月の総選挙前に大規模なイスラム教テロが起これば、大衆の多くは、反動的に現政権への批判として、アメリカの政治史上最低な候補者であるトランプ氏に投票をするでしょう。

 

イスラム教テロへの反動としてトランプ大統領が誕生する事ほど、アメリカや同盟国、またイスラム教過激派の犯す蛮行に苦しむ人々にとって本末転倒であり、解決を遠のかせる大きな悲劇は無いと思われます。

トランプ陣営による、対抗馬「デイビッド・フレンチ氏」への脅迫

共和党からの候補者がトランプ氏に決定する事を受けて、第三の新党を立て挙げようとした動きがあり、中でも、ナショナル・レビュー誌のスタッフ記者であり、弁護士、また退役軍人の肩書を持つデイビッド・フレンチ氏の出馬が取り沙汰されていました。
 
これについて2、3日前、フレンチ氏自身が、出馬をしないことを明らかにしましたが、フレンチ氏夫人の親族に対して、トランプ支持者から人種差別的な嫌がらせ、脅しがなされていたことを、フレンチ氏が明らかにしました。

http://gawker.com/david-french-donald-trumps-campaign-threatened-my-wife-1781022021

 
フレンチ氏によれば、嫌がらせをしていたのは複数の支持者らですが、「トランプ氏の選挙対策本部からのメッセージだが、フレンチ氏がトランプ氏に対抗して出馬をするなら、ひどい目に遭うことを、充分認識する必要がある」と述べていたそうです。

 

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勿論、誰でも「トランプ氏の選挙対策本部に頼まれて…」と嘘を語り、嫌がらせをすることは可能です。
 
但し、実際に、トランプ教のカルト信者と化した『手段を選ばない、不特定多数の支持者』がトランプ氏の意向に従って、レポーターやジャーナリスト、ライバルに対して脅迫や嫌がらせを繰り返している事は、今までにも頻繁にニュースに取り上げられてきました。
 
また、トランプ大学訴訟を扱う連邦裁判所判事に対しては、トランプ氏の選挙対策本部は、「この件に関しては、誰も何の行動をとらないように」という要請を支援者に対して流しましたが、これを知らなかったトランプ氏が、「誰がそんな要請を流したのか。そんな命令は出していない。この件について支持者は一致して、裁判官やレポーターらへの非難を強化するべきだ」と電話インタビューで述べています。

Trump Orders Surrogates to Intensify Criticism of Judge and Journalists - Bloomberg Politics

 
しかも、共和党のブローカード・コンベンションが囁かれていた頃は、全国共和党大会で投票をする共和党選挙人の名前や個人情報が、トランプ陣営から支持者に情報として流され、トランプ氏自身は、ブローカード・コンベンションが開かれ、トランプ氏が選出されない場合は、「私の支持者たちは暴動を起こすだろう」と『暴動の容認』とみられる発言をしています。
 
その他、フォックス・テレビの女性ジャーナリストである、メーガン・ケリーや、テッド・クルーズ議員のハイジ・クルーズ夫人、クルーズ議員の実父であるラファエル・クルーズ氏への誹謗などは、トランプ氏本人からなされ、また、トランプ氏の妻であるメラニア・トランプ夫人に関する記事を書いたユダヤ系女性レポーターへの人種差別的嫌がらせや脅しなどは、トランプ夫妻の意向を受けたと思われる不特定多数の支持者からなされています。
 
これらの事を踏まえれば、フレンチ氏や彼の親族に対してなされてきた嫌がらせを、「トランプ氏が指示や容認をせず、知らない」とは、考えられません。

中国との距離を広げる韓国

英訳された聯合ニュースを、更に和訳しました。

http://m.yna.co.kr/mob2/en/contents_en.jsp?cid=AEN20160605001851315&input=www.twitter.com%3F2e70e980&site=0300000000&mobile

韓国が、中国、北朝鮮との溝を深め、距離を広げている事には間違いがなさそうです。

日韓の軍事情報交換に向けた条約の締結は、韓国世論を鑑みた時間の経過が必要となると思われますが、一時は中国寄りの姿勢を見せた韓国が日米の側に協調する姿勢を示し、日米韓が同じ脅威を共有していると認識するに至った事は、高く評価されるべきだと思います。

