「金正恩はかなり賢い人だと思う」トランプ発言に見る独裁政治への思慕

4月30日日曜朝、大統領就任100日目を記念する『Face the Nation』のインタビューに応える形で、トランプ氏は北朝鮮の金正恩について「かなり賢いやつだ」と発言している。

Donald Trump: N Korea's Kim Jong-un a 'smart cookie' - BBC News

[「人々は、『彼は正常な人物なんだろうか』と言っています。それはどうか知りませんが、彼の父親が死んだのは彼が26歳か、27歳の事だったでしょう。彼は明らかに困難な人間関係、特に将軍などに対処しています。彼はとても若い年齢で権力につきました。多くの人々が、彼からその権力を奪い取ろうとしたでしょう。彼の叔父やその他の人々など。それでも彼は権力を維持する事が出来たのです。明らかに賢い人なのでしょう。」]

この発言から理解できる通り、トランプ氏は北朝鮮の金正恩や、北朝鮮体制に対して、深い知識があるとは思われない。少ない情報をある一定のフィルター(偏見)を通して見ているのだ。北朝鮮で何逆万人もの一般市民が餓死している事も、多くの罪のない市民が強制収容所に入れられ、拷問や強姦をされ、強制労働についている事、北朝鮮が親兄弟、親族や友人を密告する社会である事すら鑑みていない。金正恩がいかに残酷で人間性の欠片も無い方法で自らの叔父や異母兄すら殺害したか、どれほどの猜疑心と憎悪に基づいた処刑を、側近らに対しても行なってきたか、全く考慮していない。トランプ氏には他者を理解する上で、恐ろしく幼稚な一定のフィルターしか存在しないのだ。

そのフィルターとは、自分自身である。トランプ氏は金正恩を理解し、評価する際にも、自分自身を通して見るしかないのだ。トランプ氏は、自身が27歳の時に父親の事業の一部を受け継いだ。金正恩が、権力闘争の中で、自分より経験あり、力もある将軍らを抑えて権力を維持している事と、トランプ氏自身が若年にして事業を受け継ぎ、現在も自分より経験や知識のある将軍や専門家を抑えて権力を維持している事を重ねて見ているのだ。トランプ氏が礼賛しているのは、自分自身なのだろう。トランプ氏が、金正恩が感じているだろうと主張する焦燥感は、実はトランプ氏自身が大統領としての務めの中で、毎日感じている焦りなのではないか。

トランプ氏は、就任100日を記念するロイターの取材で、「大統領としての職務がこれほど難しいとは思わなかった」と漏らし、「以前の生活は素晴らしかった」と嘆いているが、世界で一番大きな責務を負うアメリカ大統領の職務が、まさかニューヨークの不動産業者や、無責任なリアリティー番組のスターである事よりも簡単だと思っていたのだろうか。

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トランプ氏は、フィリピンのドゥテルテ大統領との電話会談で、ドゥテルテ氏の麻薬取締や関連犯罪に対する姿勢と成果を称えている。ドゥテルテ大統領就任の去年7月以来、約9,000人の市民が、法的裁判を受ける事なく処刑され、ドゥテルテ氏自身、自らの手で犯罪者を殺害した事を豪語しているが、ハーグ国際裁判所に『人道に対する犯罪』を犯したとして訴えがなされ、国際犯罪裁判所も、ドゥテルテ氏が長年に渡り、少なくとも9,400人の殺害に加担してきた事を指摘ている。

Extrajudicial Killings Prompt Suit Against Duterte at the International Criminal Court | Foreign Policy

https://www.nytimes.com/2017/04/30/us/politics/trump-duterte.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=first-column-region&region=top-news&WT.nav=top-news

またトランプ氏は、憲法改正を問う国民投票に不正を指摘されながらも勝利し、更なる大統領権限を勝ち得たトルコのエルドアン大統領に対し、西側指導者で唯一祝辞を送っている。この国民投票は、何万人にも及ぶ反対派や、それと見られる人物などの一般国民を不正逮捕し、拷問してきたエルドアン大統領が更なる権力を得、議会、裁判所から権限を奪い、メディアや反対派、国民の権利や自由を奪う権限を与えるものだ。一定のトルコの国民が今回の国民投票に賛成票を投じた理由は、議会政治によって改革が妨げられていると感じている事にある。改革の必要性を感じている有権者は、改革の為にはエルドアンという独裁者が、反対者を抑える為に更なる権力を得る事が必要不可欠であると考えているようだ。

Why did Turkey hold a referendum? - BBC News

大統領就任100日目を迎えるトランプ氏は、自身の掲げた政策の多くが達成されず、大統領特別指令を発して行なおうとした改革が達成できなかった原因を議会と司法に見出し、憲法によって定められ、権力の集中・専制を防ぎ, 政治の健全な運営をはかるために工夫された『抑制』と『均衡』の三権分立の制度そのものが国家にとっての災害であると批判している。

Donald Trump blames constitution for chaos of his first 100 days | US news | The Guardian

トランプ氏にとって、ドゥテルテ大統領の行なったような法によらない裁きや、エルドアン大統領が新たに得た権力の集中こそが、正しい政治や国家を立て直す為の改革に不可欠なのだろう。恐らくトランプ氏は、国家にとって必要な正しい改革が何であるか、「賢い」自分として承知しているつもりなのだろう。もちろんビジネスマンとしては、反対者を退けるやり方も通用してきたと思われる。

