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マイケル・フリン大統領補佐官辞任で始まる、米諜報機関によるトランプへの反撃

アメリカの政治事情 プーチン・ロシア

トランプ大統領が国家安全保障会議のメンバーとして任命したマイケル・フリン大統領補佐官が、ロシア大使との間に、ロシアに課せられた制裁解除を巡る密約をしたとする報道は、トランプ陣営が再三に渡って否定してきたトランプ陣営とロシア政府との関わりを裏付けている。不可解なのは、フリン補佐官が、独自の判断で勝手にロシアへの制裁解除を約束していたのか、或いは命令を受けて交渉を進めていたかの点である。

https://www.nytimes.com/2017/02/14/us/politics/russia-intelligence-communications-trump.html

 

トランプ大統領やトランプ陣営がどんなに否定したところで、彼らとロシア政府との不可解な関係は明らかであり、これまでに何度も指摘されてきた。

勿論、トランプ陣営では、ロシアとの不可解な関わりがもととなり辞任した政策顧問らが他にもいる。ポール・マナフォート、カーター・ペイジ、ロジャー・ストーンらである。FBIはトランプ陣営アドヴァイザーらの旅行記録や銀行口座の出入金などの情報を得、ロシア政府とトランプ陣営に対する関わりを突きとめる為に、数人から事情を聴いたようだ。ロシア政府とトランプ陣営は、選挙中も頻繁に連絡を取り合っていた事が発覚している。

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          辞任に到ったマイケル・フリン大統領補佐官

トランプ氏本人と、ロシア政府による米民主党システムへのハッキングなど、直接的な共謀の事実の有無や、会話内容そのものについては未だ明らかにされていないが、トランプ陣営が頻繁に連絡を取り合った時期と、トランプ氏が「ロシア、もし聞いているならば、ヒラリーの私的サーバーにハッキングをして、喪失したとされる3万通のemailを見つけて欲しい」と訴えた時期とは重なっている。トランプ氏が「ロシア制裁解除」と引き換えに、民主党やヒラリーへの選挙妨害や、自らへの支援を要求したとなれば、完全な違法行為である。

マイケル・フリン大統領補佐官は、軍の諜報機関に任務を得ながら、数多の規則違反の為にオバマ前大統領によって解任された人物である。彼は今までにもロシア政府お抱えのメディア『ロシア・トゥデイ』に出演し、アメリカの外交政策を批判するスピーチを行ない、ロシアからの謝礼を受けている。ロシア・トゥデイ主催の記念会では、プーチン大統領と同じテーブルについている。

フリン補佐官とロシア政府との繋がりは、諜報機関によって司法庁に報告され、サリー・イェイツ司法長官代理は、フリン補佐官とロシア大使との繋がりを違法の可能性すらあるとホワイト・ハウスに報告している。ところがこの報告は、1月26日にトランプ大統領が受けた後もマイク・ペンス副大統領には知らされず、2月9日、フリン補佐官やトランプ陣営とロシアとの連絡について聞かれたペンスをして「あり得ない」と答えさせている。フリンとロシア大使との電話記録の事実がペンスに報告されたのは、同日、ペンスがメディアのインタビューに答え、トランプ陣営とロシアの関わりを否定した直後だ。

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 2015年、ロシア・トゥデイの式典に出席し、プーチン大統領と同席するマイケル・フリン

Mike Pence briefed on Justice Department Michael Flynn assessment 15 days after Trump - Business Insider

 

フリン補佐官とロシアとの電話連絡についての報告を受けながら、それをトランプ氏は何故ペンス副大統領に伝えなかったのか明らかにはされていないが、メディアの厳しい追及さえなければ、そのままフリンを起用し続けるつもりであったのかもしれない。

トランプ氏は水曜朝、二時間の間にメディアやアメリカ諜報機関を非難するツイートを6つも行なっている。そのうちの一つは、「ここにある本当の問題は、機密情報が、お菓子か何かのように違法にバラまかれたということだ。非アメリカ的だ!」というもので、少なくともこの情報が流出されたもので、『フェイク・ニュース』などではない事は認めているようだ。

トランプ氏は、米民主党システムへのハッキングがロシアによって為された事を不自然なほど否定し続けてきた。それだけではなく、そうした報告を行なった米諜報機関を冒涜し、彼らをナチス・ドイツに比較して、プーチン大統領とロシアを擁護する事さえした。

Trump’s comparison of U.S. intelligence community to Nazi Germany rebuked by Anti-Defamation League - The Washington Post

 

プーチン大統領によってロシア政府への批判を行なう反対派やジャーナリストらが殺されている事実を、MSNBC局のジョー・スカボローだけでなく、フォックス・テレビのビル・オレリーに指摘されても「アメリカもいろいろな殺人を行なっています。アメリカが無罪だというのですか?」と、ロシア政府による反対派への弾圧を、アメリカの戦争や一般犯罪をロシア政府による反対派への弾圧と同一化してみせた。NATOやオーストラリア、日本のような同盟国、またメキシコという近隣国を罵倒しながら、何故かロシアのプーチン大統領だけは批判したことが無い。

