一流メディアと『フェイク・ニュース』

政治について、私は右派とも左派とも議論を交わし、事実関係や理解において自分が誤っていたと考えた時には、随時誤りを認めてきた。左派の主張が正しいと思われた時にはそれを認め、その主張が誤っていると思われた時にはそれを批判してきた。右派についても同様である。

多くの人々が関わる政治や言論の場は、完全な正義や完全な悪が存在し得る場ではない。少なくとも、ある場合には正義に立っていた人々が別の機会には誤っている事もあり得る。またある点に関してはそれなりに正しいが、

例を挙げれば、中国共産党支配下にある中国で、法輪功の信者らが生きたまま臓器を摘出される『強制臓器摘出』等の、醜悪でおぞましい人権侵害を受けている事は、事実である。法輪功信者の人権侵害は看過されるべきではないし、彼らの信教の自由も保証されるべきだ。また彼らが発する中国政府による人権侵害には、耳を傾ける価値がある。

しかしながら、では法輪功信者が設立したメディア『エポック・タイムズ』が発するニュースは常に正確かと言えば、必ずしもそうとは言えない。むしろ意図的な情報操作を行ない、政治目的を達成しようとしているメディアの一つであると言える。同社は『反ワクチン』や『ディープ・ステート』『終末裁判』等の陰謀説を流し、つい最近も、米国大統領選挙に関して、トランプ大統領が獲得した選挙人を232人とする傍ら、バイデン元副大統領が獲得した選挙人を227人とし、『トランプ氏リード』と報道している。どのように選挙人数を計算したかについて、エポック・タイムズは他社メディアの取材に答えていない。恐らく、未だ集計が全て終了していない州、及び、トランプ陣営が裁判に訴えたアリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ペンシルヴァニア州、ウイスコンシン州の選挙人数をバイデンから引く一方、集計を11月12日まで続けるノース・カロライナ州はトランプ勝利と見做しているのだろう。2019年には、トランプ再選に向けたフェイスブックの広告を、トランプ陣営に次いで多く出している。それらを考慮すれば、同メディアがトランプ再選に向けた意図的な情報操作を行なっているのは、明らかだ。

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https://www.usatoday.com/story/news/factcheck/2020/11/12/fact-check-electoral-maps-showing-donald-trump-lead-false/6261153002/?fbclid=IwAR1eWgqjl6rdVvJcJQW96CajXS-_WZhppwFcKhAIZuRH7ahF17JbqKBxs2Y

バイデン氏の勝利は、ニューヨーク・タイムズやCNNなど、トランプ氏に批判的な主要メディアだけではなく、ウォール・ストリート・ジャーナルのような一流の保守系新聞や、トランプ氏に近いフォックス・ニュースも伝えている。

熱心なトランプ支持者をはじめ、ジャーナリズムに詳しくない人々は、CNNやニューヨーク・タイムズなどを左派メディアとして受け取り、その報道の全てが誤りであるかのような誤解をしている。こういった誤解は、特にトランプ大統領が主要(左派)メディアを指して『フェイク・ニュース』と呼ぶ事によって、更に煽動されてきた。ところがニューヨーク・タイムズやCNNなどの左派メディアであろうと、或いはやや中道寄りのワシントン・ポスト、及び保守派メディアであるウォール・ストリート・ジャーナルやフォックス・ニュースであろうと、ニュース報道に関しては、大差は無い。報道部門においては、リベラル派メディアが民主党に不利となる情報を報道しなかったり、保守派メディアが共和党に都合の悪い報道を控える事も無い。例を挙げれば、ヒラリー・クリントンのemail疑惑を暴露し、第一に報道したのはニューヨーク・タイムズであり、またバイデン氏のアリゾナ州勝利をいち早く予測したのはフォックス・ニュースであり、同氏の選挙人獲得数を270人超して見積もり、CNNやニューヨーク・タイムズに先立ち当選確実と報道したのは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙である。そしてこれらの一流メディアの報道が誤りでは無い事は、その後に続く他社メディアの報道や引用で確かめる事が出来る。

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(トランプ氏の弁護人、ルディージリアーニ元ニューヨーク市長による「選挙において不正工作があった」とする記者会見に事実がない事を報道するフォックスニュースの記者)
https://twitter.com/brooklynmutt/status/1329503459444465666?s=09

 

メディアの政治趣向の違いが際立つのは、オピニオン部門や、インテビュー内容、或いは主張を述べる際である。であるから特にフォックス・ニュースにおいては、報道部門のクリス・ウォレスがトランプ批判をしたり、ブレット・バイヤーがバイデン勝利を認めた後に、オピニオン部門のショーン・ハニティーやローラ・イングラム、ジャニン・ピロらが「選挙が盗まれた」、「選挙は終わっていない」等、昼間の報道とは真逆の主張を、プライムタイムの視聴者に訴える流れになっている。

トランプ氏登場後のメディアの傾向として、リベラル派一流紙の一つであるワシントン・ポストの中道路線化が挙げられる。保守派一流紙であるウォール・ストリートが取り上げてくれないトランプ批判を共和党支持者が行なう際には、そうした寄稿文はワシントン・ポストに多く寄せられる。共和党タカ派であり、トランプ政権では国家安全保障問題担当補佐官を務めたジョン・ボルトン元国連大使は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙だけではなく、ワシントン・ポスト紙にも多くの寄稿文を寄せている。2018年に死去したチャールズ・クラウサマ―は、フォックス・ニュースとワシントン・ポストの政治解説員を務め、また一流週刊誌である『タイム誌』にも寄稿している。保守派のコラムがニューヨーク・タイムズに掲載され、リベラル派の意見がウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載される事もある。「反対派の意見は掲載しない」となれば、「私たちは偏向しています」と自ら宣言するようなものだ。保守派によるコラムであっても一流紙の基準に恥かしくない内容であったり、またその価値があると認められれば、ニューヨーク・タイムズは掲載をする。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も同様だ。トランプ氏があれだけ「フェイク・ニュース」と罵倒しながら、ニューヨーク・タイムズにせよ、ワシントン・ポストやCNN、またタイム誌などの評価を気にしていたのは、彼らが一流メディアであると認めていたからでしかない。

但しオピニオンや主張であっても、一人のジャーナリストなり、記者なりの考えが、すべて左右のバイアスを通して語られる訳ではない。CNNのジェイク・タッパーはトランプ批判も行なうが、一方『ネーション・オブ・イスラム』を指導するルイス・ファラカーンの反ユダヤ主義も厳しく批判する。もともとウォール・ストリート・ジャーナル紙のジャーナリストであったブレット・スティーブンズは、ニューヨーク・タイムズ社に籍を移した後も、トランプ批判を行なう傍ら、左派の行き過ぎにも厳しい。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のペギー・ヌーナンは、右派にも左派にも厳しい批判をする傍ら、称賛されるべき点は惜しみなく称賛する。それはそうだろう。ジャーナリズムに忠実であろうとすれば、事実を無視する事は出来ないし、右派にも左派にも極論や誤りがある一方、称賛されるべき事柄もあり得るのだ。

当然ながら、主要メディアの報道であればすぐに「フェイク・ニュースだ」と一蹴する人々は、米国ジャーナリズム界を担う人々の名前を挙げる事ができない。また彼らのプロフェッショナルな責任感や使命感、報道歴を知る事も無い。プロフェッショナルなジャーナリストと『政治商人』やプロパガンディストの区別をつける事が出来ないのだ。だからこそ十把一絡げに全てのメディアを『フェイク・ニュース』を呼べるのだろう。「フェイク」を連発する人々は、CNNならCNNだというだけで『フェイク・ニュースだ』と決めつけているにすぎない。繰り返すが、CNNもFox Newsも、事実そのものを報道するニュース部門においては、大差はないのだ。

私は特に、右派への批判を念頭に入れてこれを書いている。彼らの最大の誤りは、フェイク・ニュースに警戒する事は良いとして、一方、『エポック・タイムズ』や、『QANON』『OANN』『インフォワー』、『ゲイトウェイ・パンディット』、『ブレイトバート』など、陰謀論を唱えるメディアや完全なプロパガンダ・メディア、それこそ『フェイク・ニュース』と呼ばれるメディアの主張を鵜呑みにしている点にある。

この点について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のペギー・ヌーナンは11月19日のオピニオン・コラムで以下のような洞察を記した。

『続々誕生した保守派のリーダーたちは、バーチャー(反共産主義の右派陰謀論グループ、ジョン・バーチ・ソサエティー支持者ら)を恥かしく感じ、保守派運動が(これらの人々によって)台無しにされる事を望まなかった。しかしバーチャーらに同情的な有権者たちを疎外する事もしたくなかった。(どの運動にも愚か者はいる。)ところがラッセル・カーク、バリー・ゴールドウォーター,ウイリアムF・バックリーは(こうした懐柔主義)を押し返し、バーチャー・ソサエティーのリーダー、ロバート・ウェルチを「常識から乖離し過ぎている」を呼ぶ。アイン・ランドですらこの声に加わる。「(アメリカの苦難が共産主義国による共謀であると考える事は)子供のような幼稚さであり、軽薄である。」ともかく「彼ら(バーチャーら)は資本主義者とは言えない。反共産主義と言える訳でもない。」

ジョン・バーチ・ソサエティーが色褪せたのは、これらの保守派指導者らが集まり、彼らの運動を(バーチ・ソサエティーとは)別の方向に変えたからだ。こうして近代保守派は、病んだ運動ではなく、健全な運動として誕生したのだ。

私はこれらの事を考え、質問が湧いた。「もしジョン・バーチ・ソサエティーがインターネット上に在り、インターネット世代に生き、言い掛かりや、脅しや、暴力的な会話が瞬時の間に国を駆け巡り、匿名の声が利潤や快楽の為に世論を刺激する事が出来たら?」バーチ・ソサエティーはきっと廃る事なく、繁栄をしただろう。

我々は皆、インターネットの為し得るこの一面について、20年間、訴えてきた。過激主義を可能とし、奨励するインターネットの能力への我々の警告は古く、無感覚になってしまっている。しかしながら我々は今の時を、我々の中の最も無責任な者たちが、大きな土台を揺るがした時代として思い返すだろう。』

