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『フェイク・ニュース』と叫ぶトランプ政権による《報道の自由》への攻撃

毎日どころではなく、一日何度も報道されるトランプ批判の非は、誰にあるのだろう。メディアによる報道がヒステリックであればあるほど、それが却ってトランプ大統領本人や政権の潔癖を表すかのようなおかしな主張がある。これは、狂人の狂った行動への反応が大きければ大きい程、狂人の正常を表しているとするのに等しい馬鹿げた論理である。
 
トランプ大統領の錯乱ぶりやトランプ政権の無策、無知、違法性、不正腐敗等は余りにも度を越している。その錯乱や不正腐敗のスキャンダルの一部でも他の政治家のものだったら、それだけで大きな失点となっていただろう。
 
トランプ大統領は、マイク・フリン大統領補佐官の辞任に伴い、木曜日に記者会見を開いたが、CNNのジム・アコスタ記者を罵り、「ただのフェイク・ニュースじゃない。悪いフェイク・ニュースだ」と呼んでいる。実際、トランプ氏が今日の会見で非難したのは、CNNだけではない。何故か再びヒラリー・クリントン、オバマ前大統領、民主党、共和党、裁判所、裁判官、リベラル派などであるが、特筆するべきは、オーソドックス系ユダヤ人レポーターからの「反ユダヤ主義の台頭をどう対応していくのか」という質問を「悪い質問」と呼び、質問自体をトランプ氏への「侮蔑だ」と呼んでいる事だろう。

https://www.nytimes.com/2017/02/17/us/politics/trump-press-conference-jake-turx.html

 
木曜日の記者会見でのトランプ大統領の振る舞いや、メディア批判、特にCNNレポーターへの批判は、さすがに普段トランプ支持を表明するフォックス・ニュースでさえ怒らせた。フォックス・ニュースのシェプ・スミス記者は、まずCNNのジム・アコスタ記者について「会ったことは無いが、立派な記者だ」と弁護した上で、
 
「毎日、我々が目にするのは全く狂っている。完全に狂ってしまっている。彼(トランプ氏)は、全くくだらないゴミのような嘘の主張を繰り返し、まるで質問する我々が愚か者であるかのように、ロシアに関する質問には全く答えようとしない。果たしてそうなのだろうか。対戦相手がロシアによってハッキングされ、その最中に自分たちはロシアと電話をしていたのだ。一体それについて質問する我々の方が愚か者だと言うのか? 大統領閣下、そうではない。我々がこれについて聞くことは決して愚かではない。そしてこれについての誠実な答えを我々は求めている。アメリカ人はこれを知る権利が絶対にある。あなたの支持者らは、いずれにせよ、あなたを支持し続けるのだ。あなた方はロシアと何を話していたのか? 彼らは何を言っていたのか。我々にはそれを知る権利がある。あなた方が我々をフェイク・ニュースと呼び、アメリカ市民に代わって質問をする我々を、まるで子供であるかのようにあしらっている事は、論理にそぐわない。人々はこれを知る権利があるのだ。」と語っている。

Fox host Shepard Smith slams president, Trump supporters call for his head

 
またトランプ氏は、自らに批判的なニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などの一流紙を信頼するに値しないと罵り、無知なだけで知識のない支持者を狂喜させるが、これら一流紙は、勿論『フェイク・ニュース』ではない。
 
一方、トランプ大統領が「素晴らしい働き」と称えたアレックス・ジョーンズの代表する『インフォワーズ』は、陰謀説専門のサイトである。ジョーンズ本人は911テロをアメリカ政府による内部工作と呼び、2012年、コネチカット州のサンデーフック小学校で起き、28名が犠牲となった銃乱射の虐殺事件を「実はなかった」と否定している。また2016年5月にトランプ氏が「テッド・クルーズ議員の父はJFケネディーを暗殺したリー・オズワルドと一緒だったと書いてある」と主張した『ナショナル・エンクワイヤー誌』は、その半年前には「ヒラリー・クリントン、余命あと半年」と一面に飾ったタブロイド誌である。
 
