読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

シリアの化学兵器はどこから来たのか

シリアのアサド政権が自国民に対して化学兵器を用いて虐殺を行なったことは、世界が認めている。これらの化学兵器は恐らく、イラク戦争が起こる前に、フセイン政権によりシリアに運ばれたものだ。

Inside the Ring: Syria, Iraq and weapons of mass destruction - Washington Times

2014年の秋、ニューヨーク・タイムズは「The Secret Casualties of Iraq’s Abandoned Chemical Weapons」とするイラクに遺棄された大量の化学兵器処理の為に、米軍関係者に多くの被害者が出ている事を報道した。これにより、イラク戦争のキッカケとなった大量破壊兵器の存在が再確認されるべきだったが、既に米国内には「イラクに大量破壊兵器は無かった」「イラク戦争は失敗だった」という見解が定着しており、オバマ大統領はイラク戦争を終わらせる事を自身功績として数えてあり、イラクやシリアにおける過激イスラム教テロ組織の台頭と共に、「実はイラク、シリアには未だ大量の化学兵器が遺棄されている」などと宣言すれば、これらの兵器が過激派の手に渡る危険が増す。

https://www.nytimes.com/interactive/2014/10/14/world/middleeast/us-casualties-of-iraq-chemical-weapons.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&version=Banner&module=span-ab-top-region&region=top-news&WT.nav=top-news&utm_source=huffingtonpost.com&utm_medium=referral&utm_campaign=pubexchange_article&_r=0

そもそもヒラリー・クリントン元国務長官の経歴の汚点となった『ベンガジ事件』は、イラク撤退の正当性を訴える為、イスラム教過激派組織の台頭等の脅威を軽視し、現地の情勢不安定を示唆する米大使館セキュリティー補充への要求を退け、「アルカイダは敗走している」と宣言した最中に起こっている。

New report claims al-Qaeda-Benghazi link known day after attack

イラクやシリアでの大量破壊兵器遺棄の事実も論じられないのも、イラク撤退の正当性を訴える延長線上にあるからだ。

f:id:HKennedy:20170425162958j:plain

こうしたオバマ大統領の政治判断の是非は、勿論歴史が下すだろう。しかしながら、政権が民主党政権から共和党政権へと移行した後にも、トランプ大統領は『大量破壊兵器は無かった』という主張を繰り返している。トランプという人物は、自身の便宜の為にはどんな嘘や、矛盾する主張、はたまた陰謀説までも繰り返す事で有名である。であるからトランプ氏の発言をもって真実を知ろうとする人は、アメリカには殆どいない。しかしながら、彼がアメリカの大統領という立場から『大量破壊兵器は無かった」などと主張する時に、それがこれからの軍事政策や外交政策にもたらす影響は計り知れない。

トランプ氏が自身の都合の良いようにNATOを厄介者と繰り返したかと思うと、NATOを厄介者と呼んだのはNATOについて知らなかったからだと述べている。中国が通貨操作を行なっているとも繰り返していたが、習近平主席との直接会談の後には「中国は通貨操作を行なっていない」と180度の方向転換を行なった。それでも自分が間違っている事を認めたことは無い。イラク戦争に於けるブッシュ大統領やCIA機関等の情報が全て正しかったとは言わない。しかしながら、イラクからの撤退を優先させる為に実際にある脅威を無視し続けたオバマ政権の非は更に大きい。また、2014年の報道以降も『大量破壊兵器は無かった」と繰り返すトランプ大統領の厚顔無恥は、オバマ大統領を更に上回る。

Transcript of AP interview with Trump

 
イラクから、またシリアの至る所でサダム・フセイン政権から運ばれ、隠されたと見られる大量の化学兵器が見つかっている点は、疑いようのない事実である。これはオバマ政権の諜報機関ですら認めていた事実である。こうした事実すら認められない人々と、事実に関する議論をするつもりは無い。しかしながら、これからの米国の軍事戦略を考える為にも、イラクにおける大量破壊兵器の存在を認めた上で、イラク戦争の是非を考え直す事は必要だと思われる。

Are Syria's Chemical Weapons Iraq's Missing WMD? Obama's Director of Intelligence Thought So. | The Weekly Standard

『愛国者』らは、北朝鮮軍事危機を直視せよ

何人かの方々から北朝鮮の齎す脅威についてのご質問を受けた。諜報活動の専門家に言わせれば、残念なことにアメリカには北朝鮮に対する諜報網は無く、核戦争に至らなくても、韓国と日本は共に通常兵器での戦火による被害を被る距離にある。

Why North Korea Is a Black Hole for U.S. Intelligence | Observer

 
正直に言えば、国民の間に国防の意識が強い韓国よりも、日本の方が危機に直面していると指摘する声がある。北が南を攻撃すれば、韓国は必ず軍事報復を行なうし、反北ナショナリズムが高まる事は避けられない。韓国の核化を反対する声も殆ど無いだろう。しかしながら、日本のうちには未だ核に対するアレルギーが圧倒的であり、自らが武器を持って国防にあたるという意識がすこぶる低い。日本国憲法上の足枷を考えても、北に対する軍事報復は限られていると見る方が現実的だろう。北がいずれかの国を先制攻撃するならば、世界第9位の軍事力と15万人の在韓米軍を抱える韓国よりも、世界11位の軍事力と5万人の在日米軍を抱える日本の方が攻撃しやすい事は常識の範疇だ。

 

f:id:HKennedy:20170425105144j:plain

 
いずれにせよ、実際に米軍が先制攻撃するにしても、核兵器を抱え、韓国と日本が人質に取られているような状況を考えれば、「中東の方が散歩のように容易である」と軍事問題専門家が嘆くのも理解できる。

The Real North Korean Missile Crisis is Coming | World Affairs Journal

 
北朝鮮が世界で最も厳しい経済制裁を既に受けている点を考慮しても、通常の報復処置は既に行なわれており、世界第二の軍事力と経済力を誇る中国とロシアの出方も予測がつかない。中ロとも、米国のカール・ヴィンソン母艦に対抗する形で戦艦を北朝鮮近海に運航させているが、特にロシアは、中国ですら賛成した国連による北朝鮮非難声明を阻止する拒否権を数日前に発揮している。万が一、米国が幾つもの妥協の末、中国からの協力や連携にこぎつけたとしても、プーチン・ロシアは、自らの存在感を誇示する為に敢えて軍事介入するかもしれない。
それでも、だからと言って25日に何かの軍事行動がいずれかの国によって起こされるとか、Xデーは何時いつか等のパニックに陥る必要も無いと思う。金正恩は予測不可能な狂人ではない。彼の望みは全て金王朝存続であり、自らの権力維持であり、核兵器開発にしても、その為の手段でしかないのだ。万が一北が先制攻撃をすれば、彼の王朝は必ず倒されるだろう。現在北がそうした危険を冒してまで先制攻撃を加えるとは考えにくい。
 
しかしながら、日本が歴史問題を理由とした安易な反韓ナショナリズムにうつつを抜かす余裕は全くない。日本は米国を軸とした韓国との軍事協力関係を結ぶ必要があるし、戦前の日本を彷彿させるような紛らわしい国内政治をもって韓国内の反日ナショナリズムを高めたり、懸念を強める愚かさからは脱却する必要がある。
 
