ヒラリーよりもプーチンへの好感度を増す共和党支持者---WSJ

ウクライナ不法占拠から始まって、シリアへのロシア軍派遣、アメリカ大統領選挙に影響を与える事を目的とした、民主党と共和党への大胆なハッキング、シリア・アレッポにおける連日連夜に渡った大規模な空爆による一般市民への虐殺などを考えれば、2012年、オバマ大統領に対して、ロシアをアメリカと世界秩序に対する最も大きな脅威だと訴えた、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の主張は正しかったと言える。

しかしながら、そのロムニー州知事を推していた共和党は、プーチン大統領に対する否定的感情を緩和させている。共和党員によるプーチンへの好感度は、2014年7月には‐66%(マイナス66%)にも上ったが、2016年12月には‐10%(マイナス10%)となっている。民主党員によるプーチンの好感度は2014年7月には‐54%(マイナス54%)だったが、2016年12月には‐62%(マイナス62%)だ。

同時に、共和党員によるオバマ大統領への好感度は‐64%(マイナス64%)、ヒラリー・クリントンに対しては‐77%(マイナス77%)である。驚くことに、自国の大統領や対立政党からの候補者に対する嫌悪感の方が、実際の敵国首脳に対するそれよりも強いらしい。

GOP voters warm to Russia, Putin, WikiLeaks, poll finds - The Washington Post

https://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/ro9rimrce9/econTabReport.pdf

こうした意見は、自らの支持政党の視点によって影響されていると考えられるが、このような共和党支持者によるプーチンへの親睦感情に対して、2013年にはピューリッツァー賞を受賞したウォール・ストリート・ジャーナル紙のブレット・スティーブンス副編集長(外交問題コラムスト)は警告をしている。彼の書かれた以下の記事は、論理に逆らってプーチンへの親近感を増す共和党支持者への皮肉を込めた厳しい批判である。

How I Learned to Love Putin - WSJ

----------

ヴラジミール・プーチンは、私の心配の種となっていた。しかし、もう心配はしていない。

1999年9月、ロシア3都市で起きたアパートメント連続爆破事件は、約300人の住民を殺害した。クレムリンはすぐにチェチェンの反政府勢力を批判し、第二のチェチェン戦争を開始した。

同月下旬、ロシアの秘密警察FSBのエージェントが、リャザン市のアパートメントの地下室に爆発物を設置した。当局はこれを訓練の一環と主張したが、この「爆発物」が、まさか砂糖の袋だった訳ではない。ロシア議会による独立捜査はらちが明かなかった。この事件に関わる調査書は75年封印される事となる。このアパートメント爆破事件によって、プーチンは権力に立った。

マクベスも恥じらい、リチャード3世も赤面するような自作自演の工作に、かつてはプーチンが権力に立つかもしれないと考えてゾッとしていたものだ。だが、心配はいらないようだ。シリアのテロリストを掃討する為には、プーチンが無くてはならないのだから。

f:id:HKennedy:20161215095342p:plain

    トランプ氏とプーチン大統領の親密な関係を描くリトアニアの壁画

 

リャザン事件の捜査委員会メンバーには、自由主義政治家のセルゲイ・ユシェンコフと捜査ジャーナリストのオットー・ラツィス、ユーリ・シェコチーヒンがいた。ところが、ユシェンコフは2003年の4月に暗殺された。ラツィスは2005年9月、ジープが彼のプジョーに突っ込んできた後、死亡した。シェコチーヒンは2003年6月、突然重病となり、全ての髪の毛を失い、6日後、多臓器不全によって死亡した。

その翌年、ロシアに警戒するウクライナの反対勢力、ヴィクトル・ユチェンコは、大統領選に立候補しているキャンペーンの最中、突然不思議な病に倒れた。彼は何とか当選したが、ダイオキシン中毒とみられる後遺症で、彼の顔には酷い損傷が残った。2年後、元FSB(秘密警察)で、イギリスに亡命していたアレクサンダー・リトヴィネンコは、致死量のタリウムを摂取した。イギリスの司法は、彼の殺害はプーチンの個人的許可を得たFSBによる犯行だと結論付けた。

そんな事、大したことではない。ドナルド・トランプ次期大統領が去年、スカボロー・ジョーに語った発言によれば、「アメリカだってたくさんの人を殺している」のだから。

リトヴィネンコのケースは、FSBが裏切り者だと考えた男に対する報復の一環だ。その他のクレムリンの作戦の多くは、もっと広い範囲で、外国の政策を変えようとする為の目的がある。

2015年、ドイツの国内諜報機関はロシアがドイツ議会のemailアカウントをハッキングしたと結論付けた。ブルガリアの選挙委員会は、同年、ブルガリアが「我が国民主主義への攻撃」と呼ぶ、サイバー攻撃の対象となった。イギリスの諜報機関、M15のチーフ、アンドリュー・パーカーが先月ガーディアン誌に語った内容によれば、「ロシアは、連邦の全ての機関と権力を通して、プロパガンダ、スパイ、政権転覆、サイバー攻撃などを含む、日増しに攻撃的な方法で、自らの外交方針を海外に押し付けている。」

だが、なぜ彼の言う事を信じる必要があるのだろう。ロシアを非難する時には、西側の諜報機関が誤っていると考える方が楽ではないだろうか。ロシアの『さし始めの手』の全てが、暗い秘密の動機によるものではない。時には動機が強欲による場合もある。

2003年、プーチン政権はエネルギー企業のユコスの資産を凍結し、会長であったミハイル・ホドルコヴスキーを、シベリアにある強制労働所に約10年近く送った。2006年クレムリンは環境に関する口実を用いて、サハリンにおけるシェル石油の企業支配権を止め、2,2兆円に上るガスプロジェクトを、半国営企業で天然ガス独占企業であるガスプロムに与えてしまった。現在BPの会長であるボブ・ダドリーは、2008年、ロシア人パートナーとの合弁事業が急止されてから、ロシアより撤退している。報道によれば、命の危険を感じたらしい。それと同じ年、エクソン・モービルの会長であるレックス・ティラーソンは、サンペトロブルグで「今日のロシアには、法に対する尊重の念が無い」と警告するスピーチを行なっている。

私は、ロシア国内の不法を心配していたが、2013年にティラーソンが『友好勲章』をプーチンによって授けられたのだから、何も不都合はないのだろう。

ティラーソンは、交渉人としての評判が高い。その技術こそ、トランプが最も高いレベルの「アート・オブ・ザ・ディール(交渉の芸術)」を実現する為に、国務長官に求めている事らしい。その交渉とは、ロシアにとっては西側の経済制裁解除が関係するのかもしれない。ティラーソンも制裁解除を支持している。ウクライナの一部をロシア領と認める代わりに、NATO加盟国に対する侵略しないという約束を交わすのかもしれない。

