トランプ投票を拒否し、ヒラリーに投票する共和党員たち

 
通常は、自分の所属する党の候補者に投票する事が当然とされる大統領選挙ですが、明日が投票日の2016年の大統領選挙に於いては、多くの共和党員や共和党支持者が、共和党候補者のドナルド・トランプ氏への投票を拒否し、そのうちの多くは、インディペンデントとして立候補しているエヴァン・マクミラン候補、或いは、民主党のヒラリー・クリントンに投票すると言われています。
 
2012年に共和党から大統領選に出馬したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事や、ジョン・マケイン上院議員、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、ジョン・ケイシック、オハイオ州知事、コリン・パウェル元国務長官、コンドリーザ・ライス元国務長官や、故レーガン大統領の子息でレーガン保守派の重鎮マイケル・レーガン、政治評論家のビル・クリストル、チャールズ・クラウサマー、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の次席記者ブレット・スティーブンス、同じくウォール・ストリート・ジャーナル紙のアジア地域専門記者のマイケル・オースリンなど、錚々たる共和党重鎮が、反トランプを表明しています。

Which Republicans Are Against Donald Trump? A Cheat Sheet - The Atlantic

 
これらの名だたる共和党員がトランプ氏に反旗を翻す理由は様々あると思いますが、これらの人々がヒラリー・クリントンに投票する場合の、その最も大きな理由は、トランプ氏の精神の異常性や、大統領としての資質に欠ける点であると言われています。

 

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              ヒラリー・クリントン元国務長官   
 
投票日を前に、トランプ氏の選挙キャンペーン・マネージャーは、トランプ氏から携帯電話を取り上げ、選挙キャンペーンに悪影響を与えるような自爆的ツイートが出来ないようにしたと言われています。この「携帯取り上げ問題」はオバマ大統領も言及されましたが、大統領の言われた通り、どんなツイートをするかわからない為に携帯電話も安心して任せられないような人物に、世界最多数の核兵器所有国の大統領として、核ボタンを任せられるでしょうか。

Barack Obama Mocks Donald Trump About Losing Twitter Account

 
(因みに、何時間か前、キャンペーン側はこの噂を否定しましたが、多くの人々がトランプ氏の敗因に、特にツイッターを通したトランプ氏自身の発言を見出している事は事実なようです。)

http://www.usnews.com/news/politics/articles/2016-11-07/kellyanne-conway-disputes-trump-twitter-report

 
外交政策の専門家で、軍史家でもあるマックス・ブート氏が、「フォーリン・ポリシー誌」に「生粋の共和党員である私が何故今回ヒラリーに投票するのか」とする記事を書かれていますので、それを以下に訳します。
 
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私は、1988年以降、4年毎共和党大統領候補者に投票をしてきたが、その伝統は今は続かない。人生で初めて、私は民主党候補者に投票する事となる。なぜ、そこまでの「反トランプ者」となったのか、その理由を今までにも書いてきた。その理由はこのリンク先にも記されている。

Trump scandals make Clinton look good: Max Boot

 
誰に反対をしているのか言い表すのは簡単だとして、---トランプはアメリカの歴史上最も不適切で、最も危険な大統領候補者であるが--- 誰に投票するべきか決める方が困難だろう。
 
私は「アロッポが何か聞いたことが無い」と言ったゲイリー・ジョンソンに投票する事は出来ない。知恵や知識の無さを良しとは出来ない。トランプがそうであるようにプーチンにぞっこんのジル・スタインにも投票する事は出来ない。この選挙に立候補している唯一の保守派であるエヴァン・マクミランに投票する事は簡単だ。もし私が、マクミランが勝利するチャンスのあるユタ州に住んでいたなら、そうしていただろう。しかしながら、彼はニューヨーク州の候補者のうちに選択肢として入っていない。
 