勿論トランプ氏は、いま例えこうした権限が与えられたとしても、批判者を投獄したり、反対派を暗殺するとは考えていないだろう。正しいと思われる改革を、まず反対者による妨害やメディアや有権者による批判を恐れずまず断行できさえすれば、反対者は自らの誤りを認め恥じ入るだろうと考えているかもしれない。そしてある一定以上のトルコ国民が、エルドアンに対し更なる権力を付与する事を良しとしたように、多くのトランプ支持者も、『アメリカを再び偉大な国とする』為に、トランプ氏が司法や立法の上に立ち、良いと思われる改革を、リベラル派やメディアからの批判に妨害される事なく断行する事を支持するだろう。彼らにしてみれば、「トランプ氏のする事に、悪い事がある筈はない」のだ。

しかしながら、このような『権力の集中』や、法による支配ではなく、人による支配を認めれば、必ず腐敗が生じる。また、潮目が変わり、立場が変わる時は必ずやって来る。自分の礼賛する『偉大な指導者』に与える権力は、自分の忌み嫌う反対派の指導者に与える権力でもあるのだ。

私は、あまりにも多くの人々が、自らの信じる改革の為に、それを実行しようとする権力者に絶大な権力を与えようとする現象に大きな危惧を覚える。

ロシアの場合を見てもわかるように、かつての民主主義国家が、民主主義国家としての自殺を図った例は多くあるのだ。民主主義国家としての自殺は、選挙を通してやって来ることを我々は弁える必要がある。

トランプ大統領の今日の敵

昨日トランプは、バスをチャーターして、民主党、共和党両党から成る全ての上院議員をホワイト・ハウスに招き、北朝鮮問題についてのブリーフィングを行なった。ところが、ブリーフィングを終えた上院議員らがワシントン・ポストに語ったところによれば、このブリーフィングにおいて、政策や対策、トランプ政権が何をしようとしているのかも含め、何ら新しい情報は無かったようだ。ワシントン・ポストは以下のように書く。

Trump administration talks tough on North Korea, but frustrated lawmakers want details - The Washington Post

 

『ブリーフィングを終えた上院議員らは、政権が現在の北朝鮮政策について、また北が進める核兵器開発計画にどのように対処するかの計画が知らされない事に不満を表した。「政権側は、正しい事をしようとしている筈だ」或る共和党議員は言う。しかし両党の議員は「従来の方針とどのように違うのか」全く聞かされなかった事について不満を漏らした。ブリーフィングは北朝鮮に対して、また北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験についてのごく簡単な質問への解答さえ提供しなかったようだ。何人もの上院議員は端的に「どんな政策なのか」と聞いたが、説明を行なった係員から、「具体的には殆ど何も聞かされなかった」という。』

北朝鮮問題に関するブリーフィングが急きょ上院議員らに対して行なわれたという事は、むしろトランプ氏が今まで知らなかった何かを学んだ為の反応、或いはトランプ氏が感情的に高揚した為ではないだろうか。ところがトランプ氏が驚いただけで、上院議員らはこれらの情報については既に熟知していたのだろう。

ロイターのインタビューに答えたトランプ氏の発言を読むと、トランプ氏は北朝鮮情勢についていくばかりかを学んだようで、過去の挑発的発言から後ずさりしている事が伺える。本格的な軍事紛争の可能性は未だあるものの、トランプ氏は「外交的解決」を希望しているようだ。

しかも何故か、中国の習近平主席について絶賛をしている。「習主席はとても努力をされています。彼は混乱や死などを望まれていない事は確かです。彼はとても良い人物で、私は彼についてよく知る事が出来ました。」

金正恩については、「彼はまだ27歳です。彼の父親が死に、政権を受け継ぎました。言いたい事は色々とあるでしょうが、難しい事です。特にあれだけの若さでは、難しい事です。彼について良い評価をしているのでも、していないのでもありません。ただ、難しい事を金正恩が行なっているのだと言っているのです。彼が正常な判断を行なう人物かどうかは、私は意見を持っていませんが、正常な判断を行なう人物であると望んでいます。

 

また、ロイター記事は続く。「しかしながらトランプは、韓国に対し、およそ10億ドルかかると思われるTHAAD(戦域高高度防空ミサイル)システムの費用負担を望み、またソウルとの貿易不均衡を解消する為に、韓国との自由貿易協定を解消するか、再交渉したいと語る。」韓国はこの要求に対し、「10億ドルも払えない」

北朝鮮問題が深刻となり、挑発的発言から一転したトランプ大統領だが、この期に韓国に対する『軍事費負担要求』と『貿易不均衡解消』を要求している。韓国がこれらの要求を呑まなければ、「米朝の防衛協定を破棄する」とでも脅迫するのだろうか。勿論、北朝鮮関係の緊張が高まっている最中、米朝貿易不均衡是正の要求に言及すれば、安全保障と引き換えに経済交渉を行なおうとしていると理解されても仕方がない。韓国はこの要求に対し、「10億ドルも払えない」と猛反発をしているが、韓国にしてみれば、意図的に北朝鮮との関係の緊張を高めるだけ高めておいて、安全保障の防衛を、揺すりたかりの手段に用いられていると感じても不思議はない。