ロシアは信頼に値するだろうか。2013年9月、プーチンはシリアを指して「外国の内戦への軍事介入は、効果も意味も無い事を証明するだけだ」と警告したが、2年後にはロシアがシリアに軍事介入をしている。2014年3月にはロシアの防衛大臣、セルゲイ・ショイグは、チャック・ヘイゲル米国務長官に「ロシアの軍事演習は東ウクライナの侵略に繋がらない」と確約したが、その年の暮れ、ロシア軍は国境を超えた。1987年ロシアは中距離核戦力全廃条約に署名をしたが、ロシアは条約を無視して巡航ミサイルを開発し、今年10月にはアメリカの非難を浴びている。

平気で嘘をつくロシアに不安を覚えていたが、今年の選挙を終え、政治的憤懣は過去のものとなってしまった。プーチンを心配したところでどうなるだろう。いっそのこと、彼を好きになった方が楽ではないか。

東アレッポの陥落

アサド大統領の下、シリア政府軍による反政府軍拠点『東アレッポ』への包囲戦は、アレッポの陥落と、今も続く市民への虐殺で終局を迎えたようだ。
以下はナショナル・レビュー誌の報道である。

Russia Wins Again -- Aleppo Falls | National Review

----------
 
ついに、シリア政府は東アレッポを陥落させたようだ。火曜日、ロシアのヴィタリー・チュルキン国連大使が国連安全保障理事会で発表した。国連の同時通訳は、チュルキン国連大使による「つい先ほど、我々は東アレッポにおける軍事作戦が終了した報告をうけた」という声明を訳している。
         
                  f:id:HKennedy:20161214180931j:image
 
ロシアとロシアの同盟国は、シリアの内戦に於いて欠かせない勝利を得たようだ。彼らは反政府軍をその拠点に於いて破り、シリアの人口密集地域を政府軍の支配下に固めたのだ。
 
これで、自国民を化学兵器を使用して虐殺したシリア大統領バシャール・アル・アサドを排除する事は、不可能に近くなった。ロシア、イラン、シリアの枢軸国は強大となり、彼らに反対する勢力は、有名なISISを含めるジハーディスト集団しかない。我々は、クルド人勢力が支配する北部を除き、シリア政府への代替え案が過激派ジハーディスト集団しかない現実に近づいたのだ。
 
まずこれは、人道に対する言い難い悲劇である。現在、シリア政府軍はアレッポ市民の銃殺に取り掛かったと報道されている。アレッポにおける無差別空爆作戦は、悪夢のようだ。フォックス・ニュースは市民の犠牲者と、その責任の所在を票にまとめたが、市民の犠牲の殆どはシリア政府とロシア軍の空爆による。

 

                            f:id:HKennedy:20161214175328p:plain

 
ロシアは自らの意思をシリアに於いて示した。ロシアがまさか、キリスト教徒への擁護者であるかのように誤解をしている人々は、ロシアの同盟相手を知る事だ。ロシアの同盟相手は、民族浄化を行なうアラウィ派イスラム主義国であり、イスラム教テロへの世界最大のスポンサーであるイランである。オバマの外交政策が成功的であったとか、賢明であったと信じる人々は、中東の真ん中で大虐殺が横行している最中、同地域におけるアメリカのプレゼンスを撤廃させた外交であった事を肝に銘じるべきだ。これは成功ではない。これは、代価の高い、致命的な失敗である。
 
オバマ大統領の失政の後始末は、ドナルド・トランプ次期大統領に任されるだろう。
----------
 
デイビッド・フレンチ記者が書かれた通り、アレッポは陥落した。それでも政府軍による一般市民への虐殺が止まった訳ではない。「降伏するか、死ぬか」ではなく、「降伏して、死ね」であったのだ。

 

f:id:HKennedy:20161214175231j:plain

             瓦礫の中を逃げる市民
 
多くの市民は空爆によって生きたまま焼かれ、その恐怖に堪え兼ねて降伏した市民は、バリケードを守る政府軍により、次々と銃殺されている。政府軍に捕まえられ、拷問される市民も多い。女性たちは強姦される事を恐れ、自殺を図っているという報告もある。何人かの年を取った男性が凍死している。親を亡くした子供たちが一つの建物に集まっているが、彼らを守る大人はいない。

Women in Aleppo Choose Suicide Over Rape, Rebels Report - The Daily Beast

 
これは、世界が見ている前で起きているのだ。
 
我々はホロコーストについて、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
コソヴォの虐殺についても、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
ルワンダで起きた民族浄化についても、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
 
いつか、アレッポの虐殺についても、「二度と繰り返してはならない」と誓う日が来るだろう。

「日本 死ね」は、テロではない

先日、「なぜ日本は海外メディアに誤解されて報道されるのか」といった趣旨の記事を見かけた。この記事は、海外の日本に関する報道の基本に、日本に対する人種差別があると示唆していたが、全て単純に人種差別、戦前から今に続く日本に対する敵視などに原因を見出そうとする単純な論理こそ、勿論、更なる「日本への誤解」を生じさせる一因となっている。

 
例えば、左派によって、意図的に日本の負の部分が強調されているとしよう。しかしながら、それに対する右派メディアや主にインターネットで活躍する日本のジャーナリストや言論人、学者らの「反論」は、日本人の私が聞いても、日本を『非論理的な狂信者の集まる、世界から孤立した島国』として疑わせる。日本人の大多数が、礼儀正しく、知的水準が高く、法の秩序を重んじる人々であると充分に知っていてもだ。
 
一例を挙げよう。「日本、死ね」という題目のブログが注目を浴びたようだ。これは国会でも野党議員によって取り挙げられ、今年の流行語大賞を受賞した。その賛否について、私個人の意見だが、ブログの題目には当然ながら好感を持たない。私だったら、例え怒りや失望の最中にあっても、責任ある大人として別の題目をつける。これを国会で取り上げた議員については、例え待機児童問題を取り上げたい熱意による事であっても、このような題目のブログを取り上げれば、議員としての常識や知性が疑われて当然だ。但し「流行語大賞」というものは、知性や良識を問うものでなく、どのような言葉が今年一年で流行したかを問う大衆賞であるから、下劣な言葉が話題を呼べば、それが選ばれる事は今までにもあった。繰り返すが、常識的な大人が、こうした一連の流れに反感を覚えるところまでは理解できる。     
 
さて、この流れに便乗した形で、彦根市の寺院や神社等に「日本死ね」の落書きがなされた。良識ある大人なら、落書きはしない。おそらく愉快犯による、悪質ないたずらだろう。
 
断言するが、これはテロではない。この落書きによって、怒りに震える人は出てきても、この政治的メッセージによってテロライズされた(恐怖に怯えた)人はいない。
 
どんなに悪質であり、「反日本」的であっても、落書きは落書きである。神社や仏閣などの建築物を破損する事に対し、日本の世論が怒りを覚えても、この落書きはテロではなく、自身の行なったいたずらに対して注目を浴びたい愉快犯による「犯行」である。
 
