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アサド政権による自国民への化学兵器使用と『アメリカ・ファースト』

4月4日火曜日、シリアのアサド政権が、反政府派の拠点の一つとなっているイドリブ地方を化学兵器を用いた爆弾攻撃により、子供や、まだオシメを履いている赤ん坊を含む市民少なくとも70人を殺害した。

Chemical Attack in Syria Puts Focus on Trump Policy - WSJ

先週金曜日、レックス・ティラーソン国務長官がトルコを訪問した際、「アサド大統領の地位は、シリア国民の決めるところだ」と発言し、ニッキー・ヘイリー米国連大使もその後「アメリカの優先順位は、もはやアサド大統領を退陣させる事ではない」と発言している。ホワイト・ハウスのショーン・スパイサー報道官によれば、「シリア政策の優先順位をアサド大統領排除からISIS制圧に変更させた、現実的な方向転換」であったという。

Trump, Reshaping Syria Policy, Sets Aside Demand for Assad’s Ouster - WSJ

 

そうした米国トランプ政権のシリア政策の方向転換が発表された数日後の、アサド政権による自国民への化学兵器を用いた攻撃に、トランプ政権の態度は変化の兆しを見せた。
 
化学兵器攻撃のニュースが伝えられたスパイサー報道官は、「バシャール・アル・アサド政権による、このような極悪な行動は、前政権の弱さと不作為の結果である。オバマ大統領は2012年、化学兵器使用を『超えてはならないレッドライン』と呼びつつ、そのラインが超えられた時も何の行動も取らなかった。アメリカは世界中の同盟国と共に、この許されざる行為に対して非難をする」と発表し、ホワイト・ハウスもこれと同様の声明を発表した。
 
トランプ大統領にとって、一応はバラク・オバマ前政権を批判しておきたいのかもしれないが、2013年に、オバマ大統領に対し「シリア(アサド政権)に対し、攻撃をするべきではない。攻撃をしても我々は失なうものばかりで、得るものは無い」と何度も強調をしたのは、ドナルド・トランプその人である。
 
アサド政権による自国民に対する攻撃をもって、マルコ・ルビオ上院議員は「今回の攻撃は、何日か前のレックス・ティラーソン国務長官の発言と無関係だとは思えない」と発言している。これは、ティラーソン長官やホワイト・ハウスによるアサド大統領の退陣を求めない方針に反発を唱えたジョン・マケイン上院議員の意見と同様と言える。

Rubio: It's no coincidence that Syria gas attack happened after 'concerning' Tillerson comments - CNNPolitics.com

一日経ち、死亡した子供達や赤ん坊の映像、写真が大きく報道されるや、アメリカ政府の態度には明らかな方向転換が見られた。まずニッキー・ヘイリー国連大使が、国連安全保障理事会において、ロシア国連副大使を目の前に演説を行なった。

RFE/RL - U.S. Ambassador to the United Nations Nikki Haley...

https://www.nytimes.com/2017/04/05/world/middleeast/syria-chemical-attack-un.html

「昨日の朝、我々は子供たちが口から泡を噴いている写真を見ました。痙攣で苦しんでいる様子を見ました。必死になって命を救おうとする親の腕に抱えられ、病院に運ばれている様子を見ました。何人もの、生を失った遺体を見ています。まだ、オシメのはずれていない赤ん坊もいます。化学兵器爆弾による負傷を体に負った遺体もあります。これらの写真を見てください。我々は目を閉じて、この写真を見ないフリは出来ません。思考を止めて、責任をすることは出来ません。我々には、まだ全ての事が明らかになっている訳ではありません。しかしながら、明らかになっている多くの事があります。我々は昨日の攻撃が、アサド政権の化学兵器使用のパターンと同一である事を知っています。また何週間か前、この委員会は、アサド政権が自国民を化学兵器の毒で窒息死させた件の責任を求めようとした際、ロシアが反対し、決議を妨害した事を知っています。彼らは良心に背く選択をしました。ロシアは野蛮に対し目を閉じる選択をしました。彼らは世界の良心を汚したのです。ロシアがこの責任から逃れる事は出来ません。実際、もしロシアがその責任を果たしていたら(ロシアがアサド政権による化学兵器放棄を監督し、保証した事を指す)、アサド政権が自国民に対して使用できる化学兵器は残されていなかったでしょう。」
 