なるほど、トランプ大統領にとって今日の敵国は、中国や北朝鮮よりも、韓国となったようだ。

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因みにトランプは昨日、一昨日と、何とカナダとの間に貿易戦争を始めようとNAFTAの解消を提案した。米国とカナダとの間に貿易不均衡は殆ど無い。今まで中国を相手に行なってきた批判を、そのままカナダに入れ替えた形だ。カナダからの材木に20%の関税を課すと主張したが、昨日はNAFTAの解消を訴えた。トランプ大統領はNAFTA(北米自由貿易協定)を解消すると発言しているが、NAFTAを解消すればFTA(自由貿易協定)が自動的に入れ替わる事を知らないようだ。80年代に結ばれた「自由貿易協定」が発動されれば、米国内の多くの製造業がカナダに移転すると考えられる。NAFTAに否定的なカナダ人が主張している不公平を、米国が体験する形となる。

 
NAFTAとFTA共に破棄されれば、農産物の輸出入が著しく阻害され、これらの貿易そのものが成り立たなくなる。
 

NAFTA(北米自由貿易協定)を解消すると宣言してから一夜明けた今日、トランプ大統領は以下のように宣言している。「私は今から2,3日の内にNAFTAを解消しようとしていました。メキシコの大統領、私は彼と良好な関係を築いていますが、彼が電話をくれました。またカナダの首相、彼とも良い関係を築いていますが、彼も電話をくれました。そして私はこの紳士らがとても大好きです。彼らから電話を貰いました。彼らは『NAFTAを解消するのではなく、再交渉をして頂けますか?』と言いました。私は彼らが大好きですし、彼らの国も非常に尊敬しています。彼らとの関係はとても特別なものです。ですので言いました。「解消は保留としましょう。もう少しフェアな取引ができるか、見てみましょう。」

 

トランプが、選挙期間中何度も不満を漏らしていた通り、日本と韓国との防衛協定を解消すると宣言する事は、決して想像に難しくない。そして次の日には言うかもしれない。「私は今から2,3日の内に防衛協定を解消しようとしていました。韓国の大統領、私は彼と良好な関係を築いていますが、彼が電話をくれました。また日本の首相、彼とも良い関係を築いていますが、彼も電話をくれました。そして私はこの紳士らがとても大好きです。彼らから電話を貰いました。彼らは『防衛協定を解消するのではなく、再交渉をして頂けますか?』と言いました。私は彼らが大好きですし、彼らの国も非常に尊敬しています。彼らとの関係はとても特別なものです。ですので言いました。『解消は保留としましょう。もう少しフェアな取引ができるか、見てみましょう。』」

要は、苛められる相手を「少し苛めてみたかった」のだろう。苛めた後は、丁寧に「交渉をしてみませんか」と勧められ、いかにも自分が上位であるかのように感じたのかもしれない。

諜報の専門家であるジョン・シンドラー氏は書く。「もしトランプがこの『F*** You! いや、ふざけてみただけ』の宣言を平壌に対して試したら、北東アジア付近やハワイには近づくな。」

 

どのヒラリー・クリントンのemailよりも国家安全保障と世界平和にとって深刻な脅威である、この無責任でナルシシズムの激しい、無知な苛めっ子に、よくよくの注意を払うことなく投票したのは、一体誰なのだろう。

核兵器保有国としての北朝鮮は、我慢ができないものか

ジョシュア・ポラックと言えば、「この人をおいて、北朝鮮について語ってはいけない」北東アジア地域の軍事情勢やミサイル拡散問題の専門家である。彼は米国が北朝鮮に対して先制攻撃を行なうか、否かの是非を、それぞれの利点と失点をあげて考えている点からも彼が専門家として誠実である事がわかる。

Skin in the Game: Why Worry about North Korean ICBMs?

彼の北朝鮮核開発に関する意見は、まずリンゼイ・グラハム上院議員のような強硬派による「今、北朝鮮を制止しなければ、北が核兵器所有国となった際には、北の軍事暴発を抑える為の被害は更に大きくなる」という意見も充分に理解している。また、北朝鮮との戦争となれば、米軍に多少の被害が出たとしても、米国まで届く遠距離ミサイルの発射実験が未だ成功を収めていない現状を考えて、米国本土が攻撃される可能性は、殆ど無いだろうと考えているようだ。この点は強調するところに差が出ても、殆どの軍事問題専門家が同意している。恐らく、米朝の戦争が今行なわれるとすれば、数週間以内に米国側の圧倒的勝利で終わるだろう。
 
しかしながら彼は、米国の同盟国である韓国と日本への多大な被害が、既に現段階で免れない点を重視し、『北が核兵器を所有する目的は、金体制の維持にある。金体制維持を目的とした北朝鮮の核兵器保有は、日韓の被る犠牲を引き換えにしても、我慢の出来ないものか』という疑問を投げ掛けている。この疑問は、リンゼイ・グラハム議員も認めている通り、「米国は必ず勝利する。しかし日本と韓国という同盟国、また貿易相手が被る被害は大きい」点に注目をしているのだ。これは日本国政府だけではなく、日本国民も真剣に考えなければならない問いではないだろうか。
 

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実際に、安倍政権はトランプ政権に対して、米国による北朝鮮への先制攻撃に対しての否定的見解を伝えている。
 
くり返すが、米朝の戦争は数週間以内に米国側の圧倒的勝利で終わると考えられている。勿論、中ロの出方は判らず、勃発的な事故や失敗によって、それまで予期しなかった結果をが生じる可能性はあるが、それでも世界最貧国の北朝鮮が米国に対する戦争に勝利をするとは考えにくい。それでも、日本と韓国に必ず生じる北の軍事攻撃による被害に引き換えても、北朝鮮が核兵器保有国となる事は我慢がならないだろうか。
 
