国連という組織-----クルト・ヴァルトハイム事務総長

1945年に、戦勝国を基とした『国際平和の維持(安全保障)と経済や社会などに関する国際協力の実現』を掲げる国際機構として国際連合が誕生しました。中国やロシアなどの例外もありますが、設立当時の51カ国の加盟国の殆どは、自由や人道主義を掲げる国々でした。

 

国連の歴史を見ますと、国連人権委員会は、シャリア法の支配するイスラム教国に対する非難や、中国や北朝鮮のような共産主義国に対する非難よりも、もっととびぬけて多い非難決議を、中東で唯一の民主主義国家であるイスラエルに対して行なっています。

 

この国連による極端な反イスラエル主義は、1970年代に始まったと言えます。それは中東のアラブ諸国の産出する石油の価値が上がった事も要因にであるかもしれませんが、この時期の事務総長が反イスラエル主義の代表のような人物だった事と、無関係ではありません。

 

1972年に当時のオーストリア首相ブルーノ・クライスキーに推薦され、1981年まで国際連合の第4代事務総長を務めたのが、クルト・ヴァァルトハイムです。

   

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クルト・ヴァルトハイム - Wikipedia

 

任期中の1972年9月11日、彼はウガンダの独裁者であるイディ・アミンから電報を受け取ります。これは、パレスチナ解放機構のアラファト議長と、当時のイスラエル首相ゴルダ・メイヤに宛てたものと同じ内容でした。

 

この電報でアミンは、ミュンヘンで起こったイスラエル・オリンピック選手の虐殺を称え、この虐殺がヒットラーが600万人のユダヤ人を焼き殺したドイツで起こったのは適切であったと言いました。同じ電報の中で、アミンは国連からイスラエルを追い出し、全てのユダヤ人を、イスラエル建国の罪を負うイギリスに送り返すように要求しています。

       

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この電報を知った国際社会の反発の中、国連は、一国の元首から送られて来た電報について、事務総長がコメントをする習慣は無いと発表しました。

 

イスラエルからしてみますと、ホロコーストを肯定する、こうした電報を送りつけたイディ・アミンに対する厳しい非難が何故国連から為されないのか、不審を抱いたのも当然です。

 

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1976年6月27日、エール・フランス航空機ハイジャック事件(通称:エンテベ空港ハイジャック事件)が、起きました。四人の犯人のうち、二人はパレスチナ解放人民戦線、もう二人は西ドイツのテロリストグループ「革命細胞」でした。これは先に挙げたウガンダの独裁者であるイディ・アミンが、積極的に支援したテロ行為です。

 

イスラエル国防軍が7月3日から4日にかけてウガンダのエンテベ国際空港で実施した人質救出作戦によって、(突入部隊の誤射で死んだ3人と、病院に搬送されていた1人を除く)100人以上のイスラエル人、ユダヤ人の乗客全員が解放され、救出作戦では稀に見る成功を収めたにもかかわらず、ヴァルトハイムは、『国連加盟国に対する深刻な主権の侵害』として、イスラエルを非難しました。

    

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(イディ・アミン率いるウガンダ政府は、「主権を侵害された」としてイスラエル軍の攻撃に対する非難を行ない、国際連合安全保障理事会の招集を要求しましたが、アミン政権がハイジャック行為を積極的に支援していた為に、安全保障理事会は最終的にこの問題に対するいかなる決議を下すことを拒絶しました。)

エンテベ空港奇襲作戦 - Wikipedia

 

しかしこれが、テロ行為に対して、テロリストではなく、反撃を行なうイスラエルを非難する国連のパターンとなりました。

 

1986年、ヴァルトハイムはオーストラリア大統領選に当選しました。ところが、彼の1938年から1945年までの履歴に不審な点が見つけたジャーナリストの調査の結果、ヴァルトハイムがドイツが併合したオーストリアに於いて、国家社会主義学生同盟とナチス突撃隊に所属していたという事実が判明しました。ところがヴァルトハイムは、いくつもの矛盾する嘘をついて、自分の過去を明らかにする事を拒否します。

 

調査が進むにつれ、ヴァルトハイムは大戦中の1943年にユーゴスラビアで残虐行為を働いたドイツ国防軍の部隊において通訳を務めていたことが判明しましたが、一方、戦争犯罪には無関係であったとされます。

 

それでも、彼が戦争中に行なった事として、『ユダヤ人と全滅させろ」というプロパガンダのパンフレットの配布を許可した事が挙げられています。

 

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彼のナチス隊員としての過去は、国連事務総長時代には明らかにならず、大統領選に立候補してから明らかにされたようですが、疑惑が浮上した当初、彼はそれを『ユダヤ人による陰謀』と一蹴していました。

 

国連の中立性や公正を信じる人々には、国連とは、元ナチスの隊員が事務総長として、テロから人質救出したイスラエルを非難する組織としての一面もある事を、知って頂きたいと思います。