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保守派は「偽情報」で騙すな、「偽情報」に騙されるな。

アメリカの政治事情 日本の歴史、政治

先月始めの11月2日、ヒラリー・クリントン元国務長官が、ワシントンDCのピザ・レストランにおいて「マネー・ローンダリング」から始まり「子供相手の性犯罪」に関与している、というニュースが流れた。これは意図的に捏造された偽ニュースであり、社会的責任の伴うメディアは、ヒラリーに反対するメディアも、報道していない。(詳細は、以下に添付したビジネス・インサイダー記事に記されてある。)

 
この偽ニュースは、FBIのコミィ長官が捜査を再開した中に発見されたヒラリー・クリントン陣営の責任者のemailに、一風変わった芸術家の親族のパーティーへ出席する旨が書かれていた事に発し、そのパーティー開催者の芸術を『カルト』と呼び、そこから発してヒラリー・クリントンとそのカルトを関連付けたものだ。一風変わった前衛芸術に邪推と憶測を絡め、ヒラリー・クリントンを貶める目的で、インターネット上のニュースとして流されたものだ。
 
この偽ニュースに煽動された形で、該当するピザ・レストランに銃を持った男性が押し入り、銃を数発乱射する事件が日曜日起きている。この発砲事件について、トランプ氏の安全保障政策アドヴァイザーであるマイケル・フリン元中将の息子が「ピザゲートが偽だと証明されるまで、これはニュースとして扱われる。左派はemailと多くの『偶然』がこれに関連している事を忘れているようだ」とツイートをした。CNNのジャーナリスト、ジェイク・タッパー氏は、「この『ピザゲート』が正しいとする証拠の一つでもあるなら、教えて欲しい」と彼にメッセージを送ったようだ。要は、社会的責任のある人物が、無責任な陰謀説をそのまま流すことに警告を発したかったのだろう
 
マイケル・フリン・ジュニアは、「このニュースが嘘である事は、自分も願っている」と答えつつも、このピザ・レストランと「カルト儀式」の関わりを否定していない。
 
ジェイク・タッパー氏は、「これは、悪魔的な児童愛のカルトの場所ではない。ただのピザ屋だ。悪魔的な児童愛カルトだと証明するものを見せて欲しい。あなたのツイートはかなり無責任だ。よく聞いてほしい。あなたのツイート(を信じる犯罪者)によって、誰かが殺されるかもしれない。無実な子供かもしれない。いったい何の為に?」と非難している。

 

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                    CNNのジェイク・タッパー氏
 
フリン・ジュニアの父親のマイケル・フリン元中将は、ドナルド・トランプの安全保障アドバイザーに抜擢されたが、息子ともども政権移行チームのメンバーでもある。ヒラリー・クリントンを児童愛のカルトと関連付けるこの偽ニュースは、フリン元中将自身も選挙前に流布している。
 
ヒラリー陣営が悪魔礼拝や子供を対象としたセックス組織に関わっているという、この荒唐無稽な偽ニュースに飛びついたのは、マイケル・フリンの息子だけではない。極右サイトの『インフォウォーズ』では、トークラジオ番組ホストのアレックス・ジョーンズが、ヒラリー・クリントンが児童を扱ったセックス組織に関係しており、彼女のキャンペーン責任者のジョン・ポデスタは悪魔礼拝者であると繰り返し示唆していた。

Pizzagate: From rumor, to hashtag, to gunfire in D.C. - The Washington Post

 

11月4日にジョーンズが掲載したユーチューブ・ビデオでは、彼は「ヒラリー・クリントンが自身で殺害し、首をはね、強姦した全ての子供たちの事を考えると、彼女に反対して立ち上がることなど怖くない。その通り、よく聞いてくれ。ヒラリー・クリントンは、自分の手で、子供たちを殺害したんだ。私は、これ以上真実を抑え込むことは出来ない。」と語っている。

