同盟国やNATO支援の『条件』を主張する、ドナルド・トランプという『ソシオパス』
トランプ氏の書いたとされる「Art of the Deal」は、実は本人の書いたものではなく、トニー・シュワルツというゴーストライターによって書かれたものですが、シュワルツ氏は、トランプ氏を「慢性的に、その瞬間、瞬間に嘘をつき、自分のつく嘘を真実だと信じている。自己愛がひどく、注目を浴びるためには何でも言うし、どんなことでも行なう。注意を払いつつ落ち着いて座る事がほんの数分も出来ない。大統領として軍事情勢に関する日々の報告会議中、じっと座って聞くことは不可能だ。彼が大統領として核爆弾のスイッチを押す権限が与えられれば、人類の破滅に繋がると真剣に考える。私があの本のタイトルを考えて良いなら、(犯罪者に多い)『社会病質者』と名付けるだろう」と述べています。
シュワルツは、「トランプ氏は、あの本に書かれたような人物ではない。国民があの本を読んで、あの本に書かれている魅力的なビジネスマンが真のトランプ氏だと勘違いしたまま彼が大統領となれば、私は一生罪の意識から逃れられない。トランプ氏の真実は明らかにされなければならない」と、沈黙を破った理由を、ニューヨーカー誌や、グッド・モーニング・アメリカなどのニュース番組でも説明しています。(彼がゴーストライターであった事や、その他の詳細は、その他のジャーナリストに確認されています。)
トランプ氏の病的ともいえる『自己愛』と『注意力の散漫』は、ローマ皇帝ネロやカリグラなど、歴史上の暴君に見られる特徴です。
今日の報道によれば、トランプ氏はシュワルツを法的手段に訴えると脅しています。
いずれにせよ、私は以前から、まずトランプ氏の世界情勢、外交、軍事、また経済知識の無さを上げて、彼が大統領に相応しくないことを主張してきました。ヒラリー・クリントンが、どれほど腐敗にまみれていたとしても、或いは「仕事のできない人物」であったとしても、トランプ氏の連発する同盟国への安全保障を脅かすような挑発は行ないません。彼は主要公約の殆どを転換していますが、「アメリカは(同盟国によって)利用されている。嘲笑の対象となっている」という被害妄想的主張は続いています。
特にNATO加盟国への軍事支援の拒否、日本や韓国からの撤退などの公約は、共和党からの正式指名を受けた当日も変わることが無く、これに対してNATOの憂慮が伝えられています。
以下は、ニューヨーク・タイムズの記事を訳したものです。
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共和党からの正式指名を受ける水曜日、ドナルド・トランプは、NATO加盟国が攻撃を受けた際に、彼は「まず加盟国が同盟に対して貢献をしているか確かめる」と、米国が自動的に防衛支援をする協定に対して、疑問を投げ掛けた。
NATOに最近加盟したバルト三国を脅かすロシアによる恐喝行動に対し、トランプ氏は、もしロシアが彼らを攻撃した場合、これらの国々が「我々に対する義務を全うしているか」先ず確かめ、援助を送るかどうか決めると答えている。
「もしこれらの国々が我々への義務を果たしているなら、答えはイエスです」
主要同盟国への軍事支援が状況次第だとするトランプ氏の声明は、主要政党の候補者として、始めてだろう。しかしながら「アメリカの軍事支援に対して更に多くの軍事費負担をしないならば、ヨーロッパやアジアなどの同盟国から米軍を撤退させる」というトランプ氏による今までの主張と一致している。
また、トランプ氏はトルコやその他の専制主義国である同盟国が彼らの政敵を粛正したり市民から権利をはく奪している事について、圧力をかけることはないと答えている。彼に言わせれば、アメリカは他国の行動を変えようとする前に「まず我々自身の問題を解決しなければならない」そうだ。