ところが、こうした愉快犯によるいたずらを、ISISによるテロや民族浄化と比較させる言論が右派にある。西村幸裕氏は「これは毎日放送でしか報道されず、東京にいると新聞記事でも知ることができなかった凶悪なヘイトクライム(民族憎悪犯罪)だ。ISの教会破壊、自爆テロなどによる異教徒虐殺と何も変わらない恐ろしいテロだ。韓国人の入国制限も可能な限り実施すべきだ。由国民社、ユーキャン、審査員、そして何よりもこのヘイトスピーチを捏造した山尾議員に責任はないのか?」と自身のフェイスブックに書かれているが、「日本死ね!」の落書きが、本当に「ISISによる教会破壊や自爆テロによる異教徒虐殺と何も変わらない恐ろしいテロ」なのか。
 
西村氏の論理は、言葉を変えるなら、ISISによる教会破壊や自爆テロ、異教徒虐殺は、「落書き」と同等だと言うことになる。西村氏はISISによる教会破壊を器物破損程度にしか受け取られていないのかもしれないが、ISISらは、中に信者が入っているままの教会を爆破し、全焼させているのだ。異教徒や不信者、背教徒や同性愛者らを、できるだけ痛みの多い残酷な方法で拷問し、子供であっても虐殺しているのだ。一連の「日本死ね」事件にどれほどの重大性を見出しても、ISISによる深刻な民族浄化の犯罪を過小評価する事は、許されない。
 
日本国内に発生する軽犯罪をISISと比較する論理は、西村氏に限った事ではない。「ねずさんのひとりごと」を書かれた小名木善行氏は、「世界ではISのテロが話題になっていますが、実は、日本国内における支那、韓国のテロ活動のほうが、実はもっと深刻といえます。」と書かれている。  

ねずさんのひとりごと 慰安婦問題の韓国との決着について

 

日本の右派は、世界のさまざまな地で何が行なわれているのか、よほど知らないのだろうか。日本に関する事、もっと端的に言えば「日本が何と言われているか」以外には、全く興味が無いのだろう。ISISを「ひどい」や「意見が合わない」程度の代名詞に使われているとしか思えないが、こうした言論人によって煽動されたネットユーザーが、ソーシャルメディアやインターネットの書き込みをしたり、反在日韓国人デモ、反韓国デモを起こせば、勿論海外メディアの目に届く。
 
いくら知日派や親日派のと言われる欧米人でも、このような極端な愚論には当然反感を抱く。これらの意見が、日本の右派のごく一部の意見であり、大多数の良識的な保守派とは別である事を言い聞かせる為にも、一部右派を指して「極右」「狂信的ナショナリスト」と呼ぶ場合があるが、それはその他の大多数日本人を庇ってのことだ。
 
日本の右派は、ISISによって頭部を切り落とされた2歳くらいの首のない幼女を抱き上げる男性の悲痛な写真や、檻に閉じ込めた捕虜を溺死させるビデオを見た事がないのだろうか。過激派テロリストらが、子供を含めた異教徒を、生きたまま焼き殺したり、切り落とした首でサッカーを楽しむ様子を知らないのだろうか。これらの野蛮な行為が、どのように憎しみを込めたものであっても単なる「落書き」と同一視されるところに、日本の知性に対する懐疑論が誕生するのだ。

             f:id:HKennedy:20161214114607j:image
 
「日本死ね」のブログは、日本人女性(母親)が書いたものである。それから発して書かれた落書きは、誰が書いたのかハッキリしないものだ。この責任は韓国人には無い。たとえ韓国人が書いた落書きであっても、それは個人による軽犯罪であって、その為に韓国からの入国制限を実施すれば、日本はそれこそ世界中からの笑いものになるだけだ。
 
西村氏は、このニュースが「毎日放送でしか報道されず…」と嘆いておられたが、こうした落書きの殆どが愉快犯による犯行である事を鑑みれば、メディアからの注目を浴びる形で犯人のエゴに褒美を与えるよりも、全国メディアはもっと重要なニュースに紙面を割き、これは無視する方が理に叶っている。もっと重要なニュースが日本にはある筈だ。
 
少なくとも日露関係に於いては、もっと重大なニュースがある。ウクライナ政府は今日、日本が約2,000億円分の武器をウクライナに対して供出していた事を発表した。日本政府がこれを行なった時期は明らかにされていないが、明らかに日本とロシアとの接近に対して世論を牽制する目的があるだろう。

Japan gives $1.85B to Ukraine's Army: Ukraine's Army receives $1.85B in aid from Japan, - Poltorak - army, Defense Ministry, Japan, Poltorak, Aid to Ukraine, Japan gives $1.85B to Ukraine's Army, Aid to Ukrainian army (13.12.16 16:02) « News | EN.Censor.net

Полторак рассказал о военной поддержке от Японии в размере $1,85 млрд. - Полторак, Япония, Украина

(その後、ロシアのタフ通信が、日本によるウクライナ政府への武器供給ンについて報道している。ウクライナ政府と親ロシア派武装組織の間には、現在も軍事衝突が続いている。)

 
ドナルド・トランプ次期大統領は、国務長官に親露派のレックス・ティラーソンを指名したが、ハッキリとした新政権の外交政策は明らかにされていない。トランプ氏と台湾総督の電話会談へのメッセージとして、中国は核搭載可能の戦闘機を南シナ海上に飛行させたが、トランプ政権のアジア外交は見通しが立っていない。中国の出方も分かっていない。韓国の朴大統領が弾劾され、韓国の新政権についても不明である。半年前に比較し、日本の安全保障における不安定要因は多すぎる。
 
安倍首相が、ロシアとの領土問題解決の偉業を遺せると本気で考えているとは思えないし、出来るだけ多くの選択肢が必要なのも事実だ。ロシアは中国が尖閣に侵略すれば、中国を支援する事も安倍首相は知っているだろう。プーチンは「日本との間に領土問題は存在しない。日本側がそう考えているだけだ」と答えている。ロシアは議論には応じるが、議論だけだと念を押している。
 
 
秋田犬を使った日本の友好関係の演出も、「ゆめ」の伴侶となる事を期待されたオス犬をロシアは受け取らず、エルサレム・ポスト紙も、ディプロマット誌も、日本側の甘い期待に警告を鳴らしている。
 
アメリカの出方も、中国の出方もつかめず、中東やヨーロッパにおけるロシアのプレゼンスが高まる今日、我々は近年に見られない不安定な時代に突入しようとしているのだ。日本と韓国は、中国からの脅威を共有し、同盟国となり得るのだが、一部右派は、呑気なことにも反韓感情を煽り、韓国からの入国制限する事で、日本を軍事的に孤立させたいのだろうか。
 
私は以前、日本の主張を世界に発信する事が国益に叶うと考えていた。現在はそう思わない。日本に必要なことは、自分たちの非常識な主張を発信するよりも、世界で何が起きているのかを正確に報道することだ。その務めに対しては、主要メディアの方がさすがに長けている。
 
