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イエメン作戦失敗と、ISIS制圧の機会を逃したトランプ政権

アメリカの政治事情 国際政治事情

トランプ大統領はイエメンでの作戦で、海軍シールズ隊員の一名を失い、子供を含むイエメン人の民間人約30名の死者を出している。作戦の困難が伝えられても、トランプ大統領は危機管理室に現れていない。ホワイト・ハウスの説明によれば、トランプ大統領は同日すでに疲れており、オーストラリア首相との電話会談も1時間の予定を25分で切り上げている。(実際、電話を途中で切ってしまっている) 

「危機管理室にはいなかったが、連絡が取れるように大統領府内には滞在していた」という言い訳だが、共和党側は、ヒラリー・クリントン元国務長官がベンガジ事件の動向が不明であった時に「眠っていた」という理由で非難していた筈だ。それでも夕方5時までに作戦が終了しなかった場合、トランプ大統領は部屋に引きこもってしまうようだ。

Donald Trump not in Situation Room for 'botched' Yemen raid that killed up to 30 civilians and one US Navy SEAL | The Independent

30名の一般市民の犠牲者を出したイエメン作戦は、軍関係者によれば、それでもターゲットとしていたアルカイダのリーダー、カシーム・アル・リミ(38)を逃している。日曜日にはアル・リミは、トランプ大統領に宛てて作戦の失敗を嗤うビデオ・メッセージを流している。「ホワイト・ハウスの愚か者は、彼の道の出だしに平手打ちを食わせられた。」このメッセージについては、本人のものであると米軍が認めている。

Trump missed his main target in Yemen raid that killed 30 civilians and one US Navy SEAL | The Independent

30人の一般市民が犠牲となったこの作戦の失敗を受けて、イエメン政府はイエメン国内において、米地上軍が作戦を行なう事を不許可とした。イエメンは、米連邦裁判所判事が入国禁止令の一時保留を命じたとは言え、トランプ大統領が大統領特別司令をもって入国を禁止した7カ国の一つだ。これからの米軍の作戦への非協力は、そうした外交摩擦が原因の一つとなっているかもしれない。

Yemen Withdraws Permission for U.S. Antiterror Ground Missions - The New York Times

トランプ政権の失敗はそれだけではない。トランプ大統領は就任演説でもISISを地上から根絶やしにする事を宣言している。選挙中には、自分にはISIS打倒の為の秘密の作戦がある、とすら豪語していた。最もトランプ氏は、軍事作戦や情勢について何で学んでいるのかをインタビューで聞かれ、テレビ番組で学んでいると答えている。中東の情勢は、全ての組織が全てを相手に敵対しているとも言われ、昨日の味方が今日の敵ともなり得る。それだから、誰を支援するか、誰と同盟を組むかは、非常に大きな問題であり、多くの知識を要する決断なのだ。

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ISISを制圧する為と言っても、武器支援を行なったり武装化させた後に反米過激派となり得る組織と組むことは出来ない。複雑に絡み合う敵対関係を鑑み、軍事作戦や中東情勢の専門家は、クルド人武装組織と同盟を組むことを勧めていた。ISISや過激イスラム教の武装集団相手に、一番の戦いの実績を持つのは、クルド人部隊だからだ。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/opinion/to-defeat-isis-arm-the-syrian-kurds.html?_r=0

勿論、この作戦の障害となるのは、トルコの意向である。国内にクルド人を多く抱えるトルコ政府にとって、クルド人が勢力を得る事は、国内クルド人の独立運動に火がつくからだ。こうしてアメリカや西側は、トルコ政府の意向を重視して、クルド人への支援を避けてきた。

The U.S. Found The People Who Can Beat ISIS. The Only Problem Is Everyone Hates Them. | The Huffington Post