日本が信頼される為には、戦前の日本の言動の正当性を強調する事には無く、現在の日本と戦前の日本のシステムや哲学が異なっている点を強調する方が遥かに正しいやり方なのだ。ナショナリストらの『戦前の日本は素晴らしかった』史観では、実際の軍事脅威を前にしても、日本の安全保障は守れない。この期に及んで未だ『嫌韓』ナショナリズムや慰安婦像に目くじらを立てるナショナリストらの主張は、日本の国益にとって百害あって一利なしである。
 
日本の安全保障は、どんな名誉意識よりも優先されなければならない。ナショナリストらの中には歴史問題ゆえに反米主義に凝り固まった人々すらいる。そういう人々に限ってトランプ支持者であったりするが、トランプ大統領の関心は、シリアやアフガニスタン、北朝鮮問題には無く、昨日は「メキシコとの国境の壁」に、今日は「カナダとの貿易不均衡」に移ってしまっている。注意欠陥多動性障害を抱えたトランプという大統領には、複雑な国際問題をじっくり腰を据えて長期的戦略練る能力が欠けているのだ。
 
勿論トランプは、思い出したように北への挑発的言動を繰り返すだろう。それでも彼に長期的政策を熟考する能力に欠け、現在のホワイトハウスは、ニューヨークの不動産業者とワンピースやハイヒールのデザイナーである娘夫婦ら、素人集団によって牛耳られている点は忘れるべきではない。マティス国防相の発言ではないが、アメリカは日本が自らの子供たちの安全を心配する以上に、日本の子供たちの安全を心配する事は出来ないのだ。
 
日本が必要としているのは、左翼の自虐史観でも、反韓日本至上主義でもなく、安全保障と経済発展を重視する「穏健中道の現実主義」である。例えここ何日かの危機を脱却したとしても、北朝鮮からの脅威がこれから更に高まっていくことに間違いはない。世界で起こる殆どの戦争や紛争は、意図した計画に基づいてではなく、判断の誤りや勃発的出来事によって引き起こされるのが常である。北朝鮮問題の『勃発』が後日に延ばされれば延ばされる程、大きな災害となる事も明らかだ。政府には同じ脅威に直面している韓国との間の軍事協力関係を結ぶ必要があるし、国民にはそうした現実的政治判断を支持する必要がある。

対北朝鮮カール・ヴィンソン母艦派遣騒動---盟国を困惑させるトランプ政権外交軍事政策

トランプ政権の外交軍事戦略は、シリア空爆後、再び危険な迷走をし始めたと言える。

 

シリア空爆の際には、米国務省や議会に空爆の旨を通知するよりも前に、アサド政権と同盟を組むロシア政府にそれを通告し、ロシア政府は当然の事、それをシリア政府に伝えている。通告から実際の攻撃までの1時間半の間、アサド政権は主要な軍用機を避難させ、殆ど被害を被っていない。翌日には、爆撃を受けた基地の滑走路から再び自国民を空爆する為の軍機が離陸された。
これらの事から考えても、ロシアやシリア・アサド政権に対し、本格的軍事対決する意思の全く無い事を示している。

まずアフガニスタン空爆は、ISISの資金源となる原油トンネルの一部破壊と36人のISIS戦闘員が殺害されたという点では、成功を収めたと考えられる。しかしながら、トランプ大統領がその挑発的な豪言壮語やいくつかの空爆によって、アフガニスタンにおけるISISやタリバンを制圧できる筈はない。例え2万千ポンド(約9,52トン)の爆弾が落とされたとしても、大規模の地上軍を長期的に置く事なしに、治安の回復や過激派の活動を止める事は不可能である。空爆に全く意味が無いとは言わないが、『米国が何かを行なっている』というジェスチャー以上の意味を齎さなかった点は、これまでに何度も指摘されている。むしろアフガニスタンへの空爆は、トランプ政権は、これまでのオバマ政権とは違うというジェスチャーを示す目的があったようだが、実質的な戦略の面で見れば、アフガニスタンにおける軍事作戦の行き詰まりを露見させただけだ。
シリア空爆やアフガニスタン空爆にせよ、これらの軍事行動が正しかったとしても、こうした強硬姿勢を補助する外交戦略が伺えない限り、地域の平和や同盟国の安全保障への貢献とは決してならない
 
アフガニスタン攻撃後のトランプ政権の外交軍事行動は、一貫した方針に従っているとは到底思われない。まずトランプ氏は、「最も美しいチョコレートケーキを食べながら」シリア空爆について中国の習近平主席に説明をしたとフォックス・テレビのインタビューで答えていたが、習主席については非常に良い好感を感じたようで、「我々の相性はとても素晴らしい」と絶賛し、選挙戦以来一貫して中国を通貨操作しているとする批判を一変させ、「中国は通貨操作をしていない」と180度立場を変換させた。
 
一変して「中国は通貨操作をしていない」という主張に変えた事に関して、トランプ氏は「北朝鮮問題で中国の協力が必要な時に、通貨操作をしていると言う事が益になる筈がない」と説明しているが、中国のみならず、ある国が通貨操作をしているかどうかは、協力を必要とする状況によって変わる主観ではなく、客観的事実が問われているのである。しかも蛇足ながら、中国は会談前と会談直後に貨幣政策を変えたわけではない。今日中国が通貨操作を行なっていないならば、中国は半年前も、あるいは一年前も通貨操作を行なっていないのだ。習主席との会談後のトランプ氏が主張した通り、中国からの協力を得る為に批判を控える事が重要な点は、トランプ氏が選挙公約として中国との対決を訴えていた半年前も、あるいは10年前も全く同様である。
 
トランプ氏はまた、北朝鮮のミサイル発射、また核開発問題における協力を習主席に求めたが、首席から中国と北朝鮮の関係の歴史と、北朝鮮との関わりの困難を説明され「人々が考えているよりもずっと複雑である事が、15分のうちに理解できた」と妙な理解を示している。そうかと言えば、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に対し、中国と朝鮮半島の複雑な歴史に言及する形で「かつて朝鮮半島は中国の一部であった」と誤った歴史観を述べ、多くのメディアにその誤った認識を批判され、韓国には「まともに反論する価値が無い」と一蹴されている。
 
トランプ氏は予測不可能な外交をなぜか良いものだと勘違いしているのか、ロシアやトルコの専制独裁者を称え続ける傍ら、アメリカにとって最も重要な同盟相手であるNATO(北大西洋条約機構)を指して「廃れている」と批判しているが、トランプ氏によって何度も繰り返されている、NATO加盟国がアメリカに対し負債を負っているかのような批判は、100%トランプ氏の無知によるものだ。NATO加盟国の軍事費2%の負担目標は、それぞれの加盟国が自国のGDPの2%を防衛費に使うという指針であり、ヨーロッパのどこかに中央銀行があり、NATO加盟国がアメリカに対して防衛費を振り込む意味ではない。であるから、特にロシアとの国境を接しない西ヨーロッパの国々がGDP2%を現在軍事費に充てていない事実があっても、アメリカに借金を負っている意味とは全く異なる。
 
予測不可能である事が最良であるかのような勘違いによる外交軍事上の信用失墜は、カール・ヴィンソン海軍航空母艦を北朝鮮に向けて航海させたという偽情報を流した事件に顕著に表れた。
 
