黒人を縛り続ける左翼政治

ジョージ・フロイド氏が死亡したのは、心臓発作が原因なのか、警察による首への圧迫によって窒息死させられたのか、二種類の死亡鑑定の判断が確定していないうちに『ブラック・ライブズ・マター』や『アンティファ』の抗議デモが広がり、黒人への人種差別を背景とした警察による殺害であるという見解以外、有無を言わせない空気が漂っている。

鑑定結果が出る以前から、主要メディアやソーシャルメディアでは、起訴された元警察官、デレック・ショウヴィンによる、黒人蔑視を根底にした、たかだか偽20ドル札使用の為の殺害だと判決が下されていたが、逮捕に至るまでの911番録音(日本では110番録音)によれば、フロイド氏はかなりの泥酔状態であり、警察として彼にこのまま運転させ家に帰す事は不可能だったと分かる。またフロイド氏は、複数のドラッグ使用による為か、或いはExDS(エキサイテッド・デリリアム症候群)を経験していた為か、自他に危害を加える可能性のある状態であったと判断されており、その場合に首や胴部を抑えつける行為は、ミネアポリス警察の容疑者逮捕のガイドラインに沿ったものだ。しかもショウヴィンによる首への圧迫も、ボディーカメラの映像によれば、フロイド氏には頭と首を持ち上げる余裕があり、首への圧迫による窒息死である可能性も低い。帰宅させる事も不可能であり、おとなしくパトカーに乗せる事も不可能であった事件当時の警察の立場を思えば、やむにやまれぬ処置であり、その最中の死亡であったと思われる。私見ながら、状況証拠を鑑みれば、この事件は業務上過失致死であっても、殺人とは言えないと思われる。
しかしながら、フロイド氏が死亡するに至る映像がソーシャルメディアに流れるや否や、「黒人差別」や「警察による殺害」以外の見解に異論を唱えようものなら、たちまち「人種差別主義者」のレッテルを貼られる空気が漂い出した。警察による差別や暴行に反対しない声は、即ち「差別への容認」と非難されるのだ。
特に主要メディアや白人リベラル派の遠慮や迎合は、いつの間にか暴徒化した「プロテスター」の意見を伺い、それを垂れ流すまでに至っている。ハリウッドの有名人らは、逮捕をされた暴徒の保釈金を負担すると表明し、暴動による被害者らが泣き寝入りする傍ら、略奪や放火、破壊行為を行なった側が英雄のように持て囃されている。『一部の警察による暴行』として始まった抗議は、全ての警察を悪とするようになり、ついには警察への予算削減や警察組織の解体への要求に繋がっている。『一部が暴徒化』した筈のデモは、全てのデモを正義を求める怒りの声とするようになった。


暴動を容認する人々

                        f:id:HKennedy:20200627113237j:image
CNNはニューヨーク・タイムズと共に、トランプ大統領やその支持者らから『フェイク・ニュース』のレッテルを貼られるが、CNNの中にも公正な報道を行ない、双方の非を鋭く指摘するジャーナリストやアンカーらがいない訳では決してない。但し、CNNのプライムタイムでアンカーを務め、またニューヨーク州知事アンドリュー・クオモの弟であるクリス・クオモは、度を越した偏向振りを露呈している。5月31日に略奪や放火や暴行が横行する中、暴徒にインタビューした黒人女性レポーターの「これらの暴徒が状況を悪利用して犯罪を行なっていると思う人もいるでしょう。これらの暴徒の全てが痛みによって略奪や暴力行為を行なっているとは言えないかもしれません。しかし多くの暴徒らは大きな痛みを抱えています。彼らは特に若い人々は、自分たちの抱える大きな痛み、怒りをどうしたら良いかわからず、こうして表現しているのです。あなたの番組に出演した男性が言った通りです。『これらの損害を見ましたか。僕らが平和的に行動していた時に、誰も耳を傾けてくれなかった。大人しく抗議していた時に、僕らの声は聞かれなかった。今なら僕らの言う事を聞きたくなるでしょう』 彼の言った通り、羽目を外す事で、やっと社会からの関心を得られるようになったのです」という擁護をそのまま流し、6月2日には、ニューヨーク市でのデモや暴動を報道する際に、「抗議者らが礼を失せず、平和的に抗議しなければならないと、一体どこに書いてあるのか教えて頂きたい」と述べている。
こういった擁護論は、ほんの一月ほど前まであった民主党知事によるロックダウンに抗議する右派のデモ隊を弁護する為に、主要メディアから聞かれただろうか。私はマスクもせず、社会的距離も保たず、銃を携帯して威嚇する彼らを批判した一人だが、反ロックダウンのデモ隊の方が、遥かに平和的であり、理に叶っている。彼らは店を略奪もせず、放火もせず、全く関係の無い人々に暴力を振るう事もなかった。ところがメディアと左派は、右派のデモを「他者の命を顧みない、コロナウイルスという科学を信じないテロ集団」として扱った一方、ブラック・ライブズ・マターやアンティファ、その他の反警察の抗議デモに集まる人々については「正義の行なわれる事を求めている、人種差別と闘う人々」と称え、1000人以上の医療関係者や医学専門家と言われる人々までも「我々は、公共の健康について訴える団体として、反警察の抗議デモ等がコロナウイルス感染拡大をさせるとして批判はしない。この立場は、その他の集まりへの消極的立場、特に反ロックダウンの抗議デモへの我々の反対と、同一視されるべきではない」と、呆れかえる声明すら出している。
『コロナウイルスは、他者を死に至らしめ得る』という『科学』は、『人種差別と闘う』という『正しい動機』の為には、払って良い犠牲であるらしいし、しかもこうした「医学関係者」らは、「一時的な感染拡大があったとしても、この『正しい動機』は、周り回ってコロナウイルス感染拡大を防止をする」とまで言っている。https://www.npr.org/sections/coronavirus-live-updates/2020/06/01/867200259/protests-over-racism-versus-risk-of-covid-i-wouldn-t-weigh-these-crises-separatehttps://www.cnn.com/2020/06/05/health/health-care-open-letter-protests-coronavirus-trnd/index.html https://www.wsj.com/articles/health-care-workers-say-protests-are-vital-despite-coronavirus-risks-11591790600
社会封鎖によって4百万人以上の人々が職を失い、何千ものビジネスが破産した事については「命の方が大切」と説きながら、反警察デモについては「人種差別に反対し、正義を求める運動」と称賛する。この二重基準が医学の名において横行し、メディアはこれを偽善でないと主張するが、このような不合理は、今までコロナウイルスの為に自制を強いられてきた人々の公共心への冒涜でしかない。


被害者としての暴徒:


暴徒と化し、略奪や放火、果ては殺人まで犯すのは一部の黒人だけでは無い。また彼らを支持するのも黒人だけでは無い。道行く黒人に、警察官に投げつけるよう、レンガを手渡しし、却って黒人に批判される白人もいるし、黒人警察官に対して中指を突き立てる白人の反警察デモ参加者もいる。暴動や略奪に加担するか、或いは反警察デモに参加するか否かは別として、それでも多くの黒人が、自分たちを人種差別の被害者として捉えている。アメリカの歴史上にあった奴隷制の被害者である黒人は、既に百年以上前に眠りについており、今日アメリカに暮らす黒人は、彼らの先祖が苦しんだ言葉に尽くせない苦しみによって勝ち取った自由と平等を享受している筈である。ところが、直接の人種差別を味わった人々の子孫にあたる今日の黒人は、あらゆるビジネスを襲い、略奪し、放火し、或いは全く関係の無い無辜の人々の命を奪っても正当化されるべき、「不正への怒り」を抱えているらしい。
私はこの点について、ある黒人男性と議論したのだが、彼は自分たちは怒りを抱えた被害者であるという見解以外、受け入れる事を全くしない。暴動によって、同じ黒人が襲われ、奪われ、彼らの生活が破壊されても、暴徒の怒りに共感する彼は「仕方の無い事」としか関心を示さない。自分たちが抱えている怒りを正当的であると考えているようだ。
こういった黒人による怒りに、白人リベラル派の多くは理解を示し、同情し、怖気づいてしまうだけで、彼らの主張の誤りを指摘する事は無いばかりか、その主張に心から同意してしまうのだ。
ところが歴史というものは、都合の良いように切り取れる類のものではない。また黒人だから必ず被害者であり、白人だから必ず加害者だったという単純な理解は偏見でしかない。15世紀から19世紀にかけてオスマン・トルコ帝国が栄えた時代に、約100万人の白人ヨーロッパ人が北アフリカ・バルバリアの海賊によって、トルコや北アフリカに奴隷として売られていった歴史がある。だからと言ってトルコや北アフリカの国々は、欧米の白人に対して賠償しようなどと考えた事もないだろう。18世紀に至るまでは、世界のどの民族、アフリカ人であっても、アジア人や南洋の国に住む人々であっても、奴隷制度を認め、使用していたのだ。この制度の非人道性に疑問を持ち始めたのが、まず英国であり、米国である。
これはアメリカの黒人奴隷の歴史を軽視するものではない。アフリカから連れてこられた奴隷たちは筆舌に尽くし難い苦しみを経た。奴隷制度という制度は、非人道的極まりなく、醜悪であり、どのような論理で以ても許されるべきではない。しかしながらアメリカはそうした制度を廃止する為に、655,000人以上の死者を出して南北戦争を戦ったのだ。この多大な死者数は、6人の奴隷を開放する為に、一人の白人が命を失った数であり、第二次世界大戦における米国の死者数を遥かに上回る。奴隷制を廃止しようとした北部の方が死者が多い。そこまでの犠牲を払って終止符を打った奴隷制度なのだ。アメリカという国が自らの悪について疑問を持ち、それを取り除こうと血を流した点は、否めない事実である。
南北戦争後の150年を経た今日の黒人たちは、奴隷時代の苦しみを味わった世代ではない。今日の反警察デモ運動を続けているのは、南北戦争どころか、市民権運動が起こる1950年代前の差別を経験した黒人たちでもない。差別感情が残っていた70年代を生きた人々でもない。このような運動は、主に無政府主義やマルクス主義を掲げる若い急進的左翼によって、広められている。自分が体験したしていない不正に対して怒りを感じる事が悪い訳ではないが、自分が体験していない不正への怒りを、他者に危害を加える事によって鬱憤晴らしして良い筈が無い。不正に対して怒る人は、他者への不正を喜ぶべきではないのだ。
こうした常識は、主張の正当性を、集団的アイデンティティーによって見出そうとする左派には通じない。彼らの考えによれば、黒人は全て犠牲者であり、白人は全てある程度の加害者である。但し黒人警察官や警備員、及び彼らの意見に異議を唱える黒人は、裏切り者として厳しく批判される。左翼にとってみれば、仲間でない黒人は、黒人としてのアイデンティーを超え、誤った考えに傾倒している問題人物であり、正しい考えに導かれる必要があるのだ。白人女性のデモ参加者が、黒人警察官に対して憤り「あなた方は問題の一因となっている。私は白人で、人種差別を経験した事はないけれど、黒人だからって何をしたって良い訳じゃないでしょ。人種差別主義は、白人の問題でもあるし、私が解決しなければいけない問題でもあるんだから」と怒鳴り声をあげている映像がある。彼女は、「全ての黒人は、人種差別組織である警察に反対するべきである」と考え、その警察に反対してくれない黒人に、「黒人が受けてきた差別について、私のように考えていないし、問題に加担している」と怒鳴っているのだ。
これらの白人左派による、他人の自由意思を全く認めない道徳的優越感は、ファナティズム、あるいは狂気でしかない。こうした狂気は、ワシントン州シアトル内の数区域間を封鎖し、「自治区」を名乗る『CHAZ (Capitol Hill Autonomous Zone)』内で、黒人だけが利用できる公園を作り、黒人以外がその公園を利用しないよう警備に当たる狂気、警察はおろか、小学校を警備してきた黒人警備員さえ「黒人への敵視をしている」として学校から解雇する狂気にも繋がっている。長年、小学校の警備に当たってきた黒人警備員を解雇するにあたり、ミネアポリスの左翼活動家らは「警備員がいなくなってしまった後、子供たちの安全はどう守るのだろう」という不安を感じながら、「それはわからないけれど、今のシステムには問題があるから」としか考えない。左翼にとって、結果は重要ではない。問題を看過せず、取り除いたという過程が大切なのだ。たとえその取り除き方によって、更に大きな問題が発生しても「意図は正しかった」と済ませられるのだろう。似たような理屈は、コロナウイルス感染拡大を止める為に、社会封鎖を提唱しながら、「人種差別や警察に反対する為のデモは、正しい動機であり、周り巡って命を救う」と真顔で発表できる狂気にも見られる。https://www.washingtonpost.com/national/after-killing-of-george-floyd-looting-and-rage-leads-white-liberals-to-embrace-ideas-that-once-seemed-radical/2020/06/09/63382090-a720-11ea-b619-3f9133bbb482_story.html?fbclid=IwAR3RLupV7D1KqeW4h2Et4w6sT0CsPYaPhyTGf4YnlGk2Y8BuJUFqjXrngB0#click=https://t.co/BfqJ07Mpku 

