パレスチナという国家は必要か

パレスチナという国家がなぜ必要なのかについては、殆ど議論されていない。かつての独立国であり、現在中国共産党によって民族・文化浄化の危機に瀕しているチベットや、何世紀もに渡って独立を叫んできたクルドという国家ですら存在しない今日、なぜ迫害されている訳でもなければ、民族として存在した事の無いパレスチナ人による独立国家の建設が必要なのか。

たとえ宗教の自由や人権が認められていても、ユダヤ人国家の下で生きる屈辱に耐えられないとし、ユダヤ人国家の抹殺を願うパレスチナ人たちの主張の根底には、歴としたユダヤ人差別が伴う。中国共産党下に於いて自治を願うチベット人らの主張とは重きが異なる。

以下は、2013年にピューリッツァ賞を受賞したウォール・ストリート・ジャーナル紙国際面担当のブレット・スティーブンス記者が書かれた「パレスチナ国家について」という最新記事の拙訳である。

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On Palestinian Statehood - WSJ

70か国からの外交官らが日曜パリに集まり、中東問題への会議を行なう。彼らの目的は、イスラエルとパレスチナ、二国解決間解決への足固めにある。このタイミングは偶然ではない。オバマ政権残すところ5日の任期切れとなる前に、この会議によって、段階的なパレスチナ国家建設に向けた、新たな国連安全保障理事会の決議に結び付けようとしているのだ。

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日曜日イスラエルで起きたトラックを使ったテロで犠牲となった人々を悼んでライトアップされたベルリン、ブランデンブルグの門。外国がイスラエルで起きたテロを悼む例は珍しい。

 

それが一体何の為となるのか、疑問が生じる。

気候変動を別にすれば、パレスチナ国家建設は、世界的な政治の場の流行として、強迫的な中心議題となっている。しかしこれについて殆ど是非の議論がなされなかったのも確かだ。

パレスチナ国家は、本当に中東に和平をもたらすのだろうか。こうした考えは、イスラエルへの軍事負担を軽減し、アラブ近隣諸国の抱える国内の不満を和らげるという仮説の下に、これによってイスラエルとアラブ近隣国の間に和平をもたらすだろうという社会通念であった。

今日、この提案は実にくだらないものとなった。エルサレムとラマッラー(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区中部に位置する都市)間の交渉が、シリア、イラクやイエメンの内戦を、どのような解決させるというのだろう。どのような交渉によっても、テヘランと彼らに委任されたレバノンやガザ地区のテロリストは、ユダヤ人国家との和解に応じることは無いのと同じだ。それでも、その他の近隣について言えば、イスラエルはトルコ、ヨルダンとエジプトとの間に外交関係を成立させ、サウジアラビアやその他の湾岸諸国との間にも実質的調整を行なう合意に達している。

「パレスチナ人の益はどうなるのだろう。彼らは自分たちの国を持ってはならないのか。」

どうだろう。パレスチナ人たちは、アッサム人、バスク人、バローチ人、コルシカ人、ドルーズ人、フラマン人、カシミール人、クルド人、モロス人、ハワイ先住民、北キプロス人、ロヒンギャ人、チベット人、ウィグル人や西パプア人ら以上に、自分たちの国を持つ特権があるだろうか。これらの人々は全て、独自の国民としての独自文化、悲劇的歴史の正当性や、国を持つ尤もな主張がある。

これらの人々が自分たちの国を持てないのに、なぜパレスチナ人の主張は受け入れられるのだろう。パレスチナ人らはクルド人たちよりも長い間、忍耐していたと言うのか。いいや違う。クルド人の自国に対する主張は、何十年ではなく、何世紀にも及ぶ。

パレスチナ人は、チベット人以上の自国文化の破壊を経験しているのだろうか。とんでもない。北京は67年にわたって、チベット文化破壊への組織的な政策を行なってきたが、パレスチナ文化への破壊はモスクや大学、メディアで話題となるだけで、実際には起こっていない。

パレスチナ人らはロヒンギャ人以上に厳しい迫害を受けてきたのだろうか。比較する事さえ馬鹿げている。

他者との比較はともかく、パレスチナ人国家は、パレスチナ人にとって益となるのだろうか。

勿論、こうした判断には主観が伴う。しかし2015年6月に『パレスチナ・センター世論調査』によって行なわれた意識調査では、東エルサレムに住む大多数のアラブ系住民は、「パレスチナ国」に暮らすよりも、イスラエルでイスラエル人と同等の権利を有する市民として暮らす事の方が望ましいと答えている。これには、イスラエルの目覚ましい経済成長が関係しているのは明らかだ。

しかしそれだけではなく、政治的な側面もある。パレスチナのモハマッド・アバス大統領は治世13年、4期目の任期を迎える。(故アラファト議長によって建設された)ファター派は西岸地区を腐敗で支配しており、ハマス派は、ガザ地区を恐怖で支配している。人道支援物資はいつもテロリストの目的に利用されている。ガザからイスラエルに伸びるテロ活動の為のトンネルには800トンのコンクリートが使用され、11億円以上の費用が掛かっている。ほぼ3年の周期でハマスはイスラエルに向けてロケットを発射し、交戦となれば何百人ものパレスチナ人が犠牲となる。この状況で、なぜパレスチナ国家誕生が良いものを齎すと占う事が出来るだろう。

パレスチナ国家は、イスラエルにとっても必要ではないのだろうか。イスラエルはユダヤ人による民主主義国家としての性質を、ヨルダン川西岸に住む何百人ものパレスチナ人らを切り離さずして、保つことが出来るだろうか。

仮説上では、イスラエルは、近隣と和平を保ち、社会保障が確立し、人権を尊重し、過激主義を拒絶し、武器使用の統制が取れたパレスチナ主権国家と共存する事が望ましい。仮説上では、パレスチナはコスタリカのように、小さくても美しい国となり得る。

しかしイスラエルは、仮説で存在しているのではない。彼らは小さな過ちが決定的になる世界に生きているのだ。2000年と2007年、イスラエルの首相はパレスチナ国家建設に向けて、パレスチナ側の善意を信じた条件を提示した。それでもこれらの提案は、パレスチナ側によって拒絶され、暴力による応酬を受けたのだ。2005年には、イスラエル側はガザ地区から撤退したが、パレスチナ側はガザ地区をテロ攻撃の拠点としてしまった。先週の日曜日は、4人の若いイスラエル人らがテロ攻撃の犠牲となり、トラックに轢殺された。ユダヤ人による「何の非も見当たらないような民主主義国家」とは貴い理想である。しかしイスラエルという国家存続の危険まで侵すべきではない。

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  日曜日、イスラエルで起きたトラックによるテロ。ISISの関連が疑われている。

パリで行なわれる会議は、パレスチナ人に関して優勢的な一般論に対しては関心を持たない新たな政権が始まる直前に行なわれる。トランプがイスラエル大使に任命したデイビッド・フリードマンはユダヤ人国家としてのイスラエルを明確に支持し、在イスラエル、アメリカ大使館をエルサレムに移転させる事に強い決意を抱き、イスラエルによる入植を非難せず、「イスラエルの安全の為にはイスラエルの敵(パレスチナ)を力づける事も必要だ」というような提案には動かされない。こういった、主流の考えとは異なる「異端」を考えただけでも、彼がこの務めに相応しい事は間違いない。