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中国は、韓国と米国が計画する高高度防衛ミサイルの朝鮮半島への配置に改めて反対を表明し、防衛を巡る中韓の溝が深まっている事を際立たせています。

日曜日、シンガポールで開かれた毎年恒例となっているシャングリ₌ラ、アジア安全保障会議において、中国軍のナンバー2である孫建国統合参謀部副参謀長は、「中国はアメリカが高高度防衛ミサイルを韓国に配置する動きに強く反対する」と発言しています。

「この米韓の取り組みは、アジア太平洋地域の安全保障を蝕んでいます。兵士の一人として、この配置の意味が何であるか私にはわかります。朝鮮半島に高高度防衛ミサイルを配置する事は、過度の措置であり、現状の米国による防衛能力を超えるものです。アジア太平洋地域は冷戦時代の考え方を拒絶し、安全保障の協力関係を強め、深める方向に進めるべきです。紛争や対立を招いたり、第三か国を仮想的国としてみなすような方法が求められるべきです。」

これは明らかに、中国に照準を合わせた米国への牽制と思われます。

 

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3日間続いた会議での孫参謀部副参謀長の発言は、高高度防衛ミサイルシステムを巡って韓国と中国の間に交わされた、緊張感あるぎこちない瞬間の一幕でした。

韓国と中国の防衛の参謀部長の会話は、会議の前にも持たれましたが、両国の溝の深みを改めて再確認させています。
韓国国防部の韓民求長官との30分における会合で、中国の孫建国副参謀長は、高高度防衛ミサイル配置は、中国の戦略的国益に叶わない点を指摘し、これに対して韓長官は、高高度防衛ミサイルは北朝鮮の核とミサイルの脅威に向けた対応であることを主張しています。

会議二日目の土曜日には、韓長官は、演説の中で韓国が高高度防衛ミサイルを配置する事に疑いが無い事を宣言し、国の方針であることを強調しました。


また演説の中で韓長官は制裁と圧力により北朝鮮の非核化を狙う韓国の主導への国際社会の一致したサポートを求めました。また最近北朝鮮が提案した両軍の事務レベルで会談を拒否したことに触れ、「韓国はそのような意味のない会談を行なう意思はない」と発言しています。また会議の後、記者団に対して韓長官は「北朝鮮の非核化を実現する為に、国際社会は北朝鮮に対する徹底的な制裁と圧力で一致する必要があることを強調したい」と語りました。

 

また、韓長官、米国のアシュ・カーター国防長官、日本の中谷防衛相との間で持たれた日米韓の三カ国会談は北朝鮮の核とミサイルの脅威に一致して対応する事を確認しています。

韓長官、カーター長官、中谷大臣による会談で、三国は、お互いが北朝鮮の核やミサイル攻撃を含めた共通の脅威に直面している事を理解し、特に北朝鮮からの安全保障脅威に関する情報交換を含めた三カ国での軍事協力の取り組みを強めていく方針を誓い合いました。


また同日持たれた別の会合では、中谷長官が軍事情報共有の条約を設ける事を提案しましたが、これについて韓長官は、日米軍事情報包括保護協定への基礎を固めていくことの方がより重要であると述べ、韓国内に未だ根強い旧宗主国との軍事協力への抵抗感情に配慮をした模様です。

ヒラリー・クリントンによるトランプ外交批判

ドナルド・トランプ氏の外交政策を痛烈に批判したヒラリー・クリントンの演説は、オバマ外交支持や自身の成果の強調さえなければ、中道路線に近く、「まるで、マルコ・ルビオの演説のようだ」と評価されています。
 
特にトランプ氏が、日本や韓国からの米軍撤退を提案し、日韓の核保有を許容した事や、北大西洋条約機構(NATO)との関係を再考したりという考えを示したことに、「彼は自分が何を言っているのかも理解できていない」と酷評したあたりは、共和党議員から聞こえても当然の批判です。
 

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またロシアのプーチン大統領のような独裁者を褒め、中国共産党の横暴を力強いと評価する一方、英国首相やドイツ首相、メキシコ大統領ら、米国の「友人」には無用と思われる挑発を行なっているトランプ氏の言動を「理解不能」とした点は、全く同意できます。
 