 

黒人の生活は誰が破壊したのか:


アメリカ社会において、最下層にあるのが不法滞在者であり、黒人であると言われている。この見方はある程度正しいのだろう。移民と一口に言っても、アジア系移民家庭の平均年収は、白人家庭の平均年収に勝る。最貧下層にある移民とは、ヒスパニック系の不法滞在者を指す。ところがヒスパニック系の移民であっても、彼らが成功していく可能性や率は,黒人が成功していく率よりも高い。ヒスパニック系移民の生活が向上していくのに対し、黒人はいつまでも最下層であるのが実態である。これは左翼が言うような人種差別が背景にあるとは思われない。アメリカのような多人種国家において、『人種』という人間の限られた一面だけに全ての問題が在ると考える方に、無理があるのだ。
アメリカに人種差別があるとすれば、それは個々の人間の中にある偏見や差別感情だと思われる。こうしたものは時間や交流を経なければ、なかなか解決しないだろう。個人的な差別感情などが存在しても、そうした感情はある程度自然な、どこの国にも、またどの人種にもあり得るのが本当だ。外国人嫌いの人もいれば、外国人を特別に優遇する人もいる。マイノリティーもマジョリティーと平等に扱おうとする人もいれば、マイノリティーを優遇しなければ平等とは言えないと考える人もいる。個々の人物の中にあり得る差別意識は、人間の考えなのだ。ある人の信条や考えは、他者によって禁じられ、強制されるべきではないし、強制によっては変えられないものだ。
一方、国や社会、企業や組織の中に差別があるとすれば、これは撤廃されなければならない。組織的差別は憲法違反の恐れすらある。今日のアメリカ社会において、組織的人種差別は殆ど無いと言って良いだろう。ここで「殆ど』と言うのは、『少数民族優遇措置』という、マイノリティーを特別に優遇する措置が存在するからだ。この措置は、企業や大学において、少数派の人々を、その人種の人口比率に応じて、有利に採用、昇進、入学させるという人種による特別扱いである。ここで恩恵を受けるのは主に黒人であり、次にヒスパニック系である。
SAT(大学進学適正試験)は1600点が満点であるが、『少数民族優遇措置』に従えば、ある大学が、白人が合格する点数を1200点と設定すると、黒人は白人より250点低い950点で合格とされ、ヒスパニック系は白人より185点低い1015点で合格できる仕組みである。ところが一般的に学力優秀であるアジア系の学生は、白人より50点高い1250点取らなければ合格できない。人種による差別措置によって益を受けているのは黒人、ヒスパニック系であり、不利益を被っているのはアジア系なのである。
このような『優遇措置』によって、白人と黒人の大学進学率は殆ど変わらなくなったが、この優遇措置は、思惑とは別に、黒人男性の社会的向上を助けてはいないのだ。
就職や昇進にとって重要となるのは、どこそこの大学に入学したかではない。どんな学位で卒業したかによる。ところが黒人男性に限って言えば、18歳時の大学入学の割合は、白人学生(42%)とほぼ同じ割合(37%)でありながら、6年以内に卒業をする割合は、そのうちの僅か34%でしかない。黒人男性が学位を取って大学卒業を果たす割合は、黒人男性の全体の12.5%でしかないのだ。大学生の年頃の黒人男性の約四分の一が、大学にチャレンジをしながら、失敗をする。勿論この4分の一の黒人男性は、高校を卒業し、犯罪やドラッグなどの「問題」から遠ざかり、真面目な一歩を踏み出した人々だ。ところが学位を取得しての卒業となると、彼らの大多数は失敗してしまう。
また他の人種の男性が6年のうちに大学を卒業する率は、25年間の間にそれぞれ向上する中、黒人男性の卒業率は殆ど変化していない33.8%のままである。
黒人男性の卒業率の低さを説明するには、人種差別は当てはまらない。大学の入学課は、最もリベラル色の強い世界であり、ここには黒人への差別など存在しない。それを証拠に、黒人女性が卒業する割合は、43%にも上る。またヒスパニック系が大学に入学する割合は36%であるが、そのうちの約半数が6年以内に卒業を果たす。これはマイノリティーの問題なのではない。黒人男性の問題である。少数民族優遇措置によって、黒人はどの人種よりも低いSAT得点で入学できるが、その為に自分の能力以上の大学に入学してしまい、学力や勉強の習慣が追い付かないまま、落第をしてしまうのだ。
黒人男性に限って、貧困から抜け出す為の大学卒業が困難な理由はどこにあるのだろう。
2006年の『ザ・ジャーナル・オブ・ブラックス・イン・ハイヤー・エデュケーション (The Journal of Blacks in Higher Education) 』に掲載された調査によれば、黒人男性の高い落第率は、第一義的には幼稚園から高校までの義務教育の失敗と、家族の中に模範を示すべき父親の存在や、大学進学及び卒業の伝統が根付いていない点が挙げられている。若い黒人男性に大学教育に相応しい自己鍛錬がなされていない事実は、多くの黒人が、未婚の母親によって、父親不在で育てられている点で簡単に説明できる。大多数の黒人家庭の中に、黒人の少年が見習うべき、家族を養うという責任感を持った黒人男性の姿が欠如しているのだ。

                 f:id:HKennedy:20200627113404j:image
アメリカにおいて未婚率、離婚率は上がっているが、人種別によれば、黒人家庭の崩壊が目立って増加している。1960年には90%の白人女性が、また87%の黒人女性が、結婚を経験していた。2016年には、その率が白人女性は60%まで下がったものの、黒人女性に至っては33%にまで急減している。アメリカ国立衛生研究所(The US National Institute of Health)の発表によれば、2014年には70%の白人の子供、また59%のヒスパニック系の子供が両親の元で育てらているが、黒人の子供の場合はその比率が逆転し、何と72%の黒人の子供が片親の元で育てられている。黒人が父親のいる家庭で育つことの方が珍しいのだ。
福祉支援にすがる家庭の多くを黒人家庭が占めているのは、社会的人種差別が原因なのではない。黒人家族の基盤が崩壊しているからだ。民主党のリンドン・ジョンソン大統領が宣言した『貧困への戦い』政策によって、未婚で子供を抱えた家庭への福祉支援支給が開始された。結婚している家庭には支給されない福祉支援が未婚家庭に支給され始めた当初の1960年代には、黒人の未婚家庭は僅か22%であった。ところが現在では70%を超える黒人家庭が、主にシングルマザーによって形成されている。どこの国でも同様だが、若い、高校をドロップアウトした未婚の女性のもとに生まれる子供と、両親ともに高校を卒業し、フルタイムのに就いている家庭のもとに生まれる子供では、将来の貧困率が違う。ブルッキングス・インスティチュート研究が2009年に出版した調査によれば、高校を卒業し、フルタイムの職に就き、21歳を過ぎて結婚し、子供を得る人がミドルクラスの収入を得る割合は76%に上る。ところが高校を卒業せず、結婚をせず、21歳になる前に子供を作る人が貧困になる割合は、74%にも昇る。多くの黒人家庭が貧困から抜け出せないままになっているのは、結婚をすれば支給されない福祉支給に依存する事で、貧困のスパイラルから抜け出せないからではないか。
また黒人の人口は、全体の12.7%に過ぎないが、刑務所人口の約三分の一を占める*。黒人は依然、殺人事件の53%を、強盗の60%を起こしている。黒人が黒人によって殺される犯罪、また黒人が起こす暴力犯罪によっても、多くの黒人家庭が破壊されているのだ。警察(黒人警察官によるか、白人警察官によるかは不明)による、武器を持っていない黒人の殺害が2019年には9件起こった。警察による武器を持っていない白人の殺害は19件である。ところがデータとして最新である2018年に殺害された黒人の数は7,407 人であり、その9割が、黒人による黒人の殺害である。警察による黒人殺害の約741倍の黒人殺害が、黒人によって行なわれているのだ。これは黒人社会にとって、人種差別に責任を押し付けられない、自殺行為であるとしか言えない。
一方、黒人社会を凶悪犯罪から守っているのが、警察である。黒人社会における殺害事件、凶悪犯罪の発生数は、『効果的なパトロール』によって減少の傾向にある。アメリカの凶悪犯罪の件数は、この30年間パトロールによって著しく下がり、2007年には592,900 人いた黒人の刑務所人口が 、2017年には475,900人にまで減少している。因みに刑務所にいる白人の数は499,800人であったが、436,500人に減少している。黒人の刑務所人口と白人の刑務所人口に大きな差は見られない。https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/04/30/shrinking-gap-between-number-of-blacks-and-whites-in-prison/ パトロール強化によってどの人種社会よりも益を受けているのが、黒人社会なのだ。ここで言う、凶悪犯罪を未然に防ぐ『効果的パトロール』とは、『挙動不審の人物を積極的に取り締まる』ことを指す。ところが、左翼やメディアはこれを、黒人を狙った人種差別行為だと叩く。警察による黒人への暴行や殺害が起こる度に、状況を無視した「警察による人種差別主義」論が騒がれる。勿論、警察による殺害事件の中には、弁解の余地がない類も存在する。ところが、例えば2008年から2014年まで、197件から240件の殺害件数があったバルチモア市では、「警察による黒人差別論」やそれによる暴動を配慮してパトロール方法を変えた途端、殺害件数が300件を下がる事が無くなってしまった。左翼やメディアが『警察内の組織的人種差別主義』と呼ぶパトロール方式によって、黒人の刑務所人口は著しく減少したが、同パトロールを禁止した途端、黒人による黒人への殺害が増加しているのだ。
人種差別主義が正しい筈はない。ところが黒人による行動の如何によらず、全ての問題を黒人に対する人種差別と騒ぐ左翼の方針こそが、黒人家庭や黒人社会を崩壊させ、最下層に位置付けたままなのではないか。今日の『人種差別』とは、黒人奴隷の存在していた時代や、市民権運動が起こる頃の黒人に対する人種差別の酷さとは、比較にならない、いわゆる『人種偏見』の類でしかない。ところが今日の黒人社会は、市民権運動が起こる前の酷い人種差別の時代より遥かに犯罪発生率が高く、今日の黒人家庭は、人種差別時代より遥かに崩壊しているのだ。
黒人の経済学者であるトーマス・ソーウェル博士によって、これの点は鋭く批判されている。「宗教教育」や「家族の絆」、「自己責任」とは、米国では右派や保守派が強調する価値観である。対して左派、リベラル派が強調するのは「社会正義」であり、「福祉」であり、「弱者の声」である。左派やリベラル派にとって、伝統的価値観は『人種・宗教差別的』であり、伝統的結婚観は『性差別主義』であり、進歩を果たしていない野蛮とされる。彼らは事ある毎に伝統的家族の在り方や宗教的価値観を撤廃しようとし、自分たちを弱者の側に立つ社会正義の戦士としてきた。こうした左派の主張の傾向に、全ての責任を課する事は不可能であるが、左派政治が黒人の貧困を作り続けている点は否めない。
150年以上も前の昔、多くの黒人奴隷たちを縛っていたのは、「白人所有者の下を離れれば生きていけない」と言う恐怖心の植え付けである。多くの黒人奴隷たちには、何の責任ある仕事も与えられず、自立心や責任感を育てる教育も禁じられていた。黒人奴隷を縛っているたのは、白人農場主への依存であったと言える。同様の依存心が、福祉政策によって黒人を縛っている。更に白人左派は黒人たちに『犠牲者』としてのアイデンティティーを与え、福祉に頼る事は奴隷であった黒人の歴史から来る当然の特権だと主張する。最近のニューヨーク・タイムズは、黒人への賠償金を支払うべきと主張したが、こうした主張は民主党左翼によってくり返し主張されてきた。https://www.nytimes.com/interactive/2020/06/24/magazine/reparations-slavery.html 彼ら左翼の考えによれば、歴史的奴隷制度の犠牲者である黒人は、連邦政府からの賠償金を受ける権利があるという。例え一人頭1000万円程の賠償金を受け取ったとしても、多くの宝くじ当選者が一時的現金支給によって却って生活の基盤を損なうように、バラマキ政治に頼る意識では、貧困からは逃れられない。依存を断ち切る責任感を育てなくては、自立は出来ない。いつまでも犠牲者アイデンティティーと福祉という依存に縛られていれば、怒りや甘えしか生まれないのだ。
現在の黒人を貧困に縛っているのは、左翼政治の失敗による。19世紀の黒人奴隷であり、奴隷生活から逃げ出し、後に奴隷解放運動を導き、リンカーン大統領とも黒人参政権を協議したフレデリック・ダグラスは、白人による善意の干渉が黒人に与える危険を見抜き、白人のなすべき黒人への支援について、こう答えた事がある。「多くの人々は私に、『それでは黒人たちに対して、我々は何をしてやったら良いのか』と聞く。私の答えは初めから変わっていない。『何もしないでくれ。 あなた方の関わりは、我々にとってすでに害悪となっているのだ』」

