ボリス・ネムツォフ故ロシア副首相の死を悼むロシア国民の無言の抵抗

ロシアの副首相ボリス・ネムツォフが、深夜12時近く、モスクワのボリショイ・モスクワレツキー橋を渡っている最中、背後からの銃撃による4弾発を頭や胴体に受けその場で即死したのは2年前の2015年2月27日の事である。プーチンによる恐怖政治や同僚への迫害を批判し、ウクライナ侵攻に反対する平和行進を提案したその数時間後、彼は帰らぬ人となってしまった。55歳の若さだった。モスクワでは何千人もの人々がロシア国旗を掲げて、花束やろうそく、写真を持ち寄り、ネムツォフの死を悼んで、無言の反抗を行なっている。日中ロシア当局は、花束などを「治安への妨害」として除去してしまったが、日が暮れると人々はまた花束等を持ち寄り、ネムツォフの死を悼み、プーチン政権への怒りとロシア民主化の儚い希望を表している。

https://www.nytimes.com/2015/03/03/opinion/the-brilliant-boris-nemtsov-a-reformer-who-never-backed-down.html?_r=0

Boris Nemtsov: Moscow state workers demolish memorial to slain Russian opposition leader | The Independent

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        故ネムツォフ副首相の死を悼むモスクワ市民による花束

ネムツォフが暗殺される直前の2月10日、彼は「彼がいつかプーチン大統領に暗殺されるのではないか」と87歳になる彼の母親が憂慮している事を書いている。彼の母親は同様に、プーチン大統領による、ミハイル・ホドルコフスキーやアレクセイ・ナヴァルニーの暗殺も心配していると書かれているから、こういった憂慮が杞憂ではない事がわかる。

Boris Nemtsov - Wikipedia

ロシア一のビジネスマンであり、プーチン対抗候補者とも言われていたミハイル・ホドルコフスキーは、ロシア政府によって賄賂や脱税への冤罪を着せられた後、逮捕、禁固9年の実刑判決を言い渡され、プーチンに対抗して選挙に立候補する資格を奪われている。欧州人権委員会は、逮捕、一連の裁判や収監中に、彼に対する重大な人権侵害があったとして、ホドルコフスキーに対してロシア政府に2万4500ユーロの支払いを命じているが、刑期を終え釈放後の現在ホドルコフスキーはスイスに亡命している。

Mikhail Khodorkovsky - Wikipedia

プーチン大統領が最も恐れる男と言われる、弁護士であり、民主化活動家であるアレクセイ・ナヴァルニーに至っては、ロシア政府による被害者のいない『窃盗』の言い掛かりで実弟が刑務所に送られ、自身も軟禁状態にある。勿論、ロシア政府によってありもしない不正が言い立てられ、プーチンに対抗して立候補する権利を剥奪されてしまった。プーチンは「ナヴァルニーなど取るに足らない男だ」と豪言しているのだが、だったら不正をでっち上げる事なく、ナヴァルニーの被選挙権を剥奪する必要など無い筈だ。

Alexei Navalny - Wikipedia

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        プーチンが最も恐れる男と呼ばれる民主運動家のアレクセイ・ナヴァルニィー

プーチンによる反対者やジャーナリストへの迫害、暗殺などを書く度に、「あれだけ支持率の高いプーチン大統領が反対派を殺害する訳がない」などという意見を耳にする。支持率の高さが圧制や反対者への迫害が無い証拠ならば、トルコの残虐な独裁者、エルドアン大統領も反対派を弾圧していないと言うのだろうか。トルコよりも、もっと日本人には身近な話題かもしれない、北朝鮮の金正恩などの支持率などは100%を超える場合もあるようだから、彼こそ全国民の支持を受ける偉大な指導者ということになる。
 
こういった高支持率を背景に、「弾圧などある筈がない」と主張する発言は、「投票しなければ罰せられる」という恐怖感が行き渡る国での選挙というものを、恐らく理解していないからだそろう。
 