ヒラリー・クリントン候補の中道路線への変更は、同じく民主党から立候補している社会主義者であるバーニー・サンダース議員の極左政策と区別をつけ、排他的なトランプ支持を躊躇する保守派や無党派層からの得票を狙ったものだと思われます。
 
トランプ氏は、自身の経営していたトランプ大学を詐欺と見做したゴンザロ・クリエル判事を「メキシコ人」と呼び、ラテン系の血統の為に正しい判断が下せないと批判しましたが、「ユダヤ系だから」「黒人だから」「アジア系だから」「白人だから」と、一々自分に反対する人々の「動機」を勘繰り、人種を背景とすることは「アメリカ的」ではありません。アメリカはそのような国家ではありません。
 
さて、ヒラリー候補の演説におけるトランプ氏批判に対して、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「有権者にとって外交政策は、重要な観点となった事が無い」とトランプ氏擁護の記事を掲載しています。
 

Clinton to Pound Trump on Foreign Policy but Risks Loom - WSJ

 

但し、トランプ氏とヒラリー候補の外交政策への考えの違いを比較すれば、トランプ氏の考えが「アメリカは今まで同盟国によって搾取され続けた犠牲者である」と言った、トランプ氏自身の思い込みそのものであり、韓国からの米軍撤退案によって、北朝鮮の国営放送がトランプ氏を褒めちぎった事にも頷けます。

How Hillary Clinton and Donald Trump See the World Differently - Washington Wire - WSJ

またフォックス・ニュースは、いかにクリントン候補のトランプ氏批判が的外れだか、単なるトランプ氏の為のプロパガンダとなった記事を掲載しています。
 
 
保守派テレビ局であり、またメディア・ニュースとしてあったフォックス・テレビは、トランプ氏が他の共和党候補者を抑えてリードを始めた時から、あからさまなトランプ支持を打ち出したようで、公平なメディアとしてのトランプ批判では、CNNの方がよほど客観的な報道を行なっています。
 
保守派メディアのトランプ支持は、トランプ氏に不満を持つ保守派アメリカ人を落胆させたようです。比較して、ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙のようなリベラル・メディアの方が、トランプ氏の政策を警戒する記事を掲載し続けてきました。
 
特にワシントン・ポストは、2013年にジェフ・ビーゾ氏によって買収されたことにより、ウォール・ストリート・ジャーナルに代わる中道保守のメディアとして、フォックス・ニュースやウォール・ストリート・ジャーナルのトランプ報道に不満を持つ保守層の新しい受け皿となっているようです。
 

オバマ大統領広島訪問---私が保守派アメリカ人に同意する理由

米国の保守派メディアが、こぞってオバマ大統領の広島訪問と、そのメッセージを批判する記事を掲載した事は、以前書いた通りです。
 
この広島訪問に対する日米の温度差があることは、多くの指摘にあるようですが、私は米国保守派の批判や懸念は、理に適っていると考えます。私は同時に、日米の和解が演出される事にも違和感を覚えます。和解と言えば、終戦を迎え、講和条約を受け入れた時点で既になされており、それからの日米関係は、米国の核の庇護のもとに守られて来ました。戦後の日本の平和はアメリカの核によって守られてきたと言って過言ではありません。
 

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原爆投下の謝罪を日本政府が求めていない事は当然ながら、多くのアメリカ人は、この問題を日米間の問題としてだけではなく、軍事戦略的な問題として見ています。確かにオバマ大統領は「申し訳ありませんでした」とも、「アメリカは過ちを犯しました」とも発言をしていませんが、演説の内容から考えれば、アメリカの核開発、及び核兵器使用を悪と位置付けています。
 
私はアメリカの核兵器を非道な兵器と認めながら、その使用に関しては、「日本に残されていたもう一つの可能性ほど悪くは無かった」と考えています。これは当時の日本海軍人、陸軍人に直接あたって調査をされた秦郁彦氏の以下のまとめによります。
 