4月9日、米太平洋艦隊はハリー・ハリス長官の指揮の下、カール・ヴィンソン母艦を8日、シンガポールから北に向けて出航させたと発表する。米太平洋艦隊のデイブ・べナム報道官は、ヴィンソン母艦の行動は「無責任で地域の不安定材料となっているミサイル発射実験や核兵器開発による北朝鮮の動向」が背景にあると説明している。

          f:id:HKennedy:20170423162152j:plain

4月10日、北朝鮮に向けてカール・ヴィンソンが運航されたという理解の上での記者団の質問に対し、ジェームズ・マティス国防長官はこれを否定せず、「現地に向って運航している最中」であると答え、ショーン・スパイサー大統領府報道官、又ホワイトハウス高官も4月11日、12日両日、この質問に答えている。トランプ大統領も11日、フォックス・ニュースのマリア・バーティロモのインタビューに答える際、「我々は最強の艦隊を(北朝鮮に向けて)派遣させている」と発言している。その後も12日、13日と、ホワイトハウス側は北朝鮮のミサイル発射実験や核開発によって高まる緊張に呼応する形でカール・ヴィンソン母艦派遣を示唆し続けたが、15日になり、米海軍の発表した写真により、ヴィンソン母艦の位置がシンガポールから南下している事が確認されている。それでも17日にはマイク・ペンス副大統領が「北朝鮮に対する戦略的寛容の時期は終わった」と宣言し、「過去二週間にわたり、世界はシリアとアフガニスタンに対する米国大統領の行動を見た。北朝鮮は、極東地域にある米国の戦力を試さない方が賢明だろう」と発言している。
 
同日、副大統領の発言後、ディフェンス・ニュースというメディアにより、カール・ヴィンソン母艦がシンガポールからオーストラリアに向けて運航している事が確認された。太平洋艦隊のクレイトン・ドス指揮官も、ヴィンソン母艦が朝鮮半島付近、及び日本海付近にはない事を認めている。

http://www.defensenews.com/articles/us-carrier-still-thousands-of-miles-from-korea

 

これにより、その他のメディアも続々とこれを報道したが、大きな疑問に上がったのは、なぜ政権側が意図的にカール・ヴィンソン母艦の位置を実際の位置とは違えて発表したか、という点だ。この疑問に対して、一部の無知なトランプ支持者らは「敵に正確な軍事行動を知らせるべきではない」と主張するが、彼らは本当に北朝鮮が米国メディアの報道によって米軍の行動を把握していると考えているのだろうか。実際には、戦艦等の位置を把握する事はそれほど困難ではなく、ロシアや中国の所有する最先端技術を誇るスパイ衛星によってカール・ヴィンソン母艦の位置が知られ、北朝鮮に伝えられていた事を疑う軍事専門家はいない。だからこそ、北朝鮮は15日にも、失敗したとは言え、新たなミサイル発射実験を実施できたのだろう。専門家でなくても常識的にわかる事だが、米軍や米国政府の発表によって騙せたのは、敵である北朝鮮ではなく、米国政府発表に頼った米メディアであり、韓国であり、また日本なのだ。
 
敵に対し、正確な軍事情報を伝える「愚かさ」を説くならば、トランプ陣営は、シリア空爆の二時間前にロシアを通し、シリアのアサド政権にイドリブ基地空爆の意図を伝えた「愚かさ」をまず反省するべきだろう。ところが、繰り返すがトランプ政権がかく乱させ、全く不必要な緊張を齎したのは味方である韓国、日本という同盟国だけである。同盟国に対しては、綿密な連携の下正確な情報を共有するのが当然ではないか。韓国の保守派大統領候補者である洪準杓氏は、こうしたトランプ政権の行動に、「トランプ大統領の発言は韓国の安全保障に非常に重要である。もしあの一連の発言が嘘であるならば、韓国はこれから、トランプ政権の主張を何でも信用することは無い」と厳しい声明を発表している。軍事政策専門家のマックス・ブート氏は、トランプ政権の流した偽情報に関して「敵を騙すなど不可能であり、ただ同盟国をかく乱させるというダメージだけは既に為された」と酷評している。
こうしたトランプ氏の勘違い、あるいは思い込みによる失敗は、思わぬ災害をこれから齎していくだろう。紛争や戦争が勃発する原因の殆どは、当事者が思っていなかった偶発的出来事による。予測不可能という外交政策、軍事戦略を目指す限り、被害を被るのは同盟国であり、一般市民である。アサド政権や北朝鮮、またロシアのような敵対国家は、トランプ政権の『レッドライン』、どこまでが許容範囲なのかを探る為に、軍事挑発を繰り返すだろう。その際に起こる失敗や偶然の出来事によっていつ紛争が拡大するか、戦争となるか、わからないのだ。
 
トランプ政権は、一貫した外交軍事政策を掲げ、無意味な挑発的発言により同盟国からの信頼を台無しにしない責任ある政治の舵切りをする必要に迫られている。アメリカ大統領の発言が信用を失う事は、世界の平和や秩序にとって計り知れない災害を齎すだろう。

米軍、シリア攻撃

木曜日夜、ドナルド・トランプ大統領は自国民に対して化学兵器を用いた攻撃を行なったシリアのアサド政権に対し、、そこから化学兵器爆弾を積んだ爆撃機が発射されたと見られるアル・シャヤラット空軍基地を米海軍戦艦からミサイル攻撃した。ロシアに対してアメリカは、アサド政権に向けた攻撃をすると直前に伝えており、ロシアとの交戦を避ける形でシリアへの攻撃が行なわれた。

Syrian Media Say ‘Enemy America’ Caused Damage to Air Base, Multiple Casualties - WSJ

f:id:HKennedy:20170407135242j:plain

アメリカによる攻撃前、モスクワは相反するメッセージを送っている。

一つはプーチン大統領による、「アサド政権が自国民に対して化学兵器を使用し、攻撃した事実はない」という、ニッキー・ヘイリー米国連大使への「反論」であり、もう一つは「ロシアによるアサド政権支持は、決して無条件支持ではない」というメッセージだ。
 
プーチン大統領の反論は期待されていた反論であり、勿論事実に基づいたものではない。シリア独立派のメディアやオブザーバーたちの証言は全て、火曜日の攻撃がアサド政権によって行なわれた点で一致しており、爆撃機から化学兵器を投下したパイロットの名前も「ムハマッド・ユーセフ・ハス―リ大佐」であると明確にされている。西側の諜報機関と米軍は、この攻撃がアサド政権によって行なわれた事を認めており、これに疑いを抱く客観的理由はない。
 
プーチン・ロシアとの不透明な関係疑惑によって役割からの辞任に追い込まれたトランプの側近は、ジェフ・セッション司法長官(ロシア大使との面会を議会から隠していた事が発覚)、ポール・マナフォート、元選挙キャンペーン・マネージャー(クレムリンとの繋がりが深いウクライナ政府からの給与を得ていた。またロシアスパイとの金銭関係の為、FBIの捜査対象となっている)、カーター・ペイジ元外交政策アドヴァイザー(元ロシア副首相との間の、米国大統領選に関する不可解な諜報交換が疑われ、FBIの捜査対象となっている)、ロジャー・ストーン元アドヴァイザー(カーター・ペイジと同様、ロシア政府高官との諜報交換が疑われている)、マイク・フリン元国家安全保障委員会委員(ロシア政府高官との間の、対ロ制裁解除の約束が疑われ、FBI捜査対象となっている)等がいる。
 
