狂信的ナショナリストたちが、いかに日本を傷つけているか

2013年、ディプロマット誌は、過去に対する日本の謝罪が忘れられてしまう原因を、歴史論争が中国や韓国によって政治問題へ発展してしまった点を挙げて書きましたが、同時に、日本側の問題点として、歴史修正主義者・ナショナリストの言動があるとし、靖国参拝、ニュージャージー州の慰安婦碑設置への反対、竹島領有の主張、中韓が設置した安重根の像に対する懸念や村山談話や河野談話の否定などを例として挙げています。

Why Are Japan’s Apologies Forgotten? | The Diplomat

 

また、安倍首相を含む多くの政治家、ジャーナリストや学者などの連名がある、2012年11月の慰安婦たちが強制連行されていなかったことを主張したアメリカでの広告を挙げ、広告に記載されているウエブサイトが『南京はねつ造だ』と主張しているサイトであると批判しています。

 

ワルシャワ大学のアンジェイ・コズロウスキー博士は、ハワイ大学のジョージ・アキタ名誉教授が去年の講演で言及された「慰安婦は性奴隷ではない」という趣旨の論文を書かれた親日派の方ですが、「狂信的ナショナリスト達が、いかに日本を傷つけているか」というご意見を述べられています。

 

(博士は「歴史修正主義者」に対しては学問的な見地から問題としない意見を持たれていますが、アメリカのジャーナリズムが「歴史修正主義」を呼ぶ時は、博士が「ナショナリスト」と呼ばれる主義とほぼ同義語を意味します。)

 

ディプロマット誌の批判に対しては、日本側の『歴史修正主義者』でなくても言い分があるのですが、その言い分が全く考慮されない原因を探るカギは、以下のコズロウスキー博士の意見にあるかもしれません。

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『問題は、「歴史修正主義」というよりも、狂信的なナショナリズムが問題だと考える。「修正主義」とは左翼によって何か悪い事かのように使われているが、本来歴史の修正に悪い意味はない。歴史観は常に修正されてきたし、戦前の日本の姿や日本が戦争を起こした原因も修正されてきた。たとえば、日本はかつてナチス・ドイツと比較され、神道と天皇制が戦争の責任を負っていると考えられてきた。これらの主張は、今では殆ど主張されていない。

 

しかしながら「真の歴史修正」は、両方向に働くものだ。見直しによって以前考えられていた歴史観より、良い事実が明らかになる場合もあるし、悪い事実が明らかにされる場合もある。

 

それでも「狂信的なナショナリズム」は、一方向にしか働かない。「日本人は犠牲者であり、つねに高貴な精神を持ち、勇敢であり、不幸性によって悪者とされている…」このような「修正主義」を信じる日本人以外では、そうすることで経済的な利益を得ようとする不誠実な外国人の他には誰もいない。特にそのような修正主義が、既に論破されている非論理的な陰謀説を基いにしているとしたら、尚更だ。

 

それよりも、これらの狂信的ナショナリストたちが日本に対して加えている危害は、「日本は信用できる国ではない、拡張と占領の野望を持ち、日本民族の優位性を信じ、過去の日本の行いのどんな責任も取ろうとしない」という中国や左翼による主張にお墨付きを与えていることである。

 

更に、アメリカ人は、アメリカ人飛行士に対する斬首や食人など、アメリカ人捕虜の受けた酷い扱いを忘れてはいない。殆どのアメリカ人は、日本は完全に変化を果たし、それらの行ないを正当化するような日本人はいないと信じている。しかしながら、ナショナリストたちがこれらの行為の行なわれたことを否定したり、却ってアメリカに非があるかのように主張するのを聞く度に、日本の変化が本心からではないと疑いが起こるのだ。

 

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この疑いは、トランプのような人間が、日本をアメリカと同じ価値観を共有する同盟相手としてではなく邪悪な敵として描くのに容易な環境を整えるのだ。』

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ディプロマット誌は、安重根の記念像に対して菅官房長官が懸念を表明したことまで、「東京大空襲で少なくとも10万人の日本人を殺害したカーチス・ルメイを、日本は勲一等旭日大綬章を授与している。自国の為に敵国人を相手に戦う事は、犯罪とは違う事を日本は知っている筈だ。」として、敵だったアメリカ人を犯罪者と呼び続けることはしないのに、韓国人の安重根に対しては「犯罪者と呼んでいる」と書き、韓国人に対する人種差別が記念像設置の原因にあるかのように分析しています。

 

また、「慰安婦は強制連行されていない」と主張する広告は、南京での虐殺をねつ造としている記事を掲載しているサイトによって出されているとして、「明らかに起こった虐殺事件として、日本の歴史学者や軍の記録にさえ残っている南京を『ねつ造だ』と全否定するサイトが、慰安婦は強制連行されていなかったと主張するならば、慰安婦に関する主張も信じがたい」という主張をしています。

 

果たして、「安重根の記念像に対する日本側の懸念は、人種差別が原因ではない」と堂々と主張できるほど、日本のナショナリストの主張は人種差別的な要素とは無縁のものでしょうか。

 

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果たして、「安重根の記念像に対する日本側の懸念は、人種差別が原因ではない」と堂々と主張できるほど、日本のナショナリストの主張は人種差別的な要素とは無縁のものでしょうか。 また捕虜虐待や民間人の虐殺など、日本軍の行なった戦争犯罪全てを「ねつ造だ」というような、日本軍無謬説は主張されていないでしょうか。

 

ディプロマット誌は、日本の過去の謝罪、それも「世界の国々が行なってきた謝罪以上の謝罪を、日本が行なってきた事が簡単に忘れられてしまう原因」を述べました。

 

またコズロウスキー博士は、それを更に分析されました。博士は、中国や左翼が描こうとしている「国際社会一般の善悪の概念や価値観とは違う概念、価値観を持つ日本国民」というイメージを、日本のナショナリストたちがお墨付きを与えているとされ、そしてそれが何よりも今日の日本を傷つけていると書かれています。

 

勿論、異なる意見をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。但し、決して感情的でなく、客観的に歴史を捉えようとされている海外の学者の方と話しをしても、大抵、同じようにお考えになっています。

 

「日本無謬論」や「日本民族の優秀性」また「差別意識」からはかけ離れた客観性を伴っていると見られない限り、日本の主張が「良い意味で世界に広まる」ことは無いようです。