米軍、シリア攻撃

木曜日夜、ドナルド・トランプ大統領は自国民に対して化学兵器を用いた攻撃を行なったシリアのアサド政権に対し、、そこから化学兵器爆弾を積んだ爆撃機が発射されたと見られるアル・シャヤラット空軍基地を米海軍戦艦からミサイル攻撃した。ロシアに対してアメリカは、アサド政権に向けた攻撃をすると直前に伝えており、ロシアとの交戦を避ける形でシリアへの攻撃が行なわれた。

Syrian Media Say ‘Enemy America’ Caused Damage to Air Base, Multiple Casualties - WSJ

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アメリカによる攻撃前、モスクワは相反するメッセージを送っている。

一つはプーチン大統領による、「アサド政権が自国民に対して化学兵器を使用し、攻撃した事実はない」という、ニッキー・ヘイリー米国連大使への「反論」であり、もう一つは「ロシアによるアサド政権支持は、決して無条件支持ではない」というメッセージだ。
 
プーチン大統領の反論は期待されていた反論であり、勿論事実に基づいたものではない。シリア独立派のメディアやオブザーバーたちの証言は全て、火曜日の攻撃がアサド政権によって行なわれた点で一致しており、爆撃機から化学兵器を投下したパイロットの名前も「ムハマッド・ユーセフ・ハス―リ大佐」であると明確にされている。西側の諜報機関と米軍は、この攻撃がアサド政権によって行なわれた事を認めており、これに疑いを抱く客観的理由はない。
 
プーチン・ロシアとの不透明な関係疑惑によって役割からの辞任に追い込まれたトランプの側近は、ジェフ・セッション司法長官(ロシア大使との面会を議会から隠していた事が発覚)、ポール・マナフォート、元選挙キャンペーン・マネージャー(クレムリンとの繋がりが深いウクライナ政府からの給与を得ていた。またロシアスパイとの金銭関係の為、FBIの捜査対象となっている)、カーター・ペイジ元外交政策アドヴァイザー(元ロシア副首相との間の、米国大統領選に関する不可解な諜報交換が疑われ、FBIの捜査対象となっている)、ロジャー・ストーン元アドヴァイザー(カーター・ペイジと同様、ロシア政府高官との諜報交換が疑われている)、マイク・フリン元国家安全保障委員会委員(ロシア政府高官との間の、対ロ制裁解除の約束が疑われ、FBI捜査対象となっている)等がいる。
 
トランプ大統領にとって、2013年以来大きなシリア市民の犠牲を前に、これ以上ロシア政府に対して迎合をしていると見られれば、オバマ大統領が犯した失敗よりも、オバマ政権の弱腰を批判していた手前、それを上回る大きな失点となるだろう。
しかしながら、ニッキー・ヘイリー国連大使が昨日の国連安全保障理事会で示唆した通り、米国の軍事行動がアサド大統領排除に向けたものであるとすれば、トランプ大統領の注意持続期間よりも更に長い長期的戦略や決意が必要となる。
 
青ざめて横たわるシリアの子供の遺体に胸を痛めたとしても、来週には彼らが『イスラム教徒』であり『過激派』であり、また『難民、移民』としてトランプ氏に映らない保証はない。個々の遺体を前に気の毒に想う感情の高揚がトランプ氏にあったとしても、人権侵害や人道に対する罪に立ち向かおうをする普遍的正義感がトランプ氏にあるだろうか。重要なことは、感情の高揚ではなく、絶対的な信念によって、米国の外交政策や軍事作戦が決められなければならない点だ。
3,000人に上るアメリカ人の犠牲を前にしたジョージ・W・ブッシュ大統領でさえ、いざ開戦となり米軍に被害が出るにつれ、国民の中の厭戦感情による支持率の低下を招いた。フセイン大統領が有していなかった筈の無く、いずれはテロリストの手に渡っていただろう大量破壊兵器を巡るイラク戦争については、その開戦後、トランプ氏は反対を主張していた。強硬姿勢を示す為に僅かの空爆を行なっても、一般市民の犠牲を増やすだけで、アサドの排除には繋がらない。