トランプ大統領にとって、2013年以来大きなシリア市民の犠牲を前に、これ以上ロシア政府に対して迎合をしていると見られれば、オバマ大統領が犯した失敗よりも、オバマ政権の弱腰を批判していた手前、それを上回る大きな失点となるだろう。
しかしながら、ニッキー・ヘイリー国連大使が昨日の国連安全保障理事会で示唆した通り、米国の軍事行動がアサド大統領排除に向けたものであるとすれば、トランプ大統領の注意持続期間よりも更に長い長期的戦略や決意が必要となる。
 
青ざめて横たわるシリアの子供の遺体に胸を痛めたとしても、来週には彼らが『イスラム教徒』であり『過激派』であり、また『難民、移民』としてトランプ氏に映らない保証はない。個々の遺体を前に気の毒に想う感情の高揚がトランプ氏にあったとしても、人権侵害や人道に対する罪に立ち向かおうをする普遍的正義感がトランプ氏にあるだろうか。重要なことは、感情の高揚ではなく、絶対的な信念によって、米国の外交政策や軍事作戦が決められなければならない点だ。
3,000人に上るアメリカ人の犠牲を前にしたジョージ・W・ブッシュ大統領でさえ、いざ開戦となり米軍に被害が出るにつれ、国民の中の厭戦感情による支持率の低下を招いた。フセイン大統領が有していなかった筈の無く、いずれはテロリストの手に渡っていただろう大量破壊兵器を巡るイラク戦争については、その開戦後、トランプ氏は反対を主張していた。強硬姿勢を示す為に僅かの空爆を行なっても、一般市民の犠牲を増やすだけで、アサドの排除には繋がらない。

f:id:HKennedy:20170407125843j:plain

                  4月4日の化学兵器爆撃を行なった爆撃機の空路を示す地図

アサド排除の為には、地上軍の派遣、また戦争の拡大を防ぐ為には、アサド政権を支持するロシア、イラン等の外国軍の排除が何よりも必要だ。トランプ大統領は、中国の習近平主席との会談を終えた後、シリアへの空爆について声明を発表した。

Dozens of U.S. Missiles Hit Air Base in Syria - NYTimes.com

 

f:id:HKennedy:20170407131936j:plain

「今夜私は、化学兵器による攻撃が行なわれたと思われるシリアの空軍基地を限定攻撃する命令を出した。化学兵器の使用と拡散を防ぐ事は、アメリカの安全保障という国益にとって重要である」
 
トランプ大統領の声明は全くもって事実である。この点は、マルコ・ルビオ上院議員も指摘している。
 
「この子供たちが見えますか? 自分がこの子供たちの父親であると想像して下さい。そして自分の子供たちが政府による毒ガス攻撃で殺されてしまったと。そういった政府を、正統な政府であると受け入れられる筈がありません。あなたは、政府があなたの子供、家族に対して行なった事により、憎しみと復讐心に駆られるでしょう。自分をその立場に置いて下さい。
 
そしてこれらの人々、こうした多くの人々は、シリア内の銃や資金を持つ組織、それがどんな組織であっても、アサドに対抗する為に加わるのです。ただアサドに復讐する為に、彼らは知る限りの反アサド組織に加わるのです。
 
そして悲劇的な事に、ジハーディストでない、少なくともジハーディストではなかった多くの人々が、過激ジハーディストの組織に加わる事になるのです。何故なら、アサド政権に対して戦うための最も多くの武器や資金を持っている組織は、過激ジハーディストの組織しかないからです。そして彼らはただアサドに対する復讐心の為にこれらの組織に加わるのです。彼らがこれらの組織に加わる動機は、自分の子供、家族に対してアサドが犯したことに対する報復です。
 
だからこそ、アサドは排除されなければなりません。バシャール・アル・アサドがシリアにいる限り、シリアから過激派の要素は無くなりません。(結局、こうした人々は)アサド排除の為に戦うだけではなく、海外に過激イデオロギーを広める為にも戦う事になるのです。
 
これは我々の安全保障という国益に関わる問題です。全てのアメリカ人にとっての関心であるべきです。これは国民としての我々にとって重要な問題です。これは我々が何者なのかという本質的な問いかけであるばかりでなく、我々の安全保障にも関わります。これを無視する事は出来ません。」
米保守派の中の、多くの『ネヴァー・トランプ』と言われる、普段はトランプ氏に反対する人々も、今回のトランプ大統領によるシリア空爆の決断を支持している。リンゼイ・グラハム上院議員は「今は、大統領にとって、外交政策と独裁者に対する政策において、彼が『オバマ大統領』とは違うことを証明する良い機会だ」と語っている。その通りだろう。軍事作戦後、グラハム議員とジョン・マケイン議員は、トランプ大統領による軍事行動を支持する共同声明を発表した。
 
ロシアの出方は予測がつかないが、ロシアが西側からの更なる制裁や報復の危険を冒してまでアサドという人物に固執するだろうか。アサド個人を排除する事はそれ程不可能ではないかもしれないが、問題はそアサド後のシリアだ。アサド後のシリアからアメリカが撤退すれば、力の空白を招き、再びロシアやイラン、あるいは中国の勢力拡張を招く事となる。
 
中東での軍事行動は、予測のつかない事態に繋がる可能性が常にある。トランプ大統領の決断は正しかったと言えるが、この後、彼は議会と軍、諜報機関との綿密な戦略を立て、彼らからの助言に耳を傾ける必要があるだろう。

アサド政権による自国民への化学兵器使用と『アメリカ・ファースト』

4月4日火曜日、シリアのアサド政権が、反政府派の拠点の一つとなっているイドリブ地方を化学兵器を用いた爆弾攻撃により、子供や、まだオシメを履いている赤ん坊を含む市民少なくとも70人を殺害した。

Chemical Attack in Syria Puts Focus on Trump Policy - WSJ

先週金曜日、レックス・ティラーソン国務長官がトルコを訪問した際、「アサド大統領の地位は、シリア国民の決めるところだ」と発言し、ニッキー・ヘイリー米国連大使もその後「アメリカの優先順位は、もはやアサド大統領を退陣させる事ではない」と発言している。ホワイト・ハウスのショーン・スパイサー報道官によれば、「シリア政策の優先順位をアサド大統領排除からISIS制圧に変更させた、現実的な方向転換」であったという。

Trump, Reshaping Syria Policy, Sets Aside Demand for Assad’s Ouster - WSJ

 

そうした米国トランプ政権のシリア政策の方向転換が発表された数日後の、アサド政権による自国民への化学兵器を用いた攻撃に、トランプ政権の態度は変化の兆しを見せた。
 
化学兵器攻撃のニュースが伝えられたスパイサー報道官は、「バシャール・アル・アサド政権による、このような極悪な行動は、前政権の弱さと不作為の結果である。オバマ大統領は2012年、化学兵器使用を『超えてはならないレッドライン』と呼びつつ、そのラインが超えられた時も何の行動も取らなかった。アメリカは世界中の同盟国と共に、この許されざる行為に対して非難をする」と発表し、ホワイト・ハウスもこれと同様の声明を発表した。
 
トランプ大統領にとって、一応はバラク・オバマ前政権を批判しておきたいのかもしれないが、2013年に、オバマ大統領に対し「シリア(アサド政権)に対し、攻撃をするべきではない。攻撃をしても我々は失なうものばかりで、得るものは無い」と何度も強調をしたのは、ドナルド・トランプその人である。
 
アサド政権による自国民に対する攻撃をもって、マルコ・ルビオ上院議員は「今回の攻撃は、何日か前のレックス・ティラーソン国務長官の発言と無関係だとは思えない」と発言している。これは、ティラーソン長官やホワイト・ハウスによるアサド大統領の退陣を求めない方針に反発を唱えたジョン・マケイン上院議員の意見と同様と言える。

