イギリス保守派によるEU撤退の理

EUに対する反発は、故マーガレット・サッチャーの時代からイギリスの抱えるジレンマとしてありました。

BBC ON THIS DAY | 21 | 1984: EEC summit collapses over rebate row

 
実際に、故サッチャー首相が離脱を主張していたことは、サッチャー首相の伝記を記したチャールズ・ムーア氏や、サッチャー首相の政策アドヴァイザーであったナイジェル・ローソン卿も認めています。

Margaret Thatcher 'wanted Britain to leave the EU' - Telegraph

 
独自の歴史や文化、法制度を確立したイギリスにとって、主にドイツとフランスが互いの関係改善の為に主導して発足させた共同体に対する懐疑的な意見は、昨日、今日に始まった事ではなく、またEUに対する懐疑論もイギリス独特のものでもありません。

 

f:id:HKennedy:20160629141641g:plain

 
実際に、「ヨーロッパ共同体」と言っても、スイスは1992年に国民投票によって加盟を拒否し、今年には正式にEU加盟を否決しましたが、一方トルコの加盟は現実的に取り上げられています。
 
今回の国民投票の直接的なキッカケは、何と言っても深刻化したイスラム圏からの移民問題があります。ドイツのメルケル首相の『シリアからの移民受け入れ』政策が無ければ、今回の国民投票によって離脱派が過半数を超えることは無かったでしょう。

Is Brexit the Beginning of Fortress Britain?

http:// http://standpointmag.co.uk/features-june-2016-david-coleman-demographics-brexit-eu-referendum-immigration

 
移住先の社会や文化、法に馴染むことなく、独自の文化や法を優先させて集団で生活するイスラム教徒の移民は、現在でもロンドンやパリなどを歩く人々のほぼ半数がイスラム教徒であり、『ノー・ゴー・ゾーン』と呼ばれる地元警察の立ち寄れない居住区を築き上げている事から考えて、「国としての在り方を崩壊させる」と多くの保守派が危惧したのも無理がありません。
 
これらの『難民』の多くは英語を話せないだけでなく、自国の言語においても文盲の人々が殆どであり、安価な労働力としてよりも、社会保障制度を食い尽くす移民が殆どだと考えられています。またイスラム教過激派の起こすテロに共鳴したり、イスラム法である「シャリア法」の適応を求める割合も40%と高くあります。

 

f:id:HKennedy:20160629141759j:plain

 
 
EUという、いわば国境のない共同体に、イスラム教圏からの移民を大量に受け入れる政策を、他加盟国との協調もなく一方的に決めたドイツのメルケル首相の政策こそが『ポピュリズム』を装った独裁の典型であり、これに一線を引こうとする英国の離脱票こそ、理にかなっていると言えます。
 
EU離脱は、イギリス保守派の多くの主張ですが、これを指導しているのは、ロンドン市長であるボリス・ジョンソン氏や、リアム・フォックス議員、マイケル・ゴーヴ元教育相のような政治家や、元米国陸軍元帥のガスリー卿のような歴とした人々であって、選挙によって議席を一つしか獲得できず、自身は落選した英国独立党党首のナイジェル・フォレージュ氏は、その『非現実的な要求』の為に、同じ離脱派からも支持を得ていません。

 

f:id:HKennedy:20160629142101j:plain

 
日本の朝日新聞が、フォレージュ党首の発言を、あたかも「離脱派」の指導者の発言のように報道していることは、他国の政治事情に疎く、「誰」が「誰」なのかを理解しない、情報に疎いメディアの典型的な失敗だと思われます。
 
フォレージュ氏についていえば、彼は決して離脱派の責任ある指導的立場ではなく、自身は親プーチン派ポピュリストとしても知られ、自らのポストがジョンソン市長などの属する親米保守派政治家の間には無いために、今後『離脱派』の主流派を非難していくと考えられています。
 
ヨーロッパ左翼、或いはリベラル派には、当然、イギリスの離脱に不満があるようで、イギリスへの懲罰を求める声も上がっていますが、もともとイギリスの離脱に反対をしていたアメリカのケリー国務長官(民主党)でさえ、「イギリスの離脱に対する報復は受け入れられない」と発言し、米国下院議長のポール・ライアン議長(共和党)も、アメリカはEU離脱後のイギリスとの貿易協定を結ぶべきだと発言しています。EU加盟国による『懲罰』や『嫌がらせ』は、声高に叫ばれても実現しないでしょう。
 
EU内に最もアメリカに近い同盟国をおき、シリアからの移民受け入れなどにも影響力を発揮したいオバマ政権の米国にとって、英国の離脱は最善の政策とは(短期的には)見られませんが、離脱が米英間の関係を悪化させることはあり得ません。
 
これは、『ファイブ・アイズ』と呼ばれる、1940年代からともに冷戦時代を経て今にある、英国、米国、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど英語圏5カ国の『特別な関係』を鑑みれば一目瞭然であり、米国が英国を棄て、ドイツやフランスをとる可能性は皆無である事がわかります。
 
却って、離脱に関するEUとの交渉は、EUがイギリスの要求をほぼ全て認める事になると思われます。
 
イギリスの軍事・諜報能力に頼るEU諸国が、イギリスの経済が深刻なダメージを受けるような懲罰を行なえば、イギリスも対抗処置を行なうと考えられ、自国にそのツケが回ってくることは理性的に判断できるからです。但し、EUに残る諸国の安全保障が崩壊をすることは英国にとっても好ましい事ではなく、それから考えても英国による軍事協力は継続されるでしょう。
 
EU内を自由に行き来できる共同体から離れれば、ビジネス、人々の移住などに影響がもたらされます。また英国が収めた分担金がもとになっているとは言え、EUからの保障を受ける人々にとっても離脱は歓迎できることではありません。
 
それでも、英国が受け入れた『シリア難民』の数は5,000人と言われていますが、ドイツのメルケル首相が受け入れた80万人がドイツのパスポートを取得すれば圏内を自由に行来出来ます。そのような共同体に自国の国境を無くして籍を置くことは、責任ある国家の姿とは言えません。
 
ポンドの下落は20%の下落が予測されていましたが、10%未満に止まり、以来回復を見せています。イギリス経済も離脱が落ち着くまで、またしばらくは不況が続くかもしれませんが、長期的に見れば、多くの加盟国を抱え、規制を増やした為に経済成長率の低いEUに留まるよりも、英国にとっては実情に適応できる経済政策の舵取りをする機会を得る事になります。
 
これらはすべて、人々が理性に基づいて論理的に行動をすれば、という仮定を基にした仮説です。トランプ旋風に見られる通り、大衆には感情的行動によって好機を自ら台無しにする傾向や、突発的出来事によって状況が大きく変わることは、歴史や現実の政治の中に見られます。
 
 
但し、そのような『不安定要因』を考慮しても、離脱に投じた意見こそ、他国首長による感情的な政策ではなく、自国の法による支配を求める独立国としての理に適っていると考えます。