韓国の『反日ナショナリズム』を理解する

以前も書いたが、ナショナリズムとは、自国を美化する神話を含んだ国家意識と共に、国民を別の集団に反対してまとめる主義を指す。ナショナリズムは、米国、日本、ロシア、韓国など、多くの国に存在し、その主張には、他国のナショナリストには共感し得ない、自国への美化や正当化が羅列されているが、特に「パトリオティズム(郷土愛)」と異なるのは、ナショナリズムには必ず『敵』と『被害意識』が存在している点だろう。
 
ロシアのナショナリズムは、欧米や西側を敵視する。実際、ロシア人ナショナリストらは、アメリカ人がロシアについて考える以上に、アメリカ人によっていかに自分たちが敵視されているかを信じ込み、アメリカ人への敵対心を「挑発への反発」として煽動する。彼らにとって『反西側主義』は、実際には攻撃されていないのにもかかわらず、『自衛』でもあるのだ。
 
アメリカのナショナリズムは、外国人を敵視してきた。但し最近の傾向では、イスラム教徒やメキシコ系だけでなく、同盟国、また国内のリベラル派も「アメリカにとっての直接的な脅威」と見做されている。自分たちが守ろうとしている生活様式への脅威が、リベラル派によってもたらされていると感じているからだろう。
 
日本のナショナリムズは、韓国、中国、またアメリカを敵視している。特に韓国に対する敵愾心は近年にない激しさを見せているが、日本のナショナリストらは一葉に、自国を守る気概を口にする。例え「韓国人は死ね!」等と書かれたプラカードを掲げる反韓国のデモ行進者であっても、自分たちこそ攻撃を受けているのだと信じているようだ。
 
韓国のナショナリズムは、反米、反日でまとめられていると言って良いだろう。特に日本に対しては、韓国人ナショナリストらは海外に在住していても活動を続けている。日本人ナショナリストと同様、活動を続ける人々の多くは戦後生まれの筈だが、それでも、たった今見てきたように「日帝」の犯した悪を語ってくれる。
 
こうしたナショナリストたちの主張が、いついかなる場合にも変わらないという悲観はしていない。論理的議論や、知見を広げることによって『被害妄想』から抜け出す場合もある。私は日本のナショナリズムを厳しく批判するが、勿論、韓国やアメリカ、ロシアのナショナリズムに対しても同様である。
 
但し、意外と知られていない韓国の反日ナショナリズムの背景について、以下に在韓アメリカ人学者、ロバート・ケリー教授の記事を訳してご紹介する。まず、韓国に蔓延しているかのように見られる「反日ナショナリズム」について、まず原因を知る姿勢も必要に思えるからだ。

Why South Korea Is So Obsessed with Japan | The National Interest Blog

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『北朝鮮の真のイデオロギーが社会主義ではなく、朝鮮民主主義人民共和国が外国勢力から民族を守っているといった、『民族』をもととした韓国ナショナリズムである事は、今では広く受け入れられている。国際化した経済、米軍基地、文化の西洋化、韓国に住む外国人の存在などの為に、北には『ヤンキーの植民地』と呼ばれる韓国は、北の『民族の純血』を強調した史観には太刀打ち出来ないのだ。
 

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こうした事も、もし韓国の政治アイデンティティ―が、人種を超えた真の民主主義であったならば、問題とはならなかっただろうが、政治アイデンティティーは違うのだ。『民族』への神話は、韓国内にも深く共鳴されているのだ。韓国の教育はそれを教え、国営メディアはそれを広め、業界はそれを強調し、私の教え子たちもそれを称賛した文体で書いていた。何年か前までは、国の忠誠の誓いは、民主主義国家『韓国』ではなく、『民族』に対してなされていたのだ。また韓国の民主主義は民族を基本としたナショナリズムに対抗できる強固な正当性を与えていないのだ。また一部の特権階級が政治的機会に恵まれるような機構は、路上デモの文化を作り出し、選挙結果が尊重されていない徴しとなっている。
 
もし韓国が民主主義を通して、か細く自身を正当化するとして、強力な民族ナショナリズムを背景に、ソウルは、『民族』と『5,000年の輝かしい歴史』の擁護者であるかを平壌と競う場合、接戦を迫られるのだ。しかし、北朝鮮による「虚偽の歴史を作り出す意欲」の為だけではなく、米軍の存在、市民の間に人種混合を推進する多文化主義の発達などによって、韓国にはこの戦いに勝ち目はない。北の純粋な民族主義ナショナリズムは、韓国でも何十年に渡り、絶えず共鳴されてきた。独裁者であった朴正熙故大統領は民族による正当性を強調し、最近の議会選挙では、10%の国民は公けに親北朝鮮の政党に投票をしているし、主な左翼政党は、北朝鮮よりも米軍基地の存在の方が韓国に対する脅威であるかのように、一貫して態度を曖昧にしてきた。
 