A Bogus Dispute Is Doing Real Damage - WSJ

 

ここでヌーナンが言っている「我々の中の最も無責任な者たち」は、インターネット上に在る利潤や快楽の為に世論を刺激する匿名の声を指す。また「大きな土台」とは、民主主義やシステムへの信頼を指すと思われる。

多くの人々が、フェイク・ニュースが何たるものか知らず、またプロフェッショナルなジャーナリズムの重みも知らず、情報の世界を怪しげな伝聞と大それた陰謀説で氾濫させてしまっている事に、私は恐ろしさすら感じる。多くの人々は、一流紙や社会的責任のある大手メディアに騙されまいと、陰謀説を垂れ流すフェイク・ニュースに靡いているのだ。「メディアが報道しない真実」などは殆ど無い。報道しないとすれば、報道する価値が無いからだ。「メディアは報道しないが、きっと大きな陰謀があり、我々は騙されているに違いない」というのは、単なる無知を土台とした疑心暗鬼に過ぎない。陰謀説やフェイク・ニュースに惑わされたくないならば、まず一流紙と呼ばれる新聞を丹念に読むことだろう。刺激的ニュースは少ないかもしれない。当然だろう、常識よりも非常識の方が刺激は多いものだ。

またソーシャルメディアの発達によって、多くの無責任な情報が氾濫するようになった事は、一流と呼ばれるメディアの発信を理解する為に必要な、読解力と情報処理能力の低下を促進しているようにも思える。ソーシャルメディアを使う人々の多くは、記事の内容を読まずに見出しだけで満足し、賛否を決める傾向がある。見出しというものは、出来るだけ多くの人に読んでもらう為に、興味を書き立てる表現をする場合が多い。これが却って、「記事を読まないまま、わかった気になってしまう」錯覚を生じさせているのだ。

特にツイッターなどに於いて、多くの人々がツイートされた記事を読んでいない事は、投稿に対して残されているコメントを見ればわかる。米国メディアだけではない、日本語発信も行うBBCやロイターであっても、メディア社名と見出しだけで内容を判断し、「フェイク・ニュースだ」と決めてかかる人々の、何と多い事だろう。こういった人々は、結論に至るまでの論理の辿った経過を知る事なく「大手メディアは嘘をついている」という疑心暗鬼のまま、知りたい情報を教えてくれる無責任な声に靡いている。実際には、右派メディアであろうが左派メディアであろうが、社会的責任の伴う一流紙などは、幾人もの人々が関わり、綿密な調査と論理に従って情報を提供し、誤りが認められればそれを訂正する。それに引き換え『エポック・タイムズ』や『インフォワー』などは、政治目標達成の為の情報発信をしているのであって、そもそも客観的事実の提供は視野にない。

政治趣向や意見が気に入らない場合もあるだろう。しかしながら、せめて保守派、リベラル派各社新聞の読み比べを行ない、事実はどうなのか知ってから判断する事は、決して悪い事ではない。多くの人々が、「大手メディアに騙されている」という疑心暗鬼に取りつかれたまま、プロパガンダに没頭しているのだ。

自分の期待や願望に固執する限り、事実は見えてこないだろう。これらの人々は、大手メディアによって騙されているのではない。事実に逆らい続けているのだ。事実は感情とは別に存在する。多くの人々の感情が事実から乖離して存在する限り、現実社会を理解する事は不可能だ。

「日本は謝罪していない」という意識

昨日息子に「なぜ韓国の人は、北朝鮮人の事を嫌いな以上に、日本人が嫌いなの?」と聞かれた。
息子はアメリカで育ち、学んでおり、政治の話も、米国の政治についてしかしていない。日本については「日本語の読み書きができるように」と大学のクラスで日本語を受講し始めてから、興味を持ったようだ。「なぜ韓国の人は、…日本が嫌いなの?」という質問も、恐らく大学のクラスで学ぶ内に、どこかで知った情報なのだろう。
私はまず「なぜ韓国の人々が、一般の北朝鮮人を嫌うべきだと思うの?」と聞き返した。日本も1945年8月のソ連侵攻によって国土が共産主義と資本主義(及び民主主義)に二分されていたら、民主主義地域に生きる日本人は、共産主義下に置かれた北方の日本人を憎むだろうか。
およそ息子の聞きたい事は、「なぜ韓国人は、北朝鮮政府を敵視する以上に日本を敵視するのか」という疑問だろう。特に国民の権利が保証されていない国においては、政府の責任を国民に押し付ける事は出来ない。私は北朝鮮政府と北朝鮮人とは違うという事を説明した。
次に「なぜ韓国人は日本人を嫌うのか」という質問だが、私には自分なりの考えが無い訳では無いが、私の見解は日本人としての私の見解である。出来るだけバイアスのかかっていない理解を息子には得て欲しい。「なぜ韓国の人は」という質問は、韓国人の感情について聞いている質問であり、私がそれを正しく理解しているとは思えないのだ。
と言う訳で、私が尊敬している、ある韓国人の方に、息子に代わって質問をしてみた。その方が挙げた回答は、およそ次のようなものだ。
 
---根底には、植民地支配や慰安婦問題などの歴史問題のわだかまりがあげられます。けれど、嫌悪感情や、いわゆる「反日」と言われるナショナリズムの高まりは、ここ30年の間に運動家らによって作られたものです。また「謝罪も補償もしない、厚かましい日本」という誤った認識の定着が、歴史上のわだかまり以上に大きな反発の原因となっています。---
 
なるほど、と思う。日本人の私とすれば、「日本は既に補償し、何度も繰り返し謝罪したではないか」という思いが反射的に浮かぶ。「なぜ韓国の人々は、日本が何度も謝罪した事を認めないのだろう」という疑問も湧いた。
しかしながらふと、「日本人はどう考えているのだろう」という疑問が生じた。
日本人保守派の間には「日本は悪い事はしていない。謝罪しなければならない違法行為は、何も行なっていない」という声がある。河野談話に反対した人々も、2015年の日韓合意に反対した人々もいる。日本政府がお詫びらしきものを匂わせる声明を発表する度に「よけいな謝罪はするな」と憤る人々もいる。
実際に、私もその一人だった。日本政府や外交官らが謝罪らしき発言をする度に、「慰安婦問題での誤解を解こうと苦心しているその努力に、水を差すようなものだ」と憤り、 アメリカ人から「日本は悪い事をしていないと言っても、日本政府は謝罪をしたでしょう」と聞かれる度に、「政府が誤るから誤解が定着するのだ」と感じた一人だった。私自身が、日本政府による謝罪を何とか打ち消そうとしていた一人だったのだ。
私の知る日本人保守派の間にも、「謝罪は一切必要無い」から「何度も何度も回数を重ねて謝罪する必要は無い」「河野談話は真の謝罪ではなく、日韓政府高官による政治工作の産物だ」「日韓合意によって誤った解釈が国際社会に定着する」など、出来るだけ「謝罪ではない」を定着させたい人々がいる。ソーシャル・メディアを使った日本人同士の議論の場でも、謝罪したか否かで意見が異なる。「謝罪した派」の中でも、「くり返し謝罪しなければならない程の悪事を行なったか」となると、殆どの保守派は「否」と答えるだろう。更に、「なぜ謝罪したのか(謝罪したのは国際法を犯したからか)」と聞けば、「謝罪した派」の中の意見も細かく分かれるのだ。
多くの日本人ナショナリストは、政府が謝罪した事を認めても、謝罪への誠意については出来るだけ過小評価したいのだ。出来るだけ誠意の無い謝罪を、国際社会に気付かれないままサラリと述べて、「未来志向」の二ヵ国関係を築こうとする。であるならば、韓国の人々が「日本人の謝罪には誠意が無い」と考えても仕方が無い。
日韓のナショナリズム感情は、「謝罪」の事実を対極する方角から眺め、お互いを非難しつつ、それでいながら結論は「謝罪ではない」と恐ろしく似通っているのだ。
 

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 個人的な意見として、私は過去の謝罪や補償は最大限宣伝され、評価されるべきだと思う。破棄されたとはいえ2015年の合意などは、国際社会の記憶が新しいうちに日本の正式な立場として強調されるべきだ。但し(大声で宣伝する事でも無いが)それ以降の謝罪の必要を感じていない。必要とされるのは謝罪ではなく、ナショナリズムを抱えたお互いを理解する努力、違った意見を認めながら協力する分野においては協力し、評価し合う姿勢ではないだろうか。
私はこのように考えるが、こうした考えすら多くの人々は反対するだろう。右翼でも左翼でもない、穏健な人々の交流が切れてしまわない事を願う。
ポーランド人学者、アンジェイ・コズロウスキー教授は、「日韓の歴史問題の拗れは、現在声を大きくする両国の右翼と左翼の活動家らがこの問題に疲れ切ってしまうまで、解決しないのではないか」と匙を投げている。あたかも日韓の歴史問題は、双方のナショナリズムによって和解できないように仕組まれているかのようだ。
実際に、黒人奴隷の歴史、ルワンダの虐殺など、議論すればするほど対立が深まる歴史問題は多く存在する。実は北方領土問題も、原爆についても同様である。むしろ歴史問題とは、そういう問題かもしれない。「目覚め」れば目覚めるほど、お互いの傷が深まる歴史問題は多いのだ。これは勿論、議論をするな、問題意識を持つな、という意味ではない。一定以上の議論、議論が白熱化した後の更なる議論は、却って溝を深め、和解を遠のける傾向があるという観察でしかない。
私には、日韓の間に横たわる問題が、程度の差はあれ、そうした歴史問題の一つではないかと思える。
 
 

私はなぜトランプに投票したか

私と18歳の長男は、11月3日の投票日の数日前に、2020年の大統領選挙及び米国上院選挙に向けた選挙人登録を行ない、投票を済ませた。正式の投票日は11月3日であるが、投票は郵送でも出来る。郡のオフィスで選挙人登録をする際に、郵送での投票用紙を受け取り、また受け取ったその場で用紙に記入し、投票用紙を提出する事ができた。

