民主主義を破壊するトランプ氏とその支持者

アメリカにある50州は、保守色が強く、共和党の強い『レッド州』と、リベラル色が強く、民主党の強い『ブルー州』、リベラル派と保守派が折衷しているスウィング州と呼ばれる州に分かれます。民主党の強い州は大抵ニューヨーク州やイリノイ州、カリフォルニア州などの大都会で、共和党の強い州は大抵、テキサス州、ユタ州、アラバマ州、アイダホ州、カンザス州など、南部の田舎州と考えられています。

Red states and blue states - Wikipedia

 
現在はリベラル色が強く、民主党が勝利すると考えられているカリフォルニア州も、1980年代は共和党支持の強い州で、共和党のレーガン元大統領は知事として二度当選し、大統領時代も共和党は二度勝利をしています。
現在カリフォルニア州はリベラル色が強く、民主党の勝利しやすい州と考えられていますが、その背景には、移民の増加と共和党が保守色を強めた事が背景にあるようです。
 
民主党からの候補者であるヒラリー・クリントン元国務長官と、共和党からの候補者であるドナルド・トランプ氏が首位を争う2016年の選挙で、保守色の強いレッド州の次々にクリントン元国務長官にリードを許す現象が起きています。レッド州として有名なテキサス州でも、トランプ氏が辛うじてリードを保っていますが、クリントン元国務長官との差が僅か3ポイントであり、バラク・オバマ議員(当時)に対してジョン・マケイン議員が7ポイントリードしていた2008年の大統領選挙や、オバマ大統領に対してミット・ロムニー州知事が15~17ポイントリードしていた2012年の大統領選挙と比較しても、共和党が未だかつてない苦境に立たされている事を伺わせます。

RealClearPolitics - Election 2008 - Texas: McCain vs. Obama

RealClearPolitics - Election 2012 - Texas: Romney vs. Obama

 
これらの支持率から伺える歴史的敗北を前に、トランプ氏は「選挙システムも世論調査も、不正が行なわれている」と主張し、支持者もそれに煽動される形で「この選挙も世論調査も、不正が行なわれている」と陰謀説を流し、ペンス副大統領候補を迎えたラリーでは「もしトランプ氏が敗北した場合、立ち上がる備えがある」と革命の必要さえ主張したり、ヒラリー暗殺さえ示唆していますが、アメリカ政府や州、政党やボランティア、メディアによって不正が行なわれた証拠は皆無であり、自らがリードしている限りは勝利を主張しながら、敗北が見えると「不正選挙だ」と叫ぶトランプ氏と、陰謀説が好きなトランプ支持者の、暴力的で非文明的な往生の悪さだけが浮き彫りになっています。

但し、イリノイ州やアリゾナ州などいくつかの州で選挙システムにハッキングが認められ、20万人の有権者のデータベースにアクセスがされたと報道されていますが、これは7月の段階であり、捜査当局によれば外国からのハッキングであると考えられているようです。

Election 2016: Hackers breach election systems in Illinois and Arizona, officials say - CNNPolitics.com

状況証拠だけを鑑みれば、同月にロシアが民主党本部のシステムへのハッキングを行なったことが明らかになった点でも、ロシアによるトランプ氏当選を目的としたハッキングと見る向きが濃厚です。
 
敬虔なモルモン教徒が多く保守色が強いユタ州でも、異変が起きています。従来共和党候補者に有利なこの州では、元共和党員でありながらトランプ氏に反対し、現在インディペンデントで立候補しているエヴァン・マクミラン氏がトランプ氏と並んでいます。全国的にはほぼ無名であるマクミラン氏が世界的に有名なトランプ氏と対等に戦っている事は、保守的価値観からは程遠いトランプ氏への反発が保守層からも強い事を伺わせます。
 
声高に持論を説くトランプ支持者とは異なり、多くの保守的テキサス住民やユタ住民は、トランプ氏の人格を自らの価値観にとって受け入れられないと考えています。これらの地域では、トランプ氏ではなく、ジェブ・ブッシュ氏やマルコ・ルビオ氏、テッド・クルーズ氏が支持を受けていました。またテキサス州に住む多くのメキシコ系住民も以前は共和党を支持していましたが、トランプ氏の反メキシコ人への言動がもとで、共和党から離れる現象が起きています。
 
トランプ支持者らによる反メキシコ系の言動も、メキシコ系住民だけでなく少数民族からの共和党離れに拍車をかけています。自らへの陣営に対する自傷行為・自殺的発言の連発という点では、トランプ陣営や支持者の右に出るものはありません。トランプ支持者の中には、トランプへの票を以て既成の共和党指導者への批判票としたいという声もありますが、ポール・ライアン下院議長やミット・ロムニー元州知事などの共和党指導者や共和党そのものに打撃を加えるならば、ヒラリー・クリントン政権の誕生によってリベラル政治の数々が実現する時に、その非を議会に問う事は出来ません。
 
トランプ氏とその支持者は共和党への信頼を著しく傷つけ、現在は大多数の議席を保っている上院も、来月の大統領選挙と共に行なわれる上院選挙で、民主党に対して大幅に議席を譲るだろうと見られています。民主党のリベラル政治に反対をする為には、上院、下院を共和党が占める必要がありますが、長年民主党によってまくし立てられていた共和党に対する否定的イメージを、トランプ氏の言動によって「真実である」、或いは「真実に近い」という確証を与えてしまっています。共和党離れを防ぐ為には、トランプ氏による暴論や非難されるべき行動の数々から共和党は距離を保つ必要がありますが、トランプ支持者は自らの失態を認めるには程遠く、このままでは2020年の大統領選挙時にも共和党が回復をする見込みはありません。
 
世論調査や投票システムが不正に侵されているというトランプ側による根拠のない主張は、自分が当選しない限り不正であると言っているのに等しく、民主主義そのものに対する冒とくであり、国民に対するシステムへの信頼を著しく損ないます。この一点だけ見ても、現在のトランプ支持者は『保守派』とは呼べません。また、ロシアによる軍事挑発や選挙への介入を容認し、「トランプに投票をしなければ核戦争を覚悟しろ」というクレムリン付近からのあからさまな介入を以て「ロシアとの全面的核戦争を避ける為に」トランプ支持を訴える支持者に至っては、民主主義政治への挑戦とさえ言えます。

US At War With Russia? Vote Donald Trump Or Face Nuclear Disaster, Russian Lawmaker Vladimir Zhirinovsky Says

 
国家システムや選挙の仕組み、憲法、民主主義という価値観、又権力の平和的移行を支持し、外国政府からの直接介入を拒否する国民にとって、トランプ支持は論理的根拠を欠きます。
 
私はトランプ氏の政策を吟味し、比較したうえで、トランプ氏の掲げる公約はどれも実現不可能であるか、実現させるならば、米国の経済を大不況に陥らせ、外交政策に至ってはオバマ大統領よりひどい極左・一国平和主義であると主張してきました。オバマ大統領の外交政策も敵を味方のように、同盟国を敵国のように扱うと批判されてきましたが、トランプ氏に至っては、敵国と同盟国がそのまま入れ替わると言っても差し支えありません。それでも今日に至って私が反トランプを掲げる最も大きな理由は、トランプ氏が民主主義というシステムや、法治国家、自由主義としてのアメリカへの脅威であると考えるからです。
 
民主主義や選挙というシステムを保持する為には、これらに対し疑念を抱かせるトランプ氏は手厳しく退けられる必要があります。
 

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              ヒラリー・クリントン候補暗殺の必要を示唆するトランプ支持者