ロシア政府による暗殺や殺害には、何種類かある。
 
ボリス・ネムツォフ故副首相の暗殺のように、プーチン大統領の政敵やジャーナリストなどの批判者が暗殺される場合。またもう一つは、プーチン政権初期に、クレムリン政権高官や治安部高官が突然謎の死を遂げ足り、暗殺される場合だ。初期に突然の不審死を遂げた高官で最も有名な事件は、KGBのアナトリー・トロフィモフ将軍の殺害だと言える。ただ最近になり、こういった暗殺事件が再発し、短期間に10件ほどの外交関係者、治安部高官の暗殺が続いている。
ボリス・ネムツォフ故副首相の暗殺に関しては、ネムツォフ氏を非常に憎んでいた、ラムザン・カディロフ、チェチェン共和国大統領の仕業である事が、ほぼ間違いないだろうと言われている。ネムツォフ故副首相の暗殺に関しては、プーチンは事前に知らされていなかった可能性すらあるが、プーチンもカディロフを反対する事は決して無い。カディロフは、誰でも自由に殺害、暗殺できる力を有し、実際に多くの人々を殺害している。

Ramzan Kadyrov - Wikipedia

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             故ボリス・ネムツォフ副首相の暗殺に抗議するモスクワ市民

カディロフとプーチンとの関係は、北朝鮮と中国の関係と似ている。カディロフは腐敗した強権専制君主であり、多くの殺害を侵してきている。但し彼は、自分への批判に対して非常に繊細であり、批判者に対しては脅迫し、あるいは暗殺の実行者を送っている。チェチェンからの迫害を逃れた亡命者によれば、カディロフは自分に批判的なチェチェン国民を誘拐し、拷問を加え、殺害し、ロシアにいる人々まで刑事免責を利用して暗殺していると証言されたが、この亡命者も殺されてしまった。権威のあるロシア治安局高官でさえカディロフを警戒しているが、プーチンがカディロフを必要とし、メダルを与え続けているため、誰も彼を排除する事が出来ない。
プーチンがカディロフの暴走を止める事は、中国が北朝鮮の暴走を止めるようなものだろう。第一に、プーチンは、人々を恐怖に陥れるカディロフの残忍さや暴政を利用している。プーチンを公けに批判しても、プーチン本人が脅迫めいたことを語る事はない。プーチンの代わりに、「このような人間は、厳しい教訓が教えられるべきだ」等の脅迫をするのが、カディロフだ。
 
実際に彼は、何人ものプーチン批判者を暗殺し他と言われている。自身の手を直接汚す必要が無い為、カディロフはプーチンにとって都合が良い。カディロフはチェチェンを恐怖でもって支配し、絶えずどこかで戦闘があるものの、比較的に安定した政権を保っている。カディロフは、プーチンが直接関連付けられたくないような、最も残酷で野蛮な方法を使って都合の悪い人々を拷問する為、プーチンはカディロフの与える恐怖の有効性を評価し、プーチンが彼を手放すことはない。勿論、時としてカディロフの過激さを不快に思う時もあるだろうが、カディロフの与える恐怖感こそが、プーチンの独裁を安定させているからだ。

 

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     アパートのエレベーターで射殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ

私は、自由な立場にあるものとして、厳しくプーチンを批判する。命の危険を侵してこれらを主張してきたロシアのジャーナリストや民主活動家らに比べれば、私の批判など何でもないだろう。
 
ハッキリと述べるが、プーチンは大量殺人者である。プーチンが権力の座についたのは、そもそも300人に及ぶ自国民を意図的に犠牲にし、カティロフ以前のチェチェン共和国の犯行とした『アパートメント爆破事件』が背景にある。彼はチェチェンへの憎しみを煽り、第二次チェチェン戦争の指揮をとる事で、強い指導者を演出し、国民の支持を集めた。自身の権力欲の為には300人の自国民の犠牲も厭わない、KGB体質の典型である。
 
私はロシア人に反対をしているのではない。ロシア人がアメリカや西側、民主主義国家、あるいは人道への敵なのではない。プーチンがロシアの敵であり、アメリカや西側、民主義国家、また人道への敵なのだ。ロシア人の敵はプーチンである。
 
「どのようにロシアとの協調を図るべきか」といった議論が、西側諸国では語られる。しかしなぜ、プーチン・ロシアは「どのように西側との協調を図るか」考えなくて良いのだろう。平和共存や共存の道を探らなければならないのは、プーチン・ロシアの方だ。西側の責務は、プーチン・ロシアに対して人道への原則を示し、それを変えずに、プーチン後のロシアを迎える用意のある事を、示すより他はない。