数時間か後、トランプ大統領も演説を行ない、シリアが幾つもの「超えてはならないレッドラインを超えた」と語り、「アサド大統領に対する私の考えは大きく変わった」と述べている。

Syria chemical attack has changed my view of Assad, says Trump | US news | The Guardian

 

トランプ大統領はこれまでも、オバマ前大統領の「弱い」外交政策を批判してきた。ところが、実質的な外交内容を考えれば、トランプ氏の掲げる外交政策、特にシリアの内戦、またISIS制圧を含む中東政策に関して言えば、オバマ大統領の政策と殆ど変わらない『一国主義』だった。
 
トランプは自らの政策を一国主義である事を否定し、『アメリカ・ファースト』という言葉で呼んでいるが、『アメリカ・ファースト』こそ、戦前、ナチス・ドイツの下、ヨーロッパにおいて、ユダヤ人に対する迫害が起きている事を承知で、ヨーロッパの戦争に関わる事を拒否した委員会の名称が『アメリカ・ファースト』である。これは決して「自国を第一にしつつ、しかも同盟国の安全保障にも責任を持つ」という考えではない。普遍的な人権の侵害にも気を配る使命を負うという『アメリカン・エクセプショナリズム』とは、真っ向から反対するイデオロギーである。

America First Committee - Wikipedia

 

『アメリカ・ファースト』が何を指すのか、端的に知る為には、昨日の化学ガス兵器で殺された子供達の写真を見れば良い。それが意味するものこそ『アメリカ・ファースト』なのだ。

 

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二人の子供、妻、弟、甥を亡くしたシリア人男性。この写真こそ、アメリカが関心を内政だけに向け、一国主義となる『アメリカ・ファースト』を語っている。

 

トランプは、決して保守派の原則『アメリカン・エクセプショナリズム』に立った人物ではない。自分たちこそ被害者であるというレトリックを強調し、他国の立場には目を瞑り、アメリカの利益のみを求める大統領だ。
 
それでも、化学兵器の犠牲となった子供たちの姿にかなりの心情的影響を受けたようで、「昨日の、子供達への攻撃は私にとって大きな影響を与えた」とし、「(アサド政権派)多くのラインを越えてしまった。無辜の子供たち、無辜の赤ん坊たち、小さな赤ん坊たちを殺傷能力のある化学ガスを使用して殺すならば、どんなガスが使われたか知れば、人々はショックを受ける、たくさんのラインを越えてしまった。レッドラインを超えて、多くのラインを越えてしまった」と語っている。
 
この発言はアサド大統領排除の為の軍事行動を指すのか聞かれ、トランプ大統領は「何をするか、あれこれ言うつもりは無い。特に軍事行動をするかしないか、そういった事は語るつもりはない」としている。
 
残念ながら、トランプ大統領の注意力や関心のスパンは短い。多くの子供たちの犠牲を前に、頭に浮かんだことを口にしただけかもしれない。しかしながら、オバマ前大統領の非に責任を押し付けたい気持ちが行き来するトランプ氏が認めた通り、トランプ氏には「今、責任がある」のだ。
 
今までトランプ大統領に反対を表明してきた共和党重鎮の一人であるリンゼイ・グラハム上院議員は、「これは、トランプ大統領がオバマ大統領ではない事を証明する機会だ」と決断を促している。トランプ氏が決断すれば、共和党が多数を占める議会は恐らく軍事作戦を承認し、トランプ大統領を支持するだろう。トランプ氏が『アメリカ・ファースト』という恐ろしい人権への無関心政策から歩き去るならば、今までトランプ氏に反対をしてきた保守派も、その決断においては支持をするだろう。
 
当然ながら、もしトランプ氏が決断をせず、アサド政権を放置するならば、アメリカやシリアにとって、また世界にとって、オバマ政権が犯した以上の災害的な誤りを犯し、共和党政権の強い姿勢も内容が伴わないという前例を設けることになる。
 
ヘイリー国連大使が語った通り、アサド政権やプーチン政権、またイランには、シリアの平和に対する関心はない。それを国際社会の場で宣言した後に彼らの言葉を信用するという愚を犯してはならない。