『南京』と『安保法案』を共に並べる愚 (2)

「なぜ30万人説はウソであろう、という検証ではなく、「大虐殺否定派」への意見ばかりを申されているのか」というご質問を頂きました。

 

まず私は、南京について意見を述べる時、「私は以前、南京大虐殺は起こらなかったと信じておりました。今でも中国側の主張する30万人虐殺説は信じており ません。それでも、日本軍への補給が殆ど届かなかった中国戦線の実情を学んで、近代史専門家の秦郁彦氏の仰る4万人虐殺説こそ、論理的だと思うようになり ました。」「私は中国側の主張する『南京大虐殺30万人説』や、それをユネスコに遺産として記載する事には反対をします。」などと、必ず中国政府の主張す る30万人説に反対をしております。

 

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ところが、「30万人の虐殺があったに違いない」という反論を頂いた事がありませんので、議論になっておりません。反対意見を述べられるのは、必ず「南京において虐殺は無かった」というご意見の方ばかりだからです。

 

もう一つは、どちらが日本の国益を損ねているかを考えた場合、『無かった派』の主張の方が、現在の日本人に対する信頼を傷つけていると思われる点が上げられます。

 

秦郁彦氏や、デイビッド・ケネディー氏、ボブ・ワカバヤシ氏、アルヴィン・クック氏など、国際的に評価の高い歴史家は、ハッキリとした犠牲者数の概算が出 来ないとしながら、犠牲者の殆どを投降した捕虜としながら、便衣兵狩りの際に一緒に殺された市民を含め、約2万人から4.6万人の不法殺害が行なわれた事 を述べています。

Death toll of the Nanking Massacre - Wikipedia, the free encyclopedia

 

勿論中国政府側は被害者を一般市民とした上でその数を30万人として、訴えますが、戦争に於ける犠牲者の数を被害国が多く見積もり、加害国が少なく見積もることは、南京に限らず多くあります。

 

例えば原爆による被害者数や、東京大空襲による被害者数、またシベリア拘留による被害者数は、日本政府とアメリカ政府、またロシア政府の間で異論がありますが、大抵日本側が多く見積もり、アメリカやロシア側が低く見積もります。

 

ここで日本が政治目的の為に、原爆による被害者を100万人と誇張した場合、アメリカは日本のプロパガンダを否定するために原爆の被害者0説、或いは原爆 が投下されなかったと主張するでしょうか。また、日本側がシベリア拘留による犠牲者を1000万人と大幅な誇張を行なった場合、ロシアはそうした誇張に対 抗する為に、拘留は「無かった」と主張するべきでしょうか。

 

アメリカもロシアも、そのような否定はしません。「無かった」論は全く説得力に欠け、極論に対して疑念を抱かせる役目を果たし得ないからです。

 

また、このような「否定」は、過去の日本を貶めるものではなく、現在の日本人、現在の日本の国がら、日本の軍事力強化の動機を疑わせる事に繋がります。

 

現在、日本は安全保障の問題の為にも、憲法改正を行なう必要があります。憲法改正を行ない、防衛力を強化しようとしている日本は、どんな日本でしょうか。 過去の戦争とは決別を果たした日本でしょうか。それとも多くの客観的な歴史家が史実として認める過去の虐殺を、「虐殺は無かった」或いは「起きた事は虐殺 ではなかった」と主張する日本でしょうか。

 

中国政府が行なっている事は、現在の日本の政治指導者が、過去の大日本帝国の思想と同じ思想を抱いていると主張することです。

 

このような思想は、勿論、真実ではありませんが、現在の日本の同盟国である米国にとっても、近隣諸国にとっても、受け入れられる思想ではありません。このような主張が真実ではないと主張する為には、過去の日本との決別を示し続ける必要があります。

 

ところが「無かった」という否定論は、過去との決別を示していないだけでなく、過去の行ないの美化としか映りません。過去を美化していると映れば、同じ事を繰り返そうとしているという中国のプロパガンダに口実を与えます。

 

現在の日本の安全保障問題への対処に懸念を抱かせているのは、多くの歴史学者が認める史実を修正する動きです。ですからこの点から見て、30万人説よりも、否定論が国益を損ねていると述べているのです。

 

「殺害事件そのものが全く無かったとは、多くの南京大虐殺否定派は捉えておりません」というご意見もありますが、現在の論壇で『南京大虐殺は 起こらなかった』と言う方々はその被害者数を「限りなくゼロに近い」と定義されています。

 

これは私の「固定観念」ではなく、発言されている学者人の引用で す。グーグルをしてお調べになることをお勧めします。

 

「大虐殺」はウソだと主張することに何の瑕疵があるのかわからないのです。」と言う方もいらっしゃいますが、私は「大虐殺」はウソだと主張することについて反対意見を書いておりません。

 

何度も強調しているのは、安保法案と並べて掲げる事の愚かさです。