私は元々、今回の大統領選挙への投票に乗り気ではなかった。どちらも良い候補者であると思えなかったからだ。ところが政治に強い関心を持つ長男は、投票を渋る私に対して説得を試みてきた。長男は「ママ、投票は国民の義務だから」と言う。私は「義務ではなくて権利でしょう」と応える。投票は国民の義務であるという意識を持つ人、また場合もあるが、憲法はこれを国民にだけ認められる権利として定めている。すると長男は「ママ、投票したくてもできない人々の為にも投票して」と返す。私と子供たちは、何年にも及ぶアメリカ国籍取得への手続きを全て済ませ、先月、国民としての忠誠を感慨深く宣誓をしたばかりだ。アメリカに永住権を持つ日本人の間に、米国の市民権(国籍)を取得する人々は、他国の永住権保持者と比較して非常に稀であると、移民法を専門とする担当弁護士から聞いた。長年米国に暮らしている人でも、年を取ると日本に帰りたくなるらしい。そうした気持ちがわからない訳でもない。ただ私の場合、子供を米国で育てており、子供のスポーツや家族、友人らを通しての帰属感がアメリカ社会に対して、強く、自然にある。また米国保守派の視点からその歴史や政治、使命を考えてきた為、アメリカという国の国民である事に大きな意義と感謝を感じてもいる。こうした感慨は、イスラム教国や旧共産主義国等から逃れてきた多くの新移民らにも通じるものだ。

 

私は何日も、どちらの候補者に一票投じるか考えた。熟考のうちに挙げたドナルド・トランプとジョー・バイデンの比較を、思い返すまま記してみる。

 

2016年の大統領選挙の際、私はドナルド・トランプの公約や人となりから考えて、民主党からの大統領候補であったヒラリー・クリントン元国務長官の方が、よりマシな候補者であると主張した。当時の民主党や当時の状況を鑑みれば、その考えは今も変えていない。ところがそれから4年が経過し、2016年当時には存在しなかった状況や変化が生じている。特に2020年は大統領弾劾裁判に始まり、新型肺炎の蔓延、それによる社会封鎖、またジョージ・フロイドの死をキッカケとして全国に広がった『ブラック・ライブズ・マター』運動による反警察の気運が高まり、各地で暴動が起きた。またワシントン州シアトルの一部ではブラック・ライブズ・マター支持者とアンティファという過激左翼グループにより『CHAZ』という『自治区』が設けられ、オレゴン州ポートランプでは、こうした極左のデモ隊によって連邦裁判所の建物が放火された。またニューヨーク・タイムズ紙には『1619プロジェクト』とする「1619年、最初の黒人奴隷がアメリカ大陸に連れてこられた。アメリカという国の歴史がそれを基として始まる」という政治プロパガンダが発表され、物議を醸す。これら全ての出来事の非をトランプ大統領なり、共和党、民主党に押し付けるつもりは無い。しかしながらこうした出来事に、党として、また政治家としてどのように対応するかは、有権者として注視していた。

私は共和党支持者であるが、決してトランプ支持者ではない。私が支持するのは、ロナルド・レーガン大統領から始まり、ジョージ・ブッシュ父子大統領、故ジョン・マケイン上院議員や、ミット・ロムニー上院議員のような、同盟国を重視し、「小さな政府」「自由貿易」「アメリカン・エクセプショナリズム(アメリカには全ての人々の自由と人権に対して、特別で貴い使命がある、という外交政策を考える上での本質的な信条)」を信じる、正統的保守派の共和党政治家の支持者である。第二次大戦の直前にヒトラーの危険を見過ごし、「アメリカ以外の国はどうなっても良い」という意味で使われた『アメリカ・ファースト』というスローガンをそのまま使用するトランプ氏は、保守派政治というよりも、リバタリアン主義に近い。尤もリバタリアン派は、外交政策では民主党のような「不介入主義」を唱えるが、国内政治ではその他の共和党と意見を同じくする為に共和党の一部としてある。トランプ氏が主張し、実行したシリアとアフガニスタンからの撤退をいち早く支持したのが、共和党リバタリアン派のランド・ポール上院議員であった事は、不介入主義がリバタリアンの真髄にあるからだ。

シリアやアフガニスタンからの撤退は、オバマ政権によるイラク撤退と同様、地域に力の空白を生じさせ、ロシアやイラン、トルコのような大国、またISISのようなイスラム教過激派の勢力を伸ばすキッカケを作る。トルコのエルドアン大統領との直接電話会談の直後、ツイッターを通して発表されたトランプ氏の『シリア撤退』に反発する形で辞任したジェームズ・マティス国防長官(当時)の心情は想像にあまる。

私は、トランプの彼の人となり、無知、大統領としての品格の欠如だけではなく、自分のビジネスの為の利益を追求し続ける腐敗体質も指摘してきた。『メイク・アメリカ・グレート・アゲイン』の掛け声は別として、彼には何がアメリカを偉大な国としてきたのか、全く理解できていないのではないか。故ジョン・マケイン上院議員のように、自分を犠牲にしても国や社会へ貢献するなど、トランプ氏は考えた事もないだろう。歴代共和党政治家の人格と比較して、彼は深い知識なく大声で喋りたいだけ喋る無責任なラジオ番組の司会者のようだ。そうした資質を新鮮に、面白く感じる人もいるだろうが、大統領としては余りにも相応しくない。左派メディアによる、ブッシュ元大統領やミット・ロムニー上院議員、ブレット・カヴァナー最高裁判事、エイミー・コニー・バレット最高裁判事らに対する批判は、ヒステリックな言い掛かりに過ぎない。しかしメディアによるトランプ氏批判は、殆どはトランプ氏自身が招いた、やむを得ないものではないか。彼が「歴代米大統領の中で、最も野卑で下品な人物である」となぜ言われるか、左翼メディアに頼らずとも、彼自身のツイートを読めば理解できる。共和党の歴代大統領や政治家だけではなく、民主党のジョー・バイデン元大統領と比較しても、バイデン氏の方が良識がある事は間違いない。バイデン氏は上院議員に当選した直後、初めの夫人と一歳の女の子を交通事故で失っている。車に同乗していた二人の息子は生き残ったが、生き残った二人の息子のうち、長男のボー・バイデンは、2015年脳癌により死亡している。バイデンが見せる、痛みを抱えた老若男女の国民への共感、思いやり、励ましは真実のものである。彼は2020年の大統領選挙候補者としてノミネートされた後も、どもりや、それを原因としたいじめで苦しむ少年に、自ら定期的に連絡を取り、アドヴァイスをしていたようだ。民主党大会ではこの少年が、バイデン応援のビデオメッセージを送り、多くの人々が感動の涙を流した。https://www.youtube.com/watch?v=UbDanLDO_rc

https://www.youtube.com/watch?v=8YofSo-GTN4

またバイデン氏は、2018年に癌で死亡したジョン・マケイン上院議員の親友でもあった。彼らは政策について意見を異にしたが、議会の場で激しい議論を交わした直後、二人でランチを楽しむ間柄でもあった。バイデンは末期の脳癌を患うマケイン議員の娘、メーガン・マケインに対し、勇敢な父親(ジョン・マケイン)を信じ、希望を持ち続けるように励ましている。その励ましに偽りは無い。マケイン議員の葬儀に参列したバイデンは「私は民主党議員です。ジョン・マケインが大好きでした。しばし喧嘩もしました。兄弟喧嘩のようなものです。委員会ではいつもジョンの隣に座っていました。ジョンも私の隣に座るのが好きでした。他の民主党委員長からは共和党議員と一緒に座るな、と叱られましたが。ジョンも共和党委員長から、民主党議員とは一緒に座るな、と叱られていたようです。でも一緒に座るのが楽しかったのです」と涙を拭いながら弔辞を述べている。

https://www.youtube.com/watch?v=3Sa8G-VR13Q

ジョー・バイデンの人となりは、トランプ氏の側近であるリンゼイ・グラハムのような共和党上院議員も、偽りの無い優しさ、思いやりに溢れる人物として評価していた。

一方、トランプ氏には、優しさや思いやりはおろか、私益よりも国益を考えて政治を行なう姿勢は感じられない。勿論、私益と国益が重なり、良い政策を決定する事もあった。支持者が願う保守派の判事らの任命や、地球温暖化に取り組む『パリ協定』からの撤退だけでなく、産業や事業に対する多々ある規制の撤廃、税金控除や税率の引き下げ、またイスラエルとアラブ諸国の現実的和解をもたらす国交正常化を取り付けた事などは、彼の偉業として数えられるだろう。ノーベル平和賞に価値があるとすれば、トランプ氏が取り付けたイスラエルとバーレーン、スーダン、アラブ首長国連邦等との国交正常化は、オバマ大統領が就任直後で何故か受賞したノーベル平和賞以上の価値を遥かに持つ。トランプの人格が優れていないからと言って、やることなすこと非難されるべきという考えも誤っている。

熱狂的なトランプ支持者やフォックス・ニュースのオピニオン部門アンカーらはトランプ氏を愛国の象徴、優れた指導者の象徴のように崇め奉る。そうした姿は虚像でしかない。しかしながら、トランプ氏をヒトラーと等しい独裁者、差別主義者と吹聴する左派のヒステリアも事実からほど遠い。トランプ氏の人格やレトリックは非難されるところがあっても、その政策の多くはその他の共和党大統領のそれと大差が無く、トランプ政権で立法化された法案は、共和党主導政治の極みである。

今年の選挙に於いて、トランプは再選されるべきではないと考える共和党支持者や保守派言論人は大勢いる。4年間にわたるトランプ政権と、大統領として国益を損ねるだけでなく、一人の良識ある大人として不適切な言動を繰り返し、悪い前例を作り続けるトランプ氏の品性に嫌気がさした保守派知識人、保守派政治家は数限りない。2012年の大統領選挙において共和党からの大統領候補となったミット・ロムニ―上院議員は、トランプに投票しなかったと早々と語っていた。2008年の大統領選挙事において、共和党からの候補を得た故ジョン・マケイン上院議員の寡婦であるシンディー・マケイン女史は、バイデン支持を表明していた。またトランプ政権において国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン元国連大使は、トランプ政権内を記した『The Room Where It Happened(邦題:トランプ大統領との453日)』の中で、トランプ大統領は二期目の再選をされるべきではない人物と切り捨てている。

