反日大統領トランプによる『TPP脱退』と、客観的な分析や証拠に反してトランプに心酔する日本人ナショナリストの奇怪

どこの国でも、ナショナリストたちは、自国を美化する神話には興味を示すが、自国へ深刻に影響を及ぼす現実の安全保障や経済にはあまり関心を持たない。彼らにとって守るべきは『名誉』や、「他者に何と言われるか」であり、国の平和や近代民主主義、自由主義国家としての安定では無いようだ。胸を悪くするような反対意見や報道ならば、法律によって罰せられる事すら願う。「言論、表現、思想、報道の自由」が、自分の異論を広める為に用いられる時には、これらの自由の制限をすら求めるが、これらの自由の制限をすれば、どんな権力の乱用を可能とするか、将来的な観測が出来ない。また、自由が保障されている社会だからこそ、経済発展を成し遂げる事が出来るという側面にも気づいていない。

 
さて、私は今回、日本人ナショナリストを批判するつもりでこれを書いているが、ナショナリストと言っても、特にトランプ支持のナショナリストを指している。私は以前、オバマ大統領を「アメリカ史上最悪の大統領」と批判してきた。またヒラリー・クリントンの不正についても書いてきた。FBIのジェームズ・コーミイ長官が、大統領選挙投票数日前にヒラリー・候補への捜査を開始した時にも、彼女を庇いはしなかった。確かに彼女には不正があったからだ。
 
ところがトランプ氏の不正は、ヒラリー・クリントン元国務長官の不正を凌ぐ不正である。そして彼は、もし彼が選挙中の公約を実現すれば、アメリカ経済だけでなく、日本経済を含む世界的な不況を起こし兼ねない政策を掲げているのだ。しかも彼の対日観は、1980年代の貿易不均衡、日本との貿易摩擦が激しかった頃のまま、「日本の為に、アメリカ人は職を失ない、日本の貿易の為にアメリカは負担を強いられている」という被害者妄想にとり付かれたままなのだ。
 
近年のアメリカ大統領で、彼ほどあからさまに日本への敵意を表している大統領はいない。日本については、パートナーとしてよりもアメリカから搾取する経済大国としか考えていないのだ。ところが何故、ここまで日本についての敵意を表すトランプ大統領を支持する日本人ナショナリストがいるのだろう。

 

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トランプは在日米軍に関して、日本が「少しも負担額を払っていない」と主張した。ワシントン・ポストの記者に、「日本は50%払っています」と窘められると、「何故100%ではないのだ」と聞き返している。あくまでも日本が全額負担するまでは、アメリカにとって「アンフェア」であると言いたいのだろう。またトランプ氏は日本が「アメリカから何も買っていない」と非難している。これについてもメディアはトランプ氏の誤りを指摘しているが、トランプ氏には貿易不均衡が是正されるまで、「搾取されている」という被害者妄想から抜け出せないのだ。これはトランプ氏が自由貿易の何たるか、貿易不均衡が何故生じるかを全く理解していない証拠である。
 
トランプ氏の掲げる対日政策は、日本の安全保障と経済を著しく傷つけるものだ。トランプ支持のナショナリストは、ビジネスマンとしてのトランプの経歴で以て、これは交渉をする上での前提であるとトランプを弁護するが、これはそもそもビジネスマンとしてのトランプの経歴を知らないからだ。
 
トランプはトランプ大学の詐欺事件でも知られている通り、弱小のビジネスや個人から資金を巻き上げ、賃金を払わず、意図的な借金を負い18年間税金を支払わず、カジノ経営による4回の破産後、アメリカの銀行から融資を断られた後はロシアの資本から援助を受けてきた人物だ。この経歴からいくつも分析ができるが、日本にとって良い交渉相手ではない。
 
安倍政権がトランプの要求を無理に満たそうとすれば、必ず日本経済の犠牲が伴う。トランプが要求する通り、貿易不均衡を正すため、日本は大量のアメリカ車を購入出来るだろうか。米軍基地負担100%が支払えるだろうか。これらを国民は承諾するだろうか。このようなトランプの無理な要求を呑もうとすれば、日本経済は必ず打撃を受け、国民生活に支障が出る。経済成長を果たせなければ、安倍政権は支持を失い、自民党は敗北する。代わりに控えるのは、さらに親中派の政権である事をナショナリストは全く考えていない
 
私のまわりには、日本人の中の自国への国防意識の欠如を嘆く人々がいるが、彼らとて自衛隊に勤務している人ばかりではない。その通り、世論調査によれば、日本人のおよそ11%のみが自国を守る為に戦うと答えているだけだ。この数は先進国の中で最低のレベルである。

Only 11% of Japanese people willing to fight for their country: Gallup survey ‹ Japan Today: Japan News and Discussion

 
トランプ支持の日本人ナショナリストらは、米軍の撤退を機に、日本人の中に国防の意識が芽生える事を期待しているようだ。もしかしたら、日本人の中の国防の意識を芽生えさせるには、米軍の撤退しかないと考えているのかもしれない。但し米軍が撤退したとしても、何も起こらなければ意識は変わらないだろうし、何か起こった後では遅いのが本当だ。
 