ジョージ•フロイド氏殺害と、警察による人種差別の有無

ミネアポリス市警察官によってジョージ・ フロイド氏が殺害されたのは、5月25日の事だ。 彼が逮捕をされたきっかけは20ドルのニセ札を使ってタバコを購 入し、店員から20ドル札が偽物である旨を指摘され、 購入したタバコの返還を求められたが、 それを断り続けた事による。フロイド氏が、自分の使用した20ド ル札が偽であった事を認識していたかはわからない。 巧妙に作られた偽札などは素人には判断がつかないだろうし、 店員の記憶によれば、 当時かなりの泥酔状態であったフロイド氏が、 状況判断を正しく出来ていたかは定かではない。

こうして警察が呼ばれ、フロイド氏は店の真向かいの駐車場に、 自分のSUVの運転席に座っているところを発見され、 少しの抵抗の後、逮捕される。検察によれば、 警察の指示に従い車の外に出たフロイド氏は警察の車に誘導される が、「閉所恐怖症」を理由にパトカーに乗る事を拒む。 一旦パトカーの後部座席に別の警察官と座るが、 閉所恐怖症の為に「息ができない」ともみ合いになる。 フロイド氏の殺害に至った警察官が氏を車から引き出し、 フロイド氏は手錠をかけられたまま舗道に倒れこみ、 意識はあるものの、動かなくなる。

ここから幾人かの目撃者がその様子を撮影し始める。 事件の後に第三級殺人(更にその後第二級殺人)を犯したとして逮 捕されたデレック・ショウヴァンはフロイド氏の首に跪き、 別の二人の警察官はそれぞれフロイド氏の胴体と脚を押さえつけて いた。この間にフロイド氏は「息ができない」「死にそうだ」「 お願いだから、息ができない」「首の膝で息ができない」 等と繰り返す。「息が出来るように膝を除けてやってくれ。 抵抗をしていないじゃないか」という傍観者の訴えに対し、4人目 の警察官であるトウ・タオは「(フロイド氏は) 喋っているんだから大丈夫だ。 これだからドラッグなんてするべきじゃないんだ。 しっかり見ておくんだぞ」と答えている。

                                     f:id:HKennedy:20200613125810j:image

あらゆる面から考えて、警察官らのミスによる死亡である。 但しこれが意図的な殺意を持っての殺害であるとは思えない。 特に自分の車に乗っている事は平気であったフロイド氏が、 パトカーには閉所恐怖症が原因で乗り込めないと言う主張を警察官 らは鵜呑みにしただろうか。パトカー内で「息ができない」 と騒ぐフロイド氏を、 現場を取り仕切っていたショウヴァンが車から引きずり降ろしたと ころ、フロイド氏は地面に倒れこんでいる。恐らく、 逃亡を防ぐ為か、 日本の警察でも使う絞め技を使ってフロイド氏を失神させた後パト カーに乗せる為か、 ショウヴァンは膝で以てフロイド氏の首を圧迫する。

フロイド氏の殺害を映したビデオがTwitterなどのソーシャ ルメディアに流れる。 多くの人々がフロイド氏が警察によって首を絞められ、 死亡していく様子に大きな怒りと衝撃を受け、 司法解剖を待たずして、死亡した翌日5月26日にはミネアポリス を始め、全米各地で抗議のデモンストレーションが行なわれる。

因みに、ヘネピン郡監察医による解剖結果は、 警察官による首への圧迫を死因としておらず、 却ってフロイド氏が虚血性心疾患と高血圧性心疾患を患っており、 それらが泥酔状態であった事と併せ、 警察による拘束下の状態で悪化した事を死因としている。 これには大きな反発が起こる。 またフロイド氏の遺族の要望によって為された別の解剖結果には、 フロイド氏が警察による首部や胴体への圧迫が原因となり殺害され たとし、全く別の結果を出している。

フロイド氏の死因が何であったか、 相違する二つの解剖結果がありながら、 これについてどちらがより正しいのか判断する以前に、 全米にデモが発生している。 これはソーシャルメディアによってビデオが流出した事が大きいだ ろう。フロイド氏が死亡するまでの何分かの映像を見て、 警察官による首への圧迫に慄き、 怒りや悲しみを感じない事は恐らく無い。実際、 あの映像を見た多くの警察官や警察幹部ですら、 怒りや悲しみを表明している。フロイド氏の死亡には、 共和党支持者であれ、民主党支持者であれ、黒人、 白人の違いは関係なく、 多くの人々が心から衝撃を受けた事は事実である。 追悼の集会だけでなく抗議のデモンストレーションが起こった事も 、ある意味自然な成り行きだったかもしれない。

ところがこの抗議集会が、極左無政府主義の社会転覆を図る、 暴力団体である「アンティファ」や、 急進的左派の政治グループである「ブラック・ライブズ・マター」 によってハイジャックされ、ミネアポリスだけではなく、 全米各地で略奪や放火、窃盗や殺人を犯し始める。 ナイキやアップル、ルイ・ ヴィトンなどの店舗はガラス窓が破られ、 ほんの数分の間に全ての商品が昼間から盗まれるようになる。 こうした略奪を止めようとした黒人の元警官隊長デイヴィッド・ ドーン(77)は暴徒によって射殺される。

https://en.wikipedia.org/wiki/ Death_of_David_Dorn

アンティファやブラック・ライブズ・マター、 また暴徒らが襲ったのは、高級品店だけではない。 ダウンタウンにある小さな個人商店なども略奪され、盗まれ、 放火された。この被害は何千件にも上る。暴徒らは、 年を取っていようが、女性だろうが、黒人だろうが誰であれ、 自分たちの略奪から店を守ろうとするオーナーらは誰であれ、 建築材木を使ってうち叩いたり、 頭を足蹴りしたりして襲っている。 全くの他人が住む建物に放火し、 消防車が駆け付ける事ができないよう、 数ブロック先の道路を車で塞いで救助活動さえ困難にしている。 この事件については、 警察署長は怒りと悲しみのあまり声を詰まらせ、 記者会見に臨んでいる。 また車に乗ったまま全くの他人に向けて発砲する方式で、5歳の子 供が頭部を撃たれ殺されている。 これについて警察署長は怒りを隠していない。 暴徒による略奪を受けて自分たちが築いてきた店を空にされた黒人 の老女は「何がブラック・ライブズ・マターって言うんだい。 私だって黒人だよ。私の命はどうだって良いって言うのかい? 首でも絞められない限り、私の命はどうでも良いっていうのかい。 ブラック・ライブズ・マターのやつらなんて、 盗んでばっかりいないで、私のように働けば良いんだよ」 と怒りを率直に表している。デトロイトに住む若い黒人の父親は、 今まで無駄にせずに貯めたお金で建て初め、 完成に近かった家を放火されてしまい、涙声で取材に応じている。 別の若い黒人の男性は、 暴動によって地区がすっかり破壊されてしまい、「 これからどこに食料や薬を買い物に行けば良いのか、 何も無くなってしまった」と途方にくれている。 年を取った黒人の女性は「いつも行く薬局が破壊されてしまって、 これからどうしたら良いのかわからない。 バスで買い物に行くにも、バスも止まってしまったのに」 と泣いて訴えている。

                        f:id:HKennedy:20200613125846j:image

こうした個人の訴えはどうでも良いとでも言うかのように、 デモ隊はフロイド氏の殺害のみに集中し、 大勢の白人が黒人に赦しを乞うたり、白人のグループが、 白人であるという特権を棄てると宣言したり、 群衆がフロイド氏のように手を後ろに組んだまま腹ばいになったり 、 警察による暴行を責める意味で跪いたりする光景があちこちで見ら れるようになる。

 

人種差別が原因なのか

秩序の崩壊に乗じて略奪の限りを尽くす犯罪者である暴徒はともか く、デモに参加する人々はブラック・ライブズ・マター( 黒人の命は大切だ)と主張し、 フロイド氏が人種差別が原因で殺害されたと断定するのだが、 果たしてその通りだろうか。 フロイド氏を殺害したとされる元警官のデレック・ ショウヴィンは、彼が逮捕された後に妻の方が離婚を申請したが、 難民であったラオス出身の女性と結婚していた。 共に現場に駆け付け、 幇助と教唆罪で後に逮捕された三人の警察官のうち、トウ・ タオもラオス出身であり、アレクサンダー・ ケングも姓で判断する限り、マイノリティーだと思われる。(* 6月27日のニューヨーク・タイムズ紙によれば、アレクサンダー・ケングは黒人警察官である。https://www.nytimes.com/2020/06/27/us/minneapolis-police-officer-kueng.html?smid=tw-nytimes&smtyp=cur) ブラック・ライブズ・マターや一部左翼が主張するように、 警察組織の中にある白人至上主義や人種差別がフロイド氏殺害の原 因であるとの見方は証拠が無い。

また首を圧迫して相手を失神させる『絞め技』は、 ミネアポリス警察は事件後に禁止しただけで、 それまでは横行していたと思われる。因みに、 この技については日本の警察を始め、 ミネアポリス警察やその他の米国内市警察が逮捕術として使用して いるが、頚動脈洞を圧迫して血流を止め、 相手を失神させるマーシャルアーツの術である。 誤った気道を防いでしまえば窒息に至る危険があるが、 良い訓練次第では、 銃の発砲による殺害の可能性より安全とも言える。 この殺害を人種差別が原因とするからには、 フロイド氏が白人であった場合には起こらなかったかを考える必要 があるが、白人警察による絞め技で、2016年にはテキサス州ダ ラスで白人青年、トニー・ティンパ氏も殺害されている。「 息が出来ない。死にそうだ」という懇願も虚しく、 警察官が自分の膝でティンパ氏の肺上部を13分間圧迫し、 ティンパ氏を死に至らしめた。https://www. dallasnews.com/news/ investigations/2019/07/31/you- re-gonna-kill-me-dallas- police-body-cam-footage- reveals-the-final-minutes-of- tony-timpa-s-life/ ところがティンパ氏の死亡後にデモが起こる事はなかったし、 ましてや「白人の命も大切だ」 といった抗議運動などは起こらなかった。しかも、 この絞め技が禁止されたのは、 フロイド氏の死亡によって全米にデモが広がった後である。 https://www.dallasnews.com/news/2020/06/05/dallas-police- department-announces-new- policies-after-seven-days-of- protests/ つまりフロイド氏殺害が人種差別によるものだという証拠が無いま ま、 彼が黒人だったというだけで差別に反対する抗議のデモが広がった 事になる。これは「警察によって黒人が殺された場合、 人種差別が原因にあるに違いない」 という警察に対する偏見が社会にあるからと思われる。

警察と犯罪者

勿論、警察の中に黒人に対する偏見が無い訳ではない。 ところがこの黒人に対する偏見は、黒人警察官の中にも存在する。 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を書いた元警察官は、 自分が以前籍を置いたニューヨーク市警での経験について述べる。 この元警察官はある日、警察官へのトレーニング・ エクササイズに参加した。 インストラクターは白人の警察官二人と黒人の警察官二人を立て、 まず黒人の警察官二人に壁に向かって立ち、 手を壁につけるように言う。 またその後ろに白人警察官二人に銃を構える格好をするよう指示す る。その光景がどう見えるか、参加した多人種の警察官らに聞く。 一様に「犯罪人を尋問、或いは逮捕している場面」と答える。 今度は人種を入れ替え、白人警察官二人に壁に向かい、 手を壁につけるように命じ、 黒人警察官二人には後ろで銃を構える格好をするように指示する。 「さあ、これが何の場面に見える?」 どの警察官も一様に居心地の悪い笑いを漏らす。黒人を含め、 全ての人種の警察官にとって、 この場面は市民が犯罪者に銃で襲われている場面に見えるのだ。

https://www.wsj.com/articles/ the-racial-reality-of- policing-1441390980

https://www.washingtonpost.com/graphics/national/police- shootings/

警察官によって黒人が射殺された場合、社会の動揺は大きい。 特に白人の警察官による射殺の場合、人種差別が疑われるが、 警察官の人種構成は様々であり、 他の職業よりもマイノリティーの採用が多い。2011年のCDC P(Center of Disease Control Prevention)による統計によれば、人種はともかく、 警察官による黒人の法的殺害(職務遂行の際に起きた殺害、 殺害の動機は記していない)は129件起きている。これは「 犯人」だけではなく、警察官が黒人である場合も含まれる。 ところが同年、黒人同士の争い等によって、黒人への殺害は6, 739件起きている。警察官による黒人殺害の割合は、 黒人が別の黒人に殺される場合の0.02%に満たないのだ。 これを以て警察による黒人殺害は多いと判断するべきだろうか。