特にボルトン氏がトランプ氏再選を反対するにあたり懸念としたトランプ氏の中国政策は、ボルトン氏をして「民主党バイデンでも、ここまでの譲歩はしない」と結論付けさせている。ボルトン氏によれば、2019年6月の大阪サミットで習近平と直接会談したトランプ氏は、中国に対して強い姿勢を示すどころか、習近平との会談中に自身の再選を保証してくれるよう要請したり、習近平が支持を求めたウイグル人強制収容所建設に関し、強制収容所を建設をする事が正しい、是非そうするべきだと答えている。トランプ氏によれば、なぜウイグル人の処遇を巡って米国が中国に対して経済制裁を課すべきなのか、理解できないようだ。ボルトン氏によればトランプ氏から2018年のクリスマスにもそれに関した質問があり、また国家安全保障委員会のアジア問題上級担当官であるマシュー・ポティンガー氏に対しても2017年の中国訪問の際、同様の質問をしていたようだ。それだけではない。ボルトン氏の記憶によれば、トランプ氏は民主化を求める香港のデモ隊についても「関わりたくない」と支持を表明する事を拒み、天安門事件に関するホワイトハウス声明も「30年前の事じゃないか。誰がそんな事にかまっていられるんだ。今は中国との取引の方が大切だ」と拒否している。ボルトン氏に言わせれば、米国として支持すべき民主化運動や宗教迫害や民族浄化の危機に瀕している少数民族らに全く関心を払わず、却って習近平礼賛を繰り返し、再選に向けた協力を独裁者に求めるトランプ氏の姿勢に、中国政府に対して強い批判を行なう発言も結局は再選の為の政治パフォーマンスであるようだ。しかも2019年4月には、韓国文在寅大統領に対して、約5200億円の在韓米軍滞在費を負担しなければ、米軍撤退をさせると示唆している。同様に日本に対しては約8000億円以上の負担を求め、その要求に応えられない場合には撤退をすると仄めかしているようだ。

中国との貿易戦争や取引に「勝利している」と見せかけ、自身の再選に向けた『偉業』として宣伝したいのだろうが、実際には中国政府との繋がりのあるテレコミュニケーション会社ファーウエイとZTEへの摘発や刑事告訴を一存で取り下げている。

https://www.wsj.com/articles/john-bolton-the-scandal-of-trumps-china-policy-11592419564

ボルトン氏の指摘、警告は尤もである。習近平に対し、ウイグル人への民族浄化や強制収容所への建設を許容し、奨励する発言は、アメリカ大統領の発言として到底受け入れられない。アメリカが偉大な国であると言われる理由は、全ての人の自由と人権、また民主主義の広布を、その外交政策の本質に取り入れる唯一の国であるからだ。だからこそ共産主義国家やイスラム教国等、強権を振るう独裁国家から逃げる人々が助けを求め、目指す「丘の上の輝く都市」と呼ばれてきたのだ。

それでも私は、トランプ氏に投票をした。自分ながらの苦渋の選択である事は確かである。私の結論は、「トランプという人物は、大統領として全く相応しくない人格の人物だが、もう一方の選択肢は更に酷い」という点に尽きる。

トランプ氏は確かに大統領として相応しくない、ひどい人格の人物だ。私は彼の支持者たちが彼の人格を擁護したり、称えるような真似はしない。しかしながらトランプ氏はひどいアイディアを法律化した事もない。一方バイデン率いる今の民主党は、たとえ高潔な人物であっても、ひどいイデオロギーやアイディアを法律化してしまうと思われるのだ。

ひとこと注釈すると、確かにトランプ氏は、シリアやアフガニスタンからの米軍撤退のような重要政策も、国防長官に相談するより先ツイッターで発表し、実行した実例がある。また国境を越えてやってきた不法移民の親子を、乳幼児を抱える母子であっても引き離して収監し、子供たちを米国内の親戚やフォスターケアに預ける一方、起訴した後に親だけ強制送還してしまった失敗がある。こうして米国内に子供を残して母国に強制送還されたケースのうち、500人ほどの親は行方が不明であり、連絡がつかない状態に陥っているのだ。この移民政策は米国民からの大反発を招き、数週間後に撤廃している。これらの、後先考えないような衝動的行為が、アメリカの国益に適うはずが無い。ところが政策と法律は違う。政策は大統領府など行政が行なう指針である一方、法律は国民生活を縛る定めであり、国民が守らなければならないルールである。トランプは悪い法律によって国民を縛った事はない。一方民主党は、聞こえの良いスローガンを主張するが、それを法律化すれば、憲法で認められている国民の自由や権利を著しく侵害する事に気付いていないのだ。

例えば民主党議員や支持者らは、2020年の以前から「バラマキ政党」のレッテルに相応しく、大学の無料化、医療の無料化を叫んできた。しかしながら大学の無料化一つをとっても非現実的な要求であり、民主党内であっても穏健派のエイミー・クロバチャー議員やジョー・マンチン議員らは「支払えない」と一蹴している。加えて、もし地球温暖化、また気候変動の問題を考え、真に二酸化炭素の排出を制限しようとするならば、原子力エネルギーに変更していく方が現実的であり、効果的だ。ところが民主党はオカシオ・コルテスらのような原子力エネルギーにも反対する素人の急進派左翼議員に引きずられる形で『グリーン・ニューディール』などを提案し、全ての産業の在り方の変更を求めている。このアイディアの実現が必要とする予算は、国民一家庭につき約7000万円の負担額である。アマゾンのCEOが何百人いたとしても、到底支払える金額ではない。https://www.forbes.com/sites/jamesconca/2019/11/25/nuclear-power-does-slow-climate-change/?sh=f1146717202e 

https://en.wikipedia.org/wiki/Green_New_Deal#:~:text=In%20February%202019%2C%20the%20center,cost%20at%20%24600%2C000%20per%20household.

マンチン議員に至っては、「グリーン・ニューディールや国民皆保険、社会主義などは、民主党が掲げてきた政策ではない」と声を挙げるが、民主党内の主流意見となってはいないのだ。

 

また民主党支持者やメディアは、銃犯罪が起きる度に『銃規制』を叫ぶ。保守派は、民主党が政権を握れば合法的な銃の所有者からも銃を取り上げるだろうと警戒していたが、その通り、ビトー・オルーク等の急進派民主党候補者らは「銃の撤廃」を訴え始めている。一般人による銃所有の問題は、日本人には理解し難いだろうが、アメリカでは憲法修正第2条に「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であり、国民が武器を保有し携帯する権利は侵してはならない」と記されている重要な権利である。銃の保有は、一般的に普及しており、殆どの所有者は責任感溢れる、良識的市民である。その銃所有の禁止を法で定めれば、法に従う市民は銃を差し出すかもしれない。しかしその場合、法律を守る市民から銃を奪うだけで、法律に従わない犯罪者だけが武器を持つ事となる。法律を順守する善良な市民を無防備にしたところで、犯罪者を無害とする事にはならないのだ。

それだけではない。メディアを含むリベラル派に支持基盤がある民主党は、人種差別がアメリカにとって取り組まなければならない大きな問題であると考えているようだ。私はこれには全く同意しない。しかも彼らは、人種差別やLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの事)への差別を撤廃するという目的や口実の為に、少しでも不快に思われる言論を規制し、キャンパスや学問、ジャーナリズムや芸能を含む、言論の場そのものから排除しようとしている。

実は『言論の自由』には、ヘイトスピーチを含む不快で差別的言論も含まれている。差別的言論も、言論の自由によって保証されているのだ。これが納得できない人は多いかもしれない。それは言論を制限する事の困難さを考慮していないからだろう。

言わずもがなであるが、私は差別は人種を基にしたものであれ、性別や性的趣向、宗教を基にしたものであれ、差別には反対である。しかしながら、「ヘイトスピーチも言論の自由に含まれる」という米国憲法解釈には理由があるのだ。

まずヘイトスピーチが何を指すのかは、人それぞれの主観に頼るしかない。ある人々はある言論をヘイトスピーチだと感じても、別の人は表現の自由だと感じる。ある人々は「ヘイトスピーチは少数派への憎悪スピーチだ」と考えるが、別の人々は「多数派への憎悪スピーチもヘイトスピーチだ」と考える。特に法の下の平等を謳う法治国家では、多数派と少数派の言論の法的自由に違いを設ける事は不可能だ。多数派と少数派が言い争った場合、少数派が表現した憎悪のスピーチをそっくりそのまま多数派が返して多数派だけが処分されるとすれば、法の下の平等ではない。

しかも、たとえ「~という言葉を使ってはならない」と規制しても、差別の意味を込めてある人々を侮蔑したい人々は、別の言葉、別の表現を使って差別をし続けるものだ。スピーチを規制すれば、規制に背いたとして罰を受けるのは、差別をしたという言い掛かりによる言論、表現、学問、信条等の自由であり、結局は言葉狩り、思想狩りの社会を産んでしまう。

ヘイトスピーチにしてもヘイトクライムにしても、既存する法律の範疇で、たとえば名誉棄損や脅迫、威力業務妨害、器物破損、或いは傷害や殺傷等に当てはまる場合は、それらを取り締まる法律によって裁く事が適切である。既存の法律では取り締まれない言論や思想は、違法化するよりも、より良識に訴える言論、より優れた思想で対応していくしかない。

ところが左派メディアや民主党支持者は、少数派が不快に感じる(と思われる)言論や表現の全てを社会的に排除しようとする。「キャンセル・カルチャー」と呼ばれるのはそういった社会文化である。少数派の感情を少しでも害する(と思われる)言論や思想、表現の自由を排除しようと、職場に押し掛けたり、多数のメールや電話などで解雇を求めたり、ソーシャル・メディアを駆使してボイコットを呼びかけるのだ。しかも基準となるのは主観である。