トランプ氏は、自分に対して好意的な一部アルト・ライト・メディアを好意的に称えているが、批判的記事を書くメディアを指して『フェイク・メディア』と呼んでいるだけだ。
 
もちろん、ニューヨーク・タイムズ紙はその編集意見に於いてリベラル傾向が強く表れるが、調査能力や情報収集能力においては、やはり群を抜いている。例えばニューヨーク・タイムズは2014年にイラクに大量遺棄された化学兵器についてのスクープ記事を報道している。また2016年には、トランプ氏の中国銀行への多額の借金についても暴露記事を書いている。

 

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      錯乱的と言われたトランプ大統領の2月16日記者会見

 
ワシントン・ポスト紙もリベラル・メディアであった事は間違いないが、事実関係においては客観的な記事を心がけている。特にトランプ氏が共和党指名候補者に選出されてからは、これに反発する保守層が読者層に組み込まれた為、かなり客観的な記事に徹している
 
これらの二紙は確かにリベラル色があると思われるが、トランプ批判だけに徹し、民主党政治家の不正については報道しない訳ではない。
 
たとえば、ヒラリー・クリントンが私的なemailサーバーを使用した疑惑についてスクープしたのも、ニューヨーク・タイムズだ。実際、マイケル・フリン大統領補佐官とロシア大使の会話疑惑についてスクープ報道したマイケル・シュミッド記者こそが、ヒラリー・クリントンの私的サーバー使用とその違法性について一番にスクープしている。

https://www.nytimes.com/2015/03/03/us/politics/hillary-clintons-use-of-private-email-at-state-department-raises-flags.html?_r=1

 
また、ワシントン・タイムズは、「中国は『一つの中国』をトランプ大統領が認める代わりに、商標登録の権利を認めた」というような印象を受けるAP通信の報道内容について、トランプ名の商標権は既に2016年9月の判決でトランプ氏に認められており、2月14日の通知は、法的な正式通知が為されたに過ぎない事を更に詳しい時系列を含む報道によって示唆している。こうした中国の決断が、トランプ氏の大統領就任に関係があったとしても、『一つの中国』政策を認める決断と関係があったとは結論付けられない。

China awards Trump valuable new trademark

Trump gets his trademark in China. But he won’t be reaping the benefits. - The Washington Post

 
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやCNNは、トランプ氏が名指しして『フェイク・ニュース』と非難するメディアの代表格だが、こうした一流メディアはその報道に於いて社会的責任が伴い、軽々しく事実関係を歪曲して報道する事は殆どない。少なくとも、意図的な歪曲はないと言って良いだろう。
 
ではAP通信は『フェイク・ニュース』なのだろうか。
 
AP通信を批判する前に、パターン化したホワイト・ハウスの策略があると見られている。
 
金曜の朝、AP通信は「トランプ政権が10万人の国境警備隊を使って、違法滞在者を一斉検挙する計画がある」と報道した。これは移民局に行き渡ったメモを基にした記事だが、これを実現する事実は無いようで、ホワイト・ハウスのショーン・スパイサー報道官は、「APは記事にする前に、我々に確認するべきだった」と発言している。

AP Exclusive: DHS weighed Nat Guard for immigration roundups   

White House denies report Trump is considering using National Guard troops for immigration roundups - LA Times

 
まず、もしAPがこの記事をデマカセや思い込みで書いたのならば、『フェイク・ニュース』だと言われても仕方がない。
 
しかしながらAPは、記事文中にもあり、またスパイサー報道官に反論している通り、何度もホワイトハウスや移民局に事実関係についてコメントを求めていたのだ。ショーン・スパイサー報道官や大統領府、移民局は、AP通信からの度重なる事実関係確認の要請を無視しておいて、記事にされるや即座に『フェイク・ニュース』と信頼性を損なわせているのだ。
 
