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トランプ次期大統領の勝因と、これからの『分析』

トランプ次期大統領の政策に関して、日本の一部の方々が「トランプ新大統領は中国を軍事力で抑える」や、「政策顧問が明らかにしたアジア政策」など、自信に満ちた調子で書かれている記事を拝見しますと、本国アメリカの熟練した政治評論家やアナリストらが「未だ、トランプ次期大統領が実際に何がするのかはわからない」と口を揃えて様子見をしている内に、日本のメディアが何故トランプ氏の政策に確信を持てるのか、不思議な気が致します。

 
中には「私はトランプ氏の勝利を一年前から予測していた」と書かれているメディアもありるようです。但し、その予測が「トランプ支持者の熱意」や「トランプラリーの熱狂」、「意外と多い隠れトランプ支持者」など、あくまでもトランプ陣営に勝利の秘訣があったとする限り、正しい分析がなされていたとは言えず、いくら予測が当たっていても、『当たるも八卦・当たらぬも八卦』の占いの域を超えません。
 
トランプ氏の勝利は、共和党やトランプ支持者にあるのではなく、民主党側にあります。
 
「トランプ選挙ラリーの熱狂」など主張しても、ラリーに集まるような支持者に熱心な支持者が多いのは当たり前ですし、比較で言えば、2012年にオバマ大統領に対抗して共和党から立候補したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の選挙ラリーの方が、トランプ・ラリーよりも参加人数が多く、得票数で言っても、ロムニー氏の得票数がトランプ氏の得票数よりも勝っています。

トランプ氏よりも多く得票したロムニー氏がオバマ大統領に敗退した事を考えれば、なぜオバマ大統領に投票した有権者がヒラリー・クリントン候補に投票しなかったのかこそが問われ、分析されるべきです。
 
これについては、ロサンゼルス・タイムズが、1978年から1916年までの大統領選挙に遡って、有権者の動向に影響を与える外的要因を分析して、2015年5月に記事にしています。この分析によれば、以下の4つが、大統領選に影響を与える外的要因とされています。

In 2016's presidential race, the winner will be ... - LA Times

 
1)、現大統領が出馬しているか、どうか。現大統領が出馬していれば、選挙は現大統領に有利に働く傾向がある。
2)、政権政党が二期目を過ぎた選挙の場合、有権者は変化を好む。二期目を過ぎた政権政党からの候補者に対しては、選挙は不利に働く。
3)、共和党に対しては、良い意味の偏見が、僅かながら一貫して存在する。
4)、経済状況が選挙に影響する。国の経済が良好な場合、政権政党からの候補者に有利に働く。インフレーション、特に選挙の年のGDPの成長率が政権政党からの候補者に影響する
 
ロサンゼルス・タイムズ紙は、以上の4条件の1~3が既にクリントン候補に不利に働いているとし、経済成長率が3%の場合、民主党が46%の得票率を得るだろうと予測していました。候補者間の争いで、民主党が50%の得票率を得る為には、経済成長率が4%となる必要があり、それでも半数より僅かを獲得するだけで、圧勝とはならないと述べています。
 
ロサンゼルス・タイムズ紙が行なった1916年からの大統領選挙の分析のエラーは2,5%から3,5%とされており、同紙の分析による結果予測では、民主党が勝利する可能性は5%~13%と低く、同紙はその他のメディアがクリントン候補の圧勝を予測する中、共和党が勝利するだろうと見ていました。
 
実際、2016年度の経済成長率は3,4%で、クリントン候補が得票した割合は(47,9%)、50%台には達していません。

http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/update/01/ 

2016 National Popular Vote Tracker

 
ロサンゼルス・タイムズ紙による選挙結果の予測は、他紙の予測と異なり、トランプ氏を有利に見ていました。

 

さて、トランプ政権の方針やプランが明確にされていない中で、「トランプ氏は~する」と主張する事ほど、ある意味無責任な報道もないだろうと思われます。しかもその根拠となるのが「トランプ陣営の政策顧問が語った」や「トランプ氏に近い人物によれば」では、心許ない限りでしょう。立候補後のトランプ氏の発言を、トランプ陣営や、時にはトランプ氏自身が後に否定したり、トランプ氏のアドヴァイザーの発言と全く逆の発言をトランプ氏が行なうことが日常的に行なわれてきました。

例えば、キャンペーンの目玉政策であった「メキシコの壁」についての解釈も、「中国が羨ましがるような美しい偉大な壁(トランプ発言)」から始まって、「フェンス(トランプ)」「実際の壁ではなく、ヴァーチャルな壁(リック・ペリー、テキサス州知事)」、最近ではトップアドバイザーの一人であるニュート・ギングリッチ元下院議長が「実際の壁ではなく、選挙の為の優れたディヴァイス(からくり・用具)」と呼んでいます。
 
ですから、トランプ陣営の発言だけを以て、さもそれが詳しく計画され、決定され、承認された政策であるかのように報道する事は無責任であるばかりではなく、報道機関としてあまりにも大きな危険が伴う為、アメリカ本国の主要メディアではなされていません。
 
