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『トランプ大統領』---我々は心配をするべきか

ドナルド・トランプ氏が第45代目の大統領に当選し、来年1月には大統領として就任をしますが、この事実を以て、我々はパニックに陥るべきでしょうか。デモによってトランプ氏大統領就任への反対を唱えるべきでしょうか。

 
どんな場合でも言えることですが、心配をしても、それだけで何かが解決するわけではありません。
 
私は今まで、トランプ氏が選挙期間中に掲げてきた公約が実現された場合の警告をして参りました。ところが、当選直前、直後のトランプ陣営からは、公約を反故するような発言が続いています。
 
トランプ氏が大統領となった際の最も懸念されていた政策は、彼の外交・軍事・移民政策でしたが、例えば移民に関して例えば、トランプ氏は「メキシコとの国境沿いに壁を建て、メキシコにそれを支払わせる」「1100万人にも上る不法滞在者を強制退去させる」と掲げて選挙キャンペーンを始めました。ところが当選直前には『国境沿いの壁はアメリカの納税者が支払い、メキシコがそれを後払いする」「強制送還は人道的な方法で行なわれ、ギャングのメンバーや麻薬密売人をターゲットにされる」と変えられ、大規模な強制送還については「決断は後々になされる」とし、将来的な市民権への道も、必ずしも閉ざさない考えに方向を転換しています。これらの移民政策は、トランプ氏があれだけ馬鹿にし、無能だと罵ってきたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事や、マルコ・ルビオ議員らの現実的な移民政策と変わりはありません。

 

しかも当選後には、トランプ陣営のトップ・アドバイザーであるニュート・ギングリッチ氏が、メキシコとの壁は「トランプ氏は恐らく、メキシコとの壁を建て、メキシコに支払わせる事はないだろう」としながら「それでも優れた選挙カラクリであった」と述べ、もともと実現するつもりすら無かったかのような発言をしています
国家安全保障については、「イスラム教徒のアメリカ入国の完全な禁止」を掲げてキャンペーンを始めましたが、キャンペーンの終わりにはこの案を破棄し、「一定の地域からの入国には、厳しい身元調査を行なう」とし、「意図的な何かがあるのではないか」と陰謀を示唆してきたオバマ大統領の政策と同様の政策に公約変更しています。
 
テロに対する戦略に関して言えば、トランプ氏は「イラクのオイルを奪いつつ、ISISが支配している地域を徹底的に爆破し、テロリストを拷問し、彼らの家族を殺害する戦争犯罪も厭わない政策を掲げていました。3月3日に行なわれた共和党候補者同士の討論会では、米軍は国際法違反であっても、大統領となった彼の命令に従うだろうと宣言さえしましたが、翌日には、彼は国際法違反の命令を下すことは無いと前言を撤回しています。

 

またISISや軍事戦略については、「(テレビを見ている為)どの将軍よりも詳しい知識がある」としながら、選挙キャンペーンの終わりには「大統領として当選した後には、将軍らに、30日以内にISIS打倒の戦略計画を提示してもらう。これは軍事戦略、サイバー戦略、資金戦略、イデオロギー戦略を含む」とし、実際にISIS打倒の戦略がトランプ氏自身には無い事を認めています。
 
また、海外に駐屯する米軍に関しては、NATO(北大西洋条約機構)を「もはや無用」と呼びつつ、「テロに対する戦いに於いて、もっと大きな活躍をするべきだ」とも述べています。

 

米国の同盟国がアメリカ軍によって与えられている保護に見合う見返りをしていないと不平を述べ、「喜んでではない」ものの、同盟国がもっと負担の増加をしない場合には、撤退もあり得ると語っていますが、後には交渉力を高める為の発言だとし、本心からではないと示唆しています。

 

しかも、韓国や日本が核保有しても仕方ないと発言しながら、発言の事実そのものを否定し、ニューヨーク・タイムズの誤報と責任転嫁していますが、これが誤報ではない事は、トランプ選挙本部のCEOでありトランプ政権の最高戦略責任者に抜擢されたスティーヴン・バノン氏が経営する「ブレイトバート誌」を含む、数多くのメディアが認めています。

 

国内問題においても、オバマケアを「完全撤廃」し、全く新しいものと変えると主張しながら、当選後にはオバマケアの「契約前の発病もカバーしなければならない」と「保護者による26歳までの子供の保険負担」は残す考えを示しています。

 