同時に、パレスチナ人の将来を真剣に考える全ての人々は、パレスチナ人に対して、マシな指導者を選び、彼らの制度を向上させ、隣人(イスラエル人)への殺人が行なわれる度にお菓子を送り合って喜ぶ事を止めるように訴えるべきだ。

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パレスチナ人国家を黙認するとしても、国際社会は、ユダヤ人根絶の主張やテロ行為だけは認めてはいけない。

 

アンジェイ・コズロウスキー教授に聞く、対イスラエル非難決議とユダヤ人入植 (2)

AK: 次に、宗教的な面から見ていきますが、宗教的なユダヤ人にとっては、この地は神からユダヤ人に与えられた土地です。聖書の時代には、現在論争になっている「東エルサレム」や「ヨルダン川西岸地区」などが、当時の殆どのユダヤ人が住んでいた土地であり、ユダヤ教の聖地とされる多くの場所は、そこにあります。ですから、宗教的なユダヤ人らがそこに住みたがる事は理解できます。彼らにとって、それは神から与えられた義務なのです。

 

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現存するエルサレム神殿外壁、「嘆きの壁」に向かって祈る正統派ユダヤ教徒の男性たち (2016年、イスラエル政府によって、男女で祈りを捧げられる区域も、新たに設置されている。)
 
1947年のイスラエル建国は、宗教的な事案にはあまり興味を持たない世俗派のユダヤ人ナショナリスト達によって成されました。ユダヤ人指導者の多くは、長い間に渡って完全に世俗化、自由主義化していたのです。これらの世俗派ユダヤ人にとって、聖地や入植といった問題は重要ではなく、交渉の障害だと考えられていました。正統派のユダヤ教徒は、当時イスラエル国家の建設に反対しており、彼らの中の少数は、今でもイスラエル国家に反対する人々がいます。
 
現在はこれらの『世俗、自由主義派のユダヤ人指導者層は、影響力を失なっています。イスラエル内での力関係は変わっています。これには複雑な理由がいくつも存在します。一つは、イスラエルに暮らす大多数のユダヤ人が、もはやヨーロッパ出身者ではない事です。ヨーロッパ系ユダヤ人は世俗派であり、リベラル(自由主義)派です。建国当時イスラエル政府は彼らによって運営されていました。ところが現在のイスラエルで多数はを占めるのは、イランのようなアラブ社会出身のユダヤ人です。彼らは概して宗教的であり、アラブ社会で受けた迫害の為、アラブに対する反感があります。
 
それに伴い、多くの正統派ユダヤ教徒らの態度も変わりました。彼らはイスラエル建国当時にはユダヤ・ナショナリズムに反対し、ユダヤ人はイスラエルの国に戻る前に、まずメシヤの訪れを待つべきだと考えていました。(聖書の預言による) しかしながら、正統派ユダヤ教徒の間にもイスラエル国家を受け入れる割合が増え続け、イスラエルへの移住が始まりました。これら多くの正統派ユダヤ教徒は、聖書の時代のユダヤ人が住んだ地域、預言者が暮らし、彼らの墓がある土地に暮らしたいと願うのです。
 
 
HK: アメリカの報道から学んではおりましたが、ユダヤ人の中に世俗派と宗教右派があり、意見が大きく違う事は知りませんでした。
 
 
AK: 今日ある入植を支持する議論には、大きく分けて3つあります。一つはイスラエルの人口が増え続けている事にあり、住居の為の土地が必要だという点にあります。アラブ人の住んでいないヨルダン川西岸地区や、アラブ人から買い取った土地に住んでいけない法はありません。段階的な合意や二国間解決案を信じる人々は、これらの入植者らがアラブ側にも暮らせるようになるべきだと主張します。アラブ人らがイスラエルに住むのと同様にです。アラブ人がユダヤ人への憎悪を棄てれば、彼らの国家の中にユダヤ人が少数派として暮らす事は問題とはならない筈です。ユダヤ人は彼らの国にアラブ人少数派が暮らすことを問題とはしていないのですから。しかしながらパレスチナ人指導者らは、パレスチナの国に一人のユダヤ人が暮らすことも許さないとしています。ユダヤ人側が、パレスチナ側やユダヤ教徒が聖地と考える土に、一人のユダヤ人が暮らすのも許さないなどといった主張に長く甘んじる事は出来ません。
 
西岸の地区にパレスチナ国家を作り、イスラエルが国内へのアラブ人居住を認めているように、パレスチナ側も宗教的なユダヤ人が暮らすことも許可する案は、考えられる限り最も公平で、お互いへの配慮をした解決案ですが、アラブ側がこれを受け入れる事は近い将来期待できません。
 

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  右の頬を打たれて左の頬を差し出す事はしないと語るイスラエルのネタヤフ首相

 
HK: 入植を支持する議論の2番目に移る前に、教えて頂きたいのですが、先ほどから繰り返して仰っている「アラブ人」とは、「パレスチナ人」を指しますか? 例えばエジプト人もアラブ人ですが。
 
 
AK: そうです。私が使うところの「アラブ人」とは、「パレスチナ人」を指します。アラブという言葉を使うのは、「パレスチナ人」と言われている人々の殆どはシリア人、エジプト人、ヨルダン人、レバノン人だからです。しかも「パレスチナ人」という言葉は、以前はユダヤ人を指していたのです。パレスチナという言葉を始めに使ったのはローマ皇帝ハドリアヌス(在位西暦117年~138年)でした。彼はユダヤ人反乱軍を収め、ユダヤ人をエルサレムから追放する事に失敗した後、それまで「ユダヤの地」と呼ばれていた一体をパレスチナと名付けました。パレスチナという名前は、ユダヤ人に対する罰の一つとして、ユダヤという名称を歴史から消そうとしてつけられました。
 
HK: しかしながら、人種、或いは国民としての「パレスチナ人」とは、ソビエトによってPLOが作られた時に、創作されたのでは?
 

AK: そうです。19世紀まで、パレスチナの土地に住んでいたアラブ人のうち、自らを「パレスチナ人」と呼ぶ人間はいませんでした。その当時まで、「パレスチナ人」と言えば、パレスチナに住むユダヤ人を、それ以外の土地に住むユダヤ人と区別して呼んでいただけです。

 

HK: 入植への議論の2番目は何ですか?

