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ロシア: 民主活動家アレクセイ・ナヴァルニィー逮捕に見る、独裁者プーチンの焦り

ロシア政府内の腐敗を暴露し、『プーチンが最も恐れる男』と呼ばれ、ロシア民主化運動の指導的立場である弁護士のアレクセイ・ナヴァルニィが逮捕された。彼が主催した「反腐敗デモ」はロシア連邦内の90カ所以上の都市に広まり、各地では何千人もの人々が集まり、2011年から2012年の間に起こったデモ以来、最大規模の行進を行なっている。非政府組織OVD-Infoによれば、このデモの為にロシア内で逮捕された市民は約800人に上るとされているが、この数の確認は取れておらず、ロシア国営放送のタス通信がモスクワ警察の発表として計算した逮捕者は、およそ500人とされている。また、デモ隊の参加者の半数は20歳以下の未成年であり、クレムリンのプロパガンダ報道機関である『ロシア・トゥデイ』や『スプートニック』、『タス通信』などではなく、インターネットから情報を得る世代である事が伺われる。

Protesters Gather in 99 Cities Across Russia; Top Putin Critic Is Arrested - NYTimes.com

Russia: Mass Protest Against Government in Moscow | Time.com

От Петербурга до Владивостока. Всероссийская акция протеста в фотографиях — Meduza

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政府内の腐敗を暴露するナヴァルニィは、特にいくつもの豪邸、ヨット、ブドウ農園を有するディミトリ―・メドヴェージェフ首相に関する情報を公開し、デモ隊に合流しようと地下鉄からモスクワのプーシキン広場に向かう途中、ロシア警察によって逮捕された。
 
ナヴァルニィはこれまでにも何度か逮捕されており、不正を問う裁判で有罪判決を言い渡され、2度刑務所に送られてもいる。但しこれらの裁判については、反プーチンを掲げる多くの民主活動家に対する裁判がそうであるように、ヨーロッパ司法裁判所から「反対派を封じ込める為の違法裁判」と見做されている。ナヴァルニィ―の弟も2014年末にフランス企業から窃盗したとして有罪判決を受けたが、これについては被害者とされる会社自体が被害のない事を証言しており、ナヴァルニィ―は「私を封じ込める為に、私の家族を弾圧している」と述べている。

Kremlin critic Alexei Navalny given suspended sentence and brother jailed | World news | The Guardian

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  アレクセイ・ナヴァルニィー(右)と、収監される弟のオレグ・ナヴァルニィー(左)

そもそも、クレムリンがナヴァルニィー本人ではなく、弟のオレグ・ナヴァルニィ―を刑務所へ送った理由は、ナヴァルニィ―を刑務所に送り、クレムリンによる反対派弾圧への世界的関心の集まりを避けることにあった筈だ。ところが、今回ナヴァルニィ―本人の逮捕に踏み切った理由は、その他クレムリンで起こっている不可思議な殺人事件や更迭の数々から、プーチンの焦りや生き詰まりが背景にある事が伺える。

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         デモ参加者の半数は20歳以下の若者である。 

プーチン・ロシアが2016年度の米国大統領選挙に介入をしようとしたことは、既にFBIやCIA、その他の西側情報機関が認めている。ロシアは民主党システムだけではなく、共和党システムにもハッキングを行ない、民主党から得た情報だけをウィキリークスに流し、ウィキリークスはロシア・ハッキングから得た情報に多少の工作を加えて真偽混合してこれを流した。勿論、ウィキリークスが流出した情報は、真偽混合されているからと言って、米民主党はどれが真実でどれが嘘か明確にすることは出来ない。ある情報を否定しようとすれば、その他の情報にお墨付きを与えることになるからだ。
 
このように真偽混合されて流出された情報は、米国のメディアを通して一般化されたが、これにはトランプ大統領のアドバイザーであるスティーブ・バノンの経営する『ブレイト・バート誌』や、トランプが信頼する陰謀説論者として有名なアレックス・ジョーンズの『インフォ・ウォーズ』などの「アルトライト・メディア」が飛びつき、反ヒラリーの陰謀説をまことしやかに広めてきた。『ピザゲート』等、ありもしない幼児虐待のオカルト儀式などの陰謀説は、一部のトランプ支持者によって信じられ、それを発端とした発砲事件まで起きている。最近FBIは、『ブレイト・バート誌』と『インフォ・ウォーズ』を名指しして、これらメディアとクレムリンによる選挙を巡る情報戦略との間に、「何らかの協力関係があったか捜査するべきか検討している」と認めたが、それに関連してか、インフォ・ウォーズのアレックス・ジョーンズはピザ・ゲートを巡る報道に誤りがあった事を認め、関係者に謝罪をしている。

FBI Probing Breitbart, InfoWars In Russia Investigation | The Daily Caller

https://www.nytimes.com/2017/03/25/business/alex-jones-pizzagate-apology-comet-ping-pong.html?_r=0

 

直接的協力関係の有無は定かではないが、これらアルトライト・メディアによるヒラリー・クリントンへの誹謗中傷的報道が、元々はクレムリンに発している点は否めない。
 
さまざまな報道によれば、2016年の選挙期間中、トランプ陣営とクレムリンとの間に頻繁な連絡が為されていた事が判明している。FBIはトランプ政権への捜査が行なわれている事を公式に認めているが、こうしたロシア政府との繋がりやロシア政府によるアメリカ民主主義への介入が公けに取り沙汰されれば、いくらトランプ大統領のような、あからさまなプーチン礼賛者であっても、そうロシアへの経済制裁を解除することは出来ない。

https://www.nytimes.com/2017/02/14/us/politics/russia-intelligence-communications-trump.html