Rubio: It's no coincidence that Syria gas attack happened after 'concerning' Tillerson comments - CNNPolitics.com

一日経ち、死亡した子供達や赤ん坊の映像、写真が大きく報道されるや、アメリカ政府の態度には明らかな方向転換が見られた。まずニッキー・ヘイリー国連大使が、国連安全保障理事会において、ロシア国連副大使を目の前に演説を行なった。

RFE/RL - U.S. Ambassador to the United Nations Nikki Haley...

https://www.nytimes.com/2017/04/05/world/middleeast/syria-chemical-attack-un.html

「昨日の朝、我々は子供たちが口から泡を噴いている写真を見ました。痙攣で苦しんでいる様子を見ました。必死になって命を救おうとする親の腕に抱えられ、病院に運ばれている様子を見ました。何人もの、生を失った遺体を見ています。まだ、オシメのはずれていない赤ん坊もいます。化学兵器爆弾による負傷を体に負った遺体もあります。これらの写真を見てください。我々は目を閉じて、この写真を見ないフリは出来ません。思考を止めて、責任をすることは出来ません。我々には、まだ全ての事が明らかになっている訳ではありません。しかしながら、明らかになっている多くの事があります。我々は昨日の攻撃が、アサド政権の化学兵器使用のパターンと同一である事を知っています。また何週間か前、この委員会は、アサド政権が自国民を化学兵器の毒で窒息死させた件の責任を求めようとした際、ロシアが反対し、決議を妨害した事を知っています。彼らは良心に背く選択をしました。ロシアは野蛮に対し目を閉じる選択をしました。彼らは世界の良心を汚したのです。ロシアがこの責任から逃れる事は出来ません。実際、もしロシアがその責任を果たしていたら(ロシアがアサド政権による化学兵器放棄を監督し、保証した事を指す)、アサド政権が自国民に対して使用できる化学兵器は残されていなかったでしょう。」
 
数時間か後、トランプ大統領も演説を行ない、シリアが幾つもの「超えてはならないレッドラインを超えた」と語り、「アサド大統領に対する私の考えは大きく変わった」と述べている。

Syria chemical attack has changed my view of Assad, says Trump | US news | The Guardian

 

トランプ大統領はこれまでも、オバマ前大統領の「弱い」外交政策を批判してきた。ところが、実質的な外交内容を考えれば、トランプ氏の掲げる外交政策、特にシリアの内戦、またISIS制圧を含む中東政策に関して言えば、オバマ大統領の政策と殆ど変わらない『一国主義』だった。
 
トランプは自らの政策を一国主義である事を否定し、『アメリカ・ファースト』という言葉で呼んでいるが、『アメリカ・ファースト』こそ、戦前、ナチス・ドイツの下、ヨーロッパにおいて、ユダヤ人に対する迫害が起きている事を承知で、ヨーロッパの戦争に関わる事を拒否した委員会の名称が『アメリカ・ファースト』である。これは決して「自国を第一にしつつ、しかも同盟国の安全保障にも責任を持つ」という考えではない。普遍的な人権の侵害にも気を配る使命を負うという『アメリカン・エクセプショナリズム』とは、真っ向から反対するイデオロギーである。

America First Committee - Wikipedia

 

『アメリカ・ファースト』が何を指すのか、端的に知る為には、昨日の化学ガス兵器で殺された子供達の写真を見れば良い。それが意味するものこそ『アメリカ・ファースト』なのだ。

 

f:id:HKennedy:20170406160052j:plain

二人の子供、妻、弟、甥を亡くしたシリア人男性。この写真こそ、アメリカが関心を内政だけに向け、一国主義となる『アメリカ・ファースト』を語っている。

 

トランプは、決して保守派の原則『アメリカン・エクセプショナリズム』に立った人物ではない。自分たちこそ被害者であるというレトリックを強調し、他国の立場には目を瞑り、アメリカの利益のみを求める大統領だ。
 
それでも、化学兵器の犠牲となった子供たちの姿にかなりの心情的影響を受けたようで、「昨日の、子供達への攻撃は私にとって大きな影響を与えた」とし、「(アサド政権派)多くのラインを越えてしまった。無辜の子供たち、無辜の赤ん坊たち、小さな赤ん坊たちを殺傷能力のある化学ガスを使用して殺すならば、どんなガスが使われたか知れば、人々はショックを受ける、たくさんのラインを越えてしまった。レッドラインを超えて、多くのラインを越えてしまった」と語っている。
 
この発言はアサド大統領排除の為の軍事行動を指すのか聞かれ、トランプ大統領は「何をするか、あれこれ言うつもりは無い。特に軍事行動をするかしないか、そういった事は語るつもりはない」としている。
 
残念ながら、トランプ大統領の注意力や関心のスパンは短い。多くの子供たちの犠牲を前に、頭に浮かんだことを口にしただけかもしれない。しかしながら、オバマ前大統領の非に責任を押し付けたい気持ちが行き来するトランプ氏が認めた通り、トランプ氏には「今、責任がある」のだ。
 
今までトランプ大統領に反対を表明してきた共和党重鎮の一人であるリンゼイ・グラハム上院議員は、「これは、トランプ大統領がオバマ大統領ではない事を証明する機会だ」と決断を促している。トランプ氏が決断すれば、共和党が多数を占める議会は恐らく軍事作戦を承認し、トランプ大統領を支持するだろう。トランプ氏が『アメリカ・ファースト』という恐ろしい人権への無関心政策から歩き去るならば、今までトランプ氏に反対をしてきた保守派も、その決断においては支持をするだろう。
 
当然ながら、もしトランプ氏が決断をせず、アサド政権を放置するならば、アメリカやシリアにとって、また世界にとって、オバマ政権が犯した以上の災害的な誤りを犯し、共和党政権の強い姿勢も内容が伴わないという前例を設けることになる。
 
ヘイリー国連大使が語った通り、アサド政権やプーチン政権、またイランには、シリアの平和に対する関心はない。それを国際社会の場で宣言した後に彼らの言葉を信用するという愚を犯してはならない。

日韓の和解を妨げる両国のナショナリストたちに反対する

世界の悲劇と言われている過去の出来事の、その壮絶さを図る測りに、被害者の数の大きさが取り沙汰される。一概に『虐殺』と言われても、被害者の数は複数(最小は二人)から何百万人にまで登り、その悲劇がやはり数の多さで測られるのも、ある意味当然だろう。
 
悲劇に対する世界の関心や、その反省、防止、汲み取る教訓などの度合いや重要性が、ある程度被害者の数で測られるとすれば、被害者の数の算出は、政治目的や主観的な感情、動機に動かされたり、名誉や誇りの為に過小評価、或いは過大評価されてはならない。数の算出は、あくまでも客観的な調査を基に為されるべきで、やはり、どんなに被害者の気持ちに沿ったものであったとしても、政治動機で活動する運動家よりも、歴史家の専門とされるところだろう。
 
日本と韓国の間に横たわる『慰安婦問題』は、2015年の両国間の合意に於いて公的には解決がついたと欧米では報道されていた。勿論、海外の報道にしても、両国のナショナリストらや活動家から猛烈な反発があり、それを抑えた上での合意であった事は当初から報道されていた。2016年になり米国大統領選挙が毎日のニュースの多くを占める中、慰安婦問題をめぐる市民団体の不満などに割く紙面が無かった側面はあったとしても、目にする限り、「日本は謝罪をしていない」や「日本の謝罪は充分ではない」といった報道が米メディアでされたことは無い。安倍首相による謝罪と10億円の補償金を含む2015年の合意を以て「日本は歴史を歪曲しようとしている」等の批判は、ほぼ収まったというのが実感である。
 
