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トランプ大統領・イスラム主義国からの入国禁止令と移民政策による混乱と不信

金曜日夜ドナルド大統領が署名し、すぐさま発動された移民・難民によるアメリカ入国に関する大統領特別指令は、土曜から世界各地で大きな混乱と批判を呼んでいる。

Amid protests and confusion, Trump defends executive order: ‘This is not a Muslim ban’ - The Washington Post

 
この大統領特別指令は、更に厳しい身元調査プロセスの為に、難民の入国を120日間禁じ、また難民受け入れ上限を年間5万人までとしている。この数は、余りにも僅かな数の難民受け入れだと思われがちだが、2016年のオバマ大統領による急激な難民受け入れ数を別にすれば、ジョージ・W・ブッシュ大統領やオバマ大統領治世の受入数の平均と同等にある。

Donald Trump’s Refugee Executive Order: No Muslim Ban -- Separating Fact from Hysteria | National Review

 
例えば2002年にアメリカが受け入れた難民の数は27,131人であり、2003年、2006年、2007年の受け入れ総数も5万人以下である。2013年から2015年には約7万人を受け入れ、2011年と2012年には、5万人をわずかに超えただけだ。

 

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トランプ大統領が行なおうとしているのは、安全保障の為の、難民身元確認の厳格化である。ヨーロッパでは「誰でもシリア人と主張して難民申請をしている」「身元確認は殆ど行なわれていない」などの指摘通り、杜撰な身元確認であった事は否めない。難民と移民の区別さえハッキリさせない為に、その何割かは戦火を逃れた難民というより経済移民であった事は否めない。

Migrants in the Balkans: Everyone wants to be Syrian | The Times of Israel

 
また、この大統領特別指令は、イラン、イラク、ソマリア、リビア、スーダン、シリアン、イエメン等7カ国からの入国を90日間禁じている。これらの国々はジハーディストらによって内戦状態になっていいるか、ジハーディストが政府を牛耳っている。この指令は、これらの国々に対し、アメリカがヴィザ発給をするのにあたって必要な情報の提示を求めている。その情報によって入国ヴィザ発給の判断をしようという意図だが、これらの政府がこうした情報を提供できるかは判明しておらず、一時的な入国禁止が延長される可能性は充分ある。
 
但しこの特別指令は、国務省や国土安全保障庁が、担当官の判断により、ケース・バイ・ケースで、アメリカの国益に叶うとされる人物へのヴィザ発給やその他の身分による入国許可する事を認めている。この特例によって、これら7カ国の国籍所持者であっても、通訳やその他のアメリカの国益に貢献すると認められた人物の入国が、この90日間の期間内でも認められている。
 
この大統領特別指令は、テロリストが難民や移民を通して、テロを起こそうとしている現実を考慮すれば、必要な手段とも言える。「頻発するテロ行為に慣れる事が、アメリカの日常生活の一部になる」と割り切るのでもなければ、国家として国民の安全の為に最善を尽くすことは当然である。であるから、トランプ大統領の意図するところは充分に理解できるし、評価もできる。

 

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  大統領特別指令によって空港内に拘束されている外国人の釈放を求める米国市民

 

ところが、入国禁止の対象となるのは、ビザ所持者だけでなく、グリーンカード所持者、つまりアメリカの永住権を所持している者も含まれている。米国永住権所持者は、実に何か月にもわたる手続きと、思想や信条、政治活動や職業、学歴に至るまでの厳密な調査に従って身元確認がなされている人々である。複数の米国市民による保証が必要とされ、厚みのある書類に一つでも誤りがあれば、それが単なる日付の誤りであっても係員は見つける。少しでも怪しい人物に対しては、容赦なく永住権申請は却下される。当然ながら永住権所持者らは、生まれながらの米国民よりももっと厳し審査を経た人々なのだ。選挙権は無いものの、その身分は合衆国憲法によって守られ、居住地も米国である事が前提となっている。
 
この『永住権所持者』への入国禁止指令は、弁護しようのない明らかな誤りである。この大統領特別指令が発令され、各地の空港で幼児や赤ん坊を含めた合計109人に上る該当国籍者を拘束したり、強制送還をさせた為の大混乱を生じさせ、反対派が多く押し寄せるキッカケを作ったが、こうした混乱が数日で収まるのに対し、永住権所持者の処遇については指針ですら明確ではない。これについて、共和党のマルコ・ルビオ上院議員は国務省に説明を求めたが、国務省側は解答を拒否している。国務省内の意見も一致しないからだろう。リベラル派だけではなく、名だたる保守派言論人、外交官、また共和党議員らがこの指令に対して懸念を示しているのは、当たり前だ。

Rubio: State asked not to talk travel ban with Congress | TheHill

 
 またそれよりも大きな懸念は、今回の特別指令が、本当にアメリカの安全保障に貢献するかという点だ。入国禁止令に名前があがった国家がアメリカに対するテロを起こした事実は無く、911は主にサウジアラビア人によって、またサンバーナーディのテロでは、アメリカで生まれ育ったイスラム教徒と彼のパキスタン人妻が起こしている。今回の禁止令は、アメリカで生まれ育ったイスラム教徒や、サウジアラビアやパキスタンのイスラム教徒に対しては、何の効果も無い。
 
