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第二回大統領選討論会...消えた共和党信頼再生の夢

10月9日に行われた第二回目の大統領討論会は、前回のドナルド・トランプ氏の狼狽ぶりとは打って変わった落ち着きが見られ、2日前に暴露された「プシーを掴めば、女は何でもさせてくれる」という性的暴力を匂わせる発言や、当時妊娠中のメラニア夫人に隠れて、別の既婚女性に性的圧力をかけていた事を自慢している発言の暴露直後とは思えない、討論であったと思われます。

勿論、今回の討論会の最中になされたトランプ氏の発言の事実関係を問えば、その殆どが嘘であり、外交知識や内政問題に関する知識も全く事実とかけ離れたものだと思われますが、事実を述べているように見せかける技術に於いては、前回とは桁外れの改善がトランプ側にありました。

 

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一方、変わってヒラリー・クリントン側は、白い襟元の濃紺のスーツで、抑えた口紅の色を見ても、まるでお葬式の参列者のように見えます。以前の笑顔や余裕、自信が映像から伺えず、一見、トランプ氏の勝利のように映っていました。これには、トランプ陣営がフォーラム観戦者として最前列のトランプ家族席に招いた、ビル・クリントン元大統領に性的暴行を受けたと主張する4人の女性の存在が影響していたのかもしれません。

 

さて、トランプ氏の語った、「アサド政権やロシア軍、イラン軍がISISを制圧しようとしている」というシリア情勢は事実と異なり、アサド政権やロシア軍、イラン軍などが標的にしているのは西側の同盟相手である反アサド武装勢力や一般民衆である点を濁しています。この点ではヒラリー・クリントン元国務長官の外交情勢への知識が真実に基づいています。

Everything Donald Trump Says About Syria Is Crazy, Wrong or Both - The Daily Beast

但し、この討論会によって新しい情報を得るような有権者は、トランプ氏の自信あふれる無知の主張を細かくチェックする事をしませんので、トランプ氏の主張を鵜呑みにするだけでしょう。

勿論、きちんとした新聞を読む一般のアメリカ人にとっては、トランプ氏の言葉のぼやかしや、事実関係の誤りは明らかですが、このような有権者は既に『反トランプ』の立場を決めていると言えます。

 

今回の大統領選の決め手となるのは、トランプ氏に拒否反応を示すラテン系などの少数民族や女性有権者、まだ立場を決めていない人々の票がどれ程動くかという点ですが、2日前のビデオ・テープの暴露で、トランプ氏に必要な女性有権者の支持は致命的な打撃を受け、今回の討論会後の世論調査でも、男性有権者がトランプ氏の勝利(46-43%)と見たのに対し、女性有権者はヒラリー・クリントン候補の勝利(50-38%)と見ている事が明らかになっています。トランプ氏の勝利にはラテン系票が勝敗の行方を握るフロリダ州獲得が必要ですが、ラテン系の有権者の92%がヒラリー候補が討論に勝ったと見ています。

Clinton wins debate, but Trump exceeds expectations - CNNPolitics.com

 

CNNがとった討論会後の世論調査では57%がヒラリー・クリントン候補が勝利したと答え、34%がトランプ氏が勝利したと回答しています。但しこれは、問題のビデオ・テープに関する「そのような性的暴行を行なったのですか?」という質問に対するトランプ氏の回答(ISISは多くの人を溺死させ、多くの人々の首を切っている)に不満を持つ視聴者が多かったからでしょう。

 

客観的な判断をすれば、今回の討論会では、トランプ氏は勝利したとまでは言えなくても、ビデオの暴露から予見されていた危機的討論会を乗り切ったと言えます。

 

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討論会直前のトランプ氏とビル・クリントン元大統領に性的暴行をされたと訴える女性たち

ところが、その為に共和党全国委員会は、ビデオ流出によって共和党議員らによって声高に主張されていたトランプ氏の選挙戦からの撤退を促し、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事やポール・ライアン下院議長など、ヒラリー・クリントン候補に対して対等に戦え、スキャンダルの無い別の候補者を任命する最後の機会を失なったようです。

ビデオの流出とそれに対する反響を受け、トランプ氏撤退を叫ぶ声が上がり、トランプ氏撤退の決め手となるマイク・ペンス副大統領候補は自身の撤退について、「討論会の行方を見守る」と答えていましたが、今夜の討論会後、マイク・ペンス知事は、ともに選挙戦を戦う声明を発表しています。

トランプ氏が選挙戦に残れば、来月の大統領選挙ではヒラリー・クリントン候補に大敗し、共和党は大統領選と同日に行なわれる上院まで失なうことになるでしょう。

 

トランプ氏撤退を望まない声は、トランプ氏陣営やトランプ支持者はもとより、民主党側からも出ていた事を考えれば、「ヒラリー・クリントンが勝利できる唯一の共和党候補者」と呼ばれるトランプ氏の選挙戦残留が確定したことで、民主党本部が内心喜んでいてもおかしくありません。

 

但し、留意するべき点として、トランプ氏が主張した、「自分が大統領となれば、ヒラリー・クリントンに対する特別捜査を行なうため司法長官を任命する。…ヒラリー・クリントンは刑務所に行く」という発言があります。

http://www.nytimes.com/aponline/2016/10/10/us/politics/ap-us-campaign-2016-clinton-jail.html?_r=0

 

e-mail疑惑などで、ヒラリー・クリントン候補が法を犯したことは明らかであり、個人的な見解では彼女は去年の段階で有罪とされるべきだったと考えます。しかしながら、アメリカの政治史上、大統領選の候補者が対戦相手に対して、自分が大統領となった際には刑務所に送ると公の場で直接脅迫したことはありませんでした。これを「トランプ氏の冗談」或いは「トランプ流の言葉」と流してしまう点において、アメリカの公民教育の衰退の著しさが伺えます。この脅迫は、ヒラリー支持、トランプ支持に関係なく、徹底的に拒絶するべき主張です。

ヒラリー・クリントンに対する捜査は終了しており、一度終了した捜査や司法判断を再び開始する事は、アメリカの司法制度は禁じています。また大統領選に勝利したとしても、その権力を利用して政敵を罰する事も許されていません。トランプ氏の主張する「自分が大統領になった際には、ヒラリーは刑務所行きとなる」などの脅しは、悉く実現できない仕組みとなっているだけでなく、このような横暴を許せば、法治による民主主義が崩壊します。

 

オバマ大統領による国税庁を使った共和党に対する政治献金の妨害疑惑にあれほど立腹していた共和党支持者が、このようなファシスト国家さながらの脅しや暴挙に喜ぶとすれば、共和党への信頼は何十年も回復しないでしょう。

A generation of GOP stars stands diminished: ‘Everything Trump touches dies’ - The Washington Post

今回の討論会の期待以上の出来栄えによって、トランプ氏を候補から降ろす案は破たんとなったと言えますが、これにより共和党は来月のトランプ氏の大敗の道連れになるようです。