ロシアによるアメリカ民主党システム・ハッキングの究極的目的

ロシアによるハッキングの動機に関するCIAとFBIの報告について、The Hillが記事を書いている。

US intelligence split on motive for Russian election interference | TheHill

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CIAとFBIは、ロシアによる大統領選挙の干渉に関して、議会に対して違った説明を行なっている。金曜日、ワシントン・ポストによって報道されたCIAによる査定では、ロシアによる大統領選挙の動機は、ドナルド・トランプ氏が大統領を当選させることにあると結論付けられている

下院議会の説明会に出席した人物は、トランプへの支援をロシアの動機とみるCIAの査定を、「明確で、大胆で、断定的であった」とワシントン・ポスト紙に語っている。

しかしながらFBIが下院諜報委員会で説明した内容は、ポストによれば、「曖昧で、不明瞭であった。」
 

複数の報道によれば、FBIは共和党全国委員会やその他の共和党団体がハッキングの対象になった事については、確認をしていない。

ワシントン・ポストの報道によれば、FBIはロシアによる干渉について、選挙結果を変える意図的な努力であったかどうかの断定をしていないようだ。

下院諜報委員会での会合において、CIAは、ロシアによる民主党emailへのハッキングの動機を断定しているが、FBIは動機の断定をしていない。

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ある議員がポスト紙に語った内容によれば、FBIにとっても「ロシアのハッキングが何らかの目的を持っていた事に疑問の余地はないが、その目的が一つだけに限定したものか、複数の目的があったかは明確にされていない」ようだ。

メイン州のアンガス・キング上院議員は、上院諜報委員会のメンバーであるが、ポスト紙に対して、「この諜報内容は、二度とこうしたハッキングが起こらないようにする為、公開されるべきだ」と語っている。

ロシアの目的が、選挙結果を調整する事にあったか、キング議員は分からないとしているが、今回の選挙を以てロシアによるハッキングが終了するとは考えられないと付け加えている。「彼らは、中間選挙や、次の大統領選挙にも干渉を試みるかもしれません」

この報道がなされた後、共和党と民主党の議員らは、ロシアによるハッキングを厳しく批判し、徹底した調査を求めているが、ドナルド・トランプ次期大統領は、ロシアが彼の当選に向けて干渉をしたと考える事を「くだらない」と一蹴し、「民主党が自らの敗北の非を探しているだけだ」としている。

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ヒルズの報道は、タイトルからはCIAとFBIの報告に大きな違いがあったかのように書いてあるが、内容を読めば、CIAとFBI双方とも、ロシアによるハッキングがあった事実を認めている事が理解できるCIAがロシア側の動機や共和党本部へのハッキングに対して断定をしている点について、FBIは動機と共和党本部などへのハッキングの有無を断定していないだけの違いである。CIAとFBIの働きの違いを考えれば、彼らの報告書に違いが出て当然だ。CIAが国外のスパイや諜報組織への捜査を行なうのに対し、FBIは連邦内の犯罪を扱う。ロシアの諜報やスパイ活動について、CIAがFBIより断定的なのはロシアの活動を熟知しているからだろう。

ドナルド・トランプ氏が何と主張しても、ロシアによるハッキングの目的が、トランプ氏の当選へ向けての支援であった事は否めない。トランプ氏の当選によって、短期的にはロシアへの制裁解除やNATO撤退が見込めると考えても当然だろう。一方トランプ氏や側近は、CIAの報告書の裏に民主党があると主張するが、これには根拠が皆無である。

但し、ロシアの諜報活動に詳しいジョン・シンドラー氏や、ロシア政府直属テレビ局である「ロシア・トゥデイ」の元アンカーによれば、ロシアによる干渉の究極的目的は、たとえヒラリー・クリントンが勝利をしていても、達成されていたと見ている。

クレムリンの究極的目的は、民主主義システムへの不信を世界中に蔓延させることにあるからだ。ヒラリー・クリントンが勝利をしていれば、トランプ氏は、それこそ死ぬまでアメリカの選挙や政治制度とメディアの不正を叫んでいただろう。

以下は、元チェスの世界チャンピオンで、ロシア民主化の運動を続けるゲイリー・カスパロフ氏が、選挙前にニューヨーク・タイムズに書かれた記事の抜粋だ。

http://www.nytimes.com/2016/10/30/opinion/sunday/america-your-election-is-not-rigged.html

