トランプ大統領就任一週間: トランプ支持者たちの見る「別の現実」

「わが仏尊し」という格言があるが、同じようなものに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」もある。仏か袈裟かが問題なのではなく、それが「わが仏」なのか、あるいは「その坊主が憎い坊主なのか」が、対象が尊ばれるか、或いは憎まれるかの判断基準になるようだ。自分が好感を持つ人のする事なら何でも許せるが、憎む人の場合、正しい事をしていてもそれを素直に評価できないという感情は、誰もが一定のレベルで抱える感情かもしれない。

 

ところがこうした感情は、文化的な国において、また政治や倫理を語る場合、公平な評価を行なう際には戦われ、抑えられるべき感情である。私たちが生きるのが文化的な民主主義国家であるならば、法の下の平等もさることながら、倫理の下の平等も覚悟されなければならない。これは勿論、玉石混淆を意味しない。アメリカの表現で言えば、リンゴはリンゴ同士、オレンジはオレンジ同士で比較されるべきであり、リンゴとオレンジを比較する事は愚かな事だ。

 

またノブリス・オブリージュという言葉の通り、地位が高い人ほどその地位に相応しい高い倫理観を求められるのも当然だ。職業に貴賤は無いという言葉は聞こえは良いが、真実からは程遠い。

 

トランプ大統領就任一週間が経った。過激なリアリティー番組のスターとして許された事も、自由諸国のリーダーとしては許されない事もある。トランプ大統領に対してはさまざまな評価があるが、その殆どは肯定的ではない。大統領に対する支持率が、就任一週間しか経っていない時点で44%の低水準である事は、未だかつてない。しかも彼の極端さや現実認識の無さは、支持者に影響を与えている。
 
トランプ支持者の現実認識の無さは、驚く程である。ここに『パブリック・ポリシー・ポーリング』による有権者の意識調査の結果がある。この世論調査は、ピュー世論調査と同じく、信頼に値する調査である。

Americans Think Trump Will Be Worst President Since Nixon - Public Policy Polling

 
2009年のオバマ大統領の就任式は、初の黒人大統領ということで、歴史的な動員があった事は、オバマ大統領支持者でなくても、常識的に判断できる。
 
ところが、トランプとトランプ支持者は、どうしてもトランプ大統領就任式の方が、オバマ大統領就任式よりも観客数が多かったと主張したいらしい。実際には、さまざまな角度からの写真やメトロの利用数から見て、トランプ大統領のおよその観客数は、オバマ大統領のおよその観客数の約三分の一だろうと言われている。

 

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そうであっても、トランプが勝利したのだ。一般投票で3百万票少なかった点を謙虚に受け入れ、国を一致していけば良い筈だ。
 
ここで彼が「自分の方が観客が多かった」「3百万から5百万の不正投票が無ければ、一般投票でも勝利をしていた」などと主張しなければ良いのだ。このような嘘を繰り返せば、当然、メディアの義務として、大統領の嘘を暴こうとするだろう。
 
ところが、トランプ支持者にとっては、『現実』とは別に『逆の現実』があるらしい。全体的には68%の有権者が、「オバマ大統領の就任式観客数の方がトランプ大統領の就任式の観客数よりも多かった」と答え、「トランプ大統領就任式の観客数が多かった」と答える有権者は、全体では18%のみである。ところがトランプ支持者となると、「トランプ大統領の方がオバマ大統領就任式の観客数より多かった」と答える割合が34%にのぼり、この主張を否定する32%よりも多い。
 
翌日の女性大行進の参加者については、54%の有権者がトランプ就任式の観客数より多かったと見るが、59%のトランプ支持者はトランプ就任式の観客数の方が多かったと考え、反トランプを掲げる女性大行進の方が参加者が多かったと答えるトランプ支持者の割合は20%でしかない。しかも38%のトランプ支持者は、世界各地で行なわれた女性大行進が、ジョージ・ソロスによって資金援助されたと、何の根拠もなく主張する。ここまでくればまさに、「困った時のジョージ・ソロス頼み」だろう。女性大行進が世界的に行なわれても、これはトランプ大統領を弾劾するものでも、その勝利を奪うものではない。トランプ支持者たちは、こうした行進に資金援助をして、ソロス氏が何を得ると考えるのだろうか?
 
残念に思えるのは、42%のトランプ支持者は、トランプが大統領の職務を行なうのにあたって、『私的サーバー』使用をする事を認めている。これに反対するトランプ支持者は39%である。私的サーバー使用と言えば、ヒラリー・クリントン元国務長官が、機密情報を扱う人物として相応しくないと責められ、トランプは「彼女を起訴する」と言い、トランプ支持者をして「彼女を牢獄に入れろ」と叫ばせたその原因の筈だ。
 
ヒラリーの私的サーバー使用は許せなくて、トランプによる使用は許せるのだろうか。或いは、たとえその後それによって彼女が責められ、反省をさせられたとしても、ヒラリーが使用したのだから、トランプの使用も認めろと言うのだろうか。
 
ヒラリー・クリントンも、ドナルド・トランプも、同じ物差しで測られるべきだ。「ヒラリーが行なうことは許せないが、トランプだったら許せる」は間違っているし、その逆にしても同様だ。
 
自分の気に入らない現実は否定し、自分の気に入らない報道は全て『フェイク・ニュース』片付けるだけなく、トランプもその他の政治家と同じ物差しで測られるべきだと考えない有権者に支持されている彼の政権はいつまで続くだろう。既に噂されている不正が祟って、宣誓証言を求められた際に彼が嘘をつけば、弾劾もあり得るのだ。しかも、トランプ弾劾を支持する有権者は、就任一週間しか経過していない段階で35%にものぼる。
 
トランプは、自分への礼賛をする支持者ばかりを見つめずに、一般国民に受け入れられる大統領としての資質を身に着けた方が良さそうだ。