さてここに、韓国にとって「都合の良い他者」として本来ならば北朝鮮が占めるべき場所に、日本が登場する。北朝鮮、韓国に関係なく、朝鮮半島の全ての人々は日本による植民地支配(併合)が悪であった事には同意している。北朝鮮を非難する事は、すぐさま「誰がより優れた民族の後継者か」という問題を再熱させるが、日本を非難する事への道徳性は議論の余地が無い。本来ならば、これは必要のない議論なのだ。西ドイツは東ドイツに対して自らのアイデンティティーを明確にし、正当性の争いに勝つことが出来た。ところが北はマルクス主義を捨て、韓国も共鳴する民族の正当性に置き換えてしまったが、民主主義はこれに打ち勝つ力はないのだ。
 
であるから、日本を罵倒する事は、優れた『解決策』なのだろう。日本を非難する事で、韓国は民族の擁護者となり、あからさまな北へのシンパシーを煽動し兼ねない北との激しい民族ナショナリズムの競争から一歩退く事が出来る。また、財閥と呼ばれる凝り固まったエリートらを韓国政治から一掃する必要が生じる韓国の政治的正当性を、長期的に民族から民主主義へと変える為の議論を避ける事ができるのだ。とどのつまり、反日本主義は、韓国の多くの問題を管理するのに都合が良い戦略なのだ。しかも、アメリカが安全保障を担ってくれる限り、地政学的な代価を払わなくて済むのだ。
 
何の問題があるだろう。韓国が反北朝鮮になる事が出来ないならば、反日本で良いではないか。』
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また、以下はアンジェイ・コズロウスキー教授の書かれた日中韓のナショナリズムに関する洞察だ。
 
『中国の反日プロパガンダを反米の予行演習か何かであるような吹聴は、全く馬鹿げている。実際、中国は反米プロパガンダを反日プロパガンダよりずっと以前から行ってきているのだ。しかも中国による反米プロパガンダの主張は、日本人ナショナリストらの主張と同じなのだ。また中国と韓国には大きな違いがある。
 
無知な日本人ナショナリストの主張とは異なり、中国人の間では日本に対する敵愾心は殆ど無い。中国の田舎に出かけた事のある人間ならば、これに同意するだろう。実際に中国人とかかわった事のある人間ならば、一般の中国人の間に日本への憎悪がない事は明らかなのだ。第一彼らには日本に関する知識も無いし、政府の流すプロパガンダを読んだり聞いたりすることも無いのだ。中国では意図的に反日感情を煽るのは政府であり、共産党である。彼らは自分たちの都合に合わせてこうした感情を煽動しているのだ。
 
しかし韓国は逆である。韓国のナショナリズムは実在し、日本の植民地支配によって反日感情はナショナリズムの中心を占めている。日本人ナショナリストは認めようとしないが、韓国人ナショナリストらは反中国でもある。また韓国政府は、大抵反日ナショナリズムを煽動しようとせず、抑える方向で働くが、北朝鮮はこうした韓国政府による対日本への穏健な姿勢を、絶えず弱さの兆候として宣伝してきた。そうする事で、韓国人ナショナリストからの支持を得られるからだ。日本のナショナリストらとは違い、韓国のナショナリストらは左派(親北派)が多い。勿論韓国人ナショナリストの間には右派も存在するが、左派ナショナリストよりも声が小さい。
 
日本の場合は、これとは逆である。左派が「インターナショナリスト」であり、ナショナリストらは自分自身を「愛国者」と呼んだり、「保守派」と呼び、右派に属する。勿論、こうした定義は単純化されている。例えば、日本人ナショナリストらは、基本的に左翼と全く同じ、西側やアメリカなに対する『世界観』を持っている。それでも彼らは自分たちを右派であると信じているのだ。』
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韓国の反日ナショナリズムついて反感を持つにしても、反日ナショナリズムの台頭と北朝鮮からの圧力の狭間にある韓国政府の微妙な立場を理解する事は、日本外交の成否を決める上で欠かせない知識である。
 
こうした微妙な外交の現実は、実は日本だけが抱えているのではない。
 
約3,000人のアメリカ人が殺された911テロのハイジャッカーたちの多くは、エジプト人、またサウジアラビア人であり、両国はアメリカにとって敵対国ではない。911テロに関して、特に同盟国であるサウジアラビア政府の関与が疑われていたが、アメリカはサウジアラビアとの同盟関係、またテロリストやテロに関する情報提供の協力を重視し、サウジアラビア政府の責任を追及していない。サウジアラビア政府は、国内のイスラム教徒にとっては世俗主義と考えられており、サウジアラビア政府の責任が公式に問われ、政権が転覆でもされれば、更に反米イスラム主義国となる可能性が濃厚だからだ。道徳的、あるいは倫理的怒りや反発に任せてサウジアラビア政府に圧力をかけた場合の結果は、アメリカが意図しないものとなる事がわかり切っているからだ。
 
日本の場合も同様だ。(尤も、アメリカがサウジアラビア人に恨まれるよりも、韓国人に憎まれるべき要因が日本には遥かにあるのだが...) 誰が政権に立っていても、韓国政府への圧力は、更なる民間の反発を招くし、そうした民間の活動に圧力をかけようとすれば、更に反日的要素のある政権が誕生するだろう。
 
「元々は韓国政府が蒔いた反日感情の種が手に負えなくなっただけ」として理解すら拒めば、しっぺ返しは必ず日本にもやって来るだろう。