 
AK: 入植を支持する2番目の論理は、少し違った論理です。イスラエルは今まで、(パレスチナ側に対して)多くの譲歩を行なってきました。それに対しての見返りは何もありません。このことは彼ら(パレスチナ側)の方針です。パレスチナ側はこの方針に従って、イスラエルに対して入植を止め、入植者の撤退を求めてきました。多くの世俗派のユダヤ人は、パレスチナ側から何かの妥協を引き出せるなら、喜んで入植を止めるでしょう。ところがパレスチナ側は、ユダヤ人に対して代わりに与える条件は何もなく、ただユダヤ人側が入植を止めなけらばならないと主張しています。ネタヤフ首相の言っている「我々はもはや、何の見返りも無しに、ただ譲歩だけをすることは無い」とは、こういう状況を指してのことです。彼がユダヤ教の保守派から懸念されている理由は、ここにあります。彼らはネタヤフ首相が「和平の為」として、入植を止めるのではないかと疑っているのです。勿論、和平の道筋など立ってはいないままで、です。
 
最後に、宗教的な論理があります。これは比較的単純な論理です。聖書によれば、この地はユダヤ人に与えられています。この地が神によってユダヤ人に与えられた事は、キリスト教徒も認めていますし、コーランですら繰り返し述べています。ですから信者にとっては、ユダヤ人らは自分たちに与えられた土地に住むだけなのですから、何の問題もないと考えています。そして、宗教論争に於いて常にそうであるように、宗教上の信念を不信者の為に妥協させる事はあり得ません。

 

HK: それでもイスラム教徒と国連は、エルサレムはイスラム教徒の聖地であると主張していますね。
 
AK: エルサレムがイスラム教徒にとっての聖地だとする主張は、最近創作された発明品です。勿論、これに関する全てを説明する事は複雑なのですが、簡単に言えば、エルサレムという言葉はコーランの中では一度も言及されておらず、何世紀にも渡ってエルサレムが聖なる土地であるといった主張は、イスラム教にとっては異端の教えとされてきました。それだけでなく、コーランはこの地域全域にわたって神によってユダヤ人に与えられたと明確に記されているのです。
 

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   エルサレムのイスラム教寺院、「岩のドーム」に背を向け、メッカに向かって祈るイスラム教徒
 
HK: 仰る通り、イスラム教の聖地はエルサレムではなく、サウジアラビアにあるメッカとメディナです。では、宗教的なイスラム教徒が、神がその地をユダヤ人に与えたと知っているならば、なぜ彼らはエルサレムの地を奪おうとしているのでしょう。
 
AK: その問題は、多くのイスラム教徒が、コーランの定めたユダヤ人の土地に住む権利がないと信じているからです。彼らは、全ての「良いユダヤ人」は既にイスラム教に改宗してあり、イスラム教に改宗しなかった「悪いユダヤ教徒」は、神の敵であり、神は一度ユダヤ人に対して与えた特権の全てを、イスラム教徒に与えられたと教えられています。
 
「全ての良いユダヤ人は、イスラム教に改宗した」という教えは、近代のイスラム主義者の間では標準的な教えとなっています。この教えは、あるハディース(モハメッドの語ったとされる教え)に基づいています。もともとモハメッドはユダヤ教徒に対して、彼の教えを受け入れると期待していた為、友好的でした。ところがユダヤ人らがイスラム教徒に改宗しなかった為、モハメッドは冷淡になりました。ですから初期に書かれたとされるコーランの部分は、ユダヤ人に対して友好的ですが、後期に書かれたとされる部分はユダヤ人を非常に敵視しています。勿論、キリスト教に改宗したユダヤ人がいたように、イスラム教に改宗したユダヤ人がいなかった訳ではありません。イスラム教に改宗したユダヤ人の中には、イスラム教に影響を与えた人々もいます。ところがこれらのユダヤ人らは、イスラム教を「ユダヤ教化」していると、絶えず疑われていました。彼らがイスラム教の教えへの解釈を変え、ユダヤ教に似たものにするのではないか、という疑いです。ですから、エルサレムを聖なる都と言うようなイスラム教徒は、「ユダヤ教化されている」という疑いが掛けられました。19世紀後半に『シオニズム運動』が起こり、ユダヤ人らが彼らの国を建国し、首都をエルサレムに置くと言いだしてから、イスラム教徒らはエルサレムが彼らにとっての聖地であると主張し始めたのです。
 
HK: レバノン系アメリカ人学者のフィリップ・ヒッティがパレスチナについて言ったことを読みました。パレスチナという国が地球に存在した事は一度もない、という歴史的見解です。
 
AK:  実際には、コーランの教えに厳格に従って、エルサレムを含める聖地の全てがユダヤ人に属すると主張するイスラム教学者もいます。かなりの少数派になりますが、ハディースにはよらず、コーランの教えでもって解釈しているのです。
 
HK: これらの教えが国連で無視される理由は何ですか? 多数派を占めるイスラム教国に対する配慮でしょうか。
 
AK: この教えはアラブ諸国にとって、政治的不利益であり、コーランだけでなくハディースの教えを信じる全てのイスラム主義者によって反対をされているからです。エルサレムを含むパレスチナの地はユダヤ人に与えられているという教えは、コーランだけを忠実に解釈した場合の教義です。
 
 
HK: 最後に、ヨルダン人、エジプト人、シリア人、レバノン人らが「パレスチナ人」として纏まり、ユダヤ人によるイスラエルに反対をするのは何故でしょう。それ程ユダヤ人との共存が嫌ならば、例えばヨルダン人であったら、ヨルダン王国に帰る事も出来ませんか? ヨルダン人にしても、エジプト人にしても、彼らは既に別にヨルダンという独立国、エジプトという独立国を持っています。 オットーマン・トルコ帝国の時代にも、彼らはトルコ人によるトルコ帝国における少数民族であった筈ですが、ユダヤ人によるイスラエルにおける少数民族の立場を拒絶し、パレスチナ人という新しい「民族」となり、ユダヤ人によるイスラエルイスラエルの地からユダヤ人を追い出して「パレスチナ」という国を作ろうとする理由は、何故でしょう。
 
 
AK: ローマ帝国がユダヤの地からユダヤ人を追放した後、ローマはこの地を『シリア・パレスチナ地方』と名付けました。実際シリア共和国が建国されて以来、アサド政権を含むシリア政府は、この地がシリアの一部であったと主張しています。ヨルダンになると話は違います。ヨルダンの人口の大多数は「ヨルダン系パレスチナ人」と同じ(?)ですが、王室や支配階級、軍などはベドウィンに起源を持っており、自分たちをパレスチナ人と考えてはいません。ヨルダン王国は、パレスチナ系が増える事を避ける為に、パレスチナ人がヨルダン国籍を取得する事を非常に困難にしました。ベドウィン系と違い、王室への忠誠を感じない「パレスチナ系」は、ヨルダン王家にとって脅威であるからです。
 
また多くのイスラム教徒にとって、非イスラム教徒の下に暮らすことは非常な屈辱です。イスラム教の方が、優越であると信じているからです。しかもイスラム教徒にとって、ユダヤ教は最も侮蔑されるべき人種だと考えられています。長年にわたり、ユダヤ人はイスラム教社会で差別されてきたからです。

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       ヨルダン川西岸の入植地に向かってパレスチナの旗を掲げるパレスチナ人男性

 

HK: それは恐らく、ユダヤ人に対するキリスト教世界からの差別も関係しているのでしょうね。他者に侮蔑されている人々を更に侮蔑する事で、自らの優位性を高めたいのでしょう。
 
本日は、いろいろ教えて頂き、有難うございました。
 
 

日本の右派が抱える危機(2) 各国の極右ナショナリストに近づくプーチン・ロシア

さて、『日本の保守派が抱える危機(1)』の冒頭にあげたジョシュア・ブレイクニー氏は、ホロコーストを否定しているだけではなく、9・11テロをアメリカによる自作自演と主張されている。典型的な『陰謀論者』である。それだけではない。彼は、旧ゾヴィエト時代からのロシア政府お抱え宣伝機関紙であるプラヴダ紙に寄稿し、ロシア政府のプロパガンダを流す『ロシア・トゥデイ』にも出演している。

 

