『アメリカ・ファースト(第一)』とは何なのか

私は、トランプ大統領の主張する「アメリカ・ファースト」というスローガンに対して、なぜ日本人が嫌悪感を持たないのかが理解できない。このスローガンに対しては、保守派の政治評論家ビル・クリストル氏も「米国大統領がアメリカ・ファーストを連呼しているのは、非常に恥かしい。このスローガンの歴史を知らないのだろうか」と述べているが、全くその通り、この主張は「アメリカさえよければよい」という意味で使われてきた。このスローガンには、外国人への配慮は欠片も無かったのだ。

「アメリカ・ファースト」は、真珠湾攻撃の数日後真であった委員会の名称で、1940年9月4日から1941年12月10日まで続いた、「世界で何が起きていても、とにかくアメリカは巻き込まれたくない」という一国主義を掲げる政治圧力団体である。

当時のアメリカは、ナチスドイツによってヨーロッパで起きているユダヤ人虐殺を無視しようとしていた。ユダヤ人が大量虐殺され、民族浄化されても、外国の戦争に巻き込まれたくないと考えていたのだ。当時のアメリカ人には、ユダヤ人の悲劇は我慢できたのようだ。であるからこのスローガンは、ドイツにもう一つの家庭を隠し持ち、ドイツとの戦争を避ける事を主張していたチャールズ・リンドバーグに代表される通り、多くの反ユダヤ主義者によって叫ばれていた。

現在のアメリカが、これを繰り返す大統領を恥ずかしく感じるのには理由があるのだ。

この政治圧力団体が解散した理由は、真珠湾攻撃と日本の宣戦布告によって、開戦が決定されたからだ。

勿論どの国でも、最優先されるべきは国民の安全である。それを否定するつもりは無い。しかしながら、アメリカ・ファーストは「アメリカを一番にして、二番目には同盟国、近隣国」という意味では使われなかった。あくまでもアメリカ・ファーストであり、またアメリカ・オンリーであり、セカンドやサードは無かったのである。
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このスローガンは、戦後も「アメリカさえ無事ならば、アメリカさえ良ければ、他で何が起こっていても構わない」という意味で使われ続けた。それは、アメリカで有名なスース博士の挿絵にある通りである。

この挿絵は「アメリカ・ファースト」と書かれたセーターを着た母親が、子供たちにヒトラーを思わせるオオカミの本を読んで聞かせている。

「そしてオオカミは、子供たちを嚙みつくして彼らの骨を口から飛ばしました。でも、この子供たちは外国の子供たちなので、別にどうでも良かったのです。」

アメリカ・ファーストとは、「アメリカさえ良ければ、外国人の悲劇は気にならない」という意味でしかない。そして日本やメキシコは、例え経済が崩壊し、政権が転覆し、軍事侵略をされても「アメリカさえ良ければ気にならない」という宣言なのだ。

トランプ大統領のくり返すこの宣言にシンパシーを感じ、理解を示すトランプ支持の人々は、このスローガンの持つ残酷な歴史や意味を知らないのだろう。