現在アレッポで何が起きているか知れば、ロシアに対する甘い期待は持てない。アメリカの外交政策が決定するまでは、安倍首相はいつもよりも慎重で多角的な友好関係を強化するしかない。何よりも米中との間に突発的軍事衝突が発生しないことを願うが、息を呑むような緊張の中でやっと守られている平和を享受する国民は、落書きと過激派テロリストらによる真の民族浄化の区別すらつけられなくなったのだろうか。
 
誤解ある書かれ方を避けたいならば、自分たちの主義主張がいかに的外れなものか、自分たちの行動がどのように映るのか、自省すべきだ。一部日本人右派の主張は、『反日欧米左翼メディア』を通さなくても、世界の端に位置する未開の島の住民のような異様さに映る。
 
 
 
 

 

ロシアによるハッキングと、レックス・ティラーソン(エクソン会長)国務長官登用への懸念

2012年の大統領討論に於いて、当時二期目の当選を狙うオバマ大統領は、共和党からの対候補者であるミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の「ロシアはアメリカの安全保障に対する一番の脅威である」と主張した事に対し、「80年代の政策だ」とあざ嗤った。

 
当時の共和党は、オバマ大統領がロシアからの脅威を理解していない事を危惧していた。その後の4年間は、2012年のシリア、アサド政権による自国民への化学兵器使用問題に於いて、ロシアに中東問題への発言権を許した事をキッカケに、2014年にはロシアがクリミアに侵略し、現在も不法併合が続いたままである。
 
ミット・ロムニー元知事に限らず、ジョン・マケイン議員などの共和党議員は、オバマ大統領の外交認識の無さ、現実認識の無さを批判していた。オバマ大統領は間違っていたのだ
 
ところが、2015年には共和党からドナルド・トランプ氏が立候補した。自身がロシアとのビジネス利権を抱えるトランプ氏は、クレムリンとの関係を色濃く持つ外交アドバイザーや軍事アドバイザーらに囲まれ、数百人のジャーナリストや自身に批判的な弁護士、民主運動家らを殺害、投獄してきたプーチン大統領の指導力を公けに称賛してみせた。
 
今日CIAによって、2016年の大統領選挙に於いて、民主党、共和党両党のシステムに、ロシア政府の意向によるハッキングがあったと結論付けられた。これは、ウィキリークスを通して民主党に不利な情報を流出し、トランプ氏当選に向けた情報操作をする目的であったようだ。

http://www.nytimes.com/2016/12/09/us/obama-russia-election-hack.html?_r=0

 
いくら共和党からの候補者の支援に働いているからと言って、マルコ・ルビオ上院議員などはウィキリークスの情報流出を警戒し、それに関心を払うことによってロシアのハッキングを報いないように呼び掛けていた。
 
私はウィキリークスからの流出によって公的知識となった事案について議論はしません。我々の諜報組織(CIA)が報告したように、これらの情報流出は、外国政府による我々の選挙への介入の努力の賜物であり、私はここから益を得たくはありません。更に、これらの情報流出を政治活用したがる他の共和党員に対して警告しますが、今日は民主党がターゲットでも、明日には共和党がターゲットとなるかもしれないのです。
 
それが愛国心と良識のある共和党議員というものだろう。
 
実際に、ロシアがハッキングを行なったのは民主党に対してだけではない。以前から言われていたが、共和党に対してもである。ロシアは、現在は共和党がらみの情報を保留しているが、クレムリンに対して厳しい姿勢で臨もうとする議員らへの妨害や、親露政策への工作の一環として、使用される可能性もある。
 
ビル・クリントンのアドバイザーの一人であったポール・べガーラは認める。「オバマ大統領は間違っていた。私はそれに賛同したが、私も間違っていた。ロムニーが正しかった。」
 
民主党次期上院議長のチャック・シュマーは、超党派によるロシア・ハッキングの捜査をCIAとの協力の下に勧めるべきだと提案している。

Schumer demands congressional inquiry on Russian meddling - POLITICO

 
これはもはや、民主党対共和党ではない。ロシアとの諜報戦に詳しいジョン・シンドラー氏の言う通り、「どんなに骨の髄までヒラリーが嫌いであっても、彼女への妨害になるからと言って、11月8日のアメリカの大統領選挙に外国政府のスパイ介入を容認するなら、自分を愛国者などと呼ぶべきではない。」
 
ところがトランプ次期大統領は、ロシアによるハッキングがあったとするCIAの報告を認めようとしていない。300万の不法投票があったと何の証拠もないのに主張する一方、CIAによる捜査報告は否定している。
 
それだけではなくトランプ陣営は、次期国務長官にエクソン会長のレックス・ティラーソンが最有力候補であるとしている。レックス・ティラーソンと言えば、経営するエクソン・オイルを通し、ロシア・オイルとの間に多大な取引を持つ、プーチン露大統領から直々に非ロシア人として最高の友好メダルを受けた親露派のビジネスマンである。

 

f:id:HKennedy:20161211173111j:plain

              レックス・ティラーソン(左端)とプーチン露大統領
 
「なぜティラーソンが国務長官として相応しいと思われるのか」という質問に対し、トランプ氏は「ティラーソンはロシアとの間に多くのビジネスを持ち、交渉人だから」と臆面もなく答えている。ティラーソン自身、2014年以来のロシアに対する経済制裁に反対を表明してきた。エクソンとロシア政府間の取引は、約55兆円の取引だと言われているが、エクソンの利益を視野に国務長官を選べば、明らかな利益の衝突となる。
 
クリミア不法占領に伴い、ロシアには西側に経済制裁が掛けられているが、プーチン大統領は自国経済を救う為に、何としてもこの経済制裁解除にこぎつけたいところだろう。ロシアとの取引を行ないたいトランプ氏も、制裁解除を視野に入れていると発言している。
 
レックス・ティラーソン器用について、共和党のリンゼイ・グラハム議員は、「クレムリンからの勲章を受け取るような人物に対しては、多くの議論があるだろう」と答えている。またロシアに詳しいワシントン・ポスト紙のジャーナリスト、アンナ・アップルバウム記者は「これは億万長者の、億万長者による、億万長者の為の政治」だと呼んでいる。ロシアのシンク・タンクで活躍するディミトリー・トレニンでさえ「ティラーソンを国務長官に任命する事は、冷戦以来のアメリカ外交政策の偉大な不継続を意味する」と解釈をしている。
 
当然だろう。
 
リンゼイ・グラハム上院議員だけではなく、勿論、ジョン・マケイン上院議員もティラーソン登用には猛烈に反対すると思われる。マケイン議員は、「ティラーソン氏とプーチン氏がどのような関係を持っているかは知らないが、懸念している」と記者団に応えている。マケイン議員のスタッフ責任者として長年勤めたマーク・ソルター氏は「ティラーソン登用は、オイルとヴラジミール・プーチンの為の、NATO売り渡しだ。議会は公聴会での説明を求め、上院はこれを否決するべきだ」と述べた。
         リンゼイ・グラハム上院議員とジョン・マケイン上院議員
 
