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アンジェイ・コズロウスキー教授に聞く、対イスラエル非難決議とユダヤ人入植 (1)

国連安全保障理事会による対イスラエル入植非難決議2334号に対しての考えを、オックスフォード大学出身でワルシャワ大学の教授であるポーランド人学者アンジェイ・コズロウスキー博士に伺った。コズロウスキー博士は、イスラエル問題への専門的権威者ではないが、多岐に渡った豊富な知識をお持ちで、中東の歴史や宗教問題だけではなく、各国の政治、外交の側面からも、この問題を分析し説明できる、数少ない人物であると考える。
 
以下、HKは質問者としての私であり、AKはアンジェイ・コズロウスキー博士を指す。
 
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HK: イギリスはイスラエルに対する非難決議2334号に賛成票を投じながら、テレサ・メイ首相が安保理の決議と同じ内容のスピーチを行なったジョン・ケリー国務長官を非難しました。イギリスが賛成票を投じた理由は、アメリカの棄権を期待しての事ですか?
 
AK: イギリスの外交政策は、日本の外交政策と同様に、外交官と政治家という、二つのグループによって作られています。イギリスの場合では、外交官は常に親アラブの姿勢を保ちます。イギリスはアラブ諸国や政府と長い間の関係がありますし、アラブ社会と繋がる事からの利権があります。外交官は前例や前任者からの引継ぎを重んじ、利権を重視する為、イスラエルはイギリスにとってアラブとの取引を行なう上での厄介な存在だという空気があるのです。しかしながら、イギリスの殆どの有権者はイスラエル寄りであり、政治家は有権者の意向を尊重する為、親イスラエルの姿勢を保ちます。
 
勿論、政治家の中にも反イスラエル色を強める議員もいます。以前は右派が反イスラエルでしたが、現在は全く逆となり、右派が親イスラエルであり、反イスラエルは左派となっています。1950年代には、殆どの労働党政治家は親イスラエルであり、際立って親イスラエルの立場であったウィンストン・チャーチルを除く殆どの保守派は親アラブ派でした。その傾向は、親イスラエルの立場を貫いたマーガレット・サッチャー首相の時代に変わりました。サッチャーの伝記のうち、最も有名なものは、チャールズ・ムーアによって書かれています。
 
基本的に、政治家の介入がない限り、外交官は多くの場合、イスラエルに対して深刻なダメージを与えない範囲で、親アラブの政策を遂行します。イスラエルに対して多大なダメージを与えれば、世論が許しません。また今に至るまで、彼らはいつもアメリカが反イスラエル非難決議に対して拒否権を行使すると確信していました。ですから英国は、イスラエルを傷つける事なく、パレスチナを支持する立場によって、利益を得ていたのです。
 
しかしながら、今回は様子が違っていました。アメリカの新政権はオバマ大統領の退任後、方針を変える事、イギリスが反対票を投じるか、或いは拒否権を行使していれば、トランプ新政権と新たな、強い関係を気付けることをテレサ・メイ首相は見落とし、外務省にいつもながらの外交を任せたのです。メイ首相は、既に遅くなった時点で誤りに気付きました。イギリスは決議を覆す事は出来ず、その代わりに償いをしました。声明によってイスラエルを批判したケリー米国務長官に対して、前例のない非難をしたのです。それでも、アメリカとの新しく近い同盟関係を築く機会を失った事は事実です。新たなトランプ政権が、イギリス保守派の希望通り、これからどれくらいイギリスへの支持を表明してくれるかは、定かではありません。
 
HK: 安倍首相もトランプ政権の立場の違いを理解していなかったのでしょうか。
 
AK: 日本の場合は、もともと目立つ外交を避ける傾向がありました。もし日本がこの決議に反対票を投じていれば、多くの注目を浴びていたでしょう。イスラエルから、また恐らくトランプ新政権からも感謝されていたでしょう。しかしながら、日本の外交はそのように機能した事がありません。アラブ諸国からの非難に対し、どのように対応するべきか知らないと思います。反対票を投じる為には安倍首相が自ら強く、個人的に介入しなければならなかったでしょうが、戦後の日本の政治では、そのような前例はありません。

 

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 イスラエル批判を行なった米国のジョン・ケリー国務長官を非難するテレサ・メイ英首相

 
HK: 日本の外交官らは、すぐに始まるトランプ新政権との近い関係を築く必要を認めていなかったのでしょうか。イギリスの世論とは違い、日本の世論は親アラブであり、少なくとも親イスラエルではありません。最近の日本の右派の関心は、靖国への閣僚参拝にあり、国連安保理による対イスラエル決議にはありません。
 
