世界が見捨てる東アレッポの悲劇

アメリカ大統領選がいよいよ終焉に迫っていた先月10月、ロシアが高度ミサイル防御システムSA-23をシリアに配置した事がアメリカ政府高官によって確認され、元国連大使でAEI上級研究員のジョン・ボルトン氏もフォックス・ニュースで語られていました。
 
公式には「ロシアの思惑は不明瞭」とされていながら、ISISなどのイスラム教テロ組織は空軍を持っておらず、ロシアのミサイル防御システムは、アメリカの軍事行動を妨害する目的である事が明らかです。

Russia deploys advanced anti-missile system to Syria for first time, US officials say | Fox News

 
シリアのアサド政権とロシアは、反政府組織の支配するアレッポ東部への攻撃を強めており、数日前には政権側からアレッポ市民に宛てた24時間以内の避難勧告を促すテキストメッセージが送られましたが、多くの住民は「政府軍が道路を封鎖しており、どこへも逃げる事が出来ない」とアル・ジャジーラ紙に答えています。

In east Aleppo 'there is no way out' - News from Al Jazeera

 
シリアの政府系メディアは、反政府軍がアレッポの住民の避難を妨げていると報道しましたが、多くの東アレッポ住民は以下のように答えています。
 
「私が見たのは、政府軍が一般市民を攻撃しているさまです。政府による要塞と暴力で市外に逃げる事が出来ないのです。全ての道路は封鎖され、市の周辺至る所で戦闘となっています。」

 

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       政府軍による砲撃が続く東アレッポの病院関係者
 
「政府の主張は、世論を欺く目的があります。道路は政府軍のスナイパーらによって監視されており、脱出しようとする市民はそこで射殺されます。」
 
「国際社会の保障が無い限り、政府軍によって拘束される恐れがあり、政府の支配する地域を通過する事は出来ません。」
 
「最悪なのは、誰も我々の苦しみ、死、呻きや飢えに関心を持ってくれない事です。」
 
独裁色を強めるアサド政権は、土曜日18日にもアレッポを空爆し「アレッポの病院や医療施設は全て破壊された」と言われています。

Battle for Aleppo: 'All hospitals are destroyed' - News from Al Jazeera

 
アル・ジャジーラの報道によれば、反アサド派武装組織が支配し、政府軍によって包囲網が築かれているアレッポでは、土曜日の空爆で少なくとも56人の市民が殺害され、瓦礫の中から子供の遺体が多く運び出されています。
 
ロイターの報道によれば、アレッポの全ての医療機関が機能不全に陥った事をWHOも認めています。「医療関係者によれば、病院が政府軍のターゲットとなったのは、反政府組織の戦意をくじき、降伏させる目的があります。ここ何時間かの間に、最後に残った二つの病院も政府軍の集中攻撃によって破壊されました。
 
カナダの医療救護組織によれば、全ての医療機関と交通手段の破壊によって、負傷者が行く場所も無いままになっていると報告されています。
 
アル・ジャジーラの記者は、小児病院への集中砲弾によって何人かの保育器に入ったままの新生児が医療スタッフらによって担ぎ出されたと報告しています。

 

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                空爆後、助け出された新生児
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私は、オバマ大統領のイラク撤退、シリアのアサド政権による自国民虐殺、ロシアのクリミア侵略などに見られる、不介入政策を批判してきました。
 
オバマ大統領によるイラク早期撤退政策によって力の空白状態が生じ、ISISをはじめとする過激イスラム武装組織の台頭に繋がった事は明らかです。又、アサド政権が、再三の警告を無視して化学兵器によってシリア住民約3,000人の虐殺を行なった後も軍事介入を行なわず、プーチン・ロシアの発言力を強め、ロシアによるクリミアの侵略まで招きました。
 
シリアのアサド政権も、アサド政権と同盟を結ぶロシアのプーチン大統領も、アメリカの軍事介入が無い事を見極めながら、西側が同盟を結んでいる反アサド派武装組織や一般住民の虐殺を続けています。
 
ロシアによる空爆は、当初の主張とは裏腹に、ISISを狙ったものではなく、西側と協力関係にある反アサド政権組織と住民を狙ったものである事は当初から明らかにされており、ISISが殺害したシリア市民の数より、ロシアによる空爆で殺害されたシリア市民の数の方が上回っているのが事実です。

Putin's forces refuse to attack Islamic State in Syria - Washington Times

 

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      政府軍、及びロシアからの砲撃を受ける東アレッポの住民
 
ISISの制圧を妨げているのがアサド政権とロシアである事は、ロシアの攻撃相手が、ISISと戦う反アサド派武装組織、及び、彼らの支配する地域に住む一般市民である事からも判明されています。
 
オバマ大統領の「不介入政策」や「僅かばかりの空爆」が、大量のシリア難民を生み出すだけで抜本的な解決を齎さなかった事は、オバマ大統領の意図した事とは異なっていたとはいえ、明らかな大失敗であり、人道主義と正義を掲げるアメリカの倫理的責任を放棄したという点から考えても、厳しい非難に値します。
 
ところが次期大統領であるドナルド・トランプ氏は、「アメリカ第一」として、シリアからの難民の受け入れを拒否しただけでなく、「シリアやISISの問題はロシアに任せる」とさえ発言しています。

www.washingtontimes.com

 
くり返しますが、アサド政権とロシアには、反アサド派組織や反アサド派住民を攻撃しているISISを制圧する意思はありません。万が一ISISが制圧されれば、全ての反アサド派がアサド政権打倒に集中する事が分かり切っているからです。
 
ところが、そうした基礎的知識すらトランプ氏が認めないならば、ISIS制圧が不可能であるばかりか、アサド政権による反政府派住民への虐殺は、世界が関心を払わないまま、これからも続けられるでしょう。
 
アメリカに限らず、虐殺されていく無辜の命に関心を払わない国家が、果たして『偉大』であり得るでしょうか。犠牲や国家間の対立を恐れて、抵抗するべき手段を持たない多くの命への虐殺を阻止しない国家が、果たして『文明国』と呼べるでしょうか。