2015年3月19日、アフガニスタン・カブールで何が起きたか

2015年3月19日、アフガニスタンのカブールで、27歳のアフガン女性、ファルクンダ・マリクザダが、イスラム僧との諍いで、「コーランを燃やした」という言いがかりをつけられ、怒り狂う群衆によって石打ち、こん棒による殴打、踏みつけられ、車で惹かれ、車で轢かれ、火をつけられて殺害されました。
 
ファルクンダは当日、イスラム教寺院で女性を相手に不妊治療のお札やボーイフレンドを作るおまじないのお札を販売するイスラム僧に対して、「このような行為は、女性を踏みにじり、搾取するもので、イスラムではない」と非難した為、怒った100人余りの群衆によって処刑されたようです。

 

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ファルクンダは「私はイスラム教徒です。イスラム教徒がコーランを燃やす筈がありません」と自身の潔白を訴え、途中、警察の介入もありましたが、「群衆の怒りと増え続ける数に圧倒された」と言われています。
 
ウィキペディアによれば、『群衆は彼女の髪の毛を引っ張り、彼女を打ち、唾を吐き、押し倒した後、踏みつけ、頭部を蹴り、彼女の顔を覆っていたヒジャブをはぎ取った。警察はこの緊急状況を踏まえ、商店の屋根に彼女を引き上げ、群衆から引き離そうとした。意識のあったファルクンダはバランスを保とうとしたが、棒で殴られたため体を支えることが出来ず、屋根から落ち、群衆の中に落ちていった。
 
 
彼女は残酷に、容赦なく打ち叩かれ、意識を失った。群衆は動きのない彼女の体を道に引きずり出し、車で轢いた野馳、300フィート離れたカブール川の岸まで引きずり、彼女の体に火をつけ、彼女の体が燃えていくのを監視した。ファルクンダの服は彼女の血で濡れていたため火が付かず、群衆は自分たちの帽子やスカーフなどを用いて火が消えないようにした。』
 
『群衆の数が増えると、彼女がアメリカ人と共に働いているという噂が流れた。』
 
『警察は群衆を抑えることをせず、むしろ周囲の交通整理をし始めた。』
 
『 目撃者の証言によれば、群衆は、反アメリカ、反民主主義のスローガンを叫びながら、ファルクンダを打ち叩いていた。また、彼女がアメリカ人と協力している、フランス大使館で働いていると非難する声がビデオにも録画されている。』
 
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ファルクンダの殺害の当日、多くのアフガンのイスラム教師たちは、彼女の処刑が正当的な行為であったと次々に声明を発表しましたが、事件の2日後、当局の調べで、彼女がコーランを燃やしていない事が判明し、それを受けて、この処刑を批判する教師も出ました。
 
これらの一部始終は、百人を超える群衆と、その群衆の様子をビデオや携帯電話で映す傍観者によってソーシャルメディアに公表されました。それらの殆どは、ソーシャルメディアへの投稿で、イスラム教への冒涜者に対する正義の裁きが下された事を主張しています。
 
この事件に不満を持つ女性の怒りが爆発し、彼女の葬儀には、女性は葬儀に出席しないという慣習を破り、女性がファルクンダの棺を担ぎ、男性らには一指も触れさせないという意思を表しました。また3月24日には、何千もの人々が集まり、ファルクンダの死に責任を持つ犯人への処罰と、女性の人権の向上が叫ばれました。
 

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この事件によって49人が逮捕をされ、そのうちの4人に死刑判決が下されましたが、4人とも控訴判では、懲役10年から20年の刑に軽減され、ファルクンダが「コーランを燃やした」と初めに宣言したイスラム教師は、起訴そのものを免れています。
 
ファルクンダ・マリクザダの死を悼んで、今年は人権団体の活動家らが、彼女の死の様子を劇で表現しています。
 
ファルクンダの家族は、群衆からの報復を恐れ、国外へ逃れたそうです。
 
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心あるイスラム教徒の中にも彼女の死を悼み、女性の人権について声をあげる人々がいる事は、留意に値するでしょう。 

それでも、考えて頂きたいのです。これらの男性、群衆は、決して過激派のイスラム教徒ではありません。テロリストでもありません。

彼らはコーランの教えに従っている「敬虔なイスラム教徒」なのです。
 
彼女の処刑の『不当性』が、「実は、ファルクンダはコーランを燃やしていなかった」の一点に尽きるとしたら、そもそもの悲劇はそこにあると思えるのです。
 
人権というものに少しでも関心のある者は、このような不正義と悲劇にこそ声を上げるべきです。
 
たとえ、ファルクンダがコーランを燃やしていたとしても。
 
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以下のニューヨーク・タイムズのビデオは、ファルクンダの処刑される様子が、目撃者によって録画されたものです。

www.nytimes.com