アレックス・ジョーンズと言えば、911はアメリカ政府による自作自演のテロだと主張するアメリカで最も有名な『陰謀説論者』であり、『インフォウォーズ』は彼の運営する陰謀説メディアだが、ドナルド・トランプ氏は彼を気に入り、ジョーンズの素晴らしい働きを称え、大統領当選後には彼に感謝をする電話をしている。因みに「Infowar」と言えば、「トランプ大統領当選に反対するデモは、ジョージ・ソロスの支援する団体がバスを借り切って運動を起こしたものだ...」という陰謀説を流している。

Alex Jones says Trump called to thank him - POLITICO

 
社会的な責任ある立場の人物は、陰謀説や真偽のハッキリしない情報を軽々しく流布するべきではない。たとえ政敵を貶める目的があったとしてもだ。ヒラリー・クリントンを貶める為ならば、どんな嘘でも流布する一部保守派がいるが、彼らに倫理や真実を語る資格はない。
 
私は、『メディアの偏向』を訴える人々に限って、偽ニュースや陰謀説を信じる傾向があると考える。勿論、彼らの多くは『偽ニュース』や『陰謀説』と知った上で、情報を流している訳ではない。これらの偽ニュースを信じる人々の多くは、社会によって自分が正しく評価されていないと感じる層に多く、自らの不遇を、漠然とした巨大な力に見出す屈折した傾向がある。アレックス・ジョーンズは、繰り返し既成のメディアが信用ならないと主張し、主要メディアに対する不信感を視聴者に植え付け、自分の流す陰謀説こそ隠された真実だと自負している。
 
しかしながら、既成メディアを「嘘つき」と呼び、CNNを『クリントン・ニュース・ネットワーク』と揶揄すれば、それですべての白黒、善悪の判断がつくかのように単純な吹聴をする人々は、タッパー氏とフリン元中将、またアレックス・ジョーンズ氏のいずれが情報に対して誠実か、深く考えた事が無いのかもしれない。
 
但し、自らの政治目的を達成するために、こうした偽ニュースや陰謀説を流布する人々もいる。恐らく、社会的立場がありながらこういった偽情報を流す人々は、政治的な動機の為に、これらを嘘と知っているか、或いは嘘であっても構わないと考えているのだろう。概してこのような人々は、自らの流す偽情報を別の政治勢力への『是正』と考えているので、無責任な情報を流す事への罪悪感はない。
 
偽ニュースの齎した実際の害について、アメリカでの一例を上げたが、日本の保守派も勿論こうした情報操作と無縁ではない。
 
最近では、韓国企業が人肉を食材に加工したという偽ニュースが流れた。勿論、こういった偽ニュースを喜んで流す人々の多くは、嫌韓感情に煽動されている場合が多い。真偽のハッキリとしないニュースでも構わず、政治目的を達成したいのだろう。日本の一部保守派には、911のテロがアメリカによる自作自演だとする陰謀説が流れているが、真珠湾攻撃の記念日や安倍首相のハワイ訪問が近付けば、ルーズベルトは事前に真珠湾攻撃を知っていたとする陰謀説が盛んに取り沙汰されるだろう。
 
トランプ氏の当選を以て、何故かその勝因を「白人中年男性の死亡率」と関連付ける主張もある。保守派として著名な方々でさえ、こういった偽情報を流している様子を見ると、よほど情報が偏っているとしか思えない。例え英語を訳すことが出来ても、彼らがアメリカのメディア事情に熟知しているとは考えられず、どのメディアが信頼がおけるか、どのジャーナリストが保守派であるか、見当もついていないようだ。
 
勿論、全ての非の責任が彼らの肩にある訳ではないが、それでいて何故か、「主要メディアに騙される」という被害者意識だけはハッキリとあるようで、信頼できる情報を退け、偽ニュースに飛びつく傾向がある。偽ニュースと知らずに流している場合は、情報検証の能力が無い事を意味する。もし、これらの偽ニュースを『偽』と知りつつ流しているとすれば、彼らには政治的悪意があるとしか考えられない。いずれにせよ、彼らが日米主要メディア報道の偏向を批判する立場にはないのだ。
 