『筆者は以前から当時の陸海軍関係者と会うたびに「原爆とソ連参戦の衝撃はどちらが大きかったか」と聞くことにしている。答はあい半ばするが、一方だけでは足りず、二つの衝撃が重ならなかったなら、二十年八月の時点での終戦は不可能だったろう、という点では一致する。ソ連を通じる和平仲介の失敗で、手掛かりを見失っていた終戦派は、このダブルショックをきっかけに、「黙殺」したままになっていたポツダム宣言を受諾するという方式で、一気に終戦へ持ち込もうとした。』 秦郁彦著『昭和天皇 五つの決断』(P.71)
 
二つの原爆投下とソ連の参戦が無ければ、8月の終戦は無かったことを認めるならば、見逃したくない可能性が、日本国土の南北分断です。
 
アメリカが原爆を投下しなかった場合、日本の降伏が決断されないまま、ソ連の侵攻に対して日本は食い止める戦力を持たずに、侵略は続けられていたでしょう。どの時点で、米国がソ連の侵攻を止める為に介入をしたかはわかりませんが、アンジェイ・コズロウスキー博士の予測される通り、日本の北(東)部半分、朝鮮半島と同じ運命を辿り、分裂されていたとすれば、共産主義の下で殺害されたであろう人数は、勿論、原爆による被害を上回ります。
 
この現実的な可能性を考えれば、原爆という兵器が如何に残酷な兵器かという議論よりも、二つの原爆投下、及び、ソ連参戦に及んでも徹底抗戦を叫んでいた強硬派の『精神論』や『イデオロギー』の責任こそが議論されるべきだと思われます。
 
原爆投下によって、広島や長崎の方々が被爆され、犠牲となった事は歴史の事実ですが、その他一般の多くの日本人は、原爆投下によって益を受けました。これこそ、厳しく複雑な現実です。
 
同じような、暴論とも聞こえる真実は、アフリカから連れて来られた現在の黒人奴隷の子孫にも言えることです。即ち、「今日の我々は、過去の祖先の多大な苦しみによって恩恵を受けている」という真実です。
 
但し原爆と黒人奴隷の問題との決定的な違いは、アメリカは、再び核兵器を使用する政策によって戦争を終結させる決断をする必要に迫られる可能性がある点にあります。
 
アメリカの保守派が最も強く批判している点は、大統領という存在が国家の政策を意味する為、オバマ大統領の広島訪問が、むしろこれからのアメリカが核使用の可能性を破棄するかに見える点でしょう。
 
アメリカは国家として、原爆投下を悔いる姿勢を見せるべきではありません。核兵器使用に躊躇を見せれば、現在、また将来の防ぎ得る戦争や紛争への歯止めがなくなるからです。
 
以下に、ハフィントン・ポスト紙の和訳した広島スピーチを引用して、アメリカ人がなぜこの演説を問題視しているか、考えたいと思います。

www.huffingtonpost.jp

 
『71年前の明るく晴れ渡った朝、空から死神が舞い降り、世界は一変しました。閃光と炎の壁がこの街を破壊し、人類が自らを破滅に導く手段を手にしたことがはっきりと示されたのです。』
 
オバマ大統領の発言では、「人類が自らを破滅に導く手段」として原爆についてが言及されていますが、原爆さえなかったら、人類は自らを破滅に導く手段を得ていないのでしょうか。もっと突き詰めて考えれば、原爆は通常兵器やその他の(日本も所有し、使用していた)化学兵器と比較し、何が違っているのでしょう。オバマ大統領の演説は、人類が原爆投下以前のおよそ30年間に渡る二つの大戦、ソヴィエト連邦や中国共産主義による約1億人の殺害、及びホロコーストなどの犠牲で、原爆を使用しなくても自らを破滅に導いていたことを無視していると言わざるを得ません。
 
『広島と長崎で残酷な終焉へと行き着いた第二次世界大戦は、最も裕福で、もっとも強大な国家たちの間で戦われました。そうした国の文明は、世界に大都市と優れた芸術をもたらしました。そうした国の頭脳たちは、正義、調和、真実に関する先進的な思想を持っていました。にもかかわらず、支配欲あるいは征服欲といった衝動と同じ衝動から、戦争が生まれたのです。』
 
この文脈を読めば、アメリカの参戦が「支配欲あるいは征服欲といった衝動と同じ衝動」によるものだと主張していると読めますが、第二次世界大戦のアメリカの参戦は、「支配欲や征服欲」によるものではありません。この『歴史観』は、オバマ大統領が今まで繰り返し、主張してきた「アメリカは過ちを犯した」という歴史観と一致しますが、これは史実に基づいてはいません。
 