勿論「不快な言論」「差別的言論」と一言で言っても、多くの人が差別的であると同意できる類もあるだろう。ところが急進的左翼らは、自分たちの考えに反対する人々を全て「人種差別主義者」と呼び、システムに組しているとして、黒人やマイノリティーの警察官、黒人の最高裁判事、保守派であれば黒人の学者やマイノリティーのビジネスオーナーですら「人種差別主義者」呼ばわりしてみせる。こうした極論は、左派メディアやソーシャル・メディアでは当然のように主張されるが、このような甚だしい愚論を懐柔する民主党に投票する気にはなれないのだ。

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  反人種差別主義・反警察のデモにおいて、黒人警察官に中指を突き立てる白人女性

またこうした愚論に反対するマイノリティーは私だけではない。急進的左派からは「白人至上主義者」とレッテルを貼られるトランプ氏が、出口調査によれば、2016年度の選挙時と比較して、黒人男性からは4ポイント、黒人女性4ポイント、ヒスパニック系男性3ポイント、ヒスパニック系女性3ポイント、その他のマイノリティーから5ポイントなど、それぞれ票を伸ばしている。特に黒人女性からのポイントは二倍に伸びている。トランプ氏への票を減らしたのは白人男性だけだ。これは急進左翼の一方的定義に対し、常識が「ノー」を叩きつけた結果だろう。

https://www.cnn.com/election/2020/exit-polls/president/national-results?fbclid=IwAR2ReTWwj-NODt-LgGuN7qRLIzHY3ktt9Pe6dAkskyFmMahkhf29bj2pHI4

 

私がトランプ氏に投票した最も大きな理由は、急進的左派によって影響される民主党議員らが叫ぶ『警察組織解体』の訴えに最も大きな危険と嫌悪感を感じたからだ。この危機感は理論上の危険ではない。警察組織が解体してしまえば、一般の国民は、犯罪者からどのように身を守るのか。「警察を呼べなくなるという懸念は、警察による暴行を恐れ、警察を呼べないマイノリティーが常に感じている恐怖感です」と、警察組織への資金停止を可決したミネアポリスの市議会議員はメディアで語っていたが、冗談ではない、地域への警察のパトロール強化を望む声は、黒人地域では81%に上る。「マイノリティーは警察を呼べない」とは、白人左派の幻想であるか、犯罪に加担している人々だろう。

https://news.gallup.com/poll/316571/black-americans-police-retain-local-presence.aspx

 

ジョージ・フロイド氏の死亡から、米国では何ヶ月に渡って反警察、反人種主義を口実とした暴動が起きた。これらの暴動は主にブラック・ライブズ・マターやアンティファ、また騒動に便乗した暴徒によって起こされている。『ブラック・ライブズ・マター』は、決して一般の黒人を代表する組織ではない。この組織がマルクス主義者たちによって設立され、核家族を揺るがす目標を掲げている事は、批判を受けて9月に削除されるまではBLMのウエブサイトに明記してあった。https://www.foxnews.com/media/black-lives-matter-disrupt-nuclear-family-website

こうした過激派左翼による数か月間にわたる暴動の被害を被ったのは、警察官だけではない。黒人の商店主、黒人のセキュリティー、黒人の通行人を含む、全くの一般人でもある。「差別に声を挙げない事は暴力である」と言葉狩りに熱心な急進的左派や左翼メディアは、暴動や略奪を「平和的デモ」と呼ぶ。私はこういった自己欺瞞、一般人への暴力への容認には、どうしてもついていけないのだ。

政治家の事を、英語では「法律を作る人々」という意味で「Law Makers」と呼ぶ。「作られた法律を施行させる人々」という意味で、警察は「The Law Enforcement」と呼ばれる。作られた法律を施行し、実行させる組織が必要でないならば、政治家は法律など作るべきでは無い。法律とは従ったり、従わなかったり選べる任意的なルールではないのだ。既存する法律が守られているかどうか、また違法行為を取り締まる組織は、法律を作り続ける組織(議会)よりも遥かに重要である。議会が機能不順に陥ったり休暇を取る事はあるが、警察組織が機能不順に陥れば、たちまち治安の悪化に繋がるからだ。私は自分たちが成立させた法律の施行を重視しない政治家に投票する事はできない。自身の危険を侵して治安の為に昼夜働く警察官らを敵視する思想に共感したり、マルクス主義者の要求を受け警察組織解体を叫ぶ政党に、投票する事はできないのだ。

2020年選挙の後、民主党は議会と州知事選によって議席を減らした。「トランプという弾劾された不名誉な大統領相手に、大統領選はおろか、上下議会、州知事選すべて圧勝だろう」と予測されていたにも拘らず、民主党は州知事選でおいて議席を減らし、下院では6議席を減らし、上院ですら(ジョージア州の結果によるが)共和党が多数派として残る可能性がある。トランプ氏は確かに敗北したが、民主党も敗北しているのだ。ヴァージニア州から下院に選出されたアビガイル・スパンバーガー民主党議員は、党に向けて次のように警告する。

「私たちは、負けなくても良い選挙に負けたのです。『警察への資金停止』の為に、私自身危うく落選するところでした。『(民主党は)社会主義』と等という言葉も二度と口にするべきでありません。私たちは常識に立ち返る必要があります。」

https://www.wusa9.com/article/features/producers-picks/socialism-and-defund-the-police-are-losing-slogans-says-virginia-democrat/65-b8f93666-81a4-4ec8-bf46-a1f86477e16f

また民主党のジョー・マンチン上院議員も次のように言う。

「警察への資金停止ですって? 冗談じゃない。私は誇りあるウエスト・ヴァージニア州の民主党議員です。我々は働く人々の為の党でもあります。我々は国民の職を確保し、安価な健康保険を提供したいと考えています。我々には狂った社会主義思想はありませんし、警察組織資金停止なども考えていません。多くのアメリカ人は民主党は社会主義の政党、『グリーン・ニューディール』の政党、『メディケア・フォー・オール』の政党となったと信じています。しかしこれらは民主党の姿ではありません。こういった偽りが多くの人々を恐れさせたのです。共和党の偽りを信じないでください」

これら穏健派民主党議員の声は貴重である。しかしながらメディアが注目を注いでいるのはアレクサンドリア・オカシオ・コルテスのような、自称『社会民主主義者』議員である。

 

結局、大統領選挙は、バイデン元副大統領の勝利となった。これが確実であり、トランプ氏が敗北宣言を拒否しようと、トランプ陣営がどのような訴訟を起こそうと、結果が覆る事はない。この選挙の正当性については、トランプ政権の国土安全保障省サイバーセキュリティー部門が「2020年は、米国の歴史上、最もセキュリティーの保証された選挙であった」と声明を発表し、不正工作によって選挙結果が覆った可能性を否定している。https://www.npr.org/sections/live-updates-2020-election-results/2020/11/14/934220380/as-trump-pushes-election-falsehoods-his-cybersecurity-agency-pushes-back

元検察官でフォックス・ニュースの法律専門アナリストであるアンドリュー・マッカーシーも「逸脱した不正の証拠が無く、トランプ陣営の起こしている裁判の訴えが認められる可能性は無い。大統領選挙は決着した」と述べている。トランプ支持者であっても、トランプに投票した共和党支持者であっても、事実は事実として認める人々は、選挙結果を受けいれている。https://www.nationalreview.com/2020/11/trumps-post-election-litigation-crusade/?fbclid=IwAR0LK8lv46i-hYFuk0kNdTDLiO10xPLB0wgdOP7yFdRy79YyBx9acYDt2zE

 

次期政権による国内政治の如何は、ある意味、ジョージアの上院選挙にかかっている。外交政策に関しては、ジョン・ボルトンの警告を思い起こし、「悪いけれど、最悪ではない」と考えるしかないのかもしれない。

 

最後に、私は、じっくりと時間をかけて考えた末の投票であれば、どちらの側に投票しても良いと思う。私がイヤなのは、大した考えもなく、ヒステリックな感情に任せての投票や、対抗する候補者に投票した人々の道徳心や倫理観を疑う傲慢さである。尤も私には、一人一人の考えの深さを測る手段がない。「~に投票した」と言われても、余程の考えがあっての事だろうと受け止めている。

 

2020年大統領選挙 : 左派の広める陰謀論

2020年の大統領選挙において、陰謀説を垂れ流すのは、敗北を認められないトランプ氏とその支持者だけだと考えていたが、左派も負けじと陰謀説を流していたようだ。https://www.newsweekjapan.jp/amp/pakkun/2020/11/post-59.php?page=1

この記事を書いた「パックン」なる人物は、まず2000年のブッシュ/ゴア陣営による争いが共和党に雇われた活動家によって再集計作業が中止に追い込まれたと主張するが、(再)集計という重要な作業を止めたのは「異なる郡で異なる計数基準を用いる事は憲法の平等保護条項に違反する」という最高裁判事9人中7人の判断による。7対2の多数による匿名意見の中で、フロリダ州最高裁の命じた投票の数え直しの方法は、アメリカ合衆国憲法修正第14条の平等保護条項に違反すると判示した。5人中4人の判事は、フロリダ州によって設定された期限内には、代わりの手段をとることは不可能であると判示が示されている。またフロリダ州のキャサリン・ハリス州務長官がブッシュ州知事(当時)及び大統領候補の選挙対策フロリダ共同委員長であった事は「不思議なこと」ではない。ブッシュ・キャンペーンの選挙対策委員会の共同委員長とは肩書き職であり、更に重要な任務は選挙中法が破られていないか監視し、選挙証明を行う事にある。ハリス州務長官が、党利ではなくフロリダ州の法に則って再集計中止を宣言した事は、1989年の州務長官選挙において対立候補であったサンドラ・モーサムが認めている。

しかもこの記事は、

共和党はブッシュ対ゴアの経験から、ある作戦に目覚めたようだ。例の機械トラブルは主にフロリダの都市部の投票所で起きたため、都市部に集中する民主党支持者の票がいくらか少なくカウントされたもよう。後々、「あっ、あれは偶然だが、同じことを人工的に再現できたら僕らに有利だ!」と、火山の下の秘密基地の中で白い猫をなでながらひらめいたと、僕は妄想する。

と書くのだが、ご本人も認められているように、妄想の域を過ぎない。実際、2008年には民主党のオバマ大統領が共和党の故ジョン・マケイン上院議員を相手に当選し、2012年にもオバマ大統領はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(当時)を相手に再選を果たしているではないか。

