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大統領討論会/ヒラリー・クリントン対ドナルド・トランプ

大統領選に備えた民主党・共和党候補者の討論会で、ヒラリー・クリントン元国務長官とドナルド・トランプ氏が一時間に渡る討論を行いましたが、明らかに討論会に向けて準備を行なっていた冷静なクリントン候補と、行き当たりばったり、鼻を鳴らし、水を飲み、記録に残っている過去の自らの発言を否定したり、司会者や討論相手の発言を途中で妨げたり、同じ言葉を繰り返すだけでなく、事実と違う主張を繰り返すトランプ氏の様子は、交わされている議論を聞かず、映像を見ただけでも、どちらが大統領として相応しいか、明らかにしたようです。

 

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アトランティック紙は、「どちらが大統領らしいかを争う討論会の勝敗は、音声と字幕を消して見ればわかる」と記事に書きましたが、その通り、その表情や姿勢から見ても、ヒラリー・クリントン元国務長官が格別に優位に立っていました。

Who Will Win the Presidential Debates Between Donald Trump and Hillary Clinton? - The Atlantic

 
討論会直後の世論調査や、レポーターらの感想も、圧倒的にクリントン元国務長官の勝利宣言を行なっています。

Commentary: Clinton won, Trump lost, and here's what comes next - CBS News

http://www.publicpolicypolling.com/pdf/2015/PPP_Release_PostDebatePoll_92616.pdf

 
今回の討論後も、まだ討論会は2回交わされる予定ですが、トランプ氏は自分の主張や弁護を暗記する能力も持ち合わせていません。元弁護士、元大統領夫人、元上院議員、元国務長官としてのヒラリー・クリントン候補に、討論や議論で勝つことは不可能であり、トランプ氏に期待されていたよりも低い出来栄えだったと思われます。
 
NBCは、今回の討論会の6つの決定的瞬間を挙げています。
 
1. トランプ氏は、司会者であるレスター・ホルト氏の質問に対してあからさまな怒りを表した。トランプ氏の冷静な有様を期待していた声とは裏腹に、彼はクリントン候補の言葉を何度も遮り、声を上げ、鼻をすすり、討論会の成り行きを決めてしまった。討論の緊張が高まった折、クリントン候補が観客に対して、事実関係について、彼女のウエブサイトを訪れて欲しいと訴えた折、トランプ氏は彼女のISIS制覇の政策について「あなたは敵に作戦をバラしている。マッカーサー将軍がいたら、許されない行為だ」と言い含めようとしました。(*勿論、クリントン候補のウエブサイトに掲載されてあるのは政策であって、作戦そのものである筈がありません。)
 
2.人種問題に関してクリントン候補は、1973年に遡り、黒人に対して意図的にビルのテナントを貸し出ししなかった為、司法庁によってトランプ氏が訴えられた事を取り上げ、トランプ氏の人種差別主義的行動歴を批判しました。これに対してトランプ氏は、「当時、黒人に対してテナントを貸し出さなかった為訴えられた会社は他にもある」、「罪状認否することなく和解に達した」また「フロリダのパーム・ビーチなどでは誰に対しても差別を行なっていないゴルフ・コースを開発した」と反論しています。またニューヨーク市でも憲法違反と判断が下されたストップ・アンド・フリスク(*警察が犯罪を犯すと見られる人物に対して、誰でも止めてボディー・チェックを行なうことができるとする法。主に、黒人やヒスパニック系がターゲットとなる為に、人種差別を招くとして憲法違反の判断が下っている)が犯罪防止に非常に役立つとして、法の秩序を回復する為にも全国規模で行なうべきだという主張を繰り返しました。
 

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                   司会のレスター・ホルト氏
 
3. オバマ大統領の出生証明書に対する疑問を5年間主張した後、先週、オバマ大統領がアメリカで誕生したと認めたトランプ氏ですが、この主張の撤回について、「何も言う事はありません」としながらも、この『陰謀説』を広めたのはヒラリー・クリントン陣営であり(*これは事実と異なっています)、自分が「執拗に要求した為にオバマ大統領が出征証明を公開したのだ。良い事をしたと考えている」と「オバマ大統領はアメリカで出生していない」と自説を流し続けた功績を誇っています。
 
4. トランプ氏が以前繰り返していた「すべての大統領候補者は、税金還付の証明を公開するべきだ。そうでなければ何か疚しい事があるのだろう」という主張とは裏腹に、トランプ氏自身が税金還付の証明を公開していない事について、「何故税金還付の証明を公開しないのか」というクリントン元国務長官は疑問を投げ掛けました。「税金還付出来ないとは、彼の主張するほどの大金持ち、或いは慈善的でないのか、或いは疚しいビジネスがあるのか、借金ばかりなのか、どういう理由でしょう」
 
トランプ氏はこれに対して「税金還付証明は何の情報も提供できません。彼の資産公開の方が正確です。それによれば去年私は660億円ほどの収入を得、借金は殆どありません。」と主張しています。
 
また、ヒラリー候補は自身の父親の個人企業を指し、トランプ氏が何千にも及ぶ個人企業、零細企業に対して全額の支払いをしてこなかったことを指し、「私は父があなたとのビジネス関係に無かったことを幸いに思います」と批判しました。これに対してトランプ氏は「私がこれらの人々に全額支払わなかったのは、彼らが良い仕事をしてこなかったからです」と反論しています。
 
