在トルコ露大使の暗殺と、事件の政治利用

トルコに駐在していたロシアのアンドレイ・カルロフ大使が、 シリアにおけるロシアの軍事行動を非難するトルコの機動隊に所属 する警察官によって暗殺された。ロシア、トルコ両国とも、 これをテロと断定している。ウォール・ストリート・ ジャーナル紙の報道を抜粋する。http://www.wsj. com/articles/russian- ambassador-is-shot-in-turkish- capital-1482166062

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シリア内戦におけるロシアの軍事行動を恨みにもつトルコの若い警 察官によって、月曜夜、 モスクワからアンカラに駐在するロシア大使が銃撃を受け暗殺され た。この事件については、 3国ともテロ行為であると認定している。 ビデオには暗殺犯が黒いスーツに白いシャツを着て、 床に倒れた外交官の横に銃を持ったまま立ち、「 アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな」 と叫ぶ様子が映っている。


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彼は続けて言った。「このアトロシティーに加担した者は全て、一 人一人その代価を払う。」


最近のアレッポ市陥落を含め、ロシア空軍と特別部隊は、 トルコや欧米場支援する反政府軍や武装グループとの戦いに苦慮す るバシャール・アル・アサド大統領に加勢して、 シリア内戦の流れを変えた。 アンカラとモスクワは対峙するグループを加勢していたが、 今年に入り、ロシアとトルコの公的関係はやや友好的になった。 しかし多くのトルコ人は、 国境を超えたシリアの虐殺の規模の責任をロシアに見出している。


トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領と電話会談を 行ない、アンドレイ・ カルロヴ大使の暗殺について情報提供を行なった。ロシア政府は、 モスクワにおいてアレッポ休戦の為の交渉を行なうことに変わりはない と述べている。


エルドアン大統領は暗殺を批判し、 この事件がシリアの流血を止める努力を滞らせることは無いとした 。両首脳は、 暗殺がトルコとロシアの良好な関係を狙った攻撃であると宣言して いる。

 

月曜日、プーチン大統領は「これについての答えは一つしかない。 テロに対しての戦いを強めるだけだ」と宣言した。 エルドアン大統領も「 我々は我々の協力関係が強く前進しなければならない事に同意した 」と答えている。

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「テロへの戦い」とは、ロシア、 トルコ両政府にとって反対派への弾圧の口実に使われてきた。

 

犯人のメウルット・メルト・アルティンタスは、 カルロス大使射殺時に「アラーフ・アクバール」と叫び、 預言者モハメッドの言葉とされる『ハディーシュ』 に出てくる詩を暗唱したと報道されているが、 イスラム教過激派やジハーディスト達と彼との関わりは明らかにさ れていない。

 

トルコのエルドアンは機会を逃さず、 この事件を自身にとって都合の悪い政権批判者への弾圧に利用し始めている。

エルドアンは、7月に起きたクーデター未遂事件に関連して、 自身への批判を行なう在米トルコ人イマン(イスラム教指導者)、 フェスラー・ギュレン師を影の首謀者と断定し、 米国に身柄の引き渡しを要求していた。エルドアンはギュマン師の 運動をテロリズムと認定し「 米国がギュレンの身柄引き渡しに応じないなら、 同盟関係を傷つくことになるだろう」とメッセージを発したが、 米国はこの要求に応じてはいない。

 

ギュマン師は過激イスラム教のテロを批判し、彼の運動は寛容とイ スラム教と他宗教間の対話を勧め、 イスラム教と世俗社会との共存を図るものである。 彼は2013年のエルドアン政権の大規模な汚職発覚後、 政権に対する批判を強めた為、政権側は、 検察の捜査を煽り政権転覆を企てたテロリストとしてギュラン師を 認定した。

今回のロシア大使暗殺に関して、トルコはこれをメウルット・ メルト・アルティンタス一人の犯行と捉えず、 関連してギュラン師の運動に関わる人物を含む6人の身柄を拘束し ている。

http://www.aljazeera.com/news/ 2016/12/ankara-focuses-gulen- links-karlov-assasination- 161219202204832.html


一方、複数のロシア政府高官と、ロシアのナショナリストに影響を持つアレ キサンダー・ドゥギンは、これを西側、CIAの陰謀と主張し、 アレックス・ジョーンズの運営する陰謀説専門の『 インフォウォー』や『ゲイトウェイ・パンディット』などは、 ロシアの主張通り、 CIAがロシア大使暗殺に関与をしていると報道している。

http://www.independent.co.uk/ news/world/europe/russia- ambassador-shooting-turkey- nato-security-services-andrey- karlov-a7485296.html

http://www.ibtimes.co.uk/ andrey-karlov-not-franz- ferdinand-neither-turkey-nor- russia-want-war-1597455


トルコにせよ、ロシアにせよ、事件の政治利用には余念が無い。『テロリズム』や『テロリスト』を利用する事によって、政敵への大規模な弾圧もプロパガンダの流布を正当化するつもりなのだろう。だからこそ、テロやテロリストの定義は、 軽々しく行なわれてはならないのだ。

 

『「日本、死ね」はテロではない』でも触れたが、テロとは「特定の政治目的を達成するため、 暴力やそのほかの威嚇を通じて恐怖状態をつくり出すことによる、 暴力改革主義、恐怖政治」を意味する。 この厳しい定義を蔑ろにして、反対者への弾圧の一環として「 テロとの戦い」を強調する事は避けられなければならない。

 

「 テロ」 への厳しい定義を無視してこれを軽々しく使うところにこそ、 言葉を使う側の『政治的意図』が問われる。定義を無視、 或いは軽視してこれを使えば、 行なっている事は大衆への煽動行為、デマゴーガリー(民衆煽動)* である。ロシア大使の暗殺は、ロシアによるシリア、特にアレッポへの軍事行動がどうあっても、外交官への暴力として許されるべきではなく、多いに責められるべきだ。

 

それでも、この事件を自らの政敵弾圧の口実として政治利用する事は許されない。

(*デマゴーガリー: 民主主義社会に於いて社会経済的に低い階層の民衆の感情、恐れ、 偏見、 無知に訴える事により政治的目的を達成しようとする政治的煽動。 )