ドナルド・トランプの『災害的経済政策』5月9日、zakzak記事への反論

日本でドナルド・トランプ氏がどのように報道されているかはあまり存じませんでしたが、どうやら誤解があるように感じます。
 
5月9日のこのzakzakの記事は、トランプ氏が過去4回破産をした事と、又それから立ち直った事に注目し、「不死鳥のように復活するのも、トランプ氏の真骨頂だ」と記しています。
 
トランプ氏の4回にわたる破産申告の事実に相違はありませんが、彼のビジネスマンとしての実情は、「不死鳥」として、一国の経済政策を任せられるものでしょうか?
 
まず第一に、トランプ氏の成功の秘訣は、彼が受け継いだ莫大な遺産によりますが、この譲り受けた資産をそのままにして、何の事業にも手を出さなかったとしても、トランプ氏の総資産額は現在と変わってはいないだろうと言われています。
 
ですから、彼の現在の資産を取り上げて、彼を成功したビジネスマンのように語ることは正確な描写とは言えません。
 
トランプ氏が自身の成功を自慢して語る事は知られ、ビジネスの成功が支持の基となっていますが、彼はなぜか収入約5千万円以下の人々の為の減税措置を受けていて、納税証明の提出は拒んでいます。
 
また彼は、不動産の他に多くのビジネスに失敗をしています。「トランプ・ステーキ」、「トランプ大学」、「トランプ・エアライン」、「トランプ水」など、次々と自分の名前を付けては商品を売り出したものの失敗をしており、これらの「商品」を見ることはありません。ここから考えて、彼に「先見の明」を見出すことはできません。
 
また一番重要な、「トランプ氏が破産からいかに立ち直ったか」について、zakzakは国際政治学者の藤井厳喜氏の言葉を引用して、「『破産申請して復活した』と米国民が見ている」と書きますが、このように見ているのは、実情に構わず支持しているトランプ支持者だけです。
 
さて、破産からの復活のため、トランプ氏は、まず①米国民の税金からの援助を受けました。勿論、これはGMやリーマン・ブラザーズなども同様ですが、トランプ氏が破産させたのは、カジノやプラザ・ホテルなどで、公益性があるものかどうかは議論の余地があるとされていました。
 
 
また彼は、②貸した金額よりも少ない額の返済を、債権者に受け入れるように認めさせました。
 
藤井氏は、トランプ氏の「破産からの立ち直り」を以て、大統領として経済政策の手腕を認めているようですが、同じような負債からの「立ち直り方」をトランプ氏が大統領として行なった場合、まずアメリカという国家に融資している中国や日本のような国が、『融資した額よりも少ない返済』を受け入れる事となります。
 
実際、5月9日の報道によれば、トランプ氏は「外国(日本)からの債権者に対して、返済額をまけさせる」と主張しています。このような政策が、どうして日本の経済に打撃を与えないでしょうか? 
 
こういった政策は、外国(日本)からの更なる融資を取り付けることを困難にするだけでなく、トランプ氏の大統領当選が本格的になれば、外国からの債権者は、今のうちに取り立てようとするでしょう。米国の経済は大きな打撃を受け、穴埋めとして、「大幅な減税」どころか、増税に頼るしかなくなります。
 
オバマ大統領の仰る通り、トランプ氏は「外交や世界をよくわかっていない」だけでなく、「経済」すら理解していないのが本当ですが、そのトランプ氏を持ち上げて、「米国経済が良くなれば、日本をはじめ世界経済にもプラスだ」という発想は、どこから来るのでしょう。
 
藤井氏は、トランプ氏の「減税」「規制撤廃」についても期待をしているようですが、彼の「減税」や「規制撤廃」など語ったかと思えば、「増税」や「規制」についても語り、「懸案について、相反する約束を掲げている」とも揶揄されています。
 
実際、先にトランプ氏自身が発言した「債権者に対して、減額の返済を認めさせる」という発言の真意を正されて、代わりの案として、「アメリカが紙幣をもっと多く印刷する」と述べています。こうなれば、紙幣価値そのものが変わりますので、これも国内経済だけでなく、債権者には大きく影響します。
 
 
藤井氏の仰る、「米軍が日本防衛の為に支出している国防費の全額負担を要求するとして注目されているが、これはディールの一種だろう。(中略) 安倍晋三政権は駆け引きとして対応すべきで、十分対応できる」という楽観視の根拠となるものは、一体何でしょう。 どのようなディール(取引)をトランプ氏は求め、日本が「十分対応できる」と述べられているのでしょう。
 
もし日本が「国防費の全額負担」や「返済額の減額」を受け入れたとして、トランプ氏は、いくらかばかりの好意的な関係を結ぼうとするでしょうか。
 
因みに、トランプ氏への融資額の減額を受け入れた債権者に対して、トランプ氏は、「これらの貸主は、赤ん坊ではない。彼らは容赦のない人々だ。彼らは親切で、優しい小さな人々ではない」とし、却って貸主に対する暴言を述べています。
 
 
同盟国には「いいように利用されてきた」と『被害』を訴えるトランプ氏ですが、特に日本に対しては、「日本は我々から何も買っていない」と事実に反した批判さえ繰り返し述べ、日本とは、「三分間で取引できる。私の8歳の息子でも日本との取引などできる。日本の生存は我々にかかっているのだから、簡単な取引だ」としています。
 
 
トランプ氏が掲げている政策の中で、専門家を最も深刻に危惧させているのが、「経済政策と外交政策への無知」です。
 
トランプの掲げるこれらの政策を懸念しない専門家はなく、彼の「経済政策」によって米国経済が崩壊すらしかねない懸念が多くのリベラル派のメディアだけでなく、保守派のメディアにも報道されています。
 

http:// http://www.nationalreview.com/article/423141/donald-trump-21st-century-protectionist-herbert-hoover-stephen-moore-larry-kudlow

 

先ほども述べた通り、経済政策だけでなく外交政策も懸念されていますが、その両方からの影響を大きく受ける日本のメディアが、トランプ氏の「真骨頂」ならぬ、「愚の骨頂」とも言える政策を好意的に取り上げている事には、少々驚きました。