上院では、共和党議席は民主党議席より3議席多いだけだ。この3議席のうちの2人の共和党議員が反対票を投じれば、議会の承認は得られなくなる。
 
プーチン大統領率いるロシアは、シリアに於いて、アメリカの支援する反アサド組織と市民への空爆を続けてきた。プーチン大統領が政権をとって以来の人権侵害は甚だしいものがある。
 
数日前、アメリカ上院は「グローバル・マグニツキー法」を可決した。これはロシア政府の腐敗を暴き、2009年に逮捕され、モスクワの牢獄で獄死したロシア人、セルゲイ・マグニツキー弁護士(享年37歳)を記念して、外国政府による民主化活動家や人権活動家らに対する人権侵害を罰する為に、マケイン議員らによって提案された。人権侵害を行なっていると認められる外国政府為政者や責任者に対して、アメリカへのビザ発給を拒否したり、アメリカ内の資産凍結をする権限を大統領に与えるものだ。またNGOの人権調査を大統領が使用する権限も与える。国会議員や政府役人に、制裁の対象となる人物を提案する権限も与える。 

Magnitsky Act - Wikipedia

Freedom House Applauds Passage of “Global Magnitsky” Act | Freedom House

 
下院議会は、選挙直後に、アサド政権を支援する外国政府への制裁を可能とする法案を可決した。
 
トランプ次期大統領の暴走を止められるのは、議会かもしれない。

「トランプ氏の言葉を、文字通り受け取らず真剣に受け取れ」というナンセンス

トランプ氏の選挙中の公約から始まって現在に至るまで、トランプ氏ほど、「既成の政治家とは違い、分かり易い言葉で、そのままをハッキリ語ってくれる」と評価を受けながら、実際には彼の真意が全くの不明である次期大統領もいない。メディアや批判者らは、彼の言葉を文脈と共に報道しても、トランプ氏自身や陣営からの発言の撤回、弁明、メディア批判が起こる。「トランプ氏の語った内容を歪曲して伝えている」という主張だが、ビデオ・インタビューをそのまま流したり、文字起こししたものにでさえ、「偏見に満ちたメディアが歪曲して報道している」と非難されてきた。トランプ氏の乱発するツイートでさえ、真意は理解されていないらしい。

「反対者はトランプ氏の言葉を正しく理解していない」という糾弾もあれば、「どう考えても他に意味はない」と思える公約を批判すれば、「選挙公約を文字通り受け取る方が間違っている」という批判もされる。

「選挙公約を文字通り受け取る側が間違っている」とは、トランプ氏の掲げた政策を批判する反対者に対して、支持者が主張する論理だが、実際には殆ど影響力も無いどこかの町長や市長ならともかく、トランプ氏はアメリカの二大政党からの大統領候補者であったのだし、今では次期大統領である。トランプ氏には、大統領としてその地位に相応しい期待がされるべきだし、彼にはそれに応える義務がある。そう考えれば、私はトランプ氏に対して、その立場に相応しい期待をかけ、その期待の基準に従って彼の公約や言動を批判してきたと言える。彼を支持しながらも、彼が「ヒラリーではない」こと以外には関心を寄せず、彼の公約や言動を気にも留めなかった支持者に比べれば、よほど私の方が、トランプ氏を真剣に受け捉えてきた筈だ。

世界最大を誇る米軍最高司令官である大統領の言葉が軽くなることを、支持者は容認するべきではない。

これについて、保守派メディアであるナショナル・レビュー誌の記者であり、「Liberal Fascism」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏が書かれているので、以下にご紹介する。

Can we really take Trump seriously, not literally? - Baltimore Sun

----------

完全なクリック・ベイトの広告のようだ。「ドナルド・トランプについて心配をせず、アメリカを再び偉大な国とする簡単なトリックを学ぼう」

どんなトリックだろう? トランプ氏を真剣に受け取りつつ、文字通り受け取らないだけだそうだ。この方式はサリナ・ジトー記者がアトランティック誌の9月号の中で考え出したもののようだ。彼によれば、メディアはトランプ氏の奇異な宣言を文字通り受け取りつつ、彼を真剣には受け取ってこなかったようだ。ところが支持者は全く逆を行なっていた。

この方式は、トランプ次期大統領のチームも、トランプ発言解読方法として取り入れているようだ。

「これがメディアの問題だ」トランプの一人目のマネージャーであったコーリー・ルワンドウスキーが、トランプの当選後、ハーバード大学での会議で語った。「あなた方は、ドナルド・トランプの言ったことを文字通り受け取ったが、一般のアメリカ人は、文字通りは受け取らなかった。」

f:id:HKennedy:20161210164230j:plain

10月、全国記者クラブに於いて、トランプ擁護者であるピーター・シエルも同じことを語った。「メディアはいつもトランプ氏の言葉を文字通り受け取っている。その代り、彼を真剣に受け取る事はしない。トランプに投票する多くの有権者は、トランプ氏を真剣に受け取るが、文字通り受け取りはしないと思う。」

トランプ氏自身、このヒューリスティックが気に入ったと匂わせた事がある。先週、彼は「キャリアーの国外移転はさせない」と4月に語った発言について、文字通りの意味ではないと説明している。

「私が言ったのはこうです。『キャリアーが国外移転することは無い』」彼は認めた。「私は婉曲表現を使っていたんです。私が語っていたのは、これから先に出てくる他の全ての企業の一つとして、キャリアーについて語っていただけです。」

いくつかのトランプ発言の弁護をしよう。この区別は、そう悪くはない。メディアによる告発を考えれば、かなり良い比較だろう。メディアはトランプ氏を一つの冗談として扱った。多くの有権者にとって、メディアからの批判は名誉の称号である事実を、考慮していなかったのだろう。

勿論、トランプ氏だけが「その言葉を文字通り受け取ってはいけない」ステータスを享受している訳では無い。ジョー・バイデン副大統領は、この何年間に渡って、余りにも馬鹿げたとしか言いようのない発言をいくつかしてきた。彼はFDR(ルーズベルト大統領)が、1929年の株の大暴落を受けてテレビ出演したと語った。その当時、ルーズベルトは大統領ではなく、テレビも存在していなかったのにである。誰も、バイデン副大統領の語る言葉を文字通り受け取る事はしなかった。彼が、「自分の言葉を文字通り受け取ってほしい」と、文字通り頼んだ時も、誰も文字通り受け取る事はしなかった。彼は学生の群れに向かって「あなた方は東アフリカの要石(かなめいし)だ。比喩ではなく、文字通り、あなた方は要石なのだ。」2010年には、バイデン氏は「我々がホワイトハウスに就任するまで、ベーナー氏の党(共和党)によって、経済は文字通り、地に落ちてしまった。」

バイデン氏の言葉を文字通り受け取らないアプローチは、二つの理由によって安全だ。彼はワシントンの指導者として知られた存在であり、多かれ少なかれ、世間も彼から何を期待できるか知っている。また副大統領として、彼が為し得る損害は、限られている。(言葉を換えれば、彼の言う事を真剣に受け取る必要が無いのだ。)

