イギリスのEU撤退

イギリスのEUからの離脱を問う国民投票がなされ、キャメロン首相の期待に反して、離脱を願う国民が過半数を超えましたが、この問題はしばし比較される「トランプ旋風」とは異なり、単なる『EUに対する反動的ナショナリズム』では説明され尽せません。
 
「なぜ離脱をするべきか」或いは「離脱しないべきか」という論理的な議論が双方の知識層から為されており、「トランプ支持』のような、感情的な一過性の反発とは決して言い切れません。

"Britain and Europe: Brexit, yes or no?". (Roger Scruton) - YouTube

 
イギリスの著名な哲学者であるロジャー・スクルトン氏やその他の知識人の説明する通り、イギリスの国内法とは全く異なるEU諸国やブルッセルの決定や決断による影響には、イギリスは対応していけないという現実的危機感や法的な問題があり、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などの米メディアも認めています。

Brexit: A Very British Revolution - WSJ

 
イギリスが離脱すれば、双方に混乱が生じる事は確かですが、より大きな打撃を受けるのはEUの方です。イギリスの諜報能力は極めて高く優れており、ヨーロッパ諸国の持つ諜報能力を全てを足しても、イギリス一国の能力とは比較になりません。
 
イギリスとアメリカの、文化的、歴史的に深く近い友好関係を鑑みれば、アメリカの政界の中にはイギリスによって「アメリカの影響力」をEU内に発揮し続ける事を願う声があります。フランスのド・ゴール元大統領がイギリスを(アメリカの)「トロイの木馬」と呼び、イギリスのヨーロッパ経済協力体の参加を拒否していた理由は、そこにあります。

1963 De Gaulle de Gaulle's Veto on British Membership of the EEC. - Historum - History Forums

 

イギリスのEU脱退は、そのままヨーロッパにおけるアメリカの影響力の低下に繋がりますが、アメリカの懸念は、イギリスよりもむしろEUが崩壊する事を危惧する点にあります。
 
親露・反NATOのドイツ社会民主党出身のフランク=ヴァルター・シュタインマイアー独外相は、イギリスの早急の撤退を求める発言をしていますが、対して2009年9月27日の総選挙では議席を伸ばし、単独で第1党を確保して第一政権政党となったドイツ・キリスト教民主同盟の党首であるメルケル首相は、他のヨーロッパ諸国に対して「慎重に、落ち着いて状況を分析し、この機構にとって正しい決断を下せるように共に協力をしていくべきです」と発言し、ドイツの経済や国益にとっても痛みとなるイギリスの撤退を早急に進める考えのない事を示しています。
 

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ドイツにとってイギリスのEU撤退は、ドイツの国益に著しく反する為、打撃を少なくし、出来るなら避けたいところでしょう。
 
それゆえ、「人々が理性的、論理的に振る舞えば」という仮定ですが、メルケル首相が何百万にも上るシリアからの移民を、EU諸国首脳との意見の一致なく決断したことから発した『移民政策』の政策転換を行なうなど、メルケル首相による『問題解決』が図られるかもしれません。