ジョン・マケイン議員とリンゼイ・グラハム議員は、今回の特別指令が「アメリカがイスラム教徒には来てほしくないというメッセージを送るだけのものだ」としている。こうした政策に対する反感がイスラム諸国に広がれば、友好であった穏健派イスラム教徒との連携が難しくなると指摘する声が、軍事作戦や外交専門家の間にはある。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/world/americas/state-dept-dissent-cable-trump-immigration-order.html?smprod=nytcore-iphone&smid=nytcore-iphone-share

 
強制的に送還された永住権所持者があるという報告もあり、ホワイト・ハウスによる質疑応答においてショーン・スパイサー報道官は、この入国禁止令に永住権所持者が含まれると答えたが、国土安全保障庁のジョン・ケリー長官は、永住権保持者はこれに含まれないと回答している。

What Trump's Executive Order on Immigration Does—and Doesn't Do - The Atlantic

In a reversal, the Trump administration now says green card holders can enter the US - Vox

 
そもそも、国土安全保障庁が大統領特別指令について草案をまとめた時には、永住権所持者はこの入国禁止令の指令に含まれないとしていた。これを変えたのが、トランプ大統領のアドバイザーであるスティーブン・バノンである。
 
バノンが変更した特別指令案は、国土安全保障庁長官のジョン・ケリー将軍や、国防省長官のジェームズ・マティス将軍、国務長官となるレックス・ティラーソンなどの目を通すことなく、そのままトランプ大統領によって署名され、発令された。マティス将軍もティラーソンも「おおよその概要については知っていたが、詳細については知らされていなかった」と困惑を隠さず、ジョン・ケリー将軍などは、まず自らが長となった国土安全保障庁の草案の説明を受けているちょうどその時に、「今、大統領がこの特別指令に署名をしています」と担当者に告げられたという。娘婿のジェアード・クシュナー補佐官に至っては、ユダヤ教徒の安息日を守って仕事やテクノロジーから離れている最中に、勝手に指令を発動されている。

Trump faces blowback from Cabinet, diplomats for refugee ban | Fox News

https://www.nytimes.com/2017/01/29/us/politics/donald-trump-rush-immigration-order-chaos.html?_r=0

Can Jared and Ivanka Outrun Donald Trump’s Scandals? | Vanity Fair

 
明らかに大統領府内での連携すら取れていないし、連携の必要性すら認められていない。大統領府の声明や解答が、質問に対する明確で直接の解答ではない事はしばしばあるが、トランプ政権のショーン・スパイサー報道官は、就任翌日に「トランプ大統領就任の観衆は、史上最も多数の動員数であった」と、明らかに事実と異なる不必要な発表を行ない、中国政府やロシア政府の報道官並のプロパガンダを垂れ流す機関と化した印象しかない。

Trumpism Corrupts: Spicer Edition | The Weekly Standard

 
ホワイト・ハウスの発表が真実であるという信頼感が、報道官とメディアの間に無いのだ。そしてこの責任は、前代未聞のメディアへの批判をCIA本部でも行なった大統領と大統領府にある。

https://www.nytimes.com/2017/01/21/us/politics/trump-white-house-briefing-inauguration-crowd-size.html

 
しかも、この突然の指令によって起きた大混乱に対し、大統領府内での主張や説明すら一致していない。サリー・イェイツ司法長官は司法庁職員に対し、「この指令が合法的なものかどうかの判断がハッキリしていなので、弁明はしないように」と指示を出している。トランプ大統領はすぐさまイェイツ司法長官を罷免し、「裏切り者」「彼女は弱い」と大統領府の発表した正式声明で、常識では考えられないような非難している。

Sally Yates fired by Trump after acting US attorney general defied travel ban | US news | The Guardian

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          大統領指令の合法性を疑うサリー・イェイツ司法長官代理

 

また1000人を超える米国外交官らは、この指令に反対する意見書に署名をしているが、ホワイト・ハウス側は「気に入らなければ、辞めるべきだ」としか反応をしていない。外交官らは、今まで外交を携わってきたプロであるが、彼らの懸念に対し、外交が何か、政治が何かという経験や知識の無いアマチュアの烏合である大統領府側が「気に入らなければ辞めろ」とけん制をしているのだ。この調子では、知識や経験の豊富な良いアドバイザーであればある程、大統領の側近として勤められなくなる。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/world/americas/state-dept-dissent-cable-trump-immigration-order.html

 

この特別指令が「宗教を背景としたイスラム教徒への差別であり、憲法違反である」という非難が生まれると、「これは宗教ではなく、地域を基にした指令であり、宗教は関係は無い」と弁明し、「イスラム教徒入国禁止であるかのように書き立てるメディアが偽っている」と非難している。実際、合衆国憲法は宗教による差別を違憲とする一方、国や地域を基にした入国禁止については、違法とはしていない。トランプ大統領の弁明は正しいと言えるが、選挙期間中、「イスラム教徒に対する完全な入国禁止」を公約に掲げてきた事は事実である。また、トランプ大統領自身が「どうやって、合法的にイスラム教徒の入国禁止を行なうか」と、アドバイザーであるニュート・ギングリッチ氏に尋ねた事を、ギングリッチ氏がフォックス・ニュースで認めている。

