中国依存を強めるWHO/アフリカと、依存からの脱却を図るヨーロッパ

ヨーロッパで最も広く読まれているドイツの新聞、ビルトが、中国政府による意図的な証拠隠滅や嘘の主張を世界に流し、コロナウイルスの世界的流行を起こし、被害を拡大させたとして、中国政府に対し、260億ドルの観光産業が受けた打撃に対する損害賠償と540億ドルの個人企業が被った打撃に対する損害賠償を中国共産党に対し、求める記事を掲載した。ビルトの計算によれば、コロナウイルスによってドイツは国内総生産の4,2%にも上る損失を被ったようだ。
中国共産党と中国国営メディアは、ビルト紙の編集長であるジュリアン・リカルト氏に対して、中国大使館を通じ「中国を非難する事で、ナショナリズムを煽動している」と抗議している。これを受けてリカルト氏は、公開文書によって、中国の習近平主席の全体主義体制を「人道に対する脅威である」と非難し、以下のように応じた。
「あなたは監視する事で統治している。監視する事なしに、とうてい大統領にはなれないだろう。あなたは全てを監視している。全ての市民を監視している。それでいながら、危険がある動物市場を監視する事は拒否してみせる。自分に対して批判的な新聞やウエブサイトはシャットダウンしながら、コウモリのスープを売る屋台は閉めさせない。自分の国民を監視しながら、それでも彼らを危険に晒し、全世界の人類をも危険に晒している。あなたこそ、自分の国の恥になる事の真実は、決して語ろうとしないナショナリストだ。」
リカルト氏は中国が他国の知的財産権を奪ったお礼に、他国にコロナウイルスを送ったと皮肉り、コロナウイルス大流行の最中に中国が世界各国に医療品を送っている事を善意ではなく、微笑みながらの帝国主義であると一蹴している。
「中国が発生させた疫病が大流行する最中、中国の勢力を強められる筈がない。あなたの権力は持たない。遅かれ早かれ、コロナウイルスはあなたのその政治生命の終わりを告げるだろう。」https://www.theepochtimes.com/beijing-angry-after-german-newspaper-demands-regime-to-pay-160-billion-for-causing-pandemic_3319494.html
中国大使館のスポークスマンは、中国政府による、コロナウイルス制止に向けた輝かしい努力の数々を挙げ、中国とてコロナウイルスの被害者であると強調しながら、リカルト氏による批判と損害賠償の請求に反論しているが、中国政府を厳しく批判しているのはドイツだけではない。
コロナウイルス感染拡大とそれに伴う摩擦によって、ヨーロッパで第一に孔子学院を設立させたスウェーデンは、同国に存在する孔子学院を全て閉鎖させている。最近、中国国営メディアは、スウェーデンのウイルス拡散防止の取り組みを「ウイルスへの完全降伏した明け渡しであり、他国を危険に陥れている」と厳しく非難しているが、そうした非難は中国にこそ当てはまる。自国政府によるコロナウイルス感染拡大防止の取り組みを「栄光に満ちた」と呼ぶ一方、スウェーデンの取り組みを「他国を危険に陥れている」と非難するような欺瞞は、中国発生のパンデミックによってただでさえ悪化している対中国感情を、更に否定的にしているようだ。https://www.thetimes.co.uk/article/swedes-axe-china-backed-confucius-school-scheme-as-relations-sour-7n56ld2v3
ヨーロッパにくすぶる中国への不満はこれだけではない。英国の外交について考えるシンクタンクである『ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ―』の調査に基づき、英国のダミアン・グリーン元副首相率いるトーリー党、4人の元大臣、11人の保守派議員らは、中国がコロナウイルスが発生した初期段階で情報を共有せず、法的拘束力のある国際医療規定に違反したとして、国際裁判所を通して中国政府に対し、英国が被った被害額、日本円にして約41兆円を求めるよう提案している。このレポートは、1月の時点で、ロンドン-武漢間の航空便をキャンセルしなかったのは、中国政府とWHOによる虚偽の報告と発表を信じた事によると結論付けた。またヘンリー・ジャクソンは、この危機が収まった暁には、中国との関係を見直すことを英国政府に対して要求し、「我々は中国への依頼を深め、英国の長期的経済、技術と安全への必要を戦略的に捉える事に失敗してしまった」と結んでいる。https://henryjacksonsociety.org/publications/coronaviruscompensation/
https://www.msn.com/en-gb/money/news/china-owes-us-%C2%A3531-billion-britain-should-pursue-beijing-through-international-courts-for-coronavirus-compensation-major-study-claims-as-15-top-tories-urge-reset-in-uk-relations-with-country/ar-BB12aMwQ?li=AAnZ9Ug

