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ロシア工作員が笛を吹き、保守派が躍る---スタニスラフ・レフチェンコの証言(2)

日本の歴史、政治 プーチン・ロシア アメリカの政治事情
昨今の一部保守派に見られるプーチン・ロシアへの期待感や親近感は、ヴラジミール・プーチンという独裁者の醸し出すイメージに操作されているだけで、ロシアの実態を無視した非論理的な感情論である。
 
ロシアは、近代化された中国の軍に対して立ち向かえるような軍事力を有していない。核兵器にしても老朽化が進んでおり、核を有していない日本の世論を恫喝する事には使えても、アメリカや中国、インドのような核保有国に対する恫喝として使用することは絶対に無い。ロシアの核が使い物にならない事が露見されれば、ロシアの軍事的威信は回復できない程傷つくからだ。
 
国が最先端技術の軍事力を有するには経済力が欠かせないが、もともとロシアの経済力はメキシコに等しく、クリミア侵略によって発せられた西側からの経済制裁の為に、深刻な打撃を受けているのが本当だ。確かに中国からの脅威は深刻であるが、これに対して協力して対抗し得る近隣国は、中国と軍事協力関係にあるロシアではない。
 
安倍・プーチン会談をもって、中国の脅威に対応する為の「地政学を鑑みた安倍外交」と称えるような報道や論調は、「中国が日本を攻撃することは無い」と楽観視するリベラル左翼のナイーブさを嗤うことは出来ない。このような主張を、スタニスラフ・レフチェンコ氏によって「KGBエージェント」として自社の山根卓二東京本社局長を名指しされた事がある産経新聞が報道している点においては、ロシア工作の影響が、山根局長の退職後も産経社内に残っている事を伺わせる。
 
仮に日露が何らかの軍事協力条約を結んだとしても、もし中国が尖閣なり沖縄に侵攻すれば、ロシアは間違いなく中国につく。これはレフチェンコ氏が証言しているし、当たり前過ぎて真剣に論じられる事が少ないが、ロシアに対する過度の期待が高まる折には、欧米メディアは牽制する意味で、それとなく言及する。
 
だからこそ、このようなロシアに対する希望観測的主張を、元KGB少佐だったスタニスラフ・レフチェンコ氏にKGBエージェント」として自社の山根卓二東京本社局長を名指しされた事がある産経新聞が報道している点は奇異であるし、山根局長退職後もロシア工作の影響が産経社内に残っている事を疑わせる。
 
産経新聞社だけでなく、あからさまなロシア製プロパガンダを流布する馬渕睦夫氏のような元外交官や、鈴木宗男、また佐藤優のように、ロシア工作員への便宜が問題視されたような人物を、保守派メディアが多く登用する理由は何だろう。馬渕氏の主張については、本人が何と弁解しようと、ロシアのアレクサンドル・ドゥギンを教祖とする「反米、反イスラエル、反ユダヤ主義、ロシア・ナショナリズム」を説く新興宗教の主張そのものである。この新興宗教の「反米、親露主義」は、ロシア政府も利用している事が明らかであり、ウクライナ大使時代に馬渕氏がロシア・エージェントに接し、すっかりこれに取り入れられたとしても不思議はない。
 
鈴木宗男と佐藤優に関して言えば、以下の記述がある。
 
2000年2月末頃、警視庁公安部外事第一課が視察対象にしていたSVRロシア対外情報庁)東京駐在部長だった在日本ロシア大使館参事官のボリス・スミルノフについて、視察をやめるように警察庁警備局長に働きかけていた事件。

警視庁公安部外事第一課の第四係はスミルノフに対して連日、強行追尾を含めた視察作業を行っていた。スミルノフは当時親交のあった佐藤優に相談。佐藤優を介して鈴木宗男から警察庁警備局長に圧力が掛り、視察作業は中止させられたといわれる。証人喚問でこのことを聞かれた際に上田清司に質問された時には「覚えておりません」と証言し、その後に原口一博に同じ質問された時には「そういったことはなかったというふうに考えております」と証言した。』

鈴木宗男事件 - Wikipedia

 

ウィキペディアには、ページ作成者の視点や解釈が反映される場合があり、事実関係と意見の境が曖昧な場合さえあるが、この記載に関して言えば、KGBの後を引き継いだSVR工作員の尾行をしていた公安に対して、佐藤優と鈴木宗男が「やめるように」圧力をかけた事は真実かどうかを、上田清司議員と原口一博議員に証人喚問で質問された、という事実関係に関するものである。そしておそらく、両氏がこれまでも絶えず、ロシアとの友好的な関係が日本にとって欠かせないかのようにロシアの行動や主張の弁護を繰り返し、日本外務省の行動に対しても、日本の国益よりも、ロシアの便宜を図ってきたを考えれば、公安の捜査に対して圧力をかけたという疑いは、事実あった事なのだと考える。
 
公安の捜査に対する圧力は、国家に対する背信行為である。この行為を犯罪扱いしない国は、日本だけではないだろうか。鈴木、佐藤両氏は起訴され、実刑判決を受けている。これについて、彼らはいかに自分たちへの起訴が間違ったものだか語るが、彼らへの起訴は、国に対する背信行為という重大な犯罪が、犯罪として定められていない日本として処罰できる限界だったのではないだろうか。

 

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鈴木宗男や佐藤優のような、自らの立場を利用して国に対する背信行為を行なってきた人物の主張を、何かの理があるかのように右派メディアが扱い続ける理由は何だろう。レフチェンコ氏は、ロシア工作員の影響が日本のメディアにも浸透している事を証言したが、メディアは左翼に支配されているとしか考えない保守派を、ロシア産の反米、反中ナショナリズムや、親露プロパガンダで騙す事は、さぞ簡単だろう。
 