いずれにせよ、私の第一の目標がトランプから核のコードを奪うことにあるならば、最も効果的な方法は、トランプを抑えて勝利する見込みのある候補者を支持する事である。
 
多くの共和党員の友人たちは、私がヒラリー支持を表明している事に信じられない思いでいる。真実を言えば、私自身も少し驚いているのだ。もし、精神の正常な共和党員であるジェブ・ブッシュや、ジョン・ケイシック、或いはマルコ・ルビオなどが候補となっていたならば、クリントンに投票する事はなかっただろう。しかしながら、共和党は代わりに邪悪なチンドン屋客引きを指名するに至ってしまった。であるから私は、何としても精神的に正常な他の候補者に投票するしかない。

 

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         マックス・ブート氏
 
「だけど、だけど、だけど…」トランプ支持者は言う。「何故、過激な左翼政治を行なおうとして、しかも刑務所に入れられるべき女を支持できるんだ?」
 
もし、これらの事が真実であるなら、クリントンには投票しないだろう。しかしこれらの言い立ては真実とは言えない。
 
私はクリントンが上院議員の時代に、彼女と時間を過ごした事がある。私たちは共に、今は現存しない、アメリカと同盟国の共同作戦のアドヴァイザリー委員会に加わっていた。姓のアルファベットによる席順の為、私は幾度かクリントンの隣に座る機会があった。私は、彼女を魅力的な、防衛についての懸案を学ぶ意欲のある、会話好きな人だと感じた。彼女が特定のイデオロギーを推進しようとしているとは思われず、ただ最善の方向性が何であるか見出そうとしているように感じられた。私が会ったヒラリーは、共和党が妖怪のように言い立てる神話とは違っていた。
 
彼女についてこのように結論づけるのは、私だけではない。多くの共和党上院議員は、クリントンがあまりにも付き合い易く、ともに働き易い事に驚いている。上院での委員会であっても、大統領選挙討論会であっても、どんな状況に於いても対処できるように、彼女は課題をキチンとこなしていた。
 
彼女は通常、イデオロギーには依らず、現実的に問題に対処しようとする。エリザベス・ウォレンや、バーニー・サンダースが彼女を信頼しないのはその為だろう。彼らは、彼女が左翼イデオロギー仲間ではないことを承知しているのだ。ウィキリークスが明らかにしたのは、、プライベートでは、クリントンは自由貿易と、シンプソン・ボウルズ不均衡是正計画(支出を少なくし、充分な税収を得、成長を促進しなければならない)を称えていた事だ。これらは、共和党議員らが、トランプに魂を売る以前、強く主張していた事だ。トム・フリードマンは、「ウィキ・ヒラリーは、賢く、現実的で、アメリカを貿易拡大、起業力発揮、グローバル統合などに導き、経済界と共和党との協力を結べる、中道左派の政治家である」と記している。
 
当然ながら、その殆どの議員が彼女より左派である民主党が大多数を占める(と思われる)議会に対抗して、クリントンがどの程度これらの考えを実現させるかは疑いの余地がある。選挙キャンペーンの最中、彼女はサンダース・ウォレン派からの支持を得る為に、国内政策に於いては左翼政策を組み入れた。これから考えても、ビル・クリントンと、ニュート・ギングリッチ率いる共和党多数の下院が、協力して社会保障改革と赤字解消を行なった1990年代の、両極の協力のような関係を結ぶ為にも、上院、下院のいずれかを共和党が占める必要がある。クリントンが特定のイデオロギーを所持していないことは、彼女が共和党にとって協力し易い人物である事を示している。
 
外交政策の専門家として分かるのは、彼女の大きな利点は、オバマ大統領や殆どの民主党議員はおろか、世界各地に駐屯する米軍撤退、「核不拡散」解消、同盟国批判、プーチンへの称賛などを繰り返す共和党候補者とは違い、彼女が国家の安全保障政策に於いて、強硬姿勢を保てる点だと言える。彼女は2009年、アフガニスタンへの4万人の派兵を支持し、イラクにおける1万人から二万人の米兵の駐屯を支持している。(オバマ大統領は3万人をアフガニスタンに派兵し、イラクからは完全撤退させている。) また、オバマ大統領は拒否したが、2012年、シリアの反体制組織を武装化させ、訓練を施す計画も促進しようとした。
 