トランプ氏は違う。自身も認める通り、彼は政治の世界ではアウトサイダーであり、政治のエリートたちは「馬鹿」か「邪悪」しかいないと主張する錯乱分子である。また彼は国内外の政策についての経験が皆無だ。彼の言う事、また言い方は、彼には公務に就いた経験が無いからこそ、文脈と共に解釈される重要性を持つのだ。

この『真剣には受け取るが、文字通りには受け取らない』は、当時候補者であったトランプ氏と支持者とのコミュニケーションの方法への優れた分析的才知だ。しかしながら、実際のアメリカ大統領、或いは次期大統領に対する為の処方箋としては、かなりくだらないナンセンスだ。

トランプ氏が「何百万人の人々が不法投票をした」と言う時、メディアはこうした弁解の余地が無い主張を報道するべきだろう。「真剣に受け止めながら、文字通りではなく」とは、どういう事だろう。報道関係者は、「何百万人ではなく、何人か、不法に投票をした人がいる」という憶測を報道するべきだろうか。それとも、「何百万人が投票をしたが、そのすべてが違法ではない」という憶測だろうか。

トランプ氏が台湾の総督と電話会談をした、と語った時、中国は、外交上の慣例が大きく破られた事に関して、「真剣に、しかしながら文字通りではなく」受け止めるべきだろうか? しかし、一体それは何を意味するのだろう。

恐らく我々は、この『真剣に受け止めるべきか、文字通り受け止めるべきか』の区別を、文字通り受け止める必要はない。恐らくトランプ支持者が意味するところは、トランプ氏の発言が問題を生じさせた時には、トランプ氏がいつでも許されるフリーパスを求めているだけだ。

かつてトランプ氏は言ったことがある。「私は言葉を知っている。最高の言葉だ。」また彼は、アブラハム・リンカーンには劣るかもしれないが、その他の誰よりも、大統領らしく振る舞えるとも語った。彼は自分自身の言葉によって「文字通りでなければ真剣に」アドバイスされるべきだ。

大統領の語る言葉は影響力がある。また国民、同盟国、敵国や市場からの信頼には限りがある。発する言葉の責任を取るつもりが無いと受け取られれば、信頼を失うのは容易い。

 

真珠湾から75年、戦後自由主義社会と世界秩序の擁護者となる安倍・日本

以前、マイケル・オースリン氏の書かれた安倍首相に関する記事をご紹介した事がある。

オースリン氏は、元イェール大学助教授であり、現在は保守派シンクタンクである「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」の常勤研究員、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、フォーブス誌、ナショナル・レビュー誌にも記事を掲載される歴史学者、政策アナリスト、アジア専門家である。

彼による日本の安倍首相への評価は、近年の日本の政治家に対する海外からの評価と比較して、突出した高さだ。

 

私は日本の政治家にとっての最優先課題は、日本と地域の安全保障をどう守るかだと考える。この最優先課題に対する安倍首相の取り組み姿勢は、戦後の自由主義社会の秩序を遵守しようとする安倍首相のソフトな語り口とは違い、一貫した決意が伺える。まさに故セオドア・ルーズベルト大統領の名言とされる「大きな棍棒を持ち、穏やかに語れ」をそのまま地で行かれているようだ。

実際、敵対国に囲まれる中で、自国の安全保障を守る為には、棍棒(軍事力)と共に、穏やかな言葉が必要である。そうでなければ、大胆な政策は実現し得ないだろう。

 

以下にオースリン氏の書かれた、「75 Years After Pearl Harbor, Japan is a Key Defenderof Global Stability (真珠湾から75年後、日本は世界安定へのカギとなる擁護者だ)」をご紹介する。

 

75 Years after Pearl Harbor, Japan Is a Key Defender of Global Stability | The National Interest

----------

75年前の今日、日本はアジアの西側列強に対し奇襲攻撃を行ない、日本帝国軍による恐ろしい戦争犯罪が目撃され、4年後の広島と長崎へ投下された原子爆弾によってクライマックスを迎える太平洋に於ける全面戦争へと発展していった。

 

アメリカにとっては12月7日早朝の『真珠湾攻撃』と知られているが、日本軍の戦略の主な狙いは、東南アジアに駐屯するヨーロッパとアメリカの守備隊を圧し、日本の国力を締め付ける恐れのある、原油やその他の原材料に対する禁輸政策を撤廃させることにあった。同日、香港、マレー、フィリピン、シンガポールやタイは全て海と空から包囲され、その他の東南アジア地域は一月までに攻撃され、アジアにおける力のバランスを崩壊させ、日本による地域秩序を作る大胆な賭けに巻き込まれた。

 

今週、「汚名の日」のページを閉じる為に、日本の安倍首相がオバマ大統領と共に12月末に真珠湾を訪問すると発表された。また11月の末には、日本の稲田朋美防衛大臣が、日本とアセアン各国の防衛大臣らとの2回目の非公式会談に於いて、ASEANの防衛イニシアティブである「ヴィエンチャン・ヴィジョン」を発足させた。海からの安全保障への軍事的協力を狙い、アジアにおける国際法による支配を促進させるために、日本の安倍首相は、日本を第二次世界大戦後の国際システムの防波堤にしようとしているのだ。1941年の日本国の役割とは全く逆である。

 

f:id:HKennedy:20161208100205j:plain

 

1945年の、全てが灰塵とされた敗北と世界的な屈辱から、日本の戦後の歴史は、アメリカと戦勝国によって建てられた自由主義国際秩序に貢献し、そこから利益を得てきた国の円弧に従っている。徹底した戦争中の役人追放や寡頭政治で活躍した企業の解体は、1950年の朝鮮戦争の勃発と共に停止したが、1945年から1952年まで、日本は占領された国家として、占領国に似せて部分的に作り変えられた。実際、国際的なのけ者となった従属国から、瞬く間に日本は、地球を取り巻くアメリカの政治・軍事プレゼンスにとって代え難い要因となったのだ。

 

日本の特異性は、アメリカによる占領から後の10年の間、1946年にアメリカによって書かれた憲法9条に象徴されるような、戦争放棄を謳う、軍事力のほぼ完全に近い放棄から始まった。軍事力放棄の代わり、当時の吉田茂主張と彼の後継者らは、日本の防衛をワシントンに頼る事に同意し、産業の回復と日本市場の保護に集中した。

 

広島から20年と経っていない1964年には、トーキョーは夏のオリンピックを開催し、戦後の成功物語、また世界で最も早い経済成長を以て、喝采をうけた。実際、日本は何十年もの間、世界第二位の経済力を誇り、消費者に受け入れられるデザインの改革や、個人的な家電などの人々がちょうど欲しがっていた商品の開発など、全てを再定義したのだ。日本の一般的生活環境は世界で最も高い割合にあり、日本の美は、車に始まってインテリア・デザインに至るまで全てに影響を与えた。

 