9・11をアメリカによる自作自演とし、反米、反ユダヤのプロパガンダを流す欧米ジャーナリストは、決して多くはない。また、プラヴダ紙やロシア・トゥデイに寄稿するような、西側ジャーナリストは少ない。プラヴダ紙やロシア・トゥデイは、ニューヨーク・タイムズやCNNのようなメディアではない。ニューヨーク・タイムズやCNNを以てリベラル・メディアとし、まるで偏向メディアの典型のように軽んじる声もあるが、これらのメディアは、オバマ大統領への非難を含め、政権批判も行なう。一方プラヴダ紙やロシア・トゥデイがプーチン批判を行なうことは無い。これらのロシア・メディアは、クレムリンの宣伝機関である。ブレイクニー氏がロシアのプロパガンダ・メディアに重宝されている事を考えれば、彼がロシア政府の意向を、かなり正確に反映している事がわかる。

 

ブレイクニー氏は、2014年に「Japan Bites Back」という本を出版している。日本の側から見た真珠湾攻撃と第二次世界大戦について書かれているようだが、要は真珠湾攻撃の見直し論である。彼の政治目的は、クレムリンの思惑と一致し、日本人右派の間に反米感情を起こす事にあるのではないか。

http:// http://www.nationalreview.com/article/380614/dugins-evil-theology-robert-zubrin

 

例えば、ロシアがイギリスのEU離脱を支援していた事は知られているが、イギリス独立党のナイジェル・ファラージュ党首は、公けにプーチンを礼賛している。フランスの極右政党で、マリー・ル・ペン党首が創設した「国民戦線党」は、党がロシアから940万ユーロ(約11億5千万円)の資金援助を受けている事を公式に認めた。

We should beware Russia’s links with Europe’s right | Luke Harding | Opinion | The Guardian

また1950年代に元ナチス党員によって建てられた、オーストリアの極右政党である「自由党」のハイン・クリスチャン・ストラッシュ党首は、プーチン大統領率いる統一ロシア党との経済、ビジネス、政治問題への協調関係に署名した事を発表した。

Austria’s Far Right Signs a Cooperation Pact With Putin’s Party - NYTimes.com

ハンガリーでは武装化した極右ネオナチ・グループのリーダーが、家宅捜査に入った警察官を射殺する事件が起きたが、その活動家に対して武器を提供していたのがロシア軍情報部である事が判明している。

 

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            マリー・ル・ペン党首のポスターを貼る支持者

Putin’s Support for Europe’s Far-Right Just Turned Lethal | Observer

 

冷戦時代のソヴィエトは、ヨーロッパの左派に接近していたが、現在のロシアは、リベラル政治が進めた移民政策に反発をするヨーロッパの右派に接近しているのが事実だ。ヨーロッパに於いてリベラルか排他的極右ナショナリズムかの選択肢しか残らなくなれば、他国との協調関係を結ぶことが困難になる。ロシアは、リベラル政治にうんざりしているヨーロッパ国民の意識を利用し、米国との同盟関係(NATO)やヨーロッパ共同体(EU)を重んじる保守政党ではなく、これらの極右政党を支援する事によって、米国による一極体制、及び米国主導による世界秩序の崩壊を目指しているのだろう。

 

ブレイクニー氏のようなあからさまな親ロシア派の言論人が、日本の右派に取り入ろうとしている事実には、異様な不気味さを感じる。ヨーロッパ各国で起きている極右ナショナリズムの台頭の裏にはロシア政府による支援があるが、日本の反米ナショナリズム台頭の裏にも、ロシアの意向を受けた親ロシア派言論人による煽動があるかもしれない

 

KGB出身のプーチン大統領は、大衆の支持を受ける情報操作に長けている。例えばロシア政府高官はアメリカの原爆投下についての非難を行ない、多くの日本人を喜ばせた。しかしながら、果たしてロシアは、戦中から戦後にかけてのアメリカの軍事行動を批判できる道徳的立場にあっただろうか。

 

プーチンは、日本人右派が安全保障や同盟関係よりも歴史認識を重要視している事実に対し、さぞ滑稽に感じているだろう。日本は、左翼だけでなく右派も、同盟というものに対する理解がヨーロッパに比べて圧倒的に薄い。未だに、アメリカと中国、ロシアとの中間に、ニュートラルな独立国として存在出来得ると考えている。ロシアとの間に北方領土での進展がなくても、尖閣上陸を念頭に入れた合同軍事演習を中国と毎年行なっていても、産経新聞を始め日本の右派は、何故かロシアが中国の拡張主義に対抗する為の軍事戦略的パートナーであるという錯覚を信じ、あらゆる不都合な事実には目を瞑ってくれるのだ。

Chinese, Russian South China Sea Exercise Includes 'Island Seizing' Drill

中国の膨張する脅威…安倍首相が日露防衛協力を急ぐ理由 ただ乗り越えるべき壁も (1/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 

日本の右派にとって、中国という侵略拡張主義国家に対して、共に戦い得る国家は、戦後70年にわたって日本の安全保障を担ってきた同盟国アメリカだけではなく、呆れた事にロシアであるのだ。しかしながら、アメリカとロシアが中国を相手に共闘することは無い。アメリカにとって最大の脅威を与える敵対国はロシアである。中国という侵略国家への警戒をする右派が、中国を警戒するのは当然だが、中国と同じ侵略国家であり、2014年にはウクライナを不法占拠したロシアへの警戒を軽んじるべきではないたとえロシアが、日本人右派の誇りや名誉心をくすぐるリップサービスを行なったとしてもだ。

 

何度も繰り返してきたが、日本にとって第二、第三の同盟国となり得るのは、ロシアではなく、アメリカの同盟国でもある韓国とインドである。日本がアメリカとの軍事同盟を継続する限り、日本の同盟国となり得るのは、アメリカとの同盟関係を結んでいる国家だ。これは同盟という概念の初歩的な常識である。

 

ヨーロッパの極右であっても、日本の極右であっても、クレムリンにとって都合の良いナショナリズムを培う土壌がある。しかしながらロシアとの接近は、米国との同盟関係を損なう恐れが生じるのだ。独裁色を強めるプーチンの展開する印象操作をもって、ロシアを大国と見る人もいる。ところが実際のロシアは、経済的にはメキシコと同レベルの弱小国であり、アメリカを相手に戦争を行なえる国力はない。ロシアには、中国の拡張主義を阻むような法治主義の原則や義理は無く、軍事力もないのだ。これはプーチンが政権をとって以来のロシアの動きを見れば明らかである。

 

日本は、クレムリンの流すプロパガンダに惑わされ、安全保障を危機に陥れるような誤りを犯してはならない。

日本の右派が抱える危機(1) ホロコースト否定論者と南京否定論者

二年前、私は独自のラジオ番組を持つジョシュア・ブレイクニーというジャーナリストから、フェイスブックの機能を通してメッセージを頂いた。


「こんにちは。私はカナダ在住のイギリス人ジャーナリストです。私は自分のラジオ番組を持っていて、あなたをゲストとしてお迎えしたいと思っています。第二次世界大戦の日本の真実について、興味を持っています。私は最近国立国会図書館で、現在執筆中のほんのリサーチをしました。敬具、ジョシュア・ブレイクニー」
 
