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トランプ氏の当選を好機と見る、『お花畑』極右と極左

アメリカの政治事情
ドナルド・トランプ氏の大統領当選は、ロシアや北朝鮮などの敵対国を喜ばせながら、アメリカの同盟国を困惑させていると言われています。実際プーチン大統領は、トランプ氏の当選を、クリミア侵攻とシリア情勢をキッカケとした米ロの緊張関係改善の糸口として祝福し、祝辞を述べています。

US election: Putin pleased as Trump win shocks world - CNNPolitics.com

 
また、フランスのマリー・ル・ペン国民戦線党首やイギリスのナイジェル・ファレージュ独立党党首などの、いわゆる欧州極右派のナショナリストらも、トランプ氏の当選に狂喜をしています。

 

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           フランス極右政党、国民戦線党のマリー・ル・ペン党首(右)
 
ル・ペン党首は「フランスの希望のしるし(ル・ペン党首)」と呼び、トランプ氏の勝利によって、「フランス国民は、自らが立ち上がる時に、自らの望むものを手に入れる事が出来ると気付いただろう」と述べています。
 
一方、ナイジェル・ファラージュ党首はニューヨークのトランプ氏自宅を訪れ、当選を祝うプライベートな会談を行ない、アメリカの次期大統領が、イギリス首相との会談前に、野党党首と会談をするという前代未聞の前例を作っています。
これらの右派ナショナリストの党首らは、トランプ氏の当選を「極端なグローバリズムに対抗する人々、一部のエリートの行なう政治に耐えられない人々への希望」と位置付けています。ヨーロッパのナショナリズムの台頭は、ドイツのメルケル首相によるシリア難民受け入れ政策や、相次ぐイスラム教過激派によるテロ、または受け入れた難民による暴力犯罪、またオバマ大統領による過激イスラム教テロへの弱腰姿勢に対する反発の表れであり、極端なリベラル政治によって、極端な右派ナショナリズムが煽動されている表れであるとも言えるでしょう。

 

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     トランプ氏自宅、金のエレベーター前のトランプ氏とナイジェル・ファラージュ党首
 
オバマ大統領による極端なリベラル極左政治によって、現実的中道右派路線を掲げたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事やマルコ・ルビオ議員らが退けられ、声高に「アメリカは移民、外国人、同盟国から良いようにむしり取られてきた。これからはそうはいかない。私はアメリカを再び偉大な国とする」と叫んだトランプ氏が選ばれた事実は否定できません。
 
また、オバマ大統領による極端なリベラル政治が、普段は民主党に投票する民主党支持者らの足を投票から遠のかせた点も見逃せません。ワシントン・ポスト紙は、普段は民主党に投票する民主党支持者が、2016年の選挙で何故ヒラリー・クリントンに投票をしなかったかという理由を、インドからの女性イスラム教徒移民の抱える中東(シリア)の難民受け入れへの懸念、憂慮を通して分析しています。
 
トランプ氏の当選を喜ぶ方々は日本にもいらっしゃいますが、その中で、沖縄の翁長武志知事が、トランプ氏当選によって段階的な米軍撤退が期待できると喜んでおられるのが印象に残ります。また右派のナショナリストの間では、トランプ氏の公約実現によって米軍が撤退し、それによって核保有が現実味を増したと喜ぶ声も上がっているようです。このように極左と極右が一致してトランプ当選を喜び、米軍撤退を好機と受け取る傾向は、右回りにせよ、左回りにせよ、極右と極左が日本の安全保障を軽んじながら「米国憎し」というイデオロギーで一致している証拠です。

Okinawa governor guardedly hopeful Trump will reduce U.S. base presence | The Japan Times

 

トランプ氏の選挙期間中の公約がどんどん変更されてきている現在トランプ氏の真の考えを予測する事は不可能に近い作業と言えます。恐らく、トランプ氏自身も、どのような対日政策をとるか、決定的な考えを纏めてはいないでしょう。
 
トランプ氏が1987年に自費を出して日米安保条約に反対する広告を出されたことは知られた事実であり、トランプ氏が同盟国を防衛するアメリカの務めに対して、不満を持っている事は明らかです。
 

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              トランプ氏の署名入り、日米同盟に反対する広告
 
それでも、条約となれば二カ国間で交わされた正式な取り決めであり、いくら大統領と言っても、好き勝手に反故する事は出来ません。『米軍撤退』に関しても二国間の法的な取り決めに従った上、議会の承認を得る必要が生じます。トランプ氏が法律違反を犯した、或いは大統領権限を乱用したと見られれば、弾劾される可能性も出てきます。つまり、いくらトランプ氏が撤退を願っても、日米同盟を重視する共和党が議会の大半を占める限り、撤退は容易には決められないというのが本当でしょう。アジア太平洋地区の安定や秩序を考えれば、米軍の戦略的視点から見ても、日韓からの撤退は好ましくはなく、トランプ政権は議会と軍からの反発に遭うでしょう。しかも、現在50%を日韓が負担していると言われる米軍基地から米軍を撤退させた場合、米国は100%の負担を自ら負うことになります。
 
