2016年大統領選挙、ヒラリー・クリントンと民主党の敗因 (2)

まず、大多数の国民がトランプ氏を支持したかのような意見が見られますが、これは事実ではありません。
第一に、全国で見るトランプ氏の得票数は58,864,233票です。(11月9日現在)
 
実際に投票を行なったのは有権者の56,9%ですが、そのうちの半数以上がヒラリー・クリントン元国務長官や、その他の候補者に投票することでトランプ氏への反対票を投じており、トランプ氏へ投票したのは、実際に投票をした有権者の47,5%、全体の有権者の約27%となっています。
 
 
一方、ヒラリー・クリントン元国務長官の全国得票数は58,909,774票で、クリントン元国務長官は、トランプ氏よりも45,541票多く獲得しています。
 
ただし、熱狂的なトランプ支持者の興奮状態を見て、トランプ氏当選への確実性を報じていたアルト・ライト・メディアが中にはありましたが、実はトランプ氏の得票数は、2012年に共和党から立候補をし、二期目の当選を狙うオバマ大統領に敗北をしたミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の得票数よりも少なく、選挙期間中のトランプ氏への支持率は、2012年のミット・ロムニー元州知事への支持率に劣っていました。
 
また、クリントン元長官への不人気も取り沙汰されましたが、トランプ氏への不人気度は更に高く、例えばコロラド州におけるクリントン長官の人気、不人気度は41対55であるのに対し、トランプ氏の人気、不人気度は36対60です。またミシガン州では、クリントン元長官の人気、不人気度が39対55ですが、トランプ氏は35対58、ヴァージニア州ではクリントン元長官が43対53ですが、トランプ氏の場合は37対58となっています。
 
 
2012年の選挙、及び、オバマ大統領、ミット・ロムニー元州知事、また今回のヒラリー・クリントン元国務長官と比較しても、トランプ氏の得票が一番少ないのは事実であり、トランプ氏は、アメリカ歴代大統領で5人目にあたる、「全国得票数では勝利をしていない大統領」となります。
 
また、今回の選挙における予測に反した点は、共和党議員による上院、下院の過半数議席確保にもあります。但し、実際に投票所へ足を運んだ共和党支持者の数は、予測されていた数値と大差はなく、共和党議員の勝因はむしろ、民主党支持者が民主党候補者に投票しなかった点に見出す事ができます。

 

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               私の大統領ではないというサインを掲げる反トランプデモ隊
 
トランプ氏だけでなく、反トランプを掲げ、党の指名候補者に反旗を翻した多くの共和党議員が当選した事を考えれば、トランプ氏の勝因は、『トランプ旋風』や熱狂的な支持者によるものではなく、選挙人団を使っての選挙システムと、民主党支持者による投票率の伸び悩みにあった事が読み取れるでしょう。
 
また、「メディアが嘘をついていた」という、一部トランプ支持者が流布する『陰謀説』は、事実と異なります。今回の選挙結果に見られたメディアの世論調査と実際の開票結果の開きは、まず基本的に、世論調査ではクリントン元長官支持を表明しながら、その支持が投票所に赴くまでの熱意ではなかった有権者の一定の割合が民主党支持者の中にあった点と、全国平均世論調査の支持率を高めていたクリントン元長官への支持が、両岸の大都市に集中してしまっていた事が挙げられます。
 
極端な例えですが、1億人が世論調査でクリントン元長官を支持し、その5千万人がカリフォルニア州で、残りの5千万人がニューヨーク州に於いて彼女に投票しても、選挙人団というシステムを通しての選挙結果は、カリフォルニア州からの選挙人55人と、ニューヨーク州からの選挙人29人が加算されるだけになり、当選に必要な270人の選挙人獲得には至りません。
 
また、現在トランプ氏大統領当選に反対し、各地でデモを行なっている多くの人々を見ますと、その多くが学生であったり、若者であったりしますが、この年代からのオバマ大統領への投票数と比較して、2016年選挙における彼らからの得票数が約100万票減少した事がわかります。どうやら、これら若い年代層は、クリントン元国務長官や民主党を支持しながらも、「民主主義」に則り、投票所へ赴いて一票を投じる形で意思表明をするよりも、デモ行進による意思表示に惹かれる特徴があると言えるでしょう。
 
「民主主義」という特権を軽んじた失点が若い民主党支持者にある事は否めません。
 
民主党支持者からの票の伸び悩みは、黒人初の大統領であったオバマ大統領のカリスマ性を、クリントン元国務長官が持ち合わせていなかった点も理由にあげられるでしょう。オバマ大統領は、支持、不支持は別として、黒人初の大統領として新しい時代を象徴し、その知的な演説の仕方が好評であった事は事実です。
 
但し、このカリスマ性を利用できるのはオバマ大統領その人だけであり、オバマ大統領による過激な左翼政治は国民から反感を買い、多くの民主党議員が議席を失ないました。2年前の中間選挙の結果、民主党が議席を大きく失ったままである事を鑑みれば、8年に渡るオバマ政権下、オバマ大統領その人をホワイトハウスに戴きつつも、民主党支持基盤が地方レベルで緩んでしまっていたと言えるでしょう。
 
オバマ大統領による極端な左翼政治が反感を呼び、ドナルド・トランプという対極的な極端を作ったと言われていますが、極端と極端はお互いに反発をしながらも類似点が多く、中道路線を認めない為に国民の中に生じた分裂を深める傾向があります。
 
中道左派や中道保守などの「中道路線」を認めない限り、国家が両極端に別れ、国民は分裂したままとなります。共和党議員が議会を占め、トランプ新大統領への発言力を高め、その独裁的傾向や極論を制していかない限り、国民の間に『癒し』は生まれないでしょう。
 
この癒しや国民の間の一致は、勝利感の躍動に明け暮れるトランプ支持者たちが反対者やメディアを罵り、屈服を要求したり、報復を求めるうちには決して訪れません。
 
トランプ氏による「選挙結果を認めない」「敗北した場合には暴動が起きるだろう」などの発言に反発をしていた反トランプ派のデモ隊は、選挙結果を受け入れ、これからは大統領としてのトランプ氏を評価していくべきです。民主主義選挙によって選出された大統領や政府は、その個人や主張に対する評価や支持は別として、民主主義への敬意として受け入れられる必要があります。
 
民主主義を脅かすような暴力行為は、トランプ支持者であっても、反トランプ派であっても、許される事ではありません。
 
一方、「トランプが大統領となったら、海外に引っ越しをする」と宣言していた有名人に対して「自分の言葉通り、早く海外に引っ越せ」と嗤うようなトランプ支持者たちは、一個人である有名人の「約束」よりも、大統領としてのトランプ氏が「公約」を守るかどうか注視するべきです。
 
しかも彼らは、今までのトランプ氏の発言や言動を全て「個人の時代の事だから」と容認してきたのですから。