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アメリカ政界の指導者の中で、トランプ氏によるビックリするような「不正投票」説や「メディアによる陰謀」説を快く受け取る人はいない。なぜなら彼らは、民主主義社会のリーダーとしての(アメリカの)信用を、トランプ氏がいかに台無しにしているか承知しているからだ。この信用の失墜こそが、私の祖国の指導者であるヴラジミール・プーチンがトランプ氏を喜んで支持している理由だろう。

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権力の座に16年ついて、プーチン氏は世界規模で民主主義がいかに混沌とした失策であり、ロシアをそれから守るのは「英雄プーチンしかいない」というプロパガンダを積極的に流している。ソーシャルメディアでは、クレムリンによって資金援助を受けているトロールらが、アメリカの選挙の正当性の欠如を叫び、暴力の可能性もあり得ると警告を発している。アメリカの主要政党からの大統領候補者が、このプロパガンダを繰り返している事実は、プーチン氏さえ見なかった最高の夢だろう。トランプ氏はプーチン氏の権威主義の弁解を真似し、自分こそがアメリカを救えると訴えている。(中略)

 

これが今日の独裁者のやり方だ。自らの益になると判断すれば、自由社会で使われている言葉や技術を巧みに使いこなしている。自国における八百長選挙だけでは足りなければ、海外に向けて攻撃的なキャンペーンや偽情報を流出する。ロシアのニュースでは、連日トランプ氏がリードしていると伝え、ウィキリークスがアメリカの民主主義現実の腐敗を晒していると報道している。プーチン氏はもはや民主主義社会のリーダーのフリをすることは許されない。彼のゴールはロシア以外の国をロシアの不正腐敗と同レベルに引き下げることにあり、トランプ氏はそれに活用されているのだ。

 

民主主義は、人々がそれを信じる時に力を発揮する。外部から崩壊されることがなくても、内部から崩壊され得るのだ。」

『アメリカよ、汝の選挙に不正はない』 - HKennedyの見た世界

 
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ロシアによる民主党emailへのハッキングがあった事は事実である。ただそれは、実際に選挙結果を変えた干渉であったとは考えられていない。emailへのハッキングを行ない、民主党に不利に働く情報を、虚構と共にウィキリークスを通じて流出した事実は、投票の流れを変える意図があったとしても、投票箱に入れられた有権者の意思を、開票段階で変える不正操作とは違う。ヒラリー・クリントンの敗因は、ロシアには無い。彼女の敗因は、彼女が大都市以外の有権者に支持を訴える事が出来なかった点にある。
 
一方ロシアの究極的な目的は、アメリカの有権者に対して、自分たちの政府やシステムやメディアに対する不信感を抱かせることにある。そのロシアによる策略を「プーチンの無知なエージェント」と呼ばれるトランプ氏は、自ら喜んで叶えているのだ。
 
この無知や危険性は、トランプ氏やトランプ支持者だけの問題ではない。軽々しく「アメリカによる陰謀」から始まって、「外務省は何もしていない」「安倍は売国奴」「メディアは嘘をつく」等、政治、社会システムやメディアに対する不信感を高める無責任は、大衆をして偽ニュースや陰謀説に煽動される、過激思想や無秩序へと追い立てる。社会秩序は、システムへの信頼があって初めて成り立つものだ。
 
トランプ氏や一部支持者の無責任な主張こそ、反アメリカ的な発言であり、アメリカを偉大な国とするどころか、メディアから始まって、民主党や反トランプ共和党議員、CIA、FBIなど、不正腐敗の蔓延る三流国家として多くの国民に印象付けている。自分たちに同調する人々以外は全て「反アメリカ」、すなわち「敵」であるかのように不信感を煽るトランプ派が、証拠や無視して弁護をするのが「ロシアのプーチン大統領」なのだから、開いた口が塞がらない。
 
因みに、懸念されていた通り、トランプ氏は諜報員による大統領日課のブリーフィングを拒絶している。ブリーフィングは毎日必要ではなく、週の一度程度で良いそうだ。
 
本人は「私は何と言うか、賢いから」と主張するが、実際は、トランプ氏の自叙伝「Art of Deal」を書いたゴーストライターの危惧した通り、自分に関する話しでない事を座って聞くのが耐えられないのだろう。
 
彼ほど自分の賢さを繰り返し主張する大人もそうはいまい。にも関わらず、トランプ氏ほど自分自身を賢いと宣言する大人もそうはいない。トランプ氏の発言に、マーガレットサッチャーの言葉を思い出す。
 
「自分がレディーであると言わなければいけないならば、そうではないのです。」