「我々には、説教をする権利はないと思います」トランプ氏は、ダウンタウン・クリーブランドのホテルで行なわれたインタビューの傍ら、共和党全国大会の様子をテレビで見ながら、質問に答えている。「我々の国で何が起こっているか、見てください。人々が警察官を殺害しているような状況で、どうやって他国に説教できるんです?」
45分に及んだ会話で、トランプ氏は、「アメリカが長い間負担してきた分の同盟国を防衛するコストを同盟国に負担させ」、「アメリカにとって益でないと思われる長年の条約を解消」し、「アメリカのパートナーとなる意味を再定義する」と、彼に指名を勝ち取らせた『過激ナショナリスト的なアプローチ』を再び強調した。
彼は、世界中の国々が彼のアプローチと協調する事となると言う。トランプ氏は、現在ある「合意の継続」を願うと言うが、それはもし同盟国らがもはや存在しないアメリカの大きさを利用する事を止めたら、の話だそうだ。
木曜日に予定されている自身の演説を前に、彼は過去4ヶ月彼の選挙テーマであった「アメリカを第一に」を主張し、メキシコとカナダとの間に結んだ「北米自由貿易協定」も、更に大胆な交渉が望めないならば破棄する用意があると主張した。
大統領として、NATO加盟国である同盟国を自動的に防衛する事に疑問を投げ掛けたトランプ氏の発言の何時間か後には、それでなくてもアメリカの約束を不安に感じているヨーロッパ指導者は、トランプ氏の発言に対して驚きを隠せないコメントを発表している。
「同盟国間の確証がNATOの価値観の鍵です」NATOの事務総長で、前ノルウェー首相のジェンス・ストーテンバーグ氏は声明を発表した。彼はアメリカの選挙に介入をしたくないと語りつつ、「二つの世界大戦から理解できるのは、ヨーロッパの平和は、アメリカの安全保障にとっての重要だという事です。」
アメリカは28国と同盟を結び、故トルーマン大統領によって署名されたNATOの条約第5条では、ある加盟国が攻撃をされた際には、その他のどの加盟国も支援を送ることが要求されている。これが発動されたのは、2011年の9月11日、アメリカが攻撃を受けた時だけだ。
この条約は長年、特にエストニア、ラトヴィアやリトアニアのような、ソヴィエト連邦解体後に加盟した弱小国などの、ヨーロッパ諸国への攻撃を抑止する中心的な要因となってきた。
地域における最も親同盟派の一人であるエストニアのトーマス・ヘンドリック・イルヴェス大統領は、すぐさま、彼の小さな国がアフガニスタンにも派兵し、アメリカとの相互の防衛協定を守っている事を証明するツイートをした。
トランプ氏は、月曜日に行なわれたメラニア夫人のスピーチと、ミッシェル・オバマ大統領夫人が8年前に行なったスピーチの類似性に関する議論が収まりつつあることを嬉しく思うとし、「後になって考えれば、」前日にアシスタントが文言を混同させたことを、説明していた方が良かった、と語った。
人々に、この全国大会から何を得てほしいかという質問に対して、トランプ氏は「私が人々に非常に好かれているという事実を、です」と答えている。
トランプ氏は、アメリカの同盟国や敵国に対する彼のアプローチが、第二次世界大戦後、アメリカを平和の守護人とした「必要不可欠の国」であるという国際主義を主張してきた、今までの共和党の伝統と違うことを認めている。
「今は、40年前とは違っています」トランプ氏は、自らのアプローチと、リチャード・ニクソンの時代の法秩序と世界情勢が比較される事を拒否して言う。世界中から米軍を撤退する脅しを繰り替えし表明する。「我々は、軍事費に莫大な予算をつぎ込んでいます。しかも8000億ドルの貿易赤字があります。これが賢いやり方な筈はありません。」
トランプ氏は繰り返し、世界におけるアメリカの国益を単なる経済利益に見出そうとしている。平和維持の役割を担うものとして、北朝鮮のような敵国に対する核抑止力の提供者として、人権の擁護者、また同盟国の国境の保証人としての役割は、それが果たしてアメリカ経済への利となるかどうかによるようだ。
近代の大統領でアメリカの優先順位をそのように位置付けた人物はいない。この大会においても、トランプ氏の政策よりも、ブッシュ政権を思い起こさせるような国際介入を求める声があるのにだ。