私は「私の名前をどこでお聞きになりましたか?」と聞いた。
 
ブレイクニー氏は「ヤスクニのフェイスブックのページ(グループ)で、あなたの優れた投稿を読みました」と答えてくれた。
 
それが私とブレイクニー氏が交わした会話だ。
 
当時私は、日本なりの歴史観を世界に広める事が良いと考えていたので、願ってもいない申し出ではあった。そういった申し出が他の方からあったら、願ってもいない好機と考え、喜んで出演させて頂いただろう。ところが私は、それ以後、彼に返信する事はなかった。
 
彼がホロコースト否定論者であったからだ。
 
ホロコーストを否定する人々は、欧米にも僅かながらいるが、彼らが知的な人々として一般に説得力を持つことは無い。ホロコースト否定者は『ディナイヤー』と呼ばれ、反ユダヤ主義者やネオナチ、陰謀論者と捉えられている。当然だろう。
 
ホロコースト否定論者が『デナイヤー(否定論者)』と呼ばれる理由は、正統的な歴史学方法論に基づいて、既成の歴史認識に挑戦する『歴史修正主義』と区別をつける為である。ホロコースト否定論には、「ナチス・ドイツの最終目的は、ドイツ国家からユダヤ人を移送することにあり、ユダヤ人に対する民族浄化は行なわれなかった」、「ナチスはユダヤ人を大量虐殺する為の絶滅収容所やガス室を持っていなかった」或いは「虐殺されたユダヤ人の数は、通説となっている500万から600万よりはるかに少ない50万から60万人であった」などの説が含まれている。
彼らは自分たちを「否定論者」ではなく「歴史修正主義者」だと主張するが、彼らの主張は自ら既に出した結論に基づいたもので、多くの物的証拠を無視している。
 
殆どのホロコースト否定論者は、「ホロコーストは、ユダヤ人によって陰謀された、他者を陥れる事によってユダヤ人の利益の躍進を図る誇張やある」と示唆したり、公言する。この為に、ホロコースト否定論は、一般的に反ユダヤ主義の陰謀説として考えられており、国によっては違法となっている。
 
因みに、親しくさせて頂いているワルシャワ大学のポーランド人教授、アンジェイ・コズロウスキー博士の父方の親戚は、父親、叔父、大叔母を除いて、全てナチスの犠牲となっている。
 
「ナチスが私の父の生まれた町にやって来た時に、彼らは全てのユダヤ人を集め、銃殺をしました。私の祖父母や、逃げ出した叔父、大叔母を除く、父方の親戚全員をです。私の叔父は少年でしたが、ドイツ兵が彼に「ナチス親衛隊がここにやって来る。奴らはあんたたち全員を殺すだろう。逃げなさい」と教えてくれたそうです。叔父はすぐに姿を隠し、それから逃げてワルシャワに辿りつきました。こういった話は、数え切らない程あります。」
 
戦時中ドイツは上海からユダヤ人追放を望んだが、ユダヤ人の虐殺を公けに認めていた訳では無い。ユダヤ人への民族浄化の情報が初めて西側に知らされたのは、ポーランド人、ヤン・カルスキによる。彼はルーズベルトに会い、ユダヤ人虐殺が行なわれている事を知らせた。こうした事実を、自らアウシュヴィッツに赴いて調べたのが、ポーランド人のヴィトールト・ピレツキーである。彼は戦後、共産主義者によって暗殺されたが、アウシュヴィッツの目撃証人として最も重要な人物の一人だ。彼が詳細に記した138頁にも及ぶアウシュヴィッツのレポートは、ポーランド語から多言語に訳されているが、日本語には訳されておらず、日本語のウィキペディアにも彼について記していない。

 

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  ヴィトールト・ピレツキー。下記のリンクは、彼が詳細にまとめたアウシュヴィッツのレポートである。

 
因みにナチスは、オーストリアを併合した後の1933年、国内の共産主義者、社会主義者、ロマ人(ジプシー)、同性愛者やエホバの証人などを強制的に収容する施設を作っている。これはこれらの人々を反社会的集団だと判断した為であるが、この収容所は「絶滅収容所」ではない。また収容所には二種類あり、強制労働の為の強制収容所と、処刑の為の絶滅収容所がある。アウシュヴィッツには強制労働の為の収容所があったが、アウシュヴィッツ近くのブジェジンカには「絶滅収容所」であった。多くのユダヤ人が送られたガス室は、アウシュヴィッツには無く、アウシュヴィッツ第二収容所と呼ばれる「ブジェジンカ(ビルケナウ)収容所」にしかなかった。
 
ごく一般の常識的認識として、ホロコーストというユダヤ人への民族浄化を20世紀最大の人道に反する犯罪である。これに対する『否定論』は、反ユダヤ主義という人種差別に基づいた、議論し合う必要のない陰謀論である。この陰謀説論者との議論は、フランスの著名な歴史家であるピエール・ヴィダル・ケナが述べるように「月がロックフォール・チーズで出来ていると断定する研究者がいるとして、一人の天体物理学者がその研究者と対話する光景が想像できるだろうか。ホロコースト否定論者たちが位置しているのは、このようなレべルなのだ」と述べた通りだと思う。議論するだけ、彼らの陰謀に正当的な関心を払うという報酬を与えることになる。
 
勿論、虐殺の原因、経緯、及びおおよその犠牲者数には研究者の間で議論があり、それらの学術研究は法的に禁止されていないが、ロコーストにより数百万人規模の計画的な殺戮が行われたこと、ホロコーストが中央で計画されたこと、およびホロコーストの実行におけるナチ指導部の役割のあったことは、膨大な物証、証言および文献によって、既に裏付けられている。このため、欧米では公共空間におけるホロコーストへの否認は、歴史の真実への研究ではなく、政治的な意図を持った煽動として扱われている。
 
ホロコースト否定論者と、南京虐殺否定論者との共通点は、驚くほど多い。ホロコースト否定論者は「真理の研究」を口にするが、その裏には「ユダヤ人による歴史の捏造に対する非難」と連合国側によって貶められた「ナチスの名誉回復」という主張がある。ホロコースト否定論者は、自分たちの主張が受け入れられない理由を、歴史が戦勝国側によって作られる証拠としている。しかし実際には、否定論者は歴史学の検証姿勢を持っておらず、膨大な資料に対する反論が、政治的な目的無しにはできないからである。
 
中東研究家の滝川義人氏は、『否定論者の行動パターンを、あらかじめ決めていた結論に一部分の事実をはめ込み、逆にその結論と矛盾する事実はすべて無視し」「小さな誤認や食い違いを、歴史をひっくり返す大発見とはやし」「当時は不可能だった対応がなかったのはそれがなかった証拠とし」「相手には厳密な証明を求めるのに、自分の意見には因果関係を証明せず、ハーフトゥルーズの世界をつくりあげる」と指摘している。
滝川氏の指摘は、歴史家の秦郁彦氏が陰謀説論者について記しているのと同じ指摘である。
 

ホロコースト否定論者の論法について、『例えば、エルンスト・ツンデルなどの否認論者は、フレッド・ロイヒターがアウシュヴィッツのガス室跡地を調査したが、シアン化物の痕跡は見つからなかったとする「ロイヒター・レポート」を、「強制収容所にガス室は無かった」と主張する上で重視している。しかしロイヒターは化学の専門家でもなく、文献資料も無視しているため、ツンデル裁判においては証拠としての価値を認められなかった。一方で1994年にクラクフ医科大学のヤン・マルキェヴィチのチームが行なった調査では、ガス室の跡地からシアン化物が発見されたという報告があるが、否認論者がこの調査を重視することはない。また否認論者が行う主張においては、『アンネの日記』などの「定説派」の文献のみならず、ポール・ラッシニエといった「否認論の先駆」である著書の文脈無視、改竄などをおこなっていることも指摘されている』とある。