次にこの記事は「投票抑制策」を取り上げて、特に都市部やマイノリティーへの組織的投票妨害が行なわれたと主張する。

分かりやすいのは、一方的な有権者登録の削除。された人は再登録しない限り投票ができない。実は例のフロリダ州務長官も2000年にやっていたが、今もよく見る手だ。例えば、ウィスコンシン州は昨年20万人以上の登録削除を発表したが、その多くは民主党支持者の多い地域に住む人で、黒人が白人の倍ほどの確率で削除対象となっていた。同じようなことが今年だけでペンシルベニア、ノースカロライナ、オハイオ、ジョージアなどでも問題になっている。これらの州の共通点は? はい、激戦州だ。ちょっとの差だけでも選挙結果が変わり得るところ。 

「投票抑制策」は、有権者登録名簿からの名前の削除だが、これは選挙権が取り上げられている犯罪者らを有権者名簿のリストから省く政策である。有権者名簿のリストの見直しが頻繁に必要である事は、既に死亡した有権者に誤って投票用紙など郵送されたり、選挙法違反となる違法行為が行なわれないようにする為でもある。但しこの策によって犯罪者ではない、無実の有権者がリストから外された例があるが、これらは同姓同名などによる誤り、或いは単なる誤作業による。この策が黒人からの選挙権剥奪が目的であったという証拠が無い事は、州の記録、職員の内部emailや証言等が示している。黒人の中に選挙権を剥奪された人が多かった理由は、彼らが選挙権を剥奪された犯罪者だったことが原因にある。

この人物が「マイノリティーをターゲットにしている」証拠として挙げる「投票抑制策」が行なわれないとすれば、違法投票を放置する事になる。激戦区の州を挙げて「ちょっとの差だけでも選挙結果が変わり得るところ」とするが、ちょっとの差だけでも選挙結果が変わる場所であればあるほど、不法投票は取り締まりを厳しくするべきだろう。共和党支持者の中で「死んだ人々にも投票用紙が郵送され、不法投票がなされている」「多くの犯罪者が投票をしている」という陰謀説を唱える人々がいるが、そうした事例があったとすれば、それは「投票抑制策」が不完全であった場合である。民主党支持者が、トランプ陣営や共和党支持者による「不法投票があった」という陰謀説を否定したければ、「投票抑制策は黒人やマイノリティーをターゲットとしている」という自分たちの側の陰謀説を棄て去り、「投票抑制策」を評価するべきだろう。「不法投票」は無いと言いながら不法投票を放置する二枚舌は許されないのだ。

さらに続けてこの記事は、投票日が火曜日である事を以て「投票日は例年平日。仕事を休んで長時間並べない黒人の多くは日曜日に期日前投票をしていたが、オハイオやフロリダなどは日曜日の投票もなくした。隙がない!」とするが、仕事を休んで長時間並べないのは白人もアジア人もヒスパニック系も同様だ。だからこそ郵送による投票を行なう人々が多いのだろう。因みに投票日が火曜日である事は、1845年米国議会が11月の始めの月曜日の翌日を投票日と決めて以来の伝統である。その当時は女性や黒人には選挙権が与えられていなかった。選挙権が与えられていない黒人をターゲットにする為に、「選挙は火曜日」と設定されたはずが無い。https://www.history.com/news/why-is-election-day-a-tuesday-in-november

 

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しかもこの記事は、運転免許証等、写真付きの身分証明証の提示義務付けを以て「共和党員に多い、田舎の人、軍人、銃を持つ人などは早く、簡単に投票できるが、民主党員に多い都市部の人、有色人種、貧困層や若者は、投票へのハードルが毎年高くなる」とする。アメリカではアルコールを買う場合でも、運転免許証などの身分証明証の提示を義務付けている。共和党支持者に言わせると「身分証明証の提示も義務付けずに投票できるシステムが、不法投票を放置している」となるのだが、この記事は逆に「身分証明証の提示は、黒人やマイノリティー、民主党支持者をターゲットとした投票妨害だ」と主張しているのだ。この点も「投票抑制策」議論と同様、不法投票を取り締まる為の『身分証明証の提示義務付け』が、共和党支持者の考えでは充分になされておらず、その為に「不法投票が放置されている」という陰謀説の温床となり、逆にこの記事を書いた人物のような左派からは「マイノリティーをターゲットとした投票の妨害が組織的になされている」という陰謀説を産んでいる。共和党支持者による「不法投票によって選挙結果が変えられている」という陰謀説を打破する為には、民主党支持者らは、身分証明提示の義務付けが徹底されるように協力するべきではないか。繰り返すが、アルコールを買う時でも身分証明証は必要である。国政選挙に参加する際に、身分証明が無くても参政できるようにしなければ「人種差別、投票妨害だ」とは余りにも虫が良すぎる。こうした左派があってこその右派の疑心暗鬼があるのだ。

また待ち時間、コロナウイルスなどの問題点を挙げて「だから黒人などマイノリティーをターゲットとした投票妨害」説を広げても、これらの問題が郵送による投票を阻んでいない事は明らかだ。この記事も、「事前調査で共和党支持者は民主党支持者の約2.5倍の割合で投票日に投票所に行くと答えている。それに対し、民主党員は圧倒的な割合で郵便投票を好んでいたと認めている。

また「ということで、共和党の州政府は郵便投票のハードルも上げる。投票日前に投函しても投票日以降に届いた郵便投票は無効にする」と続けるが、これは事実ではない。例えばペンシルヴァニア州の知事と州上院議長は民主党議員であるが、下院議長は共和党員である。同州では投票日の後届いた郵送票であっても3日以内であれば数えられている。またミシガン州では、知事、州上院議長は民主党議員であり、州下院議長は共和党議員であるが、同州では投票日以降に届いた郵送票は数えられないと州の控訴裁によって決められている。郵送票の開票に期限が設けられている理由は、期限を設定しなければいつまでも選挙が終結しないからだ。マイノリティーを狙った投票妨害でがない。

またこの記事は、ビックリするような主張をする。

郵送で間に合わない場合、投票箱に票を入れてもいいが、テキサス州知事は投票箱を郡に1つだけ設置することにした。テキサスの一番大きな郡は、東京23区の倍ぐらいの面積。だが、東京のように公共交通手段は発達していない。街は東西にも南北にも広いが、東西線も南北線もない。

あたかもテキサス州では、郵送によるか、或いは州に一つしかない投票箱に投票するかしかない印象を与える文章だが、テキサス州の投票所は、州内254の郡内の何か所にもある。投票箱は一つしかなくても投票所は何百カ所にもあるのだ。

https://www.votetexas.gov/mobile/voting/where.htm

 

この記事は、その後、トランプ氏の言った事や、その陣営が起こした裁判によって選挙結果が覆される可能性を示唆している。この自信、或いは不安感は、トランプ陣営の弁護団よりも、トランプ陣営の主張の正当性を信頼しているかのようにも見える。残念ながら、トランプ陣営の弁護団は、裁判で結論が変わる程の証拠を全く提出していない。

つまり、今回も大統領を決めるのは、トランプに投票した約7100万人ではなく、バイデンに投票した約7500万人でもなく、抑制策に引っ掛かった無数の人でもなく、数人の最高裁判事になる可能性がある。

と、最高裁判事らが民意に反した判決を出すと述べるのだが、その根拠は、この記事が先に上げたフロリダ州のブッシュ・ゴア対決なのかもしれない。しかし今回の大統領選挙は1000票余りを争った選挙とは違う。実に複数の州、郡にまたがり、約500万票の開きのある選挙なのである。「でも、判事の責任より、卑怯な戦い方をする政党や政治家の責任が大きいと感じる。民意に訴える議論で勝てないなら、選挙で勝つ! 選挙で勝てないなら、裁判で勝つ!」とするが、「民意に訴える議論で勝てないなら、選挙で勝つ」とは、どういう意味だろう。民意とは、運動やメディアや、デモなどによって測られるものではなく、選挙によって測られるべきものだ。「選挙で勝てないなら、裁判で勝つ!」といっても、裁判はあくまで事実関係、証拠を吟味し、法によって裁く。民主主義法治国家とはそういうものだ。

この記事の唯一興味深い点は、トランプ支持の陰謀論者と同様の陰謀論を、真逆の立場から信主張しているところだろう。極右も極左も、そのメンタリティーに大差は無い。陰謀説を捲し立て、恐怖感を煽り、要はアメリカの民主主義、選挙の正当性、またシステムそのものを疑う人々を量産しようとしているに過ぎない。こうしたプロパガンダ、陰謀説の流布は、自分たちの支持する側が敗北する時に、その結果を受けいれない人々を量産する為に役立つ。

因みに陰謀論者というものは、右であろうと左であろうと、論破や説明で納得するような人々ではない。彼らは国家システムに対する不信感を抱えた人々であり、彼らの主張の誤りを事実や論理で指摘しても、次から次へと別の陰謀説を持ち出してくるだけだ。こうした人々は、過激なニヒリズムにこそ真実があると信じているのだろう。

本来ならば避ける陰謀説への反論を、大統領選挙に関しては書いてみた。

トランプ支持者による途方もない陰謀説

トランプ陣営が「民主党員による不正工作によって勝利を奪われた」と主張する2020年の選挙だが、トランプ陣営が裁判所に提出した訴えの内容は、「不正な投票があったかもしれない」という類いであって、トランプ氏に勝利をもたらした2016年の選挙や、それ以前の選挙での不正投票を越える不正工作の証拠を提出した訴えではない。裁判所に虚偽の提出をすれば偽証罪に問われる為、陣営の弁護士でもいい加減な主張はできない。裁判での発言は、ツイッターやテレビでの発言とは重みが違う。だからこそ、その主張の真実さは、宣誓のもとで何が言われているかにある。トランプ陣営の裁判を受け持つ弁護団のうち9人が、「アメリカ民主主義の正当性を、証拠失くして疑わせる行為に加担をしているのではないか」という罪悪感を匿名で語るのも頷ける。

Election 2020: What Are the Trump Legal Claims? - WSJ

Growing Discomfort at Law Firms Representing Trump in Election Lawsuits - The New York Times

