自らが作り出したアルターネイティブ・メディアに没頭する共和党員の誤り

2016年の大統領選で、トランプ支持者の多くが得る情報源の殆どは、フォックス・ニュースなどのテレビニュースが殆どで、次にラッシュ・リンバウなどのラジオ番組です。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの主要メディアの新聞を読むことは殆どなく、読むメディアと言っても、「最も信頼に値しない情報を提供する右派メディア」と呼ばれる「ドラッジ・レポート」や、トランプ陣営のアドバイザーとなっているスティーブン・バノンが会長を務め、反ユダヤ主義・白人至上主義の記事をそのまま掲載する「ブレイト・バート誌」などが主な情報源となっています。

保守派の要求に応えるかのように、主要メディアに代わるメディアとして「アルターネイティブ・メディア」が誕生し、陰謀説を含め、これらの層の要求する情報を記事として提供しています。トランプ氏や彼の支持者は頻繁に、主要メディアが偏見に満ち偽りを報道していると主張しますが、本心からこれらの「アルターネイティブ・メディア」の流す都合のよい情報を鵜呑みにする層がトランプ支持者の多数を占めている点は、トランプ現象を説明する上で見逃せません。

トランプ支持の運動家や擁護者は、最近では保守派と呼ばれず、「アルターネイティブ・ライト(主流保守から逸脱した右派)」と呼ばれるようになりました。これは保守の考えから余りにも逸脱した極右思想がトランプ氏の下で奨励されている事を意味します。従来の伝統的保守派言論人や学者の多くが反トランプを掲げていますが、トランプ氏の主張や政策を考えれば、トランプ氏やトランプ支持者を保守派と呼ぶことこそ真実ではありません。

以下は、トランプ陣営や支持層に見られる、アルターネイティブ・メディアとそれに心酔する支持者をもってトランプ現象を説明しようとした軍史家でありブッシュ政権で外交アドバイザーを務めたマックス・ブート氏の書かれたワシントン・ポスト記事です。

Republicans are paying the price for their addiction to their own media - The Washington Post

 

今年の選挙は様々な原因で記憶に残るものだと考えられるが、その中で最も重要な要因は、共和党支持者の『アルターネイティブ(主流派に代わる)』メディアへの心酔が齎した結果だろう。

保守派の主流以外のメディアが登場したのは1944年の「ヒューマン・イベンツ」、1947年の「リグネリー」や、1955年の「ナショナル・レビュー」に遡る事ができる。

それでも、大衆の爆発的な支持を得たのは、1988年、ラッシュ・リンバウの「ナショナル・ラジオ・ショウ」や1996年の「フォックス・ニュース」や「ドラッジ・レポート」の開始によるだろう。これらの3つは、未だに右派にとって主流のニュース源であるが、ラジオ・ホストのマーク・レヴィンやマイケル・サヴェジ、アン・コルターやディネーシ・デスーザのような作家を加え、「ブレイトバート・ニュース」や「ザ・ブレイズ」、「インフォワーズ」や「ニュースマックス」も新たに加わっている。

これらのメディアのもともとの動機は人々にリベラルなテレビ局、新聞や雑誌などとは違う視点を提供する事であった筈だが、アルターネイティブ・メディアはすぐに独自の分析を提供するだけでなく、独自の「事実」をでっちあげ、「ヒラリー・クリントンはヴィンス・フォスターを殺害した」や「バラク・オバマはイスラム教徒だ」などの陰謀説を産みだすようになった。

これらは当初、末端現象と見做され、殆ど注意されなかったようだ。しかし今ではこれらは主流派に食い込み、共和党大統領候補者が自身の選挙戦を"白人至上主義"や"アルターネイティブ・ライト(中道保守派から離れた右翼)"の中枢を占めるようになった「ブレイトバート誌」の会長であるスティーブン・バノンに任せるまでに至った。例えば、ブレイトバート誌は9月27日には歴史家でポスト紙のコロムニストであるアン・アップルバウンを、反ユダヤ主義の差別言論を用いて攻撃した。9月16日には、オバマ大統領に関する記事を掲載するのにゴリラの写真を使用している。

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 オバマ大統領がアメリカ生まれでないという陰謀説「バーサー」に関するブレイトバート誌の記事。

 

トランプが自身の選挙キャンペーンをバノンに任せた事は、トランプ自身が同様に極右と言える主張や陰謀説による世界観を繰り返している事を考えれば、驚くことではない。最近ではどこまでがアルターネイティブ・メディアの主張で、どこからがトランプキャンペーンの主張なのか、区別がつかないほどだ。