 

これは、南京の虐殺を否定する為の日本側の行なう論法と酷似している。むしろ南京虐殺への否定派が、ホロコースト否定論者の方便から学んだのではないかとさえ疑わせる。

 

正直に言えば、私は以前、南京での虐殺が起こらなかったと考えていた。これは私自身がナショナリスト的な歴史観に染まっていたからであるが、しかしながら、ホロコーストについては否定しない理性が残っていた。それは、ホロコーストに対してナチス・ドイツを庇い立てする義理や政治目的が無かったからである。南京について意見を変えたのは、「日本の名誉を復活させる」といった政治的な目票を捨て、客観的と言われる歴史家の調査結果を学んでからだ。

 

私がナショナリストやその歴史観、政治発言を批判するのは、その心情は理解しつつも、議論としての論理に無理があり、既に意見を共有している仲間内での議論はともかく、他者に対する説得力に欠けるからだ。説得力に欠けるだけでなく、これらの論理や論法は、ホロコースト否定論者の知性と動機に疑いが抱かせるように、現在の日本人の知性と動機を著しく疑わせている。

 

ホロコーストは、ユダヤ人への人種差別を基とした、20世紀最大の人道に対する犯罪の一つだ。ホロコースト否定は、多くの証拠に逆らう、人種差別や陰謀論に根差した政治運動である。

 

一部保守派の間では、ホロコーストと日系人への強制収容を同一に論じられているらしい。私は、韓国人の団体が元慰安婦たちをホロコースト生存者と同一に論じた時に感じた違和感を、日系人収容とユダヤ人への民族浄化とを並べて論じる論法に感じる。

 

私たちは、政治目的の為に歴史事実を歪曲するべきではない。自らの主張の為に、数多の物的証拠を無視してホロコースト等の人道に対する罪を矮小するべきではない。500万から600万人の市民に対する民族浄化を軽んじるほど、理性を無くしてはならない。

 

これらの歴史的事実を、その膨大な証拠と共に無視し、改竄しようとすれば、問われるのは知性と動機である。

 

 

 

アレッポに聞く、ロシアは約束を守るか

プーチン大統領の訪日を機に、ロシアが果たして信頼に値するか、交渉での取り決めを守るかの議論がなされているようだ。今日も北方領土問題が解決しないのは、アメリカの責任であるという声も何故かある。

「ロシア国民の多くが北方領土返還に反対している中、日本に領土を返還する為には、プーチンのような強権な指導者が必要だ」という意見すらあるが、プーチンはその強大な権力を行使して、自国民の人権や他国との約束を守ってきたのだろうか。

視点を変えて、数日前に陥落したシリア・アレッポでの戦闘を考えたい。

2015年9月、ロシアはISIS掃討作戦としながら、シリアの空爆を開始した。当初から、欧米とイスラエルのメディアは、ロシア空軍のターゲットが西側の支援する反アサド派グループや一般市民であり、ISISではない事を報道していた。ロシア戦闘機が空爆を行なっている地域は、ISISが支配している地域ではなかったからだ。

Russia launches first airstrikes in Syria - CNNPolitics.com

2011年に中東で広がった民主化を求める大規模なデモ『アラブの春』に参加した一般市民に対する攻撃で、少なくとも147人が犠牲となった。アメリカ国務省とFBIは、シリアから持ち出された2万7千枚の写真の分析で、アサド政権に拘束されていたヨーロッパ国籍の10人を含む約1万1千人の市民に対する拷問や殺害が行なわれていたと判定し、アサド大統領を人道に対する犯罪人に定め、辞任を要求していた。

U.S. Says Europeans Tortured by Assad's Death Machine - Bloomberg View

2013年には反政府派を含む自国民に対して、サリンと思われる化学兵器で大量殺害している。この時の犠牲者数はまちまちだが、281人から1,729人が犠牲となったとされている。『超えてはいけないレッドライン』を設け、「アサド政権が自国民に対して化学兵器を使用する場合には、アメリカは軍事行動に出る」と約束していたにもかかわらず、オバマ政権はアメリカの軍事介入を議会にかけ、議会の反対により、アメリカの介入が見送られた。この時に仲介を名乗り出たのがロシアのプーチン大統領である。

ロシア政府監視の下、シリアによる大量破壊兵器(化学兵器)の武装解除が行なわれる筈だったが、その後2014年4月には、塩素ガスによる攻撃が、カフル・ジタなどの反体制派の支配する地域に対して使用され少なくとも200名の犠牲者を出している。国連特別委員会は2015年3月に、アサド政権に対して、塩素ガス爆弾の使用が再び行われた場合は、厳しい対抗処置がとられると警告した。2015年5月、ロイターの報道によれば、国連に対して報告されていないサリンやVXガスの製造跡が発見されている。8月には国連安全保障理事会は、決議2235号を採択し、いくつかの化学兵器を使用した攻撃の所在を調査する捜査委員会が設けられることになる。

その翌月、ロシアはシリアの反体制派の支配地域を空爆し始める。2016年10月には、ロシアは対空ミサイルシステムをシリアに配置する。勿論ISIS制圧を口実にするが、ISISに飛行機は無く、これは反アサド派を軍事支援しようとした西側に対する牽制であった。

Timeline of Syrian Chemical Weapons Activity, 2012-2016 | Arms Control Association

Russia deploys advanced anti-missile system to Syria for first time, US officials say | Fox News

ロシアによるアサド政権への軍事支援によって、人道に対する罪を犯したままのバシャール・アル・アサドは、未だ政権についている。それだけではなく、西側は同盟相手となり得た穏健派スンニ・イスラム教徒の反政権派の自由連合を失なってしまった。これから、穏健派スンニ・イスラム教徒が、アサド政権に対しての抵抗を続ける場合、彼らの行き着く先は恐らく過激派スンニ・イスラム教徒のISISしかないだろうと言われている。

西側には、自国民のうちにクルド人の独立問題を抱えるトルコに対する配慮から、クルド武装グループを支援したくないジレンマがある。

更に複雑化したシリアの問題を、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の抜粋からも考えて見る。

Assad’s Choice: Fight Rebels but Give Way to ISIS - WSJ

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ここ数日で、シリア政府側とロシア、イランの同盟軍は大きな勝利を得、また極めて惨めな敗北となった。アレッポとパルミラという極めて重要な二つの戦闘の全く違う結果は、アサド政権とロシア、イラン同盟の優先順位を展示しているのだ。彼らの優先順位は、ISISと言った過激スンニ派との戦闘ではなく、穏健派スンニ・イスラム教徒の反政府派との戦闘である。

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実際、シリア政府軍が半年に渡って包囲し、徹底的な掃討作戦の後にその殆どを奪還したアレッポに、ISISはいない。同時にシリア政府軍は、殆ど戦うことなく、パルミラの歴史的地をISISに譲り渡している。

パルミラのあっけない敗北は、この内戦のもう一つの側面を示している。シリアのバシャール・アル・アサド大統領と彼の同盟相手の不安定さだ。5年以上も続いている戦争で、彼らの経済は限界を超えている。パルミラの敗北が示したように、政権側は自分たちの勝利を保持する事が出来ず、彼らの勝利も一晩で覆されるかもしれないのだ。