しかしながらISIS制圧の為に、ようやくオバマ前政権もクルド人部隊武装支援を決断したようだった。何か月にもわたる作戦会議や論議の末、至った結論だが、遅すぎた結論とは言え、無いよりはマシだろう。トルコに対する説明まで纏めたようだ。トランプ政権は、この受け継いだ作戦を実行すれば、ISIS制覇の実績が得られただろう。あとは「引き金を引くだけだった」とも言われている。

ところがこれを、トランプ政権は一蹴している。以下、シカゴ・トリビューン紙からの記事を引用する。

Obama plan to arm Kurds to fight Islamic State in Syria quickly discarded by Trump team - Chicago Tribune

『ISISが首都とするラッカ奪還の最終作戦会議は、7か月以上も続いていた。

オバマ政権の安全保障チームは、作戦の計画や実施について、実に何百時間にも渡る討論や会議を深夜まで続けていたのだ。どの作戦も良いとは思われなかった。しかしオバマ大統領のトップ外交アドバイザーたちは、やっと何とか可能なアプローチを見い出した。それはシリア北部のクルド人部隊を武装支援する事だった。この案については、前政府高官も、現政府高官も認めている。勿論、問題が無かったわけではない。オバマ政権は審議に審議を重ねてしまった為、引き金を引く時間が無くなってしまったのだ。また、トランプ陣営のアドバイザーらが、ホワイトハウスに対して、自分たちが実際の決断を下したいと申し出ていた。

それをもって1月17日、新政権誕生の3日前、オバマは自らの安全保障アドヴァイザーをして、クルド人部隊の武装化計画の詳細を記した書類をトランプ・チームに渡した。これには、予想されるトルコの憤慨に対して、どのように計画を説明するべきかも記されてあった。トルコ政府はクルド人部隊をテロリストとして捉え、彼らの一番の敵としているからだ。

オバマはこの任期切れ間近までかかった働きが、トランプ政権によるISIS拠点への迅速な攻撃の道備えとなる事を期待していた。米諜報機関によれば、ISISはラッカから海外への攻撃を指令しているからだ。

ところがこの計画を実行する代わりに、トランプの安全保障チームはこの作戦を全く不十分と見做し、すぐに放棄してしまった。

トランプ新政権にとって、負担が大きく、リスク回避型の為、失敗が目に見えていると思われたようだ。「彼ら(オバマ・チーム)から受けた作戦は、隙間だらけだった。」この情報を目にしたトランプ政権高官は言う。「あの作戦は貧弱な出来だった」

一方オバマ陣営はこのシリア作戦を、一つ一つの動きが、予期し得なかった災害的な結果をもたらし得るこの地域に関する、何年にも及ぶ経験からの産物と見ている。オバマ政権のシリア作戦の舵を取った高官らは、トランプ新政権はこの問題の複雑さを理解していないと一様に語る。それでもトランプ政権も、その複雑さをすぐに学ぶだろう。』

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トランプ大統領にISISを制圧する案はあるだろうか。無い。トランプ政権の誰として、中東の情勢に詳しい人物はいない。マティス国防長官も、ケリー国土安全保障庁長官も有能な人材であるが、トランプ大統領はマティス国防長官の意見がスティーブン・バノンと親露を隠さないマイク・フリンによって覆される仕組みに変えてしまい、国家安全保障会議のメンバーからケリー長官を外してしまっている。

トランプ大統領は、ISIS制圧の為にはロシアやアサド政権と組むしかないと考えているのかもしれないが、 米軍や西側諜報機関にとってロシアは敵国であり、ロシアとの協調などあり得ないのだ。

恐らくトランプ政権は、これから重なるだろう多くの軍事、経済、外交の失敗を目の当たりにし、多くの批判を浴びるだろう。これらの失敗は、支持者がどう弁護しても、世界の目に明らかとなる。シリアでのISIS制圧作戦において、いずれトランプ政権も、オバマ政権の出した結論と同じ結論に達するかもしれない。その時までにクルド人部隊は存在するだろうか。またその時までに、どのくらいの命が失われるのだろう。