この問題が再び浮上したのは、在釜山日本総領事館前に新たな慰安婦像が市民団体によって設置される動きに反発して、安倍政権がソウルからの大使、領事などの外交官を召還した事に発する。このニュースや、慰安婦問題の解決を拒む市民団体の頑固な反日ナショナリズムとしてではなく、中国が戦艦を運航させ、北朝鮮がミサイル発射を行なう中、共通の脅威に直面する韓国との外交チャンネルを遮断した日本政府の、安全保障を顧みない感情的な判断ミスとして報道された。
 
2015末に結ばれた合意の際にこの合意を高く評価しながらも、この合意が決して両国における民間の言動を制限するものではない事を繰り返し主張してきた私にとって、日本政府による韓国政府は合意を順守していないという批判は的外れと言うよりも、卑怯であると思われた。あの合意内容を読んで、韓国政府が市民団体による慰安婦像設置を認めないと理解する事には無理がある。この理解は、日本の右派が繰り返し述べてきた通りであり、その通り、韓国政府が民間による像の設置を阻止しなかったからと言って、『合意違反』である筈が無いのだ。政府や外交関係者がまさか自分たちの結んだ合意の内容や解釈、また適用を理解していなかったとは到底考えられない。
 
であるから私は、国内の反韓ナショナリズムに配慮するかのように外交手段を遮断した日本政府の対応を、第三世界、或いは発展途上国に見られる法や条約を鑑みない外交であるかのように批判した。また、慰安婦像が設置される事が生存に関わる一大事であるかのように、またこれが日本の将来に影響するかのように怒り嘆く日本のナショナリズムも厳しく批判した。ナショナリズムに便乗する形でのさばる韓国人へのヘイトスピーチも、「韓国人も日本へのヘイトスピーチを行なっている」という主張がある事を承知しつつも、『日本の評判を落とすものは韓国人による言動ではなく、日本人の言動である』という視点から、厳しく断罪した。
 
ところが勿論、愚論や極論は日本だけにある筈はない。日本の反韓ナショナリズムを煽り、日本側の謝罪を困難にしている要因には、韓国による『被害者数の誇張』や『被害内容の歪曲』があげられる。韓国は慰安婦の総数を20万人と主張し、中国はそれに便乗する形で40万人を主張しているが、韓国人慰安婦20万人説や、中国による慰安婦40万人説の根拠は、国連マクドゥーガル報告書にあるという。ところがマクドゥーガル報告書が根拠にしているのは、自民党代議士であった荒舩清十郎氏の演説だけである。

慰安所と慰安婦の数 慰安婦問題とアジア女性基金

 

荒舩清十郎氏の慰安婦総数算出の根拠として、左派は「関特演の補給を担当する関東軍司令部第三課の課長だった原善四郎中佐が85万人の将兵へどれくらいの従軍慰安婦を動員すればよいかを算出し て二万人という数を報告したことが知られて」いるとしているが、これを『15年戦争の間の兵士総数300万人』という数と、慰安婦の交代(入れ替え)を考慮し『20万人』説を主張しているようだ。ところが、兵士総数が300万人としても、全ての兵士が戦場に駆り出されていた訳ではない。米国戦略爆撃調査団の報告によれば、中国大陸に駐屯していた日本軍兵士で100万人の戦力と言われ、当然ながらもう100万人は中国大陸以外の占領地域に送られ、残りは日本や朝鮮半島、台湾に駐屯していたのが事実だ。慰安婦の交代や入れ替えを考慮しながらも、戦場に駆り出されている兵士の入れ替えや実数を考慮しない点に、左派活動家の決定的な誤りがある。

United States Strategic Bombing Survey: Summary Report (Pacific War)

 
慰安婦問題だけでなく日本軍の動向や日本軍事史を調べた歴史家で、20万説を支持する歴史家はいない。慰安婦たちを性奴隷と定義する吉見義明氏だけでなく『帝国の慰安婦』を記したサラ・ソー教授も、主張している総数は5万人だ。
 
日韓合意に反対する韓国人活動家によれば、彼女がこの問題に対しての声をあげる理由は、スケールの大きい人権侵害にまず声をあげるべきだという彼女なりの優先順位があるようだ。「スケールの大きな人権侵害に対してこそ、まず声をあげるべき」という点は私も同意するが、果たして、世界中で横行する醜悪な人権の蹂躙を考えた時に、慰安婦問題こそがスケールの大きな人権侵害だと言えるだろうか。
 
彼女はスケールの大きさを図る目安として、冒頭にあげた通り、「被害者数」の多大さをあげているが、彼女の主張する慰安婦総数は20万人以上と考えているフシが伺える。彼女に言わせれば、少なく算出された慰安婦の総数は現存する物的証拠を基にしたものであり、この問題の全容を表していないらしい。彼女が主張する、物的証拠からの算出に頼れない理由は、全ての問題が記述されていた訳ではなく、また日本が戦争末期から敗戦時にかけて証拠を燃やしてしまったからだという。
 

f:id:HKennedy:20170404163641j:plain

 
私は名誉や誇り、敵愾心をベースとしたナショナリズムには強く反対するが、「被害者の女性は可哀想だ」という感情をベースにした「イモーショナリズム(感情主義)」にも強く反対する。元慰安婦とされる女性個々の背景や状況にどんなに心を痛めたとしても、全容を探る為には、客観的な分析が不可欠であると考えている。
 
以下はポーランド人アンジェイ・コズロウスキーの考える慰安婦総数に関する意見である。
 
『性サービスの提供という慰安婦たちの働きを考えても、慰安婦たちを飢えさせ、着るものにも困る状況に押し込める事は出来ない。またラバウルに駐屯していた日本軍と彼らが管理していた慰安所についての記録は、オーストラリア人捕虜が詳細に記しているが、ラバウルでの慰安所がその他の地域の慰安所と異なっていたとする根拠がない。私が考える慰安婦の総数は1万2千人であり、それは秦博士の考える数よりも少ない。今からそれを説明しよう。
 
ラバウル周辺には10万人の日本兵がいた事が分かっている。ラバウルで捕虜になったオーストラリア人記者のゴードン・トーマス(*)によれば、ラバウルにいた慰安婦は3千人だ。これは多い方の計算である。少ない見積もりは、アメリカの「米国戦略爆撃調査団」があげた600人だ。私がなぜ米国戦略爆撃調査団の見積もりが真実に近いと考えるか説明しよう。(*Rabaul, Prisoners in Rabaul POW WW2.  Thomas Gordon.)  