月曜には「ドラッジ・レポート誌」はカバーに黒人であるダニー・ウィリアムズの写真を載せ、見出しに「俺はビル・クリントンの息子だ!」と言わしめている。その先のリンクには、トランプの長年の友人であるロジャー・ストーンが陰謀説を売り物にするラジオ・ホストのアレックス・ジョーンズ相手に大声で自論をまくし立てているユーチューブ・ビデオに辿りつく。1999 年にドラッジ・レポート誌そのものが「実父確定検査によってビル・クリントンはウィリアムの父親ではないと証明されている」と報道しているのを忘れたのだろうか。これはこの夏、イスラム教徒で「(国に殉じた兵士の遺族を指す)ゴールド・スター家族」のカーン夫妻をムスリム兄弟団のエージェントと噂したロジャー・ストーンその人ではないか。  

トランプは---今のところ---これらの誹謗中傷には関わっていないが、彼はアルターネイティブ・メディアが流すその他多くの狂気を繰り返している。

トランプが以前「ミス・ピギー(子豚)」、「ミス・ハウスキーピング(清掃係)」と呼んだ元ミス・ユニバース代表のアリシア・マチャードさんに対する怒りをぶちまけた後、トランプは「曲がったヒラリーが討論会で利用できるように、胸がムカつくようなアリシアM(彼女のセックス・テープを見ておくように)のアメリカ国籍取得を助けたのだろうか?」 これはマチャードさんがポルノ女優であったかのような好色な主張だが、このような主張は真実であっても本題とは関係がないのだが、スノープスというインターネット情報の真偽を専門に扱うサイトが、これを真実ではないと結論付けている。インターネットで流れているのは別のヒスパニック系女優であり、恐らくリアリティー番組の一場面が使われたものだ。クリントンがどうにかしてマチャードさんの市民権獲得に役割を果たしたという主張には根拠など全くない。

また先週トランプは、インテリジェンス・ブリーファーから確信のある情報としてロシア政府のエージェントらが民主党全国委員会のシステムをハッキングしたと聞かされていたにもかかわらず、それを否定し、インターネット上の非科学的で証明のしようがない世論調査の方が、メディアによる正規の方法で実施された世論調査よりも正当性があると述べ、グーグルがヒラリー・クリントンに関する悪いニュースを意図的に外していると主張している。

このような過激な言いがかりは、オバマ大統領はアメリカで生まれなかったという嘘を5年間流し続けたり、テキサス州選出のテッド・クルーズ議員の父親がケネディー大統領の暗殺に関わっていたと示唆し、(第一回目の討論会でトランプは自身の発言を否定しているが)地球温暖化は中国が作り出した嘘だと主張し、何千人ものニュージャージー州のイスラム教徒が9・11テロで世界貿易センターのビルが崩壊したのに歓声を送ったと述べ、自閉症はワクチンによって起こされると語ったトランプ候補の性格にそのまま表れている。

一体どこでトランプはこのような愚かな考えに染まったのだろう。彼は主流メディアを「胸がムカつくほど腐敗している」と嘲るが、「ナショナル・エンクワイアー」はピューリッツァー賞を受賞すべきだと称賛し、9・11テロやサンディー・フック事件はアメリカ政府による自作自演行為だと主張するアレックス・ジョーンズに対しては「あなたの評判は信じられないほど素晴らしい」と褒め、去年は「あなたの期待に沿うよう努力する」と約束している。

f:id:HKennedy:20161012101550j:plain  911テロをアメリカ政府による自作自演と報道するアレックス・ジョーンズ

トランプがここまでのアルターネィティブ・メディアの流すナンセンスを信じている点は非難されるべきだが、根本的な責任はこれらのメディアが負うべきだろう。右派は現実からかけ離れる一方の自分たち専用の反響室を作り上げてしまっている。トランプの常識を逸脱した信条を共有するアメリカ人は何百万人にも上り、彼の選挙キャンペーンが予想以上の反響を受けている理由は、ここからも説明される。

しかしながら長い目で見れば、右派の作り出した自らの為のメディアに没頭する事は破壊的であろう。これらのメディアは、ティー・パーティーに絶対的忠誠を誓う議員を議会に送り込んだり、保守派とリベラル派が折半する州を勝ち取る事が不可能な大統領候補を指名するだけだからだ。

これは偶然かもしれないが、リンバウがラジオ番組を持ち始めて28年が経つが、共和党からの大統領候補者が一般投票で過半数の票を獲得したのは、2004年の一度きりだ。それ以前の28年間では、1968年, 1972年, 1980年, 1984年, 1988年の5回、共和党大統領候補者が一般投票で過半数を獲得している。トランプが勝利しても敗北しても、保守派は、彼らの聞きたい情報のみを提供するアルターネィティブ・ニュース・メディアへの心酔を見直し、違った視点も提供してくれる主流派の情報も参考にする必要に迫られている。