アメリカに亡命を果たした元KGB少佐であるスタニスラフ・レフチェンコ氏の自叙伝「KGBの見た日本」また「On The Wrong Side」には、至極常識的な意見が多く書かれている。
 
「アメリカと緊密な同盟関係にあり、日米安全保障条約を結んでいる日本は、すぐにも防衛に立ち上がってくれる外国の軍事力に守られている。外国からの脅威を知覚する力を失った日本には、自国を防衛するということの本当の意味が分からなくなっている人が大勢いる。日本の政治家の間で人気のある言葉に、『全方位外交』というのがある。日本はいずれの国とも等しく友好関係を維持し、ソ連のような敵意ある大国とさえもそのような関係を保つというのが、その言葉の意味なのである。この"だれでも歓迎"主義は、実際には日本の安全保障を損なうものであるにもかかわらず、日本人の間では、一種の固定観念になっているのだ。日本人の中には、はっきりとした理由もなしに、自分たちが至極安全だと思うあまり、どの国が本当の味方で、どの国が敵なのか見分る感覚を喪失してしまっている人が多い。」(KGBの見た日本126頁)
「日本は中立国ではない。自由世界第二位の工業大国として、重大な国際的責任を負っているのだ。日本の多くの政治家や企業経営者は、保護貿易主義やインフレーション、高金利といった、国際貿易で新たに持ち上がった問題を非常に憂いている。しかし彼らは、日本と全自由世界にとっての本当の脅威は実はソ連なのだという事を忘れているのである。ソ連は核ミサイルをちらつかせて世界の至る所で強請を働いている、横暴極まりない軍事大国なのだ。」(KGBの見た日本257頁)
 
日本が中立国であり得ないことは、強調してもし過ぎることは無い。日本はアメリカと同盟を結んでいるのだ。日本の準同盟関係を結べる相手は、アメリカの同盟国でもある、その他の民主主義、自由国家から選ぶのが、同盟というものの常識である。ロシアも中国も、アメリカにとっては敵対国なのに、ロシアとも軍事協力関係が結べるかのような非常識な期待感を膨らませる事は、日本が中立国ではない事を真に理解していないからだろう。
 
しかも「はっきりとした理由もなしに、自分たちが至極安全だと思うあまり、どの国が本当の味方で、どの国が敵なのか見分る感覚を喪失してしまっている人が多い」のは本当だ。保守を自称する人々が、「世界の反日活動の裏にはアメリカがある」等の陰謀説に踊らされ、日本の安全保障を担うアメリカを敵視し、ロシアのプーチンは「柔道が好きな親日家」などという恥知らずなプロパガンダに喜んでいる様は、結局彼らのメンタリティーが、彼らの嗤う左翼のそれに勝るものではない事を表している。
 
だからと言って、この点も、レフチェンコ氏にも同意するが、ロシアとの関係を断つべきだというつもりもない。但し、「ロシアとの友好関係は、日本にとって非常に大切です」などと鈴木宗男のような人物が語る度に思うのだが、「日本との友好関係はロシアにとって非常に大切だ」とプーチンは思っているだろうか。
 
これは、プーチンへの親近感を強め、「ロシアとの友好関係はアメリカにとって重要だ」と主張し始めたトランプ支持者に対しても等しく投げ掛けられるべき疑問である。果たしてロシア側は、アメリカとの友好関係が重要だと考えているだろうか。
 
どのように友好関係を築くことが出来るかという質問は、実はアメリカや日本ではなく、プーチン・ロシアが考えるべき課題なのである。我々はロシアに、我々との関係を回復させ、友好関係を築くべきだと思い直させるべきなのだ。ロシアは、強権政治や人権への侵害、他国へ軍事侵攻をやめ、民主主義、自由国家との関係回復の為に改革への道を再び探らなければならない。関係改善の為に従来のやり方を変えなければならないのは、ロシアの方である。
 
口では何といっても、最近のロシアの軍事的、政治的挑発行為を見る限り、プーチン・ロシアにとって西側との関係改善は重要課題とはなっていないようだ。これは非常に残念な事ではあるが、そもそも関係改善を望まないヤクザ国家を相手に経済協力をさせて下さいと低姿勢で近寄る政策が、根本的な関係改善を齎すのだろうか。
 
レフチェンコ氏は語る。「だからと言って、日本がソ連との関係を絶つべきだ、と申しあげるつもりは無い。長い間の劣等感を捨てて、ソ連と健全で正常な交際を続ける方が日本のためになる、と申しあげたいのである。私見によれば、日本はしっかりした平等の基盤に立ってのみ、ソ連との関係を維持すべきなのである。日本は国土から見れば確かに小さな国だし、軍事的にも強国ではない。しかし、相変わらず妥協を続け、ソ連に屈服する道を歩む理由など全くないのだ。第三次世界大戦など絶対に勃発してはならないのだが、もし不幸にして再び大戦が起こるようなことがあれば、ソ連はいかなる場合でも即座に日本を攻撃し、これまでの両国間の関係など完全に無視するだろう。」(258頁)
 
関係回復を願う日本の声は、ロシアにとっては「日本側の劣等感を背景とした妥協と屈服」としか映らないようだ。例えレフチェンコ氏の分析に対しては反論があっても、日本の姿勢をロシアがどう受け取るかという視点で考えれば、彼の理解こそが正しいのだろう。