ポラック氏の同僚、ジェフリー・ルイス氏は、国内に強制収容所を置き、国民を飢えさせ、世界一の人権侵害国である北朝鮮が核を保有し、金体制が続く事への道徳的不快感を述べつつ、それでも「日韓の犠牲を引き換えにしても、それは我慢が出来ない事か」、同様に問いかけている。
 

シリアの化学兵器はどこから来たのか

シリアのアサド政権が自国民に対して化学兵器を用いて虐殺を行なったことは、世界が認めている。これらの化学兵器は恐らく、イラク戦争が起こる前に、フセイン政権によりシリアに運ばれたものだ。

Inside the Ring: Syria, Iraq and weapons of mass destruction - Washington Times

2014年の秋、ニューヨーク・タイムズは「The Secret Casualties of Iraq’s Abandoned Chemical Weapons」とするイラクに遺棄された大量の化学兵器処理の為に、米軍関係者に多くの被害者が出ている事を報道した。これにより、イラク戦争のキッカケとなった大量破壊兵器の存在が再確認されるべきだったが、既に米国内には「イラクに大量破壊兵器は無かった」「イラク戦争は失敗だった」という見解が定着しており、オバマ大統領はイラク戦争を終わらせる事を自身功績として数えてあり、イラクやシリアにおける過激イスラム教テロ組織の台頭と共に、「実はイラク、シリアには未だ大量の化学兵器が遺棄されている」などと宣言すれば、これらの兵器が過激派の手に渡る危険が増す。

https://www.nytimes.com/interactive/2014/10/14/world/middleeast/us-casualties-of-iraq-chemical-weapons.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&version=Banner&module=span-ab-top-region&region=top-news&WT.nav=top-news&utm_source=huffingtonpost.com&utm_medium=referral&utm_campaign=pubexchange_article&_r=0

そもそもヒラリー・クリントン元国務長官の経歴の汚点となった『ベンガジ事件』は、イラク撤退の正当性を訴える為、イスラム教過激派組織の台頭等の脅威を軽視し、現地の情勢不安定を示唆する米大使館セキュリティー補充への要求を退け、「アルカイダは敗走している」と宣言した最中に起こっている。

New report claims al-Qaeda-Benghazi link known day after attack

イラクやシリアでの大量破壊兵器遺棄の事実も論じられないのも、イラク撤退の正当性を訴える延長線上にあるからだ。

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こうしたオバマ大統領の政治判断の是非は、勿論歴史が下すだろう。しかしながら、政権が民主党政権から共和党政権へと移行した後にも、トランプ大統領は『大量破壊兵器は無かった』という主張を繰り返している。トランプという人物は、自身の便宜の為にはどんな嘘や、矛盾する主張、はたまた陰謀説までも繰り返す事で有名である。であるからトランプ氏の発言をもって真実を知ろうとする人は、アメリカには殆どいない。しかしながら、彼がアメリカの大統領という立場から『大量破壊兵器は無かった」などと主張する時に、それがこれからの軍事政策や外交政策にもたらす影響は計り知れない。

トランプ氏が自身の都合の良いようにNATOを厄介者と繰り返したかと思うと、NATOを厄介者と呼んだのはNATOについて知らなかったからだと述べている。中国が通貨操作を行なっているとも繰り返していたが、習近平主席との直接会談の後には「中国は通貨操作を行なっていない」と180度の方向転換を行なった。それでも自分が間違っている事を認めたことは無い。イラク戦争に於けるブッシュ大統領やCIA機関等の情報が全て正しかったとは言わない。しかしながら、イラクからの撤退を優先させる為に実際にある脅威を無視し続けたオバマ政権の非は更に大きい。また、2014年の報道以降も『大量破壊兵器は無かった」と繰り返すトランプ大統領の厚顔無恥は、オバマ大統領を更に上回る。

Transcript of AP interview with Trump

 
イラクから、またシリアの至る所でサダム・フセイン政権から運ばれ、隠されたと見られる大量の化学兵器が見つかっている点は、疑いようのない事実である。これはオバマ政権の諜報機関ですら認めていた事実である。こうした事実すら認められない人々と、事実に関する議論をするつもりは無い。しかしながら、これからの米国の軍事戦略を考える為にも、イラクにおける大量破壊兵器の存在を認めた上で、イラク戦争の是非を考え直す事は必要だと思われる。

Are Syria's Chemical Weapons Iraq's Missing WMD? Obama's Director of Intelligence Thought So. | The Weekly Standard

『愛国者』らは、北朝鮮軍事危機を直視せよ

何人かの方々から北朝鮮の齎す脅威についてのご質問を受けた。諜報活動の専門家に言わせれば、残念なことにアメリカには北朝鮮に対する諜報網は無く、核戦争に至らなくても、韓国と日本は共に通常兵器での戦火による被害を被る距離にある。

Why North Korea Is a Black Hole for U.S. Intelligence | Observer

 
正直に言えば、国民の間に国防の意識が強い韓国よりも、日本の方が危機に直面していると指摘する声がある。北が南を攻撃すれば、韓国は必ず軍事報復を行なうし、反北ナショナリズムが高まる事は避けられない。韓国の核化を反対する声も殆ど無いだろう。しかしながら、日本のうちには未だ核に対するアレルギーが圧倒的であり、自らが武器を持って国防にあたるという意識がすこぶる低い。日本国憲法上の足枷を考えても、北に対する軍事報復は限られていると見る方が現実的だろう。北がいずれかの国を先制攻撃するならば、世界第9位の軍事力と15万人の在韓米軍を抱える韓国よりも、世界11位の軍事力と5万人の在日米軍を抱える日本の方が攻撃しやすい事は常識の範疇だ。