United States Strategic Bombing Survey: Summary Report (Pacific War)

 
トーマスの記述によれば、慰安婦たちは一日につき約30人の兵士を相手にしていた。トーマスはまた、何人かの慰安婦たちは私設の売春宿でも働いていた。一日30人の接客数は、しばし繰り返されているのでこれが正確だと仮定する。もし慰安婦が3千人もいたとして、それぞれが一日30人の兵士の相手をすれば、彼女たちは10万人の日本兵のうち、9万人の日本兵を一日で相手していた事となる。これが不可能である事は、トーマスの記述には兵士たちは一週間に一日しか慰安所に通う休暇が与えられていなかった事から理解できる。(*兵士が一週間に一度しか慰安所に通えなかった事は、旧日本軍衛生兵として従軍した松本正義氏も証言をしている。) しかしながら、米国の調査通りの600人しか慰安婦がいなかったならば、この計算は自然な理解の範疇にある。600人の慰安婦が30人の兵士を相手にすれば、彼女たちが一日に接客した日本兵の数は1,800人となる。兵士たちが一週間に一度しか慰安所に通えなかったとして、彼女たちが10万人いた日本兵全てを接客するのには6日かかるだけだ。一日の接客数30人を現実的に考えるとすれば、10万人の日本兵に対して600人の慰安婦数を充てた調査団の計算が、最も理屈に叶っている。
 
中国大陸にいた日本兵の総数は100万人であり、その他の100万の日本兵は日本、朝鮮半島、また台湾以外のさまざまな地域に駐屯していた。米国調査団による慰安婦総数計算に照らし合わせれば、中国大陸にいた慰安婦総数や約6千人であり、中国大陸以外の日本占領地域にいたもう100万人の日本兵につく6000千人の慰安婦と合わせれば、12,000人の慰安婦がいた事になる。彼らが利用しこの女性たちが契約が終わったり、あるいは死亡したりで交代や入れ替わりがあったとしても、総数の2倍を大きく超える事はあり得ない。秦氏の計算は、最小数ではなく、最大数に近いのだと考える。ちなみに、日本や朝鮮、台湾に駐屯していた日本兵は、この計算に含まれるべきではない。彼らが使用していたのは『慰安所』ではなく、この地の売春婦たちが「慰安婦」と呼ばれる事はなかったからだ。
 
韓国人活動家が、同情心や正義感から慰安婦問題に関心を持ち、元慰安婦たちの心の傷や不遇に対し心を寄せる事を非難するつもりはない。しかしながら、これを外交問題化していくからには、可哀想という心情とは切り離した客観性がどうしても必要となる。この客観性は、その他の歴史の悲劇を分析し、調査する際にも必要であった通りである。
 
活動家たちが慰安婦問題を重要問題とする為に、総数だけではなく、その他のプロパガンダも、何の証拠もなく言い立てられているのは事実だ。
 
「日本軍が証拠隠滅をする為に全ての証拠を焼却した」
「慰安婦たちは天皇からの贈り物として兵士たちに与えられた」
「慰安婦たちの多くは無残な形で殺害され、殆どの慰安婦は生きて帰らなかった」
 
国連や国際社会を舞台に、あまりにも荒唐無稽な言い立てによって日本を責めれば、たとえその動機が「個々の女性の悲劇に心を寄せ、彼女らに代わって声をあげる為」であったとしても、日本の側からの頑なな反発を招くことは必至だ。人間社会というものは、余りにも極端な言い掛かりをつけられても反論をせず、打たれ続ける為に頭を垂れるような『世捨て人』ばかりの集まりではない。
 
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、韓国では、戦争体験者や年配層よりも、20代から30代の若い世代ほど、反日感情を高めているらしい。日本による朝鮮半島統治や慰安所の生活がたとえどれほど厳しいものであったとしても、実際にそれを体験した世代やその直後の世代よりも、全くそれを体験していない世代の方が憎しみや反感を覚える点に、ナショナリズムというイデオロギーの怖さを感じる。
この問題に関して、両国のナショナリストらが、解決の糸口を探ろうとしているとは正直言って思えない。歩み寄る傾向を見せないばかりか、歩み寄ろうとする同国人に対しては『売国奴』の汚名を容赦なく浴びせている。そうした中でも、例えば米国ニューヨークの韓国人団体は、日韓合意への支持を表明したと報道された。日本でも日韓合意を評価し、政府による大使召還を否定的に見る人々はいた。中国や北朝鮮の軍事動向を鑑みても、経済協力の必要性を鑑みても、全ての韓国人、また全ての日本人がこの問題をいつまでも長引かせたい訳ではない
 
日韓の政府共々、もう一度、怒りの感情を抑えられないナショナリズムに陥ることなく、合意の精神に立ち返る必要があるのではないだろうか。

シャリア法による裁きを容認してはならない

インドネシアにおいて、夫以外の男性と一緒にいる現場を見られた女性が、イスラム教シャリア法の定めに従って、むち打ちの刑に処せられた話題がありました。勿論こうした処罰は至る所で行なわれており、証拠やきちんとした近代的裁判なしで、女性が石打ちや斬首によって処刑される例は事欠きません。

Indonesian woman lashed with cane until she collapses during brutal Sharia law punishment while baying mob cheer at her agony

インドネシアという国家を考えても、国際社会の一員として近代民主主義国家のパートナーとして認められる為には、8世紀の野蛮な法律によって国民が裁かれている現実を放置するべきではありません。
 
『彼らの宗教』また『彼らの文化』といった『容認論』は、欧米の自虐左翼が繰り返し主張し、一見、他文化への理解を示したかに聞こえる議論ですが、これほど現実に行なわれる醜悪な人権侵害を容認し、実際の多文化共存を妨げる野蛮な暴論はありません。
 
どんな宗教の教義でも「信教の自由」の名のもとに許されるべきならば、同じ理屈は、外国の宗教だけでなく、オウム真理教の教義も許されるべきです。勿論日本では、オウム真理教信者が多数集団で暮らす地域の住民は、オウム信者の「信教の自由」よりも、地域と自身の身の安全が何よりも重視されました。これに異を唱え、オウム信者の真教の自由に理解を示し、これの為に戦った言論人の誰一人として、オウム信者が集団で暮らす地域に引っ越しをし、彼らと実際の共存を試みた人はいません。
 
こうした薄っぺらな『理解』は、イスラム教に関しては欧米左翼こそが繰り返してきた理屈ですが、「危険な教えであっても、信教の自由に保障されている」といった理屈がまかり通れば、人身御供を要求してきたアステカ文化の神事や、サティ―といったインド、ヒンズー教の「寡婦を夫の亡骸と共に生きたまま焼き殺す儀式」すら「異文化・他宗教への理解」の美辞麗句の為に容認される事となります。
 
アステカの人身御供については、
アステカ社会を語る上で特筆すべきことは人身御供神事である。人身御供は世界各地で普遍的に存在した儀式であるが、アステカのそれは他と比べて特異であった。メソアメリカでは太陽は消滅するという終末信仰が普及していて、人間の新鮮な心臓をに奉げることで太陽の消滅を先延ばしすることが可能になると信じられていた。そのため人々は日常的に人身御供を行い生贄になった者の心臓を神に捧げた。また人々は神々に雨乞いや豊穣を祈願する際にも、人身御供の神事を行った。アステカは多くの生贄を必要としたので、生贄を確保するために戦争することもあった。

ウィツィロポチトリに捧げられた生贄は、祭壇に据えられた石のテーブルの上に仰向けにされ、神官達が四肢を抑えて黒曜石のナイフで生きたまま胸部を切り裂き、手づかみで動いている心臓を摘出した。シペ・トテックに捧げられた生贄は、神官達が生きたまま生贄から生皮を剥ぎ取り、数週間纏って踊り狂った。人身御供の神事は目的に応じて様々な形態があり、生贄を火中に放り込む事もあった。現代人から見れば残酷極まりない儀式であったが、生贄にされることは本人にとって名誉なことでもあった。通常、戦争捕虜や買い取られた奴隷の中から、見た目が高潔で健康な者が生贄に選ばれ、人身御供の神事の日まで丁重に扱われた。神事によっては貴人や若者さらには幼い小児が生贄にされることもあった。」とあります。