また中絶問題についても、「プロ・チョイス(中絶賛成派)」であると宣言をしながら、選挙中には「プロ・ライフ(中絶反対派)」に鞍替えし、中絶を行なう女性が何らかの罰を受けるべきだと述べましたが、現在は「中絶については州が決定するべきだ」と立場を変え、殆どの州での中絶合憲を支持する立場を表明しています。
 
トランプ氏は、アメリカの借金をどのように減らすのかについて聞かれた際に、「債権者との交渉を行ない、借金の返済額を負けてもらう」と語ったかと思えば、説明を求められ「紙幣をもっと多く印刷する」と答えています。

 

 
この『政策』についての変更は見られませんが、誰がどう考えても経済を悪化・崩壊させ、借金を更に増やすだけのこの政策を、共和党が多数を占める議会が通すとは考えられません。
 
この発言に見られるような、一般常識レベルの経済的知識さえトランプ氏が持ち合わせていないことを考えれば、トランプ氏を「成功したビジネスマン」である為に、一企業ではなく、国家の経済を立て直す事が出来ると期待する方が間違いです。
 
要は、トランプ政権の実際がどんな政策を掲げるかは、未だ誰にも分らず、恐らくトランプ氏自身も掌握していないのが本当でしょう。オバマ大統領とトランプ氏の間の会見について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は以下のように書いています。
 

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「トランプ氏の勝利は、トランプ氏のトップ・アドバイザー達すら驚かせた。彼らは火曜日がやって来るまで、当選後から就任までの73日の間に行なわなければならない事が何であるか、ニューヨーク・ビジネスマンであるトランプ氏に考えさせる事すらできなかったようだ。トランプ氏自身、実際に当選しない内に当選後の計画を立てたくなかったと言う。木曜日に行なわれたオバマ大統領とのプライベートな会見で、オバマ大統領は彼の後継者に対して、国を治める大統領の義務についての大まかな説明をしたが、その会見を知る人々によれば、トランプ氏は大統領の職務内容に驚きを隠せなかったらしい。トランプ陣営は、新政権の誕生と共に、ホワイトハウス西翼部分のスタッフが入れ替えになる事を知らなかったようだ。政治や軍の経験なく大統領に就任する唯一の人物であるトランプ氏との会合後、オバマ大統領は、この共和党員が通常に無い助言を必要としている事に気付いたようだ。オバマ大統領は、通常の後継者とのバトンタッチに必要な時間以上の時間をトランプ氏と過ごすとしている。」
 
元共和党候補者の一人であるジョン・ケイシック、オハイオ州知事によれば、トランプ氏は彼に副大統領候補として声を掛け、国内、外交問題は彼に任せると提案したとされています。要はトランプ氏自身は実際の政治には関わらず、政務は副大統領に任せる、という提案ですが、ケイシック州知事はこれを辞退し、代わりにトランプ氏はマイク・ペンス、インディアナ州知事を選びました。
 
トランプ氏による政策変更の数々、外交問題や軍事戦略、経済についてトランプ氏が立候補後に多くを学んだという形跡はなく、政治的な発言は繰り返すものの、大統領としての施政についての関心はもともと薄く、ケイシック州知事に声をかけたのと同じ条件で、ペンス州知事に声をかけたのではないかとも見られています。

 

私は、選挙中のトランプ氏の発言、公約を以て、トランプ大統領誕生に警告を発し、反対をしてきた事について後悔していません。これらの警告は、トランプ氏だから、という個人的な理由ではなく、あくまでもトランプ氏自身の発言や公約の結果予測をもとにしています。私には「誰が当選するか」の予報をする能力はありませんが、掲げる政策がどのような影響を与えるか、外交、軍事、経済専門家の警告から理解することは出来ます。
 
トランプ氏は選挙キャンペーンの終わりには、いくつもの主要政策を大きく変えましたが、それでも実際に何を行なっていくのかは未知数です。
 
トランプ氏が当選した現在、アメリカ国民にも、同盟国にも、出来ることは限られています。今にも地球がトランプ氏によって滅ぼされると心配するよりも、まず「過去に行なった公約の実現」という最悪の状況が齎す災害を弁え、現実的な対処を考えつつ、トランプ氏の主張の移り変わりを見据え、新政権の舵取りを見守る努力をするべきではないかと思われます。
 
私はオバマ大統領に対しても厳しい批判を書いて参りました。それでも、オバマ大統領が、トランプ氏当選に反対をする人々を含む全ての国民に対し、反対をするよりも、トランプ氏にまず執政の機会を与えるように促した点は、分断ではなく国民の一致を願う、民主主義国家の大統領として相応しい、高潔な姿勢であったと高く評価を致します。