 

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いずれにせよ、実際に米軍が先制攻撃するにしても、核兵器を抱え、韓国と日本が人質に取られているような状況を考えれば、「中東の方が散歩のように容易である」と軍事問題専門家が嘆くのも理解できる。

The Real North Korean Missile Crisis is Coming | World Affairs Journal

 
北朝鮮が世界で最も厳しい経済制裁を既に受けている点を考慮しても、通常の報復処置は既に行なわれており、世界第二の軍事力と経済力を誇る中国とロシアの出方も予測がつかない。中ロとも、米国のカール・ヴィンソン母艦に対抗する形で戦艦を北朝鮮近海に運航させているが、特にロシアは、中国ですら賛成した国連による北朝鮮非難声明を阻止する拒否権を数日前に発揮している。万が一、米国が幾つもの妥協の末、中国からの協力や連携にこぎつけたとしても、プーチン・ロシアは、自らの存在感を誇示する為に敢えて軍事介入するかもしれない。
それでも、だからと言って25日に何かの軍事行動がいずれかの国によって起こされるとか、Xデーは何時いつか等のパニックに陥る必要も無いと思う。金正恩は予測不可能な狂人ではない。彼の望みは全て金王朝存続であり、自らの権力維持であり、核兵器開発にしても、その為の手段でしかないのだ。万が一北が先制攻撃をすれば、彼の王朝は必ず倒されるだろう。現在北がそうした危険を冒してまで先制攻撃を加えるとは考えにくい。
 
しかしながら、日本が歴史問題を理由とした安易な反韓ナショナリズムにうつつを抜かす余裕は全くない。日本は米国を軸とした韓国との軍事協力関係を結ぶ必要があるし、戦前の日本を彷彿させるような紛らわしい国内政治をもって韓国内の反日ナショナリズムを高めたり、懸念を強める愚かさからは脱却する必要がある。
 
日本が信頼される為には、戦前の日本の言動の正当性を強調する事には無く、現在の日本と戦前の日本のシステムや哲学が異なっている点を強調する方が遥かに正しいやり方なのだ。ナショナリストらの『戦前の日本は素晴らしかった』史観では、実際の軍事脅威を前にしても、日本の安全保障は守れない。この期に及んで未だ『嫌韓』ナショナリズムや慰安婦像に目くじらを立てるナショナリストらの主張は、日本の国益にとって百害あって一利なしである。
 
日本の安全保障は、どんな名誉意識よりも優先されなければならない。ナショナリストらの中には歴史問題ゆえに反米主義に凝り固まった人々すらいる。そういう人々に限ってトランプ支持者であったりするが、トランプ大統領の関心は、シリアやアフガニスタン、北朝鮮問題には無く、昨日は「メキシコとの国境の壁」に、今日は「カナダとの貿易不均衡」に移ってしまっている。注意欠陥多動性障害を抱えたトランプという大統領には、複雑な国際問題をじっくり腰を据えて長期的戦略練る能力が欠けているのだ。
 
勿論トランプは、思い出したように北への挑発的言動を繰り返すだろう。それでも彼に長期的政策を熟考する能力に欠け、現在のホワイトハウスは、ニューヨークの不動産業者とワンピースやハイヒールのデザイナーである娘夫婦ら、素人集団によって牛耳られている点は忘れるべきではない。マティス国防相の発言ではないが、アメリカは日本が自らの子供たちの安全を心配する以上に、日本の子供たちの安全を心配する事は出来ないのだ。
 
日本が必要としているのは、左翼の自虐史観でも、反韓日本至上主義でもなく、安全保障と経済発展を重視する「穏健中道の現実主義」である。例えここ何日かの危機を脱却したとしても、北朝鮮からの脅威がこれから更に高まっていくことに間違いはない。世界で起こる殆どの戦争や紛争は、意図した計画に基づいてではなく、判断の誤りや勃発的出来事によって引き起こされるのが常である。北朝鮮問題の『勃発』が後日に延ばされれば延ばされる程、大きな災害となる事も明らかだ。政府には同じ脅威に直面している韓国との間の軍事協力関係を結ぶ必要があるし、国民にはそうした現実的政治判断を支持する必要がある。

対北朝鮮カール・ヴィンソン母艦派遣騒動---盟国を困惑させるトランプ政権外交軍事政策

トランプ政権の外交軍事戦略は、シリア空爆後、再び危険な迷走をし始めたと言える。

 

シリア空爆の際には、米国務省や議会に空爆の旨を通知するよりも前に、アサド政権と同盟を組むロシア政府にそれを通告し、ロシア政府は当然の事、それをシリア政府に伝えている。通告から実際の攻撃までの1時間半の間、アサド政権は主要な軍用機を避難させ、殆ど被害を被っていない。翌日には、爆撃を受けた基地の滑走路から再び自国民を空爆する為の軍機が離陸された。
これらの事から考えても、ロシアやシリア・アサド政権に対し、本格的軍事対決する意思の全く無い事を示している。