これらが意味する事は、木曜には最後の砦から市民や反政府軍が撤退しているアレッポの勝利を政権側が祝っていても、アサド大統領がシリア全土を掌中に納める事は不可能に近い。全国民の半数が非難を余儀なくされ、40万人以上が犠牲となった後でも、政府軍の完全勝利は、以前と同じように不可能なままである。

「これで内戦が終結したわけではない。アサドは勝利者ではない。彼は何らかの妥協をする必要がある」アラブ連合の事務総長であるアハムド・アバウル・ゲイト元エジプト外相が「アブ・ダビ」のインタビューで語った。

「いくつかの軍作戦に勝つことは出来る。戦車に対して戦車、大砲に対して大砲、というように。しかし政権側が反対派と交渉を行ない、適切な和解をしなければ、ゲリラ戦はシリア全土に広がるだろう。これが止むことは絶対に無い。正常な人物ならば、アサドが権力から退く事以外に道はないと気付く筈だ。」

全てのシリア反政府派はこの意見に同意している。シリア東部でクルド武装集団と共にISIS相手に戦っている、最も穏健派の反体制組織『タヤール・アル・ガド』の首脳であるモンゼル・アクビックは語る。「アサドは今勝利している。だが、どうやって彼が再び国を治めるのだ。彼に対する反乱は収まる事は絶対にない。」

シリア内戦についての議論でドナルド・トランプ次期大統領は、ワシントンはロシアとアサド政権をISISに対する共通の戦いの同盟相手として受け入れるべきだと示唆した。しかしながらアサド政権もロシアも過激派に対しての戦闘を行なっている形跡はない。彼らによる唯一の過激派に対する攻撃は、3月に、過激派が10か月間支配したパルミラを奪還した際の戦闘だけだ。

 

(中略)

今の間は、世界の目はアレッポによって行なわれた政府軍の非道に釘付けとなるだろうが、髭を生やし、覆面をつけたISIS兵士の突然の再出現を目にした時に、アサドの方がより良い悪として映るのだろう。湾岸協議会の政治問題副委員長のアブデラジズ・アルウェシェグは言う。「ダエーシュ(ISIS)は、シリア政府にとっては常に都合の良い恩恵でした。アサド政府はISISを使って、専制君主的なファシスト政府に対する戦いから、テロリストへの戦いに内容を変えてきたのです。」

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アサド政権は、西側の支援する自由連合を制圧し、むしろISISの台頭を許した。そのアサド政権の同盟相手であるロシアにとっての最大の敵は、ISISではなく西側である。

ISISに対する戦いの為に、西側がアレッポを忘れアサド政権と組む事になれば、シリアに人権は残らず、西側は自らの首をロシアに対して差し出す事となる。

くり返して書く。

プーチン大統領の訪日を機に、ロシアが果たして信頼に値するか、交渉での取り決めを守るかの議論がなされているようだ。ロシア国民の多くが北方領土返還に反対している中、日本に領土を返還する為には、プーチンのような強権な指導者が必要だという意見すらあるが、プーチンはその強大な権力を行使して、自国民の人権や他国との約束を守ってきたのだろうか。

更に絶望的な質問をしよう。軍事介入を約束したアメリカは、いざとなれば、いつでも自国軍を派遣してくれるだろうか。

アレッポの人々に聞いてみたら良い。

www.facebook.com

ヒラリーよりもプーチンへの好感度を増す共和党支持者---WSJ

ウクライナ不法占拠から始まって、シリアへのロシア軍派遣、アメリカ大統領選挙に影響を与える事を目的とした、民主党と共和党への大胆なハッキング、シリア・アレッポにおける連日連夜に渡った大規模な空爆による一般市民への虐殺などを考えれば、2012年、オバマ大統領に対して、ロシアをアメリカと世界秩序に対する最も大きな脅威だと訴えた、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の主張は正しかったと言える。

しかしながら、そのロムニー州知事を推していた共和党は、プーチン大統領に対する否定的感情を緩和させている。共和党員によるプーチンへの好感度は、2014年7月には‐66%(マイナス66%)にも上ったが、2016年12月には‐10%(マイナス10%)となっている。民主党員によるプーチンの好感度は2014年7月には‐54%(マイナス54%)だったが、2016年12月には‐62%(マイナス62%)だ。

同時に、共和党員によるオバマ大統領への好感度は‐64%(マイナス64%)、ヒラリー・クリントンに対しては‐77%(マイナス77%)である。驚くことに、自国の大統領や対立政党からの候補者に対する嫌悪感の方が、実際の敵国首脳に対するそれよりも強いらしい。

GOP voters warm to Russia, Putin, WikiLeaks, poll finds - The Washington Post

https://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/ro9rimrce9/econTabReport.pdf

こうした意見は、自らの支持政党の視点によって影響されていると考えられるが、このような共和党支持者によるプーチンへの親睦感情に対して、2013年にはピューリッツァー賞を受賞したウォール・ストリート・ジャーナル紙のブレット・スティーブンス副編集長(外交問題コラムスト)は警告をしている。彼の書かれた以下の記事は、論理に逆らってプーチンへの親近感を増す共和党支持者への皮肉を込めた厳しい批判である。

How I Learned to Love Putin - WSJ

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ヴラジミール・プーチンは、私の心配の種となっていた。しかし、もう心配はしていない。

1999年9月、ロシア3都市で起きたアパートメント連続爆破事件は、約300人の住民を殺害した。クレムリンはすぐにチェチェンの反政府勢力を批判し、第二のチェチェン戦争を開始した。

同月下旬、ロシアの秘密警察FSBのエージェントが、リャザン市のアパートメントの地下室に爆発物を設置した。当局はこれを訓練の一環と主張したが、この「爆発物」が、まさか砂糖の袋だった訳ではない。ロシア議会による独立捜査はらちが明かなかった。この事件に関わる調査書は75年封印される事となる。このアパートメント爆破事件によって、プーチンは権力に立った。

マクベスも恥じらい、リチャード3世も赤面するような自作自演の工作に、かつてはプーチンが権力に立つかもしれないと考えてゾッとしていたものだ。だが、心配はいらないようだ。シリアのテロリストを掃討する為には、プーチンが無くてはならないのだから。

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    トランプ氏とプーチン大統領の親密な関係を描くリトアニアの壁画

 

リャザン事件の捜査委員会メンバーには、自由主義政治家のセルゲイ・ユシェンコフと捜査ジャーナリストのオットー・ラツィス、ユーリ・シェコチーヒンがいた。ところが、ユシェンコフは2003年の4月に暗殺された。ラツィスは2005年9月、ジープが彼のプジョーに突っ込んできた後、死亡した。シェコチーヒンは2003年6月、突然重病となり、全ての髪の毛を失い、6日後、多臓器不全によって死亡した。

その翌年、ロシアに警戒するウクライナの反対勢力、ヴィクトル・ユチェンコは、大統領選に立候補しているキャンペーンの最中、突然不思議な病に倒れた。彼は何とか当選したが、ダイオキシン中毒とみられる後遺症で、彼の顔には酷い損傷が残った。2年後、元FSB(秘密警察)で、イギリスに亡命していたアレクサンダー・リトヴィネンコは、致死量のタリウムを摂取した。イギリスの司法は、彼の殺害はプーチンの個人的許可を得たFSBによる犯行だと結論付けた。