Trump defends Putin: 'You think our country's so innocent?' - CNNPolitics.com

 

今回の情報流出は、諜報機関によるトランプへの反撃であると言われている。トランプ大統領程、アメリカの国益、憲法を固守する為に宣誓を行い、命の危険さえある任務に赴く諜報機関を軽んじ、冒涜した大統領はかつていない。彼は大統領就任翌日、自らと諜報機関との関係の悪化を否定するパフォーマンスを行なう為にCIA本部に赴いた。ところが、任務遂行にあたって命を落とした職員の名が記されてある壁を背景に、トランプ氏が語ったのは、自らの就任式への観衆数の自慢と、主要メディアへの批判である。ご丁寧な事に、CIAと自らの良好な関係を演出する為に、スピーチへの拍手を演出させたが、拍手をしたのは動向したトランプ陣営関係者であり、CIA職員ではない。

Donald Trump brought his own people to cheer for him when he spoke to the CIA | indy100

 

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殉職したCIA職員を記念する壁を前に、大統領就任式観衆の数を誇り、メディアを批判するトランプ大統領

 

CIA職員らは、殉職した職員の記念碑を前にした主要メディア批判と中身のないパフォーマンスに、トランプ氏への反感を新たにしたという。実際、CIA元長官のジョン・ブレナン氏は、このトランプ氏のCIA本部訪問に「深く嘆き、怒りを感じている」と述べている。

Brennan bashes Trump over speech during CIA visit - CNNPolitics.com

 

諜報機関の抱える反発は、それだけではない。彼らは命を賭けてアメリカの国益の為に戦い、情報を得ている。これには西側同盟国の諜報機関との連携が欠かせないが、西側諜報機関の敵であるロシア政府、及びロシア・スパイとトランプ陣営が通じていれば、せっかく得た情報も報告出来ないのだ。実際、既にイギリスのスパイ機関は、アメリカ諜報機関への情報提供に懸念を持っている。また、ジョン・シンドラー氏の報道によれば、あるトップ諜報員らは、トランプ政権の危機管理室はロシアに筒抜けであるという認識から、情報提供を拒絶している。情報を報告してもトランプは恐らく無視をするだろうし、しかもトランプは、やっと仕入れた情報を、ツイートや電話会話等を通してロシア政府関係者に伝える可能性が否定出来ないからだ。

Trump’s Kremlin Connections Overwhelm the White House | Observer

 

 https://www.wsj.com/articles/spies-keep-intelligence-from-donald-trump-1487209351

 

自らが諜報員であり、2016年の大統領選出馬者でもあったエヴァン・マクミラン氏によれば、諜報員や安全保障エージェントらは、アメリカ内外の敵からアメリカ(の憲法)を守る宣誓を行なっている。トップ諜報員に近いシンドラー氏の報道や、マクミラン氏のトランプ批判から考えても、米諜報機関が、その任務遂行の為の『国内の敵』を、トランプ政権内に見出していると言って言い過ぎでは無いだろう。

重ねて言うが、現在、トランプ氏と、ロシア政府による米大統領選挙介入やトランプ氏への勝利工作を結び付ける陰謀の証拠は、明らかにはされていない。トランプ氏とロシア政府との繋がりも鮮明ではない。もしトランプ氏が関わりのない事を証明する為には、何よりもトランプ氏の納税還付証明書の提出が欠かせないが、トランプ氏はこれを頑なに拒否している。

トランプ氏は選挙中、IRS合衆国内国歳入庁による監査の為に納税還付証明書を公表できないと主張していたが、現在では、監査は関係なく、「有権者はそれに興味がないので公表する必要を認めない」と主張を改めている。ところが、ピュー・リサーチの調査(60%)やその他の世論調査でも、大多数のアメリカ人がトランプ氏の納税還付証明の公表を必要あると見ている。

Trump wrong that Americans don't care about his tax returns | PolitiFact

 

トランプ氏は、度重なる破産によって殆どのアメリカの銀行に融資を拒否された後、ロシア投資家により借金を肩代わりされている。またトランプ・グループが企画した、『トランプ・ソーホー』では、ロシア政府に近い組織犯罪グループからの援助を受け、マネー・ロンダリングや脱税の疑惑で訴訟になっている。トランプ氏本人の認識は定かではないものの、『トランプ・ソーホー』の主要パートナーを、トランプ・グループのアドヴァイザーにも迎えている。

Donald Trump's Many, Many, Many, Many Ties to Russia | Time.com

 

トランプ氏とロシアとの繋がりの解明は、マイケル・フリン補佐官の解任だけにはとどまらない。むしろこれを機に、更に解明が進むだろう。トランプ氏は連発した今朝のツイートで、諜報機関に対する批判を行なった。「ワシントンに居座る詰まりを流す」といったレトリックで当選したトランプ氏だが、『詰まり』と冒涜された真の愛国者たちが、国内外の敵に対して反撃を開始していると言えないだろうか。

The Swamp Strikes Back | World Affairs Journal