まずアフガニスタン空爆は、ISISの資金源となる原油トンネルの一部破壊と36人のISIS戦闘員が殺害されたという点では、成功を収めたと考えられる。しかしながら、トランプ大統領がその挑発的な豪言壮語やいくつかの空爆によって、アフガニスタンにおけるISISやタリバンを制圧できる筈はない。例え2万千ポンド(約9,52トン)の爆弾が落とされたとしても、大規模の地上軍を長期的に置く事なしに、治安の回復や過激派の活動を止める事は不可能である。空爆に全く意味が無いとは言わないが、『米国が何かを行なっている』というジェスチャー以上の意味を齎さなかった点は、これまでに何度も指摘されている。むしろアフガニスタンへの空爆は、トランプ政権は、これまでのオバマ政権とは違うというジェスチャーを示す目的があったようだが、実質的な戦略の面で見れば、アフガニスタンにおける軍事作戦の行き詰まりを露見させただけだ。
シリア空爆やアフガニスタン空爆にせよ、これらの軍事行動が正しかったとしても、こうした強硬姿勢を補助する外交戦略が伺えない限り、地域の平和や同盟国の安全保障への貢献とは決してならない
 
アフガニスタン攻撃後のトランプ政権の外交軍事行動は、一貫した方針に従っているとは到底思われない。まずトランプ氏は、「最も美しいチョコレートケーキを食べながら」シリア空爆について中国の習近平主席に説明をしたとフォックス・テレビのインタビューで答えていたが、習主席については非常に良い好感を感じたようで、「我々の相性はとても素晴らしい」と絶賛し、選挙戦以来一貫して中国を通貨操作しているとする批判を一変させ、「中国は通貨操作をしていない」と180度立場を変換させた。
 
一変して「中国は通貨操作をしていない」という主張に変えた事に関して、トランプ氏は「北朝鮮問題で中国の協力が必要な時に、通貨操作をしていると言う事が益になる筈がない」と説明しているが、中国のみならず、ある国が通貨操作をしているかどうかは、協力を必要とする状況によって変わる主観ではなく、客観的事実が問われているのである。しかも蛇足ながら、中国は会談前と会談直後に貨幣政策を変えたわけではない。今日中国が通貨操作を行なっていないならば、中国は半年前も、あるいは一年前も通貨操作を行なっていないのだ。習主席との会談後のトランプ氏が主張した通り、中国からの協力を得る為に批判を控える事が重要な点は、トランプ氏が選挙公約として中国との対決を訴えていた半年前も、あるいは10年前も全く同様である。
 
トランプ氏はまた、北朝鮮のミサイル発射、また核開発問題における協力を習主席に求めたが、首席から中国と北朝鮮の関係の歴史と、北朝鮮との関わりの困難を説明され「人々が考えているよりもずっと複雑である事が、15分のうちに理解できた」と妙な理解を示している。そうかと言えば、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に対し、中国と朝鮮半島の複雑な歴史に言及する形で「かつて朝鮮半島は中国の一部であった」と誤った歴史観を述べ、多くのメディアにその誤った認識を批判され、韓国には「まともに反論する価値が無い」と一蹴されている。
 
トランプ氏は予測不可能な外交をなぜか良いものだと勘違いしているのか、ロシアやトルコの専制独裁者を称え続ける傍ら、アメリカにとって最も重要な同盟相手であるNATO(北大西洋条約機構)を指して「廃れている」と批判しているが、トランプ氏によって何度も繰り返されている、NATO加盟国がアメリカに対し負債を負っているかのような批判は、100%トランプ氏の無知によるものだ。NATO加盟国の軍事費2%の負担目標は、それぞれの加盟国が自国のGDPの2%を防衛費に使うという指針であり、ヨーロッパのどこかに中央銀行があり、NATO加盟国がアメリカに対して防衛費を振り込む意味ではない。であるから、特にロシアとの国境を接しない西ヨーロッパの国々がGDP2%を現在軍事費に充てていない事実があっても、アメリカに借金を負っている意味とは全く異なる。
 
予測不可能である事が最良であるかのような勘違いによる外交軍事上の信用失墜は、カール・ヴィンソン海軍航空母艦を北朝鮮に向けて航海させたという偽情報を流した事件に顕著に表れた。
 
4月9日、米太平洋艦隊はハリー・ハリス長官の指揮の下、カール・ヴィンソン母艦を8日、シンガポールから北に向けて出航させたと発表する。米太平洋艦隊のデイブ・べナム報道官は、ヴィンソン母艦の行動は「無責任で地域の不安定材料となっているミサイル発射実験や核兵器開発による北朝鮮の動向」が背景にあると説明している。

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4月10日、北朝鮮に向けてカール・ヴィンソンが運航されたという理解の上での記者団の質問に対し、ジェームズ・マティス国防長官はこれを否定せず、「現地に向って運航している最中」であると答え、ショーン・スパイサー大統領府報道官、又ホワイトハウス高官も4月11日、12日両日、この質問に答えている。トランプ大統領も11日、フォックス・ニュースのマリア・バーティロモのインタビューに答える際、「我々は最強の艦隊を(北朝鮮に向けて)派遣させている」と発言している。その後も12日、13日と、ホワイトハウス側は北朝鮮のミサイル発射実験や核開発によって高まる緊張に呼応する形でカール・ヴィンソン母艦派遣を示唆し続けたが、15日になり、米海軍の発表した写真により、ヴィンソン母艦の位置がシンガポールから南下している事が確認されている。それでも17日にはマイク・ペンス副大統領が「北朝鮮に対する戦略的寛容の時期は終わった」と宣言し、「過去二週間にわたり、世界はシリアとアフガニスタンに対する米国大統領の行動を見た。北朝鮮は、極東地域にある米国の戦力を試さない方が賢明だろう」と発言している。
 