ビジネス・インサイダー誌は、ホワイト・ハウスによるこうした傾向を以下のようにまとめている。
 
1.   メモや政策提案がメディアに流出されるのを待つ。
2.  メディアからの、メモについての信憑性や事実関係への確認には答えない。
3.  情報の真偽については、記事にされるまで待つ。
4.  メディアが事実関係の確認なく記事にしたと非難する。
 
 
ホワイト・ハウスのこうした手段に惑わされているのはAP通信だけではない。ビジネス・インサイダーによれば、ホワイト・ハウスは、ニューヨーク・タイムズ紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙等、多くのメディアに対して同様の黙秘を続けている。記事にされる前の段階で行政側が黙秘を続けるならば、メディアは「ホワイト・ハウスはこれについてのコメントの要求に答えていない」と書くしかない。後になって、行政側から流出されたメモを基にした記事が「政策を正確に反映していない」と批判されても、その非はメディアにあるだろうか。

Fake News Or White House Manipulation? Media Reports Draft Trump Plan For 100K Anti-Illegal Immigration Enforcement Force, Trump Denies | Daily Wire

 
これだけでない。木曜夜には、トランプ政権筋の話として、解任されたマイケル•フリン補佐官の後任として、芸術史家が選考の対象に上がっているというニュースが流れた。これは主要メディアは殆ど無視したが、情報の流出は政権に近い人物が行なっているのだ。意図的にヒステリックな反応を起こす情報を流出し、メディアの不正確を指摘する目的があるのかもしれない。であるから、こうした現状を踏まえ、ワシントン•ポストの記者らは、政権側に情報錯乱の意図があると警戒している。
 
このような悪質なパターンを見る限り、ホワイト・ハウス側にメディアを陥れる悪意があるとしか思えない。トランプ政権は、政権側から流出された情報の真偽を否定せず、それが記事になった段階でメディアの信頼性を失なわせ、全てを『フェイク・ニュース』とレッテル貼りしているのだ。国民によるメディアへの信頼を損なってしまえば、あとはトランプ政権スキャンダルに関するどんな報道があっても、国民を騙し続けられると考えているのだろうか。
 
更にダメ押しでもするかのように、トランプ氏は『フェイク・ニュース・メディア(失敗しているニューヨーク・タイムズ、NBCニュース、ABC、CBS、CNN)は、私の敵なのではない。アメリカの人民の敵なのだ』とツイートをしている。
 
このツイートについて、外交アドバイザーのマックス・ブート氏はこれを「これはしばし専制君主が言うような、危険なレトリックだ。アメリカ大統領から聞いたことは無い」と警告し、ジョン・シンドラー氏も「『人民の敵』とは、レーニン、スターリンなどが、何百万人もの無辜の人々を虐殺した際に正当化する為に用いた表現だ」と述べる。ビル・クリストル氏も、「『人民の敵』という表現が、良い結末を迎えたことは無い。アメリカの通常や自由民主社会では聞かれない表現だ」と警戒している。
 
メディアの記者やジャーナリストは一般市民である。彼らは、他の一般市民に対して情報を提供しようとしているに過ぎない。勿論、国によってはこうした報道の自由の為に命を落としたジャーナリストもいる。彼らは『人民の敵』などでは決してない。大統領を始め、政治家や公職につく人々にとって、メディアからの批判に不満を持たなかった人物はまずいないだろう。
 
それでも、報道の自由は、健全な民主主義社会には欠かせないものだ。アメリカの独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンは、1787年、以下のように書いている。
 
「政府の元となるものは人民の見解である。まず第一の趣旨は、ここにあるのだ。もし新聞の無い政府を取るか、政府の無い新聞を取るか聞かれれば、私は一瞬の迷いもなく、後者を取ると答えるだろう。」
 
トランプ大統領は、メディアだけではなく諜報機関に対しても冒涜を続けているが、こうした『宣戦布告』が良い結末を迎える事は絶対にない。アメリカという国家の安全保障を守る諜報機関や、社会を健全なものとする『報道の自由』を弾圧しようとすれば、トランプ大統領の行き着く先は、ニクソン大統領のそれよりも、遥かに惨めで破壊的なものとなるだろう。