中国発祥のパンデミックの為に多くの国民の命を失ない、国民生活は変えられ、経済は打撃を受け、しかも中国が送ってきた医療品は使える代物ではないのだから、ヨーロッパの国々の怒りが爆発するのも仕方がないだろ。
もちろん、中国に対して賠償を要求する動きは、米国の中にもある。各国からの非難を交わそうとしてか、中国はアラブ語の国営放送によって、コロナウイルスが米国軍によって武漢に持ち込まれたと『米国起源説』を広めるのだが、このような陰謀説を信じる先進国は皆無だろう。それどころか、中国発祥のパンデミックの為に多くの国民の命を失ない、国民生活は変えられ、経済は打撃を受け、しかも中国が送ってきた医療品は使える代物ではないのだから、西側諸国の国民感情が中国に対して厳しく変わるのも仕方がないだろう。

https://www.bbc.com/news/world-europe-52092395

世界的パンデミックによって、何百万人の命が失われる危機の最中で、中国と共に批判されつつ、しかも中国を擁護するのがWHOであり、テドロス・アダノム事務局長だ。
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テドロスは、エチオピア出身の元保険大臣、元外務大臣を務めた政治家であり、これからもエチオピア政治の中枢にかかわっていく人物だ。
彼は最近、フランスの医師団がコロナウイルスの試験的ワクチン接種をアフリカで行なおうと議論をした時に、医師団の提案を「植民地主義」「人種差別」に基づいた試みだと断固批判した。その為、ただでさえ医療設備の乏しいアフリカは、コロナウイルスに対応するテストなどの技術が全く無いまま放置されているのに相応しい。国連の予測によれば、約30万人がコロナウイルスによって死亡し、何千万人が飢餓に陥ると懸念されている。
https://www.washingtonpost.com/world/africa/warnings-of-worsening-hunger-malaria-emerge-as-coronavirus-cases-spike-40percent-in-africa/2020/04/23/acc15936-8568-11ea-81a3-9690c9881111_story.htmlhttps://jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKBN21Z2O3?fbclid=IwAR0endlRUvr7uqtRy_JwQKNK2bbb06RRaih65Tf7V8ISHOynHMdrYbImZ3w
イギリスでは、オックスフォード大学の研究によって開発されたワクチンの試験的接種が、800人の希望者に対して始められたが、なぜイギリス人への試験的接種は問題なく、アフリカ人への接種は「言語道断」なのか。「フランス人がアフリカ人にワクチン試験接種するならば、それは人種差別主義に根差した人体実験に違いない」という偏見無しに、科学的に説明する事は出来ない。このような試験的接種は、好機でこそあれ、「植民地主義」や「人種差別主義」などに基づく差別ではないのだ。
テドロスの経歴を以て、彼を人道主義に根差した医師のように考える人がいるとすれば、それは余りにも彼の人となりを知らない無知から来る誤解だろう。彼ほど独裁権威者や独裁政権にへつらうWHO事務局長も珍しい。テドロスは人権蹂躙、選挙妨害を行なったジンバブエの独裁者、ロバート・ムガベを、「ジンバブエの衛生状態を向上させた」として、WHO親善大使に任命した事で多くの批判を受けた事がある。またコロナウイルスによる各国の対応では、西側諸国を批判しながら、中国だけではなく、イラン政府による取り組みを礼賛している。イランでは毎日、コロナウイルス患者で一杯になった病院に受け付けてもらえない感染者が、路上で死んでいるのに、である。
https://twitter.com/HeshmatAlavi/status/1251890492834488322?s=20
中国政府が、世界に向けてコロナウイルスの脅威を警告しようとした医師や市民への弾圧を強める1月に、テドロスは北京を訪問し、習近平と会談している。そこで中国によるコロナウイルスへの取り組みを高く評価し、中国政府の透明性に感謝してみせた。ところが中国に対する称賛を惜しまなかったテドロスは、中国からの入国、渡航を制限しようとする他国の試みに対しては、中国政府の意向を受けて、すぐさま抗議をする。テドロスはまた、コロナウイルスによる『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』宣言(PHEIC)を発動する事を一週間遅らせた。その間に感染例は10倍の7,781件に増え、被害が18カ国に広まるのを許したのだ。