Trump is now complaining that his order is being called a “Muslim ban” - Vox

 
入国禁止令である事は、トランプ大統領自らが発言し、ツイートもしているが、今日のスパイサー報道官の説明では、これは「入国禁止」ですらないようだ。あれもこれも全てメディアの報道に非があると報道官は説明するが、大統領自らが「入国禁止」であると主張すれば、メディアがそう書くのは当然である。大きな批判が起こる度にメディアの捏造を主張するホワイト・ハウスに、長期的戦略があるとは到底思えない。

Spicer: Trump executive order 'not a travel ban' | TheHill

 
トランプ大統領は難民の入国禁止指令と同時に、批判を予測した策として、戦闘地域に安全地区を設けるとしているが、ロシアによるシリア内戦介入によって、もはやシリアに米国の地上軍を派遣する事は不可能となっている。イラクにならば、まだ地上軍を派遣する事に可能性は残る。米陸軍とすれば、何としても派遣を望みたいところだろう。ところがトランプ大統領自身が「イラク戦争は誤りだった。我々は原油を得る事をしなかった。今度の機会には、石油を得られるかもしれない」と戦争犯罪を犯す用意があるという主張をしているのだ。勿論、これについてはジョン・マケイン議員らが「とんでもない。米国は決して戦争犯罪を犯してはならない」と大統領に真っ向から反対をしている。大統領自ら、今度イラクに軍を派遣する時には、石油を頂戴すると発言すれば、それがイラク側の受け入れを困難にし、米軍の作戦に障害となる事が理解できていないのだろう。

Donald Trump Thinks America Should Have 'Kept the Oil' When It Invaded Iraq - The Atlantic

John McCain Trump Taking Iraqi Oil Make No Sense

 

しかもトランプ氏は、「水攻め」や拷問に効果があるという主張がどうしても改められないようで、「CIAに聞いた」話しとしながらも、自分の主張を止める気配がない。退役軍人でありCIAの活動にも詳しい前出のジョン・マケイン議員は、「拷問というものには効果が全くない。拷問を加えられた場合、人間というものは、痛みや苦しみから逃れるために、拷問者の聞きたい情報を偽ってでも作り出し、提供するからだ」と述べている。国防省や国務省とすれば、石油を頂戴し、拷問も厭わないと米国が映る事がどれ程の足かせとなるか、トランプ大統領には理解できないのだ。

Donald Trump: Torture "absolutely works" -- but does it? - CNNPolitics.com

 
トランプ大統領の目的とするところがアメリカの安全保障であり、発展であるならば、トランプ氏自らがその達成に至るまでの障害となっている事に気付くべきだ。特に軍事作戦や経済政策においては、トランプ政治は目標とは反対の効果しか得られないだろう。
 
メキシコとの国境沿いの壁にせよ、どうしても建設が必要ならば、「我々は国境を強固にする必要がある。近隣国にも是非協力をお願いしたい」と、友好関係を損なわない言葉で協力を要請すれば良かったのだ。「メキシコが自国の人々を送り込む時、彼らは最良の人々を送り込んでいるのではない。あなた方のような人々を送り込んでいるのではない。彼らは多くの問題を抱えた人々を送り込んでいるのだ。そしてこれらの人々は、自らの問題も一緒に持ち込んでいる。彼らは麻薬を持ち込み、犯罪を持ち込んでいる。彼らは強姦者である。いくらかは良い人もいるだろうが」などと挑発から始めれば、どんな国でも壁建設の費用を供出を拒否するだろう。

Trump: Mexico Not Sending Us Their Best; Criminals, Drug Dealers And Rapists Are Crossing Border | Video | RealClearPolitics    

Peña Nieto: Mexico will not pay for Trump's border wall

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      大統領特別指令に反対をする為に、空港に押し寄せる米国市民

トランプ政治の外交は、『外交』ではない。脅しであり、強請やたかりであり、無理の押し付けであり、挑発である。『外交』に不可欠な相手国への気遣いや、配慮が皆無なのだ。例え内心が伴わなくても礼儀として丁重に言葉を選び、ニュアンスを大事にする応対が『外交的』と呼ばれるには、理由がある。トランプ外交は『外交的』な要素の欠片も無い。
 
トランプ大統領には、どんなに小さな弱小国でも、その指導者や国民への挑発は許されないという感覚が欠如している。彼はもはや、個人や中小企業、下請け企業を相手にした一企業のオーナーであり、気に入らなければ交渉を蹴れば良い立場ではないのだ。
 
トランプ大統領の政策の全てが間違いである筈はなく、方向性としては賛成できるものもある。しかしながら彼が方法論の誤りを認めない限り、政権は決して長く続かない。