5. 司会者のホルト氏は、トランプ氏が以前からヒラリー・クリントン元国務長官は大統領に見えないと述べた事について、その真意を伺いましたが、これについてトランプ氏はクリントン候補は米国軍の最高指揮官としてのスタミナに欠けると答えました。それに続いてトランプ氏はクリントン陣営の流す反トランプ広告が嫌味だと不満を述べ、「私はヒラリーや彼女の家族に対してとてもキツイ事をいう事が出来ましたが…それを自制してきました」と主張しました。これについてクリントン元国務長官は、「トランプ氏はビューティーコンテストが大好きなのです」と答えたのち、「トランプ氏が200数十か国旅行し、世界各国の指導者と交渉をし、11時間に及ぶ公聴会の質問に耐えた後、スタミナが歩かないか、という議論をしましょう」と切り返し、喝さいを浴びました。
 
6. トランプ氏はイラク戦争について、自分は当初から戦争に反対していたことを主張し始めましたが、これを証明する証拠は無く、公に残っている記録は逆を語っています。
 
司会者のレスター・ホルト氏にこれを聞かれたトランプ氏は、2002年のハワード・スタインのインタビューでトランプ氏はイラク戦争支持をしていた事を認めながら、「それほど熱心な支持ではなく、個人的な会話としてフォックス・ニュースのアンカーであるショーン・ハニティーに語ったイラク戦争反対の意見こそ、もっと重要視されるべきだと答えています。ここでトランプ氏はホルト氏がヒラリー・クリントンによって始められた主要メディアの嘘を繰り返していると批判をしています。
 
これに対してヒラリー・クリントン元国務長官は、「ドナルド、あなたは自分の世界に生きているだけでしょうが、事実は違います」と笑って応えました。
 
 
トランプ氏は、自身がイラク戦争に反対をしていた事を証明する人物として、先ほども述べた通り、自身への積極的な支持を表明しているショーン・ハニティー氏の名前を出しています。但し、イラク戦争開戦に関して残っているトランプ氏の見解の証拠としては、電話インタビューで「そうですね、(イラク戦争を)支持します」答えた見解のみです。
 
ショーン・ハニティー氏も、「自分の持つ番組で、確かにトランプ氏はイラク戦争に反対をしていた」と擁護していますが、証拠となるビデオも会話記録も一切ありません。この「ハニティーに聞いてくれ」がどれ程幼稚に聞こえるか、嘘や不正、腐敗に反対をしていた筈の共和党候補者がここまで落ちたことに、元共和党支持者らは落胆をしています。
 
勿論、この討論がそれぞれの支持者の意見を変える事はありません。実際、Drudge Reportなど、早くからトランプ支持を打ち出しているメディアは、数日前から今回の討論会はトランプ氏が勝利したと報道しています。このトランプ支持者の傾向は、討論会後も変わりません。この傾向について、トム・ニコールズ氏は「トランプが完全にパニック状態に陥って、アラム語でサタンを称えても、彼の支持者には全く気にならないだろう」と見切っています。
 
討論会後の調査では、当然ながら、どのメディアでもヒラリー・クリントンに勝利宣言を下しています。

US presidential debate: Hillary Clinton beats Donald Trump | afr.com

 

反ヒラリー・クリントンで有名なニュート・ギングリッチ氏は、トランプ氏への熱心な支持者ですが、討論前には「トランプ氏がそこそこ、有能に見えれば、それで勝利だ」と合格ラインを下げましたが、討論会後には、同じく熱心なトランプ支持者であるルディー・ジリアーニ元ニューヨーク市長は、「私がトランプ氏ならば、二度と討論会には出ない」と答えています。
トランプ氏は自身の出来栄えを絶賛していましたが、同時に「調子の悪いマイクを与えられた」と主張しています。

Trump complains that his debate mic was 'defective' - LA Times

 
両者の支持者にとって、討論会の出来栄えは投票に影響しません。大統領選挙に於いて決め手となるのは、誰に投票をするか態度を決め兼ねている有権者の考えですが、CBSが21人のフィラデルフィアの有権者に対して行なった質問では、このうち5人がトランプ氏が討論に勝ったと考え、16人がヒラリー・クリントン元国務長官が勝利したと答えています。

Undecided Pa. voters on who they think won the presidential debate - CBS News

 
さて、討論会の終盤、ドナルド・トランプ氏とヒラリー元国務長官の明確なメッセージの違いが外交政策に現れました。「NATOやサウジアラビア、日本のような同盟国が、その安全保障を担うアメリカに対して支払いをしていない」と繰り返すドナルド・トランプ氏とは対照的に、ヒラリー・クリントン元国務長官は以下のように発言しています。
 

"Words matter. Words matter when you run for a president, and they really matter when you are a president. And I want to reassure our allies in Japan, in South Korea, and elsewhere. that we have mutual defense treaties. and we will honor them. It is essential that America's word be good. So I know that this campaign has caused some questioning, and some worries on the part of many leaders across the globe I've talked with a number of them. I want to, on be half of myself and I think the majority of American people, that our word is good."

 

「言葉というものは重要です。大統領選に出馬する際、また大統領としての言葉は、非常に大切です。ですから私は日本、韓国、またその他の同盟国の方々に保証をしたいのです。我々はお互いの防衛を担う条約(相互防衛条約)を結んでいます。そして我々はそれを尊重致します。アメリカの言葉が信頼されるという事は、本質的な重要性を持っています。この大統領選挙が、私が今までに会って話をした事のある、世界中の多くの指導者に対して、いくらかの疑念を生じさせたことを承知しています。私は自分自身と恐らく大多数のアメリカ人の意見として、約束したいのですが、我々の言葉は信頼されるべきです。」
 

 

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今回の討論会で、強き良きアメリカを指導した故レーガン大統領を思い起こさせる、最も大統領的な発言だったと言えるでしょう。