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ドナルド・トランプを作ったメディアの自己反省

多くの共和党支持者がトランプ支持に回った原因の一つとして、リベラル・メディアによる、過去の共和党候補者に対する、時には事実に根差さない感情的な非難の歴史があった事が挙げられるとされています。

デイリー・ビースト誌は、これについて、
「彼の全国大会は、史上最悪のもの」と呼ばれ、クリス・マシューズには「危険で、恐れるべき」と見做され、、エレン・デジェネレスは「もし、あなたが女性ならば、非常に恐怖に思うべき」だと語り、彼の対抗者は彼を女性にとって危険な存在と呼ぶ広告を放映し、それに出演している女性に、「私は今まで、こんな恐怖を味わったことはありませんでした。今は女性でいる事が恐ろしい時代です」と語らせている。
 
彼はしばし「弱いもの苛めをする」と呼ばれ、「反移民」「人種差別主義者」であり「大統領となる為に相応しい資質を備えていない」とも書かれた。
 
これらは全て勿論、「恐るべき」ミット・ロムニー氏に対しての評価である。

 

と書いています。

How Paul Krugman Made Donald Trump Possible - The Daily Beast

 
つまり、主要メディアによる、今までの共和党候補者に対する行き過ぎだ批判が、共和党支持者に対して『免疫』を与えてしまい、2016年の大統領選挙で、主要メディアが、専門家の意見を参考にトランプ氏への深刻な警戒や警告を訴えても、「トランプが危険と言っても、~誌や~紙は、ロムニー氏にもそう書いていたではないか」と、警告を気に留めない風潮を共和党支持者のうちに作ってしまったのだろうとしています。
 
これをもっと端的に、メディアで活躍するリベラル派コメディアンのビル・マー氏は、「我々は今までいたずらに、共和党候補者を悪者として描いてきた事を反省するべきだ」と述べています。
 

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  リベラル派として「トランプ現象」のキッカケを作った反省を語るビル・マー氏

 

『一方、ザ・リアル・タイムのホスト(であるビル・マー氏)は、今回の選挙における共和党候補者であるドナルド・トランプ氏を『アメリカにとって真に危険な存在』と呼んでいる。
彼はリベラル派が今までの他の共和党員たちを似たような表現で呼んできた事を嘆き、そうしたことで、共和党支持者が今回の警告を心に留める力を弱めてしまったと結論づけている。
 
「リベラル派は大きな間違いを犯してしまいました。我々はジョージ・W・ブッシュ大統領を、まるで世界の終わりであるかのように攻撃していました。」
 
マー氏は、パネリストとして参加した、元ブッシュ大統領の為のスピーチ・ライターであったデイヴィッド・フラム氏に向けて語った。
 
「明らかに、ブッシュ大統領はこの世の終わりではありませんでした。」
 
マー氏はさらに続けて、「ミット・ロムニーについても、我々は彼を攻撃しました。オバマ大統領に一億円捧げたようなものです。私は本当にミット・ロムニーを恐れていました。ミット・ロムニーは、私の人生やあなたの人生をそれほど変える事は無かったでしょう。ジョン・マケインだってそうです。これらの人々は、意見の違いがありましたが、名誉に値する人物でした。そう言っておけば良かったんです。それなのに我々は『オオカミが来た!』と叫んだ。それは間違っていました。」
 
HBOのホストのコメントは、ナショナル・レビュー誌のエディターであるチャールズ・クック氏が今週初めに投稿したコラムとも共通する。そのコラムの中でクック氏は、「民主党支持者は、トランプ氏を非難し、攻撃する為の全ての言葉を、以前の使い過ぎの為に、全く意味のないものとしてしまった。」としている。

「表現の違いを関知する能力の最も高い層を除いて、ドナルド・トランプを表現する為の言葉と、ミット・ロムニーを表現する為の言葉に違いが殆ど見いだせない場合、我々の文化が深刻な誤りを犯してしまっていると言える。」

Bill Maher: Democrats made 'mistake' crying wolf on other Republicans - Business Insider