しかし日本は、その経済力に見合う、大国としての政治的影響力や軍事力を発達させてこなかった。憲法による規制によって、平和主義社会を喜び、経済政策に対する足枷となる重い国際社会での責務を厭いながら、日本は世界で起こっている事に対して、琥珀の中で固まってしまっているかに見えた。

 

日本の経済成長が1990年代初期に停止した時に、国際の場での日本の影響力の多くも無くなってしまった。全くと言っていいほど同時に、中国が日本にとって代わり大国となり、約束通り、アメリカに対する主な競争相手となった。

 

今日、日本の経済力と軍事力は、中国によって影が薄い中で、安倍首相は、かつて多くの人々が理想であると考えた、日本をアジアの政治指導者とするための戦いに日本を近づけていこうと、大胆にも立ち上がっている。

 

f:id:HKennedy:20161208100307j:plain

 

まず安倍は、海外における軍事活動に対する規制を廃止し、軍事予算を増加し、ワシントンとの同盟を強化している。更に大胆な事に、彼はインドとの絆を深め、南シナ海における日本のプレゼンスを増やし、ASEAN各国との防衛協力のイニシアティブを明らかにし、防衛の為の武器を東南アジアの国々に提供しようとしている。

 

こうした安倍の行動に、国内外の反発が無い訳ではない。特に中国は、この動きが地域における北京の覇権を脅かすものである事を理解している。しかし安倍は、彼の行動は「日本が恐らく他のどの国よりも恩恵に預かり、今日ではロシアやISIS、イラン、北朝鮮と中国からの挑戦に困難を覚える戦後の自由主義国際秩序を強化する為の行動である」と、確固たる主張をしてきた。

 

そうする中で、また彼より前の政治家よりも更に踏み込んだ大戦への謝罪をすることによって、安倍は日本を世界の安定の擁護者と位置付けているのだ。これは、75年前の日本が行なった破壊的な役割とは、全く異なっている。

 

----------

 

真珠湾攻撃から75年目の今日、大戦によって命を落とした全ての人々とそのご遺族に対する祈りと共に、アジア専門家であるオースリン氏が、世界の秩序安定に向けた安倍・日本の軍事役割強化を歓迎する記事を書かれた意義に、想いを馳せたい。

 

保守派は「偽情報」で騙すな、「偽情報」に騙されるな。

先月始めの11月2日、ヒラリー・クリントン元国務長官が、ワシントンDCのピザ・レストランにおいて「マネー・ローンダリング」から始まり「子供相手の性犯罪」に関与している、というニュースが流れた。これは意図的に捏造された偽ニュースであり、社会的責任の伴うメディアは、ヒラリーに反対するメディアも、報道していない。(詳細は、以下に添付したビジネス・インサイダー記事に記されてある。)

 
この偽ニュースは、FBIのコミィ長官が捜査を再開した中に発見されたヒラリー・クリントン陣営の責任者のemailに、一風変わった芸術家の親族のパーティーへ出席する旨が書かれていた事に発し、そのパーティー開催者の芸術を『カルト』と呼び、そこから発してヒラリー・クリントンとそのカルトを関連付けたものだ。一風変わった前衛芸術に邪推と憶測を絡め、ヒラリー・クリントンを貶める目的で、インターネット上のニュースとして流されたものだ。
 
この偽ニュースに煽動された形で、該当するピザ・レストランに銃を持った男性が押し入り、銃を数発乱射する事件が日曜日起きている。この発砲事件について、トランプ氏の安全保障政策アドヴァイザーであるマイケル・フリン元中将の息子が「ピザゲートが偽だと証明されるまで、これはニュースとして扱われる。左派はemailと多くの『偶然』がこれに関連している事を忘れているようだ」とツイートをした。CNNのジャーナリスト、ジェイク・タッパー氏は、「この『ピザゲート』が正しいとする証拠の一つでもあるなら、教えて欲しい」と彼にメッセージを送ったようだ。要は、社会的責任のある人物が、無責任な陰謀説をそのまま流すことに警告を発したかったのだろう
 
マイケル・フリン・ジュニアは、「このニュースが嘘である事は、自分も願っている」と答えつつも、このピザ・レストランと「カルト儀式」の関わりを否定していない。
 
ジェイク・タッパー氏は、「これは、悪魔的な児童愛のカルトの場所ではない。ただのピザ屋だ。悪魔的な児童愛カルトだと証明するものを見せて欲しい。あなたのツイートはかなり無責任だ。よく聞いてほしい。あなたのツイート(を信じる犯罪者)によって、誰かが殺されるかもしれない。無実な子供かもしれない。いったい何の為に?」と非難している。

 

f:id:HKennedy:20161207115120j:plain

                    CNNのジェイク・タッパー氏
 
フリン・ジュニアの父親のマイケル・フリン元中将は、ドナルド・トランプの安全保障アドバイザーに抜擢されたが、息子ともども政権移行チームのメンバーでもある。ヒラリー・クリントンを児童愛のカルトと関連付けるこの偽ニュースは、フリン元中将自身も選挙前に流布している。
 
ヒラリー陣営が悪魔礼拝や子供を対象としたセックス組織に関わっているという、この荒唐無稽な偽ニュースに飛びついたのは、マイケル・フリンの息子だけではない。極右サイトの『インフォウォーズ』では、トークラジオ番組ホストのアレックス・ジョーンズが、ヒラリー・クリントンが児童を扱ったセックス組織に関係しており、彼女のキャンペーン責任者のジョン・ポデスタは悪魔礼拝者であると繰り返し示唆していた。

Pizzagate: From rumor, to hashtag, to gunfire in D.C. - The Washington Post

 

11月4日にジョーンズが掲載したユーチューブ・ビデオでは、彼は「ヒラリー・クリントンが自身で殺害し、首をはね、強姦した全ての子供たちの事を考えると、彼女に反対して立ち上がることなど怖くない。その通り、よく聞いてくれ。ヒラリー・クリントンは、自分の手で、子供たちを殺害したんだ。私は、これ以上真実を抑え込むことは出来ない。」と語っている。

アレックス・ジョーンズと言えば、911はアメリカ政府による自作自演のテロだと主張するアメリカで最も有名な『陰謀説論者』であり、『インフォウォーズ』は彼の運営する陰謀説メディアだが、ドナルド・トランプ氏は彼を気に入り、ジョーンズの素晴らしい働きを称え、大統領当選後には彼に感謝をする電話をしている。因みに「Infowar」と言えば、「トランプ大統領当選に反対するデモは、ジョージ・ソロスの支援する団体がバスを借り切って運動を起こしたものだ...」という陰謀説を流している。

Alex Jones says Trump called to thank him - POLITICO

 
社会的な責任ある立場の人物は、陰謀説や真偽のハッキリしない情報を軽々しく流布するべきではない。たとえ政敵を貶める目的があったとしてもだ。ヒラリー・クリントンを貶める為ならば、どんな嘘でも流布する一部保守派がいるが、彼らに倫理や真実を語る資格はない。
 