しばし警察による黒人への発砲や法的殺害の件数、 また占める割合を以て警察による黒人への人種差別を主張する人が いるが、まず全体の犯罪件数の中で黒人の犯す犯罪の割合や、 銃犯罪や強盗などの凶悪とみられる犯罪に対する黒人の占める割合 を考慮しなければ、 警察による黒人への発砲や法的殺害の割合を論じられない。 警察による発砲は、 銃犯罪や暴力犯罪における容疑者逮捕の際に最も多く発生するから だ。黒人の人口割合は全体の13%であるが、2018年の入手可 能な最新統計によれば、黒人は全体の殺人事件の53%を占めてお り、強盗事件では60%を占めている。しかも、 警察によって殺害された黒人の被害(?)件数は、 警察による銃犯罪、 凶悪犯罪における法的殺害の全体の件数から考えても、 決して多くない。2019年には、警察官によって1,004人が 殺害された。このほとんどは銃を使用しているか、 または危険と見做された人々だ。1,004件のうちで黒人が占め る割合は235件であり、全体の約四分の一である。この割合は2 015年からほぼ変わっていないのだ。

人口の13%を占める黒人が、全体の殺人事件の53%、 また強盗などの凶悪犯罪の60%を占めている。 しかしながら警察による法的殺害の23,4%でしかない。 ここから見える傾向は、 少数派である黒人が凶悪犯罪を犯す割合は多い。 ここに警察官による、黒人に対する偏見や緊張の理由がわかる。 ところが警察は、 凶悪犯罪を犯す黒人に対する法的殺人が少ない事を考えれば、 実際には自制をしている事が伺える。

ワシントン・ポストのデータによれば、2019年には9人の銃を 携帯していない黒人が警察によって射殺された。 同年警察が銃を携帯していない白人を射殺した件数は19件である 。2015年には、 警察によって銃を携帯していない黒人が射殺された件数は38件で あり、白人は32件である。ここで「銃を携帯していない」とは、 車の中に弾を込めた銃を所持しながら、 警察とのカーチェイスをした容疑者の例も含む。2018年には7 ,407人の黒人が殺害されたが、2019年もその数に大差が無 いとすれば、ここに警察によって射殺された9人の黒人の割合を見 れば、警察によって射殺された黒人の割合は、 その他によって殺害された黒人の割合の0.1%に過ぎないのだ。 しかし対照的に、警察官が黒人に殺される件数は、 黒人が警察官に殺される件数の18,5倍に上る。 黒人が殺害される割合は、 白人とヒスパニック系が殺害される割合を足すよりも多いが、 それは警察による殺害ではない。 暴力犯罪による殺害が原因であるのだ。

https://www.wsj.com/articles/the-myth-of-systemic-police-racism-11591119883

『プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・ サイエンス』によれば、警察官は、 凶悪犯罪を犯すのがどの人種であっても、 凶悪犯罪に遭遇すればするほど、 その容疑者と同じ人種に属する人物に対して発砲する可能性が高ま るという事だ。人種の例を挙げてみれば、 警察官自身の人種が何であれ、 例えばヒスパニック系の犯人が犯す凶悪犯罪に遭遇すればするほど 、ヒスパニック系を射殺する可能性が高くなるのだ。https: //www.pnas.org/content/116/32/ 15877

2015年に発表された司法庁によるフィラデルフィア警察への分 析によっては、 白人の警察官が銃を携帯していない黒人の容疑者に対して発砲する 傾向は、 黒人やヒスパニック系警察官が銃を携帯していない黒人容疑者に対 して発砲する傾向より少ない。アメリカン・アソシエーション・ フォー・アドヴァンスメント・オブ・サイエンスの分析によれば、 黒人の警察官が発砲する件数は、白人を含め、 その他の警察官が発砲する件数の3,3倍多いのだ。https: //www.phillypolice.com/assets/ directives/cops-w0753-pub.pdf

https://www.npr.org/2019/07/ 26/745731839/new-study-says- white-police-officers-are-not- more-likely-to-shoot-minority- suspe 

https://www.sciencemag.org/ news/2017/02/which-police- officers-are-quick-shoot- statistician-wants-know

この傾向は、『プロシーディングス・オブ・ナショナル・ アカデミー・オブ・サイエンス』に併せて考えれば、 黒人やヒスパニック系の警察官の方が、 黒人の犯す凶悪犯罪に遭遇する機会が多いからではないだろうか。 統計の中には、その人種の犯す凶悪犯罪件数や、容疑者の態度、 行動を考慮していないものが見られるが、こういった要素は、 容疑者の属する人種が何であるかよりも、 警察の行動に対してもっと大きな影響を与えると考えられる。

「黒人の警察官が発砲する件数は、白人を含め、 その他の警察官が発砲する件数の3,3倍多い」 と分析結果を出したアメリカン・アソシエーション・フォー・ アドヴァンスメント・オブ・サイエンスだが、 記者会見の場の発表において、 警察官側の人種については述べていない。 全て警察による発砲としての纏めに止めてある。 その理由について、この分析をまとめたグレッグ・ リッジウェイ氏は以下のように説明している。

「その理由(黒人の警察官の方が、その他の人種の警察官よりも3 ,3倍発砲する傾向があるという事)については、 記者会見の場では省きました。 その話題がニュースを独占してしまうと思ったからです。実際に、 この分析の要の研究者であったジム・ファイフが30年前に、 ニューヨーク市警の黒人警察官が発砲する傾向は( 他の警察官よりも)2倍、3倍高いと述べた時に、 相当な批判を浴びました。勿論ファイフは、 ニューヨーク市警の黒人警察官が、 その他の警察官とは違った環境で働いているという説明もしたので すが。これについて私は、 反発を受けることなく説明しきれるとはとうてい思えなかったので す。」

黒人の命が大切なのは当たり前だ。 人種差別はあってはならないし、 警察による行き過ぎた暴行にも歯止めがかかる事は必要だろう。 但しジョージ・フロイド氏の殺害に関しては、 警察官による黒人差別の証拠は見られない。 また警察組織による黒人への差別という偏見も疑わしい。ところが、この件が人種差別を根底にしたものであるとは思えない旨を述べられる空気が、今のアメリカには無い。リッジウェイ氏が黒人警察官による発砲傾向を述べられなかったのと同様である。黒人への差別を事件の原因と考えない人々は、警察による行き過ぎた暴力への危惧を代わりに主張する。それがせめてもの意思表示であるかのようだ。

ところが警察による不必要な暴力を防ぐ為には、『ブラック・ライブズ・ マター』や左派が叫ぶような警察への予算削減どころか、 予算を大幅に増やし、良い訓練と、 良い人材を確保する事が必要となる。 黒人の命を本当に大切に思うならば、 彼らが犯罪の被害者となる事が無いように、 彼らの安全を確保する必要がある。

ところが、抗議デモが広がる今日、 アメリカ社会は左派に圧倒され、引きずられる形で、 掲げた目標よりも更に遠のく道を辿ろうとしている。 

(これについては続く)

中国依存を強めるWHO/アフリカと、依存からの脱却を図るヨーロッパ

ヨーロッパで最も広く読まれているドイツの新聞、ビルトが、中国政府による意図的な証拠隠滅や嘘の主張を世界に流し、コロナウイルスの世界的流行を起こし、被害を拡大させたとして、中国政府に対し、260億ドルの観光産業が受けた打撃に対する損害賠償と540億ドルの個人企業が被った打撃に対する損害賠償を中国共産党に対し、求める記事を掲載した。ビルトの計算によれば、コロナウイルスによってドイツは国内総生産の4,2%にも上る損失を被ったようだ。
中国共産党と中国国営メディアは、ビルト紙の編集長であるジュリアン・リカルト氏に対して、中国大使館を通じ「中国を非難する事で、ナショナリズムを煽動している」と抗議している。これを受けてリカルト氏は、公開文書によって、中国の習近平主席の全体主義体制を「人道に対する脅威である」と非難し、以下のように応じた。
「あなたは監視する事で統治している。監視する事なしに、とうてい大統領にはなれないだろう。あなたは全てを監視している。全ての市民を監視している。それでいながら、危険がある動物市場を監視する事は拒否してみせる。自分に対して批判的な新聞やウエブサイトはシャットダウンしながら、コウモリのスープを売る屋台は閉めさせない。自分の国民を監視しながら、それでも彼らを危険に晒し、全世界の人類をも危険に晒している。あなたこそ、自分の国の恥になる事の真実は、決して語ろうとしないナショナリストだ。」
リカルト氏は中国が他国の知的財産権を奪ったお礼に、他国にコロナウイルスを送ったと皮肉り、コロナウイルス大流行の最中に中国が世界各国に医療品を送っている事を善意ではなく、微笑みながらの帝国主義であると一蹴している。
「中国が発生させた疫病が大流行する最中、中国の勢力を強められる筈がない。あなたの権力は持たない。遅かれ早かれ、コロナウイルスはあなたのその政治生命の終わりを告げるだろう。」https://www.theepochtimes.com/beijing-angry-after-german-newspaper-demands-regime-to-pay-160-billion-for-causing-pandemic_3319494.html
中国大使館のスポークスマンは、中国政府による、コロナウイルス制止に向けた輝かしい努力の数々を挙げ、中国とてコロナウイルスの被害者であると強調しながら、リカルト氏による批判と損害賠償の請求に反論しているが、中国政府を厳しく批判しているのはドイツだけではない。
コロナウイルス感染拡大とそれに伴う摩擦によって、ヨーロッパで第一に孔子学院を設立させたスウェーデンは、同国に存在する孔子学院を全て閉鎖させている。最近、中国国営メディアは、スウェーデンのウイルス拡散防止の取り組みを「ウイルスへの完全降伏した明け渡しであり、他国を危険に陥れている」と厳しく非難しているが、そうした非難は中国にこそ当てはまる。自国政府によるコロナウイルス感染拡大防止の取り組みを「栄光に満ちた」と呼ぶ一方、スウェーデンの取り組みを「他国を危険に陥れている」と非難するような欺瞞は、中国発生のパンデミックによってただでさえ悪化している対中国感情を、更に否定的にしているようだ。https://www.thetimes.co.uk/article/swedes-axe-china-backed-confucius-school-scheme-as-relations-sour-7n56ld2v3
ヨーロッパにくすぶる中国への不満はこれだけではない。英国の外交について考えるシンクタンクである『ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ―』の調査に基づき、英国のダミアン・グリーン元副首相率いるトーリー党、4人の元大臣、11人の保守派議員らは、中国がコロナウイルスが発生した初期段階で情報を共有せず、法的拘束力のある国際医療規定に違反したとして、国際裁判所を通して中国政府に対し、英国が被った被害額、日本円にして約41兆円を求めるよう提案している。このレポートは、1月の時点で、ロンドン-武漢間の航空便をキャンセルしなかったのは、中国政府とWHOによる虚偽の報告と発表を信じた事によると結論付けた。またヘンリー・ジャクソンは、この危機が収まった暁には、中国との関係を見直すことを英国政府に対して要求し、「我々は中国への依頼を深め、英国の長期的経済、技術と安全への必要を戦略的に捉える事に失敗してしまった」と結んでいる。https://henryjacksonsociety.org/publications/coronaviruscompensation/
https://www.msn.com/en-gb/money/news/china-owes-us-%C2%A3531-billion-britain-should-pursue-beijing-through-international-courts-for-coronavirus-compensation-major-study-claims-as-15-top-tories-urge-reset-in-uk-relations-with-country/ar-BB12aMwQ?li=AAnZ9Ug