 
またアメリカを含むどの民主主義国家の選挙においても、誤りや不正投票はいくつかある。しかし今回の選挙でトランプ氏が主張しているのは、民主党の工作によって選挙結果が覆ったというスケールの主張だ。ツイッターやビデオ、YouTube等でこういった主張をする人々は、訴えている陰謀のスケールの大きさに気付いていないのだろう。
 
第一、「郵便票が書き変えられた」等の陰謀説は、「郵便局の配達員がそれぞれ膨大な数ある郵便物の中から、封じられた投票用紙の入った専用封筒を全て開封し、その中にある、油性ペンでマークされたトランプ票を、何らかの方法によってバイデン票にマークしなおすという途方の無い作業を、誰にも暴かれる事なく行なった、或いは協力者と共謀して行なった」という主張だ。しかし郵便局という職場は、民主党支持者だけの職場ではない。ほぼ同数の共和党支持者が働く職場でもある。どうにかして誰にも暴かれずにいくつかの票が書き換えられても、次は既に開封され改竄された票であると気付かれずに計算される必要がある。トランプ陣営はデトロイトのあるウェイン郡の選挙結果に異議を唱えているが、ウェイン郡だけでも投票所は180ヶ所あり、ウェイン郡での結果を書き換える為には、同僚の共和党支持者や不審者を取り締まる警察を含め、誰にも気付かれず、32万票改竄され、計算される必要が生じる。
 
その他にも「投票用紙を燃やしているビデオがある」説があるが、燃やされたのは投票用紙のサンプルであると判明している。しかも、もし本物の投票用紙だとしても、たった一つの郡の選挙結果を覆す数でもない。
 
また「すでに死亡している人々が投票した」という主張は「既に死亡した親戚に宛てて投票用紙が送られてきた」というフェイスブックの投稿を基にした都市伝説でしかない。恐らく選挙民の死亡情報を定期的にアップデートする郡職員や選挙管理委員による誤りの範疇であろう。こうした誤りによって、都合よく誰かが2票入れられても、たかだかウェイン郡の選挙結果を覆す為にも、気の遠くなる程の不正工作が奇跡的に成功する必要が生じる。勿論、そのような証拠や報告はない。繰り返すが、選挙には共和党支持者も多く関わっているのだ。多くの人々が関わるアメリカの選挙では、小さな市町村選挙であっても、不正工作によって結果を覆す事は不可能である。
 
国政選挙の結果を覆す為には、草の根にような一般の支持者には依らない、政府主導の、大規模な、組織化された共謀が必要となる。世界の国々で選挙に不正工作が成功した例は、ロシア併合に賛成するクリミアの住民投票や、ロシアの大統領選挙、中国の選挙、北朝鮮の選挙など、政府与党が主導した場合だ。
 
アメリカ政府はトランプ率いる共和党が導いており、民主党は今回の選挙でも議席を減らしている。しかも民主党が党として不正を共謀し、工作した証拠は、皆無である。
 
もう一つ付け加えるが、私はフェイスブックに於いても、トランプ氏の敗北を認めたくないトランプ支持者から「不正が行なわれた。トランプ・ラリーに来る人々は多かったが、バイデンの選挙ラリー来る人は少なかった」という反論を受ける。ラリーでの熱狂と実際の選挙とは、全く関係が無い。ラリーは、投票用紙が置かれている訳でもないのだから、よほど熱狂的な支持者しか行かない。しかもトランプに投票した人々にトランプへの熱狂的支持が伺われる一方、バイデンに投票した約7割近い人々は、バイデンへの投票を「バイデン支持ではなく、トランプへの反対票」と位置付けているのだ。バイデン・ラリーがあった事すら私は知らなかったが、選挙ラリーに駆け付ける支持者によって実際の選挙は測れない。また同じ人は「私の教会員の全てはトランプ氏に投票しました。同じように考えた教会はその他7つあり、このように考えたクリスチャンは、サクラメントで少なくとも2,000人います。それなのになぜカリフォルニア州全てがブルー(民主党バイデン勝利)になったのでしょう」とコメントしている。これは選挙人計算の仕方を知らないからだ。
 
米国では、より多く得票した候補者が全ての選挙人を得るか、或いはその割合によって選挙人を分けるか違う。カリフォルニア州で見れば、サクラメントやモドク、ラッセン、シャスタなど人口の少ない郡を多数勝利しても、ロサンゼルスやサンフランシスコ、サンディエゴなど人口の多い郡を失えば、55人全ての選挙人を失う仕組みとなっている。であるからトランプ氏がカリフォルニア州全体で500万以上の票を得たにも拘らず、およそ990万票得たバイデン氏により55人の選挙人が奪われ、よってカリフォルニア州全体がブルーに塗られ、「民主党勝利」と数えられたのは何の不思議も無い。

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トランプ氏敗北の選挙結果が受け入れられない人々は、色々な説を唱えて何とか不正工作を唱えるが、多くは途方もない陰謀説や無知を基本としているに過ぎない。繰り返すが、選挙結果を覆す規模の不正行為が行なわれた証拠が皆無なのだ。そして負けを認めないトランプ陣営の主張を擁護し、繰り返す人々は、ドナルド・トランプといった一人の人物の傷付いたエゴを守ろうとしているか、「目的実現の為には手段を選ばず」を信条としているか、或いは無知なだけだ。
 
私は資本主義と相反する社会主義や共産主義に強く反対する。トランプに投票したのも、民主党議員や支持者による社会主義や共産への共感や傾倒を強く非難したからだ。しかしながら、もし国民の多くが、選挙という民主主義を通して社会主義者や共産主義者を選んだ場合は、その結果を受けいれざるを得ないだろう。民主主義とは、危険性を孕むものの、それでも今まで試された政府選出手段の中では、よりマシな手段なのだ。
 
以前も書いたが、ある人の言論の自由への真の理解は、 その人が反対する言論に対してどのように対するかで試される。 同様に、ある人の民主主義への真の理解は、選挙が自分の望まない結果をもたらした時に、その人がどのように対するかで試される。
 
全く同意できない意見を述べる自由を許し、好まない結果をもたらした選挙を受け入れてこそ、自由や民主主義は保たれるのだ。

バイデン元副大統領の当選

2020年の大統領選挙において、民主党のジョー・ バイデン元副大統領が当選確実となり、これにより「次期大統領」 と呼ばれる事になった。これをもってイギリスやイスラエルなど同盟国の首相やジョージ・ブッシュ・ブッシュ元大統領、ミット・ロムニー上院議員らはバイデン氏とハリス次期副大統領に対して祝辞を送っている。https://www.nytimes.com/2020/11/08/us/politics/george-w-bush-congratulates-biden-on-his-victory.html
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今回の選挙に関して、 トランプ大統領は敗北を認めておらず、 トランプ陣営は民主党による不正行為を訴えているが、 複数の激戦区において、 選挙結果を覆す程の不正行為や誤りがあった証拠は無い。「 選挙結果を覆す程の不正行為や誤り」と注釈を付けるのは、 どの選挙時に於いても、複数の不正行為や誤作業は生じる。2016年の大統領選挙に於いても選挙権の無い外国人による不正投票が 行なわれたが、米国司法庁の捜査によれば19票ある。 因みに米国民と偽って投票し、告発された9人の中には日本人が一 人含まれる。これら9人は6年以下の懲役と約3,800万円の罰金が課せられた。

https://www.politico.com/amp/story/2018/08/24/voter-fraud-2016-foreign-nationals-charged-795704?__twitter_impression=true&fbclid=IwAR0i8fxLXWHJ-FQN3Fy__3CB5b1cYs025DLBsfuFAMqApzhbxMO qocA46BkE 

また同年の大統領選挙においてロシア政府の介入があったことは同 庁も認めるが、その介入が選挙結果を変えた証拠も無い。であるから、トランプ大統領就任の際に、 不正が行なわれたと選挙結果に不満を示す人々の多い中、それでもトランプ氏の当選は正当的なものであると認められてきたのだ。

今回の選挙においても、不正行為があったと不満を述べ、であるからバイデン氏の当選を認めないという人々はトランプ氏本人を始め、その陣営や熱心な支持者に多い。 しかしながら、民主党が複数の州にまたがって不正行為を行なったという証拠は皆無であり、トランプ氏らは何の証拠も提示していないのだ。 実際トランプ陣営は、「民主党による大規模で組織的な不正工作によって勝利が奪われた」という主張をバックアップする為の証拠を得る為にホットラインとウエブサイトを儲けている。要は、証拠ではなく主張が先に来ている訴えなのだ。しかもホットラインは主に十代のリベラル派によるイタズラやからかいを目的とした電話、またウエブサイトの方はポルノ映像で一杯だという。その為に、電話番号とウエブサイトのアドレスが頻繁に変えられている。

https://abcnews.go.com/Politics/inside-trump-campaign-grapples-defeat-plowing-forward-legal/story?id=74082317

ツイッターなどのソーシャルメディアに流布される何が何だかわからないようなビデオ等は、 投稿したユーザーによる解釈を必要としており、その解釈が真実である証拠がない。またこれらの多くは、保守派を含めるメディア関係者によって調査され、意図的なデマや誤解であると判明されている。だからこそ、トランプ支持で知られるフォックス・ニュースまでも「 選挙における不正行為の証拠は無い」と明言しているのだ。