AK: 勿論です。中東、イスラエル・パレスチナ問題に対する日本の世論は、2つの視点から判断されているだけです。一つは、左翼の論じる「反帝国主義」と「急進的リベラル主義」による「親アラブ・パレスチナ主義」と、アラブ社会における日本の特権的な商業利益です。日本政府は、アメリカを怒らせる事は避けようとしましたが、イスラエルは小さな国であり、日本にとって重要だとは考えられていなかったのです。勿論この考えは、最近イスラエルが技術面での一流国となってから変化してきました。事実、いくつかの分野に於いては、イスラエルは技術面で日本を凌いでいます。中国がイスラエルに関心を持ち始めたのはその為で、中国はイスラエルに対して多くの投資を始めました。中国はまた、イスラエル軍の技術にも非常な関心を持っており、最近中国軍の高官がイスラエルを訪問しています。しかしながら、同時に中国は国連における反イスラエル決議には悉く賛成票を投じてきました。イスラエルが報復する事が無かったからです。
 
安倍首相はイスラエルを訪問し、ネタヤフ首相と会談する事によって、イスラエルとの強い商業関係を築こうとしました。但し、韓国と中国はこの分野で既に日本を追い越し、イスラエルとの強力な商業関係を築いています。特に韓国とイスラエルとの関係は強く、国連の場での多くの反イスラエル決議には棄権してきました。
 
しかしながら、レーガン政権以来の最も親イスラエルの姿勢を示すトランプ新政権の誕生によって、大きな変化が訪れるでしょう。国連に対する分担金支払いを拒絶するかもしれません。いずれにせよ変化が期待できます。
靖国神社に関して、日本の状況はイスラエルの置かれている状況と似ています。この件に於いて、日本の立場を支持する国はありません。南京についても同様です。日本に味方する国はただの一国も無いでしょう。
 
HK: 二国間解決案についてはいかがです?
 
AK: 二国間解決案は、可能ですし、望まれています。しかしながら圧倒的な大多数のパレスチナ人が、イスラエルをユダヤ人国家だと受け入れた場合の話です。「圧倒的な大多数の」とは、8割くらいを意味します。それでも危険が無い訳ではありません。隣国の国民の2割があなたの国を滅ぼそうと考えている場合を想像してみて下さい。今のような、いくつもの世論調査で、3分の一にも満たないパレスチナ人しかイスラエルをユダヤ人国家として認めていない状況では不可能です。また、例え世論調査の結果で、大多数のパレスチナ人がイスラエルを認めたとしても、不十分です。二国解決案の実現に至る為には、まずイスラエル人とパレスチナ人が長い間平和を保ちつつ共存する経験が必要です。これはすぐに実現するとは思われず、100年ほどの時間を見る必要があります。この実現の前には、アラブ側はいつかイスラエルに対して完全な勝利を得られるといった希望を棄てなければなりません。オバマがした事といえば、彼らの誤った希望を与えた事です。勿論、もしアラブ人らがユダヤ人に対しての敵意を、せめてアイルランド人がイギリス人に対して感じるレベルまでに、和らげる事が出来るなら、エルサレムをイスラエル、パレスチナ両国の首都とすることを含めた、多くの平和的な対処案が可能となります。しかしこれらの案は、遠い将来の夢です。イスラエルがこれらの案を完全に排除するべきだとは思いませんが、まず責任はパレスチナ・アラブ人らがユダヤ人らと平和的な共存をする為の政治運動を始める事にあります。今は、これらの運動が皆無であるどころか、ユダヤ人との平和共存についての考えを公けに語るだけで、命の危険を伴う状況です。こうした考えがパレスチナ・アラブ人の間に無い訳ではありません。
 
HK: 二国解決案は、状況が変われば可能だというお考えですね。ガザのパレスチナ人は、ハマス率いるパレスチナ政府の下で暮らすよりも、イスラエル政府の支配で暮らしていた方が良かったと答える調査結果もあるようですが。
 
AK: 将来の原則論で言えば可能ですが、二国解決案の可能性は、現在や近い将来には不可能でしょう。このような可能性について真剣に論じられる前に、アラブ人によるユダヤ人への憎悪感情は(また逆もしかりです)、大幅に減少する必要があります。例えばアイルランド人はイギリス人に対してひどい憎悪の感情を抱き、多くのテロを起こしていました。しかし今日では、憎悪の感情はごく限られた範囲に止まっています。ですから英国とアイルランド共和国は、北アイルランド問題を抱えていても、隣国として共存出来るのです。北アイルランドは英国に属していますが、アイルランドのナショナリストらは、アイルランドの一部であると考えています。それでもアイルランドの圧倒的大多数の人々は、この問題の為にイギリスと戦いたいとは考えてはおらず、イギリスとは隣国として平和共存する事を願っています。北アイルランドのカトリック教徒は、アイルランド共和国の一部となりたいと考えていますが、英国の一部として留まる事を主張するプロテスタント派と平和的に共存しています。彼らはもはや、以前のように、お互いを殺し合おうとはしていないのです。ですから、こうした事が「絶対に起こらない」とは言えません。
 