中国発祥のパンデミックの為に多くの国民の命を失ない、国民生活は変えられ、経済は打撃を受け、しかも中国が送ってきた医療品は使える代物ではないのだから、ヨーロッパの国々の怒りが爆発するのも仕方がないだろ。
もちろん、中国に対して賠償を要求する動きは、米国の中にもある。各国からの非難を交わそうとしてか、中国はアラブ語の国営放送によって、コロナウイルスが米国軍によって武漢に持ち込まれたと『米国起源説』を広めるのだが、このような陰謀説を信じる先進国は皆無だろう。それどころか、中国発祥のパンデミックの為に多くの国民の命を失ない、国民生活は変えられ、経済は打撃を受け、しかも中国が送ってきた医療品は使える代物ではないのだから、西側諸国の国民感情が中国に対して厳しく変わるのも仕方がないだろう。

https://www.bbc.com/news/world-europe-52092395

世界的パンデミックによって、何百万人の命が失われる危機の最中で、中国と共に批判されつつ、しかも中国を擁護するのがWHOであり、テドロス・アダノム事務局長だ。
                    f:id:HKennedy:20200424152648j:image
テドロスは、エチオピア出身の元保険大臣、元外務大臣を務めた政治家であり、これからもエチオピア政治の中枢にかかわっていく人物だ。
彼は最近、フランスの医師団がコロナウイルスの試験的ワクチン接種をアフリカで行なおうと議論をした時に、医師団の提案を「植民地主義」「人種差別」に基づいた試みだと断固批判した。その為、ただでさえ医療設備の乏しいアフリカは、コロナウイルスに対応するテストなどの技術が全く無いまま放置されているのに相応しい。国連の予測によれば、約30万人がコロナウイルスによって死亡し、何千万人が飢餓に陥ると懸念されている。
https://www.washingtonpost.com/world/africa/warnings-of-worsening-hunger-malaria-emerge-as-coronavirus-cases-spike-40percent-in-africa/2020/04/23/acc15936-8568-11ea-81a3-9690c9881111_story.htmlhttps://jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKBN21Z2O3?fbclid=IwAR0endlRUvr7uqtRy_JwQKNK2bbb06RRaih65Tf7V8ISHOynHMdrYbImZ3w
イギリスでは、オックスフォード大学の研究によって開発されたワクチンの試験的接種が、800人の希望者に対して始められたが、なぜイギリス人への試験的接種は問題なく、アフリカ人への接種は「言語道断」なのか。「フランス人がアフリカ人にワクチン試験接種するならば、それは人種差別主義に根差した人体実験に違いない」という偏見無しに、科学的に説明する事は出来ない。このような試験的接種は、好機でこそあれ、「植民地主義」や「人種差別主義」などに基づく差別ではないのだ。
テドロスの経歴を以て、彼を人道主義に根差した医師のように考える人がいるとすれば、それは余りにも彼の人となりを知らない無知から来る誤解だろう。彼ほど独裁権威者や独裁政権にへつらうWHO事務局長も珍しい。テドロスは人権蹂躙、選挙妨害を行なったジンバブエの独裁者、ロバート・ムガベを、「ジンバブエの衛生状態を向上させた」として、WHO親善大使に任命した事で多くの批判を受けた事がある。またコロナウイルスによる各国の対応では、西側諸国を批判しながら、中国だけではなく、イラン政府による取り組みを礼賛している。イランでは毎日、コロナウイルス患者で一杯になった病院に受け付けてもらえない感染者が、路上で死んでいるのに、である。
https://twitter.com/HeshmatAlavi/status/1251890492834488322?s=20
中国政府が、世界に向けてコロナウイルスの脅威を警告しようとした医師や市民への弾圧を強める1月に、テドロスは北京を訪問し、習近平と会談している。そこで中国によるコロナウイルスへの取り組みを高く評価し、中国政府の透明性に感謝してみせた。ところが中国に対する称賛を惜しまなかったテドロスは、中国からの入国、渡航を制限しようとする他国の試みに対しては、中国政府の意向を受けて、すぐさま抗議をする。テドロスはまた、コロナウイルスによる『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』宣言(PHEIC)を発動する事を一週間遅らせた。その間に感染例は10倍の7,781件に増え、被害が18カ国に広まるのを許したのだ。
テドロスと中国共産党の関係は、テドロスがWHO事務局長に就任する以前から続いている。テドロスはWHO事務局長選挙が行なわれる数か月前に、北京大学で講演するように招待されたが、こうした招待は、中国によるテドロス勝利への後押しに過ぎない。テドロスは招待された北京大学の場で、健康問題における中国とアフリカとの間に、さらに強いパートナーシップが生まれる事を願う講演を行なった。その何か月か後、186か国の加盟国保健相などによる非公開形式の投票によって、テドロスは第8代のWHO事務局長に選ばれた。選挙の翌日、彼は中国からの後押しに感謝する形で、「私とWHOは、今後も一つの中国を支持していく」と決意表明している。https://www.nytimes.com/2017/05/23/health/tedros-world-health-organization-director-general.html テドロスは決意表明通り、武漢においてコロナウイルスのパンデミック化や、中国政府による証拠隠滅が疑われた際、それらを警告した台湾を完全に無視し、中国共産党の主張をそのまま世界に保証してみせた。
アメリカによるWHO拠出金の一時支払い停止が発表された事を受けて、中国は更にWHOに対して33億円の寄付をすると発表した。これを受けてWHOへの中国の影響力強化を懸念する声もあるが、むしろ33億円の寄付は中国がアフリカに貸し付けている融資に比較すれば、僅額である。https://nypost.com/2020/04/23/china-to-make-30m-donation-to-who-after-trump-halts-payments/
アフリカ諸国における中国の影響は、中国が2014年より推進している外交政策である『Belt and Road Initiative (一帯一路)』によって、年々強まっている。アフリカ諸国の政治家らは、中国資金によるインフラストラクチャー整備や貿易促進、融資によって、中国の意向に逆らう方針を掲げる事が困難になってきているのだ。テドロスはエチオピアの政治家であるが、エチオピアは中国との間にある120 億ドルにも上る借金返済に苦労している最中であり、エチオピアの将来を握っているのは中国と言っても言い過ぎでは無い。https://qz.com/africa/1634659/ethiopia-kenya-struggle-with-chinese-debt-over-sgr-railways/ https://www.wsj.com/articles/as-africa-groans-under-debt-it-casts-wary-eye-at-china-11587115804
彼はエチオピア外相時代、『アフリカ連合』の理事会議長でもあったが、『アフリカ連合』本部の建物は中国によって建てられ、設置された中のコンピューター等も中国によって寄付されたものだ。フランスの新聞『ル・モンド』によれば、中国はこの建物、また設置されたコンピューターによってアフリカ連合の内部に対して盗聴などのスパイ活動を5年間にわたって行なっていた事が判明している。中国は、エチオピアだけではなく『アフリカ連合』に属する国々の機密や、政治家らの個人情報に通じているとも疑われる。
https://qz.com/africa/1192493/china-spied-on-african-union-headquarters-for-five-years/
いずれにせよWHOのテドロスは、エチオピアの政治家として、中国の意向に逆らえない立場にあるのだ。
トランプ大統領は、コロナウイルスが世界的パンデミックとなった原因をWHOにも向け、拠出金の一時不払いを決定した。WHOにとって最も大きな資金提供者は米国であるが、WHOやテドロスが、中国の言いなりになったように米国に対して阿る事はない。米国のみならず、その他の西側諸国も、WHOやアフリカ諸国への経済援助や融資を行なっているが、中国の様な『影響力』は発揮できない。もし民主主義先進国や西側の政治家が中国のような政治工作を行えば、必ず内部告発やメディアによって不正は暴露され、司法の判断、国民の反発によって政治生命を絶たれるだろう。
我々は国連やWHOのような機関が中国寄りの国際機関となって行くことを目の辺りにしている。しかしながら、西側民主主義国家の一員として、中国のやり方を真似ようとしたり、こういった国際機関からの称賛や理解を得ようと躍起になるべきではない。国連やWHOなどは、不正腐敗の温床となる構造であり、本当の紛争解決や衛生や健康の改善には役立つ機関ではないのだ。
国連やWHOを脱退するべきかどうかについての判断は、いずれ各国の国民がしていくだろう。しかしながら、少なくとも国民の健康と命を守る為には、中国やその手先機関の主張を鵜呑みにたり、それらに安全を任せる構造からは脱却を図るべきだと思われる。これらの厳しい教訓は、ヨーロッパがパンデミックによる打撃によって初めて悟った現実である。

愚を極める、社会封鎖への反対デモ

4月19日、ミシガン州のグレッチェン・ウィッティメア知事は、自宅待機命令に反対するデモ参加者が6フィートのソーシャル・ディスタンスを開けていない事を挙げ、自宅待機命令を延長する可能性がある事を示唆した。全米各地で起きているロックダウン措置に反対するデモでは、「我々は(従順に従う)ヒツジではない」というシュプレヒコールや、『反ワクチン派』まで参加して、社会を再開させるよう要求している。

社会の封鎖が続けば、個人経営のビジネスはとても連邦政府からの1200ドルだけの支援金ではやっていけない。現在既に失業者は全米で2200万人を超え、多くの個人経営のビジネスそのものが破たんしてしまっている。それでも経済への深刻な打撃は、未だ続いている状況である。

経済に与える打撃を考えれば、一刻も早く社会が通常運転に復帰する事が望ましい。この思いは多くの人が共有をしている。ところが治療やワクチンが開発されていない現状では、不特定多数同士の交流が再開すればウイルス感染は広がり、医療機関を機能不全に陥るまで圧迫させ兼ねない。「Flattering the Curve」とは、医療機関を圧迫させずに、ワクチンや治療開発、抗体検査を進める時間を稼ぐ為の、新たな感染を抑える試みを指す。ロックダウンは、その為の政策なのだ。

ところが全米各地では、ロックダウンに反対する人々がソーシャルディスタンスを取らず、マスクもせずに集まり、知事の辞任を求め、ロックダウン解除を求めている。ロックダウン中のデモに集まる人々に対し、付近の病院に勤務する看護師らが、彼らの道を防ぎ、「家に帰りなさい。私はあなた方をICUに迎えたくない」と制止する場面もある。こうしたデモ参加者の中には、立ちはだかる医療関係者に対して「中国のような共産圏に行ってしまえ」と暴言を吐く輩もいる。

 

f:id:HKennedy:20200422111944j:plain

 

医療関係者と対立してまでデモに参加しようとする人々の懸念は、勿論、経済の被る打撃についての憂慮や、特にミシガン州知事の出した特別命令にあるような、住民の生活を不必要に圧迫する規律に反発する狙いもあるだろう。ロックダウンが、コロナウイルス感染拡大に全く関係のない行動まで規制する厳しい形で延長された事を鑑みれば、不満が高まるのは当然である。また『自由の国、アメリカ』では、特に保守派は自由を制限される事を極端に嫌がる。健康保険でさえ「持たない権利」が議論される国柄なのだ。(但し、その保守派が、プロのスポーツイベントにおいてアメリカ国旗掲揚時に規律せず、膝を屈めたままの姿勢をとるスポーツ選手に対しては、『反アメリカ』『非国民』と非難するところに、彼らの幼稚な二重基準が見られる。)ところがもう一つの見方として、こうしたデモに参加する人々の多くが、コロナウイルスに対して極めて薄い警戒心を持っている点も挙げられる。もし彼らの懸念が経済への懸念であり、コロナウイルスの脅威そのものは真剣に受け取っているならば、彼らはマスクをつけ、6フィートのソーシャル・ディスタンスをとっていただろう。ところが彼らは「自由を与えよ。さもなくば死を」などの看板を掲げ、むしろマスク着用も含め、行動の規範を設けられるくらいならば、死んだ方が良いと主張しているのだ。

既にアメリカの死因第一位となってしまったコロナウイルスに対して、なぜ彼らは自分の安全すら守らないのだろう。

デモに参加する人々は、概して保守派であり、その中でも熱心なトランプ支持者である場合が殆どだ。彼らは主に、共和党という政党よりもトランプ大統領個人を崇拝するFox Newsの視聴者であり、ラジオ・パーソナリティーのラッシュ・リンボ―を好む人々が多い。

f:id:HKennedy:20200422112046j:plain

まず、ラッシュ・リンボーだが、彼はトランプ氏が共和党大統領選候補者になった時から、熱心なトランプ支持者となっている。その彼に対してトランプ氏は2月、『大統領自由勲章』を与えたばかりだが、リンボーは2月24日、コロナウイルスについて「ドナルド・トランプを引きずり降ろそうとする新たな素子として兵器化している」と述べた上で、「コロナウイルスについて真実を述べるが、これはただの風邪だ」と断言している。そしてメディアがトランプに対する政治的攻撃の一つとして、その脅威を過大に誇張し恐怖を煽っているとして、主要メディアへの批判を繰り返しているのだ。https://www.washingtonpost.com/nation/2020/02/25/limbaugh-coronavirus-trump/