テドロスと中国共産党の関係は、テドロスがWHO事務局長に就任する以前から続いている。テドロスはWHO事務局長選挙が行なわれる数か月前に、北京大学で講演するように招待されたが、こうした招待は、中国によるテドロス勝利への後押しに過ぎない。テドロスは招待された北京大学の場で、健康問題における中国とアフリカとの間に、さらに強いパートナーシップが生まれる事を願う講演を行なった。その何か月か後、186か国の加盟国保健相などによる非公開形式の投票によって、テドロスは第8代のWHO事務局長に選ばれた。選挙の翌日、彼は中国からの後押しに感謝する形で、「私とWHOは、今後も一つの中国を支持していく」と決意表明している。https://www.nytimes.com/2017/05/23/health/tedros-world-health-organization-director-general.html テドロスは決意表明通り、武漢においてコロナウイルスのパンデミック化や、中国政府による証拠隠滅が疑われた際、それらを警告した台湾を完全に無視し、中国共産党の主張をそのまま世界に保証してみせた。
アメリカによるWHO拠出金の一時支払い停止が発表された事を受けて、中国は更にWHOに対して33億円の寄付をすると発表した。これを受けてWHOへの中国の影響力強化を懸念する声もあるが、むしろ33億円の寄付は中国がアフリカに貸し付けている融資に比較すれば、僅額である。https://nypost.com/2020/04/23/china-to-make-30m-donation-to-who-after-trump-halts-payments/
アフリカ諸国における中国の影響は、中国が2014年より推進している外交政策である『Belt and Road Initiative (一帯一路)』によって、年々強まっている。アフリカ諸国の政治家らは、中国資金によるインフラストラクチャー整備や貿易促進、融資によって、中国の意向に逆らう方針を掲げる事が困難になってきているのだ。テドロスはエチオピアの政治家であるが、エチオピアは中国との間にある120 億ドルにも上る借金返済に苦労している最中であり、エチオピアの将来を握っているのは中国と言っても言い過ぎでは無い。https://qz.com/africa/1634659/ethiopia-kenya-struggle-with-chinese-debt-over-sgr-railways/ https://www.wsj.com/articles/as-africa-groans-under-debt-it-casts-wary-eye-at-china-11587115804
彼はエチオピア外相時代、『アフリカ連合』の理事会議長でもあったが、『アフリカ連合』本部の建物は中国によって建てられ、設置された中のコンピューター等も中国によって寄付されたものだ。フランスの新聞『ル・モンド』によれば、中国はこの建物、また設置されたコンピューターによってアフリカ連合の内部に対して盗聴などのスパイ活動を5年間にわたって行なっていた事が判明している。中国は、エチオピアだけではなく『アフリカ連合』に属する国々の機密や、政治家らの個人情報に通じているとも疑われる。
https://qz.com/africa/1192493/china-spied-on-african-union-headquarters-for-five-years/
いずれにせよWHOのテドロスは、エチオピアの政治家として、中国の意向に逆らえない立場にあるのだ。
トランプ大統領は、コロナウイルスが世界的パンデミックとなった原因をWHOにも向け、拠出金の一時不払いを決定した。WHOにとって最も大きな資金提供者は米国であるが、WHOやテドロスが、中国の言いなりになったように米国に対して阿る事はない。米国のみならず、その他の西側諸国も、WHOやアフリカ諸国への経済援助や融資を行なっているが、中国の様な『影響力』は発揮できない。もし民主主義先進国や西側の政治家が中国のような政治工作を行えば、必ず内部告発やメディアによって不正は暴露され、司法の判断、国民の反発によって政治生命を絶たれるだろう。
我々は国連やWHOのような機関が中国寄りの国際機関となって行くことを目の辺りにしている。しかしながら、西側民主主義国家の一員として、中国のやり方を真似ようとしたり、こういった国際機関からの称賛や理解を得ようと躍起になるべきではない。国連やWHOなどは、不正腐敗の温床となる構造であり、本当の紛争解決や衛生や健康の改善には役立つ機関ではないのだ。
国連やWHOを脱退するべきかどうかについての判断は、いずれ各国の国民がしていくだろう。しかしながら、少なくとも国民の健康と命を守る為には、中国やその手先機関の主張を鵜呑みにたり、それらに安全を任せる構造からは脱却を図るべきだと思われる。これらの厳しい教訓は、ヨーロッパがパンデミックによる打撃によって初めて悟った現実である。