しかしながら、人々が平和的に共存する事を願うまでは、どのような合意も実現不可能です。ガザで起こった事はその証拠と言えます。合意を順守したイスラエルは、ガザから速やかに撤退しましたが、パレスチナ側は、ガザをイスラエルへの攻撃をする為の基地へと変えてしまいました。イスラエル市街地に向けた数え切れない数のロケットは、ガザから発射されています。イスラエルがどこからかでも撤退し、アラブ側に土地を引き渡せば、その明け渡した土地がイスラエルに対するテロ攻撃の基地として使われる事は、あまりにも明らかです。ですから、アイルランドで起きたような意識の変化なくして、どのような交渉も不可能なのです。しかしアイルランドでの変化ですら、一朝一夕で起きた訳ではありません。しかもユダヤ・アラブ紛争は、アイルランドの場合よりも更に複雑なのです。
 
入植の問題は、更に複雑であります。入植に関して、多くのナンセンスと嘘が主張されています。最も顕著な嘘は、東エルサレムや西岸への入植が違法だという嘘です。入植を違法だとする国際法はありません。問題の地は「領有権への議論」がある土地ですが、占領されている訳ではありません。イスラエルの入植が「占領」でない理由は、この地がイスラエルによってヨルダンから獲得されたからです。ヨルダンはイギリスの所有であったこの地に侵略し、国際法に背いて占領しましたが、現在ヨルダンは、この地に対する領有権を主張していません。「占領」とは、ある地が一国によって合法的に支配されているものを、戦争に勝利した他国が支配権を握った場合を指します。ヨルダン以前にこの地を合法的に支配していたのはイギリスでした。
 
ですからこの地に関して、入植への議論があるだけで、入植をイスラエルによる占領であるとすることは間違っています。クリル諸島(北方領土)は日本から奪われ、ロシアはそこに多くのロシア人を入植させています。トルコによってギリシャ人住民が追い払われた北キプロスについても全く同様です。中国も同じことをチベットで行ないました。しかしながら、これらの国々が全てイスラエルによる入植を批判しているのです。イスラエルはこの地をヨルダンから獲得し、ヨルダンは現在この地への領有を主張していないのにです。
 
HK: イスラエルの入植が違法ではない事、またこの地への領有権について、コメンタリー誌はこのように説明をしています。
 
[もし今回の国連安全保障理事会の決議2334号に、実際には存在しない法的拘束力を認めるなら、それよりはるか以前の1922年、この『パレスチナ問題』について国際連盟によって初めて公式に定められた『イギリス・パレスチナ委任』が、東エルサレムやガザ地方などを含む現在のイスラエル領土全てをユダヤ人固有の国として認め「他国に割譲したり、貸与し足り、外国政府の支配下にしてはならない」と定め、ユダヤ人の入植を奨励していた事実には、更なる法的権威を認めるべきだ。しかも『国連憲章』の第80条は、「第77条、第79条及び第81条に基いて締結され、各地域を信託統治制度の下におく個個の信託統治協定において協定されるところを除き、また、このような協定が締結される時まで、本章の規定は、いずれの国又はいずれの人民のいかなる権利をも、また、国際連合加盟国がそれぞれ当事国となっている現存の国際文書の条項をも、直接又は間接にどのようにも変更するものと解釈してはならない」と定め、過去の信託統治協定や国際文書の条項を国連等が変更したり、異なった解釈をしてはならないと禁じている。だからこそ、1967年の6日間戦争の勝利後も、イスラエルは戦争によって獲得した新たな領地を放棄する事が求められただけで、現在の入植について取り沙汰されているガザや東エルサレムなどについてはイスラエル側の領地として認められ、入植も続けられていたのだ。今回の国連決議に対して、イスラエルのネタヤフ側は反発をしたが、イスラエル側の怒りは当然である。]

 

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         質問に答えられるアンジェイ・コズロウスキー博士

 
AK: 勿論、これはこの側面の一つの側面です。その他にも多くの議論がありますが、靖国神社問題に似ているものもあります。(2へ続く)