同日、副大統領の発言後、ディフェンス・ニュースというメディアにより、カール・ヴィンソン母艦がシンガポールからオーストラリアに向けて運航している事が確認された。太平洋艦隊のクレイトン・ドス指揮官も、ヴィンソン母艦が朝鮮半島付近、及び日本海付近にはない事を認めている。

http://www.defensenews.com/articles/us-carrier-still-thousands-of-miles-from-korea

 

これにより、その他のメディアも続々とこれを報道したが、大きな疑問に上がったのは、なぜ政権側が意図的にカール・ヴィンソン母艦の位置を実際の位置とは違えて発表したか、という点だ。この疑問に対して、一部の無知なトランプ支持者らは「敵に正確な軍事行動を知らせるべきではない」と主張するが、彼らは本当に北朝鮮が米国メディアの報道によって米軍の行動を把握していると考えているのだろうか。実際には、戦艦等の位置を把握する事はそれほど困難ではなく、ロシアや中国の所有する最先端技術を誇るスパイ衛星によってカール・ヴィンソン母艦の位置が知られ、北朝鮮に伝えられていた事を疑う軍事専門家はいない。だからこそ、北朝鮮は15日にも、失敗したとは言え、新たなミサイル発射実験を実施できたのだろう。専門家でなくても常識的にわかる事だが、米軍や米国政府の発表によって騙せたのは、敵である北朝鮮ではなく、米国政府発表に頼った米メディアであり、韓国であり、また日本なのだ。
 
敵に対し、正確な軍事情報を伝える「愚かさ」を説くならば、トランプ陣営は、シリア空爆の二時間前にロシアを通し、シリアのアサド政権にイドリブ基地空爆の意図を伝えた「愚かさ」をまず反省するべきだろう。ところが、繰り返すがトランプ政権がかく乱させ、全く不必要な緊張を齎したのは味方である韓国、日本という同盟国だけである。同盟国に対しては、綿密な連携の下正確な情報を共有するのが当然ではないか。韓国の保守派大統領候補者である洪準杓氏は、こうしたトランプ政権の行動に、「トランプ大統領の発言は韓国の安全保障に非常に重要である。もしあの一連の発言が嘘であるならば、韓国はこれから、トランプ政権の主張を何でも信用することは無い」と厳しい声明を発表している。軍事政策専門家のマックス・ブート氏は、トランプ政権の流した偽情報に関して「敵を騙すなど不可能であり、ただ同盟国をかく乱させるというダメージだけは既に為された」と酷評している。
こうしたトランプ氏の勘違い、あるいは思い込みによる失敗は、思わぬ災害をこれから齎していくだろう。紛争や戦争が勃発する原因の殆どは、当事者が思っていなかった偶発的出来事による。予測不可能という外交政策、軍事戦略を目指す限り、被害を被るのは同盟国であり、一般市民である。アサド政権や北朝鮮、またロシアのような敵対国家は、トランプ政権の『レッドライン』、どこまでが許容範囲なのかを探る為に、軍事挑発を繰り返すだろう。その際に起こる失敗や偶然の出来事によっていつ紛争が拡大するか、戦争となるか、わからないのだ。
 
トランプ政権は、一貫した外交軍事政策を掲げ、無意味な挑発的発言により同盟国からの信頼を台無しにしない責任ある政治の舵切りをする必要に迫られている。アメリカ大統領の発言が信用を失う事は、世界の平和や秩序にとって計り知れない災害を齎すだろう。

米軍、シリア攻撃

木曜日夜、ドナルド・トランプ大統領は自国民に対して化学兵器を用いた攻撃を行なったシリアのアサド政権に対し、、そこから化学兵器爆弾を積んだ爆撃機が発射されたと見られるアル・シャヤラット空軍基地を米海軍戦艦からミサイル攻撃した。ロシアに対してアメリカは、アサド政権に向けた攻撃をすると直前に伝えており、ロシアとの交戦を避ける形でシリアへの攻撃が行なわれた。

Syrian Media Say ‘Enemy America’ Caused Damage to Air Base, Multiple Casualties - WSJ

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アメリカによる攻撃前、モスクワは相反するメッセージを送っている。

一つはプーチン大統領による、「アサド政権が自国民に対して化学兵器を使用し、攻撃した事実はない」という、ニッキー・ヘイリー米国連大使への「反論」であり、もう一つは「ロシアによるアサド政権支持は、決して無条件支持ではない」というメッセージだ。
 
プーチン大統領の反論は期待されていた反論であり、勿論事実に基づいたものではない。シリア独立派のメディアやオブザーバーたちの証言は全て、火曜日の攻撃がアサド政権によって行なわれた点で一致しており、爆撃機から化学兵器を投下したパイロットの名前も「ムハマッド・ユーセフ・ハス―リ大佐」であると明確にされている。西側の諜報機関と米軍は、この攻撃がアサド政権によって行なわれた事を認めており、これに疑いを抱く客観的理由はない。
 
プーチン・ロシアとの不透明な関係疑惑によって役割からの辞任に追い込まれたトランプの側近は、ジェフ・セッション司法長官(ロシア大使との面会を議会から隠していた事が発覚)、ポール・マナフォート、元選挙キャンペーン・マネージャー(クレムリンとの繋がりが深いウクライナ政府からの給与を得ていた。またロシアスパイとの金銭関係の為、FBIの捜査対象となっている)、カーター・ペイジ元外交政策アドヴァイザー(元ロシア副首相との間の、米国大統領選に関する不可解な諜報交換が疑われ、FBIの捜査対象となっている)、ロジャー・ストーン元アドヴァイザー(カーター・ペイジと同様、ロシア政府高官との諜報交換が疑われている)、マイク・フリン元国家安全保障委員会委員(ロシア政府高官との間の、対ロ制裁解除の約束が疑われ、FBI捜査対象となっている)等がいる。
 