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                  4月4日の化学兵器爆撃を行なった爆撃機の空路を示す地図

アサド排除の為には、地上軍の派遣、また戦争の拡大を防ぐ為には、アサド政権を支持するロシア、イラン等の外国軍の排除が何よりも必要だ。トランプ大統領は、中国の習近平主席との会談を終えた後、シリアへの空爆について声明を発表した。

Dozens of U.S. Missiles Hit Air Base in Syria - NYTimes.com

 

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「今夜私は、化学兵器による攻撃が行なわれたと思われるシリアの空軍基地を限定攻撃する命令を出した。化学兵器の使用と拡散を防ぐ事は、アメリカの安全保障という国益にとって重要である」
 
トランプ大統領の声明は全くもって事実である。この点は、マルコ・ルビオ上院議員も指摘している。
 
「この子供たちが見えますか? 自分がこの子供たちの父親であると想像して下さい。そして自分の子供たちが政府による毒ガス攻撃で殺されてしまったと。そういった政府を、正統な政府であると受け入れられる筈がありません。あなたは、政府があなたの子供、家族に対して行なった事により、憎しみと復讐心に駆られるでしょう。自分をその立場に置いて下さい。
 
そしてこれらの人々、こうした多くの人々は、シリア内の銃や資金を持つ組織、それがどんな組織であっても、アサドに対抗する為に加わるのです。ただアサドに復讐する為に、彼らは知る限りの反アサド組織に加わるのです。
 
そして悲劇的な事に、ジハーディストでない、少なくともジハーディストではなかった多くの人々が、過激ジハーディストの組織に加わる事になるのです。何故なら、アサド政権に対して戦うための最も多くの武器や資金を持っている組織は、過激ジハーディストの組織しかないからです。そして彼らはただアサドに対する復讐心の為にこれらの組織に加わるのです。彼らがこれらの組織に加わる動機は、自分の子供、家族に対してアサドが犯したことに対する報復です。
 
だからこそ、アサドは排除されなければなりません。バシャール・アル・アサドがシリアにいる限り、シリアから過激派の要素は無くなりません。(結局、こうした人々は)アサド排除の為に戦うだけではなく、海外に過激イデオロギーを広める為にも戦う事になるのです。
 
これは我々の安全保障という国益に関わる問題です。全てのアメリカ人にとっての関心であるべきです。これは国民としての我々にとって重要な問題です。これは我々が何者なのかという本質的な問いかけであるばかりでなく、我々の安全保障にも関わります。これを無視する事は出来ません。」
米保守派の中の、多くの『ネヴァー・トランプ』と言われる、普段はトランプ氏に反対する人々も、今回のトランプ大統領によるシリア空爆の決断を支持している。リンゼイ・グラハム上院議員は「今は、大統領にとって、外交政策と独裁者に対する政策において、彼が『オバマ大統領』とは違うことを証明する良い機会だ」と語っている。その通りだろう。軍事作戦後、グラハム議員とジョン・マケイン議員は、トランプ大統領による軍事行動を支持する共同声明を発表した。
 
ロシアの出方は予測がつかないが、ロシアが西側からの更なる制裁や報復の危険を冒してまでアサドという人物に固執するだろうか。アサド個人を排除する事はそれ程不可能ではないかもしれないが、問題はそアサド後のシリアだ。アサド後のシリアからアメリカが撤退すれば、力の空白を招き、再びロシアやイラン、あるいは中国の勢力拡張を招く事となる。
 
中東での軍事行動は、予測のつかない事態に繋がる可能性が常にある。トランプ大統領の決断は正しかったと言えるが、この後、彼は議会と軍、諜報機関との綿密な戦略を立て、彼らからの助言に耳を傾ける必要があるだろう。