しかしながら、北朝鮮によるミサイルや核兵器の脅しや、或いは南シナ会での中国の動向を前にしても、トランプ氏は考えを変えるつもりは無い。彼は外国にあるアメリカ軍は、あればそれに越したことはないが、必要では無いと言う。
「我々が(中国や北朝鮮から)アメリカを守る為であるなら、(撤退後でも、アメリカの国土から)いつでも軍を再派遣する事ができます。」トランプ氏によれば「その方が余程安上がり」だそうだ。
多くの軍の専門家は、北朝鮮に対するミサイル防衛に最も適した場所は日本と朝鮮半島だとし、トランプ氏の考えに否定的だ。アジアの国々による負担金を考慮すれば、アメリカ国内だけに基地を抱える事は却って高くつく。
トランプ氏とのトルコ情勢に関する会話は、明らかにトランプ氏が自身をホワイトハウスに据えて、中東における重要な同盟国を危機に陥らせる混乱を、アメリカとしてどのように対処するべきか、考えている事がわかる瞬間だった。アメリカはトルコのインジルリク空軍基地を抱え、ISISに対する攻撃機はそこから発陸され、ドローンや約50の核兵器を所持している。
トランプ氏は、トルコの選挙によって政権を勝ち得た独裁者であるエルドアン大統領に対しては、称賛以外の何もないようだ。「あの状況を転換させた事を評価します。あのクーデターは自作自演ではないかという人もいますが、私はそうは思いません。」
エルドアン大統領はクーデターの未遂を、政敵を粛清するのに悪用しているのではないか、という質問に対して、西側の掲げる正義の基準や『法による支配』をトルコ指導者が順守する要求はしなかった。「世界がアメリカがいかに悪い状況なのか見た時に、市民の自由など語れるでしょうか。我々が語っても良いメッセージは伝えられません。」
オバマ政権は、不安定な地域での重要な同盟国の安定を恐れるあまり、トルコに対するあからさまな圧力を与えることを自制しているが、ジョン・ケリー国務長官は、エルドアン大統領に法に従うことを求めるいくつかの声明を発表した。
トランプ氏はトルコやトルコの状況に似た国を拘束する事への自省を見せてはいない。しかしながら彼のアメリカの道徳的権威についての議論は、なにも新しいものではない。ロシアや中国、北朝鮮やその他の専制独裁国らが、アメリカの国内暴力犯罪や無秩序を指して自らの行いを正当化し、アメリカはこれらの国々を批判する資格がないとする論議だ。
トランプ氏は、エルドアン大統領にISISへの戦いを本格化させるように説得する事が出来ると確信をしている。しかしオバマ政権は、アメリカが支援する、ISISに対して最も効果的な攻撃を行なうクルド勢力が、クルド人の独立を恐れるトルコによって日々攻撃をされている現実に直面している。
これらの問題をどのように解決するのか聞かれ、トランプ氏は一瞬、置いてから、「話し合いによってです」と答えた。
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「話し合いで解決をする」とは、よほどご自分の能力や魅力に自身があるのでしょう。
また共和党全国大会から人々が得るものを、「(トランプ氏が)どれくらい多くの人々に好かれているかの確信」だとする真意は、「アメリカを再び偉大な国にする」や「アメリカをまず第一に」というスローガンとは異なり、ご自分の利を第一とするか、或いはご自分をアメリカという国家に投影しているようにすら受け取れます。
NATOや同盟国からの米軍撤退は、プーチン露大統領に近く、ロシアの意向を受けた、トランプ陣営の外交アドヴァイザーであるポール・マナフォート氏の入知恵でしょう。
Donald Trump’s Russia connections – POLITICO
いずれにせよ、このニューヨーク・タイムズの記事からも見とれるトランプ氏の無知、傲慢さ、自己愛は、シュワルツの告白した通り、確かに病的であり、ヨーロッパやアジアの同盟国の安全保障を脅かすものだだと言えます。