ヒラリー・クリントン候補に対する支持率が持ち直した最近、メディアの多くは、早くも「トランプ現象」の反省会を開きつつあります。それでもトランプ支持者の多くは、主要メディアの報道や世論調査の動向を無視し、「全てのメディアは偏見に満ち、真実を伝えず、嘘ばかり繰り返す」と信じているようです。

トランプ支持者の傾向として、「偏見に満ち、真実を伝えず、嘘ばかり繰り返す」と、主要メディアの報道を信じない一方、全く信頼性や客観性のない『ウィキリークス』のようなロシア政府によるプロパガンダ・メディアや、陰謀説を専門に広める『ドラッジ・レポート』や『ゲイタウエイ・パンディット』らのようなメディアの報道は、鵜呑みにする点が挙げられます。

これは恐らく、例えヒラリー・クリントン候補に対する批判記事はどの主要メディアに見られるものの、トランプ氏への評価や支持となると、全く信頼に値しないプロパガンダ・メディアや陰謀説専門メディアしか記事にしないからでしょう。

トランプ支持者によるメディアへの不信は、デイリー・ビースト誌やナショナル・レビュー誌のチャールズ・クック氏、またビル・マー氏が述べた通り、リベラル派だけの責任なのでしょうか。

但しもう一点、トランプ氏独自の、メディアによる不信を支持者に植え付ける戦略が考えられます。

CNNのブライアン・ステルター氏が指摘する通り、メディアを敵視する今までのトランプ発言には、「私はヒラリー・クリントンに対抗しているだけではなく、メディアに対しても対抗している」とラリーで語り、支持者がメディアに対してブーイングを行なったものがあります。またトランプ氏は、数日前のラリーの最中、自分に対してフェアでないとCNNの女性ジャーナリストを名指しし、支持者が彼女を振り返りブーイングを行なうのに任せた事もあります。

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  トランプ氏による対メディア戦争発言について述べるブライアン・ステルター氏(左端)

トランプ・ラリーを取材するメディアのレポーターに対する暴言やブーイングがトランプ支持者から頻繁に為されている事も知られていますが、トランプ氏がこれらの行動を批判することは無く、むしろ「不正に対する正義の怒り」と位置付けています。

ステルター氏は、トランプ氏による一連の傾向を

「トランプ氏の選挙キャンペーンの中心は、極端な反メディア発言にあります。このようなものは、近年の大統領候補者から聞いたことは一度もありません。ヒラリー・クリントンも決してメディアに対してフレンドリーではありません。しかし、ドナルド・トランプは違います。彼はメディアの正当性、信頼性を剝ぎ取ろうとしています。企業としてのメディアは、彼に反対する為の大規模な陰謀の一端を担っていると主張し、批判されるべきジャーナリストの名を、支持者に対して名指しで呼んでいます。」

と指摘しています。

Watch CNN’s Brian Stelter Review Trump’s “War On The Media”

 

トランプ氏を支持する為に、多くの熱心な支持者はトランプ氏の主張を信じています。言い換えれば、トランプ氏を支持する為には、トランプ批判を繰り返す主要メディアを信じないことが必要となります。ところが主要メディアの報道を拒否すれば、当然そこから得られる筈の専門家の意見や警告に触れる機会も失なうことになります。

多くのトランプ支持者らは、たとえ経済の専門家や安全保障の専門家らの警告を聞く機会を与えられても、まるで彼らの方が専門家よりも詳しいように、深刻な警告を一蹴しますが、これは、自分の信じている宗教についての疑いや疑問を持たないように、他者からの意見には懸命に耳を塞ぐ信者に見られる傾向と言えます

「トランプ暗殺未遂は誤報である」と明らかになっても、未だ「民主党支持者やヒラリー、メディアが事件真相の裏にあり、陰謀を張り巡らしてトランプ氏を陥れようとしている」と言い続けるトランプ支持者が多いのですが、彼らにとっては、トランプ支持に熱心なフォックス・テレビのショーン・ハニティー氏による「ヒラリーの選挙陣営は血なまぐさい新興宗教と関わりがある」といった正常な精神の持ち主には信じられない主張の方が、受け入れ易いようです。

そうは言っても選挙投票日は近づき、やがてトランプ現象も終わりを迎えることによって、思考や常識、論理を停止させての熱情から目覚める時が来るかもしれません。