一方、メディアによって、トランプ新政権で誰が実権を握るかという予測はなされています。トランプ氏が実際の政治については、マイク・ペンス副大統領に任せるだろうという憶測や、実娘のイヴァンカ・トランプと、娘婿のジェアード・クシュナーの陰の発言力が囁かれています。
 
但し、トランプ政権の成り行きを占うには、トランプ陣営の発言や、トランプ氏に対して誰が助言しているかだけではなく、政策決定や遂行に影響を与える『外的要因』からも予測する必要があります。
 
2016年の選挙結果では、トランプ氏の当選だけではなく、共和党の議席確保が重要な意味を持ちます。これは先に述べた通り、民主党支持者による投票の渋りが原因に挙げられますが、共和党が多数を確保したと言っても、上院での議席数では民主党議席より3議席上回っているだけです。
 
トランプ氏の掲げる政策の一つ一つに民主党議員が反対票を投じたとして、トランプ氏の政策が承認される為には、3議席しか上回らない共和党議員ほぼ全員が、トランプ氏の政策に賛成しなければなりません。共和党の圧勝ならばともかく、3議席しか上回っていない現状では、反トランプを掲げていた共和党のジョン・マケイン上院議員や、ベン・サッシー上院議員、リンゼイ・グラハム上院議員などの有力議員からの賛成票が必要不可欠となります。これら「反トランプ派」の共和党議員の二人でも反対票を投じれば、トランプ新大統領の提案は、議会によって否決されます。
 
勿論、民主党議員がトランプ氏の政策に賛成票を投じる可能性はありますが、これだけ「反トランプ」のデモが広がり、反感が強いトランプ氏を支持する事は、選挙を控える民主党議員にとっては、政治的自殺行為となるでしょう。

 

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                原則重視、同盟国重視を貫く共和党重鎮、ジョン・マケイン議員
 
実際、ポール・ライアン下院議長や、重鎮であるジョン・マケイン上院議員の発言権は、共和党の圧勝ではない為に却って増し、いくら大統領の権限が強いと言っても、反トランプ議員の意向を無視した政策を遂行することは出来ません
 
トランプ政権に誰が就任するかという問題ですら、上院の承認を得る必要があります。
 
ですから、選挙中のトランプ氏によるマケイン議員への冒涜や、支持者らによる反対派議員、政治家への罵倒に関わらず、トランプ政権が機能する為には、トランプ氏は選挙期間中の極端で過激な公約を改め、これら反対派の共和党議員が賛成し易い政策に軌道修正をする必要が生じています。
 
実際、ジョン・マケイン議員は「今までのアメリカの外交的立ち位置を棄て、ロシアとの関係を改め直す事は許されない」と警告し、トランプ氏の『親ロシア』と言われる姿勢を厳しく批判しています。

John McCain cautions Donald Trump over U.S.-Russia "reset" - CBS News

 
マケイン議員は以下の声明を発表しています。
 
「アメリカの政権移行が行なわれている最中、ヴラジミール・プーチンは最近、アメリカとの関係改善を願うと発言している。このような声明への信頼は、自らの国を専制国家に陥れ、政敵を殺害し、隣国を侵略し、アメリカの同盟国を脅迫し、アメリカの選挙の妨害を行なった元KGBエージェントへの信頼としてあるべきだ。オバマ政権のロシアとの関係の再出発は、プーチンによるウクライナ侵略と中東への軍事介入で頂点に達している。新たな「関係の再出発」は、どう少なく見積もっても、アメリカをプーチンとアサドが行なっているシリア人一般市民への惨殺の共犯とする。それは、アメリカという偉大な国にとって受け入れられない代価である。」
 
またマケイン議員は、2016年3月には東日本大震災を記念して、日本に対して以下のようにメッセージを送られています。
 
「5年前、日本と日本政府は戦後最大と言われる災害に見舞われました。世界はこれらの大惨事の何週間か、日本の人々が、同情と慈愛によって仲間を励ましていた様子を見、感動に心が打たれたのです。我々の同盟はこれらの試練の時にも活躍し、24の戦艦と2万4千人の兵士が「トモダチ作戦」に携わり、災害後の何か月か、復興の協力をする事が出来ました。私はそれ以来の5年間を振り返り、アメリカと日本の友情が深まった事と、地球上に起こる様々な挑戦を同盟国として共に対処してこられた事を誇りに思います。」
  
 
オバマ大統領に敗れたとはいえ、ヴェトナム戦争の英雄であり、2008年に大統領選挙に立候補したマケイン議員の議会での影響力は強く、マケイン議員が従来通りの共和党員として、原則重視、同盟国重視の立ち位置を強く主張している事実は、少なくとも暫くは、アメリカが従来の外交政策から極端な方向転換をする可能性の薄い事を示しています。
 
安倍首相は今朝、ニューヨークでトランプ氏と会見されましたが、トランプ氏が称賛するイスラエルのベンジャミン・ネタヤフ首相との協力関係を安倍政権が結んできた事は、トランプ氏と個人的な関係を結ぶ上でも良い結果を齎すでしょう。
 
この点から考えても、他国との外交的協力関係を強調してきた安倍外交は、歴史問題によってプライドを傷つけられた一部の自称愛国者からの非難にも拘わらず、現実的で日本の国益を重視した外交であると言えます。