トランプ氏は毎朝のフォックス番組「Fox & Friends」を欠かさず視聴し、時にはそこから得た知識やフレーズのそのままをツイートする事も知られているが、3月8日、その司会者の一人であるピート・ヘグセスは「多くのヒステリックな反応があるが、コロナウイルスについて知れば知るほど、心配を感じなくなった」と語り、3月13日、同番組司会のアインスリー・イヤーハードも「今が一番飛行機を利用した旅行をするのに安全な時」と語り、トランプ氏に近く、全米最大のキリスト教大学の学長であり、同番組にゲスト出演したジェリ、ー・ファウエル・ジュニア、リバティー大学長は「コロナウイルスで多くの人々は大騒ぎしているが、これはトランプ氏を貶める為の新たな作戦である」と語っている。またそれより遡る2月28日には、同番組に於いて、トークショウ番組のホストであるジェラルド・リヴェラが、「コロナウイルスよりも致死率が高く、致命的な脅威となっているのは、毎年のインフルエンザだ。コロナウイルスではなく、私たちが知っているインフルエンザだ」と笑ってみせた。

https://www.mediamatters.org/coronavirus-covid-19/fox-news-pete-hegseth-coronavirus-i-feel-more-i-learn-about-less-there-worry  https://www.businessinsider.com/fox-news-hosts-urge-viewers-fly-despite-health-officials-warnings-2020-3  https://www.businessinsider.com/jerry-falwell-jr-suggests-coronavirus-is-plot-to-hurt-trump-2020-3    https://www.democracynow.org/2020/4/10/noam_chomsky_trump_us_coronavirus_response

また毎夜フォックス・ニュースで放映される『ルー・ドブスの夜』では、3月9日、司会のコメンテーター、ルー・ドブスが「国中の左翼メディアはコロナウイルスの恐怖を煽動している」と主要メディア批判をしてみせた。https://www.thedailybeast.com/fox-business-host-lou-dobbs-in-self-quarantine-after-downplaying-coronavirus-threat

それに引き続き、フォックス・ビジネスのメーガン・トリッシュは「コロナウイルス・弾劾詐欺」と呼び、「民主党による大統領への憎しみは頂点に達し、世界の裏側で始まったウイルスの責任をトランプ大統領に押し付けている。株式の損失も、彼らの政治的犠牲者でしかない。メディアも民主党も、大統領を悪魔化し、陥れる為にコロナウイルスを利用している」と切り捨ててみせた。https://www.thedailybeast.com/fox-business-host-trish-regan-unleashes-batshit-rant-about-coronavirus-impeachment-scam

フォックスに出演するコメンテーターのトミ・ローレンは3月10日、「クルーズ船に何十人かの感染者がいるからって、天が崩壊するかのように騒いでいるけれど、私は使用済みのヘロインの針を誤って踏んでしまう方が怖い」と一蹴している。

自身がニューヨーク州からの上院議員選に立候補した際にトランプ氏からの献金を受け取り、以来、トランプ氏の熱心な擁護者であり、支持者であるジャニン・ピロ元判事は、フォックス・ニュースで『ピロ判事との正義』を受け持つが、3月7日の自らの番組において、彼女は「コロナウイルスの致死率は、インフルエンザのそれよりも高いと言う。しかしながら インフルエンザに関して言えば、ワクチンがありながら、アメリカでは2019年に1万6,000人に物死者を出した。もしワクチンが無かったらインフルエンザこそ、世界的疫病となっていたはず。コロナウイルスは、インフルエンザと同じようなウイルスであり、それ以上の致死率があるかのような主張は、現実に即していない」と言い切っている。https://www.mediamatters.org/sean-hannity/foxs-dr-marc-siegel-says-worse-case-scenario-coronavirus-it-could-be-flu

フォックス・ニュースのローラ・イングラハムは、3月9日「コロナウイルスに関する事実は、むしろ心強いものと言えるのに、主要メディアを見ている限り、そういう事はわからない」とし、メディアを「パニック扇動者」と呼び、民主党がトランプ大統領を政治的に貶め、攻撃する為に、コロナウイルスの脅威を誇張しているのだと結論付けている。https://www.youtube.com/watch?v=ILvrzIWDdRQ

f:id:HKennedy:20200422112134j:plain

ジェシー・ワッターズは3月3日、共に番組司会者であるフアン・ウイリアムズに向かって「僕がコロナウイルスについて、どう考えているか、本当の事を言えば、もし僕がそれに感染をしたならば、それから回復するさ。僕はコロナウイルスなんか怖くないし、誰もコロナウイルスの事を怖がるべきではない」と啖呵を切って見せた。https://www.theguardian.com/media/2020/apr/10/fox-news-donald-trump-coronavirus

オピニオンピニオン部分のアンカーであるショーン・ハニティーは、トランプ氏本人とも個人的に親しく、政策においてアドバイスをする間柄であるが、彼の番組において、3月6日、医療関連の専門家として意見を述べる医師のマーク・シーゲルは、「最悪の場合、コロナウイルスはインフルエンザと同じだ」と、”専門家としての意見”として述べている。https://www.mediamatters.org/sean-hannity/foxs-dr-marc-siegel-says-worse-case-scenario-coronavirus-it-could-be-flu 

またハニティーは3月9日「年をとっていなかったり、潜在的病状が無ければ、コロナウイルスによって死亡する確率は99%ない。むしろトランプを叩く為に、彼ら(反トランプ派)が新たなでっち上げによって人々を恐怖に陥れているのではないか」と、コロナウイルスの脅威を、ロシア疑惑、ウクライナ疑惑に並ぶ、政治的策略、でっち上げと呼んでみせ、3月12日には、自身のラジオ番組の中で「ディープ・ステートが、経済を台無しにさせ、新たな薬を承認させる為に、パンデミックを利用しているのかもしれない」との陰謀説を主張している。https://www.mediamatters.org/sean-hannity/sean-hannity-claims-people-are-faking-concern-about-coronavirus-bludgeon-trump-new https://www.theguardian.com/media/2020/apr/10/fox-news-donald-trump-coronavirus

また3月11日には、政治活動家のマット・シラップが「コロナウイルスに感染するのは難しい」と断言している。https://www.businessinsider.com/fox-news-matt-schlapp-claims-coronavirus-is-hard-to-get-2020-3

このように、フォックス・ニュースやトランプ支持の政治活動家によるコロナウイルスの脅威過小評価の例は、上げればキリがない。これらは全て、トランプ氏本人による「これ(コロナウイルス)は、インフルエンザだ。インフルエンザのようだ(2月26日の記者会見)」「(コロナウイルスは)ある日、突然なくなっているだろう(2月27日)」「これ(コロナウイルス)」は新たなでっち上げだ(2月28日)」等、トランプ氏の姿勢への支持から来ている。https://www.youtube.com/watch?v=fUNrXN9XC2k&feature=youtu.be&t=4435

さすがにトランプ氏も、コロナウイルスによる感染者が急増し、死者が増えた頃から、「自分は最初から、コロナウイルスの脅威を認識し、真剣に取り組んできた(!)」と態度を一変させた。しかし社会の封鎖により経済状況が悪化すれば、政権への批判に繋がり、11月にある大統領選挙の再選は難しいとアドバイスされているともある。再三、「国を再開させる」とツイートし、主張してきたトランプ氏は、自ら編成したコロナウイルス対策委員会でウイルス専門家として発言するアンソニー・ファウシ博士の再開警戒論に不満を持っており、「ファウシを首にしろ」というリツイートも行ない、その為にホワイト・ハウスが「大統領はファウシ博士を解雇する意志は無い」と公式声明を出すに至っている。

f:id:HKennedy:20200422112325j:plain

不正、腐敗や、人格的欠陥を抱えながら、トランプ氏が共和党内での支持を固めている背景には、強い景気が要因にある。社会封鎖によって経済を悪化させれば、トランプ大統領の再選は難しい。それを避ける為にも社会封鎖は解除されなければならない、という焦りがトランプ氏周辺にはある。https://www.vox.com/2020/3/23/21191289/trump-social-distancing-tweets-coronavirus  https://www.washingtonpost.com/politics/trump-signals-growing-weariness-with-social-distancing-and-other-steps-advocated-by-health-officials/2020/03/23/0920ea0a-6cfc-11ea-a3ec-70d7479d83f0_story.html 

ところがアメリカはThe United STATES of Americaとの正式名にある通り、州による自治を認める統合国である。州による社会封鎖、ロックダウンは、州知事の権限内にあり、連邦政府による行政を司る大統領には、どうすることも出来ないのだ。トランプ氏やその支持者にとっては、コロラドやミシガンのような民主党州知事によるロックダウンであっても、テキサスやニューハンプシャーのような共和党州知事によるロックダウンであっても、トランプ氏の再選を脅かす政治工作と思われるのだろう。感染者が81万人、死者が4万5,000人を超えた現在、トランプ政権によるコロナウイルス対策は、明らかに後手となった感が否めない。メディアだけではなく、トランプ政権の対応については、州内にある病院の設備に危機感を持つ州知事らによる批判が厳しい。トランプ氏にしてみれば、自分の再選の可能性が批判的なメディアだけではなく、州知事らによっても台無しにされているという不満があるようだ。トランプ氏はツイッターを通して州知事らを批判し、フォックス・ニュースやラッシュ・リンボーなどは、トランプ再選を阻止するために民主党やディープ・ステート、主要メディアが封鎖する必要のない社会を封鎖していると陰謀説を流す理由は此処にあると言える。

コロナウイルスについて、その起源についてだけではなく、多くの不明な点がある。コロナウイルスは変異性が無いというレポートもあれば、変異するというレポートもある。その感染性については気温と湿度が関係するという発表もあれば、その逆を主張する報告もある。抗体を調べるにつれ、感染者数が大幅に増加する事も考えられ、その場合は重症率と致死率が下がるとも思われる。特に抗体検査によって判明していく無症状の感染者の多さを鑑みれば、この脅威は、もしかすれば、トランプ支持者の言う通り、誇張されているかもしれない。しかしながら、現在の全体像が掴めていない段階において、マスクも着用せず、他者との距離も取らないといった、自らの健康だけではなく他者の生命も脅かし兼ねない軽率な行動は、責任ある大人のとるべき行動ではない。https://www.livescience.com/coronavirus-mutation-rate.html   https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.09.034942v1.full.pdf https://www.foxnews.com/science/significant-coronavirus-mutation-discovered-could-make-vaccine-search-futile    https://www.nature.com/articles/d41586-020-01095-0  

国民の健康や生命よりも、トランプ氏の再選が気になるとすれば、早すぎる社会再会や軽率な行動によって感染第二の波が起こり、死者が大幅に増えれば、これも再選の障害となる事を、トランプ氏や支持者は弁えるべきだろう。https://www.bbc.com/news/world-us-canada-52009108  https://www.cnbc.com/2020/03/19/coronavirus-crisis-trumps-argument-for-reelection-is-collapsing.html 

 

トランプ氏やその支持者の思惑は別として、コロナウイルスの前線で戦う医療関係者、家族や友人、健康や仕事を失った人々の苛立ち、無念は測り切れない。私は、自分たちの政治的思惑の為に、世界的パンデミックを利用する人々を、右派であれ、左派であれ、軽蔑する。しかしながら、実際にアメリカが他の先進国を圧倒的に抜いて最多の感染者数、死者数を記録するならば、左派の懸念の方に理があると思う。しかもロックダウンは、永遠に続くわけではない。

国を愛していると言いつつ、前線で戦う医療関係者を踏みにじるようなデモ参加者は、いくらライフルを携帯していようと、「さもなくば死を与えよ」と気取って見せても、勇敢なのではない。彼らは自らの欲望や恐れを抑えられない幼稚な臆病者であり、トランプ氏の思惑やフォックス・ニュースに操られているヒツジなのだ。

 

f:id:HKennedy:20200422111701j:plain

 