例えもしここで、日本の世論に突然の国防の意識が芽生えたとしても、中国は日本の変化を穏やかな目で見守ってくれるだろうか。それはあり得ない。核に対する絶対的なアレルギーを無視して日本が核開発に着手すれば、まず安倍政権は崩壊するし、中国は必ず先制攻撃を開始する。そのついでに中国が尖閣や沖縄に侵略すれば、ロシアは間違いなく中国に加勢し、北海道のあたりを侵略するだろう。日本人ナショナリストが「プーチンは柔道が好きな親日家」と期待しても、彼らの淡い期待くらい何も無かったかのように踏みにじる冷酷さは、プーチンの得意とするところだ。(もっとも、最近のプーチン大統領の発言を見れば、日本側に過度の期待をしないように牽制しているように聞こえる。それでも淡い期待を寄せるのがナショナリストなのだ。)
 
仮にトランプの無理な要求に何とか応えようと安倍内閣が努力すれば、日本経済は深刻な打撃を受け、政権は支持を失う。その時に、中国が強硬姿勢を取らず、懐柔政策を行なう場合も考えられる。トランプ政権は4年、長くて8年しか続かないが、中国は南京などの歴史問題や尖閣などの領土問題をこの先20年、50年取り上げないと提案するかもしれない。中国にとって、これくらいの期間の先を読んで外交を行なうことは簡単だ。日本経済のパートナーとして中国がさらに重要な位置を占めれば、親中派の議員が有力となり、日本の外交政策も親中路線へと変更せざるを得ない。勿論、同じ誘惑の誘いが中国から韓国に対してなされる事も当然あり得る。フィリピンのドゥテルテ大統領就任とともに、中国は対フィリピン政策を強硬外交から懐柔外交へ変更した。中国がその期を判断し、強硬路線を改める事は出来る。
 
但し、もし中国が「歴史、領土問題をしばらくは取り上げない」と約束したとしても、この蜜月期間の後には、或いはトランプ政権後には、中国が再び折りを見て歴史、領土問題をぶり返す事は、明らかである。しかしながら日本には、その時に機敏に対応できるほどの柔軟性はないし、親中議員に国会は牛耳られているだろう。
 
トランプは今日にもTPP撤退の大統領特別指令に署名し、アメリカはアジア制覇の役割を中国に押し付けた。アメリカの脱退は安倍政権を直撃する。中国の張俊中国外務省国際経済部長は、この降って湧いた好機に、「もし、中国が指導者としての立場を取ったと言いたい人々がいるなら、それは中国が突然指導者として自らを推したからではない。それは元々のフロントランナーが突然後ろに下がり、中国を前面に押したからである。」と語っている。

Trump’s Pacific Trade Retreat - WSJ

 
安倍首相は、この期に及んでもまだ、TPPの重要性をトランプ大統領に説明しようとしている。稲田防衛庁に至っては、在日米軍基地がいかにアメリカの国益に叶っているか述べているが、これはトランプにとっては挑発でしかない。アメリカの主要メディアはTPP脱退の政策が安倍政権を直撃するだろうと懸念を発している。悪い事に、大統領就任後のトランプ氏は、複数の政策顧問の反対意見を押し切って、TPP脱退を含む大統領指令に署名したようだ。この先いくつ「複数の政策顧問の反対を押し切って」愚かな決定を下していくのだろう。

The first days inside Trump’s White House: Fury, tumult and a reboot - The Washington Post

 
SNAニュース・ジャパンはトランプ大統領によるTPP撤退を天才的戦略とは見做さず、却って「精神障害を負った男」とトランプを表現している。トランプは大統領就任後3日間の間に、大統領特別指令を発し、自分が大統領に就任した2017年1月20日を記念して、北朝鮮さながらの『愛国心の日(National Day of Patriotic Devotion)』と制定した。そのうち気が付いた時には、いつの間にか彼の誕生日が国民の祭日となっているかもしれない。

Donald Trump's 'day of patriotic devotion' has echoes of North Korea | US news | The Guardian

 
トランプ支持の日本人ナショナリストらは、トランプの主張を鵜呑みにし、主要メディアが嘘をついていると信じているようだ。但し、トランプの日本への偏見を正しているのは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などの主要メディアである。トランプのお抱えメディアである、ブレイトバート誌などの三流誌が、トランプの偏見に対して物申すことなどは決してしない。
 
「日本の名誉を取り戻す」ことを掲げる日本人ナショナリストが、なぜ現在の日本に対するトランプによる冒涜や捏造、誇張、偏見に対して物申さないのか、彼を弁護する理由は何故なのか、なぜ客観的な分析や証拠も無く、もっと明確に言えば、客観的な分析や証拠に反してトランプを弁護し、彼に期待し、心酔するのか、到底理解できない。事実に反して、トランプ政権で日米関係が良く変わるかのように吹聴するナショナリストらは、連日の連敗にもかかわらず日本の勝利のみを宣伝した戦時中のプロパガンダよりもひどい。
 
トランプ大統領の下で日米関係が好転する事は無い。日本にとっては、いくらリベラル派であり、民主党であり、腐敗していても、ヒラリークリントンの方がマシであったのだ。そもそも自由貿易を阻止しようとするトランプを保守派に仕立て上げ、トランプとヒラリーの対決を保守派対リベラル派であるかのように宣伝したトランプ支持者は、保守が何を意味するかも理解していないのだ。
 
この先も、トランプ支持の日本人ナショナリストらは、日本を誤った方向に導くだろう。