勿論、主要メディアに偏向が全く無い訳ではない。しかしながら偏向を訴える側の提供する情報が偽ニュースや陰謀説では、説得力が無いばかりか、論じる側の知性が疑われる。自分でこれらの海外情報を検証する能力を持たないならば、日本の一流紙の海外ニュース欄や、和訳されている米紙(誌)から学ぶべきだ。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな偽ニュースや陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。
 
アメリカのフェイスブックは、意図的な偽ニュースを流す試みを禁じる動きに出ている。これについてナショナル・レビュー記者であり「リベラル・ファシズム」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏は、以下のように書く。

Fake News Folly | National Review

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               ナショナル・レビュー誌のジョナ・ゴールドバーグ

「私は偽ニュースについての議論は意図的に避けようとしてきた。あまりにも色々な事が言えるからだ。しかし今朝、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が、「FDR(ルーズベルト)は、真珠湾攻撃を事前に知りつつ、何の対処も取らなかった」という、決して消滅しない陰謀説を報道したのを聞いた。ホストはこれを75年前の「偽ニュース的なもの」とした。彼の解説はおおよそ正しいのだが、チャールズ・ビアードの名前を出し、彼がこれに対して果たした役割について述べたら、もっと良かっただろう。これは、ピザゲートという狂人を『偽ニュース』と呼ぶメディアの容赦ない報道のかかとに引っかかっていた。
 
私の理解では、『ピザゲート』は明らかな『偽ニュース』である。海外ウエブサイトが、意図的に、情報を作り上げていると知りつつ、ソーシャルメディアに掲載され、添付先のリンクをクリックさせる事で利益を得るニュースである。正確に言えば、『陰謀説』は『偽ニュース』とは異なる。『陰謀説』は、『陰謀があったとする説』であるのだ。多くの主要メディア(その殆どはリベラル・メディアである)は意図的に、或いは知らずしてか、この違いをごちゃ混ぜにしてきた。偽を批判するならば、定義を曖昧にする行為は皮肉でしかない。
 
保守派の側も同様に、この定義をごちゃ混ぜにしてきた事は事実である。
 
しかし、主要メディアが流す『不正確なニュース』は、意図的に偽情報を作り上げ、クリックさせる為の『偽ニュースサイト』とは全く異なる。ダン・ラザー*に対して厳しい批判があったが、彼の『犯罪』は、野心や私心、集団的思考によって、適切な洞察力やジャーナリストとして必要な懐疑心を放棄してしまった点にある。ガザの橋を想像した*VOXニュースのあの記者も、意図的にあのような失態を演じた筈はない。(*ダン・ラザーは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のヴェトナム参戦時代について、虚偽文書を用いて『60ミニッツ』で批判した。)

Killian documents controversy - Wikipedia

 (*VOXの記者によって、イスラエル政府はガザとヨルダン西岸を結ぶ橋の通行を妨害していると報道されたが、橋そのものが存在していない。)

http://thefederalist.com/2014/07/17/voxs-motto-should-be-explaining-the-news-incorrectly-repeatedly/

 

もし嘘と知りつつ、それを事実として報道すれば、法的処置を課せられることはそれ程狂った考えではない。もし『ナショナル・レビュー』が、児童愛好者らの集まりであると偽ニュースのサイトによって報道されれば、彼らを法的に訴えたいところだ。しかしながら、もし中傷する目的で偽ニュースをねつ造する組織が法的に守られるとしても、フェイスブックのような一企業が、利用者を意図的に騙そうとする詐欺師たちの能力を限定する事には何の問題も無い筈だ。
 
いずれにせよ保守派は、相反する意見を抹殺する為に偽ニュースを利用しようとする如何なる試みに対しても、反対をするべきだ。保守派が、偽ニュースを流して利益を受けるプロの詐欺師たちを弁護するべき理由はない。」