コロナウイルス対策を巡る、両サイドの極論

私は全米でコロナウイルス感染者数が第三番目に多いミシガン州に暮らしている。ミシガン州で初のコロナウイルス感染者が確認されたのは3月10日だ。数週間以内に国際旅行をしたデトロイトに近いオークランド郡の女性と、ウエイン郡に住む、国内旅行経験者の男性である。この日、グレッチェン・ウィッティメア州知事は「緊急事態宣言」を発動し、3月12日には、全ての公立学校が休校となった。16日からはレストランやバーはデリバリーのみの営業とされ、50人以上が集まる集会が禁じられた。ウィッティメア州知事は、全ての重要でないビジネスを休業させ、3月22日は全ての州住民に対して自宅待機命令が出された。その間、生活必需品の為の買い物は認められたが、公共の場においてはマスクをする事と、他人との間に6フィートの「ソーシャル・ディスタンス」をとる事が求められた。ここまでの期間に、ウィッティメア州知事に反対する声はそれ程あがらなかった。ミシガン州に住む住民の殆どは、コロナウイルス感染拡大に伴い、何らかの措置を取る必要を感じ、生活の規約を設けられる場合も、緊急事態である故、それらに従おうとしていたからだ。ところが3週間の予定だった自宅待機命令はその後4月末まで延長され、その間、州知事個人の判断によって様々は規則が加えられる。https://www.thenewsherald.com/news/governor-orders-michigan-residents-to-stay-at-home/article_317a5902-6d13-11ea-acbd-e3d2c096f1a5.html
「宝くじ」が生活必需品として買って良い必需品のリストに入る一方、草花や種や家具の買い物は「生活必需品ではない」と判断され、購入した場合には処罰の対象となった。北部の湖畔に別荘を持つ人は多いが、ミシガン州住民がこうした別宅に移動する事は禁じられた。これは北部の住民の一人が、コロナウイルスの蔓延によって北部の別荘に避難する人々が増えた事に危機感を持ち、州知事に電話で苦情を入れた為に追加された規則のようだ。またアメリカでは、専門業者に頼んで広い庭の芝刈りや木の剪定、根の保護など、ガーデニング一般をしてもらう家庭が多いが、業者による芝刈り等一切の仕事まで禁じられた。それだけではなく、全て自動の洗車サービスまで禁じられ、利用を試みると警察が呼ばれる。https://www.clickondetroit.com/news/local/2020/04/03/michigan-car-wash-caught-violating-executive-order-by-staying-open-during-covid-19-crisis/ https://www.clickondetroit.com/news/local/2020/04/07/landscapers-fight-for-essential-status-amid-coronavirus-outbreak/ https://www.mlive.com/public-interest/2020/04/with-michigans-coronavirus-stay-at-home-order-extended-frustration-builds-over-whats-been-deemed-non-essential.html
ここまで極端になると、ただ生活に不可欠ではないビジネスを全て徹底的に閉鎖してしまうという執念が感じられるだけで、コロナウイルス感染予防とは一切のビジネスまで被害を被ることとなる。私の家の庭でも1エーカーあり、普段は専門業者が秋からの落ち葉の掃除から始まり、芝生の刈りこみ、手入れ、枝の剪定、根の保護など、全てのサービスを行なっていたが、今年は彼らが仕事を始める前に働く事そのものが禁止されてしまった。1エーカーもある庭は、乗用芝刈り機が無ければどうにもならないが、小さな芝刈り機であっても、そうしたものを扱うガーデニング専門店そのものが閉鎖されている。しかしながら、なぜ広い庭の芝を乗用芝刈り機によって刈る事が、コロナウイルス感染の可能性を高めると禁止されるのか。なぜ自動洗車サービスが、禁止されるのか。ウィッティメア州知事の極端な政策は、法を順守し、感染予防に協力しようとする一般市民の生活を、必要以上に窮屈にしているのだ。必要以上の制限となれば、不満を持つ多くの人々によって反対運動が起きても当然である
公権の介入による必要以上の規則は、自らの権利や自由を制限されても公共の福祉に貢献しようとする市民の意欲を損なう事にしかならない。ウィッティメア州知事は民主党員であるが、「政府や権力の介入が大きければ大きいほど、良い社会になる」と考える左派の典型であり、その為に侵害される自由や権利にはあまり考えが及ばないようだ。しかも一度個人企業や零細企業を破たんさせてしまった場合、その修復がどれ程困難であり、時間がかかるか全く考慮していないようにも思われる。市民の協力のもとに他者の自由を制限するならば、その制限は必要最低限であるべきだ。
さて、そうした州知事の政策に反発する市民の多くが、車に乗ったままデモンストレーションを行なった。車に乗ったままのデモンストレーションであるならば、多少渋滞を招くことになるが、コロナウイルスの脅威を認識した上の責任ある大人と見做す事は出来る。これ以上のロックダウンによってミシガン州の経済を破たんさせない為には、非常事態宣言が解除された後にも、市民がそれぞれソーシャル・ディスタンスを守り、ウイルス感染阻止に向けた責任ある行動をする事が求められる。ところが、ここ数日ミシガン州都に押し掛けるデモンストレーション参加者の中には、ソーシャル・ディスタンスを全く取らず、マスクも被らず、ただ「トランプ・ペンス」のバナーを掲げたり、銃を携帯したりで、コロナウイルスの脅威を全く無視した人々、責任ある行動を取れない人々と、自ら公言しているような場合が多い。

 

f:id:HKennedy:20200419162855j:plain


こうした傾向は、コロナウイルスの脅威を認識できないトランプ氏本人による「ミシガンを開放させよ」等のツイートや、すっかり北朝鮮国営放送並みにトランプ礼賛を報道し続けるフォックス・ニュースのオピニオン・アンカーらによるウイルス軽視にも依るのだろう。(テキサス州で行なわれたロックダウンに反対するデモでは、ホワイト・ハウスのコロナウイルス対策委員会のアンソニー・ファウシ博士を敵視し、ファウシ博士の解雇を求めるトランプ支持者らが100人ほど集まっている。)https://www.washingtonpost.com/national/rallies-against-stay-at-home-orders-grow-as-trump-sides-with-protesters/2020/04/17/1405ba54-7f4e-11ea-8013-1b6da0e4a2b7_story.html?fbclid=IwAR1UjGkOztxpmfMlBZA6SkPmfKukRhKZMdHeShETltgJnng7H7Kk8jdLsX0#click=https://t.co/2V1mhWFDC9
しかしながら、コロナウイルスの脅威を認識できず、ソーシャル・ディスタンスを順守できない人々のデモは、彼らが権力者による強制を必要としている事を証明しているだけだ。こういう人々がいるからこそ、ウィッティメア州知事のような極端な政治家が必要とされるのだ。彼らはお互いを嫌悪しながら、相手の存在があって初めて自らの存在も正当化できると言える。
メディアは左右揃って、州知事によるロックダウン政策に反対する人々のデモを報道する。フォックスなどの右派メディアは、デモが「経済崩壊を前に、住民の怒りを表している」と報道するが、左派メディアは「ソーシャル・ディスタンスを順守せず、ウイルスの脅威を軽んじるトランプ支持者」と報道する。私はウイッティメア州知事のロックダウン政策の一部に強く反対するが、州知事の懸念も理解できる。いま議論されるべきは、どのように住民の生命を守りながら、ビジネスを再開させていくかである。経済破綻を防ぐ為には、行政側がすぐに結果の出る検査キットの普及に全力を挙げ、ソーシャル・ディスタンス順守の下、感染を広める可能性が低いビジネスを再開させていく必要があるのだ。経済破綻は、そのまま国の崩壊に繋がり兼ねない、深刻な問題である。確かに州知事の政策は、経済破綻の驚異を深刻に受け止めるようには見受けられない。ところがデモに参加する一部の人々は「コロナウイルスはフェイクニュースだ」とし、ソーシャル・ディスタンスを順守せずに、ウィッティメア知事に対して、「反対者は単に、コロナウイルスの脅威を理解していない人々」と一蹴する機会を与えてしまっているのだ。両サイドが、自らの感じる驚異への取り組みに徹する一方、相手の感じる驚異を軽視した行動に出てしまっている。ところが、感染拡大防止にしてもにしても、経済崩壊阻止もどちらも最重要課題であり、一方を切り捨てる事はできないのだ。shttps://www.forbes.com/sites/brucejapsen/2020/04/16/by-june-abbott-labs-rapid-coronavirus-test-to-reach-general-population/
国を正常に戻す為には、「自動洗車サービスも芝刈りサービスも一切してはいけない」という狂気に似た主張と、「コロナウイルスはフェイク・ニュースだ」という狂気以外の、常識的人間同士による議論が必要となる。ところが両サイドは相手の愚かさを論う事だけに徹してしまっている。両サイドによる諍いの終結は見えず、多くの人々を疲労させてしまうだけでなく、もっと巨悪な嘘の暴露や、不正への捜査を延滞させるのだ。
私たちはコロナウイルスが中国のどこから来たのか、納得のいく説明すら得ていない。コウモリから人に感染したと言われながら、言われていた中国武漢のウエットマーケットにはコウモリは売られておらず、コロナウイルス患者第一号の人物もウエットマーケットには関連が無い。また初期の患者3分の一も、ウエットマーケットには全く関連していない。米国国防省のケーブルには2年前から外交官らが中国武漢2カ所のコロナウイルス研究所からウイルスが漏れ、世界的パンデミックを起こし兼ねない危険性を警告していたとあるが、中国の習近平はこの研究所への捜査そのものを禁止し、証拠の破棄を命じ、しかも研究者や医師らは行方不明となってしまった。問題とされている研究所がパンデミックの起源と結論付けるに足りる証拠は無いが、先にも述べた通り、中国政府が習近平の直々の命令によって、研究所に存在していた書類や調査書の破棄を命じたのだ。https://www.washingtonpost.com/opinions/2020/04/14/state-department-cables-warned-safety-issues-wuhan-lab-studying-bat-coronaviruses/
そうこうするうちに、中国の公式アラブ語放送では、中東に向けて、コロナウイルスはアメリカ政府が作成し、世界に広めたというプロパガンダを流し始めている。https://www.memri.org/reports/chinas-official-arabic-language-tv-covid-19-does-not-appear-have-originated-china-evidence?fbclid=IwAR1RTga-jKDoYLWL51RK3HbEP0EAMtYwMBE0_gwG9famkHkiSLItxHw6khk こうした虚偽のプロパガンダは西側自由主義社会にとっては全く意味が無いが、WHOや国連のような、アラブ諸国やアフリカ諸国からの票にも重きが置かれる国際会議の場では、問題解決を遠のかせ、中国やロシアのような、圧制国家を利する為の役割を果たすだろう。
テドロス事務局長による台湾批判や中国擁護などで注目を浴びたが、実はWHOの不正の歴史は長い。トランプ氏がWHOを批判し、資金提供を中断させる事は当然なのだ。https://thedispatch.com/p/suspending-who-funding-should-be?fbclid=IwAR0_gjsmQlpw29JHNSQbS1FNjLreijE4IkEFNDKC4NgJ0yF-wh67jsFnauI しかしながら世界に知られる米国大統領の発言があまりにも幼稚で、しかもパンデミックを軽視したものであり、加えて左右ともの米国民が愚かな極論を繰り返す場合、中国政府の嘘やWHOの不正が暴かれる時に、誰が米国を信じてくれるだろう。
コロナウイルスの脅威は、決して軽視されるべきではない。しかしながら国民の行動に制限を設ける場合、その制限は最小に止められなければならない。その上で、生活に必要なビジネスだけではなく、感染を広げる可能性の少ない屋外のビジネスなども、徐々に再開させていくべきだろう。この為には、国民の方でも、信頼されるに相応しい、責任ある大人として行動する必要がある。

最後に

虐待について、私は何の資料も目にしていない。ただ自分の経験の一部を書いただけである。これらは私の目線を通した記録であり、私の家族には別の目線があり得る事も認識している。目線の違いで言えば、母は生前、祖母に見捨てられたと感じながら育った一方、母の双子の姉である伯母は、祖母が母を一番可愛がっていたと記憶していた。私は両親が私の弟を贔屓していたと感じていたが、弟にしてみれば、私の方が自分勝手な生き方をしたと考えているだろう。母は私の弟ばかりが手術や入院を繰り返した為「不幸の星の下に生まれた」とつぶやいていたが、私は母と一緒にいる弟を羨ましがったし、母に見捨てられると感じていた。
                        f:id:HKennedy:20200422012815j:image   

こうした見方の違いは、加害者の方が被害者よりも、加害の事実を過小評価しやすい傾向があるのも一因だろうが、もしかすると私たちが個々感じ得る不遇に対する怒りや悲しみは、加害者による『調節』や『計算』によって、根本的には解決されないからかもしれない。私の事で言えば、私は、金銭的にずいぶん弟より恵まれていた。ある朝、母が目に涙を溜めながら一万円札を投げつけた事は書いた通りだが、その他にも米国への留学や旅行をさせて貰った。こうした贅沢を弟がする事はなかった。しかしながらこのような『調整』は、私が虐待されたという意識を変えるには至らなかったし、私はこうした『調整』を、被害を被った事に対する当然の代価のように受け捉えていた。『被った被害に対する当然の代価』と受け捉える限り、そこには感謝や感動も無かったのだ。
また私は、父や生前の母による虐待を書く事によって、両親を告発しようとしているのではない。そうではなく私は、虐待している親の多くが、実は親自身、助けを必要としている人々である事を知って頂きたいのだ。虐待している親の多くは、凶悪な犯罪者であるのではない。むしろ複雑な問題や痛みを抱えた人々であり、彼らも傷付いている場合が殆どである。しかも彼らの動機は子供への躾にあり、自分の方法が誤っていると薄々は気付きながら、それを修正する能力や方法を取得できないまま、結果的に子供の福祉を虐げ続ける場合が多いのではないだろうか。

