なぜヒラリーの民主党は敗退したか

トランプ氏が大統領選に勝利した原因は、トランプ支持者の熱意にはない。
 
トランプの選挙ラリーに行ってみたという日本人が「トランプ氏への熱気は、凄まじい。あの熱気を見て、トランプ氏勝利を確信した」と意見するが、『熱気』という、主観を通してしか測れない熱心さは、「いや、ロムニー元知事のラリーの方が熱気があった」という別の意見も生じさせる。尤も、いくら熱心な支持者がいても、彼らとて、躊躇しつつ投票する有権者と同じ一票しか有していない。勝敗を決めるのは、どの候補者の場合でも、支持者の熱気ではない。
 
しかも、実際のトランプ氏の得票数は、ヒラリー・クリントンのそれより約300万票少なかっただけではなく、2012年の大統領選挙で共和党から出馬し、オバマ大統領(当時)に敗退したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の得票数よりも少なかったのだ
 
共和党議員への票は、2012年の大統領選挙時とほとんど変わっていない。民主党の得票数が減少したのだ。トランプ大統領、及び共和党が勝利した事には間違いないが、その勝因を問う場合、それは共和党にあると言うよりも、民主党の弱体化にあると言える。
 
トランプ氏が持っていてロムニー氏が持っていなかったものは、ヒラリー・クリントンという最も不人気な対抗相手であり、8年間にわたる極左オバマ政治への不信感だ。その不信感は、オバマ大統領その人に対してというよりも、民主党に対して表れた。

 

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          ヒラリー・クリントンの不人気は、民主党支持層を回復できなかった。
 
オバマ政治、また民主党が支持を失ったまず一番大きな原因は、その対テロ対策、また移民を含めた外交政策にある。私には個人的に親しくするトランプ支持者がいるが、彼らが共和党指名選挙の段階からトランプ氏を支援していた理由は、彼の「すべてのイスラム教徒を入国禁止にする」という、極端であからさまな反イスラム教政策にある。勿論この公約は、憲法というものが宗教による差別を禁じている点や、テロへの戦いでイスラム教徒との協力関係にある点から考えて、メディアや軍関係者、外交専門家などから猛烈な反発を浴びた。しかしながら、過激イスラム教徒によるテロへの恐怖感は、ヨーロッパ各地でのテロが起きる度に、自分たちに襲い掛かる現実として感じられたのだ。
 
勿論、アメリカで起きたイスラム教関連のテロは、「ホーム・グロウン」のテロと呼ばれ、新しくアメリカに移民したイスラム教徒によるテロではなく、アメリカで育ったイスラム教徒によるテロである。それでも、現在シリアやパキスタンなどのイスラム教国から受け入れる移民の子供達が、アメリカで育ちながらも、10年、20年先、過激イスラム教にシンパシーを感じ、アメリカでテロを起こさないとは限らない。また、テロではないにせよ、イスラム教徒の移民が、自分たちのイスラム教文化やシャリア法の適用などを求め始めるケースが増えていた。こうした動きに、アメリカの国柄が破壊される事を懸念する声があがった事は、当然の流れである。
 
例えば、2015年テキサス州のアーヴィング市では、アハムド・モハメッドという当時14歳の少年が、自分で制作したという『時計』を、自分の通うマッカーサー・ハイスクールに持ち込んだ。ところがこの「制作品」はアタッシュケース爆弾と見分けがつかない代物だった。秒針の音がするアタッシュケース『時計』は、教師によって没収され、警察が呼ばれた。結局これは爆弾ではない事が判明し、モハメッド少年はオバマ大統領によってホワイト・ハウスに招かれている。この一家はアーヴィング市を相手取って「イスラム教徒に対する偏見を基に、不当な差別を行なった」として、約16億円を求めて訴えを起こした。

 

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 アハムド少年の作ったとされるアタッシュ・ケース時計。素人には、アタッシュケース爆弾にしか見えない。

 

アメリカでは、幼稚園児がハロー・キティのオモチャの拳銃で「撃つぞ」と叫んでも、場合によっては問題になってきた。過剰反応である事には違いはないが、犯罪には厳しく対応をする為に、紛らわしい真似をしない意識が徹底している。この期に及んで、専門家でなければ違いが判らないアタッシュケース『時計』を持ち込んだ少年に対する学校や警察の対応が間違っていたとは、常識的には思われなかった。この一家がアメリカ人によるイスラム教徒への差別を訴えれば訴えるほど、反感を招いたのだ。
 
またアーヴィング市の市長は、モスクの指導者たちが、市内のイスラム教徒に対し、イスラム教の法律であるシャリア法を適用した裁きを行なっているとして訴え、外国の法律を合衆国内で適応してはならないという州法にしたがって裁判で勝利している。
 
 
このような例は、イスラム教徒の人口がある程度増える地域に於いて見られ、『イスラム教徒の女性が警察のパトロールで止められ、マグショットの写真を撮る際にも、被り物を取る事を拒否し、市当局を訴えた』というニュースもある。「各地でイスラム教徒らの新しい移民たちが、アメリカの文化を変えようとしている」という不安感が漂った事は、ブレイトバート誌などのアルト・ライト・メディアが詳細に報道していた。
 
