「さらば理性、もはやこれまで」 中西氏への反論 ①
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『実際、「安倍談話」と「日韓慰安婦合意」は、歴史観をめぐるこの数十年にわたる日本の保守陣営の戦いにおいて、まさに歴史的な大惨事であった。
まず、「日韓慰安婦合意」は、いまや殆ど全ての日本人が嘘だとわかっている、韓国人慰安婦の「強制連行」と「性奴隷」化を日本政府が世界に対して公然と 認めたのだから、これを「大惨事」と言わずして、そもそも何と言えようか。たしかに今年に入り二月十六日に、外務省の杉山外務審議官がジュネーブにある国 連人権理事会の女子差別撤廃委員会で、「強制連行」報道のもとになった吉田清治証言の虚偽や朝日新聞の語法について初めて国際場裡でスピーチし、それらに ついての韓国側の主張がいずれも根拠のないものだということを会議の出席者に訴えた。まことに遅きに失したが、日本の外務省がこうした反論をするのは初め ての出来事だった。』 (歴史通5月号、95~96頁)
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中西氏の主張は、安倍首相が日韓慰安婦合意において、韓国人慰安婦の「強制連行」と「性奴隷」化を日本政府が世界に対して公然と認めた…と仰るのですが、日韓政府の合意発表内容を見ても、「強制連行」や「性奴隷」という表現は、どこにも見当たりません。http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001667.html
この発表の新しい点は、元慰安婦の女性に対する支援金が約束されているというだけで、歴史論争としての慰安婦問題に対する日本政府(安倍政権)の認識に違いはなく、むしろ韓国側から見れば後退をしていると思われてもおかしくない内容です。
安倍政権の認識に違いがないからこそ、中西氏ご本人も続けて指摘されている通り、今年2月16日に、外務省の杉山外務審議官がジュネーブの国連人権理事会 に於いて、「強制連行」や「性奴隷」などの「韓国側の主張がいずれも根拠のないものだということを会議の出席者に」訴える事が出来たのです。
中西氏は、この杉山外務審議官のスピーチを指し、続けて以下のように書かれています。
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『日本国内では、この報道は異様に大きく報じられているが、この杉山氏のスピーチは実はきわめてカジュアル(非公式)な性格のもので、海外メディアでは 全くと言ってよいほど無視されている。そもそも杉山氏のスピーチは日本外務省の方針もあり、口頭によるものに限るとされ、正式の記録に留められるようなも のではなかった。そこに外務省の隠れた意図が見え隠れする。…』(96頁)
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杉山氏のスピーチが文書化されていない点を指して、国際的には意味が無いと主張をされていますが、『強制連行』『性奴隷化』なども、同じように文書化はされていません。またそれらについては、日韓の合意の場では言及すらされていません。
一方のスピーチについては「文書化されていないから意味がない」と仰るなら、合意の場で言及すらされていない『強制連行』や『性奴隷化』などは、合意とは全く関係がないと一蹴されるべきです。
「知性」と「論理」に生きられる「知識人」ならば、「文書化されていないから意味がない」という原則のもとに、「強制連行」や「性奴隷化」も合意には含ま れていないと解釈をされるか、或いは「文書化されていなくても、正式の場で公人が述べた内容には意味がある」という原則のもとに、杉山審議官の演説を公式 見解として認められるかしかありません。
また、「国際社会の場でのお互いの批判を控える」という合意内容を、「事実関係の訂正や主張もしない」と勝手に解釈され、ご自分の尻尾を追い回す「空回り」のような批判をされています。
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『そもそも、あのような(つまり韓国との間で、今後、国連など国際社会において相手国の立場を批判したりしない、という)合意をしたこと自体が問題なの であり、これは日本からの反論の機会を永遠に奪う事にもなっている。日本政府は何という合意をしたものだ。しかも、それにも拘らず、このジュネーブでの杉 山スピーチは何なのか。こうした日本の外交当局の場当たり的な行動が、逆に国際社会における日本の国家としての信用をさらに傷をつけることになるのであ る。』 (96頁)
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「日本からの反論の機会を永遠に奪う」と勝手に解釈をされ、「何という合意をしたものだ」と嘆かれたかと思えば、「それにも拘らず、…杉山スピーチは何なのか」と、まるでスピーチが悪かったかのような批判をされ、「場当たり的」なのは、ご自分の解釈ではなく「外交当局」だとして、「日本の国家としての信用をさらに傷つける」と憂慮をされています。
繰り返しますが、中西氏のご杞憂は、中西氏ご本人の誤解が基となっています。
いずれにせよ、安倍政権が「強制連行」や「性奴隷化」と認めた記録はありませんから、日韓合意をもって「生きるか死ぬか」と仰るのは早計すぎます。
尤も、「生きるか死ぬか」と仰っても、お元気でご活躍のことと拝察致しますが...