トランプ陣営はミシガン州における票のカウントを中止させようと試みたが、これにはミシガン州裁判官が、トランプ陣営が提出した「証拠」を「 (証拠として提出されたものは)ただの伝聞の伝聞であり、 裁判所としては伝聞を証拠として取り上げない判例によって、訴えを退ける」とし、その要求を退けている。 但しミシガン州においては、誤作動によるデータ入力の為に、 トランプ氏に加算される筈の票がいくらかバイデン氏に加算された可能性があると疑われている。これには調査が必要となるだろう。 しかしながら、例えいくらかの票がトランプ氏に加算された可能性があったとしても、10万票を超えるリードを誇るバイデン票に追いつく可能性は限りなく低い。しかも同州から数えられる選挙人数は16人であり、すでにネヴァダ州とペンシルヴァニア州に勝利し、290人の選挙人を獲得しているバイデン氏の勝利を揺るがす可能性はなく、また214人の選挙人しか獲得していないトランプ氏の勝利には繋がらな い。

https://frenchpress.thedispatch.com/p/the-presidential-election-was-legitimate

トランプ氏は、バイデン氏当選確実の報道が各メディアから発表された翌日の土曜日、自身の経営するゴルフ場でゴルフをプレイしている。もしトランプ氏が民主党の不正工作によって不当に勝利を奪われたと真に信じているならば、米国民主主義への直接的な攻撃を目の当たりにした筈だ。その渦中の大統領としてゴルフやツイートをしながら過ごすとすれば、それはそれで無責任極まりない。
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今回の選挙では、 特に激戦区を含む複数の州における郵送投票の開票を、 投票日に直接投票した票の開票とデータ入力の終了後に行なってい る。これは共和党の州議員らによる選挙ルールの変更に基づく。 選挙結果の報告が通常年よりも遅れているのは、この為である。 また、このルール変更によって、 トランプ氏有利とされていた途中経過が、 一晩経つとバイデン氏有利に変わっていたのも、 郵送による開票の結果が徐々に入力された為である。 時間が経つにつれ、バイデン票が多く加算された為、トランプ支持者は「急に多数のバイデン票が見つかった」「 バイデン支持者は、 投票日後に郵送した投票用紙を数えさせている」 と陰謀があったかのように繰り返すが、 これは根拠の無い言い掛かりである。もともとトランプ氏は、何か月か前から郵送による投票では、トランプ票を捨てたり、 数えない等の不正が行なわれると主張し、支持者らに直接投票をするよう呼び掛けていた。その為、普段は郵送による投票で済ませる共和党支持者らが投票所に赴き、直接投票を済ませようと、長蛇の列を作って待つ光景が何度も報道される。 トランプ氏の主張を信じない民主党支持者の多くは、人混みによる新型肺炎感染への懸念もあり、郵送での投票を選んでいた。 「郵送による投票は不正行為である」と訴えるトランプ陣営の主張により、世論が二分化していたのだ。これらの事を踏まえれば、選挙当日の直接投票から始まる開票でリードをしていたトランプ氏 が、郵送票の開票が始まるにつれ、その優位に陰りを見せ、ついには逆転され、その差が開き始めたことに何の不思議も無い。 こうした結果に陥る事は以前から懸念されていたのだ。 そしてこれらのルール変更等は全て、トランプ陣営や共和党議員側によって決定されていた事を忘れるべきではない。

因みに、今回の選挙でトランプ氏は敗北したが、 同時に行なわれた上院、下院議会選挙においては、共和党議員、 また共和党知事らの当選、再選が目立つ。 大統領選挙の投票用紙は、大統領候補にマークした後、上院議員、下院議員、知事らを選ぶ欄がある。 トランプ氏の敗北が決定する一方、未だ民主党議員らの苦戦が目立つのは、多くの人々が大統領としてトランプを退けた一方、 議会においては民主党政治も退けているからだろう。

たとえばトランプ氏が敗れたウイスコンシン州では、下院選挙においては共和党議員に投票しながら、トランプ氏には投票しなかった評が4万9千票ある。 また同州では、大統領にはバイデンを選びながら下院選挙において民主党に投票しなかった票が6万4千票ある。同様に、 大統領にはバイデンに入れながら、 議会選挙において民主党議員には投票しなかった票が、 ペンシルヴァニア州では98,000票、ジョージア州では80, 000から90,000票、アリゾナ州では42,000票、 ミシガン州では69,000から115,000票ある。
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また出口調査によれば、 自身をリベラル派とも保守派とも位置付けない「穏健派」 がトランプ氏に投票した割合は33%であるが、 同派がバイデン氏に投票した割合は64%とある。 同様に自身を民主党支持者とも共和党支持者とも位置付けない「 インディペンデント」である人々がトランプ氏に投票した割合は40%であるが、彼らがバイデン氏に投票した割合は54%とある。 また、候補者に投票するにあたって、 その候補者への支持を理由に挙げている割合がトランプへの投票者 では54%とあるが、バイデンへの投票者では67%の人々が対立候補(トランプ氏) への反対票として投票した事を理由として挙げている。

これらの統計から理解できるのは、大多数の国民が、トランプを大統領として退ける一方、民主党議員による政治も、共和党議員らを多く選出する事によって歯止めをかけようとしてい る傾向である。国民は、左右どちらの極論も退け、大統領による独裁も議会による暴走も無い政治を願っているのだ。

https://www.nytimes.com/interactive/2020/11/03/us/elections/exit-polls-president.html

https://www.wsj.com/articles/america-chooses-divided-government-11604620220? redirect=amp&fbclid=IwAR1l8qDInftYS5ldPSdfa1mGQAum 9nPXHGiOWoYH8GGp3ju_ Qyeqc8tpa4I#click=https://t.co/d1dicqkBMY

ジョージア州の上院選挙決選の結果にもよるが、 同州から共和党議員が再選を果たせば、 上院において共和党がマジョリティーとなり、 バイデン政権の閣僚等を承認する(しない)権限を持つ。 また下院でも民主党は議席を減らしており、 急進派の民主党議員らの提出する法案が却下される可能性や、下院で可決されても上院で否決される可能性は非常に大きい。 知事選に於いても50州のうちの27州を共和党の知事が当選 (再選)している。 今回の選挙結果において不利に立たされたのは民主党なのだ。 だからこそ、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスのような急進派左翼議員らによる「警察組織解体」「 社会主義」の叫びを止めずに放って置いた、ナンシー・ペロシ下院議長の責任問題が、 穏健派民主党議員から続々出ているのである。

https://www.washingtonpost.com/politics/house-democrats-pelosi-election/2020/11/05/1ddae5ca-1f6e-11eb-90dd-abd0f7086a91_story.html?fbclid= IwAR10uoVyO02EF6keUdJ3rbK7T-bFFYR6zOsVAGU7Yss71eepVlCQ1qJNoIA

これらの全てを踏まえれば「 民主党による組織的選挙不正行為が複数州にまたがって行なわれた 」と信じる事は、論理的に不可能である。

私はかねがね、多くの人々が『言論の自由』と呼ばれる権利や、『 民主主義』などの本質を、 理解しているようで理解していないのではないかと考えてきた。 ある人の言論の自由への真の理解は、 その人が反対する言論に対してどのように対するかで試される。 同様に、ある人の民主主義への真の理解は、選挙が自分の望まない結果をもたらした時に、 その人がどのように対するかで試されるのではないだろうか。

私はジョー・バイデン次期大統領の人格には好感を持つが、 彼の率いる民主党政治には反対する事が多いだろう。今回の選挙で、私はトランプ氏とその他の共和党議員らに投票した一人だ。 しかしながら証拠として存在するデータは、 バイデン氏の勝利を示している。これから通常で言えば少なくとも4年間は、バイデン政権への批判を随時行なっていくだろう。 しかし今は、国民が選んだジョー・ バイデン元副大統領当選への祝意を示したい。
 

大統領選挙に不正が行われた証拠は無い

手短に、BBCの記事とあわせ、要点のみを書く。

 

トランプ大統領は5日、自身の再選を阻む目的で、選挙の不正行為が複数の州に渡って大規模に行われたと証拠を示すことなく発表した。証拠があるならば、法廷において宣誓をして発言すれば良い。それ以外の大文字のみのツイートや記者会見、インタビューでの発表には、正当性や法的責任は無い。証拠が無いのだから、証拠が提示されるまで「不正行為の証拠は無い」と言うのが正しいだろう。
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現在では、民主党のジョー•バイデン氏が有利になっているだけで、バイデン氏の当選も決定ではない。それでもトランプ大統領のツイートや記者会見は、「潔く自身の負けが認められない醜態を世界にさらしている」と多くの国民が見ている。

普通の大統領選挙では、現役大統領が有利である。ジョージ•W•H•ブッシュ故大統領は二期目との当選を果たさなかったが、彼はロナルドレーガン大統領政権で副大統領を務めており、国民の間に同じ政権が12年続いているというウンザリ感があったからだ。現役大統領でありながらトランプ氏がほとんど選挙活動をしていないバイデン氏にリードされているのは、国民の多くが陰謀説を語るだけの記者会見で見られるようなトランプ氏の醜悪な言動に嫌気をさしている事による。

トランプ陣営はいくつもの陰謀説を流しているが、これらの一つとして証拠は無い。これはトランプ氏に近いフォックスニュースのブレット•バイヤー氏やクリス•クリスティー元ニュージャージー州知事、また保守派のメディア、ニューヨーク•ポストも認めている。

第一、もし選挙不正を行う手段と能力が民主党にあるならば、なぜ民主党は、バイデン政権閣僚候補の承認をする権限があり、また法律案や政策においてもブロックできる上院を共和党議員優勢にし、下院においても多くの共和党議席を増やし、50州中27州の知事を共和党にしたのか。

むしろ今回の選挙結果は、トランプという問題人物を排除し、コロナや不況の後始末をバイデンや民主党におしつけ、ついで民主党政策の実現を阻みたい共和党の野心にとって、願ってもない最高の結果である。今回の選挙結果で喜んでいるのはむしろ共和党のミッチ•マコーネル上院議長であり、決して民主党のナンシー•ペロシ下院議長ではない。ペロシ議長については、民主党内で責任論が囁かれている。また「民主党が一部の急進派議員の為に、非現実的な社会主義政党だと思われ、国民の不信感を強めている」と、グリーン•ニューディールで有名な、アレクサンドリア•オカシオ•コルテス議員らに引きずられた形の左極化を、反省する声が出ているのが実情だ。

いずれにせよ、極右と極左の両方に、国民が「ノー」を叩きつけた結果である。多くの国民は、極右でも極左でもない、ノーマルなアメリカを求めている。「穏健派」と言われつつ、急進派に媚びるべくカマラ•ハリス上院議員を副大統領候補に選んだバイデン氏に、共和党マジョリティーの上院という足かせがつけられたのは、トランプを退けつつ急進派左翼も拒絶する国民心理があってのことだ。

 

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-54835283.amp