勿論、過激イスラム教とイスラム教の関係を否定し、却ってキリスト教及びユダヤ教を批判するオバマ大統領や民主党の主張は、もともと民主党支持者の多い大都市以外の殆どの地方都市において民主党離れを起こしていたのだ。この兆候は、すでに2014年の中間選挙の時点で、民主党の歴史的大敗と、共和党の飛躍でも見て取れる。地方における民主党の支持基盤の弱体は、不人気なヒラリー・クリントン元国務長官では回復できなかったのだ。この点こそが、ヒラリー・クリントンと民主党の敗退の原因である。
 

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  2014年の中間選挙での地図。共和党の大勝利によって、合衆国の多くの地域が赤く塗り替えられている。
 
選挙直後ワシントン・ポスト紙は、普段は民主党に投票する世俗イスラム教徒の女性が、なぜ今回に限ってトランプ氏に投票したかを説明した記事を掲載した。この女性によれば、イスラム教徒の移民増加に伴い、アメリカ社会の自由や平等が侵害される事を懸念する世俗派、或いは穏健派のイスラム教徒がいる。
 
くり返すが、これらの「普段、民主党に投票するのに、今回はトランプ氏に投票した」という有権者の票は、2012年にオバマ大統領(当時)に対して敗退したミット・ロムニー候補以上の票は与えなかった。「普段、共和党に投票するのに、今回はヒラリー・クリントン元国務長官に投票した」という反トランプを掲げる共和党支持者の票が、ヒラリー・クリントンに勝利を与えなかったことと同じである。
 
しかし、何故民主党が敗退をしたのかという理由の説明にはなる。
 
因みに、私には民主党支持者の友人も多くいるが、彼らはイスラム教徒への差別はしない一方、「イスラム教は平和の宗教である」などと言う主張にもは強く反対する。こういった民主党支持者は、ブッシュ大統領のような保守派政治家の「世界の警察官、アメリカ」には賛同せず、むしろ外国への軍事介入には否定的である。今回の選挙では、オバマ大統領のような急進的左翼ではない民主党支持者は、『イスラム教は平和の宗教』には賛成し得ず、ヒラリー・クリントンの不正にも好感を持てず、結局、リバタリアン党のゲイリー・ジョンソン党首に投票している。ジョンソン党首の外交政策は穏健な民主党議員と同様で、一国平和主義を標榜している。穏健な民主党支持者は、今回の選挙ではリバタリアン党か、緑の党に流れたようだ。これら第三の党と呼ばれる弱小政党の果たした役割を、忘れるべきではない。
 
リバタリアン党だけでも400万の票を得ているが、勝敗の決め手となった州では、票をヒラリー・クリントンからむしり取ったと分析されている。ヒラリーからの票がこれら第三の党に流れれば、結果的にはトランプの勝利へと繋がる。たとえ彼らが一番毛嫌いをしているのはトランプその人であってもだ。

Third party voters criticized after slim Trump margins - NY Daily News

Poll: Clinton, Trump most unfavorable candidates ever

 
因みに、トランプ大統領就任の翌日21日、女性をメインにした大規模な反トランプ行進が世界各地で行なわれた。参加をした女性の多くはリベラル派である。この反トランプ行進を企画したリンダ・サーソールはイスラム主義者であり、シャリア法を素晴らしいものとして擁護し、イスラム教を棄てた人権活動家、アヤーン・ヒルシ・アリへの名誉博士号授与を「彼女は憎しみの煽動家で、それに値しない」と反対している。

Linda Sarsour’s Muslim Identity Politics Epitomize Feminism’s Hypocrisy

 
アメリカにおけるシャリア法の活用を求めるリンダ・サーソールを「私のヒーロー」と呼び、擁護しているのが、レズビアンの活動家として有名なサリー・コーンである。皮肉なことに、真にシャリア法が適用されているイスラム社会では、同性愛者は石うち等で死刑に処される。サリー・コーンだけではなく、スーザン・サランドンやマーク・ラファロなどのハリウッド著名人が「私は彼女を支持する」とサーソールを支持するが、これらの急進的ハリウッドの有名人の一人として、シャリア法の下では生きられない筈だ。(*但し、サーソールの偽善を指摘するあまり、サーソールとISISの繋がりを指摘する陰謀説専門メディア「Gateway Pundit」の記事は、全く信頼に値しない。)

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    反トランプ女性大行進を企画し、アメリカにおける女性の人権蹂躙を訴えるリンダ・サーソール
 
私はトランプ大統領による「アメリカ=修羅場」就任演説を批判するが、これらリベラル派のハリウッド有名人が叫ぶ、「アメリカにおける人権侵害や女性への人権蹂躙」なども的外れであると批判する。本当の人権侵害は、イスラム主義国や共産主義国、専制主義国等で行なわれている。
 
リンダ・サーソールやサリー・コーンがともに大統領に反対する大規模デモを行なう自由が、いくらトランプ大統領の下とは言っても、アメリカにはある。そのような自由は、反トランプ・デモを企画したサーソールの目指すイスラム主義社会には無い。
 
この偽善から方向転換をしなければ、民主党の支持基盤の回復は無いだろう。