今日、クリントンはシリア政策についても、オバマ大統領やトランプよりも更に厳しい姿勢で臨む事を良しとしている。彼女はフライゾーンにも反対をしている。それでもトランプのように、「誰もかれも、構わず爆弾を落としてやれ」「石油は取っておく」「テロリストの家族・親族を殺せ」などというような乱暴な政策を提案する事はない。
 
クリントンはオバマ政権の一員として、失敗したロシア政策の責任を問われるのだが、彼女自身は常にロシアの意図には懐疑的であった。ニューヨーク・タイムズのマーク・ランドラーは書いている。
 
「2009年2月、オバマ政権第一回目のロシアとの高官レベルの会合において、オバマ大統領の補佐官は、アメリカがロシアに対しての関係回復に必要な善意のジェスチャーとして、何らかの象徴的な譲歩をする必要があると提案をした。最後に意見を述べたクリントンは、「私は、向こうが何も譲歩しないうちに譲歩をするつもりはありません」とぶっきらぼうに答え、その提案を退けている。
 
彼女の毅然とした態度は、ロシアの豹変に憂慮をしていた、ジョージ・W・ブッシュ大統領時代から持越しのロバート・ゲイツ国務長官に強力な印象を与えたようだ。彼はそこで、彼女とは一致協力をしていけると考えたようだ。『彼女は、強い女性だ』と彼は言っていた。」
 

 

一方トランプは、マイケル・モレル前CIAディレクター代理や、マイケル・ヘイデン前CIAディレクターから、ヴラジミール・プーチンの『無知なエージェント』、或いは『便利な愚か者』と呼ばれている。
 
尤も私は、彼女の外交政策に常に賛成をしている訳ではない。特にイラン核合意や彼女のTPPなどへの(希望的観測ながら、一時的な)反対などとは意見を異にする。しかしそれでも、彼女の国際情勢への深い知識には、尊敬を感じている。彼女はジョージ・H・W・ブッシュ大統領以来、誰よりも、国際情勢に関する知識を備えて就任する大統領となるだろう。対照的にトランプは、どんな候補者よりも無知である。
 
クリントンが反対されるべき最も大きな点は、彼女の倫理問題にある。FBIのコーミィ長官が夏に指摘した通り、e-mailの扱いに於いて、彼女はどう考えても、「非常に注意不足」であった。
 
しかしトランプ支持者らが、コーミィ長官がe-mail捜査再開始を決めた折に長官を称えたように、彼らは長官が日曜日に再び保証した、「彼女は犯罪として検挙されるに値するどんなことも行なっていない」という、7月に出された結論を受け入れるだろうか。また、クリントン基金への寄付の見返りに便宜を図ったという疑惑や、ビル・クリントンの弾劾に遡る疑惑がある。
 
これらは、クリントンがもし、何の不正・腐敗もないミット・ロムニーのような候補者に対抗しているとすれば、大きな問題であろう。しかしながら、彼女は、選挙後には詐欺や強姦の為の民事裁判が待ち構え、女性に対する性的強要や所得税を支払っていなかった事を自慢し、下請け業者に対する正当的な支払いを拒んできた候補者に対抗して選挙を行なっているのだ。ポリティ・ファクトは、彼女の発言の50%を「真実」及び「ほとんど真実」としているが、トランプに対しては15%のみを「真実」及び「ほとんど真実」としている。逆に、トランプの発言の51%を「嘘」または「大嘘」としながら、ヒラリーの発言の「嘘」または「大嘘」は12%のみだ。クリントンが倫理観の欠如が問われるのは仕方ないとしても、トランプには倫理観そのものが無い。

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  ミット・ロムニー元共和党大統領候補、元マサチューセッツ州知事 (しばし、トランプ支持者の憎悪の対象となる)
 
最後の分析として、彼女の最も有利な点は、彼女が「何ではないか」という点だ。彼女は人種差別主義者、性差別主義者、外国人嫌いではない。彼女は残酷でも、狂暴でも、気まぐれでもない。彼女は他者を苛める事も無ければ、権力主義でもない。彼女は無知でなく、不安定ではない。これらは、対抗候補者が稀代の人物であるなら、充分な支持理由とはなり得ない。しかしながら、ドナルド・トランプを相手にしているならば、充分以上である。