トランプ大統領にとって、2013年以来大きなシリア市民の犠牲を前に、これ以上ロシア政府に対して迎合をしていると見られれば、オバマ大統領が犯した失敗よりも、オバマ政権の弱腰を批判していた手前、それを上回る大きな失点となるだろう。
しかしながら、ニッキー・ヘイリー国連大使が昨日の国連安全保障理事会で示唆した通り、米国の軍事行動がアサド大統領排除に向けたものであるとすれば、トランプ大統領の注意持続期間よりも更に長い長期的戦略や決意が必要となる。
 
青ざめて横たわるシリアの子供の遺体に胸を痛めたとしても、来週には彼らが『イスラム教徒』であり『過激派』であり、また『難民、移民』としてトランプ氏に映らない保証はない。個々の遺体を前に気の毒に想う感情の高揚がトランプ氏にあったとしても、人権侵害や人道に対する罪に立ち向かおうをする普遍的正義感がトランプ氏にあるだろうか。重要なことは、感情の高揚ではなく、絶対的な信念によって、米国の外交政策や軍事作戦が決められなければならない点だ。
3,000人に上るアメリカ人の犠牲を前にしたジョージ・W・ブッシュ大統領でさえ、いざ開戦となり米軍に被害が出るにつれ、国民の中の厭戦感情による支持率の低下を招いた。フセイン大統領が有していなかった筈の無く、いずれはテロリストの手に渡っていただろう大量破壊兵器を巡るイラク戦争については、その開戦後、トランプ氏は反対を主張していた。強硬姿勢を示す為に僅かの空爆を行なっても、一般市民の犠牲を増やすだけで、アサドの排除には繋がらない。

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                  4月4日の化学兵器爆撃を行なった爆撃機の空路を示す地図

アサド排除の為には、地上軍の派遣、また戦争の拡大を防ぐ為には、アサド政権を支持するロシア、イラン等の外国軍の排除が何よりも必要だ。トランプ大統領は、中国の習近平主席との会談を終えた後、シリアへの空爆について声明を発表した。

Dozens of U.S. Missiles Hit Air Base in Syria - NYTimes.com

 

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「今夜私は、化学兵器による攻撃が行なわれたと思われるシリアの空軍基地を限定攻撃する命令を出した。化学兵器の使用と拡散を防ぐ事は、アメリカの安全保障という国益にとって重要である」
 
トランプ大統領の声明は全くもって事実である。この点は、マルコ・ルビオ上院議員も指摘している。
 
「この子供たちが見えますか? 自分がこの子供たちの父親であると想像して下さい。そして自分の子供たちが政府による毒ガス攻撃で殺されてしまったと。そういった政府を、正統な政府であると受け入れられる筈がありません。あなたは、政府があなたの子供、家族に対して行なった事により、憎しみと復讐心に駆られるでしょう。自分をその立場に置いて下さい。
 
そしてこれらの人々、こうした多くの人々は、シリア内の銃や資金を持つ組織、それがどんな組織であっても、アサドに対抗する為に加わるのです。ただアサドに復讐する為に、彼らは知る限りの反アサド組織に加わるのです。
 
そして悲劇的な事に、ジハーディストでない、少なくともジハーディストではなかった多くの人々が、過激ジハーディストの組織に加わる事になるのです。何故なら、アサド政権に対して戦うための最も多くの武器や資金を持っている組織は、過激ジハーディストの組織しかないからです。そして彼らはただアサドに対する復讐心の為にこれらの組織に加わるのです。彼らがこれらの組織に加わる動機は、自分の子供、家族に対してアサドが犯したことに対する報復です。
 
だからこそ、アサドは排除されなければなりません。バシャール・アル・アサドがシリアにいる限り、シリアから過激派の要素は無くなりません。(結局、こうした人々は)アサド排除の為に戦うだけではなく、海外に過激イデオロギーを広める為にも戦う事になるのです。
 
これは我々の安全保障という国益に関わる問題です。全てのアメリカ人にとっての関心であるべきです。これは国民としての我々にとって重要な問題です。これは我々が何者なのかという本質的な問いかけであるばかりでなく、我々の安全保障にも関わります。これを無視する事は出来ません。」
米保守派の中の、多くの『ネヴァー・トランプ』と言われる、普段はトランプ氏に反対する人々も、今回のトランプ大統領によるシリア空爆の決断を支持している。リンゼイ・グラハム上院議員は「今は、大統領にとって、外交政策と独裁者に対する政策において、彼が『オバマ大統領』とは違うことを証明する良い機会だ」と語っている。その通りだろう。軍事作戦後、グラハム議員とジョン・マケイン議員は、トランプ大統領による軍事行動を支持する共同声明を発表した。
 
ロシアの出方は予測がつかないが、ロシアが西側からの更なる制裁や報復の危険を冒してまでアサドという人物に固執するだろうか。アサド個人を排除する事はそれ程不可能ではないかもしれないが、問題はそアサド後のシリアだ。アサド後のシリアからアメリカが撤退すれば、力の空白を招き、再びロシアやイラン、あるいは中国の勢力拡張を招く事となる。
 
中東での軍事行動は、予測のつかない事態に繋がる可能性が常にある。トランプ大統領の決断は正しかったと言えるが、この後、彼は議会と軍、諜報機関との綿密な戦略を立て、彼らからの助言に耳を傾ける必要があるだろう。