アステカ - Wikipedia

 

サティ―については、

ヒンドゥー社会における慣行で、寡婦が夫の亡骸とともに焼身自殺をすることである。日本語では「寡婦焚死」または「寡婦殉死」と訳されている。本来は「貞淑な女性」を意味する言葉であった。…17世紀ムガル帝国で支配者層であったムスリムは、サティーを野蛮な風習として反対していたが、被支配者層の絶対多数であるヒンドゥー教徒に配慮し、完全に禁じていたわけではなかった。その代わり、サティーを自ら望む女性は太守(ナワーブ)に許可を申し出るよう義務付け、ムスリムの女性たちを使って可能な限り説得を行い、それでもなお希望する者にのみ許可を与えた。ただ、全ての土地にムスリムの太守がいるわけではなく、説得が行われていない地域もあった。必ずしも寡婦の全てがサティーを望んだわけではない。中にはヨーロッパ人や家族の説得に応じて寸前で思いとどまった者もいたが、ほとんどの志願者は夫と共に焼け死ぬ貞淑な女性として自ら炎に包まれた。炎を前に怖気づいた者は、周りを囲むバラモンに無理やり押し戻されるか、仮に逃げたとしても背教者としてヒンズー社会から排除されるため、その最下層(アウト・カースト)の者に身を委ねざるを得なかった。場合によって、そのことを期待した者が見物に集まってくることもあったという」とあります。

サティー (ヒンドゥー教) - Wikipedia

 

いずれにせよ、長い人類の歴史の中では、いくつもの野蛮な教えが、『名誉』『貞淑』などの概念による「無言の強要」によって信者(他者)を拘束してきた点は否めません。こうした教えや強要による犠牲となってきたその殆どは、女性、子供、捕虜などです。アステカの人身御供は16世紀にスペインによってアステカ帝国と共に滅ぼされ、サティ―の教えは、17世紀から19世紀にかけて、イスラム教徒領主やイギリス帝国によって破棄され20世紀の初頭には殆どなくなりましたが、イスラム教シャリア法は、アステカの人身御供の宗教儀式よりも古い紀元8世紀から8世紀にかけて作られた教えであり、時代や人権意識の変化に合わせた改革を遂げていません。

 

シャリア法による人権侵害が認められれば、アステカ文明やサティ―の慣習復活を願う人々によって寡婦焚死や人身御供を教えはじめた時、これらも認められるのでしょうか。法の下では、シャリア法による人権侵害は許容しながら、別の宗教の危険な教えは禁じるという不平等は許されないのです。

 

シャリア法が危険な教えであっても、それが国境を越えて来なければ良いといった主張さえ時折目にしますが、これは国民として生まれたイスラム教徒、或いはイスラム教徒に改宗する国民の起こすテロや、シャリア法を現地法にしようとする動きを、全く考慮していない証拠です。ISISにせよ、アルカイダにせよ、彼らの行動の基となっているのは「シャリア法」ですが、ISISやアルカイダの過激さに心酔する若者は、中東諸国以外の先進国にも大勢住んでいます。シャリア法そのものを禁止しなければ、これらの若者が西側で行なう布教や政治活動を、どうやって止めるのでしょう。

 シャリア法を実行する人々が、自分たちの移動(移民)と共にシャリア法を移住先に持ち込み、現地法となるように運動し、移住先にとっての直接的脅威となってきた事実を無視するべきではありません。

 

シャリア法を信望するイスラム教徒の多いソマリアでは、13歳の少女が輪姦され、加害者である男性側の証言が得られない為、「姦淫を行なった」と非難された被害者のみが石打ちの刑で処刑されました。シャリア法では、女性が強姦や輪姦の被害を証明する為には、男性イスラム教徒4人の証言が必要となるからであり、男性イスラム教徒の証言が無い場合は、強姦や輪姦の被害であっても「夫以外との性交渉を行なった」という、自らの姦淫を認める証言としかならないからです。

'Don't kill me,' she screamed. Then they stoned her to death | The Independent

またイランでは、夫の証言だけで「姦淫」を訴えられた妻も、石打ちによって処刑されています。離婚で生じる元妻への補償や生活保護に比較すれば、「妻が姦淫を行なった」という夫の証言のみで妻を処刑する方が容易です。この裁判で姪が石打ちで殺されたイラン人女性は、「この悲劇を世界に広めてほしい」とフランス人ジャーナリストに頼んだ為、悲劇的な彼女の死が明らかになっているのです。

Soraya Manutchehri - Wikipedia

こうした多くの悲劇は、主に女性や子供、捕虜に降りかかる人権侵害ですが、絶対的男性優位を主張するイスラム教原理社会では、1200年以上もの間、改革が行なわれていません。

            f:id:HKennedy:20170329141518j:plain

地中に半身を埋められ、石打ちによって処刑される女性。石打ちの刑は、大き過ぎず、小さ過ぎない石を使った時間をかけた処刑方法である。

どこかで線引きがなされるべきです。勿論「異教徒」へのテロだけ禁じれば事足りるのではありません。イスラム教の支配する地域であっても、近代的な人権意識に基づく国際法の下、人権侵害と認められる行為は、たとえイスラム教徒に対してであっても禁止されるべきです。

International human rights law - Wikipedia

 

もちろん、法の下での基本的人権という概念は、西洋によって確立されましたが、これは絶対的正義を前に、欧米の人権意識がこれに倣ったからでしょう。これは西洋の果たした貢献の一つとして評価されるべきです。

 

インド総督であったチャールズ・ナピエ―将軍は述べています。

「好きにするが良い。寡婦を焼き殺す事があなた方の習慣ならば。葬儀の準備をしてやれ。しかしながら我々にも習慣というものはある。もし男が女を焼き殺すならば、こうした男たちを首吊りにし、彼らの財産を全て没収しなさい。私の大工が彼らの為の絞首台を作ってくれるだろう。寡婦が焼き殺される度に、それに関係した男たち全てを絞首台に吊るすのだ。我々すべてがその国の習慣に従って振る舞うべきだと言うならば。」

Charles James Napier - Wikipedia

 

基本的人権の尊重を唱える事は、決して西洋価値観の押し付けではありません。むしろ絶対的正義を示す行為であり、それに倣うよう、欧米も自らを変化させてきたのです。それぞれが自らの古い習慣に留まれば、共存や発展など不可能となるでしょう。

西洋のした事であればその価値を全く認めず、人権活動そのものにすら反対するような偏狭で安っぽい反欧米ナショナリズムに比較すれば、偽善的で優先順位のハッキリしないリベラル派の方が、矛盾を抱えながらも、却って人権問題について貢献をしていると言えます。

 

私が願うのは、人権侵害に声をあげるリベラル派が、イスラム教やシャリア法による人権侵害にも反対の声をあげることであり、保守派は『名誉』や『貞淑』などといった美辞麗句よりも、基本的人権の尊重に価値を認める事です。
 
『ポリティカル・コレクストネス』に反対をすると言い、他者を罵倒する為にのみ政治的正しさを棄て、明らかに野蛮で危険な教えに対してそれを指摘しないならば、その人が棄てたのは、政治的な正しさではなく、『Absolute Correctness/Conscience絶対的正しさ・良心』です。