私はこれらの親が助けを得やすくなるように願っている。その為には、虐待する親へのイメージを、まるで連続殺人犯に対するような明らかな犯罪者として設定しない方が良いと思う。虐待する親のイメージを凶悪犯罪者として設定してしまうと、虐待そのものの発見が遅れてしまうと思われるからだ。

これを書くにあたって冒頭に言及した栗原心愛ちゃんは、亡くなる以前、様々な機会を用いて、自分の身に起こっていた虐待の体験を大人に訴えていた。彼女は幼くして、自分への暴力が許されるべきでない事に気付いていたし、社会に対して助けを求めていた。ところが彼女が置かれていた暴力的環境は、躾の一環という父親の言い分や日本における親権の在り方によって見逃され、彼女は助ける人なく、命を落としてしまった。私たちは彼女が生きている間に、彼女を救出する事ができないでいたのだ。それは私たちが、加害者である親の権利や、躾という言い分を重視するだけで、結果として幼い命が失われる可能性を余りにも蔑ろにしているからではないだろうか。
たとえ劣悪な環境を生き延びたとしても、虐待とは、終わってしまえばそれで癒しが始まるものではない。その後の生き方が難しいのだ。これは、戦争によって破壊された街を再建してく作業に似ている。激しい爆撃を生き抜いたとしても、再建能力が培われたかどうかは全く未知である。住民が住み、経済発展を果たす街となる為には、途方もない労力を要するものだ。
私の場合で言えば、特に新しい家族を持ち、子供を持ったあと、子供の反発や反抗、病気、お互いのストレスなどに遭遇した時に、どのように対処して良いのか、全くわからない事が多くあった。また心理学者とカウンセラーによって診断された私自身のPTSDや鬱状態によって、子育てどころではない時期もあった。私自身の子育てや、その失敗、教訓についても、いつか書いていきたいと思うが、決して成功例ばかりではない。むしろ山のような失敗を犯してきた。それでもこれまで何とかやってこられたのは、何よりも現在の夫の協力と知恵、忍耐、模範があったからだと思うし、離婚後も家族の一員として近くあり続けてくれた元夫の存在があったからだ。また折に叶った助けを与えてくれた友人たちには、心から感謝をしている。

最後になるが、私が自分の幼少時から今に至る記憶の一部を書き留めるよう勧め、励ましてくれた夫、子供たち、多くの友人、また困難を覚えつつ育ててくれた両親に、心からの感謝を述べたいと思う。

 

(12/12)

それから

2014年11月、私は父に会おうと、実家近くの駅に向かっていた。父に会うのは10年ぶりだった。母が亡くなった翌年、私は夫と子供達3人を連れ、渡米していたからだ。

母が亡くなった直後、父は生前の母の写真数百枚を寝室一面に貼りつけたり、母に似せた観音像を墓地に建立したり、挙句の果てには、母が生前お世話になった人々に贈り物を送る際、その差出人を母の戒名にするなど、常識を逸脱した行動を誰も止める人の無いまま繰り返した。
人にはそれぞれの、死者を悼む方法があるが、父の悼み方は、母をほぼ宗教化し祀り上げる事のように思われた。
私は自分の出来る範囲で父を訪問し、週日には電話をしたり、週末の夕食を一緒に取ったりするようにしていた。父も私を助けてくれたことがある。光を産んで4ヶ月程して私は、急に今まで経験した事のない高熱を出し、倒れた事があった。その時父が私を病院に連れて行ってくれた。光は哺乳瓶を嫌った為、私は病院で点滴を打たれながらも光に授乳していた。診断は「産後の疲労がたまった」という事だった。その間、夫は香と基の面倒を家で見てくれていた。
そうしてしばらくは父とも仲良くやっていけた。ところが伯母が主に行なっていた遺品整理によって私に割り当てられた母のミンクのコートやハンドバッグなどを、父が、その頃父の仕事を手伝いし始めた従妹に上げると言い出した。私は、父が従妹に興味を持ち、何かプレゼントをあげたいなら、何も母の遺品をあげなくても、父が自分で新たに買った物をプレゼントすれば良いと言い、母の遺品を父が持って行く事を拒否した。それに憤った父は、私を「金目当て」と言い、「お前とは縁を切る。お父さんが死んでも、お前には遺産は一切行かないように、弁護士と相談をしている」と電話を切った。母の双子の姉である伯母がそれを聞き、東京からやって来て「お父さんはひどいね。伯母ちゃんが絶対、そんなバカなことが無いようにしてあげる」と慰めてくれた。
思えば、父には私が小学生の頃にも「お前には友達はいない。お前の友達はみんな、お父さんがお金を持っているから、友達をやってくれているんだ」と言われ、激しく泣いたことがある。自分の子供に本当の友達がいないとか、お前は愛されていない等と言う事は、どんな場合でも不必要な行為であるのだが、今から考えれば、恐らく「自分には本当の友達はいない」という不安は父が感じていたのかもしれない。或いは父は、「金銭があって初めて友情は得られるもの」という考えを、真実として受け入れていたのかもしれない。いずれにせよ私には、「縁を切る」と言われつつ、自分の生活に無理をしてまで父と関わるつもりは全くなかった。私と父との間には、少しの事には揺るがない関係の為に必要な、深く伸びた根のような信頼が育っていなかった。根があったとすれば、それは薄く横に伸びてしまったもので、少しの日照りや風でダメになってしまう代物だったのだ。


私たちはその後、父に会う事なくアメリカに渡った。アメリカに渡った後、様々な変化があった。私は夫と離婚した。3人の子供は、共同親権のもと、双方によって育てられている。離婚後4年して私は再婚したが、元夫ととも家族であり続ける約束によって、彼とは兄妹のように関わっている。

また、父が脳梗塞によって入院した為、経営していた会社が倒産し、自己破産をしたという知らせも伝わってきた。舞ちゃんは結婚し、男の子を出産した。舞ちゃんが男の子を産んだ後、舞ちゃんの母である叔母が癌で亡くなった。叔母が亡くなる前に、一目でも会いたかったのだが、この願いは叶わなかった。アメリカ人である夫との再婚前に日本へ一時帰国してしまえば、その間にビザが切れてしまい、アメリカへ再入国をして普段の生活を続ける事が困難になってしまうからだった。
アメリカで暮らすうちに、私は次第に鬱状態に陥っていった。直接の引き金は、渡米から始まり、離婚やら、叔母の死やら、米国で暮らす毎日のストレスであったかもしれないが、私はもっと根本的な、私の人生を生きる事の難しさを感じるようになっていた。アメリカ人との夫の再婚後も、私はただ裏庭にやって来る色とりどりの野鳥を見るだけで、何か月も過ごした。金銭的には恵まれていたので、家事等を手伝ってくれる人たちを雇うことも出来た。夏には義母の所有する湖のほとりのコテージで朝日が水面を照らしながら昇るさまを見たり、テニスをしたり、静かな会員制クラブで食事をしたりする事もできた。主人の家族はみな気さくな人たちで、特に義母は愛情深く、楽しい人だった。クリスマスやイースター、独立記念日や感謝祭など、家族の集まる時には、私の子供たちだけではなく、元夫まで温かく迎えられた。ところが私は、そういった恵まれた環境の中に置かれながらも、一人だけ大きく重い荷物を背中に負わされている気がした。しかも重荷を負いつつ単距離だと思って走ってきたコースが、実は果てしもない長距離であると知らされた人のような、途方もない疲労感を感じていた。
私はアレックスという心理学者によるカウンセリングも受けた。彼によれば私は大きな怒りを抱えているのだという。その怒りが、怒りとして外側に出るのではなく、内側に向かう為、鬱状態となっているのだろうと説明してくれた。そうした解釈が正しいならば、鬱から解放される為には、怒りが外側に向けられる必要があるのだろうか。そうだとしても、私は誰に怒りをぶつけるべきなのだろう。母は既に他界をしていたし、父は脳梗塞を患い、倒産、破産した身なのだ。
私は特に母に対して、母の人生は痛みを負った、つらい人生だっただろうという同情すら感じるものの、怒りを感じる事は不適切に思われた。アレックスによれば、母は恐らくアルコール依存症であったと言う。私の感じ方では、母は自分自身、母親から拒絶されたという思いを抱えながら幼少期を過ごしていた。私に対して、決して誤りを認めたり、感謝や愛情を表現したりする事の無かった母の傷を思うと、怒りという感情は起こらないのだった。


2014年には、私はナショナリスト的な立場から、いくつかの記事を日本の政治言論誌に掲載する機会が与えられた。2014年に日本に滞在するうちに、何人かの国会議員や、主だった学者、言論人にも会う事ができた。日本に滞在中している間、それを知った父から是非会いたいと連絡があった。


実は私は2014年の春にも来日しており、その時にも私が帰国する事を他の親戚から聞いた父は、私に会いたいと言ってきた。その時私は、父に会う事を拒んだ。私には父が私に会いたがる理由がわからなかったし、父に会いたいとは全く思わなかったからだ。父や母に対して怒ってはいないと思いつつ、やはり私の心は、赦しとは遠いところにあった。


特に私は、ミチルやミルクら犬たちが受けた仕打ちに対して、赦せない思いでいた。母から受けた酷い仕打ちは、母も感じていたであろう苦痛や、「大事に想っている」という最期の言葉で帳消していた。父に対しても、病院に連れて行ってくれた事などで、かなり差し引きされた嫌悪感しか感じていなかった。このように、私自身に対する仕打ちは、自分に対して示してくれた親切などによって赦さなければならないと考えておきながら、親切を受けることなく死んでしまったミチルやミルクたちの為の怒りだけは正当化できると考えていたのだ。言って見れば、私はミチルたちを通してでなければ、単純な計算によっては帳消しできない鬱積された怒りを感じる事ができなかったのだろう。


私は、自分が父を赦していない事を承知しながら、それでもこれが最後となるかもしれないという思いで、父と会う約束をした。但し、その夜にある会合の為に東京に戻らなければならないという口実を設け、二時間だけ、と断っておいた。
10年ぶりに会った父は、小さく、みすぼらしく、別人のようになっていた。年をとったのだろう。私の顔を見ると、照れ笑いを見せた。
知り合いのレストランで遅い昼食を取る為に、父の車に乗ったのだが、今までは国産車でも最高の種類の車に乗っていた父が、今では明らかに中古の小さな車に乗るようになっていた。あれほど羽振りが良かった父がこのように落ちぶれた姿に切なくなった。これが「お前にはいっさい遺産を遺さないように、弁護士と相談をしている」と啖呵を切った父なのか。父と食事の間に何を話したか、殆ど記憶に無い。ただお金が無くて、歯医者に行くこともままならないという事を言っていた。私は父に頼んで郵便局に車を止めてもらい、そこからクレジットカードで40万円程日本円をおろし、父に渡した。私はその二時間を居心地悪く過ごしたのだが、今思えば、父は心から嬉しそうだった。父は別人のようになっていた。


それからも父からは何度か、金銭援助をして下さい、というメールが来た。それに応えて送金を続けた時期もあったが、言っている事の辻褄が合わないように思われ、父からのメールは一切無視した時期もある。それでも父は、私が読んでいようといまいと、誕生日やら、クリスマス、お正月にはメールを送ってくれていた。父はもう、昔の父ではなかった。


何か月か前に、年老いた父につらく当たるのは止めようという思いが浮かんだ。神さまは「悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨(恵み)を降らせて下さる」という言葉が思い出されたのだ。年を重ねた父は、以前の父でないのだ。既に別人となっている父に怒り続けて、私は何を得ようとしているのだろう。私は父につらく当たる事で、自分も苦しい思いをしていた事に気が付いた。


それから月々、生活の足しになる金額を送金しようと考え直した。父からのメールにも返信するようにし始めた。私は、もう両親の支配下にはいない。虐待環境には置かれていないのだ。長い間、私自身怒りを抱えてきたが、私は怒り続ける事にも疲れを感じていた。違う生き方を始めても良い頃なのだろう。


母が最期に言った「大事に想っている」という言葉を、遅くならないうちに、今度は私が父に言ってあげられたら、そして『贈る言葉』の最後部分の歌詞を歌ってあげられたら、それはどんなに良いだろう。


                          f:id:HKennedy:20200422012421j:image

(11/12)