アメリカの参戦は、日本とドイツからの宣戦布告によるもので、それまでの日米交渉は日本軍の中国大陸からの撤退を促すものではあっても、アメリカが日本に代わって支配し、征服しようとした為ではありません。
 
戦争というものが、双方あって初めて起きるにしても、それを避ける為には双方が同等の責任を負うとすれば、先に攻撃をした側も、反撃や報復に出た側にも非があることになります。
 
勿論、全ての日本人に戦争の責任はありませんが、戦争を始めたのは、国家としての日本であり、ドイツです。アメリカにとって、宣戦を布告され始まった戦争の責任を、双方が負うべきであるかのような主張に、多くのアメリカ人が反発をするのは当然でしょう。
 
『どの大陸でも、文明の歴史は戦争で満ちています。戦争は食糧不足、あるいは富への渇望から引き起こされ、民族主義者の熱狂や宗教的な熱意でやむなく起きてしまいます。』
 
『どの偉大な宗教も、愛や平和、正義への道を約束します。にもかかわらず、信仰こそ殺人許可証であると主張する信者たちから免れられないのです。』
 
オバマ大統領は、「どの大陸でも」、「どの偉大な宗教も」という言葉を用いていますが、或るイデオロギーは他のイデオロギーより殺人的であり、或る宗教は、他の宗教よりも暴力的であるのが事実です。時間さえ経てば、全てのイデオロギーや宗教が、自ら平和的な道を歩むわけではありません。全ての宗教、全てのイデオロギーを悪として、より危険な教えを相対化する事は、巨悪に対する対処を滞らせる原因となります。
 
『しかし、私の国のように核を保有する国々は、勇気を持って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません。』
 
オバマ大統領の演説の中で最も問題と思われる主張は、アメリカが核を所有する理由を「恐怖の論理」としている点です。現在の世界平和は、アメリカの突出して強力な軍事介入を含めるリーダーシップによって保たれています。アメリカのような国が核を保有する事と、中国やロシア、北朝鮮、またイランのような国々が核を保有する事を同等に考え、等しく核廃絶を追求しようとするオバマ大統領の主張は、単純化すれば、警察と犯罪組織の武器所有を等しく考える事と同じです。
 
私が日本の多くの方々のご意見に賛成できず、オバマ大統領の広島訪問と演説に反発したアメリカ人に同意している理由に、アメリカの核と同盟に守られてきた70年を重要視している点があります。
 
これは原爆の犠牲となられた方々の命や、その犠牲を蔑ろにしているからではありません。
 
但し、原爆の被害が大きければ大きいほど、また、いざとなればアメリカが原爆を再び使用する可能性が高ければ、高いほど、巨悪に対する抑止力となってきた事実があります。そのアメリカの核の傘のもとで、我々後の世代が守られてきたと言えるのです。
 
コーネル大学の調査によれば、約1億3千万から1億5千万人にも上る20世紀の『戦死者』の中で、1945年以降の戦死者は、約4千100万人だと言われています。核爆弾が開発され、アメリカの絶対的な軍事力と、世界の警察官としての軍事介入の可能性が示されて後の、第二次世界大戦後の戦争や紛争による犠牲者は劇的に減少しているのです。これは、国際紛争や内紛が限度を超えれば、アメリカの軍事介入があることを暗示することで、広島や長崎の悲惨な被害を避けようとする思惑が働くからです。
 
ここに、広島や長崎の被害が、世界の平和に貢献してきた事がわかります。
 
原爆使用を反省しようとする意見は、現在のアメリカや欧米のリベラル派に多く見られます。「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言する大統領の下、"原爆を反省"し、"普通の国となったアメリカ"は、現在多発しているテロに対して、対処する政策をとろうとしません。その結果、虐殺は面白いように横行し、民族浄化も行なわれています。
 
『和解』を演出する訪問は、巨悪にも軍事介入せず、全ての宗教やイデオロギーを相対化し迎合する大統領による、世界の警察官であったアメリカの退任式として米国保守派には映りました。彼らの抱える憤りこそ、私は理に適っていると考えます。