私は、『メディアの偏向』を訴える人々に限って、偽ニュースや陰謀説を信じる傾向があると考える。勿論、彼らの多くは『偽ニュース』や『陰謀説』と知った上で、情報を流している訳ではない。これらの偽ニュースを信じる人々の多くは、社会によって自分が正しく評価されていないと感じる層に多く、自らの不遇を、漠然とした巨大な力に見出す屈折した傾向がある。アレックス・ジョーンズは、繰り返し既成のメディアが信用ならないと主張し、主要メディアに対する不信感を視聴者に植え付け、自分の流す陰謀説こそ隠された真実だと自負している。
 
しかしながら、既成メディアを「嘘つき」と呼び、CNNを『クリントン・ニュース・ネットワーク』と揶揄すれば、それですべての白黒、善悪の判断がつくかのように単純な吹聴をする人々は、タッパー氏とフリン元中将、またアレックス・ジョーンズ氏のいずれが情報に対して誠実か、深く考えた事が無いのかもしれない。
 
但し、自らの政治目的を達成するために、こうした偽ニュースや陰謀説を流布する人々もいる。恐らく、社会的立場がありながらこういった偽情報を流す人々は、政治的な動機の為に、これらを嘘と知っているか、或いは嘘であっても構わないと考えているのだろう。概してこのような人々は、自らの流す偽情報を別の政治勢力への『是正』と考えているので、無責任な情報を流す事への罪悪感はない。
 
偽ニュースの齎した実際の害について、アメリカでの一例を上げたが、日本の保守派も勿論こうした情報操作と無縁ではない。
 
最近では、韓国企業が人肉を食材に加工したという偽ニュースが流れた。勿論、こういった偽ニュースを喜んで流す人々の多くは、嫌韓感情に煽動されている場合が多い。真偽のハッキリとしないニュースでも構わず、政治目的を達成したいのだろう。日本の一部保守派には、911のテロがアメリカによる自作自演だとする陰謀説が流れているが、真珠湾攻撃の記念日や安倍首相のハワイ訪問が近付けば、ルーズベルトは事前に真珠湾攻撃を知っていたとする陰謀説が盛んに取り沙汰されるだろう。
 
トランプ氏の当選を以て、何故かその勝因を「白人中年男性の死亡率」と関連付ける主張もある。保守派として著名な方々でさえ、こういった偽情報を流している様子を見ると、よほど情報が偏っているとしか思えない。例え英語を訳すことが出来ても、彼らがアメリカのメディア事情に熟知しているとは考えられず、どのメディアが信頼がおけるか、どのジャーナリストが保守派であるか、見当もついていないようだ。
 
勿論、全ての非の責任が彼らの肩にある訳ではないが、それでいて何故か、「主要メディアに騙される」という被害者意識だけはハッキリとあるようで、信頼できる情報を退け、偽ニュースに飛びつく傾向がある。偽ニュースと知らずに流している場合は、情報検証の能力が無い事を意味する。もし、これらの偽ニュースを『偽』と知りつつ流しているとすれば、彼らには政治的悪意があるとしか考えられない。いずれにせよ、彼らが日米主要メディア報道の偏向を批判する立場にはないのだ。
 
勿論、主要メディアに偏向が全く無い訳ではない。しかしながら偏向を訴える側の提供する情報が偽ニュースや陰謀説では、説得力が無いばかりか、論じる側の知性が疑われる。自分でこれらの海外情報を検証する能力を持たないならば、日本の一流紙の海外ニュース欄や、和訳されている米紙(誌)から学ぶべきだ。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな偽ニュースや陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。
 
アメリカのフェイスブックは、意図的な偽ニュースを流す試みを禁じる動きに出ている。これについてナショナル・レビュー記者であり「リベラル・ファシズム」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏は、以下のように書く。

Fake News Folly | National Review

f:id:HKennedy:20161207115546j:plain

               ナショナル・レビュー誌のジョナ・ゴールドバーグ

「私は偽ニュースについての議論は意図的に避けようとしてきた。あまりにも色々な事が言えるからだ。しかし今朝、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が、「FDR(ルーズベルト)は、真珠湾攻撃を事前に知りつつ、何の対処も取らなかった」という、決して消滅しない陰謀説を報道したのを聞いた。ホストはこれを75年前の「偽ニュース的なもの」とした。彼の解説はおおよそ正しいのだが、チャールズ・ビアードの名前を出し、彼がこれに対して果たした役割について述べたら、もっと良かっただろう。これは、ピザゲートという狂人を『偽ニュース』と呼ぶメディアの容赦ない報道のかかとに引っかかっていた。
 
私の理解では、『ピザゲート』は明らかな『偽ニュース』である。海外ウエブサイトが、意図的に、情報を作り上げていると知りつつ、ソーシャルメディアに掲載され、添付先のリンクをクリックさせる事で利益を得るニュースである。正確に言えば、『陰謀説』は『偽ニュース』とは異なる。『陰謀説』は、『陰謀があったとする説』であるのだ。多くの主要メディア(その殆どはリベラル・メディアである)は意図的に、或いは知らずしてか、この違いをごちゃ混ぜにしてきた。偽を批判するならば、定義を曖昧にする行為は皮肉でしかない。
 
保守派の側も同様に、この定義をごちゃ混ぜにしてきた事は事実である。
 
しかし、主要メディアが流す『不正確なニュース』は、意図的に偽情報を作り上げ、クリックさせる為の『偽ニュースサイト』とは全く異なる。ダン・ラザー*に対して厳しい批判があったが、彼の『犯罪』は、野心や私心、集団的思考によって、適切な洞察力やジャーナリストとして必要な懐疑心を放棄してしまった点にある。ガザの橋を想像した*VOXニュースのあの記者も、意図的にあのような失態を演じた筈はない。(*ダン・ラザーは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のヴェトナム参戦時代について、虚偽文書を用いて『60ミニッツ』で批判した。)

Killian documents controversy - Wikipedia

 (*VOXの記者によって、イスラエル政府はガザとヨルダン西岸を結ぶ橋の通行を妨害していると報道されたが、橋そのものが存在していない。)

http://thefederalist.com/2014/07/17/voxs-motto-should-be-explaining-the-news-incorrectly-repeatedly/

 

もし嘘と知りつつ、それを事実として報道すれば、法的処置を課せられることはそれ程狂った考えではない。もし『ナショナル・レビュー』が、児童愛好者らの集まりであると偽ニュースのサイトによって報道されれば、彼らを法的に訴えたいところだ。しかしながら、もし中傷する目的で偽ニュースをねつ造する組織が法的に守られるとしても、フェイスブックのような一企業が、利用者を意図的に騙そうとする詐欺師たちの能力を限定する事には何の問題も無い筈だ。
 
いずれにせよ保守派は、相反する意見を抹殺する為に偽ニュースを利用しようとする如何なる試みに対しても、反対をするべきだ。保守派が、偽ニュースを流して利益を受けるプロの詐欺師たちを弁護するべき理由はない。」