Trump aides were in constant touch with senior Russian officials during campaign - CNNPolitics.com

Updated Trump Russia election timeline FBI - Business Insider

ここに、プーチン大統領の長期的戦略の欠如が見て取れる。
諜報に詳しい、フリーランス・ジャーナリスト、マイケル・J・トッテンの分析によれば、元々プーチン大統領でさえ、トランプ勝利を期待してはいなかった。彼は民主党候補者であるヒラリー・クリントンが次期大統領となる事を期待して、その上で、米新政権への先制攻撃的妨害として行なっていたのだ。

Brace Yourself for a New Cold War | World Affairs Journal

 
ところがトランプが当選した事によって、ロシアとの繋がりが却って注目を浴び、問題視され、マイク・フリン安全保障顧問が解任する羽目となり、ジェフ・セッション司法長官まで選挙期間中にロシア大使と会見した事を隠蔽して証言した責任を問われ、新政権とクレムリンの繋がりを操作する委員会から外された。それだけではなく、ロシア政府との親密な関係を築いてきたポール・マナフォート選挙アドバイザーややカーター・ペイジ外交政策顧問、ロジャー・ストーンなどのトランプに近い人物に疑惑がかかり、トランプ政権とロシア政府による繋がりを解明する為の独立捜査機関の設置を必要と考える国民は約7割に上る。このような大多数の国民による反発を控え、議会が制裁解除を認める可能性は、幻となったヒラリー政権による解除の割合よりも低い。

Poll: Majority of Americans want independent commission to investigate Trump-Russia ties - POLITICO

しかも米国や西側の諜報機関に対する敬意の片鱗も見せず、指導者としての判断力に欠けるトランプ自身により、さまざまな情報が陰謀説と共にツイートされれば、FBIや英国など西側諜報機関としても反論をせざるを得ない。その過程で、更にロシアにとって隠しておきたい『陰謀』の情報が、トランプに反対する内部関係者からも流出されるし、プーチンとすれば、苦労の割には見返りの無い介入であったと言えよう。

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  『反腐敗』のプラカードを掲げた自転車に乗っていた為に逮捕された18歳の少年

しかもプーチンにとって大きな懸念の種は、米新政権による制裁解除を期待していた国民の不満だ。
ロシア経済は、制裁が始まる以前より悪化していたが、ナショナリスト的野心から断行したクリミア侵攻とウクライナ違法併合によって西側からの経済制裁が発動され、現在は崩壊の寸前にある。国民の生活は貧困に陥っている中、ナヴァルニィーはプーチンの友人やロシア政府高官の腐敗暴露を続け、一般国民の政府に対する反感は高まっている。プーチン・ロシアに親しみを表明するトランプ政権が誕生すれば制裁はすぐに解除されると信じ込まされていたロシア国民も、これが起こりそうにない事に気付き始めている。制裁解除の為には、プーチンを排除する必要性が囁かれているのか、あるいはプーチン自身がそういった計画を懸念しているのだろう。ここ何か月かの間にプーチンとトランプ政権との間の関係を知る何人もの外交関係者や諜報機関高官、或いは側近らが暗殺や逮捕、更迭されている理由は、彼らが米国諜報機関に協力して、プーチン排除の為の情報を流出する懸念をプーチンが感じているからだと思われる。

Five months, eight prominent Russians dead - CNN.com

Unexpected deaths of six Russian diplomats in four months triggers conspiracy theories | The Independent

 

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ナヴァルニィーが担ってきた、長年に渡って一貫してきたロシア改革への活動形跡や指導力を見る限り、今回の逮捕でナヴァルニィーの決意を変えることは出来ない。脅しても、打たれても、こういった人々は信念を曲げはしない。彼を投獄しても、彼の英雄化に貢献するだけだろう。彼が殺されれば、西側からは更に強い批判を浴びる事となるし、国民の側にもナヴァルニィーの偉業を引き継ごうとする気運が高まるだけだ。ナヴァルニィーを乗せたバスの周りを、デモ参加者によって何台もの車が駐車され、警察による移送が阻まれていた。ナヴァルニィーは秘密裏に殺害されたジャーナリストとは違い、世界の目前で、ロシア当局により拘束され、人権を侵害されたのだ。

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プーチンという、冷酷な殺人者の行ないを許してはならない。夜半、自宅アパートのエレベーター内で射殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの無念を忘れてはならない。ポリトコフスカヤが殺されたのは、プーチンの誕生日、10月7日である。
 
世界は、クレムリンのプロパガンダによって強調されるプーチンの『人気』に惑わされてはならない。プーチンが真に勇敢な指導者であるならば、自らを批判するジャーナリストを数百人に渡って殺害する筈が無い。プーチンが真に国民の信頼や尊敬を得ているならば、ナヴァルニィーによる大統領選立候補を阻止する筈が無い。何千人にもわたるデモが、90を超えるロシアの各都市で発生する筈が無いのだ。

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プーチンは残虐で臆病な独裁者であり、ロシア国民の敵である。
声にならないロシア国民の叫びを無視し、独裁殺人者を容認する偽善は、いずれ必ず歴史が裁くだろう。

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