また、トランプ氏の当選を以て、日本の憲法改正や、核兵器使用さえ可能となると期待する声が右派ナショナリストから上がっていますが、憲法改正に関する世論はともかく、核兵器や核開発に関する日本の世論は「核アレルギー」と呼ばれる拒否感が強く、「米軍が撤退するから、核開発を始めよう」と、容易には変化しないでしょう。例えどんなに中国からの脅威を強調しても、すでに核開発に賛成をしている人々以外を納得させる事は困難ですし、脅威を強調し過ぎれば、中国との外交関係が更に損なわれます。
 
 
万が一、世論が核開発や核所有に賛成をしても、日本が核開発をする間、中国や北朝鮮は黙って日本の核化を見守ってくれるでしょうか? 恐らく、疑惑の段階で、「自衛の為の手段」と称して、先制攻撃を仕掛けてくるでしょう。これはイスラエルのような民主主義国家でさえ、イランが核開発をしている疑惑が深刻化した1981年に『オペレーション・オペラ』と呼ばれる核施設を爆破した先例からも、理解できます。イスラエルは核施設の爆破後、速やかに自国へ引き上げましたが、果たして中国のような国が『自衛手段』として日本の核施設を爆破する場合、速やかに引き上げてくれるでしょうか?

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例え、ある程度の核開発を、日本が成功させたとしても、それを兵器化をするのにあたって、核実験が必要となりますが、日本に核実験を行なう場所は存在するでしょうか。
 
これらの懸念や実際的な障害を考えた場合、日本という民主主義国家では、民意を無視して核開発は出来ません。大半の日本国民の世論は、撤退よりも基地負担増額を選ぶと思われますが、それでも米国との基地負担増額の問題は、右派と左派、両方からの反発が予想され、間違えば政情不安のキッカケとなりかねません。その上で、圧倒的な世論が反対している核開発に取り組めば、安倍政権は国民からの支持を失ない、政権交代に繋がります。ところが、そうして誕生する新政権は、ナショナリストの期待に反して、更に中国寄りとなり、アメリカとの協調よりも、中国との協調を優先させるようになるでしょう。
 
ナショナリストの間には、現実を直視できない左翼やリベラル派を「お花畑」と呼び、馬鹿にする風潮がありますが、彼らも左翼と同じように、自分たちだけの愛国イデオロギーに凝り固まりながら、圧倒的世論や政治の仕組みを無視した期待感に寄り縋っていると言えます。
 
私は、日米安保条約という同盟があっても、条約は半永久的な確証ではなく、条約の改定、破棄もあり得ることや、例えば中国が尖閣諸島を侵略した際に、米国が必ずしも日本の代わりに戦ってくれるとは限らないと、約一年半前から主張してきました。
 
それは米国の世論にある「一国平和主義」が根強い事を知り、日本人が考えている「アメリカは戦争好きな国、外国の戦争に介入をして軍事産業を繁栄させている国家」という主張が、いかに間違ったものだかを見たからです。アメリカを「戦争好きな国」「外国の戦争に介入する事で、利益を得ている国」と信じる事で、アメリカの介入が無い場合の、国家の安全保障に対する責任感を考えずに済んだのかもしれません
 
奇しくもトランプ氏の当選によって、アメリカの介入が無い可能性を垣間見るキッカケが生じた筈ですが、「お花畑・左翼」はともかく、何故かナショナリストも、単純で非現実的な彼らの理想論から抜け出せていません。
 
日本が真剣に考えていくべき、これからの外交・軍事戦略は、アメリカとの同盟関係を固守しつつ、特に同じ脅威に直面する韓国、インドとの軍事協力関係を深めることにあります。また英国とアメリカを軸とした、諜報共有の同盟を結ぶ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアから成る「ファイヴ・アイズ」と呼ばれる5カ国と、中東で唯一の民主主義国家であるイスラエルとの協力関係も重要となります。

Five Eyes - Wikipedia

 
私は、トランプ氏の当選に当たって、日本のメディアがトランプ氏の主張に迎合する必要は全く無いと考えています。むしろ日本のメディアは、トランプ氏の主張の誤りを厳しく指摘するべきです。
 
トランプ氏の組閣や他人に対する評価の仕方を考える際、トランプ氏が政治的主張や原則を持たず、トランプ氏自身が認めたように、自分に対して「どんな誉め言葉をかけてくれるか」に全ての関心を寄せている事は明らかです。トランプ氏は、あれほど選挙期間中罵り、冒涜の限りを尽くしていたクリントン夫妻に対しても、当選直後に夫妻からの祝福の電話があった事を嬉しそうに語り、「(ヒラリー・クリントン起訴について) 彼らは良い人々です。私は彼らを傷つけたくありません」と述べています。
 
無責任な助言かもしれませんし、その他の政治家にも適用できる例は殆どありませんが、トランプ氏の性格的特徴を知るならば、トランプ氏との直接交渉は、困難で手強いとは限りません。