そんな事、大したことではない。ドナルド・トランプ次期大統領が去年、スカボロー・ジョーに語った発言によれば、「アメリカだってたくさんの人を殺している」のだから。

リトヴィネンコのケースは、FSBが裏切り者だと考えた男に対する報復の一環だ。その他のクレムリンの作戦の多くは、もっと広い範囲で、外国の政策を変えようとする為の目的がある。

2015年、ドイツの国内諜報機関はロシアがドイツ議会のemailアカウントをハッキングしたと結論付けた。ブルガリアの選挙委員会は、同年、ブルガリアが「我が国民主主義への攻撃」と呼ぶ、サイバー攻撃の対象となった。イギリスの諜報機関、M15のチーフ、アンドリュー・パーカーが先月ガーディアン誌に語った内容によれば、「ロシアは、連邦の全ての機関と権力を通して、プロパガンダ、スパイ、政権転覆、サイバー攻撃などを含む、日増しに攻撃的な方法で、自らの外交方針を海外に押し付けている。」

だが、なぜ彼の言う事を信じる必要があるのだろう。ロシアを非難する時には、西側の諜報機関が誤っていると考える方が楽ではないだろうか。ロシアの『さし始めの手』の全てが、暗い秘密の動機によるものではない。時には動機が強欲による場合もある。

2003年、プーチン政権はエネルギー企業のユコスの資産を凍結し、会長であったミハイル・ホドルコヴスキーを、シベリアにある強制労働所に約10年近く送った。2006年クレムリンは環境に関する口実を用いて、サハリンにおけるシェル石油の企業支配権を止め、2,2兆円に上るガスプロジェクトを、半国営企業で天然ガス独占企業であるガスプロムに与えてしまった。現在BPの会長であるボブ・ダドリーは、2008年、ロシア人パートナーとの合弁事業が急止されてから、ロシアより撤退している。報道によれば、命の危険を感じたらしい。それと同じ年、エクソン・モービルの会長であるレックス・ティラーソンは、サンペトロブルグで「今日のロシアには、法に対する尊重の念が無い」と警告するスピーチを行なっている。

私は、ロシア国内の不法を心配していたが、2013年にティラーソンが『友好勲章』をプーチンによって授けられたのだから、何も不都合はないのだろう。

ティラーソンは、交渉人としての評判が高い。その技術こそ、トランプが最も高いレベルの「アート・オブ・ザ・ディール(交渉の芸術)」を実現する為に、国務長官に求めている事らしい。その交渉とは、ロシアにとっては西側の経済制裁解除が関係するのかもしれない。ティラーソンも制裁解除を支持している。ウクライナの一部をロシア領と認める代わりに、NATO加盟国に対する侵略しないという約束を交わすのかもしれない。

ロシアは信頼に値するだろうか。2013年9月、プーチンはシリアを指して「外国の内戦への軍事介入は、効果も意味も無い事を証明するだけだ」と警告したが、2年後にはロシアがシリアに軍事介入をしている。2014年3月にはロシアの防衛大臣、セルゲイ・ショイグは、チャック・ヘイゲル米国務長官に「ロシアの軍事演習は東ウクライナの侵略に繋がらない」と確約したが、その年の暮れ、ロシア軍は国境を超えた。1987年ロシアは中距離核戦力全廃条約に署名をしたが、ロシアは条約を無視して巡航ミサイルを開発し、今年10月にはアメリカの非難を浴びている。

平気で嘘をつくロシアに不安を覚えていたが、今年の選挙を終え、政治的憤懣は過去のものとなってしまった。プーチンを心配したところでどうなるだろう。いっそのこと、彼を好きになった方が楽ではないか。

東アレッポの陥落

アサド大統領の下、シリア政府軍による反政府軍拠点『東アレッポ』への包囲戦は、アレッポの陥落と、今も続く市民への虐殺で終局を迎えたようだ。
以下はナショナル・レビュー誌の報道である。

Russia Wins Again -- Aleppo Falls | National Review

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ついに、シリア政府は東アレッポを陥落させたようだ。火曜日、ロシアのヴィタリー・チュルキン国連大使が国連安全保障理事会で発表した。国連の同時通訳は、チュルキン国連大使による「つい先ほど、我々は東アレッポにおける軍事作戦が終了した報告をうけた」という声明を訳している。
         
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ロシアとロシアの同盟国は、シリアの内戦に於いて欠かせない勝利を得たようだ。彼らは反政府軍をその拠点に於いて破り、シリアの人口密集地域を政府軍の支配下に固めたのだ。
 
これで、自国民を化学兵器を使用して虐殺したシリア大統領バシャール・アル・アサドを排除する事は、不可能に近くなった。ロシア、イラン、シリアの枢軸国は強大となり、彼らに反対する勢力は、有名なISISを含めるジハーディスト集団しかない。我々は、クルド人勢力が支配する北部を除き、シリア政府への代替え案が過激派ジハーディスト集団しかない現実に近づいたのだ。
 
まずこれは、人道に対する言い難い悲劇である。現在、シリア政府軍はアレッポ市民の銃殺に取り掛かったと報道されている。アレッポにおける無差別空爆作戦は、悪夢のようだ。フォックス・ニュースは市民の犠牲者と、その責任の所在を票にまとめたが、市民の犠牲の殆どはシリア政府とロシア軍の空爆による。

 

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ロシアは自らの意思をシリアに於いて示した。ロシアがまさか、キリスト教徒への擁護者であるかのように誤解をしている人々は、ロシアの同盟相手を知る事だ。ロシアの同盟相手は、民族浄化を行なうアラウィ派イスラム主義国であり、イスラム教テロへの世界最大のスポンサーであるイランである。オバマの外交政策が成功的であったとか、賢明であったと信じる人々は、中東の真ん中で大虐殺が横行している最中、同地域におけるアメリカのプレゼンスを撤廃させた外交であった事を肝に銘じるべきだ。これは成功ではない。これは、代価の高い、致命的な失敗である。
 
オバマ大統領の失政の後始末は、ドナルド・トランプ次期大統領に任されるだろう。
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デイビッド・フレンチ記者が書かれた通り、アレッポは陥落した。それでも政府軍による一般市民への虐殺が止まった訳ではない。「降伏するか、死ぬか」ではなく、「降伏して、死ね」であったのだ。

 

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             瓦礫の中を逃げる市民
 
多くの市民は空爆によって生きたまま焼かれ、その恐怖に堪え兼ねて降伏した市民は、バリケードを守る政府軍により、次々と銃殺されている。政府軍に捕まえられ、拷問される市民も多い。女性たちは強姦される事を恐れ、自殺を図っているという報告もある。何人かの年を取った男性が凍死している。親を亡くした子供たちが一つの建物に集まっているが、彼らを守る大人はいない。

Women in Aleppo Choose Suicide Over Rape, Rebels Report - The Daily Beast

 
これは、世界が見ている前で起きているのだ。
 
我々はホロコーストについて、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
コソヴォの虐殺についても、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
ルワンダで起きた民族浄化についても、「二度と繰り返してはならない」と誓った。
 
いつか、アレッポの虐殺についても、「二度と繰り返してはならない」と誓う日が来るだろう。